13:15~13:30 [講演02]

日本生態学会東北地区会一般講演

「ブナ林内の様々な光環境で生育しているブナ個体のサイズ・樹齢と光獲得・成長の関係」

山川真広*(東北大・生命)・小野田雄介(京都大・農)・黒川紘子・小黒芳生・中静透(森林総研)・彦坂幸毅(東北大・生命)


 植物群集内でどのような競争が起きているかは、植物の成長速度を決定する重要な要因である。成長速度あるいは資源獲得量がサイズに比例するような競争はsymmetric competition、成長速度あるいは資源獲得量がサイズ対して比例以上に高くなるような競争はasymmetric competitionと呼ばれる。先行研究では、草本植物の単一種群落での競争はasymmetricであり、小さな個体の成長が大きく抑制されることが報告されている。一方、多くの多種共存群集での競争は、symmetricであったことが報告されている。下層種は、重量あたりの葉面積(LAR)が上層種より高いことで、光獲得量の低下を補っていた。下層種が暗い環境に適応していれば、競争はasymmetricになるとは限らないかもしれない。

 では、暗い環境に適応した種の単一種群落の競争はどうだろうか? ブナは耐陰性が高い種と考えられており、しばしば単一種群落を構成する。また、森林の光環境は均一ではなく、閉鎖林冠下とギャップとで大きく異なり、競争様式に影響すると予想される。さらに、同じようなサイズでも樹齢が異なれば様々な性質が異なることが指摘されている。

 本研究では、八甲田のブナ林を対象とし、個体のサイズ、成長速度、樹齢、葉面積と光強度の空間分布を測定し、受光量を計算した。

 その結果、閉鎖林冠下では個体間の光獲得競争はasymmetricであり、ギャップ下ではsymmetricであることがわかった。LARは小さな個体ほど高かったが、閉鎖林冠下では光獲得効率の低下を補償しきれなかった。樹齢は光利用効率(受光量あたりの成長量)に影響を与えたが、光獲得競争への影響は小さかった。本研究により、耐陰性がある樹種でも単一種群落の閉鎖林冠下では光獲得競争がasymmetricになること、競争様式は光環境によって大きく異なることも明らかとなった。