緯度に伴う気温の違いは、生物に様々な地理的変異を引き起こす。近年、メダカにおいて雄間闘争の強さの地理的変異が明らかにされたが、このような地理的変異の例は珍しく、他の生物ではあまり知られていない。サンショウウオ科の一部では温暖な地域ほど全長が長く、そのような個体は繁殖期間が長いことが知られていた。そのため、温暖な地域ほど個体同士の繁殖期間が重複しやすく、雄間闘争が強まりやすい可能性がある。
クロサンショウウオは福井から青森まで分布し、雄は頭胴長が長いと抱接時に卵のうを独占しやすいことが知られている。そのため、本種でも温暖な地域ほど全長が長いのであれば、それによって雄間闘争が強まり、全長に対する相対的な頭胴長も長くなる可能性がある。もし雄間闘争によって頭胴長の地理的変異が進化したならば、環境条件を揃えて飼育しても、温暖な地域のほうが寒冷な地域の個体よりも頭胴長が長いことが考えられる。そこで石川3集団と青森2集団から卵のうを採集し、卵から88個体を飼育したところ、温暖な石川の方が青森より全長が長く、相対的な頭胴長も長かった。このことから全長と頭胴長は遺伝的に決まっていると考えられる。次に、この地理的変異が系統関係を反映したものであるかを調べるため、本種を62地点で採集し、401個体のmtDNAのCytb領域を用いて系統解析を行った。その結果、本種は中部と東北の2系統に分かれた。この系統解析の結果をもとに、野外個体でも地理的変異が存在するかを調べるため、雄成体478個体と、比較のために雌成体113個体の全長と頭胴長を測定し、全長と相対的な頭胴長に系統間で違いがあるのかを調べた。その結果、雌では中部と東北で差がないのに対して、雄では中部の方が東北よりも全長も相対的な頭胴長も長かった。以上より、全長が長い中部では東北より雄間闘争が強いため、頭胴長が相対的に長い形態に進化した可能性がある。