15:15~15:30 [講演09]

日本生態学会東北地区会一般講演

「ヤマトアザミテントウにおける寄主植物への局所適応は“移入者の生存不能”として働き得るか?」

中曽根大輝*(山形大院・理工)・松林圭(九大・基幹教育)・藤山直之(山形大・理)


 局所適応は「ある生物集団が自身の生息地で他の集団よりも高い適応度を示す状態、または、そのプロセス」と定義される。植食性昆虫では、とりわけ地理的集団が異なる寄主を利用している場合に、寄主利用能力に局所適応のパターンが生じることがある。ここで、昆虫の2つの地理的集団が異なる寄主植物を利用している状況を考えたとき、両集団で局所適応が生じており(=両集団が自身の寄主上で他集団より高い適応度を示す状態)かつ自身の寄主上で他の寄主上よりも高い適応度を示す状態を“対称”な局所適応、片方の昆虫集団のみで局所適応が生じている状態を“非対称”な局所適応とする。

 一方、局所適応の成立は、隔離障壁のうち“移入者の生存不能”の成立とほぼ同義であり、この隔離障壁は側所的~同所的条件下で作用し得る。つまり、局所適応の対称性は“移入者の生存不能”の程度に基づいた遺伝子流動の方向性に強い影響を与え、また、異所的条件下で生じる局所適応は、潜在的な“移入者の生存不能”の発達であると捉えられるだろう。

 本研究ではアザミ類を寄主とするヤマトアザミテントウ(以下、ヤマト)のうち、ミネアザミ(以下、ミネ)を寄主とする青森集団と、ナンブアザミ(以下、ナンブ)を寄主とする岩手・山形・福島集団の計4集団を対象に、幼虫の成育能力および成虫の摂食選好性を実験条件下で査定し、局所適応が生じているのかについて検討した。

 幼虫の成育能力については青森集団と福島集団で明瞭な局所適応が検出された一方で、自身の寄主に対する選好性は、岩手・山形・福島集団で異種のアザミが関与する場合にのみ検出された。以上の結果は、青森集団―福島集団で“対称”な局所適応が生じており、潜在的に“移入者の生存不能”が発達していることを示している。また、集団の組み合わせによって、局所適応が“非対称”である場合も存在していた。本発表では、検出された局所適応の地理的様相に基づいて、実際に働き得る“移入者の生存不能”の可能性に関して考察する。