13:00~13:15 [講演01]

日本生態学会東北地区会一般講演

「多雪山地におけるブナとミズナラのすみ分けの実態とその生成要因」

渡辺陽平*・石田清(弘前大・農生)


冷温帯の森林において、ブナFagus crenataは多雪地域で、ミズナラQuercus crispulaは少雪地域で優占する。局所的な積雪環境の変異に着目すると、尾根を挟んだ2つの斜面間の差異、すなわち背腹性がみられる場合があり、これは冬季季節風に対する風上斜面、風下斜面に対応している。このような環境条件の背腹性が局所的な両種のすみ分けにどのような影響を及ぼすかについては未解明である。本研究では、多雪山地における環境条件の背腹性に対応した両種のすみ分けの実態とそのメカニズムを明らかにすることを目的に調査を行った。青森県の八甲田連峰内の2つの林分に、尾根をまたぐように帯状区(高木林区、矮性化した樹木が生育する低木林区)を設置して毎木調査を行い、調査区内の区画ごとにブナ、ミズナラ、及びアオダモなどの他樹種について個体密度と胸高断面積(BA)を算出した。また生育環境を評価するため、最大積雪深と夏季の土壌含水率、斜度を測定した。調査区において、全ての非生物的環境条件と一部の生物的環境条件に背腹性が認められた。両種個体の分布については、ブナは風上斜面下部や尾根、風下斜面で多く、一方ミズナラは風上斜面上部で多く、両種の個体数の割合にも背腹性が認められた。さらに両種のすみ分けのメカニズムを明らかにするためにパス解析を行い、両種の個体密度と環境要因との間の因果関係を推定した。その結果、高木林区では最大積雪深と土壌含水率が、低木林区ではこれらの要因と斜度が両種の個体密度に大きな影響を与えていた。また高木林区において、ミズナラ個体密度は他樹種BAから正の影響を受けていると推定された。以上より、両種の多雪山地における局所的なすみ分けには主に積雪や土壌水分の背腹性が関与し、地形が急峻な場所では斜度も影響を与えていることが示唆される。また、山地上部の生育環境が厳しい場所では、ミズナラとブナ以外の樹種との間に正の種間作用が存在する可能性が示唆される。