TKC069-TKC092
第四段 テトラルキア東西分裂の危機
StageⅣ The Tetrarchy and the Perils of Division
StageⅣ The Tetrarchy and the Perils of Division
種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:クラウディウス2世ゴティクス (Claudius II Gothicus ,在位AD268-270)
発行年:紀元268-270年
発行場所:アンティオキア造幣所
重量:3.47 g
サイズ:20.09 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:aGVF
文献番号:RIC V.1 212
表銘文
IMP C CLAVDIVS AVG「インペラトル・カエサル・クラウディウス・アウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴いたクラウディウス2世の胸像、左向き。
裏銘文
IVNO REGINA「女王ユーノー」
図像(裏)
ユーノー(ユピテルの妻で、ローマ国家と女性の守護女神)が左向きに立ち、右手にパテラ(供物皿)、左手に笏を持つ。足元左には孔雀が描かれる。→ 皇帝の支配に対する神々の加護と、国家的繁栄の象徴。
歴史的背景
クラウディウス2世は、危機の3世紀における短命ながらも強力な軍人皇帝のひとり。最大の功績はナイッススの戦い(AD 269年)でのゴート族への大勝で、これにより「ゴティクス(Gothicus)」の称号を得た。しかしその治世はわずか2年に過ぎず、ローマに再び安定をもたらす前に疫病で急逝したと伝えられる。このコインに描かれるユーノーは、クラウディウスの勝利と国家の繁栄を祈願すると同時に、短命な治世における皇帝権威の正統性を支える宗教的イメージであった。
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種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:クインティルス(Quintillus,在位AD270)
発行年:紀元270年
発行場所:ミラノ造幣所
重量:2.55 g
サイズ:19 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:Near VF
文献番号:RIC V/1 45
表銘文
IMP QVINTILLVS AVG「インペラトル、クインティルス、アウグストゥス」
→ 兄クラウディウス・ゴティクスの死後に即位したが、短命に終わった皇帝としての公式称号。
図像(表)
放射冠をかぶり、胸甲と衣をまとったクインティルスの胸像、右向き。→ 皇帝としての権威を示す典型的な3世紀危機時代の肖像。
裏銘文
CONCORD EXER (一部では CONCOR EXER)「軍団の調和」→ 軍隊内部の結束と皇帝への忠誠をアピールする銘文。
図像(裏)
コンコルディア(調和の女神)が左に立ち、右手に軍旗、左手にコルヌコピア(豊穣の角)を持つ。→ 皇帝と軍団の一致を象徴するが、実際には軍の支持を得られず失脚した。
歴史的背景
クインティルスはクラウディウス II ゴティクスの弟で、兄の死後に軍と元老院により皇帝に推挙された。しかし同時期にアウレリアヌスが別の軍団から支持され即位し、両者の対立が起こった。結果としてクインティルスは即位から数か月以内に失脚し、戦死もしくは自殺によって没したとされる。彼の貨幣は短い治世ゆえに発行枚数が少なく、コレクション的には 「3世紀の短命皇帝シリーズ」 を語る上で重要。
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種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:アウレリアヌス(Aurelian,在位AD270–275)
発行年:紀元275年
発行場所:ローマ造幣所
重量:4.0 g
サイズ:21 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:GVF
文献番号:RIC (online) 1817
表銘文
IMP AVRELIANVS AVG「インペラトル・アウレリアヌス、アウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴き、胸甲をまとったアウレリアヌスの胸像、右向き。→ 勇敢な軍人皇帝としての姿を強調。
裏銘文
ORIENS AVG「東方の勝利(ソルの栄光)」
図像(裏)
ソル(太陽神)が右に立ち、弓と枝を手にし、敵兵を踏みつける。下部にXXIR。→ 皇帝の武力と神の加護により、帝国の再統一と秩序回復を象徴。
歴史的背景
アウレリアヌスは、ガリア帝国・パルミラ帝国を打倒し、分裂していた帝国を再び一つにまとめた功績から 「Restitutor Orbis(世界の修復者)」 と称えられた皇帝。軍事的天才であると同時に宗教改革(Sol Invictus 信仰の強化)でも知られ、このコインのソル像はその象徴的存在。混乱の三世紀においてローマ帝国を立て直した稀有な皇帝の記念貨である。
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種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:タキトゥス(Tacitus ,在位AD275–276)
発行年:紀元275-276年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.26 g
サイズ:21.46 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:aGVF
文献番号:MER-RIC 3493 (temp.) / RIC 93 corr. (seated)
表銘文
IMP C M CL TACITVS AVG「インペラトル・カエサル・マルクス・クラウディウス・タキトゥス、アウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴き、胸甲とマントをまとったタキトゥス帝の胸像、右向き。→ 軍人皇帝としての威厳を示す。
裏銘文
SALVS AVG「アウグストゥスの健康・安寧」
図像(裏)
サルース(健康の女神)が左向きに立ち、笏を持ち、祭壇から立ち上がる蛇に供物を与える。右フィールドにΔ、エクスルグにXXI。→ 皇帝の健在と帝国の安定を祈願する意匠。
歴史的背景
タキトゥス帝はアウレリアヌスの死後、元老院の支持を受けて即位した短命の皇帝。治世はわずか半年ほどであったが、帝国の伝統秩序を尊重する姿勢を示し、元老院との協調を試みた。このコインに描かれる「SALVS(健康)」は、動乱の三世紀において新皇帝の無事と統治の継続を強く祈願した象徴である。
TKC072の歴史を読む
種別:アントニニアヌス / 青銅貨(銀メッキ)
皇帝:フロリアヌス (Florianus, 在位AD276)
発行年:紀元276 年
発行場所:キュジコス造幣所
重量:4.54 g
サイズ:21 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:Very Fine
文献番号:RIC V-1 Florianus, Cyzicus
表銘文
IMP FLORIANVS AVG「皇帝フロリアヌス・アウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴いたフロリアヌスの胸像、右向き。→ 軍人皇帝としての権威を示す肖像。
裏銘文
CONCORDIA MILITVM「軍の調和」
図像(裏)
皇帝と兵士が向かい合って立ち、間に軍旗が置かれる。→ 皇帝と軍の結束を象徴する。
歴史的背景
フロリアヌスはタキトゥス死後に擁立された短命の皇帝で、在位はわずかAD276年に限られる。本コインの「CONCORDIA MILITVM」は、軍の支持によって成立した皇帝権力の正統性を示す表現である。しかし実際にはその支配基盤は脆弱で、プロブスとの対立の中で短期間のうちに没落した。三世紀の危機における、軍と皇帝の不安定な関係をよく表す一枚である。
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種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:プロブス(Probus,在位AD276–282)
発行年:紀元276-282年
発行場所:セルディカ造幣所
重量:3.80 g
サイズ:22.73 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:GVF
文献番号:RIC 862
表銘文
IMP C M AVR PROBVS AVG「インペラトル・カエサル・マルクス・アウレリウス・プロブス、アウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴き、兜と胸甲をまとい、槍と盾を持つプロブス帝の軍装胸像、左向き。→ 皇帝の軍事的力量と防衛者としての姿を強調。
裏銘文
SOLI INVICTO「不敗の太陽神ソルへ」
図像(裏)
ソルが四頭立ての戦車(クアドリガ)を駆り、左を向いて鞭を振るう。エクスルグにKAB。→ ソル・インウィクトゥス信仰の広がりを示し、皇帝の勝利と帝国の永続性を保証する象徴。
歴史的背景
プロブス帝は軍人皇帝時代を代表する名将の一人で、帝国を襲った外敵の侵入を防ぎ、数々の戦争で勝利を収めた。彼の治世は「軍人皇帝時代における安定のひととき」とも評価される。このコインの「不敗の太陽神ソル」は、帝国の保護神としてプロブスの権威を支えた存在であり、宗教と軍事の結びつきを強調するもの。
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種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:カルス(Carus,在位AD282–283)
発行年:紀元282年
発行場所:アンティオキア造幣所
重量:3.37 g
サイズ:21.74 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:aEF
文献番号:RIC 120 (Cyzicus) / Cohen 93 var. (bust) / Pink VI/2 –
表銘文
IMP C M AVR CARVS P F AVG「インペラトル・カエサル・マルクス・アウレリウス・カルス、敬虔なる幸運のアウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴き、胸甲とマントをまとったカルス帝の胸像、右向き。→ 軍人皇帝としての威容を示す。
裏銘文
VICTORIA AVG「アウグストゥスの勝利」
図像(裏)
勝利の女神ウィクトリアが左向きに立ち、花冠と棕櫚の枝を持つ。エクスルグにB。→ 皇帝の軍事的勝利と帝国の安定を象徴する。
歴史的背景
カルス帝は軍人皇帝時代の最後の名将の一人で、短期間ながら帝国に軍事的な成果をもたらした。特にサーサーン朝に対する東方遠征で成功を収めたが、遠征中に急死した(落雷死と伝わる)。このコインはその治世初期に鋳造され、彼の軍功と「勝利の女神の加護」を広く示したものと考えられる。
TKC075の歴史を読む
種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:カリヌス(Carinus,在位AD283–285)
発行年:紀元282–283年
発行場所:アンティオキア造幣所
重量:3.87 g
サイズ:20.96 mm
ダイ軸(Die Axis):7 h
状態:Nice VF
文献番号:RIC 326
表銘文
IMP C CARINVS P F AVG「インペラトル・カエサル・カリヌス、敬虔なる幸運のアウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴き、胸甲をまとったカリヌス帝の胸像、右向き。→ 軍人皇帝らしい力強い姿を強調。
裏銘文
VIRTVS AVGG「二人のアウグストゥスの武徳」
図像(裏)
右に立つ皇子(カリヌス)が笏を持ち、左に立つユピテルから地球儀上の勝利像を授かる。二人の間にB、下部にXXI。→ 皇帝の徳と、神々から授けられる正統な支配権を示す。
歴史的背景
カリヌスは皇帝カルスの長男で、弟ヌメリアヌスとともに父の下で副帝となり、AD283年には共同皇帝(アウグストゥス)に昇格した。父の死後、帝国の西方を統治したが、その放縦な生活ぶりから古代史家には否定的に描かれることが多い。本コインは彼を「武徳(virtus)」に満ちた正統な皇帝として描き、守護神ユピテルの加護を受けた支配者としての権威を宣伝している。
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種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:ヌメリアヌス(Numerian,在位AD283–284)
発行年:紀元283–284年
発行場所:ルグドゥヌム(リヨン)造幣所
重量:3.48 g
サイズ:22 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:GVF
文献番号:RIC V.2 397
表銘文
IMP NVMERIANVS AVG「インペラトル・ヌメリアヌス・アウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴き、胸甲を着けたヌメリアヌスの胸像、右向き。肩越しに槍を持つ。→ 軍人皇帝としての武勇を強調。
裏銘文
PIETAS AVGG「二人のアウグストゥスの敬虔(Pietas)」
図像(裏)
ピエタス(敬虔の女神)が右に立ち、手を挙げ、香料の箱を祭壇の上に掲げている。右フィールドに「C」。→ 皇帝と国家の神々への義務を果たす姿勢を示す。
歴史的背景
ヌメリアヌスは皇帝カルスの次男で、AD282年に副帝(カエサル)となり、翌283年には父とともに正帝(アウグストゥス)へ昇格した。東方遠征の帰途、原因不明の死を遂げ、これを契機にディオクレティアヌスが皇帝として台頭する。本コインは軍装胸像を描き、軍人皇帝時代末期における皇帝の軍事的権威と伝統的ローマ徳目を示している。
TKC077の歴史を読む
種別:アルゲンテウス / 銀貨
皇帝:ディオクレティアヌス(Diocletian,在位AD284–305)
発行年:紀元294年頃
発行場所:ローマ造幣所
重量:2.83 g
サイズ:17.70 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:VF
文献番号:RIC V.2, 27a / RSC 516e
表銘文
DIOCLETIANVS AVG「ディオクレティアヌス、アウグストゥス」
図像(表)
月桂冠を戴いたディオクレティアヌス帝の胸像、右向き。→ 賢明で安定をもたらす統治者の姿を示す。
裏銘文
VIRTVS MILITVM「軍団の武徳」
図像(裏)
四人のテトラルク(共同皇帝)が祭壇に犠牲を捧げる場面。背後には六つの塔を備えた軍営門(カストラ)。→ 帝国を守る軍団の力、そして四帝による統治体制の協調を象徴する。
歴史的背景
ディオクレティアヌスは「三世紀の危機」と呼ばれる内乱と分裂の時代を終わらせた皇帝である。AD 284年に即位すると、まず貨幣制度を改革し、銀貨アルゲンテウスを導入して安定した基準貨幣を復活させた。さらに、彼は帝国を東西に分け、二人のアウグストゥスと二人のカエサルによる テトラルキア(四帝分治制) を築いた。これにより広大な帝国を効率的に統治し、外敵の脅威に迅速に対応することが可能になった。このコインはまさにその体制を示す記念貨であり、軍団の忠誠と皇帝たちの協力が帝国の秩序と繁栄を支えていることを強調する。ディオクレティアヌスはまた、帝国を守るための行政区画の再編、軍の強化、税制改革、さらに「ディオクレティアヌス勅令」による物価統制を行った。宗教面では「皇帝崇拝」を強化し、後に大規模なキリスト教迫害を行ったことでも知られる。しかし彼の最大の特徴は、自ら帝位を退いた最初のローマ皇帝であったこと。AD 305年、彼は自ら引退し、ダルマティア地方の宮殿(現クロアチア・スプリトの「ディオクレティアヌス宮殿」)で余生を過ごした。このアルゲンテウスは、そんな彼の「改革と秩序回復の象徴」といえる一枚である。
TKC078の歴史を読む
種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:マクシミアヌス(Maximian,在位AD286–305,306–308,310)
発行年:紀元290-294年
発行場所:ルグドゥヌム(リヨン)造幣所
重量:3.18 g
サイズ:20 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:EF+
文献番号:RIC V.2 422
表銘文
IMP MAXIMIANVS AVG「インペラトル・マクシミアヌス・アウグストゥス」
図像(表)
放射冠を戴き、皇帝マントを羽織ったマクシミアヌスの胸像、左向き。手には鷲頭の笏を持つ。→ 威厳と帝権の象徴であり、軍事力と宗教的権威を兼ね備えた姿を示す。
裏銘文
SALVS AVGG「二人のアウグストゥスの健康・安寧」
図像(裏)
女神サルス(健康と安寧の擬人化)が右に立ち、パテラで蛇を養っている。下部エクスルグに「C」。→ 国家と皇帝の繁栄・健康を祈願する伝統的モチーフ。ディオクレティアヌスとの共同統治体制の安定を示す。
歴史的背景
マクシミアヌスはディオクレティアヌスの共同皇帝として即位し、帝国西部を統治した。彼の治世はテトラルキア(四分統治)の時代にあたり、ローマ帝国の安定を図る大規模改革が進められた。このコインは、その共同統治の正統性と国家の繁栄を示すためのプロパガンダ貨幣。
TKC079の歴史を読む
種別:アントニニアヌス / ビロン貨
皇帝:コンスタンティウス1世(Constantius I, 副帝AD293–305/皇帝AD305–306)
発行年:紀元295–299年
発行場所:キュジクス造幣所
重量:2.52 g
サイズ:21.70 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:GVF
文献番号:RIC 18a
表銘文
FL VAL CONSTANTIVS NOB CAES「フラウィウス・ウァレリウス・コンスタンティウス、高貴なるカエサル」
図像(表)
放射冠を戴き、胸甲をまとったコンスタンティウス1世の胸像、右向き。→ 軍人皇帝としての姿を強調。
裏銘文
CONCORDIA MILITVM「軍団の調和」
図像(裏)
軍装姿のコンスタンティウスが右に立ち、左に立つユピテルから地球儀上の勝利像を受け取る。フィールドにKB。→ 皇帝と軍団、そして神々の間の協調と忠誠を象徴する。
歴史的背景
コンスタンティウス1世はディオクレティアヌスのテトラルキア体制の下で西方のカエサルとして任じられた。ブリテン島で反乱を鎮圧し、ローマ支配を回復したことで知られる名将。のちにアウグストゥスに昇格し、コンスタンティヌス大帝の父として歴史に名を残す。このコインに描かれる「軍団の調和(Concordia Militum)」は、内乱と分裂に揺れた時代において、軍の忠誠と神の承認を受けた皇帝の正統性を訴える重要なプロパガンダであった。
TKC080の歴史を読む
種別:フォリス / 銀洗い青銅貨
皇帝:ガレリウス(Galerius,副帝AD293–305,皇帝AD305–311)
発行年:紀元293-305年
発行場所:ヘラクレア造幣所
重量:8.21 g
サイズ:27.32 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:GVF
文献番号:RIC 20b
表銘文
GAL VAL MAXIMIANVS NOB CAES「ガレリウス・ウァレリウス・マクシミアヌス、高貴なるカエサル」
図像(表)
月桂冠を戴いたガレリウスの胸像、右向き。→ テトラルキア体制の一員としての若き皇帝像。
裏銘文
GENIO POPVLI ROMANI「ローマ人民の精霊へ」
図像(裏)
ローマ人民の精霊(Genius)が正面を向き、左に顔を向けて立つ。右手に供物皿(パテラ)、左手に豊穣の角(コルヌコピア)を持つ。エクスルグに「HTA」。→ 帝国の繁栄と人民の豊かさを祈願する象徴的意匠。
歴史的背景
ガレリウスはディオクレティアヌスの副帝(カエサル)として東方を統治し、のちにアウグストゥスに昇格した。彼はサーサーン朝との戦いで勝利を収め、帝国の東方防衛を強化した名将である。このフォリスはディオクレティアヌスの貨幣改革によって導入された新基準青銅貨で、「人民の精霊」タイプ は帝国全土で発行され、帝国の再建と繁栄を象徴する代表的デザインであった。
TKC081の歴史を読む
種別:フォリス / 青銅貨
皇帝:セウェルス2世(Severus II,副帝AD305–306,皇帝AD306–307)
発行年:紀元305年
発行場所:ローマ造幣所
重量:10.41 g
サイズ:29 mm
ダイ軸(Die Axis):4 h
状態:Near GVF
文献番号:RIC VI Rome 123a
表銘文
SEVERVS NOB CAES「ノビリッシムス・カエサル(高貴なる副帝)セウェルス」
図像(表)
セウェルス2世の月桂冠を戴いた右向き胸像。→ 厳格で理想化された肖像は、テトラルキア体制下での秩序と統一を象徴している。
裏銘文
SAC MON VRB AVGG ET CAESS NN / RT「すべてのアウグストゥスとカエサルたちのための聖なる都市ローマの貨幣制度」(RT = ローマ造幣所 第3工房の刻印)
図像(裏)
貨幣の女神モネータ(Moneta)が左を向いて正面に立ち、右手に秤(スカラ)、左手に豊穣の角(コルヌコピア)を持つ。右側の場に星。→ 公正な貨幣発行と繁栄を保証する神聖な象徴。貨幣制度の安定が帝国の秩序維持に直結することを強調している。
歴史的背景
セウェルス2世はディオクレティアヌスのテトラルキア体制において、西方の副帝(カエサル)としてコンスタンティウス・クロルスの下に任命された。しかし、クロルスの死後、マクセンティウスが権力を握ると、彼はその鎮圧のために派遣され、捕らえられて処刑された。このコインは、彼がまだ安定した政権の一部として発行していた時期のものであり、ディオクレティアヌス体制下の統制と理想主義をよく表している。
TKC082の歴史を読む
種別:ヌンムス/青銅貨
皇帝:マクセンティウス(Maxentius,在位AD306–312)
発行年:紀元308-310年
発行場所:ローマ造幣所
重量:6.54 g
サイズ:25 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:GEF
文献番号:RIC VI 210
表銘文
IMP C MAXENTIVS P F AVG「皇帝カエサル・マクセンティウス、敬虔にして幸いなるアウグストゥス」
図像(表)
月桂冠を戴くマクセンティウス帝の右向き頭像。→ 月桂冠は正統皇帝の勝利と権威を示す伝統的表現であり、内戦期において自らの皇帝位の正当性を強く主張する意図が読み取れる。
裏銘文
CONSERV VRB SVAE、RBS「自らの都市の守護者、ローマ造幣所の刻印」
図像(裏)
ローマ女神(Roma)が六柱式神殿(ヘクサスタイル)の中に座る。神殿の破風に花輪、屋根の上に勝利の女神(ヴィクトリア)ローマ女神は地球(globus)笏(sceptre)を持つ。足元には盾。
歴史的背景
マクセンティウスはテトラルキア体制の混乱の中でローマで皇帝を称した人物であり、ローマ市の支持を基盤に統治を行った。彼の貨幣には都市ローマを強く強調する図像が多く、本貨の「CONSERVATOR VRBIS SVAE(自らの都市の守護者)」という銘文は、ローマの伝統と都市国家的アイデンティティを守る皇帝であることを示す政治的メッセージであった。
TKC083の歴史を読む
種別:フォリス / 銀洗い青銅貨
皇帝:マクシミヌス・ダイア(Maximinus Daia,副帝AD305-310,皇帝AD310–313)
発行年:紀元312年
発行場所:シスキア造幣所
重量:5.65 g
サイズ:24 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:EF-
文献番号:RIC VI Siscia 227a
表銘文
IMP MAXIMINVS P F AVG「インペラトル・マクシミヌス、敬虔なる幸福なアウグストゥス」
図像(表)
月桂冠を戴いたマクシミヌス・ダイアの右向き胸像。力強い顔立ちと厳格な造形は、彼の軍人的性格と専制的統治を象徴する。
裏銘文
IOVI CO-NS-ERVATORI / (花輪) / B // SIS「守護者ユピテル(Jupiter Conservator)」(B:第2工房、SIS:シスキア造幣所刻印)
図像(裏)
ユピテル(Jupiter)が前を向き、左を向いて立つ。裸体にクローク(chlamys)を肩に掛け、右手に稲妻(雷霆)、左手に長い笏(scepter)を持つ。→ 皇帝の保護神としてのユピテルを描き、「帝国の正統な守護者」という理念を強調している。ほぼ全面に銀化処理(silvering)が残る例もあり、当時の威信ある発行を示す。
歴史的背景
マクシミヌス・ダイアは、ガレリウスの甥として台頭し、AD 305年に副帝(Caesar)に任命、後にアウグストゥスを称した。東方での統治中、彼はキリスト教徒に対して激しい迫害を行い、またディオクレティアヌス的な神権的帝政を強化した。このフォリスの「IOVI CONSERVATORI(守護神ユピテル)」は、彼が神々の加護による統治を正当化しようとした象徴的モチーフである。しかし、AD 313年のリキニウスとの戦い(トラキア地方)で敗北し、翌年死亡。テトラルキア最後の皇帝の一人として幕を閉じた。
TKC084の歴史を読む
種別:フォリス / 青銅貨
皇帝:リキニウス1世(Licinius I,皇帝AD308-324)
発行年:紀元316-317年
発行場所:キュジコス(Cyzicus)造幣所
重量:3.43 g
サイズ:20.76 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:GVF
文献番号:RIC VII Cyzicus 6
表銘文
Q HER ETR MES DECIVS NOB C「クィントゥス・ヘレニウス・エトルスクス・メッサ・デキウス、尊貴なるカエサル」
図像(表)
月桂冠を戴いたリキニウス1世の胸像、右向き。→ 皇帝の権威を象徴する正統的肖像。
裏銘文
IOVI CONSERVATORI「守護者ユピテルへ」→ 皇帝と帝国を保護する最高神ユピテルへの奉献。
図像(裏)
ユピテルが左に立ち、左肩にマントをかけ、左手に笏を持ち、右手には地球儀の上に立つ勝利の女神を掲げる。左にはリースをくわえた鷲。右欄に「VI」、地上銘に「SMK(キュジコス造幣所)」の刻印。→ ローマの勝利と皇帝の神的正統性を象徴。
歴史的背景
リキニウス1世はテトラルキアの共同皇帝として即位し、コンスタンティヌス1世と並びローマ帝国東方を支配した。彼は313年のミラノ勅令でコンスタンティヌスとともにキリスト教公認を発布したが、後に対立し、324年のクリュソポリスの戦いで敗北、翌年処刑された。このコインのユピテル像は、コンスタンティヌスがキリスト教的シンボルに傾斜するのと対照的に、リキニウスが伝統的ローマ神祇信仰に依拠した政治姿勢をよく示している。
TKC085の歴史を読む
種別:フォリス / 青銅貨
皇帝:コンスタンティヌス1世(Constantinus I,在位AD306–337)
発行年:紀元330-335年
発行場所:トレヴェリ造幣所
重量:2.77 g
サイズ:19 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:EF
文献番号:RIC VII Treveri 372
表銘文
CONSTAN-TINVS AVG「コンスタンティヌス、アウグストゥス」
図像(表)
月桂冠をかぶり、胸甲とマントを着けた皇帝の胸像、右向き。→ 安定政権を確立した「大帝」としての堂々たる姿を示す。
裏銘文
PROVIDENTIAE AVGG「アウグストゥスたちの摂理」
図像(裏)
高く築かれた城門(キャンプゲート)が描かれ、その上に星。城壁は複数段の石積みが表現され、中央にアーチ型の入口。下部エクスルグに造幣所銘。
→ 帝国の防備と永続性を象徴。星は神的加護を暗示する。
歴史的背景
この「要塞門」型は、コンスタンティヌス大帝とその後継者たちの時代に広く鋳造された都市記念型の一つで、帝国の強固な城塞・軍事的安定を示すプロパガンダ的意図を持っていた。特にトレヴェリは西方の軍事拠点として重要であり、この地で鋳造されたフォリスは、ローマ帝国の国境防衛を象徴する。
TKC086の歴史を読む
種別:フォリス / 青銅貨
皇帝:コンスタンティヌス1世(Constantinus I,在位AD306–337)
発行年:紀元330-335年
発行場所:ヘラクレア造幣所
重量:2.92 g
サイズ:18 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:GVF
文献番号:RIC VII Heraclea 92
表銘文
VRBS ROMA「ローマの都市」
図像(表)
兜をかぶり、胸甲をまとったローマ女神(Dea Roma)の胸像、左向き。→ ローマの権威と軍事的伝統を象徴する女神像。
裏銘文
銘文なし(都市記念型)
図像(裏)
牝狼(ルーパ)が座し、下で双子ロムルスとレムスが乳を吸う姿。上方には星。下部エクスルグに「SMHΓ」(ヘラクレア造幣所第3オフィキナ)。→ ローマ建国神話を強調し、都市の神聖性と永遠性を示す。
歴史的背景
この「都市記念シリーズ」は、コンスタンティヌス大帝がAD 330年に新都コンスタンティノープルを創建したことを記念して発行された。「URBS ROMA」銘のコインは古都ローマの伝統を、「CONSTANTINOPOLIS」銘のコインは新都コンスタンティノープルの威信を表す。ロムルスとレムスの神話は「ローマの始まり」を象徴し、帝国が神々に守られ、永遠に続くことを示す強力なプロパガンダだった。
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種別:フォリス / 青銅貨
皇帝:コンスタンティヌス1世(Constantinus I,在位AD306–337)
発行年:紀元330-337年
発行場所:アンティオキア造幣所
重量:1.37 g
サイズ:15 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:VF
文献番号:RIC VII Antioch 87
表銘文
CONSTAN-TINOPOLIS 「コンスタンティノープル、都市記念型」
図像(表)
コンスタンティヌス大帝の胸像、右向き。頭部は月桂冠を戴き、端正な肖像で描かれる。→ 専制君主制の確立者としての威厳を強調。
裏銘文
GLOR-IA EXERC-ITVS「軍隊の栄光」
図像(裏)
二人の兵士が向かい合って立ち、それぞれ槍と盾を持つ。中央に軍旗(ラバルム)が立つ。下部エクスルグに「SMAN(アンティオキア造幣所)」の刻印。→ 帝国の軍事力と団結を象徴。
歴史的背景
コンスタンティヌス大帝はディオクレティアヌス体制を引き継ぎ、西暦324年に単独皇帝としてローマ帝国を再統一した。彼はミルウィウス橋の戦い(AD 312)で「この旗のもとに勝て(In hoc signo vinces)」の啓示を受けたと伝えられ、キリスト教を庇護した最初の皇帝として知られる。このフォリスは「軍隊の栄光」シリーズの一環で発行されたもので、帝国の基盤を支えた軍の忠誠と力を讃えるデザインである。
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種別:フォリス / 青銅貨
皇帝:コンスタンティヌス1世(Constantinus I,在位AD306–337)
発行年:紀元330-335年
発行場所:ニコメディア造幣所
重量:2.93 g
サイズ:18 mm
ダイ軸(Die Axis):11 h
状態:VF
文献番号:RIC VII Nicomedia 188
表銘文
CONSTANTINVS IVN NOB C「コンスタンティヌス、尊きノビリッシムス・カエサル」
図像(表)
月桂冠をかぶり、胸甲とマントをまとうコンスタンティヌスの胸像、右向き。→ 若き皇帝の力強さと威厳を示す肖像。
裏銘文
GLORIA EXERCITVS「軍勢の栄光」
図像(裏)
二人の兵士が向かい合って立ち、それぞれ槍と盾を持ち、中央に二本の軍旗(バンナ)が掲げられている。下部エクスルグに「SMNΓB」(ニコメディア造幣所第2オフィキナ)。→ ローマ軍の規律と忠誠、そして帝国防衛の象徴。
歴史的背景
「GLORIA EXERCITVS(軍勢の栄光)」シリーズは、コンスタンティヌス大帝の治世に広く発行された都市記念型の一環であり、帝国の軍事力が平和と秩序の基盤であることを強調した。特にこの時期は帝国東方の拠点コンスタンティノープル創建後で、軍の結束を示すことは新体制の安定に不可欠だった。
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種別:フォリス / 青銅貨
皇帝:コンスタンティヌス1世(Constantinus I,在位AD306–337)
発行年:紀元310-318年
発行場所:ローマ造幣所
重量:2.86 g
サイズ:18.8 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:aVF
文献番号:RIC VII Rome 30
表銘文
IMP CONSTANTINVS PF AVG「インペラトル・コンスタンティヌス・敬虔にして幸運なるアウグストゥス」
図像(表)
月桂冠を戴き、鎧を着たコンスタンティヌス大帝の右向き胸像。→ 「PF(Pius Felix)」は敬虔さと幸運を意味し、皇帝の神的正統性と徳を象徴する称号。コンスタンティヌスはこの時期、まだテトラルキア(四分統治制)の枠内にあったが、すでにその枠を超える「唯一の支配者」としての地位を意識し始めていた。
裏銘文
SOLI INVICTO COMITI「不敗の太陽神ソルの盟友に」または「ソル神を友とする者に」下部銘(Exergue):R★F または RQ(ローマ造幣所)フィールド記号:左 A ✣ / 右 F
図像(裏)
太陽神ソルが左を向いて立ち、左肩にマントを掛け、右手を高く挙げ、左手に地上支配を象徴する天球を持つ。→ ソル・インウィクトゥス(Sol Invictus, 不敗の太陽神)は、コンスタンティヌスがキリスト教受容以前に信奉した「太陽的君主神」。本貨は彼の宗教的過渡期を示す代表的なコインであり、後の「キリスト=光(ルーメン)」という象徴的表現へとつながっていく。
歴史的背景
AD 310〜318年頃、コンスタンティヌスはローマ帝国西方の統治を確立し、ソル神を「皇帝の守護者」として強く打ち出した。このコインの発行期は、テトラルキア体制が事実上崩壊し、彼が単独支配へと歩み始めた転換点にあたる。太陽神ソルは、やがてキリスト教の「神の光(Deus Sol Invictus)」と融合し、後世においてもローマ的宗教観の象徴として影響を残した。
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種別:ヌムムス / 青銅貨
皇帝:コンスタンティヌス2世(Caesar,在位AD317-337)
発行年:紀元336-337年
発行場所:ニコメディア造幣所
重量:1.77 g
サイズ:16 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:aMS
文献番号:RIC VII 200
表銘文
CONSTANTINVS IVN NOB C「コンスタンティヌス・ユニオル(子)、ノビリッシムス・カエサル」
図像(表)
月桂冠を戴き、胸甲を着けたコンスタンティヌス2世の胸像、右向き。→ 皇帝コンスタンティヌス大帝の子としての正統な後継者を示す。
裏銘文
GLORIA EXERCITVS「軍隊の栄光」
図像(裏)
二人の兵士が互いに向き合って立ち、それぞれ槍を持ち盾に寄りかかる。中央に軍旗(ラバルム)。エクスルグに「SMNS」。→ 帝国を支える軍団の力と忠誠を象徴。統一と軍事的安定を訴えるプロパガンダ的意匠。
歴史的背景
コンスタンティヌス2世は、コンスタンティヌス大帝の長子としてAD 317年にカエサルに叙され、帝国東方での統治に携わった。このコインは大帝の死を目前にした時期に発行されたもので、「軍の忠誠と皇帝一族の正統性」 を強調している。のちに大帝の死後、兄弟との共同統治を経て帝国の分裂抗争に巻き込まれていく。
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種別:セントニオナリス / 青銅貨
皇帝:コンスタンス(Constans,在位AD337–350)
発行年:紀元337-350年
発行場所:テッサロニカ造幣所
重量:5.32 g
サイズ:24.5 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:Near GVF
文献番号:RIC VIII Thessalonica 109
表銘文
D N CONSTANS P F AVG「我らの主、敬虔にして幸運なるアウグストゥス、コンスタンス」→ キリスト教帝国の支配者としての敬虔さと皇帝権威を表現。
図像(表)
真珠冠を戴き、胸甲とマントを身に着けたコンスタンスの胸像、右向き。
裏銘文
FEL TEMP REPARATIO「幸運なる時代の回復」→ 4世紀中葉のコンスタンティヌス朝で用いられたスローガンで、帝国の復興と安定を誇示。
図像(裏)
左を向いて立つコンスタンスが、右手にフェニックスを載せた地球儀、左手にラバルム(キリスト教の軍旗)を持つ。彼は小舟に乗り、右側では勝利の女神ウィクトリアが櫂を操っている。→ 皇帝が勝利と神意によって帝国を導くことを象徴。フェニックスは再生と永続、ラバルムはキリスト教的正統性を示す。
歴史的背景
コンスタンスはコンスタンティヌス大帝の三男で、兄弟のコンスタンティヌス2世、コンスタンティウス2世と帝国を分割統治した。彼は特に西方(イタリア・アフリカ・イリュリクム)を支配し、正統的なニカイア信条に基づく信仰を擁護した。このコインは「FEL TEMP REPARATIO(幸運な時代の回復)」シリーズの一つで、帝国の安定とキリスト教的正統性を結びつけるプロパガンダを体現している。
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種別:シリカ / 銀貨
皇帝:コンスタンティウス2世(Constantius II,在位AD337–361)
発行年:紀元351-355年
発行場所:コンスタンティノープル造幣所
重量:2.75 g
サイズ:21 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:EF
文献番号:RIC VIII 103 / RSC 342–343x
表銘文
D N CONSTANTIVS P F AVG「ドミヌス・ノステル・コンスタンティウス、敬虔なる幸運のアウグストゥス」
図像(表)
真珠の冠を戴き、胸甲とマントをまとったコンスタンティウス2世の胸像、右向き。→ 正統な皇帝としての威厳を示す典型的な肖像。
裏銘文
VOTIS XXX MVLTIS XXXX「30年の誓願、さらに40年の誓願を」
図像(裏)
花冠の中に四行銘文。下部エクスルグに「C•H」。→ 皇帝の治世30周年を祝し、さらに長期の統治(40周年)を祈願する内容。
歴史的背景
コンスタンティウス2世はコンスタンティヌス大帝の子の一人で、兄弟と帝国を分割統治したのち、最終的に全帝国を支配した。このシリクアは、彼の即位30周年を祝う一連の記念貨幣の一つで、皇帝の長寿と帝国の安定を祈願する誓願式(vota) を示す。コンスタンティウスの治世は宗教的対立(アリウス派とニカイア派の争い)や外敵の圧力に彩られたが、貨幣上では繁栄と継続性が強調されている。
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種別:フォリス / 銀洗い青銅貨
皇帝:コンスタンティウス2世(Constantius II,在位AD337–361)
発行年:紀元325-326年
発行場所:ヘラクレア造幣所
重量:2.89 g
サイズ:19.16 mm
ダイ軸(Die Axis):6 h
状態:GVF
文献番号:RIC 78
表銘文
FL IVL CONSTANTIVS NOB C「フラウィウス・ユリウス・コンスタンティウス、高貴なるカエサル」
図像(表)
月桂冠を戴き、マントと胸甲をまとったコンスタンティウス2世の胸像、左向き。→ 若き皇帝候補としての威厳を示す肖像。
裏銘文
PROVIDENTIAE CAESS「カエサルたちの配慮」
図像(裏)
二つの塔を備えた軍営門(カストラ)が描かれ、上に星、左に点印。エクスルグに「SMHΓ」。→ 帝国の安全を守る軍事施設と、未来を見据えた統治の象徴。
歴史的背景
コンスタンティウス2世はコンスタンティヌス大帝の息子で、AD 324年にカエサルに任じられた。父の死後、兄弟とともに帝国を分割統治し、のちに全帝国を支配する。このコインの 「軍営門(camp gate)」 デザインは、国境防衛と帝国の秩序維持を象徴しており、若きカエサルが軍事と安定を保証する存在であることをアピールするものだった。
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種別:フォリス / 青銅貨
皇帝:ウェトラニオ(Vetranio,在位AD350)
発行年:紀元350年
発行場所:シスキア造幣所
重量:4.49 g
サイズ:23 mm
ダイ軸(Die Axis):1 h
状態:aVF
文献番号:RIC VIII Siscia 290
表銘文
D N VETRA-NIO P F AVG「ドミヌス・ノステル・ウェトラニオ、敬虔にして幸運なるアウグストゥス」
図像(表)
月桂冠を戴き、軍装を整えたウェトラニオ帝の右向き胸像。背後に「A」、前方に星のシンボル。→ 月桂冠は勝利を、星は神意と正統性を示す。
裏銘文
CONCORDIA MILITVM「兵士との調和」
図像(裏)
正面を向いたウェトラニオが両手にキリスト教シンボル「☧(キ・ロー)」を掲げた軍旗を持ち、頭上に星が輝く。左に「A」。→ 皇帝が軍団の忠誠と信仰の一致を訴える姿を表現しており、動乱期の帝国における安定の象徴となっている。
歴史的背景
ウェトラニオは、コンスタンティウス2世の将軍としてパンノニア地方を統治していたが、AD 350年、マグヌス・マグヌスの反乱に対抗するために軍によって一時的に皇帝に推戴された。しかし彼は自らを簒奪者とはせず、忠実に帝国の正統を守る姿勢を示した。この「CONCORDIA MILITVM(兵士との調和)」は、内戦を避け、軍の忠誠と秩序を維持しようとした彼の政治的メッセージである。在位期間はわずか数か月であったが、彼は平和裡に退位し、ローマ史上まれに見る「自ら退く皇帝」として記憶される。
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種別:シリカ / 銀貨
皇帝:ユリアヌス2世(Julianus II,在位AD360-363)
発行年:紀元360-361年
発行場所:ルグドゥヌム(リヨン)造幣所
重量:2.6 g
サイズ:17.6 mm
ダイ軸(Die Axis):1 h
状態:aEF
文献番号:RIC VIII 218 / RSC V 163a
表銘文
FL CL IVLIANVS PF AVG「フラウィウス・クラウディウス・ユリアヌス、敬虔なる幸運に恵まれしアウグストゥス」
図像(表)
ロゼットと月桂冠を戴き、ドレープと胸甲をまとったユリアヌス2世の右向き胸像。→ 伝統的な皇帝の軍事的権威と正統性を強調。
裏銘文
VOTIS / V / MVLTIS / X(花冠内)「5年の誓願、10年の多数の誓願」→ 皇帝即位時に神々へ奉納された記念の誓願式文。
図像(裏)
月桂樹の花冠の中に4行銘が収められる。造幣所銘:LVG(ルグドゥヌム造幣所)。
歴史的背景
ユリアヌス2世(「背教者ユリアヌス」)は、キリスト教が急速に広まる中で、最後に異教復興を試みたローマ皇帝である。360年に軍によりアウグストゥスに擁立され、361年に単独皇帝となった。このシリカんは即位直後に鋳造されたもので、裏面の「VOTIS V MVLTIS X」は5周年・10周年の誓願を象徴し、皇帝の安定した治世を祈願する伝統的モチーフである。
参考
出土地:1887年発見の ハープトリー・ホード(Harptree Hoard) より。
保存状態:VF(Very Fine)。深いトーンを持ち、虹色光沢や地金の輝きの痕跡を残している。本コインは2.6 gと、通常のシリカ(1.8–2.2 g程度)よりも明らかに重い。これは初期発行の特質で高品位で希少性が高い。
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種別:フォリス / 青銅貨
皇帝:ヨウィアヌス(Jovian,在位AD363–364)
発行年:紀元363-364年
発行場所:ヘラクレア造幣所
重量:2.88 g
サイズ:18.56 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:aGVF
文献番号:RIC 108
表銘文
D N IOVIANVS P F AVG「ドミヌス・ノステル・ヨウィアヌス、敬虔なる幸運のアウグストゥス」
図像(表)
真珠の冠を戴き、胸甲とマントをまとったヨウィアヌス帝の胸像、左向き。→ 新たに即位した皇帝としての権威を示す。
裏銘文
VOT / V「5年の誓願」
図像(裏)
月桂冠の中に「VOT / V」の銘文。エクスルグに「HERACA」。→ 即位5周年の誓願を象徴し、皇帝の長寿と治世の継続を祈念する。
歴史的背景
ヨウィアヌスはユリアヌス2世(背教者ユリアヌス)の戦死後に軍に推戴され即位した。短い治世(わずか8か月)ながら、サーサーン朝と屈辱的な講和を結び、東方国境の安定を確保した。このコインの「誓願式(vota)」は、本来皇帝即位5周年を祝う儀礼だが、ヨウィアヌスは在位中に5年を迎えることなく急死したため、この誓願は実現しなかった。ゆえに、この貨幣は短命皇帝の治世を象徴する儚い記念となっている。
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TKC Coin Collection