TKC001-TKC022
第一段目 ローマ建国神話から共和国そして帝政へ
StageⅠ From the Founding Myths to the Republic and Empire
StageⅠ From the Founding Myths to the Republic and Empire
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:匿名発行(Anonymous Issue)
発行年:紀元前115–114年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.80 g
サイズ:20mm
ダイ軸(Die Axis):6h
状態:VF+
文献番号:Crawford 287 / 1RBW 1117 / Sydenham 545
表銘文
ROMA / 「ローマ」→ 女神ローマの名。
図像(表)
兜をかぶったローマ女神の頭部、右向き。左に価値標記「X」(10アス=デナリウス)。→共和政デナリウスに広く用いられる伝統的な図像。
裏銘文
無銘
図像(裏)
ローマ女神が二つの盾の上に右向きに座り、槍を持つ。足元には狼が右を向いて立ち、双子ロムルスとレムスに乳を与える場面。両側の空には二羽の鳥が飛来し、双子の運命を示すかのようにローマ女神のもとへ向かう。
歴史的背景
このコインは匿名発行のデナリウスで、ローマ建国神話を題材とする代表的貨幣の一つ。裏面には、ロムルスとレムス、母狼、そしてローマ女神が一体として描かれ、ローマの神聖な起源建国者の神話的正統性を示す。紀元前2世紀末、共和政ローマがイタリア半島を制圧し、ローマのアイデンティティを強調する必要があった時期の発行と考えられる。この図像はのちの帝政貨幣(特にコンスタンティヌス朝以降)でも繰り返し用いられる伝統の起点となった。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:Q.セルウィリウス・カエピオ(M.ユニウス・ブルートゥス) (Q. Servilius Caepio (M. Junius Brutus))
発行年:紀元前54年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.60 g
サイズ:17.8 mm
ダイ軸(Die Axis):12 h
状態:VF-
文献番号:Crawford 433/1 / Sydenham 906 / RSC Junia 31
表銘文
LIBERTAS「自由」
図像(表)
リベルタス(自由の女神)の頭部、右向き。→ 共和政ローマの根本理念である「自由」を象徴。
裏銘文
BRVTVS「ブルートゥス」
図像(裏)
初代執政官ルキウス・ユニウス・ブルートゥスが左へ進み、リクトル(束桿を持つ護衛)を従える。→ 王政を打倒し共和政を樹立した祖先の顕彰。
歴史的背景
このコインは、後にカエサル暗殺で知られるブルートゥスが、自らの祖先ルキウス・ユニウス・ブルートゥスを顕彰する目的で発行したものである。王を追放し共和政を始めた人物を描くことで、「ローマは王を拒む国家である」という理念を強く打ち出している。表面の「LIBERTAS」と合わせて、自由と反王政の思想を明確に示す政治的貨幣であり、のちのカエサル暗殺へと繋がる思想的基盤をすでに体現している。
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種別:デナリウス / 銀貨
発行者:マルクス・フリウス・フィルス(Marcus Furius Philus)
発行年:紀元前119年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.96g
サイズ:19mm
ダイ軸(Die Axis):5h
状態:EF
文献番号:Crawford 281/1 / Sydenham 529 / RSC Furia 18 / BMC 1190
表銘文
M·FOVRI·L·F「マルクス・フリウス・フィルス、ルキウスの子」
図像(表)
ヤヌス神の双面頭像→ 始まりと終わり、過去と未来を司るローマの守護神。共和政期デナリウスの伝統的な図像。
裏銘文
ROMA / PHLI「ローマ / フィルス」
図像(裏)
女神ローマが立ち、右手でトロパエウム(戦利品のガリア武具)に花冠を授ける。→ガリア戦争におけるローマの勝利を顕彰する。
歴史的背景
このコインは紀元前121年、執政官クナエウス・ドミティウス・アヘノバルブスとクィントゥス・ファビウス・マクシムスによる ガリア南部での勝利(アッローゲス族・アヴェルニ族討伐) を記念して発行された。フリウス家は古代から続く名門であり、その中でも有名なのが「ローマ第二の建国者」と称えられた マルクス・フリウス・カミッルス。紀元前4世紀、ガリア人に占領されたローマを解放した彼の英雄的伝統を、このコインも継承している。ヤヌス神の姿は「国家の新たな始まり」を示し、裏面の女神ローマと戦利品は「カミッルス以来のフリウス家が担うローマの勝利」を表していると解釈できる。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:マルクス・フリウス・フィルス(Marcus Furius Philus)
発行年:紀元前119年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.75g
サイズ:22mm
ダイ軸(Die Axis):12h
状態:VF
文献番号:Crawford 281/1 / Sydenham 529 / RSC Furia 18 / BMC 1190
表銘文
M·FOVRI·L·F「マルクス・フリウス・フィルス、ルキウスの子」
図像(表)
月桂冠を戴いたヤヌス神の頭部。→始まりと終わり、平和と戦争の両面を司る神で、国家の安寧を象徴する。
裏銘文
ROMA / PHLI「ローマ / フィルス」→ ローマ女神の名と、発行者フィルスの家名。
図像(裏)
女神ローマが立ち、右手でトロパエウム(戦利品のガリア武具)に花冠を授ける。→ガリア戦争におけるローマの勝利を顕彰する。
歴史的背景
マルクス・フリウス・フィルスは、紀元前120年の造幣官。彼の祖先ルキウス・フリウス・フィルスは前223年のテルモンの戦いでガリアに勝利し、その戦功を称えてこのコインが発行されたとされる。しかし同時に、フリウス家の最も偉大な祖先は マルクス・フリウス・カミッルス(紀元前446–365年) である。カミッルスは「ローマの第二の建国者」と呼ばれ、前396年ウェイイ攻略、前390年ガリア撃退(アッリアの戦い後の再建)でローマを救った人物として知られる。このコインの「ガリア戦勝」という主題は、単にテルモンの勝利を顕彰するだけでなく、カミッルス以来フリウス家が担ってきた「ローマをガリアから救う家門」という伝統そのものを示すものでもあった。したがって本貨は、ルキウス・フィルスと同時に、伝説的英雄カミッルスを称える意図をも秘めたコインと解釈できる。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:ティトゥス・クィンクティウス
発行年:紀元前112–111年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.87 g
サイズ:20 mm
ダイ軸(Die Axis):6h
状態:VF
文献番号:Crawford 297/1a / Sydenham 563 / RSC Quinctia 6 / RBW 1139 var.
表銘文
TI·Q / •F →造幣官名を示すが、実際にはムス家顕彰と解釈される
図像(表)
ヘラクレスの胸像、左向き。ライオンの皮を背に、右肩に棍棒を担ぐ。左に「LEV•DESVLTOR(軽装騎兵)」の銘。→ 勇気と力を象徴するヘラクレスは、ムス家の自己犠牲の伝統(devotio)を暗示。
裏銘文
D•S•S 「De Senatus Sententia」 → 元老院の決議による
図像(裏)
「D•S•S」「TI·Q」の間にネズミのシンボル。→ ネズミ(Mus)は家名「ムス」との語呂合わせで、家系を象徴する。
歴史的背景
デキウス・ユニウス・ムス家は、ローマ史における伝説的な「デヴォーティオ(devotio、自らを軍神に捧げる儀式)」で知られる。紀元前340年、父デキウス・ムスはラティウム戦争で軍が劣勢に陥ると、神官の指示に従い自らをマルスと冥界の神々に捧げ、敵陣に突撃して戦死。その後ローマ軍は逆転勝利した。紀元前295年には子デキウス・ムスもセンティヌムの戦いで同じく devotio を行い、敵軍を混乱させローマの勝利に貢献した。このコインは、ヘラクレス像と「Mus」を示すネズミを組み合わせ、「ローマを救うために命を捧げた英雄の徳目」を顕彰するものと考えられる。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:ルキウス・リウィニウス・レグルス(L. Livineius Regulus, Praetor)
発行年:紀元前42年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.80 g
サイズ:18 mm
ダイ軸(Die Axis):2h
状態:GVF
文献番号:Crawford 494/28 / Sydenham 1110
表銘文
REGVLVS PR「プラエトル、レグルス」
図像(表)
プラエトル、ルキウス・リウィニウス・レグルスの頭部、右向き。
裏銘文
L LIVINEIVS / REGVLVS「ルキウス・リウィニウス・レグルス」
図像(裏)
中央にキュリュール椅子(高位官職の象徴)、両脇にリクトルの束(fasces)が各3本。→ プラエトル権限と一族の威信を示す意匠。
歴史的背景
リウィニウス家は、第一次ポエニ戦争の英雄 マルクス・アティリウス・レグルスを祖先と称した。彼はカルタゴに捕虜となりながらローマへ使者として送り返され、元老院で 「カルタゴとの講和を拒否せよ」 と訴えた。祖国の利益のためにあえて不利な和議を否定したのち、約束通りカルタゴに戻り、苛烈な拷問の末に殉死したと伝えられる。この逸話はローマ人にとって 自己犠牲(devotio)と祖国忠誠の極致 とされ、レグルス家の誇りとなった。紀元前42年のこのコインは、現職プラエトルの権威表示を超え、「祖国のために殉じた祖先の精神を継ぐ一族」 であることをアピールする顕彰貨幣である。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:匿名(Anonymous issue)
発行年:紀元前211–208年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.51 g
サイズ:19 mm
ダイ軸(Die Axis):10h
状態:VF
文献番号:Crawford 44/5 / BMCRR Rome 1 / RSC 2
表銘文
背後に「X」→10アス=1デナリウスの価値標
図像(表)
兜を被ったローマの女神ローマ(Roma)の右向き頭像。→ ローマ国家を擬人化した守護女神として、勇気・正義・戦略の象徴。この時期に導入された新しい銀貨制度(デナリウス体系)の象徴的デザインでもある。
裏銘文
ROMA(下部の線枠内)
図像(裏)
双子神ディオスクロイ(カストールとポルックス)が槍を持ち、右へ疾駆する。各頭上には星が描かれる。→ 彼らはローマ軍の守護神であり、「勝利の神聖な双子」としてローマ建国神話とも深く結びつく。戦勝後に星が現れて勝利を告げたという伝承を視覚化しており、ローマの神的保護と軍事的宿命を象徴する初期デナリウスの代表作。
歴史的背景
この銀貨は、共和政ローマが第二次ポエニ戦争(ハンニバル戦争)のさなか、紀元前211年ごろに初めて導入したデナリウス銀貨制度の最初期の一枚です。造幣官の名前がまだ記されておらず、国家主導の「匿名発行(anonymous issue)」と呼ばれる形式で、戦費調達のために大量に鋳造されました。この貨幣制度改革は、カルタゴの名将ハンニバルに対抗するためのローマの戦時財政の大転換であり、とくに若き将軍スキピオ・アフリカヌスがイベリア半島で戦果を挙げていた時期にあたります。スキピオの軍事行動を支えるため、銀貨による兵士の給与や物資調達が不可欠となり、この新しい銀貨制度が導入されたと考えられています。このコインは、ローマ共和国の軍事的・経済的近代化の象徴であり、スキピオ・アフリカヌスの活躍する舞台裏で実際に使われていた通貨として、極めて高い歴史的価値を持ちます。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:カエソ・ファビウス・ハドリアヌス(C. Fabius C.f. Hadrianus)
発行年:紀元前102年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.81 g
サイズ:21 mm
ダイ軸(Die Axis):6h
状態:aGVF
文献番号:Crawford 322/1b / Sydenham 590 / RSC Fabia 14
表銘文
E•X A•PV(sic)→ 本来は EX·ARGENTO·PVBLICO(「公的銀から」)の略。
図像(表)
ヴェールをかぶり城壁冠を戴いたキュベレー(都市の守護女神)の胸像、右向き。イヤリングと真珠の首飾りを着ける。→ 外敵から都市を護る象徴。
裏銘文
C•FABI•C•F「カエソ・ファビウス・ハドリアヌス、ガイウスの子」
図像(裏)
勝利の女神ヴィクトリアがビガ(2頭立て戦車)を駆り右へ疾走。下に「X」価値記号。前方にコウノトリ(ファビウス家の紋章的シンボル)。
歴史的背景
ファビウス家は共和政ローマの最も由緒ある氏族の一つで、その中でも クイントゥス・ファビウス・マキシムス・クンクタトル(「遅延将軍」)が特に有名。彼は第二次ポエニ戦争(ハンニバル戦争)で、消耗戦と遅滞戦術によってローマを救ったと伝えられる。本コインに描かれたキュベレー(都市防衛の女神)と、家紋のコウノトリは、クンクタトルの遺産=ローマを守った家の威光 を象徴する。同時に外敵(ガリアやゲルマンの脅威)への勝利を祈願するプロパガンダ的意図が込められていると考えられる。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:カエソ・ファビウス・ハドリアヌス(C. Fabius C.f. Hadrianus)
発行年:紀元前102年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.76 g
サイズ:20 mm
ダイ軸(Die Axis):10h
状態:VF
文献番号:Crawford 322/1b / Sydenham 590 / RSC Fabia 14
表銘文
E•X A•PV(sic)→ 本来は EX·ARGENTO·PVBLICO(「公的銀から」)の略。
図像(表)
ヴェールをかぶり城壁冠を戴いたキュベレー(都市の守護女神)の胸像、右向き。イヤリングと真珠の首飾りを着ける。→ 外敵から都市を護る象徴。
裏銘文
C•FABI•C•F「カエソ・ファビウス・ハドリアヌス、ガイウスの子」
図像(裏)
勝利の女神ヴィクトリアがビガ(2頭立て戦車)を駆り右へ疾走。下に「X」価値記号。前方にコウノトリ(ファビウス家の紋章的シンボル)。
歴史的背景
このコインは、第二次ポエニ戦争で活躍したファビウス・マクシムス「クンクタトル(Cunctator=先延ばしする者)」を顕彰していると解釈される。彼はローマがハンニバルに連戦連敗するなか、正面決戦を避けてゲリラ戦術と消耗戦に徹し、最終的にカルタゴの戦力を削いだ。この「ファビウス戦略」はローマを滅亡の危機から救い、後のスキピオ・アフリカヌスの勝利に道を開いた。表面のキュベレはローマの守護と安定を象徴し、裏面の勝利の女神とコウノトリは、ファビウス家の伝統と「忍耐の戦略による勝利」を暗示する。まさに ローマを救った知略の英雄を称える顕彰貨幣 といえる。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:クナエウス・ブラシオ(Cn. Blasio Cn. f.)
発行年:紀元前112–111年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.88 g
サイズ:19 mm
ダイ軸(Die Axis):7h
状態:VF+
文献番号:Crawford 296/1 / Sydenham 561b / RSC Cornelia 19 / RBW 1136 var.
表銘文
CN BLASIO•CN F「クナエウス・ブラシオ、クナエウスの子」
図像(表)
兜をかぶった頭部、右向き。背後に星。→ 一般には軍神マルスとされるが、伝統的にスキピオ・アフリカヌスの神格化された肖像と解釈される。星は特別な天命や加護を示す。
裏銘文
[ROMA]「ローマ」
図像(裏)
中央にユピテル(雷霆と笏を持つ)、左にユノ、右にミネルウァ。ミネルウァはユピテルに花冠を授ける。右内側に三日月。→ ローマの守護神「カピトリヌス三神」を描き、国家の繁栄と神々の加護を強調。
歴史的背景
スキピオ・アフリカヌスはハンニバルをザマの戦いで破り、ローマを救った英雄として知られる。その後の世代においても、彼の名声は「ローマを救った者(conservator)」として特別な意味を持った。このコインの兜像がスキピオの半ば神格化された肖像であるとすれば、スキピオ家の威光とローマ国家の加護を結びつける顕彰貨幣と解釈できる。当時の造幣官ブラシオ家とコルネリウス家の縁も、この説を裏付ける。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:ルキウス・アエミリウス・レピドゥス・パウルス(Paullus Lepidus)
発行年:紀元前62年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.77 g
サイズ:19 mm
ダイ軸(Die Axis):5h
状態:VF+
文献番号:Crawford 296/1 / Sydenham 561b / RSC Cornelia 19 / RBW 1136 var.
表銘文
PAVLLVS LEPIDVS CONCORDIA「パウルス・レピドゥス、コンコルディア(調和)」
図像(表)
ヴェールをかぶり宝冠を戴くコンコルディア(調和の女神)の頭部、右向き。→ レピドゥス家が共和政の調和を尊ぶ姿勢を示す。
裏銘文
TER PAVLVS / PAVLVS「第三のパウルス」「パウルス」
図像(裏)
中央に戦利品トロパエウム。右にルキウス・アエミリウス・パウルス(紀元前168年ピュドナの戦いでマケドニア王ペルセウスを破った執政官)。左に捕虜となったペルセウス王とその2人の息子。→ ローマの勝利とアエミリウス家の栄光を直接顕彰するデザイン。
歴史的背景
このデナリウスは、発行者パウルス・レピドゥスが先祖ルキウス・アエミリウス・パウルス・マケドニクス(Aemilius Paullus Macedonicus)の偉業を顕彰したもの。彼は紀元前168年のピュドナの戦いでアンティゴノス朝マケドニアを滅ぼし、王ペルセウスを捕虜とした。この勝利によってローマは東地中海の覇権を確立した。コイン裏面に描かれる捕虜の王とその子らは、ローマの軍事的・道徳的優越を象徴し、同時に「祖先の武勲を誇る家系の正統性」を強調している。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ピウス(Q. Caecilius Metellus Pius)
発行年:紀元前81年
発行場所:北イタリアまたはヒスパニア造幣所
重量:4.05 g
サイズ:18 mm
ダイ軸(Die Axis):2h
状態:Near VF
文献番号:Crawford 374/1 / Sydenham 750 / BMCRR Spain 43–46 / RSC Caecilia 43 / RBW 1396
表銘文
(無銘)
図像(表)
ピエタス(敬虔)の女神の右向き頭部。前方には コウノトリが立つ。→ コウノトリは家族・家門への忠義を象徴し、メテッルス家およびスキピオ家の「徳と家門の伝統」を暗示する。
裏銘文
Q·C·M·P·I「クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ピウスによる発行」
図像(裏)
象(elephant)が左へ歩む。→ 象はスキピオ家による第二次ポエニ戦争・アフリカ戦役の記憶 を象徴する伝統的モチーフ。メテッルス家の軍功と、スキピオ家との結びつきを示す。
歴史的背景
このデナリウスは、メテッルス・ピウスが養子として迎えられたスキピオ家の名声と徳を顕彰する目的で鋳造したと考えられる。表のピエタス(敬虔)、コウノトリ、裏の象はいずれもスキピオ・アエミリアヌスを想起する図像であり、メテッルス・ピウスが自分の祖父筋=スキピオ・アエミリアヌスの威光を利用し、自身の政治的正統性を示すために発行した「顕彰コイン」とみなすことができる。クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ピウスは、スッラの最も忠実な副官として知られる軍人・政治家であり、紀元前83〜72年の内戦期においてヒスパニアで強大なポンペイウス軍と共闘し、マリウス派に対抗して共和政の秩序を守ろうとした。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:Anonymous, “GR series”
発行年:紀元前207年
発行場所:不確定スペイン造幣所
重量:3.22 g
サイズ:20 mm
ダイ軸(Die Axis):11h
状態:GVF
文献番号:Crawford 169/1 / RRSC B91
表銘文
ROMA / X「ローマ」「価値印X」
図像(表)
兜をかぶったローマの女神の頭部、右向き。背後に価値標記「X」。
裏銘文
GR / ROMA「GR」「ローマ」
図像(裏)
ディオスクロイ(カストルとポルックス)が馬に乗り右へ疾走。下に「GR」、エクスエルグに「ROMA」。→ 双子神は戦場での加護と勝利を象徴。
歴史的背景
第二次ポエニ戦争の戦役の中でイベリア半島に派遣された将軍の軍資金需要に応じて現地鋳造された稀少なデナリウス。当時イベリアで戦った将軍の一人が ティベリウス・センプロニウス・グラックス(グラックス兄弟の祖父)。したがってこのコインは、匿名発行であるものの、グラックス家の軍功と結びつく貨幣と見なされる。その子である ティベリウス & ガイウス・グラックス兄弟 は、前2世紀後半に「土地改革・市民権拡大」を推進し、共和政ローマの社会構造を大きく揺さぶった。このコインは 軍事的栄光を築いた祖父の世代と、その遺産の上に政治的改革を試みた子の世代をつなぐ歴史的意味を持つ。
種別:デナリウス・セラトゥス / 銀貨
発行者:ガイウス・マリウス・カピト(C. Marius C. f. Capito)
発行年:紀元前81年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.92 g
サイズ:20.4 mm
ダイ軸(Die Axis):12h
状態:aEF
文献番号:Crawford 378/1c / Sydenham 744 / RSC Maria 9
表銘文
CAPIT / CXVIIII「カピト・119」
図像(表)
ケレス(Ceres, 農耕女神)の胸像、右向き、ドレープをまとっている。→ 豊穣と大地の恵みを象徴し、ローマ市民への糧食供給を強調。
裏銘文
C·MARI·C·F / S·C CXVIIII「ガイウス・マリウス・カピト、ガイウスの子、元老院の決議による、コントロールナンバー119」
図像(裏)
農夫が二頭の牛に鋤を引かせて左へ進む姿。→ 新しい植民市の建設や土地改革を示唆し、共和政の農本的価値観を象徴。
歴史的背景
発行者 C. Marius Capito は、名将 ガイウス・マリウス(大マリウス) の一族。マリウスは「軍団の父(Father of the Roman Army)」と呼ばれ、従来は徴兵制だった軍を改革し、財産のない無産市民も志願兵として受け入れることで、常備軍に近い形のローマ軍団制度を確立した。この改革は以後数世紀にわたりローマ帝国の軍制の基盤となり、同時に将軍と兵士との個人的な結びつきを強め、共和政崩壊の一因ともなった。コインのケレス像と鋤を引く農夫は、マリウスの「市民の糧と土地」「兵士と農民の一体性」を強調する寓意であり、彼の家門が「民衆と軍団の守護者」であることを示すプロパガンダ的性格を持つ。このデナリウスは、スッラが台頭した時期に発行されたもので、マリウス派最後の政治的主張の一つとみなされる。
種別:デナリウス・セラトゥス / 銀貨
発行者:ガイウス・マリウス・カピト(C. Marius C. f. Capito)
発行年:紀元前81年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.75 g
サイズ:19 mm
ダイ軸(Die Axis):11h
状態:VF
文献番号:Crawford 378/1c / Sydenham 741 / RSC Maria 9
表銘文
CAPIT / コントロールナンバー43
図像(表)
女神ケレス(Ceres)の胸像、右向き。ヴェールをかぶり、穀物の豊穣を象徴。→ ケレスはローマにおける農業と食糧供給の守護神であり、社会の安定を象徴。
裏銘文
C·MARI·C·F / S·C XXXXIII「ガイウス・マリウス・カピト、ガイウスの子、元老院の決議による、コントロールナンバー43」
図像(裏)
鋤を引く農夫と2頭の牛(犂を使う耕作場面)。→ ローマ市民の根源である「農耕と軍事」の理想を体現。共和政ローマの自給自足と伝統的価値観を示す。
歴史的背景
発行者カピトは名門マリウス家の出身で、軍事的天才ガイウス・マリウス(「ローマ軍団の父」)の遠縁と考えられている。裏面の耕作場面は、マリウスが軍制改革によって「農民=兵士」という古来のローマ的観念を復活させたことを暗示する。また「セッラート(鋸歯状の縁取り)」は偽造防止の工夫で、当時の共和国デナリウスにしばしば見られる特徴。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:ルキウス・マンリウス・トルクァトゥス(Lucius Manlius Torquatus)
発行年:紀元前82年
発行場所:軍営随伴造幣
重量:3.91 g
サイズ:19 mm
ダイ軸(Die Axis):4 h
状態:GVF
文献番号:Crawford 367/3 / RRC 367/5 / Sear 286、Babelon Manlia 4
表銘文
L MANLI PRO Q「ルキウス・マンリウス、プロクァエストル(財務官代理)」
図像(表)
兜を被ったローマ女神の頭部、右向き。→ ローマ国家そのものを象徴する伝統的図像。
裏銘文
L SVLLA IM「ルキウス・スッラ、インペラトル」
図像(裏)
スッラがクァドリガ(四頭立て戦車)に乗り右へ進む姿、上方で勝利の女神が冠を授ける。→ 軍事的勝利とインペラトルとしての正統性を誇示。
歴史的背景
このコインは、スッラが内戦に勝利しローマへ進軍する過程で、軍とともに移動する造幣所によって発行されたものである。裏面のクァドリガと勝利の女神は、彼が内戦において決定的勝利を収めたことを示し、「インペラトル」としての権威を強調する強いプロパガンダである。スッラはこの後ローマで独裁官となり、共和政の制度を一時的に再編するが、その過程は軍事力による政治支配の先例となり、後のカエサルへと繋がる重要な転換点となった。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:ルキウス・マンリウス・トルクァトゥス(Lucius Manlius Torquatus)
発行年:紀元前82年
発行場所:軍営随伴造幣
重量:3.76 g
サイズ:16.3 mm
ダイ軸(Die Axis):7h
状態:EF
文献番号:Crawford 367/3 / RRC 367/5 / Sear 286、Babelon Manlia 4 / Sydenham 759
表銘文
L•MANLI/ PRO•Q「ルキウス・マンリウス、プロクエストル(副財務官)」
図像(表)
右を向く兜をかぶったローマ女神(ローマ神)。前方に「L MANLI」、後方に「PRO Q」の文字。
裏銘文
L•SVLLA•IM「ルキウス・スッラ、インペラトル(司令官)」
図像(裏)
4頭立ての戦車(クアドリガ)に乗るスッラが、勝利の女神ヴィクトリアから月桂冠を受ける場面。下部の銘字「L SVLLA IM」は、スッラが公式に「インペラトル(軍最高司令官)」の称号を得ていたことを示す。
歴史的背景
このコインは、スッラがマリウス派との内戦に勝利しつつあった紀元前82年、ローマ進軍中のイタリア各地に設けられた臨時造幣所で発行された記念銀貨です。ヴィクトリアに月桂冠を授けられる姿は、スッラの軍事的栄光と神意による勝利を象徴しており、彼のローマ帰還と独裁権掌握を正当化するプロパガンダ的意図が強く込められています。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:ルキウス・ルクレティウス・トリオ(L. Lucretius Trio)
発行年:紀元前74年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.84 g
サイズ:19 mm
ダイ軸(Die Axis):4h
状態:VF
文献番号:Crawford 390/2
表銘文
XVIII「18」
図像(表)
月桂冠を戴いた海神ネプトゥヌスの頭部、右向き。肩に三叉槍(トライデント)を背負う。→ 海を支配するネプトゥヌスは、ローマの海軍力と征服の象徴。制御番号XVIIIは、鋳造責任や系列を示す管理記号。
裏銘文
L LVCRETI / TRIO「ルキウス・ルクレティウス・トリオ」
図像(裏)
翼を持つ天才(Genius)がイルカに乗り、右へ進む。→ ローマの海上覇権と神々の加護を寓意する構図。この幻想的な図像は、のちの帝政期の芸術にも影響を与えた。
歴史的背景
ルクレティウス家(gens Lucretia)は、王政を打倒した伝説の貴婦人ルクレティアに由来し、共和国の自由と徳の象徴とされた名門である。その分家にあたるのがルクルス家(Lucullus)で、本貨を発行したルキウス・ルクレティウス・トリオは、後にポントス王ミトリダテスを討った英雄ルキウス・リキニウス・ルクルスと同族関係にある人物である。ルクルス家は航海と東方遠征において名を馳せ、ネプトゥヌスを掲げるこの貨幣は、まさにその「海の支配者としての家の誇り」を体現している。イルカに乗る有翼の精霊は、ルクルスの艦隊や征服を象徴し、後の「ルクルスの東方遠征」の前兆とも見なされる意匠である。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:セクストゥス・ポンペイウス・マグヌス・ピウス (Sextus Pompeius Magnus Pius)
発行年:紀元前37–36年頃
発行場所:シチリアの不確定造幣所
重量:3.43 g
サイズ:19 mm
ダイ軸(Die Axis):7h
状態:GF
文献番号:Crawford 511/3a / CRI 334 / RBW 1785
表銘文
MAG PIVS IMP ITER「マグヌス・ピウス、インペラトル2度目」→ 「マグヌス」は父ポンペイウス大王(Pompey the Great)の名を継ぎ、「ピウス」は「父と共和政への忠実さ」を意味する。
図像(表)
セクストゥスの肖像、右向き。ただし顔立ちは父ポンペイウス大王の肖像に極めて近く、「大王の正統な後継者」であることを誇示するために父の面影を意図的に重ねた肖像と考えられる。左右に祭祀具(jug と lituus)を配し、宗教的正統性を強調。
裏銘文
PRAEF / CLAS ET ORAE / MARIT EX S C「元老院の決議により、艦隊と海岸の総督」
図像(裏)
海神ネプトゥヌスが船首に片足を置き、アプルストルを掲げる。左右にはシチリア神話の「カタネの兄弟」が両親を背負って救う場面。→ セクストゥスを「海の支配者」「シチリアの守護者」として神話的に正当化。
歴史的背景
セクストゥスは ポンペイウス大王の次男。父を失った後もシチリアを拠点に艦隊を率い、ローマ本土を海上封鎖するなどして大きな力を持ち、「共和政最後の砦」となった。
ポンペイウス大王の軌跡(106–48 BC)
前70年:執政官に就任し、政治的に頭角を現す。
前67年:地中海の海賊をわずか3か月で一掃。
前66–62年:東方遠征でミトリダテス6世を討ち、小アジア・シリアを制圧。
前61年:凱旋式を挙行、「大王(Magnus)」の称号を確立。
前60年:カエサル、クラッススとともに第一回三頭政治を結成。
前49–48年:カエサルと内戦。ファルサルスの戦いで敗れ、エジプトで暗殺。
その名声は「ローマ最大の将軍」の一人として共和政の栄光を体現していた。このコインは、セクストゥスが単なる自分自身を描くのではなく、「父ポンペイウス大王の威光を継ぐ後継者」であることを示すもの。表の肖像は父の面影を写し、裏面ではネプトゥヌスとシチリア神話を通じて 「海の支配者」 としての自らを宣伝している。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:プブリウス・リキニウス・クラッスス(P. Licinius Crassus M. F.)
発行年:紀元前55年頃
発行場所:ローマ造幣所
重量:4.01 g
サイズ:18.7 mm
ダイ軸(Die Axis):5h
状態:Almost XF(軽いバンカー印あり)
文献番号:Crawford 430/1 / Calico 890 / Ffc 804
表銘文
S C(Senatus Consulto)
図像(表)
月桂冠と宝冠を戴いたウェヌス(Venus)の右向き胸像、肩に衣を掛ける。→ ウェヌスはクラッスス家の守護神とされ、家祖がトロイアの英雄アイネイアスの子孫と称したことに由来する。S C(元老院決議による発行)と刻まれており、国家的な意義をもつ発行であったことを示す。
裏銘文
P·CRASSVS·M·F「マルクスの子、プブリウス・クラッスス」
図像(裏)
兜をかぶった女性が馬の手綱を引き立つ。足元には楯と胸甲が置かれる。→ 女性像はしばしば「アマゾン」または「ウェヌス・ウィクトリクス」と解釈され、馬と武具は勝利・勇武を象徴する。この図像はクラッスス家の軍功と、家の誇る武勇と高貴な血統の結びつきを暗示している。
歴史的背景
発行者プブリウス・クラッススは、有名な富豪にして第一回三頭政治の一角を占めたマルクス・リキニウス・クラッススの息子。本貨発行の頃、彼は父の下で政治的活動を行い、後にカエサルの配下としてガリア戦争で武勲を挙げた。裏面の「女戦士と馬」は、彼の若き勇気と遠征の成功への願いを象徴しており、紀元前55年のこの発行は、まさにクラッスス家の軍事的名誉を世に示すものであった。しかしその後、父子はカルラエの戦い(前53年)でパルティア軍に敗れ、壮大な野望は悲劇的に潰えることとなる。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:ガイウス・ユリウス・カエサル(Gaius Julius Caesar)
発行年:紀元前49年頃
発行場所:軍営随伴造幣(カエサル遠征軍)
重量:3.23 g
サイズ:18.7 mm
ダイ軸(Die Axis):11h
状態:GVF
文献番号:Crawford 443/1 / CRI 9 / RBW 1557
表銘文
CAESAR「カエサル」
図像(表)
右進する象が、角を持つ蛇を踏みつける図。→ 象は力・威厳・不可避の支配を象徴し、カエサル自身を表す存在。踏みつけられる角ある蛇は、しばしばグナエウス・ポンペイウスおよび元老院派(旧体制)を象徴すると解釈される。名前を出さず象徴のみで敵を示す、極めて洗練された内戦プロパガンダ表現。
裏銘文
(無銘)
図像(裏)
司祭職の標章(シンプルム、アスペルギルム、セクリス、アペクス)→ カエサルが最高神祇官(Pontifex Maximus)であることを示し、軍事的正当性だけでなく宗教的権威も併せ持つ存在であることを強調。
歴史的背景
前49年、ルビコン川渡河直後に発行された内戦貨幣。元老院派の盟主ポンペイウスとの決裂を背景に、カエサルは自らの勝利と正統性を明確に打ち出した。この象と蛇の構図は、「旧体制を踏み越えて進む新たな支配者」というメッセージを、極めて直感的に伝える。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:ガイウス・ユリウス・カエサル(Gaius Julius Caesar)
発行年:紀元前49年頃
発行場所:軍営随伴造幣(カエサル遠征軍)
重量:3.24 g
サイズ:18 mm
ダイ軸(Die Axis):5h
状態:VF
文献番号:Crawford 443/1 / CRI 9 / RBW 1557
表銘文
CAESAR「カエサル」
図像(表)
右進する象が、角を持つ蛇を踏みつける図。→ 象は力・威厳・不可避の支配を象徴し、カエサル自身を表す存在。踏みつけられる角ある蛇は、しばしばグナエウス・ポンペイウスおよび元老院派(旧体制)を象徴すると解釈される。名前を出さず象徴のみで敵を示す、極めて洗練された内戦プロパガンダ表現。
裏銘文
(無銘)
図像(裏)
司祭職の標章(シンプルム、アスペルギルム、セクリス、アペクス)→ カエサルが最高神祇官(Pontifex Maximus)であることを示し、軍事的正当性だけでなく宗教的権威も併せ持つ存在であることを強調。
歴史的背景
前49年、ルビコン川渡河直後に発行された内戦貨幣。元老院派の盟主ポンペイウスとの決裂を背景に、カエサルは自らの勝利と正統性を明確に打ち出した。この象と蛇の構図は、「旧体制を踏み越えて進む新たな支配者」というメッセージを、極めて直感的に伝える。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:ガイウス・ユリウス・カエサル(Gaius Julius Caesar)
発行年:紀元前48–47年頃
発行場所:軍営随伴造幣(カエサル遠征軍)
重量:3.06 g
サイズ:17 mm
ダイ軸(Die Axis):6h
状態:VF-
文献番号:Crawford 458/1 / CRI 55 / BMCRR East 31–35 / RSC 12
表銘文
銘文なし
図像(表)
女神ウェヌス(Venus)の頭像、右向き、冠を戴く。→ カエサルの家系(gens Julia)は女神ウェヌスを祖とするとされ、この肖像はカエサル自身の神的血統を暗示する。
裏銘文
CAESAR(カエサル)
図像(裏)
アエネアス(Aeneas)が左に進み、肩に父アンキセス(Anchises)を担ぎ、右手にパラディウム(女神ミネルウァ像)を携える。→ ローマ建国神話における英雄アエネアスは、ウェヌスの子であり、この図像はカエサル家がトロイアの血統(=神聖な起源)を受け継ぐことを示す。
歴史的背景
このコインは、カエサルがポンペイウス派を追って北アフリカに進軍した際(紀元前47年頃)に行軍造幣所で発行された。カエサルは自らの血統をウェヌスとアエネアスに結びつけることで、「ローマの正統なる守護者」としての地位を神話的に裏付けようとした。父を背負うアエネアスの姿は、国家の伝統と祖先への忠誠を象徴し、内戦下での“正義の側(pietas)”を強調する政治的メッセージとなっている。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス(Decimus Junius Brutus Albinus)
発行年:紀元前48年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.93 g
サイズ:18 mm
ダイ軸(Die Axis):12h
状態:Near VF
文献番号:Crawford 450/1a / CRI 25 / RBW 1576
表銘文
(無銘)
図像(表)
兜をかぶった戦神マルスの右向き頭像。→ ローマの戦意と勇気を象徴する。ブルータス家の武勇の伝統を示す意匠であり、彼自身がガリア戦争でカエサル配下として戦った経歴を反映している。
裏銘文
BRVTI F ALBINVS「ブルトゥス・アルビヌス」
図像(裏)
二本のガリア風トランペット(carnyces)が交差し、その間に楕円形の盾と円形の盾が配置されている。→ ガリア戦争における勝利と戦利品を象徴し、征服地の文化的特徴を取り入れた極めて印象的なデザイン。カーニクス(carnyx)は竜や獣の頭部を象った青銅製の軍楽器で、ローマ人にとって「異国の勇猛さ」の象徴でもあった。
歴史的背景
デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌスは、後にカエサル暗殺者の一人となる人物である。しかしこのコインが鋳造された紀元前48年当時、彼はまだカエサル軍の有能な副将としてガリア戦争・内乱で活躍していた。本貨はその頃の軍功を記念し、戦勝と軍事的栄誉をアピールする目的で発行されたと考えられる。後にブルータスが自由の名のもとにカエサルに刃を向けたことを思えば、この貨幣のマルス神像は、忠誠と反逆、そして「共和政の名のもとに戦う戦士」の象徴として深い歴史的アイロニーを帯びている。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌス(Decimus Junius Brutus Albinus)
発行年:紀元前48年
発行場所:ローマ造幣所
重量:3.37 g
サイズ:16.84 mm
ダイ軸(Die Axis):未確認
状態:VF
文献番号:Crawford 450/2 / Sydenham 942 / BMCRR 3964 / Junia 25 / Postumia 10
表銘文
PIETAS「敬虔」→ ローマ人にとって最も重要な徳の一つである ピエタス を象徴。
図像(表)
ピエタス(敬虔さを女神化した存在)の頭部、右向き。家庭・国家・神々への義務を果たすローマ的徳目を強調する。
裏銘文
ALBINVS BRVTI F「アルビヌス、ブルトゥスの子」→ 発行者デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌスの家名と父祖を示す。
図像(裏)
握手する二つの右手、その上に翼を持つカドゥケウス(平和と信義の象徴)。→ 和解・信頼・忠誠を表す図像。共和政期の内戦下での「協調」を示すプロパガンダ的意匠。
歴史的背景
デキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌスは、のちにガイウス・ユリウス・カエサルの暗殺に関与した有名な暗殺者のひとり。このコインはカエサルとポンペイウスが対立した内乱期に発行されたもので、「共和政内部の調和」をアピールする意図を持っていたと考えられる。握手とカドゥケウスは、戦乱の時代における一時的な和解と信義の重要性を象徴する。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:マルクス・ユニウス・ブルトゥス(養父家名で「Q. Servilius Caepio Brutus」と表記)、ルキウス・セスティウスと共に
発行年:紀元前43–42年
発行場所:軍営随伴造幣
重量:3.78 g
サイズ:20 mm
ダイ軸(Die Axis):1h
状態:aEF
文献番号:Crawford 502/2 / Babelon Julia 37 / Sestia 2 / RRSC D281.1
表銘文
Q – L·SESTI·PRO「クィントゥス・(=マルクス)・ブルトゥス」と「ルキウス・セスティウス」を示す。
図像(表)
ヴェールをかぶり、月桂冠を戴いたリベルタス(自由の女神)の胸像、右向き。→ ブルートゥスが掲げた「自由回復」の理念を象徴。
裏銘文
Q·CAEPIO·BRVTVS·PRO·COS「Q. Caepio Brutus(=ブルトゥス)執政官代行」の意。
図像(裏)
三脚台(tripod)の両脇に斧(左)とシンプルム(右)。→ 宗教的・祭儀的権威を強調し、正統なローマの伝統に則る姿勢を示す。
歴史的背景
このコインはカエサル暗殺後の内戦期に、ブルトゥスがルキウス・セスティウスと共に発行したもの。銘文上は「Q. Caepio Brutus」となっているが、これは養父の家名を継いだ呼称であり、実際はカエサル暗殺者で有名な マルクス・ユニウス・ブルトゥス本人 を指す。表のリベルタス像はカエサル暗殺を「ローマの自由を回復する行為」と正当化する思想を示し、裏面の祭器類は宗教的正統性を訴える。ブルートゥスは紀元前42年のフィリッピの戦いでアントニウスとオクタウィアヌスに敗れ、自ら命を絶つが、その理念と行動は「Et tu, Brute?(お前もかブルートゥス)」の言葉と共に後世に語り継がれた。
種別:クィナリウス / 銀貨
発行者:マルクス・ポルキウス・カトー(Marcus Porcius Cato, 通称「小カトー」)
発行年:紀元前47–46年
発行場所:ウティカ(北アフリカ)造幣所
重量:2.21 g
サイズ:15 mm
ダイ軸(Die Axis):10h
状態:GVF
文献番号:Crawford 462/2 / Sydenham 1052 / RSC Porcia 11
表銘文
M·CATO「マルクス・カトー(AT ligate:AとTが合字)」
図像(表)
女性頭部(おそらくローマ女神、またはリベルタス)の横顔。→ 共和政の自由と伝統を象徴。
裏銘文
VICTRIX(TR合字)「勝利するもの」「勝利に属するもの」
図像(裏)
勝利のトロパエウム(戦利品記念碑)→ 女神ではなく、戦争の結果そのものを示す無人の象徴。ここで語られる「勝利」とは軍事的勝利ではなく、共和政の自由(Libertas)が最終的に正しいという思想的勝利を意味する。
歴史的背景
発行者マルクス・ポルキウス・カトー(小カトー, 95–46 BC)は、共和政の自由を守るためにカエサルと徹底抗戦した政治家で、最後はウティカで自害し「共和政の殉教者」として記憶された。このコインはその最晩年にアフリカのウティカで発行されたもので、実質的に「共和政の終焉直前に鋳造された最後の共和派硬貨」のひとつ。カトーは軍事的には敗れたが、裏面のトロパエウムは彼の不屈の精神と「共和政の理念そのものが勝利する」という強いメッセージを込めていると解釈される。
種別:クィナリウス / 銀貨
発行者:マルクス・ポルキウス・カトー(Marcus Porcius Cato)
発行年:紀元前89年
発行場所:ローマ造幣所
重量:1.91 g
サイズ:14.5 mm
ダイ軸(Die Axis):7h
状態:GVF
文献番号:Crawford 343/2b / Babelon (Porcia) 7 / RRSC Dq139b
表銘文
M·CATO「マルクス・カトー(AT ligate:AとTが合字)」
図像(表)
ディオニューソス(Liber)の右向き頭部。月桂冠ではなく、葡萄の葉の冠(アイヴィ・リース)をかぶる。→ この「Liber(自由の神)」は、ポルキウス家のイデオロギーと深く関わる。後に登場する小カトー(Cato Uticensis)の「絶対的自由の擁護」という理念の原点を思わせる、家系の象徴的意匠。
裏銘文
VICTRIX(TR ligate)「勝利の女神(Victoria)」
図像(裏)
右向きに座るヴィクトリア女神。右手にパテラ(供物皿)、左手に勝利の象徴である棕櫚枝(パーム)を持つ。→ 「VICTRIX」と明記される点が特に特徴的で、当時の戦争(同盟市戦争)における共和政ローマの勝利祈願を示す。
歴史的背景
紀元前89年、このコインが鋳造された時期は同盟市戦争(Social War)の最終局面。ローマはイタリア同盟市との激しい内戦のただ中にあり、勝利を祈願する図像が貨幣に頻出した時期である。ポルキウス家(カトー家)は、後の「小カトー(Cato Uticensis)」によって共和主義の象徴となるが、その家祖たちもまた「徳」「節制」「自由」への強い価値観を持つことで知られる。このクィナリウスは、のちの小カトーへと連なる家系による、「共和政ローマの理念と勝利」を象徴するコインとして位置づけられる。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:マルクス・アントニウス(Marcus Antonius)
発行年:紀元前32–31年
発行場所:軍営随伴造幣
重量:3.50 g
サイズ:17.5 mm
ダイ軸(Die Axis):10h
状態:GVF
文献番号:Crawford 544/14 / Sydenham 1216 / Antonia 105 / RBW 1838
表銘文
ANT • AVG / III VIR • R • P • C「アントニウス、アウグル職・三人委員会(共和国再建三人委員)の一人」
図像(表)
右向きの軍船(プラエトリアン・ガレー)。帆を畳み、櫂が並ぶ姿が力強く表現されている。→ アントニウスの海上勢力、特にエジプト女王クレオパトラと連携したアクティウムの海戦前夜の軍備体制を象徴。
裏銘文
LEG(不明)「第 軍団」
図像(裏)
中央に軍旗(アクィラ=鷲章)、両脇に軍団旗(シグナ)を配置。→ ローマ軍の忠誠と規律、そしてアントニウスの軍事的威信を示す。このシリーズはアントニウスの指揮下にあった各軍団に割り当てられたもので、それぞれLEG I〜LEG XXIIIなど異なる軍団番号が刻まれる。
歴史的背景
このコインは、アクティウムの海戦(BC 31)直前に鋳造されたアントニウスの最終軍資金の一部。彼はクレオパトラの支援を得てローマ東方に巨大な艦隊を築いたが、オクタウィアヌス(のちのアウグストゥス)との最終決戦に敗北し、翌年、クレオパトラとともに自害してその生涯を閉じた。このデナリウスは、彼の最期の野心と軍の忠誠を記録する象徴的な貨幣である。
種別:デナリウス / 銀貨
発行者:アウグストゥス(Augustus)
発行年:紀元前19–18年頃
発行場所:ヒスパニア不確定造幣所
重量:3.50 g
サイズ:19.3 mm
ダイ軸(Die Axis):6h
状態:aEF
文献番号:RIC² 102
表銘文
CAESAR AVGVSTVS「カエサル・アウグストゥス」
図像(表)
オークの冠(corona civica)を戴くアウグストゥスの右向き頭像。→ 元老院から「市民を救った英雄」として授けられたオーク冠であり、皇帝の慈愛と守護を象徴する。
裏銘文
DIVVS IVLIVS「神格化されたユリウス(ディウス・ユリウス)」
図像(裏)
八条の光を放ち尾を引く彗星(カエサルの星)。→ 紀元前44年、ユリウス・カエサル暗殺後に現れた彗星(セプテントリオの方向に出現)は、民衆からカエサルの魂が天に昇った徴と見なされた。この出来事をオクタウィアヌス(後のアウグストゥス)は巧みに政治利用し、養父を「神」として祭り上げ、自らを「神の子(divi filius)」と称した。
歴史的背景
このデナリウスは、共和政末期から帝政初期への転換を象徴する神話的・政治的プロパガンダ貨幣。裏面の彗星は「カエサルの星(Sidus Iulium)」として古代史に残る。ウェルギリウス『牧歌(Eclogues)』では、“Caesaris astrum sidus eximium fulsit”「カエサルの星が、悲しみの闇に輝いた」と詩的に謳われ、ローマ人の心に「神に導かれた新時代」の象徴として深く刻まれた。この貨幣は単なる記念ではなく、アウグストゥスが自らの統治を“神の意志によるローマの再生”として正当化するための重要な思想的宣言であった。
TKC Coin Collection