ひとり旅が恋しくなると、公園へ出かけた。
気取っている、恥じを知らない年だから、こうしてひとりで歩いて、詩でもしたためて、立派になった心地になってやるのだ。
どうだ、あさましいだろう?
この公園には、敷地の中に坂がある。4,5メートルくらいと思う坂。土砂崩れ防止用なんだろう、コンクリート張りの坂で、登り切ればちょっとした物見台になる、坂。ブランコの隣にあるもんだから、登った方が高いのか、漕いだ方が空に近いのかと、争いの種であった。
いいや、俺には、そんなかわいい競争相手はついぞ持てなかったのだが。
満たされない競争心を、坂を登って、世界を見下ろす愉悦で満たしてやる。コンクリートだけの坂で、ちょっとした凹凸ぐらいしかない急こう配は、登るのに少しコツがいる。そんなもんで、ここを登りきり、少しだけある物見のスペースに腰かけられる人間というのは小学生たちの憧れなのだ。
坂を使ったパルクールもどきとか、高台から見下ろすだとか、そういうことは夢見る行動。登れた奴がスターなんだ。
俺は、それを、返らないコール&レスポンスを求めてやる。
登る。
いつか誰かと登るために覚えた技を人知れず使って、登る。
坂上でひとり、笑みを漏らす。愉悦。虚しい満足感で、自然と笑顔がこぼれて消える。
公園にひとり。
最近、うるさい大人たちが、「危険だから」と全ての遊具を閉鎖したもんだから、ついに、ついに俺ひとりなのだ。
ああ、これは、本当に公園なのか?空地といった方が風景の似合うこの場所は、俺と同じ、虚しい孤独だ。
そう、こうして、いつだって簡単に孤独になる。
しょうもなく、人の返事が欲しいとき。
誰かに返事をしてほしい時こそ、どん底で孤独になる。
ああ、こうして孤独にするくせに、人は俺が求めない時に言うのだ。
「えらい」だの、「すごい」だの、「才能があると知ってた」だの。
心に届かない時に、声が煩わしい時に、口をそろえて言うのだ。本当に欲しいものはそれではないというのに。
いつだったか、気まぐれで手にした小説の一遍を思いだす。
「彼は神様のような子でした」
その『彼』というのは、すでに地獄を往き、自らを『廃人』としたのに。彼のなけなしの炎が消える瞬間に、彼らは「あの人は合格だった」と言うのだ。読むだけなら面白い話だったが、感情移入してみればくだらない、実に不愉快な話だった。
そして、本当に、人間というのはおめでたいと思うのだ。
返らないコール&レスポンス。
今日も 簡単に どうしようもなく 孤独になる
そうしてにやにやしていると、誰もいなかった公園にひとりの少年が入り込む。
手にはサッカーボール。ああ、少年。君にはちゃんと、返信してくれる者はあるかい?
どうか、どうかその無垢な瞳。俺のような卑しい、承認欲求の怪物にならないでくれ。
矛盾をはらんだ、どうしようもない孤独にならないでくれ。
そう思いながら、心の底で
「どうせ俺を嗤っているのだろう?」
と影が囁いた。
どうしようもない感情のまま、笑むしかなかったのだ。
―
公園に来たものの、待ち人はまだいないらしい
ぐるうっと見回すと、高台に、上級生らしき人がいた
こちらに優しく笑みを向けている
とても とても優しそう
そうだ、みんなが来るまで
遊んでもらえないだろうか
かっこいい やさしそうな 彼