これまでの活動

1.はじめに

私たちの会=「障害をもつ人の参政権保障連絡会」は、玉野裁判のたたかいの中から産まれた。

玉野裁判とは、1980年の衆参同時選挙において、和歌山県御坊市に住む言語障害をもつ玉野ふいさん(当時57歳)が、生まれて初めて選挙演説会に参加し、候補者の話に感動し、その候補者を応援しようと買い物のついでに商店や友人など9人に、演説会でもらったビラを配ったことが、公職選挙法違反(法定外文書配布)として裁判にかけられた。

この事件は、日本で最初の「障害をもつ人の選挙活動の自由を争う」裁判として争われ、1審有罪判決(罰金1万5,000円・公民権停止2年)、大阪高裁でも「選挙運動に関し、言語障害者と健常者との間に実質的不平等が存在する(判決文)」ことを認めながら、不当な有罪判決が言い渡された。

玉野さんと弁護団は最高裁に上告し、東京でも「玉野さんを支援する会」が広範な団体、障害をもつ人やその団体を結集して結成され、運動は広がった。世界にも訴えようと、スイスのジュネーブにある国際人権規約委員会に代表団をおくり、その代表が帰国した日、1993年8月16日に、残念ながら玉野さんは亡くなり、裁判は「公訴棄却」となった。

この玉野さんのたたかいを引き継ごうと、私たち「障害をもつ人の参政権保障連絡会」は、1994年に結成された。

2.玉野裁判のたたかいの中で学んだこと

(1)玉野裁判は、これまで個別にたたかわれてきた各障害をもつ人、例えば、聴覚障害、視覚障害、肢体障害などそれぞれの参政権保障の実態と問題点を全体として明らかにし、その問題発生の根本は日本の公職選挙法などの選挙の規制にあることを示した。

(2)日本の公職選挙法は、国民の選挙活動の自由を厳しく制限しており、行動選択の幅の狭い「障害をもつ人」は、「障害をもたない人」以上に参政権保障が多く侵害される「構造」になっている。

例えば、玉野裁判の大阪高裁の判決でも認めているように、公職選挙法では国民が自由に出来る選挙運動は、「①法定ハガキの郵送」「②法定ビラの配布」「③街頭における個々面接」「④電話での選挙運動」の4つしかない。このうち、①、②は候補者がやるものであって、実質的には③、④しかない。言語障害をもつ人は③、④は出来ないので、実質的には出来る選挙運動はない。

3.私たちが取り組んできたこと

(1)障害をもつ人の参政権保障の実態調査と問題提起

(2)国会や総務省への改善要請

(3)実際の参政権の侵害とたたかうこと

①投票所の段差調査

 1996年9月の足立の区長選挙において、電動車イスの女性から「投票所に段差があり、車イスでは入場できず、係員に持ち上げてもらって投票したとの訴えがあり、足立の選挙管理員会に要請にいったところ、足立の投票所の68%に段差があることが判明。改善を要求。

その後、東京の選挙管理委員会(1998年には東京の1,799の投票所のうち約600で段差がある、約30%)や総務省の中央選挙管理会にも実態調査と改善を要請。

②ALS患者投票権裁判

2000年、ALS(筋萎縮性側索軟化症)の患者さんが、現行の郵便投票では「自書」を前提にしており、自書できない人は投票所に行かない限り投票できないのは不当と東京地裁に裁判を提起した。私たちはこの裁判を重視し、全面的に支援し、傍聴、署名、宣伝、裁判所要請などをALS協会のみなさんと推進した。

 2002年東京地裁はALS患者の原告の損害賠償請求は棄却したものの、ALS患者が投票できない現状は憲法で保障された参政権を奪っており、憲法違反であると判決。

 これをうけて、2003年国会で「在宅投票に代理投票を認める公職選挙法の改正」が行なわれた。

③点字投票間違い問題

 2001年の参議院選挙において、兵庫の視覚障害をもつ吉田さんが、点字用の投票用紙を係員によって間違って交付され、投票が無効になった。この選挙では、参議院選挙の選挙区と比例区、それに県知事選の3つの投票が行われ、係員は参議院選挙の比例と選挙区の投票用紙を間違えて点字器に誤ってセットしたためのミスであった。投票用紙の再交付は認められず、投票は出来なくなった。吉田さんと全日本視覚障害者協議会とともに、総務省の副大臣などに改善を要請。新聞も取り上げ、その後の選挙では、点字の投票用紙に点字で選挙名を記載することを中央選挙管理会が全国に通達し、全国的      に行われるようになった。

④成年後見人制度の実態調査と問題提起

2004年たましろの郷(ろう重複生活・就労施設)の保護者から、「これまで来ていた選挙の投票所入場券がこどもに来ない」という訴えがあり、調べてみたところ成年後見制度を利用し「後見」の登録をすると「投票権」が奪われることが明らかになった。

 これは、旧「禁治産者」の規定がそのまま、成年後見人制度に引き継がれているところに大きな問題がある。障害をもつ人の自立を目的とする制度が「投票権」を奪い、さらにそのことが知らされていないことは、大きな問題であると提起した。

 その後、日本弁護士会連合会も見直しを要求。

⑤成年後見人制度投票権裁判

茨城県に住む名児耶匠(なごや・たくみ)さんが成年後見人制度を利用するようになり、      選挙権を失ったことに対して、この制度は憲法違反であるとして2011年2月1日に東京地裁に訴えた。

 弁護団は、成年後見人制度は、基本的には「財産の管理が出来るかどうか」を基準とした制度であり、選挙権とはまったく関係のない制度で投票権を剥奪するのは許されない。また、投票権は障害があるかないかにかかわらず、すべての国民に保障されている権利であり、国によって「投票する能力があるかどうか」一方的に決めつけることは憲法に違反すると主張。

 国は「成年被後見人(成年後見制度の適用になった人)は事理弁識能力がない人(意志・判断能力がない)と法律上判断されたものであり、選挙権がなくなることはやむをえない」として全面的に争った。が、弁護団の主張に反論することはできなかった。

 東京地裁は、2013年3月14日、画期的な判決を言い渡した。

 判決は、選挙権とは「国民のすべてに平等に与えられる」ものであり、憲法は国民の選挙権を制限することを原則として認めていないと指摘し、財産の適切な処分等はできない成年被後見人であっても、「選挙権を行使する能力を有する人はいる」と認めた。

 さらに「様々な境遇にある国民が、この国がどんなふうになったらいいか、どんな施策      がされたら自分たちは幸せかなどについての意見を、自ら統治する主権者として、選挙を通じて国政に届けることこそが議会制民主主義の根幹であ」り、障害をもつ人も「我が国の主権者として自己統治を行なう主体である」と述べました。そのうえで、成年後見人制度の投票権剥奪は「憲法に違反し、無効」とした。

⑥成年後見人投票権裁判を受けた法改正に際しての国会の議論

 成年後見人投票権裁判が勝訴を受けて、国は控訴したが、高裁段階で、国会の各会派による議員立法で、2013年5月公職選挙法の一部改正案が成立し、約13万6,000人の投票権が回復した。

 法改正では、不正投票の防止を目的に、①代理投票の際の「代筆役」と「投票を見守る人」の2名(補助者)について、選挙管理員会の職員など投票所の事務従事者に限定し、②病院や施設などで行う投票に際しては、立ち会い人に第三者を置く努力をするという規定が盛り込まれた。

 国会の議論では、障害をもつ人の投票をどう保障するか等の議論され、総務省は、「選挙人本人の意思に基づいて行うということと、それをいかにくみとるかということに代理投票の成否がかかっているというふうに考えています。選挙人それぞれ、障害の程度、状況は異なっております。意思疎通の方法もかなり異なっておりますので、それぞれの現場でさまざまな工夫をできるだけするということが重要である」と答弁し、法案提案者は「例えば知的障害者の方々の意思の確認、どの候補者に投票したいか、様々な形でその意思表示をおそらくなさるんであろうと思います。その意思表示が的確にこの代理投票の補助者に伝えられるといいますか、そのことは非常に重要なことでございます。家族や友人やそういう方が直接代理投票の補助者になることはできないわけでございますけれど、投票所まで付き添っていただく、投票所の中にはいることまでは可能でございます。具体的には、おそらく投票する前にその補助者の方と十分な打ち合わせといいますか、こういう形でこの投票人は意思表示をするんだということについて十二分に確認をいただいて、しっかりとその意思の反映をされた投票がしていただける、それぞれの投票所における、ある意味で厳格でなくてはならないけれども、そういう意味では柔軟なそういったやり取りが行われることが期待されますし、またそうでなくてはならな      いというふうに存じております。」と答弁しています。

⑦岐阜県中津川市の小池公夫議員の発言保障のたたかい

小池公夫議員は、2002年中津川市議会議員2期目の前に下咽頭がんによって発声機能を失い、当選後、議会での発言について代読を要求した。しかし、市議会と議会運営委員会は代読を認めず、本人の意見も聞かずに「音声機能付きのパソコン」を利用するように決めつけ、これで発言保障はした、それを利用しないで代読を要求するのはわがままであると2期目の議会ではいっさい代読を認めなかった。

私たちの会に、訴えがあり、 2005年中津川市議会に私たちの会の意見書を提出、代読を要求。その後岐阜県弁護士会も勧告を行ったが、改善されず、小池さんは3月に議員辞職したが裁判を提起。

 岐阜裁判は、「障害者に障害補助手段を使用するように勧めること自体は何らの不都合もないが、これを強要することは、それがいかに障害者にとって有益であったとしても、許されない」としながらも、任期後半については「権利侵害はない」という不当なものであった。

 昨年、名古屋高裁判決は、「議員が議会で発言することは、表現の自由・参政権として保障されており、議員としての最も基本的中核的な権利」であることを認め、「地方議会においてはその議事進行等について広く地方議会の自主性自律性は認められているが、議員の発言を一般的に阻害し、その機会を与えないに等しい状態におくことは、議会の自主性自律性の範囲を超える」と判断し、小池さんに300万円の損害賠償を命じた。


4.参政権の重要性…議会制民主主義の基礎

(1)選挙は、主権者である国民が政治に参加する重要な機会であり、議会制民主主義の基本です。

また、選挙で国会議員を選ぶことによって、国会がつくられ(立法)、この国会で内閣総理大臣が選出されて政府を組織し(行政)、この内閣が最高裁裁判官を選ぶ(司法)ことになり、まさに選挙は立法権を生み出し、行政・司法機関を組織する基本となる。

日本国憲法

前文 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の戦禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。

41条(国会の地位)

国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。

65条(行政権と内閣)

 行政権は、内閣に属する。

67条(内閣総理大臣の指名)

内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。

76条(司法権)

すべての司法権は、最高裁判所、下級裁判所に属する

79条(最高裁判所)

 …裁判官は、内閣でこれを任命する。

 その国の権力に国民が従うためには、その権力が選挙によって正当に選ばれたものであることは必要。その正当性は、「正当な選挙」によってのみ裏付けられる。=「正当に選挙された国会における代表者」

だからこそ、選挙権は日本国民に等しく与えられており、国民に正当な選挙を要求する権利がある。

(2)正当な選挙とは、自由であり国民の意思と選択が正しく反映する選挙

そのためには、①選挙人の自由な投票が保障されること(投票する権利)、②投票するためには、政策が実績、また候補者や政党について必要な、豊かな情報が保障されること(情報を知る権利)、③さらに国民が自ら共鳴する政策を実現したり、支持する政党や候補者の当選させるために、他の人に働きかけることが保障される必要がある(選挙運動の権利)。

5.障害をもつ人と参政権

障害をもつ人は前記の3つの権利に重大な侵害がある。しかし、まだ充分な取り組みになっていない。それは、障害をもつ人にとって目の前の「切実な課題」が山積しており、働く権利、豊かに生きる権利等実現しなければならないことが数多くあるからです。

 しかし、 これらの「切実な課題」を実現出来るかどうかは、政治に関わっているのではないか。その政治に主権者である私たちの声を正しく反映する権利が参政権。

 参政権保障を求めることは、私たちの「切実な課題」を実現するための基本ではないだろうか。