(最終更新:24/8/7)
※以下はネット情報で検索したとかレベルの大雑把な理解を含みます。専門家でも何でもないので普通に間違ってる可能性があります。
一応「航空力学の基礎 第3版」や検索で出てきたウェブサイト等を参考にしているのですが、つまみ食い的に参照してるだけで本などは誤読してるたりすることも多いので、仮にここの説明が間違っていることがあっても本が間違っているわけではないことは申し添えておきます。
「翼のシンプル実装」では翼の一番基本を説明し、前の「翼のちょっとまともな実装①」では、実際の翼型データに近いグラフカーブから揚力・抗力・モーメントを取ってきて計算するように変更しました。
しかし、実際の翼型データから揚力・抗力・モーメントを計算したとしても、求めだされる力は実は実際の翼と同じ結果にはなりません。
実際の翼に働いている影響がまだ抜け落ちているからです。
それが「3次元翼」的な影響。
「翼のシンプル実装」の方でつかった揚力の計算式をもう一度載せてみます。
(1/2) * p * ( V * V ) * S * Cl
この揚力の計算式自体は3次元翼になっても同じです。
また既に使用した「翼面積」は翼の2次元断面ではなく3次元的な幅なので、ある意味では既に3次元的に力を求めていたはず。それなのに実際は正しくないとはどういうことなのでしょうか?
3次元翼として考えようとした場合、何が足りないのか?何が間違っているのか?
というと、赤くした「揚力係数」の部分。
実はこれまで実装してきたのは、「2次元翼」という考え方に基づいた力の計算です。
2次元翼というのは、2次元的な翼断面の周りに発生する力(揚力・抗力・モーメント)のみを考えたものです。
これを説明するには「揚力とは何か?」みたいなところからの話になるのですが、あまり深掘りすると手に負えない(というか自分がそこまで良く分かってない)ので、ここでは簡単な説明だけ書きます。
(揚力については、こちらの動画(※英語)が参考になりました)以下は揚力の説明の切り口の1つに過ぎませんが、
翼の2次元翼的な断面を考えたとき、翼断面が前から風を受けつつ正の迎角をとり始めると、その2次元翼断面周りには時計回りに循環するような力が生まれるらしいです。
前からの気流が上面では加速され、下面では減速される
圧力差が揚力を生む
実際には前から強い風が来ているので、前からの風に逆らってまで空気が循環することはできないのですが、しかし「この循環しようとする流れ」が「前からくる風」とぶつかり合うと、そこに上下非対称な力が生まれます。
ベルヌーイの定理では、流速が速いところは低圧になり、逆に遅いと圧力が上がるそうです。
流速が速くなった翼の上面は気流が加速することで圧力が低くなり、下面は減速することで圧力が高くなる。その結果揚力が生まれる、というのが1つの説明です。
宇宙船に穴が開くと、中のものが真空の宇宙へと吸い出されるという話がありますが、物体は圧力の高いところから低いところに流れるので、真空まではいかなくとも飛行中の翼は、常に「上に吸われている」と表現できるかもしれません。
野球やテニス等でボールにスピンをかけると空中で軌道が変わるのも、ボールを回転させることでボール周りの空気に循環を意図的に作り出した結果、揚力が働くからです。翼はボールと違い、前からの風と迎角さえあれば実際に回転していなくても循環を生み出すことができます。
翼の場合、循環しようとする流れは翼の迎角が大きくなるほど強くなるので、揚力も増加します(※ただし迎角が特定の角度を超えると流れが剥がれてしまう=失速)。
上では翼の断面で図にしましたが、実際には断面は揚力の効率をよくするためにああいう形になっているだけで、実は断面が翼っぽい型でなくても迎角があれば揚力は生まれます。
実はただの板でもいい(効率は悪い)
さまざまな翼型(Airfoil エアフォイル)は、こうした翼周りの循環の効率が良い形を見つけ出すために色々実験した結果生まれたものです。
ネット上では揚力係数・抗力係数・モーメント係数がグラフ化されたデータが見つかりますが、こうした翼型データというのは、2次元翼としての翼の性能をデータ化したものです。
(例:①NACA0012の翼型データ ②NACA23012の翼型データ)現在はXFOILのようなシミュレーションソフトで計算されたデータも多くみられますが、今ほどコンピューターが発達していなかった時代、実際に翼型の模型を作って風洞の中で実験データを取っていたころは、後に説明する3次元翼的な影響が入り込まないよう、仕切り壁などを使ってデータがとられたようです。
つまり、
前の項までの実装は、2次元翼のデータ(揚力係数など)を、3次元の面積を持つ翼にそのまま当てはめてしまっていた
ということです。
考えてみれば翼の断面が同じでも短い翼と長い翼では全然違う性能になったりするはずなので、長さの影響を除外しなければ断面の性能なんて求められないですよね。
では3次元翼とは何か?というと、翼に幅がある時の影響を加味したものです。
2次元翼は断面しか存在しない世界での力を計算している
翼に幅があると、2次元翼の時とは違う影響が生じる
現実世界の翼にも必ず幅があるので、3次元的に力を計算する方が実際の翼に近いはずです。
結論から言うと、3次元翼になると、揚力が減って抗力が増えるというのが大まかな説明です。
翼の面積と翼幅から計算される、アスペクト比(Aspect Ratio)という値があります。これはいわば「翼の細長さ度」を表す値みたいなもので、細長い翼の方がアスペクト比が高く、横に短い翼ほどアスペクト比が小さくなります。
※画面のアスペクト比とかと同じ概念です
そして細長い翼の方が2次元翼に近い理想的な効率を出す翼断面の部分が多くなり、逆に翼が短くなると損失が大きくなり効率が悪くなるようです。
グライダーのように極端に長い翼なら2次元翼データをそのまま適用して計算しても差が少ないかもしれませんが、普通の翼はそこまでアスペクト比が高くないので、2次元翼データをそのまま適用してしまうと、同じ面積の実際の翼よりも過大な揚力が発生する結果になってしまいます。
翼が短くなればなるほど3次元的な影響が大きくなり
2次元翼の理想的な揚力傾斜からどんどん離れていく
(でも失速角が遠くなって失速しにくくなるという利点がある)
※図のカーブは適当です
飛行機の翼のアスペクト比の一例。(モデルはC172もどきです)
低AR翼ほど、翼端渦(後述)の影響が相対的に大きくなる
[ ASH 31 Mi Erstflug - Manfred Münch / CC BY-SA 3.0 ]
AR=33.5の細長い翼をもつグライダー(Wikipediaより)。
翼の効率を良くするために、グライダーや人力飛行機は長い翼を持っているものが多い。
このような、翼に3次元効果が加わると2次元翼よりもいくらか揚力が減るという結果が顕著に表れるのが、尾翼です。なぜなら尾翼は大抵主翼よりも短く(アスペクト比が小さく)なっているからです。
=尾翼は主翼よりも、同じ面積あたりに発生する揚力がさらに小さいと言えます。
では尾翼に3次元的な影響を加えたとき、フライトシミュレーションとしてはどういう結果になるか?というと・・・
感覚的な話ではありますが、舵の効き、特にエレベーターやラダーの操作感に程よい「あそび」が出ます。
2次元翼ベースの揚力係数 × 翼面積をそのまま適用してフライトシムを作ると、尾翼の揚力が正にも負にも過大すぎて風見鶏効果が効きすぎてしまいます。
尾翼の揚力が強いためにエレベーターやラダーの効きは喰われて弱くなってしまい、舵もあまり効かなくなるし全体的にカタい感じのフィーリングになります。
空気の中を飛んでるフワフワ感がないというか・・・嘘くさい感じ。
逆にアスペクト比の効果で尾翼の揚力が適度に減っていると、尾翼が常時発生している揚力に対する動翼の力が大きくなり、風見鶏効果によるダンパーも程よくマイルドになることで、操作感がフワッとした感じになります。
あくまで個人的な感覚に基づいた話ですが。
こうした効果をフライトシミュレーターに取り込む簡単な方法としては、今まで通りに2次元翼ベースの係数カーブから値を引いてきつつ、パーセンテージをかけて減衰を近似するというやり方があります。
アスペクト比がどれくらいのときに2次元翼に比べてどれだけ揚力が減衰するかというのは大まかに求めることができるため、2次元翼の揚力係数値に対してその乗数をかけるだけです。
つまり揚力係数に乗数をかけて引き下げているわけですが、このやり方だと低AR翼のもう一つの特性である「失速しづらくなる」という部分までは再現できません。
そこで揚力係数だけでなく、迎角の方にも乗数をかけて実際の迎角より遅延する補正をかけてやれば、「揚力傾斜の減衰+失速角の遅延」という2つの効果をある程度同時に再現することができるんじゃないでしょうか。
とはいっても、実際にはこうした3次元的なパラメーターの変化というのは単純に乗数をかけるとかいうだけでは大雑把な近似にしかならないので、ちゃんと計算しようとしたら揚力線理論・揚力面理論などに基づいた計算が必要になります。
ここからは、前述のような効果が「なぜ生まれるのか?」という航空力学の原理みたいな部分を、調べたことと合わせて自分なりのイメージで考えてみた、という部分です。原理とかそういうのは興味ないという人はこの先は読み飛ばしてください。
※正直言ってこのあたりはよく理解できてなくて、自分なりに「こういう理由でこういう効果が生じてるんだな」と自分を納得させるために書いたまとめ帳みたいな部分です。
思いっきり間違っている部分が含まれているかもしれないませn。
翼端渦とは何かというと、その名の通り翼端にできる渦のことです。
先ほど載せた、2次元翼の圧力差の図を再掲。
翼上面は低圧になり、下面は高圧になる
前から見るとこんな感じ
この圧力差は、金属でできた飛行機を浮上させるほど強い力なので、本来なら空気は高圧の方から低圧の方にものすごい勢いで逃げたがるはず。
しかし翼はずっと前進していて、空気はもちろん翼を下から上にすり抜けることなどできないため、下面を通過中の高圧の空気は、壁一枚隔てた上の世界に低圧の空間が存在するということすら知らないまま、翼後方に押し出されていきます。
しかし逃げ道のある翼端部は別。
翼端は邪魔をする翼が途切れているので、上面の強烈な吸引力によって下面の空気が吸い上げられた結果、
翼を迂回して上面に回り込むようなムーブメントが生まれます。
とはいえ飛行機は前に進み続けていて先に行ってしまうので、流れ出た翼端渦は「回り込もうとする勢い」でその場でくるくる回ったままに。
これが横向きの竜巻のような乱気流として空中に長いあいだ残るので、後続の飛行機が巻き込まれて事故の原因になることもあるとか。
それで、この翼端渦が何かというと、先ほど見てきた「3次元翼としての減衰効果」を生み出す主役の一人であり、揚力を減らして抗力を増やすという3次元的現象を生み出す主犯格であるという話になるわけであります。
↑この図のように下面の空気は翼端渦によって翼端側に引き寄せられ続けるが、翼の後縁にたどり着く前に翼端渦に合流できるのは翼端近くの空気だけで、それ以外のほとんどの空気は、翼端にたどり着く前に翼の後縁に到達して流出してしまいます。
こうして、翼端渦と同じ回転の力を持ったプチ翼端渦みたいなやつが翼後縁の至るところから流出しているような感じで、翼下面の気流が翼端側に引き寄せられるだけでなく、翼上面の空気にも翼根の方に向かう流れができるっぽいです。
こうして翼の各後縁部から流れ出た気流とそれを飲み込んで巨大化していく翼端渦が、全体として巨大な回転する流れみたいなものを作りだし、左右で逆方向に回っている翼端渦が巨大な渦の鏡像みたいな感じに。
こんな感じらしい
翼端渦の真似をしてるような回転を持ったものすごく小さい渦が隙間なく連なって流れ出ているようなもので・・・
こんな流れができているような感じ?なんじゃないかと(※よくわかってないので推測イメージです)
このぐるぐる渦巻き流れが結果的に、翼の気流をちょっと引き下げるような感じに働きます。
実際には巨大な渦は飛行機の後ろにできているが、飛行機にまとわりついてる気流も含めて全体がその渦に後ろ髪を引かれる。その結果、翼周りの気流も渦の下向きの気流の部分の影響を受けることになります
このように、翼端渦に巻き込まれた空気が作り出す上下方向の速度は
吹き下ろし(ダウンウォッシュ)と呼ばれます。
左図のように、やはり翼端近くになるほど吹き下ろしの影響が大きい(流速が速い)そうで、そのことからも、長い翼は揚力の損失が少ない分効率的であることがわかります。
ダウンウォッシュによって、翼の迎角が減ります。
迎角が減るということは、その分だけ揚力が減るということ。
※多分こんな感じか・・・?という(誇張された)想像図です。
更に揚力が減ることに加え、抵抗も増えることになります。
「翼のシンプル実装」で最初に揚力を説明した部分で、揚力ベクトルは気流に対して直角に発生すると書きました。
これがダウンウォッシュによって抵抗の原因となるとか
揚力ベクトルは気流に対して直角なので・・・
揚力ベクトルもちょっと後ろ向きになり、揚力の一部が抵抗となってしまう
この辺りは力の因果を逆に捉えていたり、同時発生する現象を無理に順序だてて説明している可能性もありますが、大まかにはこういうことらしいです。