天体衝突は生命を育む(!?).

天体衝突が作り出した(かもしれない)「生命のもと」

地球や火星への天体衝突速度は秒速10–20 kmに達します. 左の動画は原始地球への天体衝突を想定したしたガス中での高速度斜め衝突実験の様子です. 衝突点下流に向かって光り輝くプラズマ雲が運動していく様子がわかります. 撮影に使用した高速カメラは人間の眼と同じく可視光線に感度を持っています. 白く輝いているプラズマ雲は太陽に匹敵する温度まで加熱されたことを示しています.


窒素は生物を構成する重要な元素の一つです. 地球ではN2が大気の主成分であり, 豊富に存在しています. しかしながら窒素原子が三重結合で結びついたN2は化学的に安定なため, そのままでは使用することができません. 上の動画でみたように天体衝突後には周辺大気がプラズマ化してしまいます. もし衝突天体がリュウグウのような炭素を含む炭素質小惑星であれば, 炭素と窒素が結びつきシアン化合物が合成された可能性があります. シアン化合物は人体には猛毒ですが, 例えばシアン化水素が重合すると核酸塩基(RNA)を作ることが知られており, 生命前駆物質と言われています. 私たちは以前, 大気中での斜め天体衝突を模擬する実験を実施し, 発生するシアン化水素量を計測しました. その結果, 条件が揃えばシアン化水素が重合し得るくらいまで高濃度になることを示しました[Kurosawa et al., 2013, Origins of Life and Evolution of Biospheres]. また周辺大気に含まれる酸素や二酸化炭素, 衝突天体に含まれる岩石中の酸素と大気中の窒素が反応すれば, 窒素酸化物(NO, NO2, N2Oなど)を合成するでしょう. このような窒素はやはり反応性が高く生物にとっては栄養となります(※1). 

将来の展望

私たちは天体衝突は惑星表層に「栄養」を提供する宇宙生物学上の重要な地質過程の1つであると考えています. この観点で研究を開始しようと研究費を申請した段階なので, ここにはまだあまり詳しく書けません. 研究室を訪ねてきてくれれば概要をお話しします. 宇宙生物学の研究に取り組んでみませんか?

参考文献

Kurosawa, K., S. Sugita, K. Ishibashi, S. Hasegawa, Y. Sekine, N. O. Ogawa, T. Kadono, S. Ohno, N. Ohkouchi, Y. Nagaoka, and T. Matsui (2013), Hydrogen cyanide production due to mid-size impacts in a redox-neutral N2-rich atmosphere, Origins of Life and Evolution of Biospheres, 43, 221-245. https://doi.org/10.1007/s11084-013-9339-0

脚注

※1. 雷が多い年は作物がよく育つことが経験的に知られています. これは雷放電で作られた窒素酸化物が雨に溶け込み, 畑に窒素を供給したことが原因であると考えられています.