図画工作・音楽・読み聞かせ

【ポイント】
 本事例は図画工作科の題材の中に音楽領域の活動を取り入れた領域横断型である。
 一般的な子どもの描画発達によると,小学校の高学年になると心身の成長に伴って子どもは写実的な絵に対するあこがれをもつようになる。しかし,その一方で,自分の思った通りに絵が描けないこと,写実的に描く技術が追い付かないことなどを理由に,絵や図画工作科に苦手意識をもつ子どもが増えると言われている。
 本事例は,そのような小学校高学年の子どもに対して,造形活動音楽読み聞かせのコラボレーションにより,子どもの自由な表現力や豊かな感性を育てる図画工作科の学習を実現することを目指すものである。

1)題材の全体像

本題材は,音楽のメロディーを色や形で表現する。まずは『ピーターとオオカミ』の物語や楽器の担当などは子どもに知らせずに,登場人物のメロディーの音源を繰り返し聴かせる。子どもは,楽器の音色や種類,特徴,メロディーの高低や強弱など,既習内容を思い出しながら感じ取る。印象や考えたことを,色や形,さまざまな絵の具の技法を使って自分なりに工夫して表現する。

2)授業前の事前準備

実践前に,エリック・カール『うたがみえるきこえるよ』(偕成社,1981年)などの音や音楽を扱った絵本の読み聞かせや,音楽の授業でオーケストラの演奏の鑑賞や,オーケストラを構成する楽器について扱っておくことも有効である。

3)題材名
「メロディーを色と形であらわそう」
 A表現(1)イ,(2)イ,B鑑賞(1)ア,〔共通事項〕(1)ア,イ


4)想定される学年
小学校高学年(5・6年)

5)授業で使用するもの
楽器の音源(楽器),水彩用画用紙,水彩絵の具,歯ブラシ,金網,ストロー,布,ティッシュ,新聞紙,スポンジ,授業用ワークシート  (そのほか必要に応じて)

指導計画 (全2時間)

指導計画②
 水彩絵の具を使ったいくつかの描画技法の紹介と提案に関連して

児童の実態に即して、いくつか技法をピックアップしてみてはいかがでしょうか。

スパッタリング
スタッカートなど音の軽さ、細かい音符の動き、軽やかな音楽の表現に向いているかもしれません

デカルコマニー
べたとした絵の具の表現から、テヌートなど少し音を残すような音を表現できるかもしれません

にじみ
色の広がりからビブラートや音の響きが表現できるかもしれません。色が混ざって別の色が生まれるので、和音などを表現するのに向いているかも。
教材絵本もにじみの技法を使ったにじみ絵で描いています

かすれ
かすた感じの音のする楽器の音
音のスピード感や音の強さや大きさが表現できるかもしれません。金管楽器など遠くに響く楽器に向いているかもしれません

スタンピング
描くことに苦手意識がある子には、スンプを使用してもらうことで、簡単に音楽のリズムを表現できるかもしれません

ストリング
絵の具で色を付けたたこ糸を画用紙にマスキングテープなどではりつけてはじいたり、鉛筆などに巻き付けて紙の上を転がしたり…
打楽器などの表現に向いているかもしれません

マーブリング
マーブリング紙を用意しておいて、自由に切り張りできるようにしておくと使いやすいかもしれません。(偶然にできた形になるので)メロディーの裏で響いている音や旋律などを表現できるかもしれません

ドリッピング
下向きに垂らしたり、飛ばす向きを音楽に合わせて調整すれば音程が上がったり下がったりする様子を表現できるかもしれません。金管楽器など色と形の工夫で表現できそうな気がします

指導計画③
 抽象画の参考作品 
子どもたちにとって初めての抽象画でも、苦手意識なく取り組むことができるように、いくつか鑑賞に使えそうな作品を紹介いたします。


ワシリー・カンディンスキー
《コンポジションVIII》1923
ニューヨーク、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

Step1: この絵を見て気づいたことを
なんでも教えてください

Step2: どんな楽器の音が聞こえてきそう?

 右上が弦楽器みたいに見えるよ。

色のついているところを指で押さえなさいってことかなぁ。

打楽器かな?

4回どんどんどんどんってたたいている感じ?

半円の色が違うのは、音が違うのをあらわしているんじゃないかな。

音が大きくなって、そのあと小さくなるのかな?

音程が上がって下がるのかも?ドレミファソソファミレド・・・って感じ

トトトトトって細かい音が聞こえそう。全音符というよりも八分音符とかかな?


1つの音の響きを表しているのかもしれないよ。

 じゃあ、黒いところは音がない休みってことだね。
楽譜の休符だね。

 これが楽器の形を表しているとしたら・・・チューバとか、ユーフォニウムとかの金管楽器かな‥?

楽器に息を吹き込んで楽器の音が鳴ったのが赤いところ、観客の耳に届く色は白なんじゃない?

指導計画④
 登場人物が登場する際の音源

本提案授業で活用する音源です。
本来はオーケストラで演奏する交響曲ですが、スコアから各登場人物が登場する際に演奏されているメロディーを(登場人数分)抜き出したものです。演奏は、立命館大学交響楽団のみなさまです。

バイオリン(Vn)
ピーターの登場シーン
音源
楽譜

フルート(Fl)
小鳥の登場シーン
音源
楽譜

オーボエ(Ob)
小鳥の登場シーン
音源
楽譜

クラリネット(Cl)
ネコの登場シーン
音源
楽譜

ファゴット(Fg)
ピーターのおじいさんの登場シーン
音源
楽譜

ホルン(Hr)
オ狩人の登場シーン
音源
楽譜

ティンパニ(Tim)狩人の登場シーン音源
楽譜

→上記、登場シーン以外の音源については、こちら

①小学生の参考作品

6-1の子どもたちの作品  左から順番に

①ピーター ・・・草原を歩いているイメージだったようです。子どもたちのイメージと絵本がぴったり合致していました。
②小鳥・・・明るい色で小鳥が飛びまわっているイメージ。
③アヒル・・・最初少し怪しい感じの音が明るい感じになっていくメロディーを暖色と寒色で表しました。
④ねこ・・・のんびり、おっとりした感じが優しい色合いに表れています。
⑤おじいさん・・・ファゴットの低い音が少し暗い感じに聞こえたようです。
⑥オオカミ・・・音符が上下に動くのを手のひらの上向き下向き、ギザギザの線などで表現してくれたようです。
⑦狩人・・・近くで見るとローラーのかすれなどをつかって、打楽器のスピード感を表してくれています。

6-2の子どもたちの作品 
順番は上記と同じ。

1組と2組、全然違う絵ができましたね。
2組さんの方は心象風景のような作品もできています。


1組の子どもたちの作品を絵本動画にしました。
↑こちらクリックください

協力:つくば市上郷小学校 飯塚先生





②大学生の参考作品

試作1 オーボエ(アヒルの音楽)のメロディーを聞いて描きました

音楽をきいてイメージマップに書いていく。その後画材を配布し絵にしてみました。

試作2 フルート(小鳥の音楽)のメロディーを聞いて絵を描きました

試作3 ホルン(狼の音楽)のメロディーを聞いて絵を描きました。

もし、実践された方がおられましたら、contact us「ご意見・ご感想についてはこちら」からぜひ実践についてや感想を教えてください。

ページ責任者 吉田 奈穂子
個人HP

一部、科研費による成果です


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