ときおり夢の中に大人の男の人が現れる。
私の良く知っているこの島の大人とは違う、頼りなさそうだし、体もそんなに強くない。いつもぼさぼさの髪の毛で、眠そうな目をこすっている。
そんなわけでいつもふらふらと歩きながらずっと考え事をしている。
最初はこの間抜けな感じの人が苦手だった。色々な人に迷惑をかけて、いつもぺこぺこと頭を下げている。
だけど、彼の行っているお仕事は、たくさんの人を救うものだった。
「どうだい調子は? まだ痛むかい」
病室で彼はベッドに横たわっている子供に、気さくに話しかける。
「うん、まだちょっと痛いけど。だいぶ良くなってきたかも……」
「あれ、まだ痛む!? おかしいなあ、俺の調合間違ってたかな」
彼はぼりぼりと頭をかきながら、怯えた顔をする。
「先生。良くなってきてるって言ってるじゃん、前みたいに痛くて痛くて泣きそうになることもないし、大丈夫だって」
「で、でもねえ。俺の見立てではもう痛みは消えるはずなんだけどなあ、面目ない」
「謝らないでよ先生。実は失敗した薬を飲まされてて、この後急激に体が痛くなりそうじゃん」
「そ、それはないから大丈夫」
「じゃあ、それでいいんだよ。って僕が先生みたいじゃんか」
子供はそう言って笑う。私も一緒に笑ってしまった、先生と呼ばれた彼だけはいつも困ったように笑っている。
彼の夢はいつもこんな感じ。
この人は、お医者さんだった。お薬を作ったり、手術をしたり、この島の人を何人も救った。
そのくせ完璧主義者でいつも困った顔をしていて全く自分のことを誇っている様子はない。沢山の人を救うことしか考えていなくて、自分のことは見えていない。
ある日の夢の中の彼は、島に住んでいる女性を必死に救おうとしていた。
「先生ありがとうございます」
「ありがとうじゃないですよ、まだ病気は治ってないんだから、診察させてください」
「大丈夫。先生を恨みはしませんよ、天命だと思ってます」
この女性は彼の技術や薬で救うにはもう手遅れだった。彼女に死期が迫っていることは知識のない私にもわかってしまった。
「何言ってるんですか、俺が救ってみせますよ。大船に乗ってください」
彼は不器用な笑顔でそういう。女性もそんな彼の必至な笑顔に笑みをこぼす。
しかし、やはり彼女は数日後に亡くなってしまう。すごく悲しい夢で私もひどく落ち込んでしまった。
その日の夜、彼は病室で一人になった時、ずっと我慢していた気持ちがあふれて静かに泣いた。
「俺は……また救えない……」
何が彼をそこまでさせるんだろう。この島の人のため、彼は自分をないがしろにして必死に向き合おうとしている。
いつの間にか私は優しい彼のことが好きになっていた。
この島は、私が住んでいる島に似ている。きっとこれから先の話なんだろう。
でも、この島に私はいない。いったいどこにいるんだろう?
私がここにいたなら、彼の背中に寄り添って慰めてあげたいのに。
「先生! シンタ先生! ありがとう」
また一人子供が元気になって、病院を出ていく。そんな子供を彼は嬉しそうに手を振って見送る。
私はそんな彼をときおり夢に見ている。
背が高くてひょろひょろで、ぼさぼさの黒髪に白髪が少し混じるくらいに苦労していて……
それでもこの島でいちばんやさしい「シンタ先生」を。