俺は一つの世界を進んでいて、自分の見たままの世界しか感じ取れない。
だからこの時、緩やかな黄昏の裏で、多くのおぞましい世界を見ている人がいたことを認知できなかった。
何もかもが書き換えられていく揺りかごの上で、俺はただ餌を享受しているだけだった。
愛情と、破壊が同時に存在しているのを知りもせず――
◆◆◆◆
「ふむ」
アラタは満足げに机の上を見回す。
そこには、いくつかの皿がありその上に色のない水、紫色の水や、少し茶色い粉など色々なものがのっている。
隣のかごにはネズミが入っていて、眠っている。アラタはそれを見てくつくつと笑った。
「ふっふっふ、こっちの方が効果があるみたいだ」
アラタはそのネズミを確認しながら、茶色い粉の入った皿を持ち上げる。
この秘密基地には、実験できるような器具はないのでほとんどが見様見真似だった。料理酒とか水とかすり鉢なんかを使って原始的にやったものだが、うまくいった。
いずれ本格的な実験のために、器材を調達しないといけないなとアラタは思った。
島で発見されたニセモノのアザミは、ホシの食料である。
それはいったいどんな味がするのだろうと、アラタが食べてみたのがこの実験の始まりだった。
少し食べてみたが何の変哲もない花で、うまいものではなかった。
しかし食べた瞬間に、ひどく眠くなり倒れてしまいそうになった。
その眠気は10分ほどで収まったのだが、おかげでいつも使っていたお気に入りのカップをひとつ割ってしまった。
それはそれでショックだったのだけど、それ以上にアラタは興奮した。
これって眠れる薬が作れるんじゃ、それがアラタの知的好奇心に火をつけたのだった。
かごに入っているネズミはホシが捕まえてきたものだ。
アラタがアザミから作ったいくつかの水溶液をどう試すかと考えていた時に、ホシが持ってきたのだった。
あの日、アラタの傷をホシが直してから、言葉で話さなくてもホシには気持ちが伝わるようになっていた。
今はまた鳥の姿になって、机の本の上にとまって眠っている。
「うふふふふ」
「ご機嫌だね、アラタ君」
「ああ、これでまた一つ実験が進んだぞ」
「ふーん、それでこれって何に使うのかな?」
「うわっ!」
急に隣にカエデの顔が現れたので、アラタは飛び跳ねた。
「カエデ……いつからいたの?」
「ずっといたけど、シンタ君何度も呼んだけど気が付かないんだもん」
時計を見ると実験を始めてから2時間ほど経っていた。
我ながら、こんなに周りが見えなくなるなんて……それほどまでに実験は楽しかった。
「それで、シンタ君これって睡眠薬? 何かに使うの?」
「何に使うって……それは……」
そこではたと気付いた。この研究をやって何か意味があるのだろうか?
ただ楽しいからというか、急に沸いてきた衝動のまま実験を進めていた。
ただ、カエデに楽しいからやっているなんて言うと子供みたいと笑われてしまうだろう。
何とかえすか、必死に考えた結果……
「それは秘密だ」
と答えた。
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