もぎ すず(茂木 鈴) 公式
Suzu Mogi Official Site
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少年の帰郷
本作品は、『ホーンバスターズ』の特典SSになります。
メックル・ワンダーが大型のホーンを退治し、行方不明のユッケ少年も無事、ミストタウンに戻ってきた。
昆虫型のホーンに襲われ、ミスとタウンの町は崩壊してしまったが、生き残った人々の手により、これから復興にむけて歩み出すことだろう。
「メックル殿も行ったことだし、ワシらもいくとしようか」
「うん!」
ガストン・クニリッジは、ミストバレーで保護した少年クロール・ロデンを故郷の町まで送り届けることにした。
「それでお主の町はどこにあるのだ?」
「えっとね、ミストタウンよりずっと西なんだけど、方角はよく分かんないんだよね」
「西か、それなら……ん? ミストタウンの西……だと? 西にはミストバレーがあるではないか」
「そうなんだよ。本当はこの町に来たかったんだけど、あの谷を渡ろうとして迷っちゃったんだ」
たしかにメックルとガストンは、ミストバレーの底でクロールを見つけた。
なぜあんなところで迷子になったのかと二人は思っていたが、無謀にもあれを横断しようとしたらしい。
「谷の横断は止した方がいいな。では、観光用の浮遊船を使うか」
「ああ~……おいらの住んでいる町って、浮遊船のコースに入ってないんだ。だから、町に行くにも出るにも、浮遊船は一切使えないんだ」
「むっ、そうなのか? 浮遊船が来ないのは死活問題であろう」
ホーンは、都会や辺境の別なく現れる。
だが都会と違って、辺境の……それも町と町の間に現れたホーンを狩るような物好きはいない。
別の町へ移動するといっても、その道中でいつホーンに遭遇するか分からない。
一般の人々にとって、それは命がけの行為なのだ。
「おいらの町……行くの、嫌になった?」
「馬鹿を言うでない。浮遊船が飛ばないならば歩けばいいのだ。多少時間がかかるが、それも一興。よし、出発しようぞ」
ガストンは、クロールの心配を笑い飛ばした。
人のいない荒野を都合六日かけて、ガストンとクロールは歩いた。
「あっ、見えてきたよ。あれがおいらの町だ」
「ふむ。たしかに小さな町であるな」
「前は、近くの山で鉱石を掘ってたみたいだけど、もう大分前に掘り尽くしちゃったんだって。だから町って言っても、村みたいなもんなんだ」
行政の区分としては町だが、住民は少なく、全体の規模は村レベルらしい。
「観光の目玉でもあれば違うのであろうが、ここは不便すぎるな」
「そうなんだよねえ。今じゃもう、町の人はみんな知り合いみたいなものかな」
町の規模が小さく、人の出入りがない。
それゆえ、住民全体で一つのコミュニティを形成しているらしい。
二人が町に近づくと、町民がクロールに気付き、慌てて町中に入っていった。
「お主たしか、バスターズになるために勝手に出て行ったのだったな」
「……これ、やっぱり怒られるパターンかな?」
「うむ。両親を心配させたのだ。それくらいは甘んじて受けるべきだな」
「やっぱりかー」
クロールがため息をついていると、町の中から大勢の人が出てきた。
「それでも見よ。お主の帰りを出迎えておるぞ。ほれ、行ってやるがよい」
「ええっ~、恥ずかしいよう」
クロールは、バスターズになろうと思って家を飛び出した。
バスターズ養成所は都会にしかない。ゆえにクロールは、浮遊船が発着する一番近い町を目指した。
クロールの夢は迷子になったことで大幅に狂い、都会に出るどころか最初の町にたどり着く前に潰えてしまった。
そのせいだろうか。クロールは中々、駆け出せないでいる。
ガストンはクロールの背中を押してやろうと考えたそのとき……。
「いたぞ、人さらいだ!」
「よくも町の者を!」
そんな声が聞こえてきた。
「ぬ? 人さらいだと!? どこだ?」
ガストンは左右を見回す。
いつでも対処できるよう、背中の金棒を抜いた。
「コイツ、抵抗するつもりだぞ」
「やっちまえ!」
町民たちが武器を持って、ガストンに襲いかかった。
「人さらい、どこだっ! このガストンが正義の鉄槌を……痛っ! やめい、やめんか!」
町民たちが手にした棒で、ガストンを殴る、殴る、殴る。
「こいつ、硬いぞ」
「どんどん行け!」
「人さらいを許すな!」
町民たちの行為は、徐々にエスカレートしていく。
どうやら家出したクロールだったが、人さらいに拐かされたと思われているらしい。
「ええいっ、やめんか!」
ガストンの大声が飛ぶ。
「あ~あ……おいら知らないっと」
クロールは、後ずさりしながらガストンから距離を取る。
「このまま押し込め!」
「勝利は近いぞ」
ガストンが大声をあげたことで、町民たちが勝利を確信してしまった。そして……。
「やめろと、言うておろうがぁああああ!」
ガストンがキレた。
「ふんばぁああああ」
「ひょっぽおおおおお」
一人、また一人と、町民がガストンの金棒に吹き飛ばされていく。
「……ひぃっ」
周囲を取り囲んでいた町民たちは、あまりのことに硬直してしまった。
だがガストンは止まらない。
「んがああああ」
「んべええええ」
「ばあああああ」
彼らは踏んではいけない尻尾を踏んだのだ。この結果は当然と言えよう。
キレたガストンは、周囲にいた町民すべてを吹っ飛ばしても止まらなかった。
クロールが説明し、ガストンに対する誤解が解けるのはまだ先である。いまはまだ……。
「んべええええ」
「ぎゃああああ」
何事かと様子を見に来た人たちが、今度は餌食になっていた。
教訓
物事は、よく見てから判断しましょう
〈了〉