もぎ すず(茂木 鈴) 公式
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仲直り?
本作品は、『共立宇宙軍 1』の特典SSになります。
「なあゲイン、喧嘩の原因はなんだったんだ?」
共立宇宙軍結成式の直前、ゲインが激昂し、カーマインがそれを煽ったことで、多くの士官を巻き込む大喧嘩に発展した。
先に手を出したということで、ゲインは営倉に入れられ、のちにコッテリと絞られることになった。
ようやく出てきたゲインを出迎えたのは、同国の仲間たち。
だか彼らも、喧嘩の直接の原因は聞いていなかった。
予想はできる。
彼らは故国はゴルラで、カーマイン・フォンデルのいるキッタイルとは戦争中である。
戦争当事国の兵士が同じホールで顔を合わせたのだ。まあ、喧嘩になることもある。
だが、晴れやかな式典が今まさに始まろうとしているときに、するものではない。
「あいつが悪いんだ」
ゲインは吐き捨てるように言った。
「それはいいから! ……で、何があったんだよ」
仲間に問われて、ゲインはしぶしぶながら、当時のいきさつを語った。
「斜め前にウロコ持ちが並んでいたんだよ。気になって見るじゃんか」
「まあ……気にならないと言えば、嘘になるが。それで?」
「フォンデルの悲劇は俺も知っていたし、ウロコ持ちの知り合いもいる。だからってわけじゃないけど、キッタイルから来たんだろうなと思ったんだけど、知らんぷりを決め込もうとしたんだよ」
フォンデル国は消滅し、多くのフォンデル人がキッタイル国内に住んでいる。だが、他国へ逃げ出した者も多い。
硬皮質を持つフォンデル人は、スポーツや格闘技の世界では活躍できない。
身体能力が劣っているとか、弱いという意味ではない。その逆なのだ。表彰台は彼らの独擅場となるため、ルール上、出場できなくなっている。
それだけ一般の人間とは、差が出てしまうのである。
フォンデル国が滅んだいま、彼らが活躍できる場は、戦場くらいしかない。
宇宙軍にフォンデル人がやってくるのも十分に考えら、その出身国はキッタイルだと予想できる。
「だけどよ、アイツがこっちを振り向いたんだよ。顔を見て、あの軍師だとすぐに分かった」
「そりゃ……」
「連日、報道されてりゃな、嫌でも顔くらい覚えるよな」
ゲインを含めて、もとは全員がゴルラ国の兵士である。
ここへくる直前まで、キッタイルとの戦場にいたのだ。
「アイツが俺たちの仲間を殺したと思ったら、急に血が頭にのぼって……」
「それで突っかかったわけか」
「ひと言謝らせようと思ったんだ。それで水に流そうと……そしたらあの野郎、鼻で笑いやがった」
「あ~……」
一人が、手で額を押さえた。
「その光景、目に浮かぶわ」
馬鹿にされたと思ったのだろう。事実、ゲインは馬鹿にされたはずだ。
「それであの騒ぎか。まったくお前は……」
「だってよ、仕方ねえじゃん」
「俺たちは、ホロウ人を人類から守るために集まったんだよな」
「……ああ」
「アムリュート司令長官も言ってただろ。連れ去られた者が敵国人ならば歓迎するのかって。そんなこと考えるなら、ここにいる資格はないってのは俺も賛成だ」
「そうだな」
「お前の気持ちも分かるが、先につっかかって、殴りかかったお前が悪い」
「……分かってるよ」
「そもそもあんな場所で謝らせようなんて、お前はどういう立場って話だ」
散々な言い様だが、ゲインは何も言い返せない。
「これから何年も顔を合わせることになるんだ。あのままじゃ気まずいだろ」
「謝ってきたらどうだ」
「…………」
仲間から口々にそう言われ、ゲインは押し黙る。
たしかに喧嘩をふっかけたのは悪いが、煽ってきた向こうにも非がある。そうゲインは考えているが、ここで意地を張っても、事態は悪くなるばかりというのも分かる。
上官たちは、仲直りしろとはひと言も言わなかった。ただ、式典を台無しにしたことを咎めただけだ。
だからこそ、ゲインが動かねばならないことも分かる。
「分かった……謝ってくるよ」
国ではいまも、仲間たちが戦地にいる。
だがそれはお互い様だ。自分たちの戦いが正しくて、向こうが間違っているなどと言うほど、ゲインは世間知らずではない。
「よし、いますぐ行け!」
「そうだな、時間をおけばおくほど、気まずくなるぞ」
仲間たちに腕をとられ、ゲインはカーマインの前まで引きずられていった。
カーマインは談話室でニュースを購読していた。
地上の情報は一部を除いて、兵士たちは手にすることができない。
地上との自由な通信などもってのほかで、軍事機密の固まりのようなこの基地からだれかに発信しただけで、スパイ容疑をかけられるほど、厳重な警備が敷かれている。
ゲインはカーマインの近くに行く。向こうが気付いたようで、顔をあげた。
「なにかな」
相変わらずいけ好かないとゲインは思うものの、ここで喧嘩を始めたら、今度は営倉で済まなくなる可能性がある。
「あのときは……すまなかった」
それが精一杯の譲歩だった。
「それが何になるのかね」
「えっ?」
「お仲間にここまで連れてこられて、嫌々謝罪の言葉を紡ぎ出して、ことを収めようとしていることを指している」
「えっ」
「謝罪しておかないと、このあとの訓練も気まずいだろう。謝るなら早い方がいい、そう言われて引っ張られてきたのだろう」
「なっ……」
「口先だけで謝られても迷惑だ。帰れ」
「てっ、てめえっ」
ゲインが声を荒らげたとき、後ろから三人の仲間がやってきてゲインを押さえつけると、そのままずるずると引きずっていった。
結局、似たようなことを三度行い、ようやくゲインは素直に頭を下げた。
「どうせ反省する気はないのだろう。迷惑だからもう来るな」
そうカーマインに言われて、ゲインは「アイツ、めっちゃムカつく!」とあとで激昂する。
二人の関係が修復されるのは……もう少し時間がかかるようである。
「やれやれだな」
そうカーマインが言ったとか、言わなかったとか。
〈了〉