本グループでは,エアベアリング支持によるDD(ダイレクトドライブ)方式の駆動系を用いた、歯車製造ラインにも容易に設置できる安価でコンパクトな歯車測定ロボットの研究開発を行っています.
歯車は動力を伝達するための機械要素です.そこで,効率の良い伝達をする必要があります.
現在使われている歯車のほとんどは,インボリュート歯形と呼ばれるもので,歯形がインボリュート曲線で造られています.これは,インボリュート曲線を用いることにより歯車のかみ合い位置と回転角度が比例関係になり,そのうえ力の加わる方向が一定の向きになるからです.人間の作るものには必ず誤差が存在します.歯車でも,実際に出来あがった歯車では理論的なインボリュート曲線と比べると誤差が生じてしまいます. この誤差のことを『歯形誤差』と呼びます.歯形誤差が少ない歯車ほど良い歯車であると言うことができます.
現在,歯車の幾何学的形状・寸法については歯形誤差や歯すじ誤差等を計測する様々なタイプの歯車精度測定機が利用されており,形状誤差の大小により,歯車精度を等級分けする国際規格が存在しています.しかしながら国際的な測定値の保証制度の未確立や,等級分けに必要な精度を完全に満たす測定装置がいまだ存在していないなどの事情が問題視されています.これを解決するべく(社)日本歯車工業会の主導でさらなる高精度測定機の開発と,これを利用した測定値の検証制度の確立を目指す研究が行われています.
現在,(社)日本歯車工業会では,歯形精度の検定方法の確立を目的にNC方式の超高精度歯車測定機を開発しており,この測定機は現在,全歯形誤差測定で約1μm程度の不確かさを持っています.この不確かさはJIS歯車規格の全ての歯車を評価するにはまだ不十分です.
この測定機の測定誤差の一つの大きな要素が駆動系の運動誤差であり,すなわちステッピングモータ,ウォームギヤ及びボールネジを使う事による誤差であることがこれまでの研究結果で確認されています.その問題に対し,エアベアリング支持でDD(ダイレクトドライブ)方式の新しい駆動系を用いたサーボシステムを開発する事により,従来の歯車測定機よりも高精度な歯車測定機を開発しました.
本研究では,このDD方式歯車測定機を用いて,より精度の高い測定を目指すための制御方法の開発を行っています.測定機には被測定物の歯車を載せる回転軸(円筒状)と,測定子を持つ直動軸の2つの軸があります.主軸の回転と測定子の直線移動が歯面の理論式の関係になるように2軸を同期させNC駆動(Numerical Control:数値制御)させる方式の歯車精度測定機です.
本研究は,従来の歯車測定機の精度と同等かつ,設置場所やワークの取り付けといった,運用面での使い勝手に優れた汎用的に使える測定装置の開発が必要との意見からスタートしました.従来の直交座標系マシンより高速かつ多用途での測定をめざして多関節機構の採用を想定しており,本機構として世界最高水準1μm未満の不確かさと汎用性のある測定を兼ね備えることを目標にしています.
現在は工業用スカラロボットの性能評価を(株)大阪精密機械との共同で行っています.