本グループは2013年度から新たに設置された研究グループであり,脚移動ロボットのブレイクスルー的性能向上を目的とし,動物の筋骨格バイオメカニクスを規範とするロボットの研究開発を行っています.
研究を進めていく上で,特に注目したい動物の機能及び特徴は以下の2点になります.
高度な運動を行う動物の脚に着目してみると,体幹部から足先に向かって先細り形状になっているものが多く見られます.この先細り形状は走行・跳躍といったダイナミックな運動において有利であることが知られています.キック動作時や走行時など,脚の振り出し動作を行う際には脚の慣性モーメントが小さいほど少ないエネルギーで脚を動かすことができ,跳躍などの蹴り出し動作においては足先の質量が小さいほうが高く跳躍を行うことが可能です.また,地面の凹凸に対して素早く応答出来るという利点があります.
今日における多くの脚移動ロボットは関節にアクチュエータを持ち,それぞれが独立して駆動を行っています.それに対し,動物は筋繊維の収縮運動により関節を駆動し,それに伴い多関節筋で結合された複数の関節が連動することで複雑な協調動作を実現しています.多関節筋の中でも,走行・跳躍といったダイナミックな動作において,動物の脹脛に存在する腓腹筋は重要な役割を持ちます.腓腹筋は膝関節と足首関節をまたぐように配置された筋肉であり,膝関節と足首関節間の協調動作や着地時のエネルギーを弾性エネルギーとして保存し跳躍時に再利用するといった機能を併せ持っています.
腓腹筋の持つ協調動作機能と筋腱複合体の持つエネルギー保有機能を,弾性体を含んだリンクで再現し,高いバックドライバビリティを持つ電磁アクチュエータと組み合わせることで,コンプライアンス性と自己安定性を持つ脚機構の開発を行っています.制御によるコンプライアンス性と弾性リンク機構の相互作用により,体長分からの着地や不整地での連続跳躍などの高い運動性能と自己安定性が期待できます.
本研究では,筋腱複合体の機能を持った脚ロボット「Sugoi-Neco Legs」を開発しました.鉛直方向に拘束されたガイドレール上で,連続した跳躍を実現しています.また,跳躍中に足先に障害物が入っても姿勢を崩すことなく跳躍を続けられる高いコンプライアンス性を持っています.
本研究では,筋腱複合体の機能を持った小型四脚ロボット「Sugoi-Neco」を開発しました.先行研究の「Sugoi-Neco Legs」を後脚に用い,それに適した前脚を新たに製作しました.ネコの骨格を参考にし,後脚は跳躍に,前脚は着地に適した機能を持たせることを目標とし,それぞれ異なる構造に設計しています.このロボットを用いた動作実験では,トレッドミル上で3.5km/hのトロット歩行,1体長分の前方への跳躍を実現しています.
本研究では,動物の胴体を参考にした柔軟な背骨機構を開発しました. ワイヤを用いて背骨と前後脚それぞれを繋ぐことにより,背骨と脚の動作の連動や背骨関節を介したエネルギーの移動を可能にしています. この機構を追加することで,前方への跳躍距離の増加を実現しました.
本研究では,動物の関節受動抵抗を模倣したストッパ機構を開発しました.各関節の屈曲・伸展可動域限界でシリコンチューブとウレタンシートが接触することによって,反トルクが生成されます.この機構を追加することで,アクチュエータのトルク以上のトルクを発揮することができます.
生物の運動は,神経系,筋骨格系,環境との相互作用によって自発的に形成され,非線形的な特性が多くみられます.特に,歩行や走行などの基本的な運動は,脊髄に内在するリズム生成機構によってもたらされています.これはCentral Pattern Generator(CPG)と呼ばれる神経回路によるもので,分散型神経制御,運動指令,身体力学,感覚フィードバックによってリズムを作り出しています.
本研究では,生物学的知見を基に,CPG と受容感覚を組み合わせた適応的な歩行制御の一例として脚の筋腱複合体における弾性力を固有感覚フィードバックとして活用するCPGモデルを開発しました.下腿部のバネの伸びによる弾性力をフィードバックすることで,歩行速度の向上や歩容の遷移が確認されました.