本グループでは,触覚,すべり覚,近接覚の高速センシング技術に基づき,知的な動作を高速で実行するロボットシステム (ロボットハンド,ヒューマノイドロボット) の研究を行っています.
近接覚とはロボット表面から数十mmにある対象物との位置を直接取得することが出来る感覚の事です.近接覚をロボットハンドに導入することで,対象物に触れずにハンドの指姿勢やアームの手先位置を調整する事ができます.これにより視覚センサの推定誤差により生じる,ハンド指―対象物間の位置・姿勢誤差の検出修正動作が可能になります.本研究では,本学下条研究室で開発された近接覚センサを用いています.
独自に開発したロボットハンド指先用近接覚センサを用いることで,指先の二軸周りの姿勢と,対象物までの距離を同時に調整する制御を行うことが出来ます.本研究室では,この制御をプリグラスプと呼んでいます.プリグラスプを行うことで,物体に触れずにその形に沿うように指先を配置できるようになり,物体の形状に倣って大きな接触面積で物体を掴むことが可能になります.
先行研究において,ネット状近接覚センサをロボットハンドに搭載することで対象物と指先が正対した把持姿勢を高速で取ることを可能となりましたが,正対位置以外において把持姿勢を高速で取ることが難しいという課題がありました.より複雑な把持を実現するためには,指先位置を変える必要があります.その為,任意の指先位置で把持可能なネット状近接覚センサの開発を行いました.これにより,センサの特性の工夫のみで,高速性を損なうことなく目的を達成することが可能となりました.
ネット状近接覚センサを実装したロボットハンドをスレーブロボットとして,人間側をマスタとして,遠隔操作を行う研究をしています.スレーブ側からマスタ側に与えられる情報としては,ロボットハンド指先に取り付けられた近接覚情報を人間の指に,また手のひら部近接覚センサによる情報を力覚として人間の手首に返します.ここで言う近接覚とは,皮膚感覚が空間的に拡張したものであり,非接触で従来皮膚感覚から得られる仮想的な情報を取得するものです.指先へは近接覚情報を人間が元来持っている受容器に対して呈示する必要があるため,電気触覚ディスプレイ(電気通信大学梶本研究室にて開発)を用いて距離と傾き情報を呈示しています.遠隔操作では,視覚におけるオクルージョン問題などが特に操作者に悪影響を及ぼすため,操作者に近接覚センサの情報を呈示することで,非接触でより詳細な物体把持位置を決定することができると考えられます.
近年,物流倉庫や工場,スーパーマーケットなどで,物の運搬作業を人の代わりに行うロボットの開発が進められています.本研究では,その中でも棚や箱など,限られた空間に複数の物体が置かれているような環境下での,ロボットハンドのマニピュレーションについて考えています.現在開発中のロボットハンドは,近接覚センサを複数搭載しています.これらのセンサは,高速な把持を実現することはもちろん,周囲環境を検出することもできます.これらのセンサを用いることで,障害物や環境(壁,床)をよけつつ対象物を掴み出すシステムを開発しています.
近接覚センサを用いたロボットハンドをドローンに搭載する研究を行いました.近接覚センサは指先と手掌部に搭載され,手掌部センサを用いた近接領域でのドローンの位置決めや,指先部センサを用いたプリグラスプ制御による把持動作までを自律して行います.これによってさまざまな形状の物体をドローンで輸送するシステムが開発され,ラストワンマイル問題に対する解決が期待されます.