私の趣味の一つ岩石薄片の偏光観察に不可欠な偏光顕微鏡の改造記事です。今回は下写真中央のオリンパス製実体顕微鏡の改造です。
右のニコン三眼顕微鏡も偏光顕微鏡に改造してありますが、こちらは上部偏光板・アナライザーをターレット上部の筐体に取付けてありますから、改造加工がかなり厄介でした。
改造の内容は以下の2点です
1.上部偏光板アナライザの取付け
2.下部偏光板ポラライザ付透過照明装置の制作
ポラライザ、アナライザ共にカメラのレンズに取付ける直線偏光フィルター ( PL ) を用いていますが、近年ではカメラのデジタル化に伴い円偏光フィルター ( CPL ) が一般的になり、残念ながらカメラ用のPLフィルターは入手が難しくなっています。
アナライザ用の62mm PLフィルター ( 左 ) とポラライザ用 43mm PLフイルター 左端はデジカメ用のCPLフィルターでこれは使用できない
1.上部偏光板アナライザの取付け
実体顕微鏡の場合、実体視する関係で対物レンズの口径が大きいため、アナライザもこのレンズ口径に合う62mmのPLフイルターを用い、ポラライサーには顕微鏡の視野より広い43mm PLフイルターを使用します。
アナライザの取付は海苔の缶の蓋がちょうど対物レンズの外径にぴったりはまり込むので、PLフィルターが嵌め込めるように、蓋の真ん中に62mm径の穴を開け、PLフィルターをねじ込んでエポキシ接着剤で固定します。
対物レンズへの固定は顕微鏡の筐体の左右にレンズ固定用のビス穴が開けてあるので、蓋にトタン板を接着してビスを取付け、ビス穴へビスをねじ込んで止めるようにします。
2.下部偏光板ポラライザ付透過照明装置の制作
ポラライザを取付ける下部の照明装置は顕微鏡ベースとの関係や光源装置等構造が複雑なため、あらかじめラフスケッチで大体の構造を押さえ、ある程度考えんがまとまったら、より正確な図面を引いて細部を詰めます。
使える部品や目的とする機能を実現させる構造をフリーハンドのラフスケッチで考える
この作業は物作りにおいては、無駄を出さず失敗しないために必要不可欠のもので、手のひらに乗る小さなものから、家のように大きなものまですべてに共通します。
構成が煮詰まってきた段階で、正確な寸法で製図しますが、この程度の作り物は実物大の実体製図がもっともわかりやすく正確です。
上はケラー照明装置の構成図。昔の双眼鏡の接眼レンズとありあわせの凸レンズと手鏡を組み合わせて作る
アナライザとなる43mm PLフィルターを光路に出し入れする偏光の切り替え機構。本来はポラライザ側でフィルターを出し入れするが特に支障はないのでアナライザで行っている
ラフスケッチの段階での構成の善し悪しによって、出来上がったものの機能性や見栄えが大きく左右されるので、使用部品の選定から、頭の中で具体的な形を考え出すここまでの段階が物作りにおいては最も重要な作業であると言えるでしょう。後は図面に従って部品を加工して組み上げてゆくだけです。
上は調整中の光源ユニットですが光源が明るいので、遮光を十分に考えないと迷光が載物台にまで入り込んで視野が不均一になるので注意が必要です。
光源は高輝度LEDで電源はスマホの充電器にDC-DCコンバーターをつけて輝度調整をします。
光路出口には43mmのPLフィルターのガラスを取り外してポラライザとします。ポラライザには直交ニコルとオープンニコルの切り替えのため簡単な回転装置を設けてあります。
載物台には、標本を回転させるためスラストベアリングを接着して回転をスムーズにしています。
上が完成した偏光顕微鏡の全体像です。下にXPL 直交ニコルで撮影した幾つかの標本の写真を載せておきます。眼視観察ではあまり感じないのですが写真に撮ると中心部と周辺部でのホーカスのズレが大きいので載物台の取付平面が光軸と直角からズレているのかもしれません。
上写真左は阿蘇の火山岩、右は領家帯閃緑岩。角閃石の変質がかなり進んでいる
上写真左は領家帯花崗閃緑岩。有色鉱物がほとんど見られない部分。右は高変成度にある両家変成岩、原岩は珪長質岩とみられ再結晶した石英と長石の結晶中に多数の黒雲母微晶が取り込まれて外観は有色鉱物のように見える
以上で実体顕微鏡の改造はお終いです。近年ではカメラ用のPLフィルターよりプラスティック製のシート型フィルターが安価に手に入るようなので今後の製作はそちらを使ったものになりそうです。