嘗て日本はオーディオ大国だった
まだiPodやMP4プレーヤーが世に出る遥か前の昔の話、我が国はパイオニア、トリオ、オンキョー、サンスイ、マランツ等多くのオーディオメーカーが覇を競うオーディオ大国で、私の知人にも高級オーディオのマニアが何人か存在しました。
私がよく遊びに行ったジャズ好きのⅠもそんな一人で、時折彼の部屋で自慢の音を聴かせてもらいましたが、ジャズに門外漢の私のためにひばりや渡辺貞夫など私でも知っていそうな演奏を掛けてくれたものです。
何度かそんな彼に頼まれて低周波発振器やレベル計、減衰機、帯域除去フィルター、2現象オシロなどを持ち込んで音響機材の特性測定を行ったことがありました。
当時の機材で現存するのは、上写真左の低周波発振器 ( 10~1MHz ) と右のレベルメーターだけ。右は旧電電公社初期の搬送端局の搬送波検出用増幅器だが、一部オペアンプに改造して選択レベル計兼広帯域のレベル計として使った。共に電電公社仕様 当時でも廃却品で古かったが高性能で手放さなかった
アナログ機材の利点は先の発振器TCO-48の高調波スプリアスの低さを見るとよく分かる。上はTC-48 1MHz出力のスプリアスとICL8038で組んだ発振器1MHz出力を比較したものでTC-48の第1高調波のレベルは-50dB程度なのに対してICL8038は-20dBと電圧レベルで30倍ほども大きく2次以降の高調波も大きなスプリアスを持っている
機材一式を持ち込んでの音場特性の測定は、計測レベルの校正も不十分ではなはだ怪しいものでしたが、レベル測定の要となる発振器と広帯域アテネーターは精度が良かったのでなんとか形をなしました。これらの経験からⅠに勧められて室内音場の特性測定を自動的に行える測定機材の構築を思い立ったのです。
初号機はもう40年近くも前の話で、掃引発振器と対数変換増幅器 ( Logアンプ ) 及び周波数特性表示部の独立した3つの部分からなり、前者2つはディスクリートで組みましたが、特性表示装置の方は当時電子マニアの間に普及し始めたばかりのマイクロコンピューターFM-8を流用したものでしたがプログラムの記録をカセットテープに頼っていたため、プログラムをロードするまでに何分も掛かりました。
初号機に続いて掃引発振器と対数変換増幅器をひとまとめにし、マイコンにミニフロッピー搭載のMSX機やPC9800 USを使うシステムを造りました。プログラムの読み書きが楽なミニFDD搭載のPCに置き換えたものですが、こちらも30年以上も古い話でどちらも機材は現存していません。
このような経緯の後、最後に掃引発振器から対数変換増幅器及び特性表示器のすべてを一体化したコンパクトなシステムを組み立てました。
想えば私がこれらの機器と取り組んでいた1960-1980年にかけては、それまでの真空管・トランジスタのアナログ全盛時代からデジタルの時代へと急速に移行しつつある時期で半導体デバイスの世界は疾風怒濤、生き馬の目も抜くほどのすさまじい競争と開発の時代でしたから、私の成長は半導体の成長と共に始まったようなものです。
私は小5の秋に同級生と共に鉱石ラジオからゲルマニュウムラジオの世界に嵌り、小6の頃にはトランジスタラジオを組み立てていましたから私の半導体生活は1960年頃に開始された訳ですが、まず少し半導体開発の歴史を振り返ってみたいと思います。
半導体デバイス開発小史
第二次大戦中のマイクロ波レーダー用検波器の開発に端を発した半導体研究は、英・米の研究者達によって第二次大戦中期にはシリコンによる3GHzの結晶検波器・点接触ダイオードの開発を生み、マイクロ波検波器は大戦後期に10GHz以上の周波数にまで検波性能を向上させます。
October 1947 BELL SYSTEM TECHNICAL JOURNAL掲載の大戦中のマイクロ波検波器の開発状況。初期の真空管による1GHzより大戦後期のIN23Bでは10倍の10GHzの検波が可能となった。この当時の周波数単位は今では懐かしいC ( cycle ) でありHz ( Hertz ) ではない
左は当時の3GHzレーダー波用クリスタルコンバーター。右は私がアマチュア無線時代マイクロ波検出に使っていたNEC製のIN23B もちろん基本特許は米国にある。このIN23Bは、私が電力会社の通信機械室に勤務していた1967年頃でも業務用のマイクロ波受信機のクリスタルコンバーターとして広く使われていた
さらにこの研究は戦後米国のベル研究所を中心とした研究者達によって固体増幅器・トランジスタの発見を生み、これに伴う半導体の物性、物理研究とトランジスタの素材と製法の革新はデバイスに大変革をもたらして、高周波と温度特性に難の有った初期のゲルマニウムトランジスタよりシリコントランジスタの時代に突入、1950年後半以降、電子デバイスの開発は疾風怒濤の時代を迎えます。
まだ手元にある1950年代後半から1970年代の電子回路を支えたトランジスタ各種。CES品名 ( JIS登録名 ) の若いゲルマニュウムトランジスタがないか調べてみたがもはや一個もなかった
この時期の研究開発を牽引したのはベル研究所から分かれてテキサスインスツルメンツの半導体部門を率いた研究者達と、接合型トランジスタの発明者でノーベル賞学者・ショックレーが立ち上げたショックレー研究所に勤務したが、支配者肌のショックレーとは合わずにフェアチャイルド社によってシリコントランジスタの研究開発を推し進めた若手の研究者達でした。
ことにフェアチャイルド社が切り開いたプレーナートランジスタの技術はその後のIC・LSIの飛躍的な発展に直結し、フェアチャイルド出身の研究者や技術者がシリコンバレーの半導体産業を牽引することとなります。
1971年世界初のストアドプログラムのマイクロプロセッサ4004を生み出したインテルも、当時ェアチャイルドより分かれた研究者達によって設立され、4004は彼らが日本製電卓の演算処理装置として開発したものです。
日本の電機メーカー各社も、戦後欧米との目も眩むような技術格差に圧倒されながらも、欧米各社との技術指導や特許使用契約を結び、国内の家電、通信系需要に応えるため国産のトランジスタ生産を開始します。
更には遅ればせながらシリコンバレーの新興企業と特許契約を結び、国産のICやLSIの生産・開発にもしのぎを削ります。そして日本の特質とも言える量産技術の強みを生かして、半導体デバイスの生産分野では徐々にアメリカと肩を並べるまでに成長してゆきます。
60年代から70年代日本国内で流通していたトランジスタは概ね国産品であったと思う。この分野を飯のタネにしていた者にとって各社の半導体データーブックは必需品だった
1970年台初頭、世は既にICからLSI の時代に突入しており、アメリカの各メーカーから次々にデジタルとアナログの新たなICが生み出されて電子回路の構築を仕事の一部としていた者にとってまことに目まぐるしい激変の時代でした。
特にアナログICは、既存のオーディオ・ラジオ・テレビ・無線機等トランジスタ化されていたアナログ回路を省スペースの集積化したICやLSIで置き換えるため、既存メーカーからのおびただしい量の受注が可能となった分野でデジタルIC共々すさまじい勢いで発展しました。
マイコンの原点ともいえるエド・ロバーツが開発したAltair 8800 ( Wikipedia Altiair 8800より ) ビルゲイツはAltiar搭載のBasic開発を振り出しに、日本の各メーカーが売り出したマイコンのBasicをすべて独占し、マイコンのソフトウエア帝王へと昇り詰めるきっかけとなった
デジタルの本目マイクロプロセッサについてはインテルの8080の登場が1973年末、その一年後8080を用いた世界初のマイコンAltair 8800が発売され、学生のビルゲイツがAltair 用のBASICを開発するに及んで、世は徐々にプログラムによって動くCPU全盛の時代へと移行して行きます。
今となっては懐かしい当時様々な用途で個人的に使用していたICとLSI。下の大きなチップはマイコン関連チップとメモリー
日本でも電気メーカーはインテルやフェアチャイルドと特許契約を結び、シリコンバレーで開発された商品を用いてNECから1976年にTK-80のような基盤剥き出しのマイコン評価キットが発売され1979年PC8001、1981年にはモトローラ6800互換の最新チップを2組搭載したFM-8が発売されて、それまでの実験機風の商品から個人ニーズを意識したマイコンの時代となります。
未だ私の手元にあるFM-8。8bitの6809互換CPUを2基搭載し発売当時はNECのPC8001に比べて圧倒的に高性能だったが、そのアーキテクチャーの複雑さが祟って、改造好きマニアが主たるユーザーとなる当時のマイコン購買層相手の商品としては失敗作だった
1970-1980年にかけては、それまでのアナログ全盛時代からデジタルの時代へと急速に移行しつつある時期でしたが、私の測定器は全てトランジスタ製でブラウン管式の岩通二現象オシロなど持ち運びにさえ苦労する重さでした。
すでにフェアチャイルドやアナログデバイセズ等のアナログICが簡単に手に入る環境となっており、それでTWIN-Tのノッチフィルターを組んで、三点の周波数について基本波を阻止して知人のアンプの高調波の歪量測定もやりましたが、スルーレートがネックとなる高周波数の大入力ドライブさえ避ければ、トランジスタ負帰還アンプの性能は大変に良くて私の測定器の源発振器のノイズレベルと大差ないほどで、高次の歪はほとんど検出できませんでした。
機材一式を持ち込んでの音場特性の測定は、計測レベルの校正も不十分ではなはだ怪しいものでしたが、レベル測定の要となる発振器と広帯域アテネーターは精度が良かったのでなんとか形をなしました。しかしそれなりに手間と時間は掛かりⅠを驚かせました。またその後数人の知人に頼まれて同様の測定をやりましたが、測定機材は大して変わらず手間も同じでした。
当時の記憶を思い返すと、オーディオの室内環境が異なれば特性もそれに合わせて変動し、測定結果にはそれぞれ結構な開きがあったのを覚えています。これらの経験からⅠに勧められて室内音場の特性測定を自動的に行える測定機材の構築を思い立ったのです。
今の時代であれば世の篤志家が提供してくれる、PCや携帯上で走るWG150等のスイープ音源やWS151、ETANI RTA等のスペクトルアナライザが簡単に利用でき、発振器やマイク等の特性校正を無視すれば技術的な知識がない方でも、当時私がやった程度の測定であれば簡単に実現することが出来るでしょう。
上はefu氏開発になる驚嘆すべきフリーソフト、多機能掃引発振器WaveGene WG150と周波数特性測定器WaveSpectra WS151 オーディオ帯域といえ、この様な高機能高精度なソフトが無償提供されているとは、私のように昨今のCPUのハード・ソフトに無知なものには信じがたい。WS151にあってはその解析信号のダイナミックレンジはなんと120dBに及ぶ。これほどのダイナミックレンジは私の知るアナログの時代には数百万を超える産業用測定機材でさえ難しかったものだ。先に上げたAnritsuのスペクトラム・アナライザではダイナミックレンジ80dB
上はアナログ時代後期のHPの回路網特性測定機8752Bの周波数特性表示画面。GHzを超える超広帯域のこともあるが100dBの表示幅が限界でこれ以下ではノイズに埋もれる
まことに有難い便利な時代になったものですが、インテルやモトローラから8bitマイコンチップセットがようやく登場した1974年ころの話では、測定用の音源発振器でさえも、手軽に利用でき歪の少ない精度の高いものを望むならメーカー製の高価なアナログ機材以外に入手が難しかったものです。
しかし電子デバイスの進歩は目覚ましく、1970後半にはデジタルIC、アナログIC共に極めて高機能・高性能なLSIが手頃な価格で誰でも簡単に手にすることの可能な時代になっていました。
嘗てお世話になった懐かしい半導体デバイスのメーカーマニュアルその他の技術書籍。今も稀に覗くことがある
多数の海外メーカーから次々に発売される新製品は、時に過去に発売された同種の製品を性能・価格の両面において圧倒する場合も多く、電子デバイスのユーザーにとっては一時も目を離すことのできない熾烈な競争の時代でもありましたから、私もこの世界の端くれで仕事をする人間として製品のマニュアルや最新情報の紹介には絶えず気を配っていたものです。
A/D・D/A変換のICは既にマイコンチップ登場の頃から流通していましたが、オペアンプとトランジスタ等のディスクリートで組むと温度補償が厄介だったLOGアンプもICL8048 ( 単に直流入力の対数変換アンプだか ) などの専用ICが登場し、ICL8038のようなファンクションジェネレーターが手軽に利用できるようになったのもこの頃で、以前には素人が簡単に組み上げることが難しかったアナライザでさえもこれらのICとマイコンの組み合わせによって実現できる環境が整ってきました。
最もこれはあくまでも頭で考えた場合の話で、実際に適度な予算で実現するとなると様々な問題が立ちはだかっていました。何よりも厳しいのがマイコンのメモリーの頼りなさでPC8001では初期搭載のプログラム用RAMエリアは16KB、私の使用していたFM-8でも約30KB ( RAMは64KB搭載ですがF-BASICがその半分以上を占めた ) 書いたプログラムを保存するためには、低速モデム経由でカセットテープに保存するため、短いプログラムでも保存や読み出しに何分も時間が掛かるのです。
僅かなメモリーエリアでも書き込んだプログラムを保存する手だてがなく電源を落とすと消えてしまいます。マイコン用の5インチフロッピーディスクはようやく開発されたばかりでNECの外付けディスクなど30万以上する代物でとても手軽に利用できる環境にはありませんでした。
FM-8には10万ほど追加するとバブルカセットなる記録メディアが装着できたのですが、カセットも3万以上の価格で当時の私には手が出せず、結局カセットテープで通しました。このバブルカセット記憶システムもFM-8に登場したのみですぐ消えてしまいましたから買わずに正解であったとも言えます。
それでもFM-8には0-2.5Vの4chアナログ入力ポートが備わっており8bitで取り込んでF-BASICで制御できましたから、スイープジェネレーターと同期させて一定間隔で入力をサンプリングしてメモリーに記憶しておけば、後はそれをCRT上に表示させて周波数特性を描かせることはプログラム操作で簡単に行えます。マイコンの登場は多くの制約もありましたがプログラムによってデーターを収集し、それを即座にCRT上に表示させることが可能となったのです。
初号機で組んだ掃引発振回路の構成図。もはや当時のものは無いし設計シートも残してないから正確なものではない。8038は思いのほか周波数や波形歪の変動が大きく掃引幅は15倍に止めて安定性を高めたが、3バンドで掃引周波数帯を切り替えていたので各バンドの終わりと次のバンドのスタート周波数を一致させるのに苦労した記憶がある。
発振器については、特に大きな問題は有りませんでしたが、厄介なのは検出した交流信号を整流して高々8bit 0~256の範囲に収めマイコンのアナログポートに送り出す、受信側の非線形検波増幅器の方です。80年代後半には、交流入力信号のエンベロープを対数変換して出力してくれるアナログ・デバイセズ等のログアンプが入手できるようになり、広帯域の交流信号の振幅値を簡単に対数変換して出力することが可能になりましたが、当時はその様な対数アンプの知識はなかったので( 対数増幅器は単に直流入力の値を対数変換して直流出力するだけのものだった ) 10Hz~40kHzほどの帯域の交流入力80dB分の振幅値を0~256の範囲に擬似対数化して変換出力するのに大変苦労しました。
アナログデバイセズの超広帯域エンベロープ出力ログアンプ。メーカーの技術力は誠に恐ろしいもので、何年も前に私が苦しみ抜いて、多数のオペアンプとダイオードにC,Rを使ってやっとの思い出組み上げた擬似的対数出力エンベロープ検波増幅器が遥かに高い精度と高ダイナミックレンジ、周波数帯幅を持って爪の先ほどのICで実現可能となっていた。
その後何年かしてアナログ・デバイセズのAD8307がワンチップで広帯域の交流信号のエンベロープを対数出力してくれるのを知ってほんとに驚いたものです。私はその後このICを対数変換に用いてコンパクトな最後のセットを組むことになります。
このセットに関してはかなり細かい記録が残っているので正確なことが言えます。過去の機材がいくつものセットに分かれて可搬性に難があったため、このセットでは持ち運びが楽なようすべてを一つのケースに収めました。ケースは不要になった計装盤から切り出して設計サイズに合わせて溶接したものです。
可能な限りコンパクトに仕上げるため、収容ケースは収容する部品のサイズに合わせて切り出して溶接加工した
当時の設計シートを下に示します。それまでのマイコンに替えて産業用のシーケンサーを組み込み、特性の表示と発振器の操作は小型のタッチパネルとしました。今ならRaspiやArduinoの小型マイコンで組み込めますが、仕事の関係で産業用機材の扱いに慣れていたためシステムの制御・操作・表示はシーケンサーとそれに接続するタッチパネルに拠っています。
掃引発振器は10~1MHzと広帯域なXR2206とし10Hz~10MHz任意のバンド幅の掃引発振器兼単波発振器として使える様にしましたが、安価なデジタル合成の発振器は温度や電源変動に対する周波数や歪率の変動が大きく、PLCのソフトで動作させる前には絶えず周波数調整をする必要に迫られました。
Log Amp AD8307の特性測定。80db以上のダイナミックレンジで交流入力をLog変換して直流出力してくれる
発振は10Hzから10倍ごとに5バンドに分け、タッチパネルよりスタート周波数、ストップ周波数をアナログ電圧指令して各バンドを通して連続掃引する場合には周波数の連続性が保たれるようにしました。
周波数掃引と帯域特性描画のテストシーン。設計したシステムが思い通り動いてくれると心楽しいものだ
バンドごとに信号の位相が変わるので2秒の安定時間の後1バンド10秒間で掃引し10~1MHz通しての掃引では1分程の時間がかかります。高い周波数であればAD8307Aの振幅出力は一瞬で安定するのでもっと高速の掃引でも問題ないわけですが、特に必要性もない各バンドとも10秒で統一しています。主たる部分の回路構成は次のとおりです。
上はXR2206による発振回路、下はコンデンサーマイク用のプリアンプとAD8307Aのログアンプ部の回路構成です。後に少し回路をいじって電源回路と器内温度安定用温調回路は抜けていますが、ものも現存しており大体ほぼこの図の通りでしょう。
今これらの大げさなシステムを先に上げたWG150・WS151のソフトウエアシステムと比較すると技術の持つ凄みが良くわかります。WS151はフーリエ解析による波形分析ソフトで、WG150よりホワイトノイズを出力してスペクトル解析する正統派ですから、被測定系で波形歪を生じれば、その歪成分もスペクトル表示しますけれど、私の簡易システムでは、系で大きな波形歪が生じても、その出力はスイープ中の発信周波数の出力レベルに組み込まれてスプリアスとしては表示されません。
すなわち測定器そのものが測定方法に基づく誤差を発生するわけで、オーディオアンプのように歪みの僅かな系の周波数特性であれば問題になりませんが、系が非線形歪を生ずる場合は、測定法そのものに由来する誤差を発生するわけです。
波形をフーリエ解析する技術は、産業用にはすでに1970年代には商品化され、機械音を波形分析してその雑音成分から機械やモーターの軸受摩耗を検知する測定器などに組み込まれており、私も会社では使っていたものですが、波形解析に用いる高速フーリエ変換の技術はPCがあっても簡単には真似できそうもないと考えていましたから、WS151のようなソフトを見ると個人的に脱帽してしまいます。
実は私もFM-8の時代に振動解析がやりたくて、6809ハンドブックに乗っていた高速フーリエ解析のソフトに挑戦した過去があるのですが、アセンブラで書かれた256点サンプリング値による複素積分のデジタルアルゴリズムがどうにも理解できず結局諦めた情けない思い出がありefu氏のような数学的才能を前にすると嫌でも頭が下がります ( かく言う私も一応学生時代には数学科で学んでいたのですから誠にお粗末な話です )
以上で私のスペクトラムアナライザの制作記はお終いです。技術的無知からどうにもガラパゴス的測定器をこしらえた笑い話のような製作記事ではありますが、モノ作りの好きな人間は自分のできる範囲で色々こね回して何かしら作って見たいもので特に後悔はありませんから、これで良しとしておきます。