ボール盤の改造・EARTH MAN DP-300A
20年以上も前に販売されていたEARTH MANの小型ボール盤。ハンドル昇降機構の200X200mmの作業台がついている。中古販売サイトの写真より
かなり以前の話になりますが小型のボール盤EARTH MAN DP-300Aを使いやすいように改善しました。改善点はおもに以下の4点です。
1.回転速度を可変にする
2.運転停止を足踏みペダルで行う
3.ワークテーブルにXYクロステーブルを取付ける
4.切り込み量をデジタル表示とする
このボール盤は垂直軸の径が60Φと太く重量は有りますが、1万円前後で買える一般的な小型ボール盤よりは剛性においてかなり勝ります。またワークテーブルも200X200mmのサイズがあって昇降ハンドルがついているため操作性も良い。さらに使用してみるとドリルチャック ( 1.5 ~13mm ) の加工精度が高く1mm前後のマイクロドリルでも殆ど芯ブレせずに穿孔できる優れものでした。
それでも使っていると不便な点も多くあるので先の4点を主に改造したものです。
ボール盤は主にドリルビットを装置してワークに穿孔するための器具で、私の場合金属加工が多いのでワークは鋼材、SUS材、アルミ材が主で時にプラスチックや木材となります。
一般に旋盤やボール盤による旋削や穿孔作業で鋼材やSUS材を穿孔する場合、回転する刃物の刃先のワークに対する周速を刃先速度(切削速度)と呼び加工対象や刃物の素材により最適とされる刃先速度が決まっています。
上の文章並びに数表は「工業高校生のためのお助けサイト」よりの引用とさせていただきました。
しかし手持ちドリルや家庭用の簡易ボール盤で旋削・穿孔する場合このような図式は当てはまりません。ワークの固定が強固で送りが自動で行われる産業機械に比べ、ワークの固定が甘く、刃送りも適当でしかない手持ち作業では、上の表にあるような刃先速度で鋼材やSUS材を旋削しようとすれば、僅かな切込み量しか出ていないのに刃先の周速ばかり高くて、回転エネルギーは旋削加工に使われず、刃先とワークの摩擦熱となってワークの刃先を焼いてしまい刃物をダメにしてしまいます。
ことに経験の乏しい作業者が手持ちドリルで穿孔する場合これは顕著で、全く穴が開かないばかりか、たちまちドリルビットを潰してしまう場面を私は在職中に何度も経験しました。
手作業による旋削加工の場合、教科書の刃先速度など無視してドリルの回転数を可能な限り落とし、旋削量に応じた送り量を確保しながらゆっくり穴を開けるのが刃先を傷めず旋削できるドリル作業の基本となります。
市販されているボール盤は、産業用の高級品でもない限りほぼ全て単相100Vの誘導モーターによる定速回転で、変速機構があるもののベルトの架け替えが必要となり作業に余計な手間が伴います。
小型ボール盤に装置された変速機構。今でも一般的な小型ボール盤はほぼ全てこの手のベルト架け替え式と思う
このため当初は回転数が最低になるベルト位置で使用するのですが、やはりワークによっては回転数が高く、もっと低速で回転させたい場合もあるので今一つ不便です。
会社の工作室の様に自由に動力が使用できる環境であれば、単相モーターを三相モーター(同一の馬力であれば三相モーターのほうが一回りは小さい)に載せ替え 300~500 Wの小型インバーターで駆動してやれば極めて簡単に可変速運転を実現できます。
しかし単相モーターは、進相コンデンサにより主コイルと直行するコイルにほぼ90度進んだ電流を流し、SIN波とCOS波による回転磁界で回転しており、このようなモーターに三相インバーターのように効率よく可変周波数を供給して安定した変速機構を生むことのできる制御装置は存在しません(以前オリエンタルモーター等が100W以下の小型モーター用に単相モーターのスピードコントローラーを造っていましたが効率が悪いうえ回転安定性の低いものでした)
1.回転速度を可変にする
このため家庭の単相電源でボール盤を電気的な手段で可変速にするには、主に次のような4つの手段が考えられます。
1.モーターを三相200Vモーターに変え家庭用の単相電源駆動できる単相駆動インバーターで駆動する
2.単相100~200Vで駆動できるステッピングモータードライブに変える
3.単相200V駆動が可能なサーボモーターに変える
4.単相100~200V駆動可能な直流モータードライブにする
此のうち4の直流モータードライブは昭和の時代の産業機器の制御には好んで用いられた手法ですが、その後インバーターやサーボ制御の低価格化で昨今ではまず見られず、モーター等のパーツもまず手に入らないでしょう。
直流モーター制御で行う場合はグラインダーのモーターが利用できるが高回転のため機械的に高い減速比が必要になる
この手法で簡易制御を行うなら、四~五千円で手に入るディスクグラインダーのモーターを用い千円程度のPWM調速器を接続してやれば実現できますが、グラインダーの回転数が高いので機械的に1/10以上にまでに減速してモーター軸を駆動する必要があるでしょう。
1の単相電源用インバーターは今の時代なら電機制御各社から0.75kW程度の小容量までが市販されていますから三相モーターと組み合わせて利用できますが、私がボール盤の改造をやった20年以上も前には単相駆動できるインバーターは殆ど見られませんでした。
富士の三相誘導モーター用インバーター。この2台は三相動力を電源とするが機種を選べば単相電源用もある
三相モーター駆動用のインバーターも内部では三相交流を整流した直流高電圧をPWMパルスに変換して疑似三相交流を造っていますから、インバーターの駆動電源は三相でも単相でも ( 大容量は整流効率が悪くて単相では無理 )整流すれば変わりません。このため今日では単相100V用と200V用の電源で使う小型機種が各社から市販されていますから、それらを用いて三相モーターを駆動すれば簡単に家庭用電源でもボール盤の回転速度調整が可能になります。
2のステッピングモーターも、現今では中国通販各社からロボットやドローン、プリンター用等に低価格高性能のモーターとドライバーが市販されており、数百円で手に入る可変パルス発信基板と合わせれば1万円未満でもボール盤の調速回路程度なら簡単に組むことができます。しかし私が改造した当時はステッピングモーターも産業用の高価格品以外市販されておらず安価な入手は無理でした。
取り外したDP-300Aの100V 3060rpm 300W単相誘導モーターと、取り替えた200V 3000rpm 200W 交流サーボモーター
結局私が選択したのは、上の写真にある産業用の交流サーボモーターで、駆動装置サーボパックの電源は単相200Vで動作します。こんな製品を当時新品で買おうとすれば小型のフライス盤位楽に変えてしまう金額になったでしょうが、屑鉄商を漁るのが趣味の一つであった私は、産業用設備の廃却品から結構安価に制御盤を手に入れその回路の一部としてこのサーボパック一式も手に入れました。
サーボモーターを動かすにはその機種に対応した専用のドライバー・サーボパックがいる。上の写真上部の箱がサーボパックで、専用のコントローラーにより回転数の設定等運転操作、電磁ブレーキ制御まで行う。
駆動用のVプーリーと取付用のベースはボール盤DP-300Aに合わせて自作したものです。このモーターは200Wの出力で電磁ブレーキ付き。
先の写真でも分かるように既製品のDP-300Aはこれより遥かに大きい単相300Wの誘導モーターですが、滑りによって回転する効率の悪い単相誘導モーターよりも同期モーターであるサーボモーターのほうが200Wでも回転数も安定しより大きなトルクが出ます。
電源電圧は200Vですが単相200Vならどの家庭でも宅内の分電盤までは引き込まれているので、盤から必要な場所に配線さえすれば使用できます。私は電気工事士の資格があるので自身で2階の部屋まで配線を引き込みましたが、無理なら業者に依頼する必要があります。
また200Vコンセントに直接サーボパックを繋ぐ訳にはいきませんから保護用のサーキットプロテクターと非常停止時の電源遮断用に簡単なリレー制御回路を組み込んでいます。
上はボール盤の制御回路。サーボアンプの電源回路をコンタクターで入切するだけの簡単なもの。下のエンコーダーはカウンターのDC12Vサービス電源で働く
サーボモーターは既設の誘導モーターに比べると小さいので既存のベースに取付けるための台座が要りますから、これは鋼板を加工して作り取り付ける以外に手はありません。
上写真の左側がボール盤の後部へ取付けた交流サーボモーター。モーターには同軸で電磁ブレーキと回転検出のエンコーダーが装置されている
交流サーボも三相誘導モーター同様に、複数の界磁コイルに三相交流を流してローターを回しますが、誘導モーターとの決定的な違いはローターが永久磁石で出来ており回転磁界に滑りなしで同期して回る同期電動機であることです。
このため回転磁界に対する滑りが生じて初めて回転子の誘導コイルに誘導電流が流れ回転トルクが発生する誘導モーターとは動作原理が全く違い回転精度も発生トルクも誘導モーターよりはるかに安定します。
サーボモーターは滑りなして回転磁界に同期して回りますから回転数がズレる場合は過負荷等機械的な異常が生じて同期が失調した場合のみです。
新規のモーターにおけるプーリー比はほぼ1/4でサーボモーター最高回転3000rpmで回した場合ドリル軸は750rpmとなる
私の経験から手作業の穿孔では高速側でも500rpm程度の回転が出せれば十分なのでこの数値に特に問題はなく、低速側も設定によって1rpmでも回りますから全く問題ありません。
2.運転停止を足踏みペダルで行う
サーボモーターは専用の制御装置であるサーボパックに様々な制御信号の入力端子があるので、運転停止信号を取り出すのは簡単ですが、此処ではサーボパックを操作するコントローラーを接続して回転数の設定を行うようにしたため、足踏みペダルの信号もコントローラーから引き出すようにしました。
写真上、左は回転用の足踏みペダル。踏み込んでいる時だけドリルが回転する。
足踏みペダルの制御信号はコントローラーより引き出すICレベルの微弱信号ですから配線は細身のシールドケーブルを使用しています。
左上がサーボパックのコントローラー これが無くてもサーボパックに入力する制御信号だけで動作するがシステムの設定のためには必要なため、運転設定もこのコントローラーより行う
回転数の設定も上写真右のコントローラーより設定数値をrpmで入力して行います。サーボパックに速度指令信号のボリュームを付けることも可能ですが面倒なのでコントローラー入力で行っています。
モーターの運転停止信号も、サーボパックからではなくコントローラーの内部信号端子から得ているため足踏みペタルの配線は当然コントローラーに接続してあります。
このようなボール盤は無論ですが、旋削中もテーブル送り等手作業の多い小型のフライス盤や旋盤の回転停止操作にはフットペダルを装置するのが作業効率も上がり安全性も高まるのでとても効果的です。
下写真は機械作業室にある小型ボール盤と小型フライス盤のフットペタルです。大きさが違うのは、左のボール盤用は直接100V単相電源を足踏みスイッチで入り切りしているため、電流容量の確保できる大型のリミットスイッチを装置しているからです。
左は単相100Vのボール盤回転制御に使用する足踏みスイッチ。右は200Vフライス盤の足踏みスイッチ
共に中華製の機械で ( ボール盤のメーカー表示は 新興製作所) ボール盤は30年以上前に地元のホームセンターで8000円未満で求めたものですが、テーブルは小さいですが結構剛性が高く以来鋼材加工専門に酷使してきました。
上写真右の中華製フライス盤は200V電源、DC100V前後とみられる直流モーター ( 仕様不明 ) で動いており、モーター制御は昔懐かしい直流アンプ。そのオリジナルはKB ELECTRONICS のKBLC-240Dなる機種の様です。
この回路図を調べたらINHIBIT SWITCHの端子があったので足踏みスイッチはそこに接続してあります。典型的な模倣型中華商品で運転動作がおかしいと思って調べたら電気制御回路は素人が組んだとも思える出鱈目さで、さすがにこのままでは危ないと思いかなり大幅に手をいれて改造したものです。
3.XYクロステーブルの取付
XYテーブルはPROXXONの製品で驚くべきことに20年以上経った今も現行品として全く同じものがAMAZONで販売されています。
テーブル幅は195X195mmとDP-300Aのワークテーブル上にぴったり治まり、スライド時、筺体の干渉もありません。
但しアルミ製でスライドスクリュー軸も細く、とても鋼材加工に耐えうるものではありませんが据付場所が自宅2Fの電気作業室で、もっぱらマイクロドリルを用いて電子回路のプリント基板穿孔等の軽作業に用いるには十分な性能です。
マイクロドリルの軸径は3.0mmだが、ドリルチャック ( 1.5 ~13mm ) の爪に1.5mm未満の円筒加工が施してあって、ドリルの芯ブレは極めて少ない
ワークテーブルも昇降軸が太くて頑丈なため、スライドさせた後にロックを利かせばかなりの剛性が得られますのでEP等軟素材の削りだしであればエンドミルを装置して結構実用になります。
エンドミルによる旋削を行なおうとすれば、どうしても切込み深さを決める必要があるため、エンコーダーでドリルの昇降ハンドル軸の回転検出を行いカウンター表示して切込み量が直視できるようにしました。
4.切り込み量をデジタル表示とする
ドリルの昇降軸の様に上下運動をする部位の移動量を正確に表示するには、普通リニアスケールと言う測定器を用います。移動量150mm 分解能0.01mmのリニアスケールであれば中華製品が3000円弱で手に入るので現在なら私もこれを用いたでしょう。実際、機械作業室のフライス盤と旋盤のX Y Zの移動量表示にはこれを使っています。
ただ当時はそれほど安価なリニアスケールは見当たらず、さほどの必要性も感じていなかったのでドリル軸の昇降を行うラックピニオンのピニオン軸の回転をエンコーダーで拾って2相カウンター表示させるようにしました。
当初は旋盤でプラスティック素材のブリーを削りだし、コムベルト掛けで500P/Rのエンコーダー軸を回していましたが、ベルトの滑りがあるため数回上下させると原点位置の表示がズレてしまいます。
これでは上下の切込み量がまともに表示されないので結局プーリーをノンスリップの2GTタイミングプーリーと交換して何とか当初の目的を果たしました。
プーリーの歯数は16:80 なのでドリル昇降ピニオン軸一回転でエンコーダー5回転。エンコーダーパルスは500P/Rなので2500P発生します。ラックの実際の移動量50.0mmに対して、カウンターのプリスケール値を2.760に設定してやると実際の移動量に対して表示がほぼ50.00となりますのでこれで使用しています。
無論歯車のバックラッシュがあるし、ブリーとベルトにも僅かにバックラッシュが生じるため0.1mm程度の切込み精度が限界です。ボール盤に必要以上の精度をもとめても仕方がないと思われますが、現今おなじ改造を行うのなら、やはり安価なリニアスケールを取り付けることになるでしょう。
上はフライス盤に装置したXYZ三軸のリニアスケール。取り付けた当時は3軸分でも9000円弱の値段だったが今ではかなり値上がりしているだろう。
以上でDP-300Aの改造はお終いです。電気室のボール盤はあまり使うこともないのですが、たまに用いるとフライス盤風の操作性は有難いもので、やはりそれなりの効果はあったなあと思うところです。