数日前までトラブルなしに動いていたミシンが突然壊れてしまいました。6年ほど前に買い入れた品ですがコンパクトな割に使いやすいため、日ごろの縫製は殆どこの機械を使い、フトコロの必要な帆布の縫製以外はまず機械式ミシンに頼ることもなかったため、いざ壊れてみると大層不便です。
症状
電源投入時は正常にシステムが立ち上がることから、雷サージが入った等の電子系システム異常ではなさそうだ。
電源投入して運転ペタルを踏むまでは模様選択など問題なく行えるのですがペタルを踏んで運転させると、モーターは回り出しますが、針が上から下へと下降した瞬間に、ミシンの基部辺りでなにか小さく叩くような音がして止まってしまい、模様選択ランプが全部点滅状態になります。
ペタルを踏みモーターが回転して針が下降した途端に基部より一瞬異音が出て動きが止まる
設定を色々変えてみても同じ状態になるため、針の下降に合わせて動作が始まる系に何らかの原因がありそうです。カバーの上からでは何度試してみても、内部の状態は分からないので、まずはケースを外して内部機構が見える状態にしてチェックしてみることにしました。
ケースの取外し
以前機械式ミシンの修理をやったので、ミシンの大まかな機構、針の上下・布送り・針位置切り替え・釜の回転等の連動した動きについてはある程度の知識を得ていたので、まずはケースをばらしてみれば、故障個所にそれなりの辺りが付けられそうに思えました。
ケースの中央部に嵌め合いの箇所が見える。ケースの上下で鍵状に噛み合っているから左右に引っ張っても外れない。外すにはマイナスドライバー等で篏合部を上下にずらせる
ミシンにせよ他の商品にせよ、筺体を覆うカバーはまずプラスティック製で、普通は左右もしくは上下の二方向から別々のケースが向かい合わせになって篏合されています。
これを二つに外すには、まずケースを固定しているネジ類を全て外してから、篏合されている部分を少しづつ外して行きます。
篏合部分はそんなに多くありませんが、対面する双方のケースがしっかりした嵌め合いになっていて、引っ張ったくらいでは簡単には外れないことが殆どです。
このような場合、まず簡単に外れる部分を見つけて、そこから順に篏合箇所を一つづつ外して行く以外にありません。無理に引きはがそうとすると、篏合部のプラスティック爪を欠いてしまうので、根気よく外して行く以外にありません。
ある程度嵌め合い部分が外れると、後はケースが簡単に変形するようになるので楽に二つに割ることが出来ます。
故障探査と復旧
ケースが外れれば、機械的な動きを追うことで、どの工程で異常が発生するか分かるので不具合部分の探査が容易になります。
釜の右手に小型のステッピングモーターがあった。模様縫いの複雑な布送り制御用
ケースを割ってみると基部に、針を動かすメインモーターとは別に小さなモーターが装置されていて、布送りの移動を制御している様子。機械式ミシンの場合には、すべての機構がメインモーターの回転を受けて動きます。
しかし電子式ミシンでは、多数の模様の様々な布送りの動きを、メインモーターからの機械的な動きをメカ的に切り替えて実現するのはさすがに無理のようで、布送りに関してはこのステッピングモーターが、モーター軸に歯車で篏合する白色のEP部品の角度を変化させることで動きの変化を担っているようです。
この状態で通電して動かしてみると、どうもこのEP部品を駆動させようとすると無理が掛かって止まってしまうように見えます。
手で動かそうとしてもステッピングモーターが噛み合っているのでまるで動きません。ステッピングモーターはローターが永久磁石に引かれているため通電しないと回りませんからこの状態では手で動かすのは無理です。
そこでモーターを固定している2本のビスを外しギヤをフリーにして動かしてみましたがやはり硬い。どうもこの軸が固着しているような様子。モーターはネジ2本でベースとなる送り調整機構に固定されていますが、ベースの送り調整機構は筺体に対して、スプリングを介した吊り構造で固定されています。
EP部品の軸もバネで吊られており、この取付構造からみてこの部分にはかなりの微妙な力が働くようです。詳しい動きは良く分からないので、とりあえずこの辺りの可動部分全体に給油。
固着したEP歯車軸へ確実に給油するには、下写真のように3本のキャップボルト ( うちの一本はスプリングが嵌っていて締め込みストロークで微妙に送り幅調整をする ) を外しモーターの取付部を取り出し、軸先端のスプリングワッシャを外して軸を抜き出し給油しますが、ここまでばらすと歯車軸とモーターの嵌合位置と振り幅が変わってしまい後々の調整がとても厄介なので軸に浸透液を注入後、軸受けの前後にグリスアップする程度に留めるのが良さそうです
もし軸の固着がひどくて取り外して軸を抜き出した場合は、組付けの際、直線縫いで送り幅が最もあらい状態でEP歯車の噛合位置が最も上に来るようにします。この歯車位置が最も下にあると送り板の動きは逆送り ( 返し縫いの状態 ) になります。
手でもスムーズに動く様になったので、モーターの止めネジを緩く締めて歯車を元の位置でかみ合わせて通電試験してみることにします。
もし、元の噛合位置と変わってしまいミシンの布送りが狂ってしまった場合は、先に書いた位置で取付けて見てください。
有難いことに布送り調整のEP部品が動き出しました。モーターのネジを固定して暫く運転停止を繰り返してみましたが問題なく動くため正常に復帰したと判断します。
後は各部の清掃と、目につく可動部全体に薄くグリスアップしてから組み立て修理完了としました。ケースの組付けは分解の時に比べると遥かに楽で、ケースの位置さえ正しく合わせてやれば楽に噛み合ってくれます。
組み立てたらボビンをセットして歯切れに試し縫いを行いますが、様々な模様に対しても問題なく模様縫いができることを確認します。
今回の修理は運よく部品の破損がなかったためもあって短時間で終えることが出来ましたが、先に上げた機械式ミシンの様に機械修理ではこの十倍以上の時間が掛かる場合も有ります。
それでも近年の家電器具や機械の修理に関しては、電子制御系の故障よりは目で見て分かる機械系の故障修理の方が楽なことが圧倒的に多いと言えます。私は電子制御を専門に仕事をしてきた人間なので、このことは嘗ての本業に対する無能を意味するわけですが、年々電子系制御の複雑高度化にはもはや対応すべくもなく老骨を嘆くのみです。