電源トランス修理
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40年近くも前に制作し、長年愛用してきた定電圧可変電源装置が働かなくなってしまいました。16Vのトランス出力を整流してトランジスタで降圧し5Vから18Vまでの定電圧を得るものですが、12Vの小型バッテリーをトランス容量一杯の3Aで定電流充電を掛けていたら知らぬ間に出力が切れていたものです。
内部をチェックするとトランスの1次コイルには給電していますが2次の16V出力が出ていません。トランスは焼損した様子もありませんがトランス断線の症状で、トランスの銘板には温度ヒューズ内臓とあるので定格一杯の電流で数時間充電を続けたため内部温度が上昇してポリヒューズが切れてしまったようです。
トランス過熱保護のヒューズはトランス巻線間に封止されているため、これが切れるとトランスのコアをバラして巻線を巻きほぐさなければ修理の手立てがなく、甚だ厄介なことになります。
ましてや昨今のデジタル万能の時代、安価で効率の良いスイッチングレギュレーターが巷に溢れている中でアナログ的電源パーツの代表とも言えるトランスの修理など、手間を考えればとてもやれるものではありません。
しかし真空管時代から多数のトランスの世話になってきた私としては、ここは一つ直さずには居れないとの気分になってしまいます。真空管はプレートに100~200V前後の直流を、カソードを加熱するヒーターには通常6.3Vの交流を給電して働かせるため、通常 回路を自作する際は、高圧巻線と低圧巻線を持ったトランスが欠かせないものでした。
大型のアンプや無線機の電源トランスは大変重く、アルミシャーシーに組み込んで部品の配線を行うのも大変でしたが今では楽しい記憶です。必要であれば巻数の少ない低圧巻線は巻きほぐして他の電圧に変更したりもしていたのでトランスの分解は手慣れたものです。
昔はトランスにポリヒューズなど内蔵していなかったので、過負荷で外部ヒューズの保護が悪いと、大抵トランスを焼損してしまいましたが、1970年代くらいからトランス内に温度ヒューズを組み込んでトランス過熱を予防するようになったようです。
この度も、暇に任せて昔を思い出しながら、トランスの分解修理を始めました。金枠を外し、絶縁紙を巻きほぐして2次コイル表面にヒューズが実装されていないか確認しますが、もちろんこんな表面にはありません。
実装場所はまず一次コイルの表面なので、二次巻線を解くため、コアの珪素鉄板を外しにかかります。トランスは最終工程で絶縁油に通してあるので鉄板の間隙に油が浸透して固着していますから簡単には外れません。
トランスとコイル巻き枠の間に薄刃のタガネやプラスドライバーを打ち込んで、まず無理やり一枚を引き出します。この一枚は変形させても破損させても構いません。再度組み込む際には、元の枚数すべて組み込むのは困難で大抵1~2枚余ってしまいますから。
後は外した一枚の背後の鉄板をカッター等で本体から浮かして一枚一枚外してゆきます。外したコア鉄板は外した通りの順序で積み重ねて保存します。これをやらないと組み立てた際に組み付けられない鉄板がさらに増えてしまいます。
この度はこの作業に半日ほども掛かってしまいました。高齢のためもありますが、鉄板相互の固着が強いとなかなかはかどらず、手間のかかる作業ですから、人件費などを考えていたら馬鹿らしくてやれるものではなく、安価なスイッチング電源にでも置き換えるほうが遥かに賢明ですが、そこは目を瞑り作業を進めます。
すべての鉄板を外し終えたら二次コイルを巻きほぐします。コイルは復元しますから巻順通りにマーキングしてなるべくキンクしないように保管します。
ようやく一次巻線と二次巻線間を絶縁する絶縁紙の層までほぐしました。ポリヒューズは絶縁紙の下部に巻き込まれている様子です。
絶縁紙も巻きほぐして、ようやくポリスイッチに到着。素子は一次コイルの上に薄いテープで絶縁されて張り付いています。テスターで導通を当たるとコイルは正常、ポリヒューズは当然断線です。
この当時すでにポリイミドのテープがあったものか私には分かりませんがコイルの電位差は9ターン当たり2Vですからこの程度の絶縁膜でも十分のようです。
ポリヒューズの定格は145℃ 125V3A。手持ちにこんな素子はないので、昔ながらの外付けヒューズでの過熱保護で行くことに決めポリヒューズは取り払って銅線で置き換えてしまいます。
接続部分の絶縁処理をしたら巻きほぐしたと逆の手順で絶縁紙を巻き戻しコイルを巻いてゆきます。銅線に巻き癖がついているのでなるべくその癖どおりに巻き戻してゆきますが線径が太いので、巻き込んであったように綺麗に密着巻するのは困難です。
幸いコイルの巻きに余裕が在ったので、多少巻きが荒くなってもなんとか枠に収められそうです。
かなり情けない巻き込みになりましたが、まあ止む終えません。この上に絶縁紙を巻き重ね紙がコイル枠よりはみ出さなければ珪素鉄板を元に戻すことが出来ます。
巻線とコイル枠の鍔の間には多少の隙間があるので絶縁紙を巻き込んでも大丈夫でしょう。組み付ける前にコイルの絶縁耐性を補強するため絶縁スプレーを塗布・浸透させコイルと絶縁紙の絶縁補強を行います。
引出線も絶縁処理をして引き出し口に集め、上から最後の絶縁紙を巻き込み、中間に配線用の端子台を挟んで更に絶縁紙を巻き込んで端子板の台紙は瞬間接着剤で絶縁紙に接着、ポリイミドテープで巻き補強してから配線を半田付けしますが、この辺りの工程は写真を取り忘れました。
コイルを巻き上げ半田付けが済んだら、バラしたと逆の手順で珪素鉄板を一枚ずつ重ねてゆきます。鉄板の表面に絶縁油による僅かな凹凸があるので、厚みを増やさないため鉄板の組付け方向が当初と違えないようにして組み込みます。
幸いコイルの組み込みは巻き枠の鍔の高さ以内に収まりどの位置にも鉄板がスムーズに入ります。この段階まで来てコイル巻きが鉄板と干渉するようでは巻き込みの失敗です。
最後の数枚になるとコイル枠が鉄板で一杯になって簡単にはコ形鉄板を差し込めなくなります。こんなときは反対方向から側板をを差し込んで迎えに行き、鉄板1枚分の隙間を作ってそこに反対からコ形鉄板を押し込んでやると差し込めます。
今回は目一杯頑張っても2枚の鉄板が余りました。その分磁路面積が減少して僅かに磁気飽和しやすくなりますが気にせずこのまま組み付けます。トランス保護のためAC100Vに挿入する外部ヒューズは1Aから0.5Aに改めました。
以上で前時代的なトランスの分解修理はお終いです。手間の係る仕事ですが直せるものはできるだけ直して使うのが私の信条なので今回の修理となりました。