ペール缶掃除機の吸引に使っていた家庭用掃除機のモーターから異音がしだしたため修理しました。異音はベアリングの転輪内部の摩耗損傷か異物混入によるものの様で放置すると直にベアリングがロックしそうです。
掃除機をばらしてモーターを確認すると前面にターボファンを装置した直巻き整流子モーターです。電機子コイルと界磁コイルが直列接続で交流電源につながる構造で、電源極性が変わっても、電機子と界磁と界磁の磁束方向も同時に反転するためトルクの発生方向が一定で直流モーターと同様の感覚で使えます。
モーターを取り出したらまずコンプレッサーでエア清掃します。次にモーター内部を確認しますが、給電ブラシには何ら異常は見られません。手で回してみると途中で回転に引っかかりがあり明らかにベアリング異常の症状です。ベアリングは本体末尾のフランジとターボファンのある負荷側フランジにそれぞれ1個。
ベアリングを抜き出すために本体部分を負荷側フランジに止めているビス4本を取り外し負荷側フランジごと電機子を本体から抜き出します。この時反負荷側ベアリングが本体末尾のベアリングケースに収まっているので本体にプーリ―抜をかけて電機子の軸を前へ押し出します。
ベアリングケースとベアリングの嵌め合いがきついとプレス加工した薄ぺらい本体部分を変形させかねませんが、この部分の嵌め合いはさほどでもなく少し力を加えて押し込むとベアリングこと電機子が外れました。本体を固定して軸に木棒を当てて叩きだしても良いでしょう。
この際、ブラシが整流子に干渉するのでブラシホルダーごとブラシを取り外しておきます。界磁のエナメル線が短かったので線は切断してホルダーを外します。同時にブラシ寸法を確認しておきますが、長さは十分ありスプリングの押し圧も強いのでブラシ部分には手を加える必要はありません。
両者を分離すると反負荷側ベアリングは露出するので簡単にチェックできますが負荷側フランジにはターボファンのケースが圧接されており、ケースを外さなければ負荷側ベアリングにはアクセスできません。
露出した反負荷側ベアリングは手回ししても異音はなく油切れの感触もない、電機子を回してみると明らかに負荷側ベアリングの異常が分かりますがこのベアリングを取り出すにはどうすればよいのか。
私の推察ではファンケースはターボファン側の折り返し襞によってフランジに圧接されているように思えました。もう少し接合部を観察しておればこの判断が誤りだと気づいたはずですが、この段階では分からず誤った判断で襞の折り返しを捲り上げてしまいます。
襞の折り込みの隙間に精密ドライバーを噛ませてすこしづつ折り返しを引き起こし隙間が広がればドライバーのサイズを大きくしてケースの篏合部を抜き出せるようにします。
愚かな話で襞の全周をほぼ直角の位置まで起こして、初めて判断の誤りに気付きました。折り返し部は全てファンケース側の部材でケースのエッジ部を折り返してケースの機械的強度を高めフランジ側の補強に寄与させているだけです。
負荷側フランジ部の筐体は、ファンケースの段付き部に嵌め込まれており、折り返しはファンケースのエッジ部を二重にして絞り込みフランジ側筺体が抜けにくくしている様子、ドライバーを打ち込んで引き出さねばならないのは襞折れの反対側、フランジ筺体と襞折れとの嵌め合い部だったわけです。
誤って襞を起こしてしまったのは仕方がないので、今度は嵌め合い部に刃先の薄いドライバーを打ち込みファンケースを抜き出します。刃先の薄い、はつりポンチがあればよいのですが持ち合わせがないので手近なドライバーを流用します。刃先サイズも1mm程の精密ドライバーから刃先の大きい叩き込み可能な貫通ドライバーまで手持ちがあり、この手の作業には欠かせません。
ケースのエッジの折り返しを起こしてしまったこともあってかフランジの噛み合いは割と弱く何個所か小型のドライバーを打ち込んで隙間を広げケースをプラスティックハンマーで叩いてフランジを引き出す様に動かしていると徐々にケースから外れだしました。
負荷側フランジが抜ければ負荷軸端でターボファンを固定しているナットを外してファンを外し、下にある整流用のプラケースを止めている2本のビスを抜いてケースも外します。
プラスチックの整流ケースを外すと負荷側ベアリングを収めた負荷側のフランジにようやくアクセスできました。フランジとベアリングの嵌め合いは結構きつく外輪部に注油して軸をプラスティックハンマーで叩いた程度ではペアリングが抜けません。
やむなくペラペラのフランジ筺体にプーリー抜を掛けて無理やり抜き出しましたが、フランジとの嵌め合いが堅いため簡単には抜けず薄鉄板のフランジ筺体をかなり変形させて漸く電機子がベアリングこと抜けました。ようやくベアリングの取外しです。
流石国産メーカーの製品で、軸とベアリングの嵌め合いも極めてきつく、工具が無ければベアリングを抜き出すのは不可能でしょう。当然軸とベアリングの間にも一切摩耗はなく無傷です。中華製の作業工具などこの嵌め合いが甘く、すぐに軸摩耗が起きてベアリングがガタガタで使い物にならない場合を何度も経験しています。
ベアリングを抜き出したら、この不良ベアリングを変形したベアリングケースに挿入してベアリング部を叩き、ベアリングケース周辺のゆがみを整えます。ベアリングを収めた面がケース外周の面と平行になるようにケースの歪を修正すればオーケーです。
ケースの修正が完了したらケースを木台の上において木棒でベアリングを叩きだします。一度抜き差ししたこともあって今回はケースを変形させずにベアリングを取り外せました。
負荷側ベアリングも反負荷側と同じ608Z。負荷軸と反負荷軸はベアリングに掛かる負担が大きく違うので、通常は負荷側ベアリングを大きくして反負荷側は一回り小さいベアリングにすることが多いようですがこのモーターでは左右同型でした。
このベアリングは幾つも予備があるので負荷側・反負荷側ともに新品のベアリングに変えます。ベアリング内輪部に叩き棒を当てハンマーで叩き込みますが、棒を当てる位置は一回叩くことにずらせて対角方向に力が均等にかかる様に叩いてゆきます。
軸との嵌め合いがきついので叩き棒を正確に軸に沿わせて内輪部に当てていないと、ベアリングのシールに傷をつけてしまうのでこの作業は十分慎重に行います。
ベアリングを交換したら負荷側ベアリングをはめ込んだ電機子を負荷側フランジに挿入します。フランジに負荷側軸を差込み、フランジのベアリング面を万力の口にかけて電機子の反負荷側の軸端をプラスティックハンマーで叩きこんでベアリングをフランジの底迄挿入します。フランジとの嵌め合いが緩くなってしまった様ならネジロック剤をベアリングの外輪に垂らして固定の助けにしますが、つけすぎると転輪内部に混入する恐れがあるので無理は避けた方が良いです。
ベアリングをフランジに嵌め込んだらバラしたのと逆の手順で整流用プラケースを取り付けファンをねじ止めします。ファンを取り付けたらフランジをファンケースに押し込みます。この際挿入位置がずれると嵌め合いが悪くなるので合いマークが正確に重なる位置でフランジをファンケースに押し込みます。
嵌め込みにくい部分はケースを万力で挟んで叩き棒で叩き込みます。ケースの入り口の襞を起こしてしまったこともあってか割と楽に底まで押し込めました。この状態で電機子を回転させてみてファンがファンケースに干渉していないことを確かめます。
最後に誤って起こしてしまったファンケースの襞を元通り折り込みます。最初はペンチやブライャーで襞を挟んで折り曲げて行き最後は万力の口にかけてある程度元どうりになる様に挟み込みます。
見た目は悪いですがまあ何とかもとに近い形で修復できました。この過程でフランジの噛み合いが甘くなれば再度フランジを叩き棒で叩いてケースの底に押し込みます。
なお整流子が露出している状態の時に整流子表面を800番のペーパーで軽く研磨しておいてやります。このモーターの場合整流子面の荒れは殆どないので必要でもありませんが、組付けてもブラシとの辺り面がズレるので、ある程度研磨しておく方が良いでしょう。
後は蓋が外れないよう篏合部に瞬間接着剤を流し込み乾いたら耐振動用にネジロックも塗布して、電機子軸を回してファンがケースと干渉しないことを確認できればこの部分は出来上がり。
次は電機子を本体に挿入して反負荷側ベアリングを本体端のベアリングケースへ納めます。ブラシホルダー取外しの際、界磁のエナメル線を切ってあるのでこの修復も必要です。
反負荷側のベアリングケースには上写真右隅のベアリングを抑え込むリングスプリングが入っているので入れ忘れの無いようにして電機子を本体へと挿入し本体を硬い平面に置いて電機子の軸を上から木棒をあててプラスティックハンマーで叩きベアリングをケースに収めます。
本体一杯迄押し込めば本体と負荷側フランジを接合するネジ代が無くなるので分かります。本体に最後まで入れば負荷側フランジの会いマークを合わせて4本のビスを締め込み、ターボファンを手回ししてみてスムーズに回れば良しです。
軸に対するベアリングの嵌め込み位置が悪いと回転が堅くなるケースも有りますが、このように安易な薄鉄板のプレス加工筐体の場合はベアリングを軸端迄はめ込んで居ればまず問題は起きないようです。
最後に外してあったブラシホルダーを装着し切断したエナメル線も半田付けすればモーターの修理完成。掃除機に組み込む前にこの状態でAC100Vに接続して正常に回転することを確かめておけば確実です。
後は実装されていた通り電気掃除機に組み込めば完成です。掃除機はケースの細部に埃が詰まりやすいのでバラしてあるうちにケースを水洗いして内部を綺麗にしてやることも大切です。
今回は見た目ではベアリング交換の難しそうなモーターの修理を取り上げました。当初は間違った判断でばらし始めたわけですが何とか正常にくみ上げで以前に比べれば静かで自然な回転音で動作するようになりました。