私の大人の玩具の一つに鉄道模型があります。1/150縮尺のNゲージ模型で、国鉄時代、近くに貨車の振分けを行う亀山操車場があったことから、国鉄の貨車に親しみがあり、模型の大半は国鉄時代の貨車と客車です。
動力車はもっぱら電気機関車とデーゼル機関車で、幼児のころより津駅近辺では見ることが出来なかった電気機関車に深い愛着があり、子供時代、近くを走っていた参宮線や紀勢線の牽引車であった蒸気機関車はあまりにありふれていて興味が持てませんでした。
模型や線路は様々な市販品が出回っているので模型メーカーの製品を買い揃えれば手っ取り早く楽しめるのですが、模型を動かす電源装置となるとなかなか意に適うものが存在しません。レールには多数のポイントが存在し必要に応じで切り替えて動力車の進路を変更しますがこれらを手軽に制御できるシステムがなかなか見当たらないのです。
近年では、動力車や信号、ポイント等の被制御機器にコードを割り当て、レールを送電線と信号線にして各機器をコントロールする省線システムが開発されPC上でレイアウトを描いて各機器をプログラム制御することも可能になっていますが、私がこの電源をこしらえた頃はまだその様な技術の胎動期でしたから、ポイントの制御などは独自に考える必要があり、残念ながら当然制御用の配線が制御対象の数に比例して増えるのを如何ともしがたい鬱陶しいシステムです。
装置の構成は、制御は産業用のPLCとタッチパネルに依っており、電源出力は0~12V 独立5系統。ポイント制御数は独立16基、操作の基本はタッチパネル上で手動操作となりますが、PLCに自動運転のプログラムを投入すれば自動運転も可能です。
プランごとにレイアウトを登録しておいて、レイアウト画面からポイントの切替と状況確認が出来ます。電源出力の入り切りと前進後退の設定は運転操作画面により行い、電源系1~4までは完全独立出力で入り切りと反転出力が可能。系5のみ6つの分岐出力を持っておりそれぞれの分岐で入り切りと反転が行えます。
ポイント操作はポイント操作画面とレイアウト画面のどちらからも行えるが、ポイントの配置や切替状態の確認がレイアウト上で行えるレイアウト画面によるほうが間違いがない。
タッチパネルのポイント表示は切替スイッチと表示灯を兼ねており、ポイントはシステム立ち上げ時の初期設定で本線側に切替ていますが切替スイッチの押し操作がランプ表示に紐づけしてあるため初期状態ではランプ表示はありません。
これらのシステムは産業用の制御機器PLC ( プログラマブルロジックコントローラー ) やHMI ( タッチパネル・プログラマブル表示器 ) で動いているため信頼性は抜群ですが、一般の方には馴染みがない上、プログラムを書き込み立ち上げるためには、メーカー製のバカ高いサポートソフトを必要とするので、とても手軽に利用できるものではありません。
私の場合、この分野を飯の種にしていた事もあって、県下の自動車関連工場の生産ライン改修等で知人の電気屋さんから中古資材を回してもらったりしてこの様なシステムも割と安価に組むことが叶いました。
これを組んだ21世紀のはじめ頃には、組み込んだPLC もHMIもすでに低性能の機材に変わっていましたが、楽しみで使用する分にはその機能の範囲で使ってやればよい訳で、現状手に入り利用できる機材を最大限に用いて楽しむのが素人のモノ作りの醍醐味でありましょう。
私がこの装置に使用したPLCはオムロンの小型機CPM2C-Sでビット列のON/OFF制御が主体の機種ですが、数値制御を必要としない今回の装置には十二分の機能です。
右端がCPM2C-S本体。これだけだと入力6点、出力4点のI/Oしか扱えないがユニットを付加して必要なI/O点数を賄う。今回の装置では利用していないが、この機種は上写真左の省線式の伝送ユニットが使用でき、遠方のI/Oユニットを4線で結べる
今回のシステムでは本体に16点のトランジスタ出力ユニット16ETを3台増設してビット制御入力6点出力52点で用いる。入力はタッチパネル上でPLCメモリーが許す限り如何様にも増設できる
この装置の概略を知ってもらうために、制御回路の回路図を以下に示します。PLCとHMIの電源はノイズ特性を考慮してオムロン製の産業用制御電源ユニットS8VS-03024によっていますが、動力車用の直流電源はハードオフで見つけてきた12V用の直流電源ユニットを使用しています。
上は装置の制御主体となるPLCとHMIの構成と動力車用電源装置の配線系。反転用可逆リレーの制御、ポイントリレーの制御はすべてCPM2C-S の増設出力ET16による
電源ユニットの元の用途は分かりませんが、その多くはPCの電源に使われていたと思われ、極端にノイズが多いものはないだろうとの判断ですが、安易な考えでつまらぬ電源を使っていると発生する交流ノイズのエネルギーで電源供給先の電子回路のコンデンサを破壊したりするので注意がいります。
上はポイント切替用のリレー制御回路。リレーの動作タイミングや復旧タイミング、連続動作時の遅延、電源追突の判断等全てはPLCのプログラムによる。下はPLCのI/O収容。
各系の電源ON・OFFや電圧反転、各ポイントの手動切替などに必要な操作スイッチ及びそれら操作に関わる表示灯の全てはHMI タッチパネル上に配列されているため、外部の入出力としては存在せず上のI/O収容には登場しません。タッチパネル上のスイッチや表示灯はすべてがPLCの内部リレーと紐づけられてPLCのプログラムによって制御されます。
動力車用の電源には下写真にあるように家電品に使われていた12V電源ユニットを4個使っています。取付に難がありますが、100Vのコンセントプラグは切断してプラグ基部に直接半田付けして電源供給します。中古品で何より一個100円の値段に惹かれたものですが、さほど低品質でもない様子で装置に組み込んでもPLCやHMIがトラブルを起こすこともなさそうです。
電源ユニットの容量は1.5A 2台、後は1Aと0.65Aの各1台ですが1.5Aの1台は2分岐してそれぞれに調速装置を通しています。他は1電源ユニットに一つ調速装置を持ちます。調速に使用する電圧コントローラーは中華製の3A DC-DCバックレギュレーターで電圧表示器付で1個400円程度でしたか。電圧調整用ボリュームを外付けしてパネル面から速度調整が行えるようにしています。
21世紀に入って、中華製の電子部品が極めて安価に入手出来るようになったことは、電子パーツをいじる者にとって実に有り難い出来事だった。私は当時、社用で何度か天津に滞在した経験から、中華製品のコストパフォーマンスの高さには目を見張ったものだ
電圧コントローラーの後には、電源極性を反転する可逆リレーセットを9組設けてあります。可逆リレーは前進と後退の2個のリレーセットからなり電源の極性反転の際、電源短絡が起きないよう、反転の際にはPLCによって一旦前進・後退共にリレーを開放して電路を開き、その後で前進側もしくは後退側のリレーを投入するシーケンスが組んであります。
1.5A容量の電源は、どちらも1.5Aの全負荷で12V出力だが、他の2台はトランス降圧かDC14V出力するので調速ユニットの出力は12Vまで上げられる
複数の独立電源を有する必要は、レイアウトの配置によって電圧短絡の起きるギャップ区間に独立して送電するためと、独立したループ線路区間で異なる速度で車両を走行させたいからです。
動力車用の電源と比べれば、ポイントの切替は切替用のソレノイドに一瞬通電してやるだけなので電源の要求は軽く小型のトランスで賄えます。今回は14VX2の小型トランスをブリッジダイオードで全波整流して正・負2電源を作り、コンデンサにチャージした電荷をリレー接点でポイントコイルにつないで放電させる簡単なものです。
上の回路図で分かるようにP0からP9までは左右2つの切替方向に対応して+P n -Pn と2つのG2Rリレーを対応させ何方かが働けばその方向にポイントが切り替わる仕組みで、こちらは独立した2つのリレーの動作が切替方向に対応していて、リレーの通電も切り替える一瞬だけ動作すれば後は開放してコンデンサーにチャージします。
左側10個の1C接点・G2RリレーはP0~P9のポイント左右の切替に対応しPLCにより時限動作し常時は切れている。右上のMY4NがP10~P14の切替で、こちらはON-OFFが左右の切替に対応する。中央左の2C接点・G2Rリレーは動力車電源9分岐の反転用可逆リレーセット
一方P10からP14は、一個のリレーで切替えるためリレーの動作が切り替え方向に対応し、2200μのコンデンサをポイントソレノイドを通して充電するか放電するかによってポイント切替を行います。正直手持ちのG2R型のリレーが底をつき、取付スペースも無くなったため、G2R2個分をMY4N1個で間に合わせたものですがこのため切替ミスが起きると、一旦反対方向に戻した状態から再度リレーを動作させないとポイントの再動作に入ることが出来ません。
以上で装置の説明はお終いです。タッチパネルのデザイン、運転操作制御、ポイント制御や自動運転制御はPLCとHMIのプログラム設定に関わるもので産業機器の構築環境がないと一般的ではないので、ここでは一切触れません。
現今であればPCで統合制御できるインターフェースシステムが開発されていますから、今後はそちらが鉄道模型制御の主流となることでしょう。