かみさんの使っていた腕時計が動かなくなってしまった。安物ですが就職した娘が伊勢参りの際に買ってくれた記念の品で廃却するのも惜しいので修理することにしまた。
私はこれまで機械式、クオーツ式の腕時計を幾つも修理してきましたが、近年では手先の動きが怪しくなって小型時計の分解・組み立ての自信もなくなってきたのですが一つやってみることにしました。
症状
リューズを引き出して手動で時間合わせは出来るものの、電池を変えても針は動かず、内部を見ると電池の液漏れでムーブメントの金属や文字盤のアルミが腐食して酸化塩を吹いており、どうやらクオーツ基板周辺回路が塩で浸食された様子です。
クオーツ腕時計の故障の多くは、電池を装着したまま長期保存したため電池が液漏れし、電解液が金属部分を腐食して電気回路接点の接触不良や基板の断線を引き起こすことで発生します。
腐食の初期で軽微な場合は、電池ホルダー周辺の清掃・洗浄と電池接点の研磨・洗浄で回復しますが、腐食が進むと基板のプリントが侵されるので修理が厄介です。
まずは裏ブタを外した状態で内部を洗浄し、電池ホルダーの電極部分を研磨してみましたが回復しません。この時計のムーブメントは金属部分に薄く金メッキが施されている様子で腐食の耐性は高そうなのですが動く様子がありません。
クオーツ基板の腐食が疑われるので、基板を取り外して確認しましたが金メッキされた基板のパターンは美しく腐食を受けた形跡はなし。やむなくクオーツ基板周囲の励磁コイルに至る端子・配線をチェックしてみてもそれらしい異常個所は見当たりません。
上写真、左上がクオーツ基板、右上は電池電極、時計本体の下部にあるのが励磁コイル。パルス電流を受けて内部の超小型ステップモーターで時計を回転させる
基板の背後にはリューズの時刻合わせと連動して、基板上の端子部分をスライドするアームがついています。時刻合わせの際に時計の動きを止めるためのスイッチですから、この動きに問題があると針が動かなくなる可能性があります。
リューズ軸の動きに応じて、上写真では左端のアームが左右に動く。この位置にはボタン電池のプラス側電極がある。下写真ではリューズ軸の動きで右下の接点アームが動く。
このアームに接触不良がないかを確認しましたが、腐食の形跡は見当たらずリューズ軸に連動してアーム先端部の接点も切り替わり動作しています。
ひとまずアームの接点部分を清掃・洗浄、アームが接触するプリント基板面も洗浄スプレーで洗浄・清掃する。
アームが接触する相手の基板・プリント配線表面を再度拡大観察しても問題点は見られないため洗浄して組戻しますが、その前に励磁コイルの断線がないかをテスターで確認しておきます。
モジュールの駆動電流は数mSのパルス幅・1mAほどの尖頭値で0.5s間隔の交互電流のはずですから1mA以下の導通電流のテスターモードでコイル接点の導通を測定します。アナログテスターならX100モード、コイルが正常なら導通電流が流れると、瞬間的に内部の回転子が動くのが分かります。
基板に直接1.5V を供給して発振するか確認することもできますが、この小さい基板に電源やオシロのプローブをピンポイントで立てて、動作観測するほどの根性も器用さもないので基板は未チェック。
ただし過去の個人的経験から見ても、この手の小規模の電子回路が壊れる率は少なく故障原因は他所にあると考えられます。
結局問題点は見つけられませんでした。
クオーツ基板の腐食は見られないものの、ムーブメントの背後には腐食が広がっている様子なので、リューズのつまみを外してムーブメントを取り出し、針を外し、文字盤を剥がしてムーブメントの裏面を清掃します。
リューズツマミはリューズ軸を小型のプライヤー等で挟み、リューズの頭を反時計方向に緩めます。針は文字盤や針の表面を傷めないようにピンセットで軸取付部を挟んで外すか、精密ドライバーを軸基部にかけて上に浮かすようにして取り外します。
ムーブメントは国産 MIYOTA のSUPER 2035、 2035は非常に多くの小型腕時計に実装されているムーブメントでSUPERは金鍍金されているからかも。以前中華通販で買い入れた品があるから、最悪こちらと交換すればよいがこちらは鍍金なし
物が小さいので、鏡下で精密ドライバーと綿棒を使って電解液の塩と鉄錆をそぎ落として行きます。金鍍金されたムーブメントの筐体は全く腐食を受けていないが、筺体に埋め込まれたピンやネジの端面が激しく腐食して真っ黒になっているため、油を滴下して綿棒でそぎ落とした錆を取り除きます。
最後は洗浄スプレーで内部を洗い、軽く油を塗布して終了。あとは分解した逆の手順で組み立てます。針の取付は手先の器用さがないと作業が難しいので自信がなければやめた方が無難かもしれません
文字盤はゴム系の接着剤でムーブメントに張り付け、最後に針をすべて12時の位置に取り付けてケースに収めます。針の取付はピンセットで挟んで軸穴に収めるか、指先に貼り付けて軸穴に収めます。うまく穴に嵌ったら木の棒などで針の塗装を傷つけないように上から抑え込んで確実に軸穴に挿入します。
ここまでやって動かなければ最早私の手には負えませんが、電池を入れて確認するとありがたや針が動き出しました。原因は定かではありませんでしたが、こまめな清掃と洗浄が私の気づかなかった故障要因を解消したものと思われます。
手間をかけて修理しても復旧しない場合はほんとにがっかりして、疲労感に襲われますが今回の様にうまい具合に回復してくれると作業のし甲斐があった訳で我ながら嬉しいものです。