ディスクグラインダー RYOBI G101修理
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症状
手で回してみても、ヘッドが固着して回らない。バラしてみるとヘッド軸は油切れで完全に固着、モーター軸もベアリングは油が抜けて回すとシャーシャー情けない音がします。金属同士の高い転動音が聞こえだしたらベアリングと内・外輪間の金属摩擦が進みベアリングは寿命といえます。
界磁部分もブラシ粉やホコリが固着して真っ黒で絶縁が保たれているのか怪しげな状態です。
対応策
まずは分解清掃してチェックし修理可能な部分を確認して直すべきかどうか判断します。機械系は修理と言っても交換可能なベアリング交換とグリスアップくらいです。
分解したら各部エァー清掃し、電気系は洗浄スプレーでコイルに固着したカーボン粉等を洗い流します。電気系は界磁が真っ黒に焼けており焼損の可能性もあります。先に電気系をチェックして断線や接触不良が見つかればまず先にこちらから修復可能か調べる必要があります。
ヘッド負荷軸の固着はベベルギャケース内のグリスが完全に乾燥して固まっていたためで内部清掃に依って軸は回転するようになりましたが、負荷側のベアリングはグリス抜けで異音がする状態です。
手で回すと油抜けのシャーシャー音がひどい。ただ最近のグラインダーはヘッドのベベルギヤが軸に焼き嵌めされており、まず交換不可能です。以前もマキタ9520Bでこの部分のベアリング交換が出来ず不快な思いをしたものです。
この部分を交換しようと思うとベベルギアの付いたヘッド部ごと交換せねばならず、安価な新品を買うほうが安上がりだというバカバカしい事になってしまいます。
実際試してみましたが、ベベルギャは全く引き抜けずベアリング交換不可。油に浸けてベアリング内部に油を浸透させる程度の対策しか取れず、たとえ修理しても無理な使い方は出来ないようです。
もう一つの問題はモーター軸負荷側のベアリング嵌め合い面が摩耗して軸がガタガタの状態です。まともな修理を考えるなら、軸を溶射して削り直すか、軸を削ってスリーブを焼き嵌めして削り直すなどの策が必要です。
次に最も気になる電気系のチェックを行います。絶縁劣化を招くカーボン粉はエア清掃と洗浄スプレーで取り除きますが、目視点検では整流子は飴色の酸化被膜が形成されてさほど悪い状態とは思えません。
抜き出した電機子のコイル部分も焼け等は見られず特に問題がありそうには思えません。問題は黒く変色している界磁コイルです。
見た目にも、焼損した感じで果たして電気的に問題ないのか。界磁コイルは上下の2個がセットで全く同じものですから両者の比較ができます。
まずコイルの導体抵抗を当りますが損傷して断線したりショートしていれば両者の値が違ってくるので分かります。
但し抵抗値は小さいので通常のテスターではあまり正確な値は出ません。幸い手元にあるマルチメーターは4W式なので抵抗値が1/100Ω辺りまでの信頼性で測定できます。それぞれの界磁コイルの抵抗値は0.680Ωと0.683Ω 差は0.003Ω (0.44%)と両者のズレは1%にも満たないのでコイルの巻線の断線や線間ショートの問題はなさそうです。
次は巻き枠の金属筐体に対する絶縁劣化で、台風などの浸水の際モーターが水没すると良く見られる現象ですが、こちらは500Vメガーでコイル、筺体間の絶縁を測定して無限大なのでまず問題なし。
どうやらこの状態で組み付ければ特に問題は無さそうなので。絶縁スプレーを塗布し、かなり危なげな引き出しリード接続部の修理を行ってから組み付けて様子を見ます。
ブラシも限界寸法線迄はまだかなりあるので特に交換の必要もありません。まずはこの状態で組み込みます。
交換可能なベアリングは交換します。実装品はNACHI製の深溝玉軸受 モーター軸はベベルギャ側6200ZE、整流子側626Zどちらも片面シール、負荷軸は反負荷側がシールなしの626、肝心の負荷軸は残念ながら取り外し不可。
マキタ等は負荷軸端には耐荷重の高いニードルベアリング(針状ころ軸受け)を使っていたりするが、安価な製品は深溝玉軸受け。すべて予備があるので新品と交換します。
ベアリングは国産のNTN、Nachi等信頼できるメーカーであれば外径、内径とも寸法公差は極めて正確なので、軸やベアリングケースからの抜き出しはベアリングプーラー等の専用工具を用いないと難しく、はめ込みもウレタンハンマーや叩き棒で叩きこまないとまず入りません。
上は中華製639Z(表記はZだが製品はZZ)以外はすべてNTN製のミニチュアベアリングだが内・外径の公差は極めて正確で、測定しても測定誤差の範囲になる
これをアマゾンなどで売っている中華製の怪しげな商品を買ってしまうと、時には外径、内径ともおよそ国産品では考えられない酷い公差で、軸にもケースにもスコスコ入ってグラグラ、凡そ使い物にならず、多分規格外品や取り外し品を集めて販売しているのかと疑ります。
こちらはAliexpressとAmazonで仕入れたメーカー表記の無いミニチュアベアリング。正確に公差の出ているものもあるがダメなものも交じる
私は中華商品のコストパフォーマンスの高さをよく承知しているので、色々な中華製を買い入れますが、こと機械に組み込むベアリングに関しては正直今一つ躊躇します。
ベアリング交換を終えたら組み込んで回転確認しますが、6200Zの嵌るモーター軸は軸が減径してしまっているので、ポンチで表面を荒してネジロックを流し無理やり固定します。
瞬間接着剤であればより強固に固着しますが、問題が生じて次に外そうとする際接着が強くて苦労するのでとりあえずネジロックで誤魔化します。ギアヘッドにはグリス充填して完了
組み込んで試しにPWMスピードコントローラーを通して低速で回転させてみました。ところが回ることは回りましたがブラシは激しく火花を引き、たちまち異臭がしだして回転音が落ちだします。明らかに何らかの電気的トラブルを抱えている様子なので、やむなく停止、再度分解調査となりました。
モーター部の電気的チェックは、先にやった筈だがと情けない思いで再度分解、絶縁が悪そうだった界磁コイルが絶縁破壊でもおこしたかと想像してまず界磁を当たる。
直巻整流子モーターは、界磁と電機子が直列につながるので簡単に抵抗チェック出来ので、とりあえずテスターでチェックを入れたが抵抗値もバランスしていてそれらしい問題点も見られない。
此処に至ってようやく問題が電機子に有ったらしいと気付いた。
分割巻の電機子には12個の溝が切られて、各溝には、コイルが巻かれていて一つのコイルの巻き終わりと、次のコイルの巻き始めが整流子で接続されて、一つのコイルが巻き終わると、順次次のコイルと整流子へ移ってゆき軸を一回転して12個のコイルが一巡すると、最後のコイルの巻き終わりと最初のコイルの巻き始めが最初の整流子で接続されてコイルが環状につながる。
一つのコイルの中間からはタップが出て独立した整流子に収容されるので整流子の端子数はコイル溝の2倍、24。各コイルは他のコイルと対称だから同じ間隔の整流子端子間であれば電気的特性は等しく抵抗値も同じ値になる。
隣接する整流子端子間ではほぼコイル半分の導体抵抗だからコイルの断線があれば整流子間抵抗を測れば簡単にチェック出来る。
本来界磁のチェックを行なった際に測定するべきものだが、電機子の見かけにとらわれてチェックを怠ったものだ。外した電機子にテスターでチェックを入れてみると一目瞭然。コイルの2箇所で断線とショートが発生していることが判明した。整流子間短絡は、整流子の溝にカーボン粉が蓄積して生じる可能性もあるが断線はコイル内部で発生しており電機子の表面観察では全く分からない。
電機子のコイルは分割された溝の間にたすき状に順次コイルが巻き重ねられ、樹脂で固められているから、不良部分のコイルを巻き解いて修理するのはまず不可能、修理しようとするならコイルを全て取り外し、全てのコイルを巻き直さなければならない。
手間も掛かるし何より近年では銅価格が高騰して昔の5〜6倍もする。コイルの巻き直しをやれば40〜50mの被覆銅線がいるから経費も馬鹿にならない。当初からチェックして分かっていたら修理などやらず廃棄しただろう。コイルの線径は0.45mm前後か。
分割巻きされたコイルは、先の図にも描いたようにコイルの溝から軸を挟んで反対方向の溝との間に導体を掛けて一つのコイルを巻き、順次溝をずらして12個のコイルが重ねて巻き込まれている。このため給電点に当たる対称位置にあるコイル巻線が重なる率も高く、コイルの絶縁が劣化すると整流子荒れ等で生じた過渡電圧で近接部分にスパークが生じ絶縁破壊、ショート、断線に至るケースがある。
表面からは電機子巻線に異常な箇所は見られず、断線、ショートが生じているのは重ね巻きされたコイルの内部であり配線をばらしての修理は不可能、何とも情けない結果になったものだ。しかしここまで手を掛けたものを破棄してしまうのも腹立たしい。そういえば昔ブラウン管TVから回収した消磁コイルのエナメル線が多量にあったことを思いだしコイルを巻き替えてやる気になった。
消磁コイルのエナメル線は長さは十分だが線径が太い。既存のコイルの線径は0.4~0.5mm、はたして線径を計ってみると0.8mm近くありとても既存のコイルのように巻き込める太さではない。より細い導体としては、以前ソレノイドを巻いたときに使った0.4mmのポリウレタン線があるのだが線長が20m程度しかないからコイルの全数巻き換えには難しい。
とりあえず電機子のコイル部分を取り外して何ターン巻かれているかを確認する。まずは整流子のコイル導体を切り取り軸に装荷された冷却ファンと整流子をプーリー抜きで取り外す。コイルは樹脂で固まっているからグラインダーで導体をすべて斬り裂き取り外す以外に方法はない。
コイル導体を電機子の溝から抜き出すために、端面を削りフラットにして溝の内部に詰まった導体を叩き棒で抜き出す。封入された樹脂にもよるが、大抵は少し叩くと簡単に溝から外れる。
コイルの導体数は、このモーターでは一溝辺り44ターン。溝には2個のコイルが収容されているのでコイル一個あたりの巻数は22ターンとなる。溝の形状からコイル導体の全長を概算すると43m前後、手持ちの0.4mm線材は20m程度だからほぼ半分の巻数しかない。導体を買い入れて巻き直すくらいならチャイナの可変速グラインダーが五千円強で変えるからそちらを買うほうが遥かに賢明だろう。それなら手持ちの線材で巻いてしまえとの結論になった。
ターン数はほぼ半分だから同一電流では電機子の磁束は半分となりトルクが大きく低下する。当然直列に入った界磁に対する電圧のバランスも崩れるからむやみに電圧を上げることは出来ない。幸い私は石材研磨にデイスク回転を落として使う事が多いので調速器で使えば実用になるかもしれないとの考えだ。
実際に溝に銅線を巻き付けてみて1ターン当たりの長さを図ってみるとコイル1個あたりのターン数が12ターン程なら手持ちの線材でもなんとか間に合いそうなので一枠12ターン、6ターンでタップを出してやってみることとした。正規の巻数の半分だから上手くゆかずとも仕方のない作業だ。
更にベベルギア側の6200ベアリング軸の摩耗も軸を旋盤で10mmから9mmへ削り落としベアリングを外径30mm内径10mm幅9mmのスタンダードな6200ZZより外径30mm内径9mm幅10mmのミニチュアベアリング639ZZ(チャイナ製の怪しげな製品でシール表記は639Zだが実際は両面シール639ZZ)へ交換し軸のガタツキを抑える。
幅が1mm増えるがベアリングケースの押えが少し飛び出すだけで実装上の問題はない。軸はギャヘット投入の際無理がかからないようにローレットを刻みベアリング挿入を助ける。必要ならヘッドを差し込んだ後ローレットに瞬間接着剤を流し込めばまずガタツク心配はない。溝には鉄心との絶縁を確保するとともに巻込を楽にするため絶縁シートを挿入してゆく。コイルの引き出し線は必要なターン数巻き込めばその都度整流子に接続してゆくので軸には整流子も取り付けておく。
溝には鉄心との絶縁を確保するとともに巻込を楽にするため絶縁シートを挿入してゆく。コイルの引き出し線は必要なターン数巻き込めばその都度整流子に接続してゆくので軸には整流子も取り付けておく。
また引き出し線は軸に沿ってに巻き付けながら整流子へ収容するので巻き重ねによって導体に無理がかからないように、軸に撚り糸を巻き込んで少し太くした。
環状コイルには軸を挟んで対向する整流子より2方向のコイル列に給電されるので、電機子は12個のコイルが作る合成磁界が生じて、この磁界と界磁が作る磁界との相互作用でモーターが回転する。電機子が最大のトルクを発生するのは界磁の作る磁束方向と電機子の磁束方向が直交するときだから、整流子に対するコイルの収容位置はモーター界磁の磁束方向と、給電ブラシ間を結ぶ直線の方向によって決まる。
このモーターでは界磁の磁束方向と給電ブラシを結ぶ直線とは直交しているので電機子の磁界は整流子の給電方向となり、私は整流子をコイル溝の位置から10端子ずらして収容した。
老化が進み何事もチェックしてゆかないと気がすまぬ質なので、わざわざチェックリストをつくり巻き回数と端子の半田あげをチェックしながら作業を進め結構な手間をかけて巻き上げた。
整流子の対角位置に定電圧電源より給電して磁界方向のチェックを行う。先に上げたベクトル図15°の補正が効いてほぼ給電方向に磁界が生じているからまず大丈夫だろう。
巻き込む際に使った絶縁シートの表面を切り取り、絶縁コーティング剤を塗布する。
後は溝の導体が回転に伴う遠心力で溝から飛び出さないように溝にプラスチック片を挿入する。
更にコイルの前後の胴体をより糸で固定して、絶縁コートを塗布してからコイル周囲や溝に樹脂を流し込んで固めてしまう。
以上で電機子の修理は完成。筐体に組み込み調速器を等して低速回転させる。
給電ブラシより少しスパークがあるので再度電機子を取り外し旋盤で整流子面を0.1mmほど削り、800番のペーパーで表面仕上をする。
スパークはほぼ収まり、ブラシの当たりを取るために低速で10分程慣らし運転をしてようやく修理完成。電機子はメーカー仕様から大幅に変更されているからどの程度使用に耐えるものか今のところ不明だが、石材の低速研磨用に時折使ってみて様子を見ている。
あくまでも、手持ちの材料でどの程度の動作が可能なのか興味半分で行った修理のため動作の信頼性を求めるのであれば、正規の巻回数を正規の線径で正しく巻くのが正解だろう。