分科会①
読みの主体性をひらいていく入門期の学習指導の取り組み
読みの主体性をひらいていく入門期の学習指導の取り組み
語り手になって読む「サラダでげんき」の授業
—もう一人登場させてみよう—
大釜雅子(豊中市立豊島小学校/現任校 豊中市立少路小学校)
「サラダでげんき」は「魔女の宅急便」の作者として著名な角野栄子の作品である。主人公のりっちゃんが、病気のお母さんのために、何かいいことをしてあげたいと思い、元気になるサラダを作ることから話が始まり、サラダを食べたお母さんが再び元気になるという構成で作られている。今回報告するのは、この教材を読み深める方法として、関心や意欲を持って語り手になり、物語にもう一つ新しい場面を付け足すという部分的な物語創作に取り組むことを組織した授業実践である。
基礎読解段階では、①初読前に内容を予想する活動、②場面と場面を項目ごとに比較する活動、③登場する動物の順序や法則性について考える活動を行い、子どもたちの物語内容や物語構造の理解を促進した。言うまでもなく、「サラダでげんき」は、連続反復型のプロット構造を持ち、低学年(入門期)の児童にとって構造を理解しやすい教材である。その繰り返しの構造パターンを、創作のテンプレートとして用いることによって、入門期の小学校一年生でも、「語り手体験」(創作活動)を楽しむことができるのではないか。今回の実践報告の中心は、こうした問題意識への挑戦である。
本時の目標としては、「サラダでげんき」に出てくる動物たちが教えたことをもとに、新しい動物を登場させた物語を書くことができる」とした。児童は、語り手となり物語に出てきた動物の「入り方」「音」「入れるもの」「食べるとどうなるか(効果)」の繰り返しパターンに、自らが選んだ動物を当てはめ、新たな物語を創作する。児童の作品には、「どんな動物を登場させたいか。」ということよりも「~ができるようになるからこの動物にする。」といった、理由にこだわり動物を選び、物語の創作をするといった「書くこと」だけでなく、「読むこと」の深まりも見られた。今回は、生活経験が物語創作につながった児童、読み聞かせがきっかけになった児童、友達との交流の中で意欲が出て書けるようになった児童、これら3人の児童作品を分析対象として取り上げながら、児童が語り手になり創作活動を行う営みによって展開する読みの授業の効果や可能性について考えていく。
一年生からの批判的読み
—「子どもをまもるどうぶつたち」より—
藤原恵美奈(豊中市立箕輪小学校/現任校 豊中市立南丘小学校)
「説明文」と聞くと、みなさんはどのような指導法を思いつくのだろうか。
私は、以前「要約をして意味があるのか。」と児童に聞かれたことがある。当時は、内容理解や要約のみに力を入れ、児童が主体的に取り組めるような単元を設定することができなかった。この実践報告では、今までの「要約主義」から転換し、新たなアプローチとして、入門期の小学一年生から取り組む『児童が主体的に読む、書く』ための「批判的読み」の活用についてである。
「批判的読み」は、高学年以上の実践が多い。ましてや、一年生の実践は見たことなかった。だが、高学年ではじめて「批判的読み」をおこなっても読み 方に慣れず、時間がかかったり、内容理解が不足したりすることがあった。このことから、入門期の小学一年生ができる「批判的読み」に親しむための単元を設定した。
「批判的読み」とは、読者が、筆者概念を持ち、文章の内容や構造の妥当性や信憑性を検討し、自らの考えや情報を根拠に、文章の主張や論理的な展開について判断する読みである。これだけを聞くと、到底一年生には難しそうであるが、この単元では、「筆者の成島悦男さんにアドバイスの手紙を書く」というゴールを設定し、自分が筆者にアドバイスするためには、どのように読み進めればよいのか、児童と共に確認をしながら進めてきた。
『子どもをまもるどうぶつたち』の筆者は、井の頭自然文化園園長の成島悦男である。図書館に置いてある図鑑などの監修を多く手がけている。本教材は、「問い」「答え」「まとめ」の構成を持ち、二つの動物の特徴や子どもの守り方の違いについて述べている。また、特徴的な仕掛けである、説明文の扉の「ライオン」をベースとして読み進めることで、「ライオン」の子どもの守り方と比較して「オオアリクイ」「コチドリ」の子どもの守り方が紹介されている。 筆者の立場に立って事例の順序を考えるための比較方法やICTの活用方法についても触れていきたい。また、本実践から見えた、成果と課題から改めて「批判的読み」について考えていく。