ワークショップ
国語科教科内容を耕す教員研修の開発
国語科教科内容を耕す教員研修の開発
※参加申し込みの際に、参加を希望するワークショップをあらかじめ選んでください。
ワークショップ①文体・話体に着目した教材テクストの分析
井上博文(大阪教育大学)
会場:みらい教育共創館302
教材テクストを、物語られた内容や情報だけではなく、”語り方・述べ方・書きぶり”に注目してみると、作品がいかにつくられているかが見えてきます。そして、読んでいるつもりでいて、語り手・書き手にひそかに誘導され、そのように読まされていることに、はっと気づくことがあります。
テクストの言語的な特徴と読み手の感性とが出会って、なんらかの「文体」印象が喚起されてきます。話し言葉では「話体」と言うこともあります。それぞれのテクストを読むと、それぞれが“なんか”違っていることに直感的に気づきますが、どこがどう違っているかを言語化しようとすると、なんとももどかしく感じてしまう経験があると思います。そんなもやもや感を少しだけ解消できる時間になると思います。
このワークショップでは、物語テクストを題材にして、言語表現を比較することで、テクストの文体を捉えることを試みます。それは、物語世界を立ち上げている言語表現の“地肌”にせまることとともに、文体の相違によって、どんな印象が喚起されるかを確かめることになりましょう。言語感覚を研ぎ澄まして、文体に着目した教材分析を楽しみたいと思います。
(1)文体についての基礎知識 20分
(2) グループワーク①テクスト間の相違 「かさこじぞう」と「かさじぞう」 20分
(3) グループワーク②テクスト内の相違 「ないた赤おに」 30分
(4)まとめ 20分
ワークショップ②「再話(解釈)」行為をうながす創作学習の提案
—『イソップ寓話』をめぐる二つのワークショップ—
成實朋子(大阪教育大学)・小路口真理美(大阪教育大学)
会場:みらい教育共創館402
現今『イソップ寓話』として伝えられている多くの話は、明治の頃より日本において国語や道徳の教材となり、「狐と葡萄」「肉を運ぶ犬」「亀と兎」(作品名は中務哲郎訳『イソップ寓話集』(岩波書店)による)といった作品は、繰り返し教材として用いられてきており、江戸時代に出版された『伊曾保物語』を用いて古典入門とすることも多い。
今回は『イソップ寓話』の中から、特に「肉を運ぶ犬」を題材として選び、二つのワークショップを企画した。
前半(成實担当)においては、明治期の児童雑誌「少年世界」に掲載された巌谷小波による「新伊蘇普物語」を用いた創作のワークショップを行う。「新伊蘇普物語」は読者から寄せられた二つの事項(二題)を組み込んで小波が「イソップ物語」になぞらえて話を作るという趣向のものであり、これは同時代の中国・上海で出版されていた『蒙学報』に翻訳の上掲載されていた。本ワークショップにおいては、小波の創作の形式に倣い、寓話を創作することによって、「イソップ物語」に代表される寓話の形式と特徴について学ぶ。
後半のワークショップ(小路口担当)。フランス文学者・哲学者の河野与一氏は、自著訳である『イソップのお話』(岩波少年文庫)あとがきに、「お話の一ばんしまいについている教訓が、今日の私たちのかんがえかたからみてなっとくのいかないものも、すくなくありません。(中略)このイソップのお話の教訓については、みなさんが、これをそのまま、うのみにしないで、よく考えて読んでくださることを希望いたします。」と述べています。
そこで、後半のワークショップでは、1876年、西欧人の中国語学習の入門書の意味合いを持って作成された『漢訳伊蘇普譚』(香港英華書院原刻)に、阿部弘国が訓点を施した漢文テクストを翻訳する過程を経て、作品に描かれている①人間の本質②リアリティを失うことなく、物語の結末は変えないが、視点人物を変える、一歩引いてみる、現代社会から見るなど、視座を変えて、原典のオマージュを書くワークショップを行います。河野氏の言う「うのみにしない」読み、すなわち、批判的な読みを、参加者の皆さんと試みてみようと思います。
ワークショップ③古典文学教材への新しいアプローチ
—「春はあけぼの」・「仁和寺にある法師」を用いて—
堀 淳一(大阪教育大学)
会場:みらい教育共創館506
小学校から始まる古典文学の授業において遭遇する確率がすこぶる高い定番教材『枕草子』「春はあけぼの」、『徒然草』「仁和寺にある法師」。そこで教師がかつて受けた授業の記憶、あるいはこれから与えようと考える授業の計画はどのようなものでしょうか。あまりにも「おなじみ」の素材であるがゆえの「おきまりの型」によって処理しようとはしていないでしょうか。各種の注釈書や授業実践に目を通しつつも、それらを教師各自が授業として組み立てる際のハードルの高さゆえの躊躇が生じていないでしょうか。
その恩恵をしっかりと享受してきたはずの人文学系専門研究者の一部が古典教育は不要であると説くような現在の状況においても、これら二つの教材は学習者の記憶に足跡を残し続けるはずです。そこに含まれるあらゆる情報を小中高各学校の児童生徒たちの言語活動に組み入れる道筋についてワークショップを通して考えてみます。教科書が示す目標や課題についても再検討し、初歩のアプローチから高度の探究に至るまで網羅可能な視点の獲得を目指します。
「春はあけぼの」は現行教科書の一部等が示す「自由なスケッチ」形式との見解に惑わされがちですが実際は技巧に満ちたレトリックの結晶体であり、かつ最重要の日本の二つの美意識「をかし」「あはれ」も含まれています。これを小学校国語科で扱う意味は絶えず問い直されるべきでしょう。
「仁和寺にある法師」も「春はあけぼの」同様に作者が周到に張り巡らした伏線や潜在する情報に気づかぬままに授業を進めてしまい、結局単なる「教訓話」としてゴールを設定してしまうケースも多いようです。
二つの教材は現代そして未来においても生き続ける美意識や、説得、コミュニケーションの技法を含んでいます。だからこそ強い生命力を保っているとも言えます。これらを児童生徒にいかに効果的に提示することが可能か、ワークショップで検討してみます。
(1)扱う教材についての再確認 20分
(2) グループワーク① 「春はあけぼの」30分
(3) グループワーク② 「仁和寺にある法師」20分
(4)ふりかえりとまとめ 20分
ワークショップ④物語・小説教材の〈何を〉〈いかに〉読むかを語り合う
山元隆春(広島大学)
会場:西館講義室A
【概要】
理解のための「道標」(繰り返し、回想、予想外のこと、アハ体験、難題、賢者の言葉)と核となる質問を使って短い文章を読み、読んでいる間に「文章のなかに何があるか?」「読者の頭のなかで何が起こるのか?」「読者の心のなかに何がうまれたのか?」ということを語り合って、読者同士で各自が「いかに」読んだか、読んでいるかを知るというワークショップです。読者各自の読む行為を自己評価あるいは相互評価する試みでもあります。
【ワークショップのための共通の文章】
(当日、紙媒体のプリントで配布します(終了後回収します))
【スケジュール】(予定)
①オリエンテーション 15分
②【全体・ペアワーク・共有】文章のなかに何があるのか?―繰り返し、回想― 30分
(休憩5分)
③【個人・ペアワーク・共有】読者の頭のなかで何が起こるのか?―予想外のこと- 30分
④【個人・グループワーク】読者の心のなかに何がうまれたのか?-アハ体験、難題、賢者の言葉- 30分
⑤まとめ 10分
【全体・ペアワーク・共有】文章のなかに何があるのか?-繰り返し、回想-
Q「この文章は何について書かれているか?」「誰が語っているのか?」「書き手が読者の私に知って欲しいことはなにか?」
《道標》繰り返し…その作品のなかに繰り返しあらわれる言葉やイメージ/「この作者はどうしてこの言葉やイメージを繰り返し使っているのか?」
《道標》回想…登場人物が回想する箇所/「この回想はどうして重要なのか?」
【個人・ペアワーク・共有】読者の頭のなかで何が起こるのか?-予想外のこと-
Q「この文章の何にびっくりした?ハッとした?」
《道標》予想外のこと…ある登場人物の、自分が予想していなかった振る舞いや考え、その場面設定のなかの一つの要素が自分の予想と違うところ/「この語り手や登場人物はどうしてこんなふうに行動する(感じる)のか?」
【個人・グループワーク】読者の心のなかに何がうまれたのか?-アハ体験、賢者の言葉-
Q「この文章を読んで自分の考えや行動や感情がどう変わったか?」
《道標》アハ体験…何かのきっかけで、それまで理解できなかったことが突然理解できたり、ひらめいたりする登場人物の体験/「そのことがどんなふうに物事を変えたのか?」
《道標》難題…難題…語り手や登場人物がそれについて思い悩んだり、乗り越えようとしてもがいている課題/「この難題によって語り手やその登場人物のどういうことを知りたくなったか?」(語り手や登場人物の考えと読者自身の考えとを関連づける問いになる)
《道標》賢者の言葉…中心人物を助けようとして、知恵を与えたり忠告を示したりする人物の言葉/「その言葉がどのような人生への教訓になり、どれほど中心人物に影響を与えているか?」
【参考文献】(本ワークショップは以下の論考の内容をもとにしています。)
山元隆春(2018)「文学作品の「精読(close reading)」の方法をどのように学ばせるか-登場人物の「予想外の行動」を道標として-」『論叢国語教育学』14,
pp.53-72
山元隆春(2024)「読むことの学習評価につながる理解方略指導の枠組み-「BHHフレームワーク」で「いかに読むか」を共有する-」『国語教育研究』(広島大学国語教育会)65, pp.58-68
ワークショップ⑤合理的な論理的文章(説明的文章)の読み方
—謎解き読み—
植山俊宏(京都教育大学)
会場:西館講義室D
論理的文章(説明的文章)の読みは、内容となっている大量の情報との闘いです。文章が長ければ、情報が多ければ読みに手間がかかり、その集約に労力を要します。
でも、論理的文章(説明的文章)は論理的な表現が合理的に用いられているはずですので、その「合理性」、つまり一定の規則性が発見できれば、情報を整理する観点が明確になり、読みが楽になることになります。
このワークショップでは、表現の類比性(同一表現や類似表現も用いられ方)に着目する読みを扱います。加えて、この表現の類比性と文章全体が明らかにしようとしていること、つまり問題解決(謎解き)との合理的な関係を把握していく読み方も試みます。どうぞ奮ってご参加を。
ワークショップ⑥【初任者向け】読みの教材研究・授業づくり入門講座
住田 勝(大阪教育大学)
会場:西館ホール
このワークショップは、教職歴の浅い、特に国語の授業づくりに困難を感じている小・中学校の先生のために企画されています。
文学テクストを用いた国語の授業づくりを準備する上で、最初に突き当たるのは、目の前の教材を、他ならぬ私(教師)が、どのように教材分析するのか、という問題です。もちろん世の中にはたくさんの教材分析指南書があり、オンラインで手に入る指導案には、明日の授業にそのまま使えそうなアイディアや発問がキラキラ光っていたりもします。そのままやってみるんだけど、なんかしっくりこない。うまくいかない。子どもたちが乗ってこない。こういった風景に見覚えはありませんか。これは授業である私(教師自身)が、この作品からどんなインパクトを受け取り、どのような解釈を生み出し、味わい楽しんでいるのかが不十分なまま授業に臨むことで生まれる問題だと思います。一言で言えば、作品をちゃんと読みましょう、ということになるのですが、読み方そのものは千差万別さまざまにあり、どういうふうに読んだら「ちゃんと」読んだことになるのか自分もわからないし、誰もそれを保証してくれないというジレンマ陥ることしばしば。
今回のワークショップは、必ずしも精度の高い教材分析法網羅的に取り扱うことはできません(時間が足りません)。しかし可能な限り、子どもたちが作品と楽しく出会い、主体的に読み進めることを支援する教師の「武器」となる、いくつかの「分析の観点」を共有することを試みます。具体的な作品の教材分析を通して生成されたあなた自身の解釈を、グループワークの中で共有することを試みたいと思います。わずかな時間ですが、ぜひ楽しんでみてください。
ワークショップはおおよそ以下のような展開をするはずです。
① ミニレッスン(教材分析の観点の共有) 40分
② グループワーク① 20分
③ ワールドカフェ 20分
④ グループワーク② 20分
⑤ まとめ 20分