分科会④
ICT・思考ツールを活用した読解指導単元の開発
ICT・思考ツールを活用した読解指導単元の開発
【語られなかった語り】を読む「海のいのち」の授業
—手記の創作を通じて—
寺田桃子(藤井寺市立藤井寺南小学校)
ICT活用が進んで行く中で、「これでいいのかな。」と立ち止まることがあった。同じ空間にいる友達と画面越しにやりとりを行う。この機能のおかげで、手を挙げにくかった児童の考えを知ることができた。また、短時間で多様な考え方に触れ、子どもたちの見方・考え方が広まったことは言うまでもない。しかし、その一方で、小集団になっても、パソコン画面を凝視し、画面上の文字情報をやり取りする場面については、まだ受け入れられない自分がいる。
高度情報化社会においてネット上でのやり取りを進める力も必要である、と同時に、目の前にいる友達と顔を見合わせて対話する技術を身に付けて欲しいと願うことは、もはや時代遅れなのだろうか。
本発表で取り扱う「海の命」は、中心人物である太一が、人との関わりの中で成長し、海に生きる物語である。登場人物それぞれの行動や考え方が太一に影響を与え、山場での出来事を通して、太一の生涯が語られる作りとなっている。「他者の考え方や生き方を学び、感じ取ることで、自らの人生・生き方を見つけることができる」と暗示的に示されており、描かれないことを想像する面白さを児童と感じられる作品と言える。
勤務校では、2年間「聞く力・対話力」を中心に研究をすすめてきた。「意図を考えながらきき、相手を尊重して考えを交流し、広めたり深めたりできる力」を目標にコロナ禍での制限がある中、児童の実態と照らし合わせながら日々の授業を行ってきた。中でも「海の命」の授業では、以下の3つを柱として授業に取り組んだ。
①「語られていないこと」を叙述から想像し、手記に表す。
②学習を見通す・ログを残す・立場を視覚化するためにICTを活用する。
③対話をすすめるために思考ツールを活用する。
このような時代だからこそ、敢えて『対面で対話することの良さ』を感じて欲しい。ICTや思考ツールを活用することで、対話の中で獲得した考えを視覚化し、対話することの良さや面白さを感じられるように、と願い取り組んだ実践報告である。
探究的な学びを目指したICTを活用した協働的学びの構想
—『たずねびと』の実践を中心に—
樋口綾香(池田市立神田小学校/兵庫教育大学教職大学院生)
『たずねびと』の主人公「楠木綾」が、学校帰りにあるポスターを目にするところから物語は始まる。そのポスターは、広島市が毎年発行している「原爆供養塔納骨名簿」であった。お骨の引き取り手がない原爆死没者800人以上の名前を掲載しているそのポスターには、主人公と同姓同名で年齢も同じ「楠木アヤ(11)」を見つける。「綾」は戦争で命を失った「アヤ」を探しに広島へ行くことを決心するのだった。
物語は、「綾」の一人称視点で書かれていることから、地の文や情景描写から細かな心情の変化を捉えることができる。また、旅路が詳細に書かれていることで、読者も「綾」と旅をしている気分を味わうことができる。「綾」が広島で最後に出会ったのは、被爆者のおばあさんである。あの日、あの場に居合わせたおばあさんと出会うことを通して、「綾」は「アヤ」を見つけることができたのだ。ポスターにあった「名前でしかない人々」は、旅を通して「あの日まで確かにこの地で生きていた人」として、「綾」の心に刻まれる。
読み手である児童も、「綾」と同じ11歳であり、戦争については限られた知識しかない。「もう一人のアヤちゃん」に思いを馳せ、「綾」の行動を追体験しながら読むことを通して、「アヤ」が自分たちにとって遠い存在ではないことに気づかせたいと考えた。そうすれば、「アヤ」の悲しみや、生き残って事実を伝え続ける「おばあさん」の苦しみ、深い思いやりを共にすることができるのではないか。その手立ての一つとしてICTを活用した学習を取り入れた。
単元の言語活動は「未来の自分に旅のしおりを送ろう」とし、次年度広島に修学旅行へ行く自分に向けて、本単元の学びをつなぐ。しおりは、GoogleEarthや現地で撮影した動画や写真を使って作成したデジタルマップを配付し、子どもたちが物語を読みながら感じたことをマップに追記していく。『たずねびと』の世界も、そこに登場する人物もICTを活用することでより近く、より自分事として感じられるようにと考えて取り組んだ授業実践である。