分科会⑤
小中連携教育への眼差し—【語り】への挑戦—
小中連携教育への眼差し—【語り】への挑戦—
「注文の多い料理店」の授業改善の試み
—【山猫軒の間取り図】・【山猫の子分の報告書】作りを中心として—
橋口周二(和泉市立緑ケ丘小学校)
昨年度、4・5年生の国語専科担当となったことで、4・5年生の教材を自分自身が「比べながら読む」という経験をすることになった。1年間で改めて感じたことは、「5年生から教材文も学習内容も格段に難しくなる」ということである。指導者が感じているのだから、子どもたちは日々の授業で痛感しているだろう。
『注文の多い料理店』(東京書籍5年)は、東京から狩猟にやってきた「二人のわかいしんし」が山奥で迷ってしまい、偶然見つけた「山猫軒」という西洋料理店に入り、6枚の扉に書かれた「注文」通りの行動をしていく、という物語である。子どもたちにとって、それまでに学習してきた物語文の中でもかなり長文の部類に入る。その上、中心人物として描かれている「二人のしんし」は,読み手である児童が共感しにくい人物設定となっている。読むことが苦手な子どもにとっては、難解な物語であると考えられる。
そこで、本実践では、長い物語文を子どもたちが興味を持ちながら主体的に読み進められるための手立てとして,2つの活動を中心に取り組むこととした。
①「山猫軒の間取り図を作る」活動。
②「山猫の子分の報告書を書く」活動。
「山猫軒の間取り図を作る」活動は、内容読解の前段階として設定した。班ごとに,叙述にもとづいて「山猫軒の間取り図」作りを行い、内容読解をしていく際に間取り図を使い,それぞれの扉の所に叙述通りのものが描かれているか確認しながら,内容を読んでいった。
「山猫の子分の報告書を書く」活動は、読み手である子どもたちが共感しにくい中心人物に代わって、対人物である「山猫の子分」の立場に立って「二人のしんし」を「見る」ことで,子どもたち自身で物語を「語り」なおし、物語の世界を楽しめるのではないかと考え設定した。
国語を苦手と感じている子どもも物語の世界に浸り、楽しみながら読むことで主体的に物語と関わることができるようにと、願い取り組んだ実践報告である。
「トロッコ」の授業
—円環する語りの構造を読む—
広瀬章子(大阪市立新北島中学校/現任校 大阪市立中之島小中一貫校)
大人の良平はなぜ八歳の過去を回想するのか。……芥川龍之介の作品「トロッコ」は、現在雑誌社の校正係として働いている良平が塵労に疲れ、八歳のトロッコ体験を回想するという物語である。本作品は、過去と現在との二つの部分から構成されており、過去(回想)から始まり、最後の場面で、現在である大人になった良平が過去を思い出しているという形で描かれている。良平の八歳の記憶が、生活の塵労の中で繰り返し蘇り、あるいは八歳の記憶が蘇るたびに、塵労による疲れが意識される。物語は八歳の記憶と現在の塵労を円環する構造になっている。第7場面があることにより、初めて良平の「トロッコ」の回想の意味が明かされる作品となっている。
「トロッコ」では読みの方略である、風景に映し出される心情を読み取ること、つまり情景描写によって、直接描かれていない心情が捉えられる。巧みな文章表現による時間の流れ、情景描写、行動描写を通して主人公の心情や状況を理解させ、八歳のトロッコ体験と現在の状況の心情を比較することによって、八歳の記憶を回想する理由を探る授業を行った。
学習指導要領では、文章(情報)を多面的・多角的に精査して構造化する力が求められている。そこで、「なぜ良平は、八歳の記憶を回想するのだろう?」という問いを最初に生徒に意識させることで、本文が過去の回想であり、その回想の理由を場面ごとに精査・焦点化して読みを進めるようにした。その後改めて第7場面を読むことで、現在と過去の関連性を考えさせた。作品全体を再構築し、作品を俯瞰したり対比したりすることによって、主題を捉えることができる。またそれによって文章全体の内容や構造を改めて捉え、塵労に疲れた大人の良平が八歳の記憶を回想する意味について迫ることができ、作品が円環構造であることに気付かせるようにした。そしてこれらの活動によって深い学びを成立させ、子どもの読みの力を伸ばしていくよう図った実践報告である。