甘露中のアミノ酸分析

糖分析が終了して,次に着目したのはアミノ酸でした。すでにフィールドワークを始めて5-6年が経っていました。甘露採取も2年目に入り,カシワの葉の袋がけを取り外したときに,葉上のアリとアブラムシの位置を見ただけで,「あ,これは行ける!(甘露が取れる)」と一瞬で分かるようになっていました。こうなると余裕が出て,反復数を稼げるようになってきました。そこで,6月(初夏),7月(盛夏),そして8月(晩夏)という区切りで甘露を取り,寄主植物の栄養状態の変化に伴って甘露も変化するのかも,分散分析の要素に入れて調べることにしました。今回もカシワ溢泌液を採取し,アミノ酸濃度を月ごとに比較しました。

甘露採取法は糖分析のときと同じです。採取した甘露は北大の分析センターで定量・定性しました。5%以上検出されたアミノ酸について比較した結果,構成アミノ酸の種類数や各構成アミノ酸濃度,そして全アミノ酸濃度はアリ随伴下のアブラムシ甘露の方が有意に高いことが明らかになりました。

表1. 甘露中に検出されたアミノ酸. 5%未満のアミノ酸は分析から除外した.

また月ごとのカシワ溢泌液のアミノ酸濃度は,6月が一番高く,7月・8月と急激に減少しました。糖分析の時と同様に,甘露一粒の量・排出回数・総甘露排出量も調べ,それらの月ごとのデータも示すことができました。3行動形質のいずれも糖分析の時と同様に,アリ随伴下のアブラムシは,小さな甘露の粒を頻繁に排出していましたが,総甘露排出量に差はありませんでした。これらの分析には「月ごと」も要素に入れているので,その結果も知ることができました。「月ごと」に有意差があり,グラフから分かるように,季節が進むと寄主植物の栄養劣化に応じて,甘露排出行動も減少していくのが明らかになりました。直感的に理解できる結果ですが,これを統計的有意差でもって示したことに意義があったと思います。

図8. (左a)カシワ溢泌液のアミノ酸濃度, (右a, b, c)甘露一粒の量・排出回数・総甘露排出

Ecological Entomology27(p749)を改訂.

アリ随伴下のアブラムシ甘露にアミノ酸が多く含まれていたことについては,糖分析の時と同じように考えることができます。