野外操作実験と実験デザイン

「アリ随伴にはコストがかかっている」と考えた私は,袋がけしたアブラムシと,アリと一緒にいるアブラムシの体サイズを比較することにしました。

さらに,「アリ随伴のコストがあるなら,ベネフィットもあるはずだ(注1)」と考え,「このアリは本当にアブラムシを捕食者から守っているのか?」を確かめるために,野外操作実験を始めました。明確な目的がなく,暗雲が垂れ込めていたフィールドワークに光が差し込み,再びやる気が戻ってきました。

このときはまだ後に悩まされることになる実験デザインの不備を認識していなかったのです・・・。

「アリは本当にアブラムシを守っているのか?(アリ随伴のベネフィット)」の実験。一方の枝には忌避剤を塗っているのでアリを除去できます。石狩の草原にはクモやヒラタアブの幼虫などアブラムシの捕食者がたくさん存在しています。

アリ随伴のベネフィットの実験

草原の中のカシワから5〜6本選び,二叉(Y字)の枝を探し出し,両端の葉を1枚だけ残した。実験結果から遺伝的な誤差を除去するために,両方の葉にクローンのアブラムシを同数ずつ放した。アブラムシは単為生殖(クローン)で増殖するので,あらかじめ同じ木で1匹のアブラムシを袋がけして増やしておいた。アブラムシはこの点で便利である。アブラムシを葉の上に置いただけでは,もちろん逃げ回る。そこでアブラムシを放した後に袋がけした。後日に袋を取るとアブラムシは葉の上でおとなしく吸汁しています。袋を取る際に,一方の枝にはアリが来られないように忌避剤のタングルフット(粘着性が強く,松ヤニの匂いがする)を塗りました。これで上の表で,「捕食者がいる環境で,アリがいる・いない」の処理区が完成しました。このようなペア処理区を,5〜6本のカシワに20ペアほど作りました。そして1ヶ月間にわたり,アブラムシコロニーの生き残り率を比べました。


アリ随伴のコストの実験(失敗編)

実験デザインの表を見ると,明らかに不備があったのですが,当時は動き出した「アリ随伴のベネフィットの実験」の処理区設定やデータ取りで頭がいっぱいでした。そもそも実験デザインの表も書いていませんでした。表の一番下の「アリ随伴のコストの実験」の一部で「捕食者もアリも×」とは,内的自然増加率を調べるために袋がけした処理区でした。実験当初は,この処理区とベネフィット実験の「捕食者もアリも○」のアブラムシを比べていました。比べる内容は、アブラムシの体サイズと胚子数(お腹の子供数)です。

この結果は予想通りでした。アリと一緒にいたアブラムシは,袋がけのアブラムシに比べて,体サイズや胚子数が減少していました。アリ随伴にはコストがあった!!と喜んでいました。

しかしこの結果には,多数の方から批判がありました。袋がけの実験では,アリを除去しているが,捕食者も除去しているので,「アリだけの効果」を考慮していない!!と。