アミノ酸考察と博士論文のまとめ

図9. アリがいる・いないときの植物篩管液からのアミノ酸の流れ

糖分析のときと同様に,甘露排出行動が変化しました。よって,アリ随伴下のアブラムシは,アリによる頻繁な甘露要求の状況下と考えられます。左図は,推測されるアミノ酸の流路図です。たとえば,10種類のアミノ酸が植物篩管液に流れていたとします。アリ随伴下では,アブラムシは吸汁した10種類のアミノ酸を十分に吸収できないので,7種類を甘露中に流入させてしまいます。一方,アリ除去下では十分に吸収できるので,甘露中には3種類しか出てこないと考えられます。

アリ随伴下のアブラムシ甘露にアミノ酸が多く含まれていたのは、やはり篩管液の一部がそのまま甘露中に流入していたと考えられます。アリにとっては,アミノ酸が多い甘露の方が魅力的なのかもしれません。

博士論文をまとめると,以下のようになります。

当時,修士の時の教授には,研究テーマ自体を否定されました。そして,別の研究室の博士課程入学の面接試験では,「博士課程では,アリ随伴のコストの至近要因として甘露を分析します」とD論計画を話すと,面接官の教授たちから「甘露はただの排泄物だろう」「何を言ってるんだ?」「君の言っていることは,的を得(射)ていない」などと,否定・批判されたのを今でも覚えています。しかし,実際に「アリがいるときといないときで,甘露排出行動・糖構成割合・アミノ酸は変化した」のです。これは世界初の発見でした。これらの現象は,他のアブラムシでも報告されています。論文の引用数は,糖分析で121本,アミノ酸分析で102本となり,20年近く経った今でも引用され続けています。この研究を基にして,日本生態学会の大島賞も受賞できました。甘露はただの排泄物ではなく,アリ−アブラムシ共生関係の進化過程において,鍵となる実質的な物質だったのです。今,私は後輩を指導する機会がありますが,当時のことを折に触れ思い出し,頭ごなしの否定はしないようにしています。自分の専門外にも関わらず,何もかも分かったような態度は取らないようにしています。

参考論文

Yao I, Akimoto SI. (2002) Flexibility in the composition and concentration of amino acids in honeydew of the drepanosiphid aphid Tuberculatus quercicola. Ecological Entomology 27, 745-752.