アリと共生するとアブラムシは体が小さくなる!?

石狩のカシワ(背景に日本海が見えます)

札幌市から15kmほど北に行くと、石狩市に入り、日本海が見えてきます。この海に沿って内陸に草原が発達しており、その草原の中に落葉広葉樹カシワがパッチ状に分布しています。海からの強風で大きくなれない,背の低いカシワがたくさんあります。

カシワに近づいていくと、何やらアリがちょろちょろと動き回っています。よく見ると,葉の主脈に沿ってアブラムシがいて,そのアブラムシのお尻をさかんに叩くアリがいました。

私は修士課程から,バイクでこのフィールドに通うようになり,アリとアブラムシの共生関係を観察することになりました。当初は,ばくぜんとアリとアブラムシの数を記録していました。フィールドではエゾスカシユリ、ハマナス、ハマヒルガオが次々と咲き、カッコーの声が聞こえてきて、のどかな時間が流れていきました。

最初は新鮮だったフィールドワークも,明確な目的がなかった観察は次第に面倒になり,フィールドに行く回数も減っていきました。

上:エゾアカヤマアリとカシワホシブチアブラムシ(幹母)(5月下旬頃)

下:エゾアカヤマアリとカシワホシブチアブラムシ(7月頃)

(注1)内的自然増加率:ある生物が何の制限も無く育ったときに実現できる増加率。潜在的な増加率

修士課程1年め(Master course 1年)は,目的を定めきれずに終わってしまい,M2になってしまいました。目的は無くても,卒業(修了)するためには修論を書かなければならず,何でもいいからデータを取らないといけない・・・。アリ−アブラムシの数を記録しなければいけない。そんな後ろ向きな気持ち満載で,石狩までツーリングする感じでフィールドに行ってました。


何かデータを取らなくてはいけない、そんな焦りの中で、とりあえずアブラムシを袋がけ(防除ネット)で飼育し、内的自然増加率(注1)を調べることにしました。袋の中のアブラムシはどんどん増えていきました。


ある日,アリに世話されるアブラムシを見ていて,ふと感じたことがありました。

「このアブラムシたちはいつもお尻を叩かれ,アリのために甘露を出すのは,実はうっとうしいんじゃないか?テントウムシなどの捕食者がいるから,アリと共生関係を結んでいるのであって,もし捕食者がいない世界があれば,アブラムシはアリと共生しないで,自分たちで生きていけるのでは?

そして,捕食者もアリもいなければ,もっともっとすくすくと成長し,子供もたくさん産めるのでは・・・?

このときハッと気付きました。「アリがいない環境でアブラムシを育てれば,アブラムシの体サイズや子供の数が増えるのでは?」逆に言うと、「アリと共生するアブラムシは体が小さくなっているのでは?」

「もしそうだったら,アリと共生するアブラムシには,進化過程において適応上のコストがかかるようになった」ということが言えるのではないか?