アリ随伴のコストの実験(まだ失敗編)

アリも捕食者も除去しているとはどういうことか、どんな問題が起きるのかを考えてみると・・・

アリも捕食者も〇の状況で、アブラムシが小さくなったのは、アリがいるからではなく、捕食者もいるから、その影響(捕食者の影響)がアブラムシを小さくしたということが考えられる、ということなのです。

正直、それは自然界でどんな状況なのでしょうか?捕食者のにおいがアブラムシを小さくさせる?捕食者の存在がアブラムシを小さくさせる?、そんなことが本当に起きるのか?そんな影響があるのか?というのが、私の疑問でした。しかし、実験デザイン上では、上の表の赤文字で示した処理区ができていないので、反論はできなかったのです。

このよう状況で、決定的なことが言えないまま、実験デザインの不備を考察に入れる形で修士論文を書き終え、修士課程は終わってしまいました。その後、別の研究室に移り、研究生となり、フィールドワーク3年目に突入しました。


改めて赤文字の処理区はどういうことか?捕食者を除去した上で、アリだけをアブラムシコロニーに接近させるということです。ん〜・・・、どうする〜?そんなことできる〜?

石狩にあるこのシステムを温室などにそのまま持ち込むことができれば、捕食者がいない環境でアリを通わせることができるかもしれません。しかし、他のアリならまだしも、エゾアカヤマアリは攻撃性が強く、女王アリごと研究室に持ち帰るなんて考えられません。

ではどうするか?ぼんやりと思い浮かぶのは、ストローか何か細い物を枝の根元に取り付けて、アリだけを通させる、ということでした。そして葉全体を袋がけすれば、捕食者除去で且つアリだけを接近させることができる・・・。そんなことできるのか?今はあまり覚えていないが、最初はストローを取り付けたかもしれない。しかし、ストローは固くてしなやかさに欠けるので、すぐにあきらめて、透明のチューブをホームセンターに買いに行ったような気がします。透明チューブは枝に沿って取り付けることができ、とても好適な材料でした。

そしフィールドでいくつかセットして、アブラムシを放し、袋をかぶせて、翌日に外すことにして、その日は帰ります。そして翌日どきどきしながら、袋を開けてみると「おー!!アリがいるではないか!!」そこにはチューブを通過して、アブラムシを世話しているアリがいました。成功してみれば、悩むほどのことのない設定ですが、それはコロンブスの卵だろう・・・と、今でも思っています。

完成した設定が以下の図です。チューブの中をアリ以外の捕食者が通ることも考えられますが、実際はアリのトレールに他の生物が入り込むとアリに捕食される確率が高くなるので、そのようなケースは稀でした。アリ以外の捕食者が入っていた場合は分析から除去しました。

アリ随伴のコストの実験(アリだけの効果をみる実験)。枝の根元に柔軟な透明チューブをセロテープで2本取り付け(アリの往復を良くするため)、チューブをつぶさないようにその上から袋をかぶせて、ヒモでくくった。

実験デザインは完成しましたが、再び問題が起きました。アリが来なくなったのです。処理区に何か問題があるのかと最初は疑いましたが、そうではないようです。カシワの木全体にアリがいないのです。


アリはいつでもどこにでもいるような気がしますが、実際は、アリの数は季節的に大きく増減するのです。さらにどのカシワにも訪れているわけではなく、秋まで観察できる木もあれば、初夏の一時期だけしか見られないという木もあるのです。


アリがいないと、そのペア処理区は成立せず、データに加えることができません。チューブの中を通ってアリが来続けている処理区は少なかったのです。このことは、次の失敗、統計学上の「擬似反復」につながっていったのです。