東京大学物性研究所 中性子科学研究施設

中性子科学研究施設のホームページにようこそ


はじめまして、施設長の山室です。私たち施設のホームページにご訪問頂きどうもありがとうございます。最初に我々の施設の活動について、特に共同利用について簡単に紹介させて頂きます。


活動の概要

私たちは原子炉や加速器から取り出される中性子ビームを使って、物質科学研究を行なっています。また、1990年から日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究用原子炉JRR-3に設置された12台の中性子散乱装置を用いて、中性子散乱実験による全国共同利用を推進しています。さらに、2009年に本格稼働した大強度陽子加速器施設J-PARCにおいては、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と共同運営するチョッパー型分光器HRCを用いた共同利用も行っています。国際交流の面では、1982年から日米協力事業「中性子散乱分野」の実施機関として活動していますし、オーストラリアの国立原子力科学技術機構ANSTOと協定を結び、ANSTOで実験する日本人研究者を支援してきました。

 私たちのもう一つ重要な活動は、各研究室で学生とともに独自の研究を行うことです。この活動については、「施設スタッフ」タブの教授・准教授の欄にあるURLをクリックして下さい。 


共同利用の研究対象

共同利用研究の対象としては、超伝導体、重い電子系、マルチフェロイック物質、トポロジカル物質、フラストレーション系などの磁性・強相関系をはじめ、様々な液体やガラスなどの複雑凝縮系、電池や触媒などの応用に用いる新規材料、高分子、ゲル、生体物質などのソフトマターと実に多岐にわたっています。基礎物理学のテーマとして中性子自身の性質を調べているグループや中性子散乱装置のデバイス開発を行っているグループもあります。このように、適用範囲が非常に広いのが中性子散乱法の特長です。


共同利用の利用者

共同利用の主な利用者は国内外の大学や研究所の研究者、技術者、学生です。かつては国内機関のスタッフしか研究代表者(PI)になれなかったのですが、2023年度からは大学院生(博士課程)が、2024年度からは海外機関の研究者もPIとして実験課題申請が可能になりました。企業研究者の皆様には、現在は装置グループ(IRT)と協同で利用して頂いていますが、将来はPIとして申請も可能にしたいと考えています。


東日本大震災からの復活

皆様ご存じのように、私たちの活動の中心であるJRR-3は、2011年3月の東日本大震災から約10年間停止していました。そのJRR-3は2021年2月から運転を再開したのですが、止まっていた10年のギャップを埋めるのが、この数年の主な仕事でした。10年前より格段に厳しくなった安全管理基準への対応も大きな問題でした。しかし、幸運なことに、10年前のほとんどの利用者に戻ってきて頂けましたし、多くの新しい利用者の方々にも来て頂いています。また、停止期間中の地道なメインテナンス作業により、ほとんどの装置が順調に運転を再開していますし、何台かの装置では、その期間に行った改良により、装置性能は格段に向上しています。現在はこれらの装置を用いて、利用者の皆様と確実に成果を積み重ねていくフェーズに入っていると認識しています。


J-PARCとの連携

これからの全国共同利用で、私たちが最も意識しているのは、JRR-3とJ-PARCとの相補的利用あるいは協力的利用です。定常中性子源であるJRR-3とパルス中性子源であるJ-PARCでは、それぞれ得意なことがあります。このことは、米オークリッジ国立研究所のSNSとHFIR、欧州のISIS(英)とILL(仏)ですでに実証されています。日本という小さな国で、パルス中性子源と定常中性子源が同じキャンパスにあることは、本当に幸運なことで、ぜひこれを活かしたいと思っています。


最後になりましたが、JRR-3を今後継続して運転していくため、中性子散乱装置や周辺設備を良くしていくためには、利用者の皆様のご支援が必要であることを強調させて頂きます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

2023年10月6

東京大学物性研究所

附属中性子科学研究施設 施設長

山室 修