災害時における通信手段の選択に関する1考察
災害時における通信手段の選択に関する1考察
伊勢赤十字病院 竹野祐輔
同上 説田守道
三重大学医学部附属病院 行光昌宏
三重県厚生連鈴鹿中央総合病院 向井慎治
済生会松阪総合病院 茂木健人
三重北医療センターいなべ総合病院 伊藤広樹
国立病院機構三重中央医療センター 鬼頭大輔
三重県立総合医療センター 寺西良太
松阪市民病院 谷口健太郎
背景
災害時の通信手段として、直接音を伝える(会話、伝令、拡声器)以外に、有線・無線を問わず電話(音声通信)、FAX、電子メール・SNS、災害用掲示板・EMIS(文字情報)が利用されている。
目的
伝達すべき「情報の性質」と「伝達手段」との関係を分析し、情報の性質に適した伝達手段を導き出す。
方法
同報性(多数の相手に同時に伝える利益)と情報量(文字数)の2つの尺度を用いて4象限マトリクスによる分析を行った。
基準データとして熊本地震における時系列活動記録情報を用い、解析対象には平成28年度三重県大規模地震時医療活動訓練におけるDMAT調整本部の記録を使用した。
結果
情報の性質(情報量、同報性)による伝達手段の選択がみられるが、件数が多くなるにつれメールやEMISは使われず音声による伝達への偏りがみられた。
考察
情報の要素には迅速性(すぐに伝える)、重要度(より人命に直接かかわる)、秘匿性(プライバシー保護)がある。
迅速かつ重要な情報には音声通信が良く使用されるが、情報量が大になると音声通信では正確性(正しく伝わる)が犠牲になる。
本来正確性がより重要な情報であっても、音声通信を利用してしまうのは、情報量が多くなるとその処理時間(文字を入力する、手書きする)がかかるためか。
結語
情報の性質(情報量、同報性)による伝達手段の選択がみられるが、件数が多くなるにつれメールやEMISは使われず音声による伝達への偏りがみられた。
情報の性質に従った「適切な」伝達手段をあらかじめ指定することによって情報伝達の効率が上がるのではないか。
さて、学会では難しい話をしていますが
要はこういう事です。
災害時に情報を取り扱う人も、多くの人は情報処理に長けていません。平時でも簡単な内容なら電話でもよいですが、重要であれば綿密な資料と共に複数人で面談して話し合うでしょう。
しかし災害時には、本来秘匿性を求められる、デリケートでボリュームのある情報を送ることがあります。綿密な資料を作成する時間も面談する機会も限られるか、ほとんどありません。送られた情報が他の情報と食い違ったり、その情報だけでは解決できないために何度も問い合わせるということが起きます。
そういう状況では電話を長々と使う事になると、当然その電話をしている間には他の情報を送ることができません。いつも電話が通じない現象はこうして作られるのです。
そこで、情報の種類によって文字情報で送るものと音声で送るものを区別し、迅速性が必要であれば文字で送った後に音声でそれを伝える。こうする事により、いつまでたっても電話が通じない事態を避け、誤情報を確認・訂正するための送受信を減らすことが期待できます。
また、こういう状況を想像できないかもしれないですが、平時でもたびたび起こっています。日本語は主語を省略できるため、会話中もしばしば主語が省略されます。運よくその電話をとった人が、話者と同じ主語を想像して正しく理解して、そのまま連絡用紙を作成したとします。はたしてその連絡用紙を読んだ人はその内容を正しく理解できるでしょうか。(⇒ 災害時に伝えるべき情報 参照) 現実にあった事案では、活動中大きな余震が発生した後「無事を確認して報告してもらうように」と連絡用紙が回って来ました。さて、この無事とは「誰の無事」を「誰が確認して」「誰に報告」するのか、または「誰かに報告させるのか」、「いつまでに」「何のために」「不要ならしなくてもいいのか」か分かりません。これを確認するためにその後1時間かかりましたが、わかったことは、もうそのころにはその情報は不要であったことでした。
もう一つの問題は、用語の理解です。理解していない言葉をそのまま伝えようとしても、相手もその用語を理解できなければ、伝達は不可能です。自分の知っている何となく近い単語に置き換わったり、全く存在しない不明な言葉に置き換わる事もしばしば起きています。これらは筆者の所属する救命センターでもしばしば発生しており、どんなに注意喚起や周知を行っても改善されません。突然外国語で電話がかかってきた時と同じです。これが現実です。
ちなみに「救急救命士」と「救命救急センター」を間違えずに言える人はおそらく半分も居ないでしょう。「救急隊」と「消防隊」の区別もつかない。「救急救命士の特定行為が云々」なんて情報がまともに届くとは到底思えません。しかしこんなことで愚痴を言っても何も解決しないし、まもなく災害が襲い掛かってくるでしょう。
むしろそれが普通であると受け止め、劣化した情報からいかに真の情報を取り出すかを考えた方が得るものが大きいと考えるようになりました。