【背景】 災害時の通信手段の確保は最も重要であり、多くの医療機関や行政機関では衛星電話や防災行政無線等様々な通信機器の配備が進んでいます。これらは災害時の使用を前提としていますが、通信事業者その他のインフラに依存しており、一般に市民個人による配備は困難です。

アマチュア無線機やデジタル簡易無線機は免許や登録の必要があるものの、インフラへの依存はなく個人調達が可能であることより通信手段の確保の点では魅力のある選択肢です。即時同報性のあることも重要なメリットです。しかしこれらは災害時の使用を前提としたものではありませんでした。

令和3年3月の電波法施行規則等の改正により、簡易無線やアマチュア無線を、災害救援を目的として使用できるようになりました。社会貢献活動としての災害救援活動に加え、その訓練による使用、マラソン等での使用、依頼による通信も可能となりました。しかし違法な無線通信と区別するために関係機関と事前に協定を締結しておくことが前提となります。

今回我々の目的は、災害所に避難所等で活動する市民組織と、県や市町が協定を結ぶことにより、訓練を重ねてより実現性のある通信手段を確保することにあります。

演者が代表を務める市民組織は平成27年より市と災害時の情報収集と伝達に関する協定を結んでいました。これを令和3年の法改正を受け、アマチュア無線と簡易無線による情報収集と伝達に関する協定に改定しました。

令和5年に実施された総合防災訓練、およびハーフマラソン大会において、協定に基づいた通信を実施しました。事故発生情報等の同時把握、市民ボランティアと医療チームが協働して情報伝達を行い、同時に簡易無線とアマチュア無線との通信状況の違い等を記録しました。

使用周波数等はスライドの通りで、市との協定に基づく活動であり、違法な運用でないことを適時アナウンスしました。

総合防災訓練時の離島避難所と当院、保健所等の位置関係を示します。平野部の主要地点(災害拠点病院、医師会館、市役所や保健所、防災センター、主要な避難所)間の通信については第24回の当学会で報告した通り既に確立しています。

離島避難所との通信結果です。標高172mの山を挟む避難所Cとの直接通信は困難でした。アマチュア無線の方が若干遠方の避難所との通信に有利でした。

ハーフマラソン時の配置状況です。各折り返し地点に救護所と通信所を設置し、その間はメディカルランナーや自転車救護班でマラソン参加者のサポートを行いました。

救護本部と標高160mの山を挟むB地点との交信が困難でしたが、他の通信所同士の通信は良好であり、情報を中継することにより同時に情報を把握することが可能でした。ここでも若干アマチュア無線の方が良好に通信できました。

なお、大会終了間際にCPAが発生しましたが、迅速な対応により社会復帰を果たしております。

デジタル簡易無線、アマチュア無線各々にメリット・デメリットがありますが、アマチュア無線を有効に活用することによって一般市民による災害時の通信網の確保はより現実的になったと考えられました。