トリアージの倫理・法的側面

トリアージとは

 様々な状況において、異なる立場や様々な職種の人々、学会、団体等がそれぞれの意味で「トリアージ」という言葉を使っています。その意味するところ、それによりもたらせるものも違ってきます。

 大規模災害発生後、避難所等で避難者が「医療支援や治療」を必要としている場合。その緊急度・重症度の判断をすることがあります。これは緊急度の低い人は支援や治療が要らないのではなく、ある人を医療機関へ搬送すべきかどうか、今すぐか明日でもいいかの判断をすることです。

 これとは異なり、災害(事故)現場のように絶対的に医療資源が少ない状況で、応急処置や救命処置をするかしないか、順番をどうするかという究極の判断もトリアージと呼ばれています。

 このトリアージは「医師のみに許される判断」か「看護師や救急救命士にもできる判断」かもまだ議論が終わっていません。医師しかできなければ、トリアージの順番すら間に合うことなく死亡者が増えることは明らかですが、日本ではまだそこで議論が止まっています。

 また、トリアージの結果被災者が死亡した場合、結果責任を問われるおそれが現行法にはあります。これでは誰も進んでトリアージをしなくなり、結果的に死亡者は増えてしまいます。(石巻赤十字病院 搬送患者遺族が損賠訴訟


 トリアージは、平等主義(だれもが重症度に応じて平等に医療を受ける権利)と功利主義(最大多数の最大利益)が混在する概念です。どちらの立場でトリアージが行われるかは、一つ一つの災害によって、場所によって異なるものになるでしょう。

 注意したいのは、不用意に「トリアージ」という言葉を使用して、そこに「功利主義」が見え隠れした場合、非難の対象になったり刑事・民事訴訟に巻き込まれる恐れがあることです。安易に「トリアージ」という言葉を使わないように、何が行われているのか、何を行うべきかよく考えて適切な用語を使う方が賢明です。