第17回奨励賞

 17回教育思想史学会奨励賞の募集は、2019年12月2日に締め切られ、奨励賞特別選考委員会および理事会において厳正に審査した結果、受賞者が決定しました。教育思想史学会奨励賞(第17回)の表彰式は、第31回大会(2021年9月予定)で行われる予定です。

 受賞理由は以下の通りです。教育思想史学会奨励賞特別選考委員会からの報告を掲載いたします。


【受賞者】堤 優貴(日本大学)

【受賞論文】「後期フーコーの倫理的主体形成論における『教育的関係』――1980年代のプラトン読解を中心に――」(『教育哲学研究』第118号、2018年11月)

【授賞理由】

 本論文は、ミシェル・フーコーの後期思想において重要な意味を持つ「パレーシア」概念を、1982年から1984年の講義録の検討を通じて検討し、倫理的主体形成論を読み解こうとしたものである。特に、フーコーのパレーシア概念が1982年から1984年にかけてプラトン読解を通じ深化した過程を、講義録の分析によって丹念に検討し、従来のフーコー研究において注目されてきたキュニコス派由来の政治的パレーシア概念とは異なる、「相手に向かって真理を語る勇気」というもう一つのパレーシア概念を導き出すことによって、そこに、知識や技能の伝達に頼らない教育関係の条件を探ろうとしている。

 日本の教育思想史研究においてフーコーの思想は『監獄の誕生』で提起された規律訓練論やパノプティコン論などによって、近代教育の自明性を問い直し、近代学校を批判する議論として参照され続けてきたが、近代教育批判をふまえたさらにその先にある主体の倫理を思考した後期フーコーの議論については、未だ十分議論が深化しているとは言い難い。本学会では、すでに田中智志らの研究に代表されるように、後期フーコーにおける主体の倫理を教育思想史的視座から解明しようとする試みが始まっているが、本論文も、まさにそうした蓄積をふまえて、フーコーのパレーシア概念の教育思想史的含意を検討しようとしたものであり、本学会の学術発展に大きく寄与する論文であることが認められた。

 審査に際しては、本論文で示されたフーコーのプラトン読解の帰結が、今日の教育関係論をめぐる教育学的議論と必ずしも十分に対照されていないのではないか等の課題も指摘された。だがそうした課題は、教育思想史研究の次代を担う研究者としての著者の将来性を損ねるものではなく、むしろそれは、今後、本論文に展開された議論の上にさらに、思想史的精緻化を伴ったパレーシア概念の系譜を探究することによって達成されるべきものである。

 以上により、特別選考委員会および選考委員会は本論文に奨励賞を授与するものである

選考委員会委員長 小玉重夫