コロキウム4
高校生が考える思想、哲学
企画者:小玉重夫(東京大学)
司会者:小玉重夫(東京大学)
報告者:東京大学教育学部附属中等教育学校「選択倫理」から
塩崎愛佳(東京大学教育学部附属中等教育学校6年)
水村桃夏(東京大学教育学部附属中等教育学校6年)
指定討論者:樋口大夢(東京大学大学院)
企画者:小玉重夫(東京大学)
司会者:小玉重夫(東京大学)
報告者:東京大学教育学部附属中等教育学校「選択倫理」から
塩崎愛佳(東京大学教育学部附属中等教育学校6年)
水村桃夏(東京大学教育学部附属中等教育学校6年)
指定討論者:樋口大夢(東京大学大学院)
【概要】
高大接続改革の中で、高校での探究活動と、大学、大学院での研究活動をいかにしてつなげていくかが問われている。このような動きは、従来高等教育を中心に行われてきた知の生産システムのあり方に対する問い直しを突きつけている。初等中等教育における探究活動を起点として従来の知の枠組みを組みかえ、新しい知の創出につなげ、従来の学問的なディシプリンを刷新していく試みが、思想、哲学の研究においても強く要請されている。
以上の問題意識から、本コロキウムでは、昨年度に続き、高校生が考える思想、哲学について報告をしてもらい、できるだけ対等な立場で、高校生と大学の研究者との間での議論をしていきたい。本年度は特に、高校生が取り組んでいる哲学、思想的な課題をそれぞれのテーマと問題意識に即して深めることを目指したい。新型コロナウィルスの問題によって変化している今の状況をどうとらえるかについても、高校生と共に思考する場としていきたい。
【教育思想史学会第30回大会を終えて】
1.「問いの発⾒・設定」をするために必要な条件(⼒、環境)は何だと思いますか。また、⽣徒が「問いの発⾒・設定」をする際に教師にできることがあるとすれば、どんなことだと思いますか。(匿名の質問)
「問いの発⾒・設定」をするために必要な条件とは、知的好奇⼼が刺激される環境と、主体的な学びの姿勢であると考えます。
また、⽣徒が「問いの発⾒・設定」をする際に教師にできることとしては、改善すべき現状の提⽰と、⽣徒が主体的に学習する環境づくりが挙げられると考えます。主体的に学ぶ環境があることで、⽣徒は問いを⾃ら探究し、学びの⾯⽩さに気付くと思います。すると、今度は⾃分で改善すべき現状を⾒つけようと、時事問題や社会情勢にも積極的に⽬を向けるようになり、⾃⽴した学びのサイクルが確⽴されると考えます。
(文責 塩崎愛佳)
私は、自分にとっての当たり前を疑う力が必要だと考えております。身の回りで起きている現象を全て「それが当たり前だから」と片付けていては、いつまで経っても何かを問うことはできません。先生方は、そのような他の意見を知る機会を与えてくださる人でいてほしいと私は考えます。一方通行の授業ではない、生徒の横のつながりも意識した授業が私の理想です。
(文責 水村桃夏)
2. 歴史(学)も、考えること、思想、現在を⾒つめなおす⼿がかりになるかと思いますが、どう思われますか。(北海道教育大・稲井智義さんの質問)
歴史は思考の重要な⼿がかりになると、私も考えます。同級⽣で歴史をテーマに研究を⾏っている者は少ないと思うのですが、多くの⽣徒が研究過程で歴史に触れていると思います。問題を解決しようと思ったときにはまず、その問題はいつ頃から⽣じたのか、過去に似たような問題を解決したことがあったのか、過去に遡って問題を紐解いていく必要があります。これはつまり、現在を⾒つめ直すためには、先⼈の知恵の結晶である歴史の⼒を借りる必要があるということを⽰しているのだと考えられます。
(文責 塩崎愛佳)
私も質問者様のご意見に賛同します。先人の考えや経験を自分と照らし合わせれば、歴史は自分を見つめ直すためのツールとなるためです。私は確かに「歴史を暗記することに意味を見出せない」と述べましたが、これは「歴史を勉強することは意味がない」ということではありません。学ぶ科目の選択ではなく、学ぶ項目の選択が必要だと私は考えております。
(文責 水村桃夏)
3. 高校生が知の生産に関わることによって、教育における知の伝達のあり方にはどのような変容がありうるのでしょうか。(匿名の質問)
趣旨説明パートで司会の小玉重夫氏が提示した、カリキュラム・イノベーションや教育と研究の結合の話からも明らかなように、高校生が知の生産に関わることを通じてアカデミズムを頂点とした知の伝達のあり方は、変容を迫られることになります。ここで想定される知の伝達のあり方は、伝統的な講義形式のように教師が一方的にアカデミズムを頂点とした知を伝達するのでもなければ、生徒の学びだけを重視することで知の伝達を放棄することを意味するのでもありません。それは、教師が多様な形態の知を高校生に提示するという伝達のあり方です。報告者二人(塩崎愛佳氏、水村桃夏氏)からの先のコメントへの応答が示唆しているように、教師は「改善すべき現状の提示」や「他の意見を知る機会を与える」存在として、多様な形態の知を提示する存在として捉えることができます。ここにおいて教師は、高校生が知の生産を行う上で参照したり、参考にしたりする際に拠り所とする例としての知を提示することを通じて、従来の知の伝達形式とは異なる多様な形態の知を伝達する役割を担うと考えられます。高校生が知の生産に関わることは、以上のような知の伝達のあり方の変容を期待させます。
(文責 樋口大夢)