コロキウム2
教育思想家と歴史
企画者:相馬伸一(佛教大学)
司会者:相馬伸一(佛教大学)
報告者:小山裕樹(聖心女子大学)、生澤繁樹(名古屋大学)、
日暮トモ子(目白大学)
企画者:相馬伸一(佛教大学)
司会者:相馬伸一(佛教大学)
報告者:小山裕樹(聖心女子大学)、生澤繁樹(名古屋大学)、
日暮トモ子(目白大学)
【概要】
19世紀の国民教育の成立期において教員養成のテクストとして生まれた「教育思想史」は、今日の私たちの教育思想史認識、さらには教育一般に対する認識にも影響を与えており、その検討は私たち自身の脱文脈化と再文脈化に欠くことができない。
本企画では、ヘルバルトとデューイ、そして清末・民国期の中国をあつかう。ヘルバルトとデューイは、教育思想史において不可欠な位置を占めているが、ライプニッツのモナド論に通じるような「多様なる実在」を志向したヘルバルトにも、教育史講義のシラバスを残したデューイにも、それぞれに独自の歴史的関心があった。ところで、「教育思想史」は、最初に欧米で書かれ始め、アジア諸国ではその近代化ともに受容されたが、次第に単なる受容から「本土化」が試みられるようになった。中国がとりあげられることで、日本における同様の試みを相対化することが期待される。
歴史的対象としての思想家自身の歴史認識、教育思想史が教科書や講義というメディアに展開される背景にある歴史認識、これらに焦点を当てることで、「教育思想史」をメタの視点から再考することを試みられると考える。さまざまな関心をもつ皆さんと交流し、議論を深めていきたい。
【教育思想史学会第30回大会を終えて】
コロキウム2は、教育思想史を見つめる視点を広げるという問題意識から、私たちが教育思想史においてとりあげている人物そのものが有している歴史的関心を教育的思惟との関連でとらえること、そして、西洋教育思想の受容の異なるあり方に注目することを試みた。
前者については、今回はヘルバルトとデューイがあつかわれた。ヘルバルトの歴史的関心におけるドイツ観念論との距離は、教育学における心理学的方法論の台頭のもとでの歴史の位置の変容を考えるうえで、さらに検討が加えられてよいテーマであろう。デューイに関しては彼の教育史講義がとりあげられたが、プラグマティズムと歴史記述の関係に多くの示唆が与えられた。彼をとりまく教育研究者との関係に目を広げていけば、アメリカにおける教育思想史記述の特質をより掘り下げてとらえられるのではないかと思われた。
後者については、清末から民初にかけての中国がとりあげられ、その書き換えの特質やグローバル化の動向についてコメントがあった。中国の場合、日本をはじめ、ドイツ、アメリカ、イギリス、ソビエト等の諸外国の影響を受けながらも、当時の教育実践家・理論家は、儒教的精神を軸とする伝統文化や当時の国情を考慮しつつ、西洋近代的な価値観に支えられた教育学に関連する諸理論や諸概念の解釈や読み替えを行ってきた。そうした、教育思想の土着化・本土化の試みは、ひるがえって日本の教育思想史記述の歴史を再考にも示唆を与えるだろう。今日のグローバル化の潮流は、本土化や土着化の傾向を薄れさせる面と、それとは逆に自民族中心主義への回帰を助長させる面がある。東アジアの教育学がいかに展開していくのかについても関心を払っていくことが必要であろう。
今回のテーマは、他の思想家や西洋教育思想受容の他の文脈をあつかうことによって、さらに深められる。個別テーマの深堀りとともに異なるテーマを有した研究者の協働の意義が改めて実感された。
新型コロナウィルス感染という状況のなか、本コロキウムに向けてはオンラインの学習会を実施して準備を進めたが、有益なコメントを送ってくださったことに感謝したい。最後に、コロキウム実施にあたっての事務局の尽力にもお礼申し上げる。
(文責 相馬伸一)