発表者:黒川瞬
発表者:笠野純基
発表者:郝 抒妍
発表者:古川建
発表者:周 豪特
発表者:遠藤剛
発表者:箕輪 朗
発表者:笹森 なおみ
発表者:黄 文蓮
発表者:星 宏侑
概要:群れ行動は,生物の種を超えて広く観察される.群れ行動の適応的機能について様々な点で議論され,例えば採餌行動の効率化,配偶者との遭遇率を上げる,捕食者に対する防衛などが挙げられる.本研究では,群れ行動の適応的機能として捕食者に対する防衛行動としての群れの進化に着目する.その中でも,個体が持っている情報のやり取りを行わないプリミティブな被食者個体でも機能による利益を享受できる,捕食者混乱効果を考える.一方,そのようにプリミティブな生物の集団であったとしても群れ行動を取ることで,感染症にかかるリスクの増加や,限られた資源の競争の増加など,群れ行動によって不利益を被る場合が考えられる.群れ行動は生物界において広く観察されるため,それらの不利益を上回る利益を何かしらの行動によって享受していることが考えられるが,群れの中で生活する上で,どの ように不利益を被るリスクを減らしているのかについての知見は十分であるとは言えない.本研究では,群れ行動におけるデメリットを,他の集団の成員と同種である「内部性」,他の集団の成員に悪影響を与える「脅威性」の両性質を持った個体として抽象化し,「内部脅威」と称する.本研究では,捕食者混乱効果を考慮した進化シナリオにおいて,被食者の集団内に「内部脅威」がいた場合に,被食者個体が群れ行動の進化をする のかどうかを明らかにする.目的を達成するために,他の被食者や捕食者と相互作用する被食者のモデルを構築し,計算機によるシミュレーション実験を行う.シミュレーション実験における被食者は,他の被食者個体と捕食者 を視覚的に認識したものを入力,運動する方向を出力とするニューラルネットワークによって制御され,そのニューラルネットワークは Neuroevolution of Augumented Topology (NEAT)によって進化する.そのようなモデルを用いて,「内部脅威」が突然変異によって発生する可能性がある条件(threat条件)と発生しない条件(no-threat条件)でのシミュレーションでの比較実験を行い,「内部脅威」が存在する条件は存在し得ない条件と比べて,群れ行動が進化しないことが分かった.この結果より,捕食者混乱効果のみを群れ行動の利益として享受する集団では,内在する脅威に対して十分に群れ行動の利益を享受しているとは言い難く,捕食者よりも他の被食者や「内部脅威」を避けるために群れ行動が進化し得ないことを示唆する.また,他の機能が群れの進化にとってより重要であることや,複数の群れ行動の利益が複合的に内在する脅威に対して防衛する機能を果たしていることが示唆される.さらに,内在する脅威に対して情報をやり取りするコミュニケーションによって避けることができる可能性を考慮すると,本研究で扱ったプリミティブな集団では内在する脅威の脅威性が非常に大きく,内在する脅威の存在を排除するために情報のやり取りを行うコミュニケーション能力の進化が群れ行動の進化と共に必要になって くる可能性を示唆した.発表者:成 太俊
発表者:星 宏侑
概要:この研究は、学齢児童における社会的思考の発達を述べています。皮肉の課題が使用され、5歳、7歳、9歳の子どもたち(N 5 72)および大人(N 5 24)の他者の心の中に対する再帰的な理解を評価する。 Guttmanスケール分析は、話者のコミュニケーション意図を理解するために、子どもが話者の信念を認識する必要があり、その検出が意図された意味と表現された意味との不一致を識別する能力に依存することを示している。これらの心の側面を理解する子どもだけが、話者の態度を考えることができる。心の理論と言語能力は、年齢と記憶の影響を超えて、子どもたちが皮肉を解釈するのに独自の寄与するが、表現豊かな抑揚には寄与しない。発表者:周 豪特
発表者:星 宏侑
概要:群れ行動は,生物の種を超えて広く観察される.群れ行動の適応的な機能について様々な点で議論されるが.本研究では捕食者に対する防衛行動としての群れの進化に着目し,高度な認知能力や道徳観,社会規範を必要としない集団の活動について議論する.一方,プリミティブな生物な集団であったとしても,群れ行動を取ることで,感染症にかかるリスクの増加や,限られた資源の競争の増加など,不利益を被る場合が考えられる.群れ行動は生物界において広く観察されるため,それらの不利益を上回る利益を何かしらの行動によって享受していることが考えられるが,群れの中で生活する上で,どのように不利益を被るリスクを減らしているのかについての知見は十分であるとは言えない.本研究は,捕食者混乱効果を考慮した進化シナリオにおいて,群れに内在する脅威個体がいた場合,被食者個体がどのようにしてそれらに対する防衛行動を取るようになるかを調べる.他の被食者個体と捕食者を視覚的に認識したものを入力,運動する方向を出力とするニューラルネットワークをNEAT(Neuro Evolution of Augumented Topology)を用いて進化させ,内在する脅威が突然変異によって発生する可能性があるシナリオと発生する可能性がないシナリオで,被食者の行動の振る舞いを調べる.その際,脅威個体に対する回避行動に対して,進化心理学で議論されることのある「嫌悪感(disgust)」との関係を考察する.発表者:古川建
発表者:岩村入吹
概要:ヒト型言語は, 生物進化・個体学習・文化継承(の相互作用の中)から創発する. 但し, これら3つの過程の相互作用については, 広く(?widely)研究されていない. (そこで)我々は文化継承を形式化することから始める. これにより, 生得的な学習バイアスと言語の普遍的特性がどのように関わるのか, そのメカニズムについて調べる. (本論文で)示すことは, 文化継承は弱いバイアスを増幅して強い言語普遍性を導く可能性である. (このことは)言語学習に働く強い生得的制約を擁護する(=for)論拠を弱める. 結果として, 生得的バイアスの強さは自然選択からマスクされうるので, (生得的バイアスを決定する/対応する)これらの遺伝子は浮動し(て集団に広まり)うる. 加えて, 自然選択が掛からなかったとしても, 文化継承は表面上の適応を生むだろう. つまり, 文化継承は, ヒト型言語の諸性質に関する従来の生得主義や適応主義の説明に対する代案を提供する.発表者:Siri-on Umarin
発表者:黒川瞬
概要:本研究の目的はコミュニケーションにおいて関連性理論に基づき、聞き手が文脈をどのように理解するのかを明らかにするものである。関連性理論を基盤として、認知効果、処理コストが変動した際に、人の文脈理解にどのような影響を与えるのかを調査することが目的である。研究方法としては、認知効果、処理コストを従属変数として条件を設定し、web実験でシナリオを被験者が読んだとき、条件によってシナリオの文脈理解にどのような影響を与えるかを調査する。発表者:古川建
発表者:箕輪 朗
概要:本研究の目的はコミュニケーションにおいて関連性理論に基づき、聞き手が文脈をどのように理解するのかを明らかにするものである。関連性理論を基盤として、認知効果、処理コストが変動した際に、人の文脈理解にどのような影響を与えるのかを調査することが目的である。研究方法としては、認知効果、処理コストを従属変数として条件を設定し、web実験でシナリオを被験者が読んだとき、条件によってシナリオの文脈理解にどのような影響を与えるかを調査する。発表者:周 豪特
発表者:岩村入吹
発表者:古川建
概要:思考/コミュニケーション形式としての物語(narrative)は人間が情報を伝達し、また受け取る上で認知的に最適な形として存在している。そのように物語る生き物である人間の社会において、個と集団を媒介する物語の存在を示唆する研究は数多くあるが、その関係性を実証的に示そうと試みた研究は少ない。一方、テキストデータの膨大化により従来の物語研究とは異なるデータドリブン型のアプローチを取ることが可能になった。これを踏まえ、本研究はテキストマイニング分析により物語の媒介性について実証することを目標としている。発表者:箕輪朗
発表者:遠藤剛
概要:ChatGptなどの対話型生成AIは、現在急速に普及している。対話ベースで情報検索、アドバイス等様々な用途に利用出来るが、人の意思決定にまで大きな影響を与えつつある。現時点では未だ急速な技術進歩とその利用による人への影響の研究は充分になされていない。本研究は対話型生成AIとの対話が人の道徳的な判断にどの様な影響を与えるかを研究するものである。発表者:周 豪特
発表者:黄 文蓮
発表者:箕輪 朗
概要:人々の推論が説明的考察によって影響されるという証拠は豊富にある。しかし、この影響がどのような形をとるのか、たとえばその影響が非組織的なものなのか、それとも人々が何らかのルールに従うことによるものなのかなどはほとんどわかっていない。3 つの実験は、哲学文献に見られる正確な提案の記述の妥当性を調査する。つまり、特定の追加条件が満たされる限り、最良の説明を推測する必要がある。最初の実験では、説明の候補が 1 つだけ与えられた場合の、説明の質と人々がその説明を推論する意欲との関係を研究する。2 番目の実験では、参加者に常に 2 つの説明を提示し、代替案の存在が対象の説明を推論する参加者の意欲に及ぼす影響を調査する。実験1と2では、説明の質と参加者間の最適な説明を推測する意欲を操作しますが、実験 3 では参加者内でそれらの尺度を操作することで、個人レベルでの推論に対する説明上の考慮事項の影響を研究することができる。発表者:古川 建
発表者:成 太俊
概要:今回のゼミ1部は2本の論文(時間あれば3つ目も)をまとめて皆さんに紹介します.以下の順で説明する予定です.まずは,Anders Berglund & Larry Leifer (2013)の論文を紹介します.近年デザインの創造性に対するアプローチがデザイン教育者間で互いに近づき,プロトタイピングはその中心的な役割を果たしている.しかし,プロトタイピングの暗黙の知識とその実用的応用については,これまでの研究で十分に認識されていない.そこで,この研究はスタンフォード大学とKTH王立工科大学の2つの高パフォーマンスの学術環境でプロトタイピングがどのように知覚され,適用されるかを探求し,その教育的および実践的な応用を理解し強化することを目指している.方法としては,両大学のプロトタイピングに関する学生と教師の経験を調査し,プロトタイピングの教育的効果を比較分析し,プロトタイピングに関連する暗黙の知識と客観的学習の間のリンクを明らかにする.その結果,プロトタイピングは個人の内面的な考えと外部の現実を統合し,社会的相互作用に基づいて複雑な問題に取り組むのに適していると結論付けられた.発表者:秦 慕君
発表者:岩村入吹
概要:言語における単純性と固有性:領域一般なバイアスが領域固有な効果を持つ概要:言語システム(言語の構造や表示,制約など)がどれくらい言語に固有であるかは,認知科学にとって大きな意味を持ち,また進化生物学にとって関係がある.重要なことは,言語システムの所与の性質が,いくつかの方法で,言語領域に「固有」であることは可能である.例えば,その性質が,言語の機能的側面から来る自然選択の圧力によって進化したならば,その性質は,言語のデザインが言語に対して調整された(tailor)ものであるという意味において,領域固有である.同様に,その性質が他の機能を果たすために進化した場合や[そもそも]領域一般である場合であるならば,なれでもなお,その性質が言語システムに,固有/特殊な方法で,相互作用したかもしれない.このことは,言語に,ある性質が固有であるとも考えられるという第2の意味を与える.言語機能/言語機構[FL]に対する進化論的アプローチは,一見したところ,第1の意味において,領域固有であるように見える.第1の意味とは,言語機能の個別の性質群が固有な形で言語的適応[の結果]である,ということだ.しかしながら,我々は以下を主張する.すなわち,学習・文化進化・生物進化の相互作用は,進化したいずれの領域固有な適応は,強い制約ではなく,弱いバイアスという形式を取りうる,ということだ.領域固有性の第2の意味に準拠して,我々は単純性という非常に一般的なバイアスに注目する.この単純性は認知に広く作用している一方で,領域固有な関わり方で言語表示と相互作用している.発表者:笹森 なおみ
発表者:笠野純基
概要:我々が日常生活している社会には、言語表現、他者推論など様々な種類の多様な人工物が溢れている。人はアイデアや計画などの生成物を頭の中で生み出すことができる。これらの生成物は、物体や概念を再帰的に結合すること(再帰的結合)で生み出すことができる。再帰的結合は人に特有の能力であるとされ、進化シミュレーション研究によって再帰的結合が適応的となることが示唆されている。シミュレーション研究の結果から不確実な環境下において再帰的結合が生成物を多様に生み出す可能性が示唆される。一方で実際の人が再帰的結合をして、生成物を多様に生み出すことに効果があるのかは検証する必要があると考えられる。 本研究は、再帰的結合は思考内容を多様に生み出す効果があるかどうかを実験的に調査することを目的としている。具体的には、再帰的結合で思考する傾向性を持つことで、言語表現を多様に生み出す効果がある、という仮説を実験により検証する。発表者:成 太俊
概要:今回のゼミ1部は2本の論文をまとめて皆さんに紹介します.以下の順で説明する予定です.発表者:松井 一樹
概要:本研究では、社会全体の共通の利益(共通善)を維持するための「人々の行動変容を求める政策」の受け入れに寄与する要因を見出すことを目指す。本研究では、政策の一例として、COVID-19パンデミック時における外出自粛要請に対する人々の反応行動を事例として扱う。本研究の目標を達成するために、人口統計データや個人の特性だけでなく、他者の行動に関する認知メカニズムにも着目する。これは以前の研究で見落とされていた要素である。本研究では、COVID-19パンデミック時における外出自粛要請に対する人々の反応行動に関して、行動に関連する認知メカニズムを考慮したシミュレーションモデルを構築する。このシミュレーションモデルを日本の各都道府県、および米国の各州において人々の反応の違いの評価に適用し、その反応の違いの要因を特定することで、制度受入れに寄与する要因を見出す。今回、このモデルを米国のコロナ渦(2020年)での外出自粛要請に対しても適用しモデルについて評価した。その結果、米国では日本の場合と共通して、思考の深さの平均値や個人のパーソナリティ(Big FivePersonality Traits)が外出自粛行動を予測する場合に有意であったが、米国では支持政党の割合も各州の差異を生じた要因である可能性も確認した。本研究ではさらに、政治的イデオロギーの影響を排除したモデル構築を提案し、また外出自粛以外の政策でも、政策が受け入れるかを評価するために思考の深さの平均値を考慮する必要性を提案する。発表者:黒川 瞬
概要:『繰り返し囚人のジレンマ』は、利己的な個体間で協力が進化するための伝統的なパラダイムとなっている。Axelrodのコンピュータトーナメントにおいて、『しっぺ返し戦略』(TFT)が1位になり、生物社会における互恵性の役割に対する関心は高まった。しかし、ほとんどの理論的研究は均質な集団(進化的安定戦略に対する設定)とエラーの影響を受けないという仮定を置いていた。確率的要因を考慮に入れた解析を行い、均質ではない集団において互恵性の進化が生じるためにはTFTプレイヤーの存在が不可欠であるが、TFTプレイヤーはより寛大な戦略への道を開くだけであり、最終的にTFTプレイヤーばかりの集団になるわけではないことを発見する。この論文は、協力行動の進化の分野で重要文献とされています。また、私の研究と、(i)社会行動の進化について取り扱っている、(ii)進化ゲーム理論を用いている、(iii)繰り返しゲームを取り扱っている、といった点で共通点も多いです。また、進化の基本的な考え方について学べる教材といえると思います。これら3点より紹介しようと思いました。以前から知っていた論文ですが、ゼミ紹介にあたって読み直すことで理解を深めることができ、後続の研究であるImhof & Nowak (2010) Stochastic evolutionary dynamics of direct reciprocityの意義について理解することができるようになりました。発表者:箕輪 朗
概要:推論の一つであるアブダクションを明らかにする際の画像生成AIの活用について概要:推論は主に演繹、帰納、アブダクションの3種類あります。中でもアブダクションは仮説を形成し新しい知識や情報を生むものとして拡張的推論と呼ばれ、科学的発見や創造的思考においても重要な役割を果たすと言われています。しかし、このアブダクションが行われている過程はあまり明らかになっていません。そこで画像生成AIを使用したグラフィカルコミュニケーションのタスクを使用して、分析を行います。グラフィカルコミュニケーションの先行研究としては、Fayら(2003)が行なった実験では、グラフィカルなインタラクションがインタラクション条件を高、低、ゼロの3つに分けた事によって、グラフィカルな洗練と収束に影響を与えるかを分析しました。結果としては、ゼロインタラクション条件時にはグラフィカルな洗練と収束が起こりませんでした。なぜならば、高インタラクション条件と低インタラクション条件ではコミュニケーションのパートナー間でフィードバックが随時行われ、相互作用が生まれてくるためです。この研究ではインタラクション条件における相互作用の分析を行いましたが、私の研究は、相互作用する際のアブダクションがどのように行われるかの過程を知りたいため、画像生成AIをコミュニケーションの媒体として利用し、シンクアラウドを使用したアブダクションの過程を分析することを目的とします。発表者:黄 文蓮
概要:認知言語学の分野において、視点の理論的基盤として、認知言語学者ラネカー(R.W.Langacker)によって提唱された「最適視点配列」(optimal viewing arrangement)と「自己中心的視点配列」(egocentric viewing arrangement)が挙げられる。ラネカーの提案以降、視点に関する研究は段階的に進展を遂げてきた。その中でも、中村(2004)のIモード・Dモードや、中野(2017)のPAモードの研究が注目されている。発表者:周 豪特
概要:本研究は人間とエージェントの共創的な対話を目指す。すなわち、対話でAIが人間の思考を喚起し、人間の支援になる共創的な活動を実現しようとする。そのため、人間が創発できるメカニズムを探究することを目的とする。具体的には、「①対話を通じて創発が生まれる条件、(AIから人間への刺激)概念というの構造解明」「②創発が生まれる概念融合のプロセスの解明(人間がどうのよう刺激を受け、共有した概念を完成し、精緻化から解釈まで至るのか)」から構成すると考える。 今回は改めて簡単な研究背景紹介をしてから、方法についての検討や指摘、そしてアドバイスをいただきたいと考えてます.発表者:箕輪 朗
概要:実験記号論とGraphical Communicationの論文を紹介します。Graphical Communicationとは、文字や数字を使わずに、絵や図などでコミュニケーションすることです。絵や図などでコミュニケーションした実験と生成AIを使用した場合のコミュニケーションを比較し、私の研究の立ち位置をゼミで把握したいです。実験の中で、お互いがそれぞれ提示した情報に意味づけを行うフェーズがあり、その意味づけを行う際に推論が発生すると考えます。先行研究では推論の過程に着目しておらず、結果を重視していましたが、私の研究ではコミュニケーションの聞き手と受け手の相互作用を重視し分析して推論を明らかにしたいです。発表者:岩村 入吹
概要:言語の起源と進化を研究するアプローチのひとつである「繰り返し学習モデル(Kirby, 2002)」について紹介する.繰り返し学習モデルとは,言語の普遍的性質の一つである構成性(compositionality)が, 言語固有の遺伝的資質に基づく能力の生物進化に由来するのではなく, 親の言語産出と子の言語習得が循環する世代間継承という文化進化の中から創発することを例証したモデルである. またその代替モデルとして,繰り返し学習モデルで採用されている学習アルゴリズムや意味構造, 学習ボトルネック, 集団組織, 伝達の方向性とは異なるものを採用しているモデルも存在する.それも紹介する. 最後に,現在進めている研究を簡単に紹介する. その研究では,繰り返し学習モデルに「概念化された意味」という新しい要素を追加し,新しい言語伝達モデルを提示する. 詳細は省くが,そこで問題となることは,言語の構成性の程度を定量的に測ることである.この定量的測定はすでに先行研究において示されているため,その紹介もする.発表者:古川 建
概要:物語研究では物語を世界を知覚し解釈する思考形式や、集団で思考を共有するコミュニケーション形式と捉える研究が多く存在する。また一部の研究では文学に立脚する物語論とは異なる特徴として、物語の時系列性と予測性に言及している。サーベイ結果としてこれらの一部を概観し、自らの研究における物語とは何かについて考察する。また「物語により発生する集合動態としての社会現象を捉える」という自らの研究に関連すると思われる論文を紹介する。サーベイ報告と同時に、研究手段である「物語極性辞書の作成とテキストデータ分析」を中心に今後の研究計画を発表する。発表者:秦 慕君
概要:本研究は,具体的な他人が存在せず,自分の価値観・考え方と集団の制度・規範とのアンマッチにより生じる疎外感に焦点を当てる.また,疎外感を持つ原因となる自分の性質を受け入れることは,自己肯定感の概念で捉えられると考えられる.以上を踏まえ,本研究は疎外感を持つ人に対して,疎外感に繋がる個人の性質に関わる自己肯定感が高まると,疎外感と疎外感の受容に影響するかを検証することを目的とする.以上の目的を達成するために,2つの仮説を設定する.仮設1は自己肯定感が高まると,疎外感の受容度が高まる,仮説2は自己肯定感が高まると,疎外感に影響することである. 仮説を検証するために,自己肯定感の得点を独立変数,疎外感と疎外感受容度の得点を従属変数とすする混合計画の実験をデザインした.独立変数のコントロールとして,自伝的記憶の想起課題を行った.疎外感をもつ経験(集団に溶け込めない,なじめない等)からユニークな自分(個人の性質)を自覚できるような重要な出来事の想起を実験群,日常的な記憶の想起を統制群とする. 今回のゼミでは,主に実験を改善することを目的とします.特に,実験群と対照群の想起課題の具体的な設問について議論したいです.本実験の準備するために,予備実験で使用した材料とその材料の不足点・問題点および改善策を皆さんに共有します.ご指摘やアドバイスをいただければ幸いです.発表者:笠野 純基
概要:我々が生活している社会には、言語表現、他者推論など様々な種類の多様な人工物が溢れており、人は多様なアイデアや計画などの生成物を頭の中で生み出すことができる。これらの生成物は、物体や概念を再帰的に結合すること(再帰的結合)で生み出すことができ、また進化シミュレーション研究によって、不確実な環境下で再帰的結合が適応的となることが示唆されている。シミュレーション研究から不確実な環境下において再帰的結合が生成物を多様に生み出す可能性が示唆される。一方で実際の人が再帰的結合をして生成物を多様に生み出すことに効果があるのかは検証する必要があると考えられる。本研究は、再帰的結合は思考内容を多様に生み出す効果があるかどうかを実験的に調査することを目的としている。具体的には、再帰的結合で思考する傾向性を持たせる訓練を行うことで、不確実な環境において文(言語表現)を多様に生み出す効果がある、という仮説を実験により検証する。発表者:成 太俊
概要:今回のゼミでは,予備実験の実施やその結果について皆さんにご報告します.この実験は,Ⅰ事前の調査票調査:①参加者のペアリングのための30 circles,②参加者のパーソナリティを調べる調査票,③参加者の即興の傾向・性質を調べる調査票;Ⅱレゴブロックを用いて作品を作製する実験室実験;Ⅲ実験中に参加者が即興的に作品を作製したかを調べる調査票,で構成されてます.予備実験の参加者募集はうまく実行できず,最初の2ペア(4名)でしか行ってないです(4ペア8名を想定したが).実験は,レゴブロックの組み合わせ操作に制約なし(再帰的組み合わせ操作は可能)で,作製先行の条件(手を止まらず作品を作る,その後作品のコンセプトを考える=即興的作製)で実験を実施しました.また,Ⅲでの調査票をテストするため,思考先行の条件(作ろうとする作品のコンセプトをじっくり考えてから,それに基づいて作品を作製する=非即興的作製)で個人による作業段階まで完了した1ペアもあります.明日は,予備実験の実施について具体的に説明し,その後調査票の結果や参加者の作製動画の解析データなどを共有します.時間あれば,一人の実験者で2名の参加者を異なる部屋で同時に実験実施できるアイデアについても議論したいと思います.発表者:黒川 瞬
概要:嫌がらせ行動は自らの適応度を下げ、相手の適応度を下げる行動であると定義される。何も特別なメカニズムがなければ、嫌がらせ行動は自然選択の結果淘汰されることが期待される。したがって、嫌がらせ行動の存在の背後には、何か特別なメカニズムが存在すると考えられる。今回、嫌がらせ行動同士のペアは解消しやすいというメカニズムを検討する。このとき、嫌がらせ行動をとる個体は嫌がらせのコストを払う必要があるが、嫌がらせをしない個体と比べて嫌がらせを受けづらい。そのため、トータルで考えると、嫌がらせにかかるコストが小さい場合は嫌がらせ行動を行うことが適応的になりえる、という予測が立つ。数理モデルを用いた理論研究の結果、確かに、嫌がらせ行動の進化が起こることが確認できたので、それについて報告する。発表者:笹森 なおみ
概要: 本研究では,道徳的意思決定前に予期される後悔が存在することを示し,特に不作為の予期的後悔が道徳的意思決定に影響することを示すことを目的とし,二つの仮説を検証する.仮説1は,「道徳ジレンマ課題中の予期的皮膚コンダクタンス反応は予期的後悔を反映している」であり,仮説2は「不作為の道徳的意思決定は予期的後悔によって予測される」である.予備実験として,被験者4名に対して,道徳ジレンマ課題と課題中のSCRの測定を行った.課題1では後悔の評価を行い,課題2では作為か不作為かの意思決定を行った.課題1の結果,予期的SCRは後悔の度合へ影響がある変数とは言えず,仮説1は検証されなかった.課題2の結果,予期的SCR,事後SCR共に,意思決定へ影響がある変数とは言えず,仮説2は検証されなかった.本研究で予期的後悔を反映する予期的SCRの存在は示せなかった理由として,予期的後悔が身体化されていない情動の可能性が挙げられる.今後の課題として,道徳的意思決定への予期的後悔の影響を検証できる新たな実験設計が必要とされる.発表者:秦 慕君
概要:個人が自分の体験などに基づいて内面化された価値観・考え方と集団の制度や規範に合わないこと(アンマッチ)によって,「自分は排除されている」と感じる状況になると疎外感が生じる.本研究は,具体的な他人が存在せず,自分の価値観・考え方と集団の制度・規範とのアンマッチにより生じる疎外感に焦点を当てる.そして,疎外感をポジティブに捉える視点もあり得るから(宮下,1994),本研究において,疎外感を持つ至る原因となる個人の性質を自らポジティブに受け入れ,また社会もそれを受け入れるようになることが重要だと考えられる.そこで本研究は,疎外感を持つ原因となる自分の性質を受け入れることは,自己肯定感の概念で捉えられると考えられる. 以上を踏まえ,本研究は疎外感を持つ人に対して,疎外感に繋がる個人の性質に関わる自己肯定感が高まると,疎外感と疎外感の受容に影響するかを検証する目的とする.以上の目的を達成するために,2つの仮説を設定する.仮設1は自己肯定感が高まると,疎外感の受容度に影響することであり,仮説2は自己肯定感が高まると,疎外感に影響することである. 仮説を検証するために,自己肯定感の得点を独立変数,疎外感と疎外感受容度の得点を従属変数とすする混合計画の実験をデザインした.独立変数のコントロールとして,自伝的記憶の想起課題を行った.疎外感をもつ経験(集団に溶け込めない,なじめない等)からユニークな自分(個人の性質)を自覚できるような重要な出来事の想起を実験群,日常的な記憶の想起を統制群とする.予備実験では,統制群を実施せず,実験群のみ行われた. その結果は,想起前後で,自己肯定感得点の平均値は高まったものの有意差が見られなかった.疎外感には有意差が生じたが,疎外感受容度に有意な変化がなかった. 今回の予備実験では,2つの仮説の前件部である「自己肯定感が高まると」という部分が示されなかったため,仮説が検証できたかどうかについて何も言うことはできない.しかし,自己肯定感の変化と疎外感および疎外感受容度得点の変化は,無相関検定の結果が有意ではないものの,比較的強い相関を示していることから,上記の想起課題の改善と実験参加者の増加により仮説が検証される可能性は残る.発表者:笠野 純基
概要:ヒト社会は、言語表現、他者推論など様々な種類の多様な人工物で溢れており、人はこれらに関する多様なアイデアや計画などの生成物を頭の中で生み出すことができる。本研究は、ヒトを対象に、再帰的結合は思考内容を多様に生み出すことに効果があるかどうかを実験的に調査することを目的としている。具体的には、語と語を組み合わせた複合語の意味内容を判断する訓練を、再帰的結合(階層構造)あるいは単結合(非階層/単層)で行った場合、他者の意図に関する仮説文の多様さは、単結合よりも再帰的結合の方が多様に生み出す効果がある、という仮説を実験により検証する。発表者:黄 文蓮
概要:本研究は人間の身体的な体験が言語表現に反映されるという認知言語学の考え方を基盤として、日中多義語「上がる」「上(shàng)」について、イメージスキーマ・ネットワークの類似点・相違点を明らかにし、その比較から日中言語話者の認知・視点の違いを探求することを試みる。発表者:周 豪特
概要: デザイン研究において、人工知能がアイデア発想のプロセスを支援するツールとして注目されている。しかし、デザインプロセスの特定の特性、すなわち発散的思考と収束的思考の相互作用をサポートするために人工知能(AI)を使用する可能性は、まだ十分に検討されていない。このギャップを解決することを目的として、本論文では、著者らがヨーロッパの著名なデザイン学校の中で実施した2つのコースにおいて、136名の学生がどのように人工知能と相互作用したかを検証している。その結果、AIは生徒が疑問を持ち、思索や議論を深めることをサポートすることができた。発表者:岩村 入吹
概要: 今年1月に言語学フェスという非公式の言語学関連の研究会で発表したポスターを使って,これまで勉強してきたことを紹介します.その後,現時点で,修論でやりたいことを簡単に紹介します.発表者:箕輪 朗
概要:【学部研究】大学では自分で授業を取らなければならない。その際に提供されるシラバスでは、科目同士のつながりやその授業の重要性が俯瞰することができない。さらに履修登録時に多数あるシラバスの授業内容を一つずつ確認することは手間である。そこで、これらの問題を解決するためには、学生が授業間のつながりを地図のように把握できればよい。それは授業間のつながりを可視化することによって実現できると考えた。本研究ではシラバスの授業間のつながりを自然言語処理であるテキストマイニングで単語を可視化し、得られた結果をカリキュラムマップにすることが目的である。発表者:古川 建
概要: 混雑状況の可視化により人々は混雑回避行動を取れるようになるが、一方で多くの人々が混雑回避を行うことで新たな混雑が発生する問題がある。本研究では混雑状況の可視化が人々の行動に与える影響について検証することを目的としてオンライン上で経済学実験を行った。本実験では、まず混雑状況の可視化についての有効性を検証するため、混雑状況の可視化の有無を実験処理とし、被験者内比較で検証した。また混雑状況の可視化が新たな混雑を発生させる現象について実験を通して検証を行った。加えて混雑回避により発生する新たな混雑を解消する目的で人々の行動を誘導する仕組みを独自に考案し、誘導の有無を実験処理とし被験者間比較で検証した。本実験の結果として、混雑状況の可視化には有効性が明らかになり、加えて混雑状況の可視化が新たな混雑を発生させている現象が一部の場合において確認できた。しかし独自に考案した人々の行動を誘導する仕組みについて、期待した効果は得られなかった。発表者:笹森 なおみ
概要: 後悔の情動は意思決定に影響を与えることから,道徳の実践に内的条件付けとして用いることが役立つと考えられる.本研究では,予期的な後悔が道徳的意思決定に影響を与えているか検証するために,道徳ジレンマ課題中の予期的皮膚コンダクタンス反応(SCR)を計測した.予備実験の結果,予期的後悔が予期的SCRに反映されていることは示せなかった.このことから,道徳的意思決定への予期的後悔の影響を検証できる新たな実験設計が必要とされる. 今回のゼミでは,認知科学会の原稿を共有し,全体の構成やアブストラクト提出時から加筆された予備実験の結果やその考察部分の内容について様々ご指摘いただければ幸いです.発表者:秦 慕君
概要: 個人が自分の体験などに基づいて内面化された価値観・考え方と集団の制度や規範に合わないこと(アンマッチ)によって,「自分は排除されている」と感じる状況になると疎外感が生じる.先行研究によれば,疎外感は具体的な他者がいなくても起きうる(宮下・小林,1981).本研究は,このような具体的な他人が存在せず,自分の価値観・考え方と集団の制度・規範とのアンマッチにより生じる疎外感に焦点を当てる.そして,疎外感をポジティブに捉える視点もあり得るから(宮下,1994),本研究において,疎外感を持つ至る原因となる個人の性質を自らポジティブに受け入れ,また社会もそれを受け入れるようになることが重要だと考えられる.そこで本研究は,疎外感に至る原因となる個人的性質をポジティブに受け入れることに重点を置く.また,江角・庄司(2012)によると,自己肯定感が他者との比較ではなく,自分の価値基準にした自分は自分であっても大丈夫と定義される.つまり,個人が疎外感をもっていても,ありのままの自分を受け入れる,すなわち,疎外感を持つ原因となる自分の性質を受け入れることは,自己肯定感自己肯定感の概念で捉えられると考えられる.そして,社会心理学の領域では,自己肯定感は,社会規範の対立による疎外感を緩和と調節の効果があるとされる. 以上を踏まえ,本研究は疎外感を持つ人に対して,疎外感に連れなる個人の性質に関わる自己肯定感が高まると,疎外感が改善するかを検証する.そのため,本研究では,記憶想起前後,個人の疎外感と自己肯定感を測るために,疎外感尺度と自己肯定感尺度を用いて測定する.記憶想起の段階では,疎外感をもつ経験(集団に溶け込めない,なじめない等)からユニークな自分(個人の性質)を自覚できるような重要な出来事を想起させる課題の自由記述形式の質問紙を使用する.最後に,想起実験前後の結果を比較し分析する. 今回のゼミでは,7月中旬の認知科学会の原稿提出に向けのドラフトを皆さんに共有し議論していただければと思います.今回のドラフトは実験結果および考察ができているような状況ではなくて,実験説明まで作成したもので,それを修正するために,指摘やアドバイスをいただきたいと考えています.発表者:笠野 純基
概要: ゼミでは日本認知科学会に提出する大会発表論文集原稿の内容と構成についてアドバイスをいただきたいと考えています。原稿の提出締切日は7/14(金)、ページ数は参考文献を含めて4ページ以内となっています。現在に至るまでの経緯を共有しますと、ポスター発表に申し込み、修士研究テーマの内容でアブストラクトを提出し、査読の結果採択となりました。原稿は査読を経たアブストラクトの内容を基に修正、執筆する予定です。アブストラクトには研究背景、研究仮説、実験計画を書いており、前回のゼミ2部(6/29(木))で発表した内容を文章にしたものになると思います。原稿では、アブストラクトには書かれていていない予備実験の結果などを含めた内容を書きたいと思っていますが、まだ実行できていません。発表者:黄 文蓮
概要:認知言語学では、上下のような空間的な体験は世界の認識とメタファーを含む言語表現に重要な役割を果たすとされる(Lakoff & Johnson, 1980)イメージ・スキーマはメタファーの経験的基盤となりうる(鍋島2002:79)。発表者:笠野 純基
概要: ヒトは言語表現やテクノロジーなど多種多様な物事や概念(人工物)で溢れるヒト社会を作りそこに暮らしている。我々が思い浮かべる多種多様な人工物は、階層的な構造を持っていることが共通する特徴としてあげられる。階層的な構造を持つ人工物は要素と要素を組み合わせ、その操作を繰り返し行う、つまり要素を再帰的に結合させることで階層構造をつくることができる。再帰的結合とは要素と要素の組み合わせ方の一種であり、物事や概念など(要素)を組み合わせた複合体をつくり、それを別の要素に対して組み合わせる特徴がある。進化シミュレーション研究によって、多様な製作物をつくることが生存・生殖につながる環境で再帰的結合は進化しえることが示唆されている。しかしヒトにおいても再帰的結合は階層構造を作り、多様な物事の生成に影響を与えるかは明らかになっていない。本研究は、ヒトを対象に、文の意味解釈(心的内容)が再帰的結合により階層構造をつくることで多様な物事の生成に影響を及ぼすのかを実証的に調査することを目的としている。具体的には参加者が再帰的結合または非再帰的結合(要素と要素の組み合わせ方の一種であり、複合体に対して要素を結合していく)を訓練した群間を比較することで、再帰的結合の方が多種多様な物事を生成する効果があるという仮説を実験的に調査する。この仮説は3つの調査項目に分割して行う。1.それぞれの群で訓練することによって参加者は頭の中で文の階層構造(構文木)を作り、意味を捉えることができる。2.文の構成要素の修飾関係の曖昧さから来る文の意味の多義性に対して、再帰的結合は非再帰的結合と比較して頭の中で単語や文節の修飾関係を組み換えて文の意味を多種に解釈できる(予測する)。3.参加者が自ら単語や文節の語彙集合を作り出し、それらを利用して多義的に解釈ができる状況(不確実な環境;例えば参加者自身が直感的に発した文の多義的意味)を提示したとき、再帰的結合は非再帰的結合と比較して状況に対する理解(解釈)を語彙集合の中の要素を再利用する回数が多い。実験計画は、参加者を2群に分ける(2水準;再帰T/非再帰C)の混合計画で行う。実験の流れは2段階からなり、1.参加者の個人差測定のための再帰的結合能力レベル試験および再帰的あるいは非再帰的結合訓練(実験1)、2.参加者が自ら語彙集合を作り利用した文の意味生成課題(実験2)、を行う。測定するデータは各参加者の基本情報(性別、年齢)、発話内容、発話時間、発話数を記録する。個人差の影響を考慮した分析を行うために、参加者は再帰的または非再帰的結合訓練の前後で再帰的結合能力レベルを測定する(再帰的結合能力レベル試験:N水準;3単語以上、単語数が多くなるほどレベルが高い)。分析方法は、個人差を考慮することができる一般化線形モデルを用いた統計モデリングを行う。実験1では、説明変数に制限時間内の平均発話時間、応答変数に提示した単語数中正答した数を二項分布に従うロジスティック回帰モデルで予測する。実験2では、説明変数に語彙集合の大きさ(単語や分節の数)、応答変数に再利用された語彙の数をポアソン分布に従うポアソン回帰モデルで予測する。予想される結果として、再帰的結合のモデルが非再帰的結合のモデルと比べて選択される。発表者:黄 文蓮
概要:多義語は基本義だけではなく拡張的な意味でも使われる語彙である。本研究の研究対象である日中多義語「上・下」は、日本語と中国語で同じ漢字が用いられ、基本義は同じだと考えられるが、拡張義の意味が違う場合がある。発表者:黒川 瞬
概要:嫌がらせ行動は自らの適応度を下げる行動であるため、その存在は不思議であると言える。進化ゲーム理論モデルを用いて、以下の3つを示した。(1)嫌がらせ行動は、その効果が集団全体に広がるか、またはその効果がコストを大きく上回る場合、嫌がらせ行動をとる個体は小規模な集団に侵入することがあること。(2)嫌がらせ行動をとる個体とnormalな個体の間の相互作用が非ランダムで非類似である場合、嫌がらせ行動をとる個体は、大規模な集団にも侵入することができること。(3)個体が繰り返し相互作用し、相手の戦略を記憶する場合、嫌がらせ行動をとる個体の頻度が集団内で増加する可能性があること。嫌がらせ行動が進化する可能性のある条件は利他主義の進化を可能にする条件と類似している。この論文は、forumに掲載されており、アイディアレベルの論文であり、解析が通常の論文に比べてずさんであると見方もできると思います。しかし、アイディア自体はよいアイディアだと思うので、紹介しようと思いました。また、最近、繰り返しゲームにおける嫌がらせ行動に関する論文(現在Animal Behaviourに査読中)を書いていますが、その論文と関連が深いことも、紹介する理由です。ESS(Evolutionarily Stable Strategy)は説明なしに論文内で用いられていますが、論文を理解する上では必要になってくる重要事項であるため、説明をゼミ内で行いたいと思います。発表者:周 豪特
概要: 本研究は人間とエージェントの共創的な対話を目指す。すなわち、人間の概念融合思考を喚起するチャットボットとの対話を提案し、この対話を通じて人間が創発できる要因を探究することを目的とする。具体的には、「①思考と対話の提案と論証」「②創発が生まれる、概念融合に関する刺激のモデルに関する研究」「③創発が生まれる、概念融合に関するルートの研究」から構成すると考える。①チャットボットから質問し、人間の思考、特に概念融合思考を喚起することは共創に至るポイントと論証することを目指す。本研究では、対話は思考を反映する立場である。われわれの主張は、Human-Agent Interaction(HAI)対話で人間の概念融合思考を喚起することで、人間が概念に関する創発する可能性である。今までのHAIと共創の研究を整理した上で、理論上で本研究の主張の正当性を論じる。②人間がチャットボットとの対話で概念の創発が生じるように、チャットボットから人間与える刺激の性質と創発可能性の関係を探求する。本研究は概念融合思考が創発を生じる可能性がある立場である。われわれは刺激の一つ、ミスマッチという性質を狙い、モデルを作り、創発を生じる可能性を上げるポイントを解明する。③HAIで人間の概念融合が生じた時、人間はチャットボットから刺激を受け、融合した概念との関係を探求する。本研究は概念融合思考の一部は対話を通じて解明できる立場である。われわれはチャットボットから人間へ刺激し、人間が自らのアウトプットとの関係を尋ね、概念がどうのように変化したかという概念融合のダイナミクスを解明する。発表者:笹森 なおみ
概要: 道徳判断の二重過程理論に基づき,歩道橋型のジレンマでは,意図的に害を与えることによる情動的な結果の予期が,功利主義的な解決策を拒否する決定に寄与する可能性が示唆されている.しかし,意思決定後に参加者が感じた情動に関する実証データは報告されておらず,トロッコ型ジレンマにおいて情動が果たす役割は解明されていない.本研究では,トロッコ型と歩道橋型のジレンマにおいて,意思決定の選択後と反実仮想シナリオの生成後の両方において,どのような情動が働くかを調査した.この結果は,歩道橋型のジレンマにおいて,意思決定は,意思決定結果によって引き起こされる嫌悪的な情動状態を最小化しようとすることによって行われるという考えを支持するものである.典型的な(非功利主義的な)選択に続く反実仮想生成後では,トロッコ型よりも歩道橋型の方が全体的に情動強度の増加が認められ,罪悪感,後悔,恥が最も増加する情動であった.決定的に,歩道橋型のジレンマに限って言えば,反実仮想生成後の後悔強度の増加によって,典型的な選択が予測された.発表者:松井 一樹
概要:「他者との関係についての認知メカニズムに着目したEBPM向けの社会シミュレーションモデルの構築」概要:本研究では、思考習慣としての制度が社会に定着し実効性を持つために、他者に関するどのような認知メカニズムが影響するか見出すことを目指す。政策が制度として効果を発揮する政策効果メカニズムを検討するため、コロナ禍の外出自粛要請を例として、SNSインフルエンサーなど他者行動の影響を考慮したEBPM(Evidence Based Policy Making)向けの行動意思決定モデルを構築した。本モデルでは、他者の意図を再帰的に深く予測する意図スタンス(Dennet 1987)にもとづく認知メカニズムの影響を検討した。シミュレーション結果が東京都と岩手県での人流データと近似することを確認し、両県の振る舞いの違いが他者に対する思考の深さの分布の差異を反映していることを示唆した。さらに、今回新たに各都道府県のコロナ感染者数や平均年齢などの属性も加えて、重回帰分析を行い、思考の深さの平均値も外出自粛の傾向に対して有意である可能性の示唆を得た。発表者: 成 太俊
概要:今回のゼミ1部は三本の(質的研究)論文をまとめて皆さんに紹介します.以下の流れやゼミ目的で説明する予定です.それぞれのゼミ目的に応じて議論できたらと思います. まずは,共創的なプロトタイピング活動において,LEGOとアナログオブジェクト(紙や段ボール)の結合・併用の利点を示す論文¹を紹介する.この論文を紹介する目的としては,作った作品を評価する基準を参考したいと考えるためである.この論文を簡潔に説明する: 異なるバックグラウンドをもつ58名の参加者を6グループに分け,LEGO&アナログ併用のグループや,LEGOのみのグループや,アナログのみのグループに割り当てた.未来のパハン博物館(マレーシア)という課題で五つの段階のあるワークショップに実施した.6名の専門家がデザインプロセスを直接観察し,録画とともに参加者の振る舞いや作品を評価した.結論として,デザイン開発の早期ステージにおいてレゴとアナログオブジェクトを柔軟に(併用)使用することで,デザイン上の問題をより正確に明らかにし,より振り返りのある,反復的で協力的な解決策を見出すことができた.発表者:秦 慕君
概要: この研究では,社会的アイデンティティの脅威下での自己肯定感を高めるためのメカニズムとして,自己の成功体験の想起がどのように機能するかを明らかにするために,実験が行った.被験者が過去の成功体験を想起することで,自己肯定感の向上につながるのではないかと仮説を立った.被験者が実験群と対照群に分けられた.実験群の被験者は,自己の成功体験に関連する過去の出来事を想起するために,特定のヴィネットを提示された.一方,対照群の被験者は,他のトピックに関連する出来事を思い出すように指示された.被験者はそれぞれの群で,自己肯定感尺度を用いて評価した.結果として、実験群の被験者は対照群より,自己肯定感が高まったことが明らかになった.この研究の結論は,自己肯定感の向上において,自己の成功体験を思い出すことが有効であることを示唆している.これは,社会的アイデンティティの脅威の場合には,個人が自己肯定感を維持するための一つの手段となる可能性がある発表者: 黄 文蓮
概要:修士段階の研究は代表的な空間性を含む基本的な日中同型多義語の「上がる」「上(shang)」を研究対象にする。日中多義語「上がる」「上(shang)」の意味項目の拡張プロセスとイメージスキーマの拡張関係を検討し、イメージスキーマ・ネットワークの比較を試みる。この比較は日中母語話者認知・視点の違いを検討し解明することに繋がるという意義がある。日中多義語「上がる」「上(shang)」の意味項目の拡張プロセス(メタファー、メトニミー)を解明するために、国広が提唱した「現象素(phenomeneme)」を基準として参考する。「現象素」とは,ある語が指す外界の物,動き ,属性などで,五感で直接に捉えることが出来るものである。従来の「指示物」 (referent)に近いが,思想的な背景が異なる。単なる外界の存在物ではなく ,人間が認知したものである。その認知のしかたは,言語の用法を通じて捉える(国広 1995:40)。明日のゼミでは、「上がる」「上(shang)」の意味項目の現象素の分析の結果の妥当性について議論できればと思います。発表者: 周 豪特
概要:デザイン研究において、人工知能がアイデア発想のプロセスを支援するツールとして注目されている。しかし、デザインプロセスの特定の特性、すなわち発散的思考と収束的思考の相互作用をサポートするために人工知能(AI)を使用する可能性は、まだ十分に検討されていない。このギャップを解決することを目的として、本論文では、著者らがヨーロッパの著名なデザイン学校の中で実施した2つのコースにおいて、136名の学生がどのように人工知能と相互作用したかを検証している。その結果、AIは生徒が疑問を持ち、思索や議論を深めることをサポートすることができた発表者:黒川 瞬
概要:利他行動とは、自らの適応度を下げ、相手の適応度を上げる社会行動である。嫌がらせ行動とは、自らの適応度を下げ、相手の適応度を下げる社会行動である。利他行動と嫌がらせ行動は、いずれも、自らの適応度を下げる行動であるため、その存在は説明を要する。利他行動を行う個体が、利他行動を行わない個体よりも、利他行動の受け手になりやすければ、利他行動は適応的な行動になりえ、進化しうる。また、嫌がらせ行動を行う個体が、嫌がらせ行動を行わない個体よりも、嫌がらせ行動の受け手になりにくければ、嫌がらせ行動は適応的な行動になりえ、進化しうる。利他行動が進化するようなセットアップでは、嫌がらせ行動もまた進化しうる。例えば同一個体と繰り返し相互作用がある場合を考えよう。このとき、利他者には利他的に振舞い、非利他者には非利他的に振舞う場合、利他行動が進化する一方で、嫌がらせ個体には嫌がらせを行わず、非嫌がらせ個体には嫌がらせを行う場合、嫌がらせ行動は進化する。このことから、嫌がらせ行動は、利他行動の悪魔の双子(Vickery, 2003)とも、醜い姉妹(Gardner & West, 2004)とも、かげがある親戚(Smead & Forber, 2013)とも言われる。しかし、利他行動はよく観察される一方で、嫌がらせ行動はまれにしか観察されないという非対称性がある。この非対称性はどのように説明できるだろうか?今回のゼミでは、相手の行動に応じて、関係を続けたり、関係を打ち切ったりするメカニズムを考える。このメカニズムは、利他行動の進化を促進することが、Zheng et al. (2017)より指摘されている。私は、進化ゲーム理論を用いた数理解析を行い、その結果、嫌がらせ行動の進化もまた、このメカニズムは促進するが、嫌がらせ行動の進化は、利他行動の進化ほどには促進されないことを明らかにした。この結果は、観察のされやすさにおける利他行動と嫌がらせ行動の非対称性を、うまく説明する。この内容の論文は、Theoretical Population Biologyという雑誌に提出し、査読中です。この論文は、今年の1月に、Theoretical Population Biologyに出しましたが、結果は、再提出許可付きの、rejectでした。3人の査読者に回り、1人はpositiveであり、2人はnegativeでした。1人がpositiveであることを踏まえると、major revisionでもよさそうなものですが、negativeな査読者の「嫌がらせ行動の進化の数ある論文の中で、この論文がどのように位置づけられるかに関してきちんと書けていない」というコメントを編集者は重くとらえ、major revisionではなく、再提出許可付きの、rejectになったと黒川は理解しました。まだ受理されていない論文であることから、皆さんのコメントを取り込むチャンスがありますので、是非コメントを宜しくお願いします。発表者:宮本 真希
概要: まず,研究のモチベーションにもつながる(深めの)自己紹介をしたのちに,修士研究の内容,つづいて博士研究の内容について話します.修士研究では,非日本語話者への日本語音声による情報伝達の可能性について,オノマトペ音声を使用した実験的な研究を行いました.結果として,音象徴的に音声と対応づいている内容であれば,相手が異なる言語を使用する話者であっても伝えられる可能性を示すことができました.博士研究では,修士研究から一転してマンガの研究を行っています.マンガの研究ですが,修士研究とは地続きのテーマとして,言語による情報伝達といったことを扱っています.特に,マンガの情報伝達効率が高い要因が,マンガ独特の表現にあるのではないかと考え,その一つである「描き文字」に着目し,描き文字が付された場面を見た読者がどういった情報を受け取るのか,またその内容や伝達効率に影響を与える要因は何かについて検討していきたいと考えております.発表者:Lian Qingxi
概要:I will share the outline of "Visual Cue in Multimodal Language Processing through Experimental Consideration on Mass Quantifier "some"". The main focus of the whole study is by understanding the mechanism of language processing to describe the basis of language, the human cognition. The cognitive contains perception, memory, language processing etc.A constraint-based framework is a promising one to explain the processing of understanding the meaning of "some" in a given context.Visual modality information can modulate the naturalness judgement based on a combination of image and utterance.For the experiment part, I did power analysis for experiment1 and it turned out that the power is not suffient using one package but do alright with another. I'd like to discuss which package is more trustworthy and should there be extra experiment. I'd like to discuss whether it is necessary to involve experiment2 as well.発表者:成 太俊
概要: 今回は,自分の研究と関連する概念に関する複数の論文を一つのExcel表に整理して皆さんに共有し議論したいと思います.最近は実験に使用可能な調査票をメイン目的としてサーベイし,それと並行に概念整理も行ったので,ゼミではその結果を皆さんに報告します.まず自分の研究を簡潔に説明すると,「個人的な遊び行動=即興作製行動--->共創活動--->チームのアイデア生成」のメカニズムを解明することが目的である.そのため,今回は「即興とチームパフォーマンスの関係」,「遊びの不思議さやそれと創造性の関係性」,「LEGO Serious Playおよびそれと創造性の関係」,「意識的思考・無意識的思考と行動の関係」などに関する論文をレビュー的に紹介する.全体的なつながりをアナウンスで説明すると長くなるが,簡潔に説明すると:レゴブロックを用いて作製しようとする作品を予めにじっくり考えず作製する行動は,LSPに重要であり,遊び行動や即興的振る舞いの特性を満たす,またそのような行動は無意識的な思考が伴う行動としても考えられる.さらにそれらの概念はよく創造性と関連し研究されています.ゼミでは,それぞれの概念や論文は自分の研究のどこと,どう関わる・異なるかのようなことを皆さんに報告します.紹介する論文が多いため,いつも通りしっかりした議論はできないかもしれませんが,分野横断的にみる場合,皆さんとの相互作用で自分の研究はどう位置づけられるかについて何が得られたらと思います.発表者:黒川 瞬
概要: 協力は、進化が組織の新しいレベルを構築するために、必要である。ゲノム、細胞、多細胞生物、社会性昆虫、そして人間社会は、すべて協力の上に成り立っている。協力とは、利己的な自己複製子が生殖能力の一部を見送って、お互いを助けることである。しかし、自然選択は競争を示唆し、それゆえに、特別なメカニズムが働かない限り、協力を阻害する。ここで、私は協力行動の進化の5つのメカニズムである血縁選択、直接互恵性、間接互恵性、ネットワーク互恵性、グループセレクションを議論する。それぞれのメカニズムに対して、自然選択が、協力を導くことができるかどうかを決める単純なルールが得られる。この論文は、協力行動の進化の論文の第一段落で引用されやすいタイプの論文であり、2023年4月15日時点で6075回(google scholar調べ)引用されています。ぼくもこれまで20本ほどの論文(例えば以下の4本)でこの論文を引用したと思います。協力行動の進化がなぜトピックたりえるのか、協力進化を説明するメカニズムとしてどのようなメカニズムが考案されてきたのかについて説明がなされており、協力行動の進化の研究の全体像について知ることができるよい論文であると思います。協力行動の進化に関する自分自身の研究や、他の人の研究をこれまで紹介してきましたが、いずれも個別の研究でしたので、この論文を紹介することで全体像を伝えたいと思います。発表者:Lian Qingxi
概要: This work is about the investigation of the meaning of "some" in a visual context. The work falls into the field of psycholinguistics with a multimodality perspective. In other words, how visual information (image) and audio information (utterance) integrated affect human understanding.発表者:笠野 純基
概要: ヒト社会には、言語表現、音楽、工業製品、他者推論(Oesch and Dunbar, 2017)、デジタル空間など様々な種類の多様な人工物が溢れており、人はそれらのアイデアや計画などを頭の中で多様に生み出すことができる。人の認知、とくにアイデアや計画を生み出す思考過程については、認知科学会をはじめとする諸学問分野で研究されている。またヒトの特質とも考えられる創造性的思考の観点から生み出された物事の新奇性や多様性も扱われている。 多様な生成について、Angら(2018)は行動の選択肢生成についてタッチスクリーン上での描画課題を用いて調べ、選択肢生成の総数(fluency)と種類(uniqueness)が新奇な探索行動の柔軟性に関わる神経物質のドーパミンにより調節されることを示した。しかし、運動に現れない内的な思考における多様な選択肢生成の仕組みについては具体的な実証的研究はまだ進んでいない。 今日見られるような多種多様な人工物は複数の要素が組み合わせられており、とくに階層的な構造を持つ場合が多いことが指摘されている(Arthur, 2009; Hause and Watumull, 2017)。そして、階層的な構造は要素の組み合わせを再帰的に繰り返すこと、すなわち再帰的結合で作り出すことができる(Chomsky, 1993; Fujita, 2009; Hashimoto, 2020)。再帰的結合とは物体や概念などの物事(要素)を組み合わせる方法の一種であり、要素同士の組み合わせからなる複合体をつくりそれを操作して別の要素に対して組み合わせることである。再帰的結合は生成物の多様性を高める点において適応性があることが進化シミュレーションで示されている(Toya and Hashimoto, 2018)。しかし、内的な思考の生成物の多様さに再帰的結合の効果があることが実証されたわけではない。 本研究の目的は、内的な思考における生成物の多様さに再帰的結合が与える効果を明らかにすることである。具体的には、再帰的結合は多様な仮説を生成する効果があるという仮説を実験的に検証する。 本研究の実験は、参加者をランダムに2群に分け、それぞれ再帰的結合(実験群)と非再帰的結合(複合体を操作するのではなく、複合体に対して他の要素の結合を繰り返す)(対照群)を行う(説明変数)。次に、人物が登場するイラストや写真からその人物の意図に関する仮説文を決められた時間で思い付くだけ挙げる仮説生成課題を行う。言語流暢性課題(光戸ら, 2019)での指標を参考に、被験者自らが生成した仮説文の数や使用語彙・節の数(fluency)と種類(uniqueness)に加え、文の階層構造や要素・複合体の再利用の程度を特徴づける指標で測定する(応答変数)。また、想定する交絡変数として語彙の探索や各仮説文の生成に掛かる時間を計測する。個人差の影響をランダム効果とした一般化線形混合モデルにより、訓練課題と生成文の関係を分析する。 本研究は再帰的結合が生成物の多様性を増大させる点に着目している点に独自性がある。さらに、再帰的結合と生成物の多様性の関係を実証的に示す点で特色がある。また本研究は多様な生成の脳神経基盤としてドーパミン系とブローカ野を関連させる研究につながると考えられ、さらに機械(AI)が再帰的結合を獲得する学習方法や訓練データ、あるいは、アーキテクチャの開発につながり、人と機械の多様な人工物の共創も期待される。発表者:黄 文蓮
概要: 認知言語学では、言語使用者が身体的経験を通じて世界をどのように見ているのかを重視し、その見方が言語表現に表れると考える。そして、上下のような空間的な体験は世界の認識とメタファーを含む言語表現に重要な役割を果たすとされる(Lakoff & Johnson 1980:14-21)。人間は上下のような空間的な身体経験があって、上下のようなイメージスキーマが生まれる。イメージ・スキーマ変換は意味拡張の際に重要な役割を果たす(パリハワダナなど2022:41)。 人間は実生活で使用した言語表現は基本義以外の拡張義がよく使われると思う。例えば、日本語の「ヤバイ」という言葉は現代の日本社会において基本義以外の拡張義がよく使用されている。なぜこの多義語において、このような拡張義が出るのかについての認知レベルまで掘り尽くすなら、イメージ・スキーマの拡張を明らかにする必要があると考えられる。 本研究では代表的な空間性を含む基本的な日中同型多義語のひとつである「上・下」を取り上げ、上下に対する日本語母語話者と中国語母語話者の認知の相違点を考察する。まずは日中各コーパスから例文を抽出する。「上下」の意味項目の分類の枠組みは主にLakoff & Johnson(1980:14-17)、Taylor(2003:136-139)を参考する。次に、意味拡張プロセスを説明できるイメージ ・スキーマの相違点をまとめる。最後は日中の「上下」のイメージ ・スキーマのネットワークを作成する。 明日のゼミでは、認知科学会の申し込みに向け概要の構成・全体的なロジックと方法・意義について議論できればと思います。発表者:笹森 なおみ
概要: 道徳的な場面において不作為の意思決定後にネガティブな結果が引き起こされたとき,「行動すればよかった」という後悔の感情が喚起され,その後の意思決定に影響を与える.行為をした場合と行為をしなかった場合に同じ危害を与えるとき,人が行為をしない不作為の方を選んでしまうことは不作為バイアスという(Spranca et al., 1991).Jumison et al. (2020) は,不作為による危害を含んだ道徳シナリオを用いて不作為バイアスを再現し,作為よりも不作為による危害の方が後悔の感情が大きいことを報告した. Pletti et al. (2016)は道徳ジレンマ課題実験と予測モデリングにより,後悔が道徳判断を予測したことを報告した.ここで,道徳ジレンマ課題とは,トロッコ問題の思考実験 (Thomson, 1985) の構造を基にしたシナリオ課題であり,人間の道徳の認知機構についての研究で用いられている(Greene et al, 2001).また,Pletti et al. (2016)の結果は,道徳ジレンマ課題において被験者は最も後悔の感情負荷が低い選択をしている可能性を示唆した.しかしながら,不作為の意思決定に後悔の感情が与える影響について統一的な見解はない. 本研究では,道徳的意思決定前に予期される後悔が存在することを示し,特に不作為の後悔が道徳的意思決定に影響することを示すために,道徳ジレンマ課題中のSCRの測定と作為と不作為の後悔の関係について検証を行う.現在,予備実験として被験者1名に対して道徳ジレンマ課題を行い,後悔の度合を応答変数として各説明変数のモデルをGLMにより推定した.発表者:秦 慕君
概要: 個人が自分の体験などに基づいて内面化された価値観・考え方と集団の制度や規範に合わないこと(アンマッチ)によって,「自分は排除されている」と感じる状況になると疎外感が生じる.先行研究によれば,疎外感は具体的な他者がいなくても起きうる(宮下・小林,1981).本研究は,このような具体的な他人が存在せず,自分の価値観・考え方と集団の制度・規範とのアンマッチにより生じる疎外感に焦点を当てる.そして,疎外感をポジティブに捉える視点もあり得るから(宮下,1994),本研究において,疎外感を持つ至る原因となる個人の性質を自らポジティブに受け入れ,また社会もそれを受け入れるようになることが重要だと考えられる. そこで本研究は,疎外感に至る原因となる個人的性質をポジティブに受け入れることに重点を置く.また,江角・庄司(2012)によると,自己肯定感が他者との比較ではなく,自分の価値基準にした自分は自分であっても大丈夫と定義される.つまり,個人が疎外感をもっていても,ありのままの自分を受け入れる,すなわち,疎外感を持つ原因となる自分の性質を受け入れることは,自己肯定感自己肯定感の概念で捉えられると考えられる.そして,社会心理学の領域では,自己肯定感は,社会規範の対立による疎外感を緩和と調節の効果があるとされる(Ge et al, 2020). 以上を踏まえ,本研究は疎外感を持つ人に対して,疎外感に連れなる個人の性質に関わる自己肯定感が高まると,疎外感が改善するかを検証する.そのため,本研究では,記憶想起前後,個人の疎外感と自己肯定感を測るために,疎外感尺度と自己肯定感尺度を用いて測定する.記憶想起の段階では,疎外感をもつ経験(集団に溶け込めない,なじめない等)からユニークな自分(個人の性質)を自覚できるような重要な出来事を想起させる課題の自由記述形式の質問紙を使用する.最後に,想起実験前後の結果を比較し分析する. 今回のゼミでは,4月中旬の認知科学会のアブストラクト提出に向けのドラフトを皆さんに共有し議論していただければと思います.それを修正するために,指摘やアドバイスをいただきたいと考えています.