屋台の形態と意匠

屋台の分類

布団太鼓屋台

平屋根屋台

*写真は、海神社氏子西垂水布団太鼓屋台(神戸市垂水区)(2020.11.20撮影)

形態の特徴
屋根に布団を模したものがほぼ平行に乗せられる。五段の屋根のもの、一段の屋根のものがある。多くは杉の担ぎ棒が使われる。

分布
播磨地方東部に広く分布する。高砂市、加古川市北部、北播方面。

播磨地方以外に目を向けると、布団屋根型屋台は、大阪湾沿岸から瀬戸内海一円、さらには山陰、あるいは九州は日向の沿岸から内陸へと、西日本の沿岸沿いや河川の流域に沿って広く分布している。遠く長崎でコッコデッショと言われて「おくんち」の花形となっているのも実は平屋根型の布団太鼓である。

神社
海神社(神戸市垂水区)、大宮八幡宮(三木市)、大日神社(三木市など。

反り屋根屋台

写真は、住吉神社氏子本町反り屋根屋台(加西市北条町北条南町屋台蔵内)(2021.4.3撮影)

形態の特徴
屋根上面の中心で綱が交差する。基本的な構造は後述の神輿屋根屋台に近い。実際、富嶋神社の黒崎屋台などは、反り屋根屋台の屋根を改修して神輿型に変えた事例もある。

分布
播磨地方東部に広く分布する。反り屋根屋台はおおよそではあるが、平屋根屋台と神輿屋台の中間部分に分布する傾向が見られる。

神社
住吉神社(加西市)、曽根天満宮(高砂市)、高岡稲荷神社(加東市)、糀屋稲荷神社(多可郡)、諏訪神社(神崎郡市川町)、熊野神社(福崎町)、二之宮神社(福崎町)など。

神輿屋根屋台

神輿屋根屋台の形態
以下の説明の通り、練り合わせ型屋台(灘・飾磨型)とチョーサ型屋台(網干型)に大別される。
現代のように極限まで装飾的になったのは高度経済成長期、屋台の長い歴史からいえばつい昨日のことである。ひとたび太鼓屋台が定着しても次々と意匠が工夫され、幕や高欄掛け、装飾的な綱、金属工芸、木彫りなどが次々加えられ、さらにこれらの意匠が巧緻に豪華にという風に競い合うように発展していく。風流祭礼の始原にして典型である祇園祭の山鉾が中世末期にはほぼ固定して現代に至っていることや、大阪・神戸のダンジリにおいても装飾の変化が激しくない。それらに比べると、播磨の神輿屋台の新調のスパンは短く、装飾の変化が激しく、現代でも風流の精神が脈々と流れている。

分布
神輿屋根型屋台は、平屋根型が西日本の海岸沿いや河川の流域に沿って広く分布するのに対して、その分布は狭く、播磨平野を中心とする地域に限られている。播磨平野の沿岸部を起点に川を遡って水運と共に運ばれた形跡はあるが、瀬戸内海を渡って四国の讃岐平野までは伝播することはなかった。

歴史
18世紀半ば頃に登場し始める。播磨祭礼においても屋台が席巻する以前は、芸屋台であるダンジリが花形であった。魚吹八幡神社ではその伝統を今も受け継いでいる。一方で、松原八幡神社も享保から宝暦の頃には狂言を披露するダンジリが主役であったことが絵馬や祭礼絵巻に描かれているが、今はない。

練り合わせ型屋台

写真は、荒川神社氏子町坪屋台(姫路市町坪屋台蔵内)(2021.10.17撮影)

形態の特徴
神輿屋台の内、檜の短い脇棒で担がれる屋台。ヨイヤサーの掛け声と共に横並びで屋台の脇棒同士を接触させた状態で担ぐ、練り合わせに適した屋台。他にも、練り子が方に乗せたまま、あるいは、差し上げた状態で屋台を大きく揺らす(がぶる)所作も頻繁に見られる。

台場差しで有名な浜の宮天満宮(姫路市飾磨区)の屋台は泥台に特徴があり、また伊達綱の裾の捻り方がチョーサ型(下記)の隅絞りと共通したところがある。同じく飾磨区の「台場練り」で有名な恵美酒宮天満神社の屋台も泥台に特徴があるものの、両社の氏子屋台は、練り合わせ型を基本としていると言える。

差し上げと練りの特徴
練り合わせ型の屋台の地域では、原則として、チョーサー(網干型の差し上げ)が行われることはない。

練り子が屋台を持ち上げる際に、シーソーのように前後に屋台を数回傾けてから肩を入れて持ち上げる。ちなみに、妻鹿の胴付きは同時に数回持ち上げた後に一斉に肩を入れる。

分布
主に、姫路市白浜町の松原八幡神社をはじめ飾磨区神社の多くで見られる。高砂市より姫路市中部、北は竹田町まで分布している。

この地域では、屋台のことを「やっさ」と呼ぶ傾向がある。

神社
松原八幡神社(姫路市白浜町)、大塩天満宮(姫路市)、荒川神社(姫路市井ノ口)、恵美酒宮天満神社(姫路市飾磨区)、浜の宮天満宮(姫路市飾磨区)、津田天満神社(姫路市飾磨区)、英賀神社(姫路市飾磨区)、高砂神社(高砂市)など。

チョーサ型屋台

写真は、魚吹八幡神社氏子宮田屋台(姫路市勝原区宮田屋台蔵内)(2021.11.14撮影)

形態の特徴
高欄の下にも桝組を腰組高欄で担き棒より上部が高く、泥台は低く作られてい。魚吹八幡神社(姫路市網干区)や富嶋神社(たつの市御津町)で共通して見られる形態である。「網干型」、「チョーサ型」として分類される。

上下運動であるチョーサが映えるように工夫した結果である可能性が高いと考えられる。

本棒、脇棒は「練り合わせ型屋台(灘型・飾磨型)」よりもはるかに長いが、閂はない。田井の屋台をはじめ脇棒(担き棒吉野杉を使用するなど、よく「しなる」素材が使われるのも特徴である。高くチョーサするための工夫と思われる。長い担き棒とまさに宙に舞うように高く放り上げられる屋台は魚吹八幡神社屋台の魅力のひとつ

また、練り子が屋台を担いだまま数十メートル走り、差し上げ(チョーサ)をするのが名物になっている。閂がない理由のひとつには、比較的長い距離を勢いよく走るための工夫であるかもしれません。ただし、練り合わせ型屋台でも、台車に乗せているのかと思うくらいのスピードで屋台は移動できる。

差し上げと練りの特徴
掛け声神輿屋根屋台のうち、専らチョーサ(差し上げる所作のこと)を行う。

最近では、チョーサ型屋台でも、灘や飾磨の屋台の練り方を取り入れる地区も見られるが、屋台同士での練り合わせは行われません。また、差し上げ(チョーサ)の過程で、泥台の足地面につくことはあまり好まれない。

特に魚吹八幡神社氏子は、屋台のことを「やったい」と呼ぶ。

分布
主に,姫路市網干区以西に分布する。

神社
魚吹八幡神社(姫路市網干区)、富嶋神社(たつの市御津町)、春日神社(たつの市御津町)、蛭子神社(たつの市御津町)、荒神社(赤穂市)など。

各部の詳細

屋台の重量

JR姫路駅新幹線コンコース屋台展示スペース(2021年12月4日撮影)

松原屋台

屋台の重量ですが、先代の松原屋台で「約2トン」と表記されています。胴突きで有名な妻鹿屋台は 2.5トンという噂もあります。

練り子が50人〜60人程度で担ぐ計算で、2.0トン屋台なら、一人当たり33 kg〜40 kgの負荷となります。

播磨地方の屋台の平均的な重量はわかりませんが、1.2トン〜1.5トンの範囲に多くの屋台が入るのではと思われます。

最近では屋台は大型化、重量化する傾向があるように思います。特に、浜の宮天満宮の天神屋台は屋根、露盤、伊達綱どれをとってもサイズが最大級です。もしかしたら、2.5トン以上あるかもしれません。

錺金具(かざりかなぐ)

天神屋台(浜の宮天満宮)「令和 祭職人展」(2022年1月9日)

擬宝珠(ぎぼし)

屋台屋根の頂上に飾られる。宝の珠に準えた装飾。カプラ(宝珠)・ガキ・伏鉢からなる。仏教の建築物由来ではないかと思われる。

坂上屋台(魚吹八幡神社)(2021年11月14日撮影)

昇総才(のぼりそうさ)

飛龍、鷲、鳳凰、唐獅子、麒麟、鯛など、躍動感溢れるデザインが多い。

西治屋台(二ノ宮神社)「令和 祭職人展」(2022年1月9日撮影)

総才端(そうさばな)

剣を表し、知恵・破邪・降魔の意味を持つ。

高田屋台(魚吹八幡神社)JR網干駅前2019年10月21日撮影

紋(もん)

神社のシンボルを表す。八幡神社では巴や龍が、天満・天神神社では梅鉢が多い。村のシンボルを表す。

笠屋町屋台(住吉神社)(2021年4月3日撮影)

梵天(ぼんてん)

布団太鼓屋台特有の錺金具である。播磨地方では反り屋根屋台にあしらわれることが多い。一面に対になるように配置されることが多いが、中央に大きなものを一つ設置された屋台もある。前後,左右でそれぞれ違うモチーフがあしらわれることもある。海老、鯱、飛龍、青龍、唐獅子、鷹、鷲、鳳凰、孔雀、扇などのデザインがある。

和久屋台(魚吹八幡神社)(2019年10月22年撮影)

水切り(みずきり)

瑞祥(吉兆)の動物(虎・孔雀・千鳥・兎・十二支)や草木、退治ものや武者、龍など題材は多岐にわたる。

天満屋台(魚吹八幡神社)(2020年10月18日撮影)

繁垂木(しげたるき)

灘型では二段が多いが、反り屋根屋台やチョーサ形では三段が多い。

細川中屋台(大日神社)(2020年10月4日撮影)

雲板(くもいた)

平屋根太鼓特有の彫刻である。布団台と狭間の間に位置し、布団台の裏側に貼り付けられており、4面ある。

元来、神棚ではまさに雲の模様が彫られており天界が表現されている。屋台でも雲を見上げるように真下から出ないと見えにくい。

屋台では、雲のデザインから発展して他の彫刻同様、龍・鳳凰・植物など様々なデザインがある。

清水屋台(恵美酒宮天満神社)(2022年3月20日)

井筒・井筒端(いづつ・いづつばな)

前面に錺金具を施す場合と、幕掛け金具の座金のみの場合がある。井筒端には「紋」と同じく、神紋や各村のシンボルが表されることが多い。

古坂屋台(住吉神社)(2021年4月3日)

高欄金具(こうらんかなぐ)

男柱金具はよく見えるところなので最近では凝ったデザインのものが増えてきた。鯉・龍・海老・梅・鶴亀など。

木彫刻

清水屋台(恵美酒宮天満神社)(2022年3月20日)

露盤(ろばん)


図柄は古いところで龍や獅子、時代とともに人物ものへと変化。神話や英雄武者物も多い。

今在家屋台「薨去埋葬」(太宰府天満宮)(津田天満神社)(2022年1月9日撮影)

狭間(さま)

歴史上の有名なシーンが描かれることが多く、その種類は100を超えると言われる。中国者では漢楚軍談・三国志、日本ものでは古事記・御伽草子・太平記・源平盛衰記などがある。中には、その村固有の伝統やゆかりの人物の言い伝えを表したものがある。

北脇丁屋台(大塩天満宮)(2020年11月1日撮影)

正角(しょうすみ)

正隅とも。角(隅)を清めると同時に守護する役割を担う。通例、獅子や龍が多い。

坂上屋台(二代目)(魚吹八幡神社)社務所内展示ホール(2021年11月14日撮影)

高欄腰組(こうらんこしぐみ)

高欄下の彫刻である。腰彫り、腰枡とも言う。特に、高欄下に厚みのあるチョーサ型屋台でその装飾や彫刻が凝っている。

脇棒受け(わきぼううけ)

練り合わせをしない西方の屋台は特に咥え(くわえ)とも呼ばれ、獅子や龍がまさに脇棒を咥えているような表現で、全体に亘り彫られている。一方、練り合わせをする屋台では唐草や波に千鳥などシンプルな意匠が多い。ただし、浜の宮天満宮の屋台では、この咥えがある。これは台場差しにより高く持ち上げる際に、伊達綱の裾と同様に、見せることに重点を置いた結果かも知れない。

刺繍

亀山屋台(生矢神社)「令和 祭職人展」(2022年1月9日撮影)

水引幕(みずひきまく)

龍や虎、歴史上の戦記物が刺繍されている。面積が大きい分、屋台を華やかに飾る大きな要素のひとつである。

清水屋台(恵美酒宮天満神社)(2022年3月20日撮影)

高欄掛け(こうらんがけ)

練り合わせ型屋台の特徴のひとつである。チョーサ型屋台では、乗り子の衣装が豪華であるため、高欄掛けはクッション程度の簡素なものである。

井ノ口屋台(荒川神社)(2022年10月2日撮影)

伊達綱(だてづな)

名の通り、伊達の綱だが先につけられた房が踊り、屋台練りを躍動的に見せる。「がぶり」などにより、よく揺らすことで氏神への祈りを表現しているという見方もある。

天満屋台(魚吹八幡神社)(2020年11月18日撮影)

隅絞り(すみしぼり)

主に、チョーサ型屋台で見られる。動的な伊達綱と違い、静的な隅絞りであるが、各村で模様が違い、絹でできているため雅な印象を与える。

屋台骨

今在家屋台(津田天満神社)(2018年10月撮影)
松原屋台(松原八幡神社)(2022年10月14日撮影)

太鼓(たいこ)

古くは悪霊や鳥や敵を脅し、退けるために使われたといい、また、神を崇め、神聖なものとして扱われたという。屋台はその太鼓がないと動かない。遠くからでも太鼓の音がすると、人々は祭りを知る。

塗り

清水屋台(恵美酒宮天満神社)(2020年10月11日)

漆塗り

白木で完成した屋台は、通例数年祭りで練られたあと、漆塗りを施す。