経済制裁から移民排斥そして軍事行動、第2次トランプ政権のベネズエラへの攻撃に対するアメリカのNPOの対応
2026年1月12日
1月3日、アメリカ軍によりベネズエラの首都、カラカスが攻撃され、マドゥロ大統領夫妻が拘束され、ニューヨークへ連行、そして裁判にかけられている。青天の霹靂のように報じられている、第2次トランプ政権によるこれら一連の強権発動。しかし、アメリカの反戦平和団体をはじめとしたNPOにとって、予期された事態だった。実際、カラカス攻撃が実施された1月3日以降には、全米各地でベネズエラへの介入に反対する集会が計画されていた。では、第2次トランプ政権において、どのようにベネズエラへの攻撃が準備され、実行に至ったのか。9月に始まる「麻薬密輸船」への攻撃のはるか以前から行われてきた経済制裁やベネズエラ移民排斥の動きも含め、政権の動きに対峙してきたNPOの活動を整理、報告していきたい。
これらの点について論じる前に、アメリカとベネズエラの歴史的関係を概観しておこう。両国が国交を樹立したのは、200年近く前の1835年。その後、長期にわたり安定的な関係が続いた。20世紀前半、ベネズエラは世界有数の産油国となり、アメリカは主要な投資国・輸入国として関与。冷戦期も、反共的なベネズエラ政府をアメリカは支持し、協調関係が維持された。1958〜1998年までのいわゆる「プントフィホ体制」である。しかし、1999年に大統領に就任したウゴ・チャベスは、「ボリバル革命」によって貧困層の生活改善を推進。さらに、石油資源の国営石油会社PDVSAへの国家統制を強化、反米的・主権重視の外交路線などを実施したことで、アメリカの石油企業の影響力が減退、両国関係の悪化につながった。
2002年4月、チャベス政権に対する軍部と経済界の一部勢力によるクーデターが発生。未遂に終わったものの、これをアメリカが直ちに非難しなかったこともあり、チャベス政権は、アメリカを「政権転覆を狙う勢力」と非難するようになった。こうして両国が対立関係に移行するとともに、アメリカによるベネズエラへの制裁が実施された。ただし、最初から大規模な措置が取られたのではない。Library of CongressのVenezuela: Overview of U.S. Sanctions Policyという資料によると、最初に制裁が行われたのは、2005年。汚職・人権侵害に関与したベネズエラ人の資産凍結・渡航禁止など、個人を対象にした措置で、影響は限定的といわれた。
制裁が大きな影響をもつようになったのは、第1次トランプ政権においてである。2017年にベネズエラ政府・PDVSAの新規債券発行禁止やアメリカの金融市場へのアクセス遮断、19年にアメリカによる石油輸入停止、第三国企業への二次制裁が行われたことだ。これらの措置により、ベネズエラは、アメリカへの石油輸出が停止に追い込まれたうえ、第三国企業への二次制裁が科せられた。結果として、ベネズエラは、外貨収入が減少、石油の生産も落ち込んだ。ただし、2019年に制裁の例外として、Chevron社が石油の採掘やアメリカへの輸入が認められた。アメリカ軍のカラカス攻撃の後、Chevron社の株価は大きく上昇した。その上昇率は、他の石油大手よりも大きく、市場のChevron社への期待の大きさが感じられる。
昨年秋から”No War for Oil”(石油のための戦争に反対)というプラカードがベネズエラ攻撃に反対する集会で目立つのは、このような経緯や背景があるためといえよう。「麻薬からアメリカを守る」と述べていたトランプ大統領も、マドゥロ大統領夫妻を拘束した後には、「麻薬」について語ることはほとんどなく、「石油」が話題の中心になっている。ベネズエラ産の石油は硫黄分が多い重質油で、精製にコストがかかるなどと指摘する声もある。しかし、重質油をベネズエラから導入することが、アメリカにとって大きな意味があるのだ。この点については、精製において有毒物資が排出され、環境正義の問題にも関連するため、別の機会に検討したい。
では、多数の「麻薬密輸船」を攻撃し、100人以上を死亡させた「麻薬」の問題はどうなのか。今年5月に発行された、アメリカ政府のDrug Enforcement Administration (DEA)の報告書” National Drug Threat Assessment”などからも明らかなように、アメリカへの「麻薬」の流入先はコロンビアやメキシコが中心で、ベネズエラ産は限定的だ。にもかかわらず、トランプ大統領は1月20日の就任式の当日、Executive Order 14157号に署名した。この大統領令は、” Designating Cartels and Other Organizations as Foreign Terrorist Organizations and Specially Designated Global Terrorists”というタイトルが示すように、従来のように武力行使を伴う組織に対してではなく、麻薬密売組織に代表される違法な経済活動を通じて利益を追求する団体を「テロ組織」として指定することを国務長官に求める、異例な措置だった。
ここで指定された麻薬密売組織のひとつが、ベネズエラのTren de Aragua (TdA)である。1月5日、ニューヨークの連邦地裁の被告席に立たされたマドゥロ大統領の起訴状は、このTdAと連携して、麻薬をアメリカに持ち込んだとしている。海外での拘束からわずか2日後の裁判ということは、法的手続きとしては極めて異例のスピードだ。しかし、大統領令14157号に関連して、今年1月3日発信のLos Angeles Timesは、”A timeline of the US military’s buildup and strikes against Venezuela leading to Maduro’s capture”という記事(以下、LATの記事)の中で、アメリカの情報機関は、マドゥロ政権がTdAと協力し、麻薬取引や不法移民を画策していたというトランプの主張に異議を唱えている。2025年5月6日発信のNPRの” U.S. intelligence memo says Venezuelan government does not control Tren de Aragua gang”と題する記事も、連邦情報機関のOffice of the Director of National Intelligenceが4月7日に作成したメモによれば、マドゥロ政権とTdAの関係が広範囲にわたっていることを示す証拠はないと記載している、と報じていた。
2025年5月といえば、第2次トランプ政権が発足してから4カ月以上たっている。この時点における政府の報告書であれば、現政権のチェックが行われていると考えるのが自然だろう。しかも、調査を行い、報告書を作成したのは、情報機関である。にもかかわらず、ベネズエラと「麻薬」問題が強く関連づけられていないことは、石油確保を全面に出しにくいがゆえのカモフラージュのように見られても仕方ない。こうした考えを反映したのだろう。前述の”No War for Oil”というスローガンや、そもそも制裁が一般市民、とりわけ貧困層に打撃を与えるなどの理由から、反対の声が上がっていった。
こうした声をあげたのは、アメリカのベネズエラ人社会ではなく、反戦平和を掲げる団体からだった。女性の反戦団体として知られるCODEPINKや2001年の同時多発テロ事件の直後に設立されたInternational ANSWER Coalition(以下、ANSWER)などの左派系の運動団体である。例えば、トランプ政権発足に先立つ、Marco Rubioの国務長官候補の指名の可否を判断する連邦上院のForeign Relations Committee主催の公聴会が開催されていた1月15日、CODEPINKは、Rubioがキューバやニカラグア、ベネズエラなどへの経済制裁を主導してきたとして、議場で抗議の声をあげた。この活動には、アメリカの制裁に反対する運動体のAmericas Without Sanctionsやラテンアメリカへのアメリカの関係改善に向けた取り組みを進めているFriends of Latin Americaのメンバーらも参加した。
前述のように、トランプ大統領は、1月20日の就任日にExecutive Order 14157号により、TdAのテロ組織指定を求めた。この要請を受け、国務長官が正式に指定したのは、翌2月のことだ。しかし、それから半年余りの間、LATの記事には、トランプ政権によるTdAやベネズエラへの目立った動きは記載されていない。変化が生じたのは、8月に入ってからだ。ベネズエラ沖にミサイル巡洋艦などを派遣したのである。これにより、両国の緊張は一気に高まった。CODEPINKは、” CODEPINK Strongly Condemns the Latest Threats and Military Provocations by the United States Government Against Venezuela”と題する声明を発表。トランプ政権が「無謀に(緊張を)拡大させている」と非難するとともに、連邦議会の進歩的な議員によって構成されている議員連盟、Congressional Progressive Caucusに緊張拡大を抑制するよう求める声明を発表した。
トランプ政権は9月2日、TdAが麻薬を運搬している船舶だと主張し、空軍がミサイル攻撃を敢行、TdAとされる11人を殺害した。その後も攻撃は続き、上記のLATの記事によれば、11月10日までに20回に及ぶ攻撃が実施された。こうした状況の中で、CODEPINK やVenezuela Solidarity Network、Sanctions Kill Campaign、International Action Center、Veterans For Peaceなど30のNPOが連携して、11月15日から23日を共同行動週間に設定。また、12月17日にも統一行動を実施することを決定した。この日は、1810年代から20年代にかけて、ベネズエラを含む、南米大陸のアンデス5ヵ国をスペインから独立に導き、統一したコロンビア共和国を打ちたてようとした革命家、軍人、政治家、思想家で、「ボリビア」の国名にもなっている、シモン・ボリバル(Simón Bolívar)の命日だ。
これに先立ち、ムスリム系のメディアThe Final Callによれば12月6日、‘No war in Venezuela’を掲げた集会やデモが首都ワシントンを含む全米63ヵ所で開催された。ANSWERとCODEPINKに加え、The People's Forum、Black Alliance for Peace、Palestinian Youth Movement、Party for Socialism and Liberation (PSL)、Democratic Socialists of America(DSA)の5団体の呼びかけで行われることになったものだ。今年1月にニューヨーク市長に就任したZohran Mamdaniが加入していることでも知られており、全米最大の社会主義団体を標榜している。PSLの認知度は、DSAに劣るものの、ANSWERのフロント団体といわれるように、反戦平和の運動において全米的に大きな影響力をもっている。また、DSAの法人格はNPO(501c4団体)だが、PSLはマルクス・レーニン主義を掲げる政党で大統領選挙にも候補者を擁立するなど、両者の性格はかなり異なる。
こうした活動の中に、在米ベネズエラ人団体の名前はでてこない。なぜなら、在米ベネズエラ人の大半は、チャベス・マドゥロ両政権に抑圧され、母国から逃れてきた人々だからである。NPOの調査機関、Pew Research Instituteが今年1月9日に発表した報告書” 7 facts about Venezuelans in the U.S.”によれば、2024年時点におけるベネズエラ系のヒスパニックの人口は120万人と推定されている。2000年の9万5000人と比べると、10倍以上の増加である。報告書は、増加の背景として、母国の政治的経済的な状況を逃れ、周辺国やアメリカに移住したためと述べている。当然のことのように、反マドゥロ意識が強い。マドゥロ大統領の「拉致」報道が伝わった直後、メディアで報じられたフロリダ州などの集住地域におけるベネズエラ系住民が歓喜の声をあげている姿は、こうした背景にあるためといえよう。
トランプ大統領とベネズエラ系住民は、反マドゥロで一致して行動しそうだ。では、実際はどうなのか。The World Dataが今年1月10日に発表した” Venezuelan Immigrants in US 2026”によると、120万人のベネズエラ系住民のうち60万7000人はTPSにより滞在しているという。TPSとは、Temporary Protected Statusの略で、戦火や災害などにより母国で生活することが困難な人々に一時的な滞在許可を与える、1990年に導入された制度である。しかし、ベネズエラの国内状況が変化しない中で、トランプ政権は、昨年4月までに35万人、残りの25万人も9月以降、TPSの更新を認めないとした。
これに対して、TPSに基づき滞在している人々への支援活動を行っているNational TPS Alliance (NTA)は昨年2月、ACLU Foundations of Northern California and Southern CaliforniaなどのNPOとともにトランプ政権を相手取って裁判を起こした。ベネズエラ人団体は原告に加わらなかったものの、Venezuelan American Caucusは、トランプ政権に裏切られたとして、TPSの延長を求め、ヒスパニック系団体のLeague of United Latin American Citizensとともに、議会への働きかけなどを行った。連邦最高裁判所は10月、TPSの終了を一時的に差し止める判断を示した。この判決の影響もあり、トランプ政権は、ベネズエラ人へのTPSの更新を認めた。ただし、任意で帰国する場合、航空券の費用に加え、1000ドルの一時金を提供するとして、出国を促している。
アメリカ軍によるカラカス攻撃の実施の可能性が高まるとともに、反戦平和団体の活動も活発化していった。ANSWERは昨年12月、1月3日と4日の両日を全米行動日に設定し、3日に84ヵ所、4日にも11ヵ所で抗議行動を行うと表明。この行動について、大手週刊誌のNewsweekが開催地と開始時間を記載したリスト入りの記事を掲載するなど、行動の前後に多くのメディアが報じた。また、近年では、署名集めやウェビナー集会のようにインターネットを通じた活動も進んでいる。前者については、1998年にインターネットを通じた社会運動の草分け的存在、MoveOnがAction Networkという署名サイトを通じてベネズエラへの攻撃中止を連邦議会のArmed Services Committeeに要請。また、攻撃後は、連邦議会と大統領に提出するため” NO U.S. Occupation In Venezuela”という署名を進めている。ウェビナーについては、DSAが1月6日、”Hands Off Venezuela Mass Call”というタイトルの集会をオンラインで開催した。
集会やデモ、署名集め以外の活動も見られる。また、NPO以外による対応として、労働界の動きを見ておこう。前者については、団体署名がある。退役軍人の組織、Veterans for Peaceは1月6日、” Stop the War on Venezuela! Defend Venezuela’s Sovereignty and Right To Resist!”と題する共同声明を発表。賛同団体は147に及び、CODEPINKやInternational Action Centerのような反戦平和団体以外に、Venezuela Solidarity NetworkやNicaragua Solidarity Coalition、Honduras Solidarity Network、National Network on Cubaなどの中南米問題に取り組むNPO、パレスチナ支援団体のNYC Labor for Palestine、CUNY for Palestine、環境保護団体のClimate Crisis Movementなど、幅広い活動を担っている団体が名を連ねている。
では、労働団体は、どのように反応しているのか。Veterans for Peaceの声明にも、CWA for PalestineやNYC Labor for Palestineのような労働団体の名前も見られるが、パレスチナ問題など、他のイシューに関連した労働者の組織で、労働組合本体とはいえない。しかし、ベネズエラ攻撃の直後、全米最大のナショナルセンターAmerican Federation of Labor and Congress of Industrial Organizations (AFL-CIO)は1月4日、International Trade Union Confederation (ITUC)などの労働組合の国際組織が攻撃を非難する中で、声明を発表。ただし、記者会見やプレスリリースではなく、”X”に短い投稿文を掲載したに止まっている。また、AFL-CIO傘下の労働組合で組織しているLabor Council for
Latin American Advancement (LCLAA)も1月4日、AFL-CIOと同様に、国際組織の非難に呼応する形で、トランプ政権による攻撃を「違憲行為」と批判した。さらに「ベネズエラ国民の自決権の尊重」など、AFL-CIOより一歩踏み込んだ記述も見られるが、Facebookに掲載されたにすぎない。
より強いスタンスで攻撃を批判した、単産や単組に相当するLocal Unionもある。22万5000人の組合員をもつ全米最大の看護師の労働組合、National Nurses United (NNU)は、そのひとつだ。1月12日からニューヨークの看護師組合としては史上最大のストライキに突入した、New York State Nurses Associationを傘下に持つ組織である。NNUは1月5日、プレスリリースの中で、ベネズエラ攻撃を「帝国主義的な行動」と批判した。また、AFL-CIOに加盟していない、独立系の組合のUnited Electrical, Radio & Machine Workers of America (UE)は、ベネズエラ情勢が切迫してきた昨年12月18日、”No More Blood for Oil!”をスローガンに、労働運動がベネズエラ攻撃を阻止するために立ち上がるよう訴えた。攻撃後の1月5日にも同じスローガンの下、組合員に各地の抗議行動に参加するように呼び掛けた。City University of New YorkやUniversity of Californiaの教職員や大学院生の組合も、抗議の声をあげている。
このように、ベネズエラ攻撃を批判する活動は、広がりを見せている。とはいえ、四半世紀前のアフガニスタン侵攻やイラク攻撃、あるいは2023年から4年のイスラエルのガザ侵攻の時に比べると、街頭の活動は限定的に見える。しかし、このことは、アメリカ市民の多くが攻撃を支持していることを意味するものではない。例えば、Quinnipiac Universityが昨年12月17日に発表した世論調査では、63%が攻撃に反対と回答、賛成派25%に止まった。また、攻撃後の1月4~5日に実施、5日に発表されたReuters/Ipsos調査も、トランプ政権への南米への過度の介入に懸念を示した回答が72%に及んだ。ただし、攻撃への賛否については、賛成が33%、反対が34%、わからないが33%で、意見が大きく分かれているものの、肯定している回答者は3分の1にすぎない。
開戦になると、国民の大半が政権を支持する傾向が強い。しかし、今回は、この傾向が見られない。その理由の一端には、反戦平和団体やNPO労働団体などによる”No War for Oil”の声があることは確かだろう。そして、この声は、インフレや政府の社会保障関係予算の削減などにより、人々の生活の困窮化とつなげて発信されている。それがトランプ政権による「帝国主義的な行動」の抑制につながるのかどうか、注目していきたい。なお、上記のMoveOnによる” NO U.S. Occupation In Venezuela”の署名サイトは、以下から見ることができる。
https://x.gd/y3ccr
イスラエルへの軍事支援の停止求め、人権団体や反戦団体がAFL-CIOに抗議活動展開
2025年11月4日
トランプ政権の仲介などにより10月9日にイスラエルとハマスの間で停戦協定が成立したものの、ガザ地区へのイスラエルの攻撃は続き、多数の住民が死亡している。アメリカの反戦団体などは、バイデン・トランプと続く米政権によるイスラエルへの軍事支援により、戦闘が継続しているという認識が強い。さらに、軍事支援を可能にしているのは、アメリカの労働者が武器を製造し、イスラエルに輸送しているためだと主張。全米最大のナショナルセンター、American Federation of Labor and Congress of Industrial Organizations (AFL-CIO)に対して、「戦争への共犯」行為の停止などを求め、署名活動に加え、10月24日に抗議デモを行うなど、労働界への圧力を通じた停戦の実現を呼び掛けている。
10月24日の抗議デモを主催したのは、Disarm Genocide Coalition (DGC)という反戦団体だ。団体のウェブサイトを見ても、沿革や組織体制などは記載されていないことから、比較的最近設立されたと推察される。Coalitionを名乗っていることから、複数の団体による連合体と考えられる、複数の団体の連合体なのだろう。ウェブサイトには、傘下団体の名称は記載されていないが、ロゴが掲載されている。団体名を示すと、パレスチナ支援活動団体のPalestinian Youth Movementの他、反戦団体の Veterans for PeaceやCodePink、パレスチナ問題に取り組む労働団体のLabor for Palestine、ガザ攻撃に反対する教職員の組織Teachers against Genocide、Amazon Labor Union (ALU)の他、黒人の権利擁護団体のBlack Lives Matter (BLM)など、18にのぼる。この中にALUとBLMが加わっていることに注目する必要がある。
ALUは、ネット通販の大手、Amazonのニューヨークの倉庫労働者を組織したことで知られている。当初は、いわゆる独立系の組合だった。その後、大手の労働組合Teamstersの傘下に入ったが、独立性の強い支部として活動している。ニューヨークの倉庫の組織化の中心になったのは、Chris Smallsである。DGCのウェブサイトには、中東のカタールに本社を置く、Al Jazeeraにインタビューを受けるSmallsのビデオが掲載されている。労働組合のオルグとしてのイメージが強い彼がなぜ、Al Jazeeraに登場したのか。ビデオの中で、司会者は、AmazonやGoogleなどのIT大手企業がイスラエルとの関係を強化していると指摘。SmallsもAmazonの組織化の意義を述べつつも、大局的な見地から見れば、労働者や労働組合がガザ地区におけるイスラエルによるガザ住民の「虐殺」に手を貸していると考えているようだ。
Smallsは、ガザの惨状にシンパシーを感じているだけではなかった。TruthoutというNPOのメディアが8月11日に発信した”Chris Smalls’s Gaza Mission Part of Long History of Black-Palestinian Solidarity”タイトルの記事によると、イスラエルのガザ地区への攻撃が予想された2023年10月13日、Xを通じて、パレスチナ解放を掲げたメッセージを投稿したのである。2024年の春、全米の大学でイスラエルのガザ地区攻撃に抗議する活動が広がる中で、ニューヨークとハドソン川で隔てたニュージャージーに住んでいるSmallsは、抗議活動の中心といわれたColumbia Universityで学生に対して、連帯のスピーチを行った。
さらに、2025年7月には、ガザ地区住民を支援する世界的なネットワーク組織、Freedom Flotilla Coalition (FFC)の船に医薬品や乳児用ミルクなどを載せて、ガザ地区に向かった。FFCは、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリらが支援物資とともにガザ地区に向かう際に船を提供したNGOでもある。Smallsが乗った船は、ガザ地区に到着する前にイスラエル軍によって拿捕された。その際、21人の乗員のうちただひとりの黒人だった彼は、イスラエル軍の兵士から暴行を受けたとFFCのInstagramは伝えている。なお、Smallsは、7月31日にイスラエルからアメリカに送還された直後に3大ネットのひとつ、ABCのNewslineのインタビューを受けた際にも、暴行を受けたと述べている。
前述のように、Disarm Genocide Coalition (DGC)には、Black Lives Matter (BLM)も名を連ねている。いうまでもなく、BLM は、第1次トランプ政権がスタートした直後にミネアポリスで起きた警察官による黒人男性George Floydが警察官による拘束の際に死亡した事件をきっかけに全米、そして世界各地に広がった運動の母体として有名だ。ただし、活動自体は、2013年にSNS上で#BlackLivesMatterというハッシュタグを通じて始まっている。きっかけになったのは、2012年2月にフロリダ州で黒人少年が元警官で自警団団員に射殺された事件である。本稿では詳細は述べないが、アメリカの黒人とパレスチナの住民の間には、アメリカとイスラエル政府の「被害者」としての共通項もあり、長年にわたり支援関係が築かれてきた。2014年には、イスラエルのガザ地区侵攻とミズーリ州の白人警察官による黒人男性の射殺事件を契機に、Black4Palestineという連帯組織が結成された。
Disarm Genocide Coalition (DGC)による10月24日のAFL-CIOに対する抗議活動には、ロゴで示された団体をはじめ、知名度の高い人々も参加、スピーチを行った。女性を中心にした反戦団体として知られるCodePinkの10月27日付の” Labor Leaders, Union Members and Peace Organizations Launch Campaign Urging AFL-CIO Leadership to Block Supply Chain to Israel”という見出しのプレスリリースによると、Black Lives Matter Los Angelesの共同創設者で2024年の大統領選挙で無所属として立候補したCornel Westの副大統領候補のMelina Abdullah、2012年、16年、24年の大統領選挙でGreen Partyの大統領候補として出馬したJill Stein、24年のStein のランニングメイトのButch Wareなども登場したという。
抗議活動とともに、DGCは、AFL-CIOに要求書を提出、1週間以内に回答することを求めた。要求書には、署名活動で集めた賛同者のリストも添えられているようだ。提出された要求書に何人または何団体の署名が記載されているかは、不明である。しかし、ウェブサイトの署名欄には11月4日現在で、3288名(団体)の署名が寄せられていることが示されている。目標は5000とあり、まだかなり不足している。しかし、この原稿を執筆中にも賛同署名の数は増えている。なお、前述のCodePinkのプレスリリースによれば、要求内容のポイントは、以下の通りである。
・ガザにおけるイスラエルの軍事行動を大量虐殺として認定すること
・イスラエルへの武器の出荷を拒否し、軍産複合体とのあらゆる金融関係を断ち切ること
・大量虐殺を終わらせるために労働組合の力を動員するため、ゼネストに向けた体制を構築すること
・ガザ支援船団に乗船したクリス・スモールズらに対するイスラエルの拉致と暴行を非難すること
・ひとりの労働者に対する攻撃は、すべての労働者に対する攻撃であることを確認すること
・イスラエルをアパルトヘイト国家として確認すること
・イスラエルへの米国の軍事援助を支援した政治家への支持や資金提供を拒否することで、大量虐殺政治を終焉させること
これらの要求は、イスラエルのガザ攻撃に反対してきた団体にとっては、共通の認識といえるだろう。一方、さまざまな業界の労働組合で構成されているAFL-CIOが賛同の意思に加え、具体的な行動に出ることは考えにくい。とはいえ、人口200万にすぎないガザ地区で、6万人を超える人々が殺害されている状況において、社会正義を掲げる労働組合、そしてその連合体としての姿勢を示すことも必要だろう。ただし、AFL-CIOは、2023年10月のイスラエルのガザ地区への攻撃以降、何ら対応をしてこなかったわけではない。例えば、2024年2月8日には停戦を求める声明を発表している。しかし、その後、具体的な行動がともなったわけではない。
労働者は生活のために働く。労働組合は、組合員となった労働者の生活を守るための組織だ。とはいえ、組合員以外の人々の生活や生死に関心を持たなくてもよいのだろうか。DGCがAFL-CIOに提出した要求書の1項目、「労働者に対する攻撃は、すべての労働者に対する攻撃であることを確認すること」は、使い古された言葉かもしれないが、この言葉に向き合わないで、労働組合の存在意義は守れるのか。DGCによる要求書の有無にかかわらず、AFL-CIOには、この思い問いかけがなされているように思える。
なお、AFL-CIOへの要求書などを提示したDGCのウェブサイトは、以下から見ることができる。
https://secure.everyaction.com/FygyRgBN1EKc_S_Ab1kehg2
イスラエルのガザ攻撃停止求める学生らの運動、トランプ政権下でも多様な形で継続
2025年7月25日
対外的には国際協調からアメリカ第一主義、国内的にはDEIや移民などの政策の転換に見られるように、トランプが大統領に就任した今年1月以降、アメリカの政策は一変した感を禁じえない人も少なくないだろう。とはいえ、バイデン政権から継続されている政策もある。パレスチナのガザ地区におけるイスラエルの攻撃に対する、両大統領の強い支持の姿勢は、その最たるものといえる。イスラエルの攻撃を「ジェノサイド」と糾弾、アメリカの親イスラエル政策に反対する学生の活動が全米に広がったのは昨年春から夏にかけて。しかし、トランプによる大統領令の発布や大学へ補助金停止などの圧力により、大学も強硬姿勢に転じ、キャンパスにおける運動は、消滅したかのように見える。しかし、裁判闘争やハンガーストライキ、投資回収運動、そして労働組合との連携など、多様な形態の運動が、確実に続いている。
イスラム武装組織ハマスがイスラエルを急襲、1000人を超える人々を殺害してから20日後の2023年10月27日、イスラエルは、ガザ地区への空爆を開始。その後、戦闘は、一時的な停止はあったものの、今日まで続いている。このガザ戦争に対して、全米各地で、即時停戦を求める運動が拡大。その形態のひとつに、学生による大学の建物の占拠やキャンパス内にテントを張り、泊まり込みで抗議活動を行うEncampmentがあった。2023年10月20日にカリフォルニア州のStanford Universityから始まったといわれ、11月に入るとロードアイランド州にあるBrown Universityで学生が大学の建物を占拠し、逮捕者がでるなど、事態は激化。同年5月7日のBBCの” Columbia University cancels main graduation amid protests”と題する記事によると、運動が広がった4月中旬以降、全米45州と首都ワシントンにある140近い大学で抗議行動が展開された。なお、BBCは、この記事の中で、AP通信の集計として、2500人余りの学生が逮捕されたと伝えている。
4月中旬以降の運動の拡大を牽引したのは、ニューヨークのマンハッタンにあるColumbia Universityだ。同大学では2024年4月17日、学生がGaza Solidarity Encampmentと呼ぶ約50のテントを設営。大学側は翌18日、テント撤去のため、ニューヨーク市警の機動隊を導入した。学生は、これに反発し、新たに加わった学生とともに、改めてテントを設置するなどして、抵抗の姿勢を示した。その後、大学側は、学生の要求に対して、協議の場を設定し、話し合いが行われた。その一方、学生は、Hamilton Hallという建物を占拠、ガザでイスラエル軍に殺害された6歳の少女Hind Rajabを追悼する意味からHind's Hallと呼び、占拠を続けた。これに対して、大学側は、再度、市警の機動隊を導入、100名を超える学生らが逮捕される事態に至った。
2017年の第1次政権の成立時から、トランプは、親イスラエルの政策を打ち出していた。2018年と19年に連邦議会に提出された、Anti-Semitism Awareness Actは、その一例だ。これらの法案では、” Anti-Semitism”(反ユダヤ主義)の定義をイスラエル(政府)やシオニズムへの批判も含めるとしており、人権団体などから批判が出されていた。法案は未成立に終わったものの、トランプは2019年12月11日、” Combating Anti-Semitism”と題する大統領令(Executive Order 13899)に署名、公布した。第2次政権を発足させてから間もない2025年1月28日、トランプは、“Additional Measures to Combat Anti-Semitism”というタイトルの大統領令(Executive Order 14188)に署名。” Additional Measures” とあるように、2019年の大統領令に新たな内容を追加したものだ。具体的には、ガザ戦争開始後に大学などで反ユダヤ主義の行動をとった学生や大学への強い措置を明言。さらに、外国籍の学生については、関係する法律に基づき対応する方針を示した。
第2次トランプ政権において、トランプは、HarvardやColumbiaをはじめとした大学に対しては補助金の凍結、学生に対しては永住権やビザを保持していても逮捕、拘留、国外追放などに処する動きを進めてきた。大学に対する措置は、DEI (Diversity, Equity, and Inclusion)を違法と見なしものも含まれるが、大統領令の定義による反ユダヤ主義を根拠にして、大学における親パレスチナ活動の禁止やイスラエルのガザ攻撃に批判的な教員や学生をキャンパスから追放するように求める主張につながっている。学生については、「不法移民」の取締を行うU.S. Immigration and Customs Enforcement (ICE)を動員、令状がないまま尋問、逮捕、拘束し、長期間留置する事態が相次いだ。こうした動きに対して、移民の権利擁護や人権問題に関わるNPOなどは、一斉に非難。訴訟や抗議活動の形で、トランプ政権と対峙している。
トランプ政権が標的にしたのは、HarvardやColombiaなどの「有名校」だ。反ユダヤ主義やDEIを名目に非難を強めるトランプに対して、Harvardは裁判に訴え、抵抗。一方、Columbiaは、学生を処分したうえ、政権側と協議を進めていた。その結果、7月23日、Columbiaは、3年間に2億ドルの罰金を政府に支払うことで合意したと発表。また、雇用差別を扱う政府機関による宗教に基づくハラスメントに関する訴訟についても、2100万ドルを支払うことになった。このふたつを合わせると、2億2100万ドル、日本円に換算すると330億円を超える膨大な額だ。しかし、この結果は、Columbiaの全面的な敗北を意味するものではない。大学による反ユダヤ主義に基づく入学上の差別への嫌疑は不問にされ、大学における学問の自由も保障された。また、政権との合意書には明示されていないものの、大学側は、凍結されていた4億ドルの研究助成金と年間13億ドルの交付金が支出されることになると見込んでいるようだ。
大学で親パレスチナ運動に関わった外国人学生に対して、トランプ政権は、大統領令を根拠に、国外追放による対処を目指してきた。その象徴といえるのが、Mahmoud Khalilの逮捕、拘留である。2024年春のColumbia大学におけるイスラエルのガザ攻撃に反対する運動の中心人物のひとりだ。シリア生まれのアルジェリア系パレスチナ人で、留学生として渡米。結婚を通じてすでに永住権を取得していたKhalilに対してICEは、今年3月8日、マンハッタンの自宅のアパート付近で逮捕した。その後、ニュージャージー州の拘置所をへて、ルイジアナ州の拘置所、LaSalle Detention Centerに移送。この措置に対して、Khalilは、ニュージャージーに戻すよう求めたものの、聞き入れられなかった。
Khalilは、なんらかの犯罪を問われたわけではない。1952年の移民法が規定する「対外政策において、国家の利益に反する深刻な結果を招く可能性」があるという理由で、保守的地域の裁判所の判断で国外退去されるとの見方が強かった。実際、ルイジアナ州の移民裁判所では、国外退去を認める判断が示されていた。しかし、裁判の管轄権がニュージャージー州にあるとした連邦地方裁判所のMichael Farbiarz判事は6月20日、ルイジアナ州の拘置所に対して、Khalilの釈放を命じた。逮捕から釈放までの期間、Khalil を支援する動きが各地に拡大。また、American Civil Liberties Union (ACLU)やCreating Law Enforcement Accountability & Responsibility (CLEAR), and the Center for Constitutional Rights (CCR)などのNPOの法律事務所の支援を提供していた。Khalilは7月10日、3加越余りの不当な拘留によって苦痛を被ったとして、ICEなどに2000万ドルにのぼる補償を求める訴えを起こした。
即時停戦を求める親パレスチナ運動の象徴的な存在、Khalilが釈放されたことは、運動側にとっては大きな勝利といえる。しかし、ひとりの活動家の自由が確保されたことで、運動に関わる、あるいはパレスチナ系とみなされる人々に安堵の時が訪れたとはいえない。7月7日発信のThe Guardianは、”Palestine Legal's 50% Increase in Requests for Legal Support Last Year”と題する記事を掲載。ここで示されたPalestine Legalは、Khalilの支援団体のひとつである。“A New Generation for Liberation: Historic Student Protests Defy University Crackdowns”というPalestine Legalが発行したレポートに基づいた記事は、Palestine Legalに寄せられた支援要請が急増している実態を報告。2024年の支援要請が2000件余りと、23年の55%増、22年に比べると600%も増加したと伝えている。なお、支援要請のうち、親パレスチナの運動に関連したものが3分の2を占め、要請者も大学だけでなく、小学校から高校まで及び、その大半は、パレスチナ系に加え、アラブ系やムスリム、その他マイノリティからだという。
警察力を背景にして、キャンパスからEncampmentが一掃されたものの、学生らによるイスラエルのガザ攻撃の即時停止を求める活動は続いている。そのひとつは、ハンガーストライキ(以下、ハンスト)だ。ガザ地区における危機的な飢餓状況を訴える手段でもある。パレスチナ問題に特化したニュースサイト、Mondoweissは5月20日発信の”Students across the U.S. are going on hunger strike as Israeli-engineered famine takes hold in Gaza”と題する記事で、全米各地で学生によるハンストが広がっていると報じた。そのひとつで、Encampmentを開始したとされるStanfordでは、Stanford Hunger Strikers for Justice in Palestineという団体が4項目の要求を掲げて実施したハンストについて紹介している。この4項目とは、Stanford Universityの資産の使途の公開や大学内の表現の自由を求めた内容などだ。
なぜ、大学の資産の使途について公開を求めたのか。イスラエルへの投資に用いられているのではないか、という疑念からだ。この疑念は、投資回収運動に関連している。1980年代に、アパルトヘイトと呼ばれる人種隔離政策で黒人差別を行ってきた南アフリカに投資を行っていた企業に、撤退を求めた運動は、その代表例といえる。南アフリカに対するほどの影響力には至っていないものの、世界各地でパレスチナにおけるイスラエルの軍事行動や人権侵害に反対する運動の一環として、投資回収の重要性が訴えられている。アメリカでは、20年前にPalestinian BDS National Committee (BNC)が設立され、学生組織とも連携して、活動を進めている。なお、BDSはBoycott, Divestment, Sanctionsの3つの単語の頭文字を取った略語で、イスラエル製品の不買、イスラエルからの投資回収、イスラエルへの制裁の要求を一括したことばである。なお、ColumbiaにもBDSに取り組む学内組織が存在し、前述のKhalilも参加していたと報じられている。
学生による親パレスチナ運動との関係で、重要な位置を占めているのが、労働運動からの支持である。イスラエルのガザ攻撃直後から、親パレスチナの労働組合を中心にした活動が行われていた。この動きは、攻撃開始から4か月後の2024年2月には、大手の単産も参加した全国組織の結成につながった。American Postal Workers Union (APWU)やAssociation of Flight Attendants (AFA-CWA)、 International Union of Painters and Allied Trades (IUPAT)、National Education Association (NEA)、National Nurses United (NNU)、United Auto Workers (UAW)、United Electrical Workers (UE)などの労働組合による、National Labor Network for Ceasefire (NLNC)を結成がそれだ。NLNCは、ガザ地区における戦闘の即時停止を大統領や議会に停戦を求めるだけではなく、Khalilの逮捕への抗議や即時釈放の要求、Columbiaの労働組合の指導者への処分など、大学の学生や組合員と連携し、大学に抗議する声もあげている。
こうしたNLNCの動きの背景には、教員の授業や研究のアシスタントとして大学に採用されている大学院生の多くが労働組合員になっていることに関係している。Encampmentなどの活動に関わる中で、逮捕される組合員が増加。労働組合として支援の必要性が認識されていったといえよう。National Center for the Study of Collective Bargaining in Higher Education and the Professions (National Center)が2024年9月に発表した”Directory of Bargaining Agents and Contracts in Institutions of Higher Education”という報告書によると、過去数年間に大学院生の組織化が急速に拡大。2024年1月現在で、アカデミックワーカーと呼ばれる、教員のアシスタントなどの仕事に従事しながら大学院で学んでいる学生の38%は労働組合に加入しており、その数は15万人に及ぶという。アカデミックワーカーの多くは、BDSをはじめとした親パレスチナの活動に関わり、学生と労働組合の橋渡し役として、労働運動に国際的、社会的な視点を取り込むうえで、大きな役割をはたしているといえよう。
メディア報道では、大統領も議会も、親イスラエル一色のように見えるものの、世論は、大きく変わりつつある。世論調査会社のGallupが3月6日に発表した調査結果によると、イスラエルとパレスチナのどちらに親しみを感じるかという問いに対して、前者の51%に対して、後者は33%だった。その差は16ポイントにのぼるが、2021年当時の13%以来最も小さな差になっている。短期的に見ても、ガザ戦争前の2022には、親イスラエルの55%に対して、親パレスチナは26%に留まっていた。イスラム武装組織ハマスによるイスラエル攻撃に伴う、大統領や議会が反パレスチナの動きを進める中で、親イスラエルの意識が低下し、パレスチナに親近感を持つ人が増えたことは、驚きに値する。その理由をすべて学生や労働者の親パレスチナの活動に帰することはできないものの、一定の役割を果たしたことは確かだろう。
なお、上述のStanford Hunger Strikers for Justice in PalestineのハンストやイスラエルへのBDSを訴える要求を掲載したMondoweissの記事は、以下から見ることができる。
https://mondoweiss.net/2025/05/hunger-is-our-weapon-against-injustice/
トランプのイラン攻撃は「2003年の過ち」の繰り返し、抗議活動急拡大の最中の「停戦合意」で全米集会は延期に
2025年6月26日
イスラエルによるイランへの攻撃が続く中、トランプ大統領は6月21日、イランの3つの核施設に空爆を行った。その後、イランに対して、「無条件降伏」を要求したものの、イランの最高指導者、ハメネイ師はこれを拒否。戦争は泥沼化し、「2003年の過ち」が繰り返される懸念が指摘されていた。アメリカの反戦平和団体は、6月12日のイスラエルによるイランへの攻撃前から、「軍事力ではなく外交による解決」を主張。核施設への攻撃という形でイスラエルに加担したトランプ政権を強く非難、参戦を望まない国内世論を追い風に、全米各地で抗議活動を展開していた。また、トランプ大統領によるイスラエルとイランの「停戦合意」発表前に、首都ワシントンで全米抗議行動の実施を表明するなど、戦火拡大阻止に向けた動きを広げていたが、「停戦合意」で延期を表明した。
「2003年の過ち」の繰り返しの「2003年」とは、イラク戦争のことだ。当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は、2002年の一般教書演説でイラク・イラン・北朝鮮を「大量破壊兵器」を保有するテロ支援国家、と非難。国際機関による「大量破壊兵器」の査察にイラクが協力的でないとして、2003年3月、イギリスなどと編成した「多国籍軍」によるOperation Iraqi Freedom (OIF:イラクの自由作戦)に踏み切った。しかし、戦闘が一段落した後、「大量破壊兵器」を発見できなかった。イラクのフセイン大統領が逮捕、処刑され、戦争は終結するかに見えたが、内戦状態に陥ったうえ、海外から流入した過激派が「イスラム国」を「建国」するなど、混乱を極めた。ブッシュ後に就任したオバマ大統領は、2010年8月に戦闘終結を宣言、翌11年12月に米軍はイラクから完全撤退した。
トランプ大統領は、今回のイラン攻撃に当たり、核兵器の保有を許さないためとしている。しかし、イラクが核兵器を製造しようとしているのかどうかについて、連邦政府の17の情報機関を統括する機関、United States Intelligence Community (IC)のDirector、Tulsi Gabbard氏は、3月25日に行われた連邦上院情報委員会の公聴会で、「ICは、イランが核兵器を製造しておらず、最高指導者のハメネイ師は2003年に中断した核兵器製造計画を承認していない」と語った。このことばを引用して、アメリカの多くのメディアは、イラクの核兵器製造に疑問を提示。また、6月23日放映のNHK BSの「国際報道2025」の「米 イラン攻撃 緊迫する中東情勢」の中でも、同様の疑問がアメリカの親トランプ派のシンクタンクのゲストに投げかけられた。
しかし、ペンシルベニア州にあるAnnenberg Public Policy Centerのプロジェクト、FactCheck.orgが6月18日に掲載した” Trump, Gabbard Comments on Iran Nuclear Capability”という一文によると、Gabbard氏は、上記のことばに続けて、「昨年、イランで何十年にもわたった公の場における核兵器について議論することに対するタブーが侵され、イランの意思決定機関内で核兵器擁護者を勇気づけた可能性がある」と語った。このことは、アメリカのメディアやNHKの「国際報道2025」では触れられていない。さらに、核兵器を所持しない国として異例なほど濃縮度の高いウランを保有していると述べていた。イランの核兵器開発への意志と能力に関するアメリカ情報機関の認識を示している。公聴会におけるこれらの発言を把握していなかったのであれば、メディアとしては、怠慢といわれても仕方がない。
Gabbard氏の指摘は、核兵器開発に対するイラクの意志に変化が生じていることに加え、濃縮ウランの製造能力が高いと、情報機関が認識していることを意味する。とはいえ、この指摘は、あくまでイラクが核兵器を製造することへの意志と能力に関する認識であり、実際に製造しているとの判断を示したものではない。ここで思い出されるのは、2003年のイラク戦争の開戦の直前、当時のパウェル国務長官が国連でイラクの「大量破壊兵器」の存在の可能性を強く主張したにもかかわらず、フセイン政権が妥当された後も、発見されなかったことだ。パウェル氏の主張が「2003年の過ち」の一部でもある、誤情報あるいは情報操作といわれるゆえんである。
核兵器の製造に濃縮ウランが不可欠とはいえ、兵器として利用するには、他のさまざまな製造過程をクリアしなければならない。その意思と能力をイランが持っているのかどうか検討することは、本稿の問題意識とは異なる。とはいえ、不確実、あるいは偽造された情報によってしばしば戦争が引き起こされてきたことと、それがアメリカの歴史において、珍しいことではないことを指摘しておく。こうした歴史を経験してきたことも影響しているのだろう。アメリカの反戦平和団体の多くは、政府の主張に懐疑的だ。その一方、イラクが核兵器を製造していないとするGabbard氏の指摘に基づき、イスラエルやトランプのイラン攻撃を批判している。
いずれにせよ、反戦平和団体の多くは、アメリカによるイランへの軍事行動に反対するだけでなく、経済制裁の解除やイスラエルへの軍事援助の停止を求めてきた。長年にわたる、こうした活動の経験や活動を通じて形成されたネットワークを生かし、イスラエルとイランの間で緊張が高まる中で、6月12日のイスラエルによるイラクの核施設などへの奇襲攻撃以前から、攻撃が行われた場合に、抗議活動を直ちに行うことができるように準備を進めてきた。以下、その準備に基づく、緊急行動の一端を見ていこう。
全米規模のフェミニストの反戦平和団体、CodePinkのサンフランシスコ湾岸支部は、6月16日にオークランド、20日にサンフランシスコで集会やデモを行うと、13日に表明した。”STOP BOMBING IRAN! ARMS EMBARGO NOW! OPEN RAFAH! LET GAZA LIVE!”というスローガンに示されるように、イスラエルによる空爆とアメリカのイスラエルへの軍事援助、そしてイスラエルの攻撃にさらされているパレスチナのガザ地区の住民への支援という3つの内容を盛り込んでいる。これらは、6月15日から20日にかけてガザ地区とエジプトとの境界にあるラファ検問所に世界各地から活動家が集まり、地区の住民への食料や医療品などの搬入を求める活動に連帯する活動として準備されてきたものをベースに実施されたものだ。CodePinkは、ラファの活動に、30人を派遣していた。各地における同様の活動に加え、連邦議員に戦争拡大に反対するように求める書簡の送付活動も実施。5000人を目標にしていて、6月23日時点で、3398人が送付した。
地域で反戦平和活動に取り組んでいる団体からも、イスラエルのイラン攻撃とアメリカの支援に反対する声が上がった。アラブ系住民が多いデトロイトの北西、車で3時間近く離れたGrand Rapidsで6月18日に行われた集会は、そのひとつだ。Palestine Solidarity Grand RapidsとAntiwar Action Networkがパレスチナ支援活動として毎週実施している集会を急遽“「イラン戦争反対」に切り替えたもので、30人余りが参加したと6月20日発信のArab American Newsは伝えている。また、6月18日発信のNewsweekの” Iran War Protests Break Out in US Cities”という記事によると、6月16日のMilwaukee Anti-War Coalitionによる集会に数百人が参加、ニューヨークでもBronx Anti-Warによるイランとの連帯集会が開催された。同様の集会などは、全米各地で行われたものの、参加者数で見ると規模は比較的小さなものだった。
しかし、6月21日にアメリカがイラクの核施設3カ所を空爆したという報道が入ると、反戦平和団体の活動は、一気に拡大の様相を示した。この日、ペンシルベニア州最大の都市フィラデルフィアで18団体の共催によるイランとの戦争に反対する集会とデモが開催されたのである。協賛団体のひとつPeace Justice Sustainability NowのDavid E Gibson氏のフェイスブック(https://www.facebook.com/PeaceJusticeSustainabilityNOW/)によると、500人余りが参加したという。ただし、この抗議行動は、アメリカの攻撃以前に計画されていたもので、トランプ大統領によるイラン空爆が開催日と重なったために、急遽、アメリカの参戦を批判する内容も盛り込んだと推察される。同様の集会やデモは、翌22日に首都ワシントンやニューヨーク、ボストン、シカゴなどにおいても実施された。
核施設への空爆への反発は、さらに拡大していく。CodePinkは6月22日、ANSWER ((Act Now to Stop War and End Racism)) Coalition(以下、ANSWER)、National Iranian-American Council (NIAC)、Palestinian Youth Movement (PYM)、Democratic Socialists of America (DSA)などとともに、28日に首都ワシントンで”Stop War on Iran”をスローガンにしたNational Rally(全米抗議行動)を行うことを明らかにしたのである。
ANSWER Coalitionは、同時多発テロ事件の3日後に設立された団体で、パレスチナ支援に加え、ベネズエラやイランへのアメリカの干渉を批判している。なお、ANSWERは、Act Now to Stop War and End Racismの頭文字を取った略称である。Palestinian Youth Movement (PYM)は、パレスチナ系の若者による団体で、2023年10月のイスラエルのガザ攻撃への抗議活動において中心的な役割を果たしてきた団体のひとつだ。Democratic Socialists of America (DSA)は、1970年代に設立されたふたつの社会主義団体を起源にもつ、いわゆる501c4団体に分類されるNPO法人で、政党ではない。民主党の議員の中には、DSAのメンバーも複数存在している。公称で9万2000人の会員をもち、社会主義を標榜する団体としては、アメリカで最も大きい。
National Iranian-American Council (NIAC)は、イラン系アメリカ人(以下、イラン系)の団体である。2002年に設立、全米各地に16の支部をもち、外交によるイランの平和実現やイラン系の人権問題などに取り組んでいる。アメリカのイラン政策との関係においては、「当事者」的な立場から積極的に活動を進めている。今回のイスラエルとアメリカによるイランを攻撃に関するプレス声明を見ると、6月12日の攻撃直前には、トランプ大統領が国際紛争の平和的解決を訴えたことで支持をえたとして、外交による解決を要請。同日、イスラエルの空爆が始まった直後には、違法かつ不当な攻撃であり、平和と外交への挑戦だと非難した。6月21日にトランプ大統領がイランの核施設に空爆を行った際には、「最大限の言葉で非難」するとしたうえで、「我々は一丸となって、平和への道を再建しなければならない」との決意を表明した。
こうして6月28日に向けた動きが進んでいく最中の23日、トランプ大統領は突如、イランとイスラエルの「停戦合意」を発表した。パレスチナのガザ地区に侵攻したイスラエルと地区を実効支配しているハマスの間で今年1月に成立した「停戦」は、3月に崩壊した。その二の舞になる可能性がないとは言えないものの、NIACは、これを歓迎する旨を表明。一方、6月24日にCodePinkやANSWERのウェブサイトを閲覧した際には、28日のNational Rallyのポスターが掲示されていた。また、ANSWERは首都ワシントンへのバスによる参加を訴え、CodePinkのウェブサイトでは上記の連邦議員に対する戦争拡大に反対を求める書簡の送付活動も継続中だった。しかし、ANSWERは6月26、”X”への投稿で28日の集会を延期することを表明。CodePinkがRepostした投稿文は、トランプのイラク空爆から24時間以内に、全米30余りの都市で抗議活動を行うための連合体が発足したとして、反戦活動の広がりを指摘している。
なお、本稿は当初、イスラエルのイラン空爆に対するアメリカの反戦平和団体の動きを紹介することを目的に調査を始めた。しかし、その後、アメリカによるイラン核施設への攻撃、そしてイスラエルとイランの「停戦合意」がトランプから発表されるなど、状況が目まぐるしく、かつ大きく変化していった。このため本稿は、アメリカの空爆とそれに対する反戦平和団体の動きまでを整理することにした。換言すると、「停戦合意」の発表以降については、掘り下げて記述していない。この点については、状況がより明確になった時点で、改めて調査を行い、報告したいと考えている。なお、本稿中の日付は、アメリカ東部時間で表記した。日本時間と異なるので、留意されたい。また、上記のANSWERなどによる6月28日の集会とデモの延期声明が掲載された”X”の投稿は、以下から見ることができる。
https://x.com/answercoalition/status/1937956060632961431
ガザ停戦に関する安保理におけるトランプ政権の拒否権発動の中、国連前で40日間のハンスト”Fast for Gaza”実施
2025年6月5日
国連安全保障理事会は6月4日、パレスチナのガザ地区における即時停戦と人道支援の制限解除を求める決議案を審議、採決の結果、全15理事国のうち14ヵ国が賛成したが、アメリカが拒否権を行使、否決された。採決に先立つ5月22日から、ニューヨークの国連本部前で、”Fast for Gaza”というガザの住民に連帯の意志を示すとともに、人道援助の再開とトランプ政権によるイスラエルへの軍事支援の停止を求め、ハンガーストライキ(以下、ハンスト)が実施されている。平和活動に取り組む退役軍人の団体などが行っているもので、国連付近での活動への参加者は十数人にすぎないものの、6月5日現在、アメリカを中心に現役の空軍少尉も含め、世界各地で700人余りが加わっており、6月30日まで続ける予定だという。ハンストの参加者の中には、国連総会で「平和のための結集」決議が採用され、停戦と国連主導の人道援助の実施を期待する人もいる。
”Fast for Gaza”の中心になっているのは、Veterans for Peace(VFP)という退役軍人のNPOだ。日本のNPO法人が作成する活動計算書に相当し、連邦政府の財務当局Internal Revenue Serviceに提出される、2023会計年度のForm 990によれば、活動の目的は国際紛争の解決手段としての戦争をなくすことである。2023年度の歳入は52万ドル、歳出は40万ドルと、予算的にはそれほど大きな団体ではない。ただし、歳入のうち会費は10万ドル余りを占めている。団体のウェブサイトによれば、会費は50ドル(学生などは25ドル)なので、2000人ほどの会員がいることになる。また、日本やベトナムを含め、120余りの支部があるという。なお、設立されたのは1985年で、核軍拡が進んでいたことやレーガン政権の中米への軍事介入に危機感をもった退役軍人10人によって設立され、同時多発テロ事件後の2003年には会員が8000人に達していた。
退役軍人による反戦平和団体というと、日本ではイメージしにくいかもしれない。しかし、1967年にベトナム戦争の退役軍人6人が設立、ベトナム反戦を訴えた、Vietnam Veterans against the War (VVAW)のような組織もある。VVAW は、2004年に民主党の候補者指名を獲得し、George W. Bushと大統領の座を争った、John Kellyや女優のJane Fondらが支援していたNPOとして知られている。なお、John Kellyは、ベトナム戦争に従軍した経験を持ち、大統領選挙の敗北後、2013~17年にObama政権下で国務長官を務めた。また、VVAW は、ベトナム戦争時に散布された枯葉剤、いわゆるAgent Orangeの被害を受けた米兵の健康問題への対策を政府に求める活動にも取り組んできた。
退役軍人の政治的活動として知られているもののひとつに、第一次世界大戦の退役軍人とその家族らによる"Bonus Marchers"がある。1924年に成立した”World War Adjusted Compensation Act”という法律、通称”Bonus Act”が定めた1945年からの「ボーナス」支給予定について、大恐慌で生活難に陥った退役軍人とその家族らが前倒して行うよう要求。1932年の半ばに首都ワシントンに数万人が結集し、7月28日に警官隊と衝突して、ふたりが亡くなった惨事のことだ。なお、「ボーナス」とは、恩給または年金に近い意味合いといえる。この時は、ほとんど成果をえられなかったものの、第二次世界大戦後のGI Billは、"Bonus Marchers"の要求を具現化したものといわれている。
この"Bonus Marchers"になぞらえた、退役軍人による集会が6月6日、首都ワシントンで開催される。”Unite for Veterans, Unite for America Rally”というタイトルを掲げた集会だ。その背景には、トランプ政権による連邦職員の大量解雇がある。Department of Veterans Affairsをはじめとした連邦政府機関には、多くの退役軍人とその家族が働いている。解雇にともない収入の道が絶たれるだけでなく、医療保険などのベネフィットも失うことになる。集会は、Unite for Veteransという実行員会的な組織によって開催されるが、寄付控除の資格がない。このため、民主主義の擁護のため退役軍人を動員、エンパワーしていくことをミッションに掲げるNPO (510c3団体)のChamberlain NetworkがFiscal Sponsorshipを提供している。Fiscal Sponsorshipとは、寄付控除の資格をもたない団体が寄付や助成金を受ける際、代わりに受け取る立場をさす。
”Fast for Gaza”が行うハンストは、断食と呼ばれることが多い。完全に飲食を絶つ行為のように思われることが少なくないが、水だけ、あるいは塩と水だけを摂ったりする場合や流動食を限定的にとることもある。”Fast for Gaza”は、40日間に及ぶため、完全に飲食を断てば、死は避けられない。ただし、”Fast for Gaza”では、1日250カロリーを摂取する。なぜ、250カロリーなのか。これは、イギリスのNGO、Oxfam Internationalが2024年4月3日に発表したプレスリリースの中で、ガザ北部の住民が1日当たり245カロリーの食事しか摂取できないでいると報告したデータに基づいて決められたという。なお、日本の農林水産省によると、一日に必要なエネルギー量は、活動量の少ない成人女性の場合、1400~2000kcal、男性は2200±200kcal程度が目安だ。1日245カロリーという摂取量は、1年前の数字であり、現在は、より厳しい「飢餓状態」にあるといわれている。
250カロリーは、ラーメン1杯分程度にすぎない。これで1日、それも40日間続けるのは容易ではない。どのような思いから”Fast for Gaza”に参加するのだろうか。インターネットでニュース配信を行っているDemocracy Now!というNPOが6月5日に放映した”As U.S. Vetoes U.N. Gaza Ceasefire Resolution, Kathy Kelly & Veterans Enter 3rd Week of Hunger Strike”という番組は、国連前からの放送で、この点を参加者に尋ねている。そのひとりで、現役の空君少尉のJoy Metzlerさんは、正義と国、国民を守りたいという思いから軍人になったと述べた。しかし、「ガザのジェノサイド」を見ると、アメリカの軍や政府が、こうしたことに関心がないことを知り、「自分が教わってきたこと、すなわち正義のために立ち上がる」ことを実践しようと決意したという。なお、METZLERさんは、良心的兵役拒否の申請を行い、今年4月に認可された。
また、日本にも支部がある国際的な反戦平和団体、World Beyond Warの理事長のKathy Kellyさんは、Democracy Now!のスタジオでインタビューに応じた。ノーベル平和賞に何度もノミネートされる一方、60回以上の逮捕歴をもつベテランの平和運動家のKellyさんは、6月4日の安保理におけるアメリカの拒否権発動を批判。しかし、国連は、総会で「平和のための結集」決議を採用し、ガザ地区の停戦と国連主導の人道援助の実施が可能との考えを示した。「平和のための結集」決議とは、国連の常任理事国が拒否権を行使して安保理が国連憲章で定められた機能を遂行するのを妨害している場合、国連が別の行動手段を実施することを可能にさせる措置だ。Kellyさんは、1956年のスエズ危機における国連の対応を例にして、決議の活用に期待を示した。ただし、「平和のための結集」決議は、法的拘束力がなく、実際にイスラエルの行動を止めることにつながるかどうか、不明だ。
Kellyさんは、国連主導の人道援助の実施の必要性も指摘している。これまで、ガザ地区への支援はNGOと連携した国連が中心になって実施してきた。しかし、3月にイスラエルが停戦を破棄、ガザ地区への軍事侵攻を再開。その後、食料や医療などの支援物資の地区への搬入がイスラエルによって停止されている。これが、現在のガザ地区の飢餓状態の背景にある。国際社会の批判を受け、トランプ政権は今年初め、Gaza Humanitarian Foundation (GHF)を設立、国連などに代わり、イスラエルとともにガザ地区への支援を行うとした。しかし、5月末に始まった「支援」は、不十分なうえ、イスラエルによるとされる銃撃により多数の死者が発生。GHFは6月4日、メンテナンス・補修作業のためとして、活動を停止した。人道援助の原則を踏み外しているなどとして、国際社会が反発していることを踏まえ、GHF主導を改め、国連中心の支援を再開させるべき、というのがKellyさんをはじめとした”Fast for Gaza”に関わる人達の考えだ。
なお、上記のDemocracy Now!の番組のビデオとトラスクリプトは、以下から見ることができる。
https://www.democracynow.org/2025/6/5/fast_for_gaza_un
ベトナム戦争終結50年、連邦議会にエージェント・オレンジの被害者救済法案提出
2025年5月10日
ベトナム戦争の終結から50周目に当たる4月30日に先立って、連邦議会にふたつの法案が提出された。いずれも、戦時中、米軍が散布した猛毒のエージェント・オレンジなどの有害物資による被害を受けた人々を救済するためだ。法案のひとつは、ベトナムなど、現地の被害者向け。もうひとつは、男性の従軍兵士の子どもへの影響など、米国内の人々の被害に対するものである。被害者救済を長年にわたり求めてきたNPOのアドバイスを受けて作成、議会に提出された。このことは、NPOの政策提言活動としても大きな意義を持つ。しかし、法案が提出されたのは下院だけで、提案者は6人にすぎず、成立の見通しは立っていない。また、ベトナムなど、現地に残る有害物資の除染や不発弾の処理など、未解決な問題もあり、戦争の影響が極めて長期にわたることを示しているといえよう。
エージェント・オレンジは、除草剤の一種の枯葉剤である。1961年から米軍の委託によりモンサント(現在のバイエル)やダウ・ケミカルなどの化学メーカーによって生産され、1971年まで”Operation Ranch Hand”という作戦で使用されたことで知られている。日本のメディアでは、「枯れ葉作戦」などの名称で報じられていた。この作戦に用いられた枯葉剤は、それぞれの容器に付けられる縞の色からオレンジ剤(エージェント・オレンジ)などと呼ばれた。4月28日に連邦下院に提出された法案によれば、米軍により1961年から71年までにベトナムなどで散布された枯葉剤は、15種類、1900万ガロン(1ガロン≒3.785リットル)。なお、枯葉剤による汚染は、空中散布だけでなく、後述するダナンのような、米軍基地における流出によるものもある。
これらの枯葉剤のうち最も多く使用されたのがオレンジ剤で、1300万ガロンにのぼる。このため、米軍がベトナム戦争で使用した枯葉剤=エージェント・オレンジと見なされるようになった。しかし、ホワイト剤450万ガロン、ブルー剤100万ガロン、パープル剤42万ガロンなども使用。ベトナム南部の他、ラオス、カンボジアの一部地域へ、2万回の出撃により、170万ヘクタールの地域に散布された。このように、エージェント・オレンジは、米軍のベトナムなどで用いた枯葉剤のひとつにすぎないが、本稿では、これ以降、「枯れ葉作戦」で使用された枯葉剤を総称して語る場合には、エージェント・オレンジと記述していく。
除草剤や枯葉剤と聞くと、人体には無害のように思われれるかもしれない。しかし、エージェント・オレンジなどの多くの枯葉剤には猛毒のダイオキシンが含まれていた。また、エージェント・ブルーには高濃度のヒ素が用いられていたことで知られている。これらの有毒物資に被曝した人は、ベトナムとラオス、カンボジアで推計210万人から480万人にのぼる。また、現地の人々の多くが、枯葉剤に汚染された土壌や食物からダイオキシンなどを摂取したとみられる。これらの人々の子どもや孫にも、肉体や知的な面で悪影響が出ており、その影響は極めて大きくかつ深刻だ。
現地の人々だけではない。ベトナム戦争に従軍した米兵数万人も散布、あるいは保管中に流出したエージェント・オレンジの被害を受けた。後述するように、連邦政府の退役軍人省は、エージェント・オレンジが散布または流失した地域に従軍していた兵士に対する救済制度が作られてきた。例えば、従軍兵士に対しては、パーキンソン病や前立腺ガンなど、19種類の病気が関連して発生している可能性があるとして、救済を行っている。また、これらの兵士のうち女性が産んだ子どもに身体や知的の面などで影響が出た場合、救済の対象になっている。
では、ベトナムをはじめとした戦争の被災地と被害者に対して、アメリカ政府は、どのような対応を取ってきたのかだろうか。4月30日発信のNPOのメディア、Truthoutの”Vietnamese Agent Orange Victims Remain Uncompensated. Tlaib Aims to Change That”と題する記事は、1973年1月に南北ベトナムとアメリカ、南ベトナム共和国臨時革命政府(ベトコン)によって締結されたパリ和平協定において、ニクソン政権がベトナムへの補償と復興支援として30億ドル余りを拠出するとしたものの、実施されなかったと記述している。しかし、アメリカ政府は2018年、1億8000万ドルを投入して、ダナン空軍基地においてエージェント・オレンジの除染を実施。また、ビエンホア空軍基地でも除染が実施されてきた。しかし、トランプ政権が3月、除染活動を行っていた連邦国際開発庁(USAID)の4億3000万ドルの予算を凍結したため、先行きが不透明になっている。なお、ベトナムなどの散布した国の住民や、住民のうちアメリカに移住した人々への支援は実施していない。
連邦議会は、完全に沈黙していたわけではない。民主党のBarbara Lee下院議員が中心となり、2015年にVictims of Agent Orange Relief Actが議会に提出された。この法案には、同議員の他、26人の議員が共同提案者として名を連ねた。採決に至らず、廃案となったものの、1961年から75年までの間にエージェント・オレンジが散布された地域にいた兵士や住民への救済、汚染地域の浄化、在米ベトナム人への支援活動など、多様な内容を含んでいた。なお、Lee下院議員は、2021年にも同様の法案を提出している。また、これらの法案が提出される前の2003年には、ベトナム戦争に従軍していた女性兵士が出産した子どもに二分脊椎症などが見られた場合に、医療面での支援を行う法律が成立。ただし、男性兵士の子どもは対象外とされていたため、2015年や21年の法案に、対象として盛り込まれた。
冒頭で述べたように、今年4月28日に連邦議会に提出された法案は、ふたつ。Victims of Agent Orange Act (VAOA)とAgent Orange Relief Act (AORA)である。前者は、ベトナムの被害者とベトナムから移住してアメリカに居住している人々とそのコミュニティへの支援を目的にした法案だ。後者は、エージェント・オレンジに被曝した父親から生まれた子どもに障がいがある場合に支援を行うための措置を規定。また、エージェント・オレンジによる健康被害への研究の拡充も求めている。このように、ふたつの法案は、2015年と21年にBarbara Leeが提案した法案の内容をふたつに分けたような形になっている。法案の主提案者は、いずれもTlaib Rashida下院議員で、André Carson、Sarah McBride、Jerry Nadler、Lateefah Simon、Shri Thanedarの5人が共同提案者に名を連ねた。なお、これらの議員は、いずれも民主党だ。
ふたつの法案が提出された当日の4月28日、Rashida下院議員はプレスリリースを発表。エージェント・オレンジが「アメリカの退役軍人、ベトナム人、ベトナム系アメリカ人、そして彼らの子どもたちの生活に悪影響を及ぼし続けている」と述べ、過去の問題ではなく、現在進行形の事態であるという認識を示した。同議員は、パレスチナからの移民を両親にもち、パレスチナ系女性としては、全米最初の連邦議員に選出されたことでも知られている。パレスチナ問題では、反イスラエルの姿勢を明確に打ち出し、イスラエル企業のボイコットやイスラエルからの投資回収、経済制裁を訴える、Boycott, Divestment and Sanctions運動の支持者だ。所属政党は民主党だが、左派系の市民運動団体、Democratic Socialist of America (DSA)のメンバーでもある。
Rashida下院議員の法案作成には、エージェント・オレンジの問題に取り組むNPOが協力した。そのひとつ、退役軍人の問題に取り組むVeterans For Peaceの会長で、エージェント・オレンジに対するアメリカ政府の責任を追及しているVietnam Agent Orange Relief and Responsibility Campaignの共同コーディネーターでもある Susan Schnallさんは、法案提出におけるRashida下院議員の尽力に謝意を表明。そのうえで、「ベトナム戦争終結50周年を機に、アメリカ国民と被害を受けたベトナム国民の癒しと、ベトナムの汚染された土地の浄化を促進する」ふたつの法案が提出されたことに喜びを感じていると述べた。これらのNPOに加え、平和外交の研究啓発機関Quincy Institute と進歩的な退役軍人の団体CommonDefense.us、ミネソタ州の平和団体のMinnesota Peace Project、Action Corpsという環境問題に取り組むNPOが法案に賛同している。
なお、上述したRashida下院議員のプレスリリースは、以下から見ることができる。
https://tlaib.house.gov/posts/tlaib-marks-50th-anniversary-of-end-of-vietnam-war-with-legislative-package-to-bring-justice-for-victims-of-agent-orange
イスラエルのガザ攻撃で負傷した子どもをアメリカで治療、医療機関と連携したNPOの活動拡大
2025年4月27日
イスラエルによるパレスチナのガザ地区への軍事攻撃が始まって1年半になろうとしているが、死傷者の多くは、子どもと伝えられている。現地の医療提供体制は壊滅的な状態に陥っており、子どもに限定されるわけではないが、負傷者への手術を含めた治療がままならない状況だ。こうした中で、現地では治療が困難な重篤な負傷者を海外に移送し、入院や治療を行う必要性を指摘する声が広がっている。アメリカのNPOは、病院と連携、負傷した子どもとその家族らの渡航費を含めた必要な経費を負担して、治療やリハビリなどを提供する活動を実施。今年4月にもエジプトからシカゴとデトロイトに入国、各地の病院で治療が提供されるなどしている。
ガザ地区の保健当局が今年1月7日時点の集計とした発表によれば、2023年10月の戦闘開始以降、イスラエルの攻撃による同地区の死者は4万5885人、負傷者は10万9196人に上った。同当局は、主に死亡した人の遺体を数えることで集計を行っているという。イスラエルとハマスは今年1月15日、停戦に合意、19日から実施された。しかし、イスラエルは3月18日に攻撃を再開。また、子どもに限定すると、保健当局3月27日の発表によれば、戦闘開始以降にガザ地区で死亡した子どもは、1万5613人に上った。さらに、4月21日の国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の発表によれば、3月の攻撃再開以降、ガザ地区でのイスラエルの攻撃により、約600人の子どもが死亡。また、1600人以上の子どもが負傷した。
こうした状況を受けて、ガザ地区におけるイスラエルの攻撃で負傷した子どもアメリカに招き、治療を提供するためのNPOが設立された。イスラエルの攻撃が始まって2カ月もたたない2024年1月のことだ。オハイオ州ケントに設立されたNPOは、HEAL Palestine。いわゆる501c3団体で、税制優遇が認められているため、寄付者は、所得税や法人税から寄付額が控除することが可能だ。HEAL Palestineは、寄付集めを行いながら、活動を進めている。団体名の”HEAL”は、名詞の「癒し」や動詞の「癒す」を意味する。その意味を含めつつも、Health、Education、Aid、Leadershipという団体の理念の4つの柱を示す単語の頭文字を合わせて命名したという。
HEAL Palestineは、これら4つの柱ごとに各種の事業を展開している。ガザ地区から負傷した子どもをアメリカに招き、治療を提供するのは、Health事業の一環で、Global Healing Programという。この他のHealth事業には、Building Hospital Services and Infrastructure、HEAL Palestine - Kuwaiti Field Hospital、Implementing Mental Health Program、Sponsoring Medical Missionsという4つのプログラムがある。例えば、Building Hospital Services and Infrastructureでは、今年3月、ガザ地区北部にMedical Pointというクリニックを開設、医師を含むスタッフが第一次医療や子ども向けの医療を提供している。HEAL Palestine - Kuwaiti Field Hospitalは、隣国のクウェートのKuwait Specialist Hospitalと連携して、ガザ地区で負傷したり、病気にかかった人々をガザ地区南部で治療を提供する医療施設だ。
501c3団体は、連邦政府の税務当局のInternal Revenue Service (IRS)に毎年、Form 990という事業と財務状況を示す書類を提出することが義務付けられている。しかし、HEAL Palestineは、設立から1年余りのためか、団体のウェブサイトや、NPOの事業や財務状況の概要を紹介しているGuideStarというサイトには、団体の概要は紹介されているものの、Form 990は掲載されていない。しかし、ウェブサイトに、2024年の年報が掲載されている。この資料によると、Health事業においては、ガザ地区で49万人を診察、アメリカに招待して治療を提供した子どもは30人に及ぶ。Education事業では、現地で3500人の児童に教育の機会を提供。AID事業でも、ガザ地区の住民86万人に生鮮食料、95万人に暖かい食事を提供したと記載されている。
こうした膨大な活動を行うには、多額の資金やボランティアを含めた人員が必要になることは間違いない。HEAL Palestineの2024年の年報によると、HEALing Communitiesと呼ばれるボランティア・グループを全米各地に設立。その数は120に上り、2024年の募金活動で400万ドルを集めたという。なお、同じく年報によると、歳出についてはHealth事業が51%と最も多く、次いでAID事業の31%、Education事業は4%に止まる。運営費に当たる管理費は8%、ファンドレイジングなどのための支出と見られる開発費は6%だ。事業費の割合が極めて高いことは、寄付集めに有利に働く。運営費の割合が低く抑えられているのは、HEALing Communitiesのようなボランティアの人的資源を大量に活用しているためと推察される。
Global Healing Programを通じて、今年4月に訪米したガザで負傷した子どもは、8人。アメリカでの到着地は、シカゴとデトロイトで、それぞれ4人が降り立った。ただし、これに家族が同伴しており、実際にアメリカに招かれた人は、さらに多くなる。シカゴに到着した子どもは、イスラエルの攻撃により、ガザ地区でいずれも手や足を失った。そのうちのひとりは女の子。デトロイト入りした女の子ひとりを含む、4人の子どもも、手足を失っている。4月6日発信のFOX Newの”Injured Gaza children arrive in Chicago for life-saving treatment”という記事によれば、ガザ地区で手足を失った子どもは、3000人から4000人に上ると推定されている。このため、Global Healing Programで訪米する子どもの多くは、失った手足への治療が目的だ。
しかし、重度の火傷や失明に対する治療のために渡米する子どももいる。2023年12月7日にイスラエルの空爆によって家を焼かれ、ふたりの兄弟を失い、自らは火傷を負ったSara Bsaisoさんは、そのひとりだ。全身の60%が火傷したというSaraさんは当時、助かる見込みは20%といわれていたという。しかし、重度の火傷のため一般の航空機で移動することはできないと判断された。このため、Global Healing Program がアレンジした医療体制が整った航空機で、2024年2月6日、ニュージャージー州にあるTeterboro Airportに到着。ニューヨークのStaten Island University Hospitalの火傷専門の集中治療室(ICU)で3カ月にわたり、数回の手術を受け、一命を取り留めることができた。そして、同年10月に退院、年末には、Staten Island Universityで、自らの体験を語るまで回復した。
Saraさんの自宅は、ガザ地区の北部のガザ市にあった。しかし、ガザ地区からアメリカに直接向かうことはできない。このため、HEAL Palestineの現地スタッフがSaraさんの家族と連絡を取り、エジプト経由で訪米するプランをアレンジ。姉のSehamさんが同行して、Saraさんはガザ地区の南部からエジプトにでて、チャーター機に乗り、アメリカに向かうことになった。HEAL Palestineの事務局長、Steve Sosebeeさんによると、Saraさんのエジプトにおける医療費やSehamさんを含む渡航費などとして18万ドルを集めることができたという。なお、World Health Organization (WHO)のデータによればガザ地区を出て治療を受けている人は5000人を超えると、Sosebeeさんは、2024年9月13日発信の, ABC Newsの記事”A Palestinian girl suffered burns to over 60% of her body: This is her monthslong journey out of a war zone”の中で述べている。
設立から間もないNPOのHEAL Palestineがこうした支援を戦闘地域で行えることは、驚愕に値する。しかし、Sosebeeさんは、これ以前にもパレスチナへの支援活動に関わってきた経験がある。1991年に自らが設立したNPO、Palestine Children's Relief Fund (PCFF) を通じた活動がそれだ。Sosebeeさんは、2023年12月まで30年余りの間PCFFで活動。2024年1月1月からHEAL Palestineで働き始めた。ロサンゼルスに本部を置くPCFFは、ガザ地区で負傷した子どもの医療支援をアメリカで行う活動も実施しており、2000人を超える子どもを支援してきた実績をもつ。PCFFにおけるSosebeeさんの活動の経験が、HEAL Palestineでも生かされているものと思われる。
なお、HEAL Palestineの活動の詳細は、以下から2024年の年報をダウンロードすれば、見ることができる。
https://www.healpalestine.org/heal-palestine-our-first-year-of-healing-2024-annual-report/
トランプ政権による親パレスチナ活動家の逮捕、表現の自由や法の適切な手続きを無視と非難噴出
2025年3月28日
トランプ政権は、コロンビア大学の元大学院生で、2024年4月に同大学で行われたイスラエルのガザ地区侵攻に関連した大学への抗議活動の中心人物のひとりを3月8日に逮捕、それ以降、拘束を続けている。しかし、罪状が明らかにされていないうえ、表現の自由や法の適切な手続きを無視した行為だとの非難が噴出。大学が立地しているニューヨーク市のマンハッタンでは、拘束について審議した裁判所前で抗議集会が開催されたり、トランプタワーのロビーへの座り込みなどの活動が展開された。さらに、拘束された元大学院生の釈放を求める署名集めや募金活動が起こされるなど、イスラエル支持を強く打ち出している政権に対して、反戦平和運動の象徴的存在になりつつある。
この元大学院生は、Mahmoud Khalilさん(30歳)。Khalilさんは、拘束されているルイジアナ州の施設から声明を発表した。なお、この3月18日付の声明(以下、声明)は、Khalilさんの弁護団に電話で伝えられたものだ。電話の内容は、弁護団の一員を構成しているCenter for Constitutional Rights (CCR)という合衆国憲法などに盛り込まれた法律上の権利擁護を行うNPOが文字に起こしたと見られ、”Letter from a Palestinian Political Prisoner in Louisiana”というタイトルを付け、CCRのウェブサイトに掲載されている。その後、声明の全文は、“My name is Mahmoud Khalil and I am a political prisoner”などの見出しで、多くのメディアが転載した。
なお、イギリスのThe Guardian紙は、3月11日発信の”US judge blocks deportation of Palestinian activist detained by Ice”と題する記事の中で、シオニスト団体のBETAR USがトランプ政権にKhalilさんの情報を提供し、逮捕に至ったと伝えている。BETAR USも、この記事を団体のウェブサイトに掲載するなど、自らの「成果」と見なしているようだ。世界的な組織のアメリカとカナダの支部的な位置づけをもつBETAR USは、過激な親イスラエル組織といわれている。ユダヤ系アメリカ人の人権団体で、イスラエルのガザ侵攻については反パレスチナの立場をとっているAnti-Defamation League (ADL)は、BETAR USをヘイト・グループに認定している。トランプ政権と「極右」のつながりの強さを感じさせるといえよう。
声明によると、3月8日、妻のNoor Abdallaさんとともに夕食を終えて、コロンビア大学の宿舎(アパート)に戻ったところ、Department of Homeland Security (DHA)の一部門、
Immigration and Customs Enforcement (ICE)の職員によって逮捕された。その際、逮捕状の提示を求めたものの、拒否され、手錠をはめられ、ICEのバンに押し込まれたという。マンハッタンの移民裁判所がある建物に連行され、翌日、ハドソン川の対岸にあるニュージャージー州Elizabethの別の施設に移送された。毛布をくれるように頼んだものの、拒否されたため、床に直接横たわり、眠らざるをえなかった。
AP通信が3月18日に発信した記事” Columbia University student and the US government spar over his detention in Louisiana”によると、Khalilさんは、3月9日にニュージャージー州Elizabethの施設を出され、ニューヨーク市のケネディ国際空港からルイジアナ州に移送された。その後、今日までCentral Louisiana ICE Processing Center (CLIPC) に拘束されている。では、なぜ、この施設なのか。トランプ政権は、その理由を明らかにしていない。しかし、ニュージャージー州から1300マイルも離れた施設であれば、妻のAbdallaさんや長年支援を受けてきた弁護士が面会の訪れることも容易ではない。このように述べると、Khalilさんを孤立させるためのように感じるかもしれない。しかし、理由は、他にあるように思われる。
アメリカの連邦裁判所は、地方裁判所、控訴裁判所、最高裁判所の3段階に分けられている。地裁の数は94、控訴裁は12だ。裁判は、被告が拘束されている施設などの管轄地域の裁判所が担当することになる。CLIPCに拘束されている場合、第一審はWestern District of Louisiana、控訴審は5th U.S. Circuit Court of Appealsだ。Khalilさんが逮捕されたニューヨークと異なり、いずれも保守的な判事が大半で、移民問題についても、十分な審理を行わず、強制送還にすることが多い。さらに、ICE Processing Centerと命名されているものの、運営は、GEO Groupという民間企業で、American Civil Liberties Union (ACLU)などの人権団体からは、拘束されている人々への深刻な人権侵害が多発していると批判されている。
移民管理を扱うICEの施設に拘束されていることからわかるように、Khalilさんの国籍はアメリカではない。シリアのダマスカス生まれのパレスチナ難民で、国籍はアルジェリアだ。いわゆるシリア内戦の勃発後の2012年、家族とともにレバノンに脱出、Lebanese American Universityで学位を取得した。アメリカには2022年12月に学生ビザで入国、コロンビア大学のSchool of International and Public Affairsを修了。2024年11月には、永住権を取得していた。なお、妻のAbdallaさんは、アメリカ国籍で、夫が拘束された時点に妊娠8カ月で、今年4月に出産予定という。上記の声明の結びの言葉として、「私は最初の我が子の誕生に立ち会う自由があることを願っている」と述べているのは、Khalilさん夫妻のこの状況を反映しているものだ。
Khalilさんが永住権を取得したことは、アメリカに期限を定めず、居住することが認められたことを意味する。しかし、永住権を持っていても、強制送還の対象にならないとは限らない。民主党のクリントン政権下の1996年、移民法が改訂され、永住権を持つ人々の送還について、法の適切な手続きが十分保障されない状況が生まれたのである。とはいえ、永住権のはく奪は、国家の安全保障にかかわる問題を引き起こした場合などに限定されるとするのが、法律家の一般的な解釈だ。
前述のように、Khalilさんは、逮捕状なしに逮捕、拘束されている。トランプ政権は当初、根拠を示さず、テロ組織を支援したなどと主張していた。しかし、拘束への批判が高まる中で、永住権の申請に当たり、Khalilさんが国連の一機関、United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees (UNRWA)との関わりを隠蔽していた、と主張し始めた。Khalilさんは2023年、UNRWAの無給インターンとして活動した経験がある。保守的な政治家やメディアは、この事実をもって、強制送還は適切との主張を開始。とはいえ、UNRWAに対しては、イスラエルやアメリカが批判しているものの、アメリカ政府もテロ組織として認定しているわけではない。
では、出身校であるコロンビア大学において、強制送還の対象になるような活動に関わっていたのだろうか。Khalilさんは、Columbia University Apartheid Divest (CUAD)のメンバーであったとが知られている。CUADは、学生団体の連合会で、イスラエルによるガザを含めたパレスチナへの攻撃を批判するとともに、コロンビア大学にイスラエルからの投資回収を求めるための活動を行っている。しかし、これらの活動も、テロ組織の支援とはいえない。昨年4月、コロンビア大学では、イスラエルのガザ攻撃に対する激しい抗議活動が投資回収運動と連携しながら展開された。この活動にKhalilさんは、リーダーのひとりと見なされている。しかし、Khalilさんは、その役割を大学と学生の協議の仲介や団体の広報官的なものだったと述べている。これらの行為は、言論の自由の範疇に入る。
トランプ大統領は3月4日、Truth Socialに投稿。「違法な抗議活動」を認めた大学に対して「連邦政府の財政支援をすべて停止する」としたうえで、「アジテーターを収監または出身国に永久に追い返す」などと述べていた。そして、Khalilさん逮捕から3日後の3月11日、「初めての逮捕者が出た」としたうえで、今後も外国人で親ハマスの過激な学生を「探し出し、逮捕、我が国から追放する」とTruth Social に投稿した。大統領の投稿が現実化したことで、”After Columbia arrests, international college students fall silent”(3月15日配信のAP)や”Undocumented Students Are Living in Fear on College Campuses. The Effects of Campus Raids”(3月19日配信のEd Trust)などの記事に見られるように、Khalilさんの逮捕とその前後のトランプの投稿は、外国人学生に恐怖心を抱かせたことは間違いない。
その一方で、Khalilさんの逮捕、拘束を不当と考えた人々や団体は、直ちに行動を開始した。週明けの3月10日、District Court of Southern District of New YorkでKhalilさんの逮捕とルイジアナ州の施設への移送や強制送還の手続きの適法性について審議が行われたのである。City University of New YorkのSchool of Law Creating Law Enforcement Accountability & Responsibility (CLEAR)プロジェクトやCenter for Constitutional Rights (CCR)の弁護士で構成されるKhalilさんの弁護団の尽力の結果だ。審議の結果、District CourtのJesse Furman判事は、Khalilさんの強制送還手続きの差し止めを命じた。また、弁護団に対して、Khalilさんと電話で2回話すことを認める判断を示した。裁判所の外には、Palestinian Youth Movementなどの支援団体の関係者や女優で活動家のSusan Sarandonさんら数百人が詰めかけ、審議後に弁護団から結果報告を受けた。
法廷闘争だけではない。リベラルなユダヤ系団体、Jewish Voice for Peace (JVP)は3月10日、「我々は手をこまねいていない」と題する声明を発表。Khalil逮捕へのトランプ政権の手法をファシズムと非難、Khalilさんの即時釈放を求め、闘っていく姿勢を表明した。この言葉は、すぐに実行に移された。3月13日にマンハッタンの中心街にあるTrump Towerに突入、ロビーを占拠し、抗議の声をあげたのである。JVPの広報官、Sonya Meyerson-Knoxさんによると、ユダヤ系と非ユダヤ系の活動家ら300人ほどが抗議行動に参加。3月14日発信の”Jewish protesters flood Trump Tower’s lobby to demand Mahmoud Khalil’s release”と題するAP通信の記事によると、98人が逮捕されたという。
インターネットを通じたKhalilさんへの支援活動についても見ておこう。進歩的な取り組みを組織しようとする個人や団体のためのオープンなプラットフォーム、Action NetworkでDeportation Defenseという団体が呼びかけて、”Demand the Immediate Release of Palestinian Student Activist Mahmoud Khalil from DHS detention”というスローガンの下、ICEの施設からの即時釈放を求める署名活動が進められている。日本時間の3月29日午前4時時点で、361万7037人が賛同署名を行った。
また、インターネットによるものではないが、全米最大のアラブ系人権団体Council on American-Islamic Relationsのカリフォルニア州支部や同州のアジア系を含めた移民の権利擁護団体、労働組合など120余りの団体が連名で、カリフォルニア州議会の上下両院の議員に対してKhalilさんの釈放に向けた取り組みなどを行うように求めた書簡を3月18日付で送付した。なお、この書簡は、Khalilさんの釈放を求めることが中心だが、3月5日にガザ攻撃に反対した学生への処分に抗議する活動に参加、逮捕されたYunseo Chungさん(21歳)への対応も求めている。Yunseo Chungさんは、韓国出身のコロンビア大学の3年生で、永住権をもっている。ICEは、彼女の永住権をはく奪するとしており、Khalilさん弁護団の弁護士らが、支援を行っている。
資金調達の動きも注目に値する。パレスチナ支援活動に特化したファンドレジンサイト、Chuffed Crowdfunding Academyに” Justice for Mahmoud Khalil—Urgent Support Needed”という見出しで、Khalilさんの裁判費用や家族の生活費などのための寄付集めがスタート。当初予定していた25万ドルは開始間もなく突破、50万ドルに引き上げられたものの、日本時間の3月29日午前4時時点で総額53万9114ドルが1万25人の支援者から寄せられている。現在の目標額は、75万ドルだ。
最後に、Khalilさんが拘束先の施設から発した声明にある次の言葉を紹介しておこう。そこには、自らが闘う意義が端的に示されている。
「私は常に、自分の義務は抑圧者から自分自身を解放することだけでなく、抑圧者を彼らの憎しみと恐怖から解放することであると信じてきた」
なお、上記のChuffed Crowdfunding Academyのサイトで行われているKhalilさん支援の募金活動の詳細や方法、集まった金額については、以下から見ることができる。
https://chuffed.org/project/justice-for-mahmoud-khalil
トランプ政権が環境正義団体への補助金支出撤回、「パレスチナ支援」を理由に
2025年2月27日
トランプ政権は2月13日、すでに確定していた環境正義団体への補助金の支出を撤回する旨を表明した。この団体が「パレスチナ支援」に関わっていたという主張に基づくものだが、団体側は補助金と無関係の内容を理由にした撤回だとして強く反発している。「パレスチナ支援」については、昨年から連邦議会で支援団体への税制優遇措置をはく奪する法案が審議されてきた。この法案は成立に至っていないが、今回の政権の補助金支出撤廃のように、「パレスチナ支援」という反戦平和の訴えが、NPOの財政に大きな影響を与え、活動を委縮させる可能性もあるとして、懸念の声がでている。
補助金の支出を撤回されたのは、Climate Justice Alliance (CJA)という環境正義団体の連合体。環境正義(Environmental Justice)とは、環境負荷がマイノリティや低所得者とそのコミュニティに集中している、不平等な状況を問題視する考え方だ。1980年代から関心を集め、1991年に首都ワシントンで行われたFirst National People of Color Environmental Leadership SummitでPrinciples of Environmental Justiceが起草、採択された。また、1996には、ニューメキシコ州で開催されたWorking Group Meeting on Globalization and TradeでJemez Principles of Democratic Organizingが承認されるなどして、運動の概念や理念が整理されてきた。CJAが結成されたのは2013年。その数年前から環境正義などに関する議論が続けられ、Climate Justiceを冠する団体とした活動していくことは、2012年にミシガン州デトロイトで開かれた会議で決定されていた。
CJA結成の目的は、気候変動問題のマイノリティや低所得者コミュニティへの影響を中心にした、環境正義運動の最前線で活動する地域や組織の力に結束させることだ。これにより、気候運動の新たな重心を作り出すことを狙っていた。個々の団体が活動している地域を超えた組織化戦略と能力の動員によって、生産、消費、政治的抑圧の搾取システムから離れ、回復力があり、再生可能で公平な経済への移行を促進。この移行のプロセスを真に公正な移行にするために、人種、性別、階級(階層)を解決策の中心に据えていく必要性を主張している。このような理念や経緯が示すように、CJAは、パレスチナ問題に特化したNPOではない。
トランプ政権が撤回した補助金の提供に根拠を与えている法律は、2022年にバイデン政権下で成立したInflation Reduction Act (IRA)である。インフレ抑制と環境正義、そしてパレスチナ問題がどのように関連するのか、疑問を持つ人も多いだろう。アメリカの法律では、ひとつの法律に多様な目的が組み込まれることが少なくない。IRAの目的は、連邦政府の財政赤字の削減や処方薬の価格を引き下げ、クリーンエネルギーを促進しながら国内エネルギー生産に投資することなどだ。気候正義関連の事業への支援は、最後のクリーンエネルギーの促進に関連して盛り込まれた。
CJAへの補助金は、IRAの気候正義関連の事業への支援として提供される予定だった。この補助金を管轄するEnvironmental Protection Agency (EPA)は2023年12月、11団体に対して総額6億ドルの補助金を提供することを表明した。そのひとつに、UNITE-EJ (United Network for Impact, Transformation, and Equity in Environmental Justice Communities)への補助金5000万ドルが含まれていた。なお、UNITE-EJは、CJAが主導するCJA傘下団体のコンソーシアムで、補助金を傘下団体などに配分する機能を担うことになっていた。このため、EPAの補助金は事実上CJAに対するもので、後述するこの補助金を批判した政治家やEPA、メディアもCPAを受給団体としている。
上記のように、CJAは、パレスチナ問題に取り組むためのNPOではない。しかし、パレスチナのガザ地区のイスラム武装組織ハマスによるイスラエルへの攻撃から2週間足らず後の2023年10月20日、”Climate Justice Alliance Calls on Biden, Congress to Demand a Ceasefire by Israel and Hamas; not Genocide with US Taxpayer Dollars”と題するプレスリリーによる声明を発表した。この声明に反発した議員がいた。ウエストバージニア州選出の連邦上院議員Shelley Moore Capito(共和党)である。地元のテレビ局WBOYは2025年5月23日、Capito議員のスタッフのひとりが、EPAによるが2023年12月にIRAを通じて、CJAに5000万ドルの補助金を提供したことを発見したと伝えた。そのうえで、同議員がCJAに対して、「親ハマス、反イスラエル、反ユダヤ主義の活動に従事している」と述べていると報じた。
前述のように、IRAがCJAに5000万ドルの補助金を提供する決定を行ったことは事実である。しかし、WBOYが報道した事件で、この補助金は支出されていない。この点、報道機関側の「誤報」といえよう。だが、問題は、そこに止まらない。CJAは、「親ハマス、反イスラエル、反ユダヤ主義の活動に従事」してきたわけではない。2023年10月20日の声明において、CJAは常に帝国主義、植民地化、抑圧に反対してきた。これには、あらゆる形態の暴力、戦争、ジェノサイドに反対することが含まれる」と指摘。そのうえで、バイデン大統領と連邦議会に対して、世論が求めているガザ地区における即時停戦を要請している。ハマスへの支持や反イスラエル、反ユダヤ主義の主張などは見当たらない。とはいえ、CJAへの補助金差し止めの背景には、こうした「親イスラエル」議員やその発言を引用したメディアの姿勢があったことは間違いない。しかし、当時のバイデン政権の「親イスラエル」的な政策も影響しているという指摘もある。
EPAは、2023年12月にCJAへの補助金を決定したものの、速やかな支出を行ってこなかった。CJAの支出を求める声明などが出されていたにもかかわらず、である。この支出の遅れについて、最初に報じたのは政治専門紙、Politicoの一部門、E&E Newsによる2023年11月21日発信の” EPA may withhold grant due to climate group’s pro-Palestinian views”という記事だ。その後、他のメディアも追随。リベラルなNPOのメディアThe Interceptは11月29日発信の” Biden Makes His Own Attack on Nonprofit Over Palestine”というタイトルの記事の中で、CJAが「11の助成対象者の中で、パレスチナに関連する問題に公に関わった唯一の団体であり、資金を受け取っていない唯一の団体」だとして。バイデン政権の中東政策が影響しているとの見方を伝えた。
こうした経緯を経て、CJAへの補助金問題は、トランプ政権へと引き継がれ、支出決定から1年以上たった今年2月、支出の取り消しに至った。アメリカの政府によるNPOへの補助金や事業委託は、個々のNPOの理念などとは切り離し、事業の実施能力の有無に基づいて判断しているといわれてきた。しかし、The Intercept指摘しているように、現在のアメリカには、「パレスチナ人に対するいかなる形の支援に対しても、ますます敵対的になっている政治情勢」が存在していることも事実だ。CJAのKD Chavez事務局長は、The Interceptの記事の中で、次のように述べている
「もし我々に補助金が提供されなければ、進歩的な組織という曖昧な言葉により連邦政府の資金提供が影響を受け、市民社会への脅威の先例となる可能性がある」
Chavez事務局長の「もし」という言葉は、トランプ政権により、現実化された。では、「市民社会への脅威の先例」になるのか。CJAだけの問題ではない。Chavez事務局長の言葉は、アメリカのNPO、そして社会全体への問いかけでることを肝に銘じる必要がある。
なお、上記のCJAのプレスリリースは、以下から見ることができる。
https://climatejusticealliance.org/cja-calls-on-biden-to-support-ceasefire/
ガザ停戦とアメリカのNPO、歓迎と懸念、闘いの継続の必要性指摘
2025年1月23日
2023年10月から15カ月にわたって続いてきたパレスチナ・ガザ地区におけるイスラエルとイスラム組織ハマスの武力衝突は1月15日、停戦と段階的な人質解放の合意が成立、19日から概ね停戦が順守されている。即時停戦を求めてきたアメリカのアラブ系やムスリム、反戦団体やガザ地区で人道支援に当たってきたNPOなどは、この動きをどう受け止めているのか。メディアに引用された関係者のコメントやNPOの声明をみると、停戦を歓迎しつつも、イスラエルによる合意破棄への懸念や、継続的な停戦とガザ地区の再建に向けた闘いの継続の必要性を求める声があることが明らかになった。
NPO関係者などによる具体的なコメントや声明を紹介する前に、合意内容を概観しておく必要がある。懸念や継続的な闘いの必要性のような停戦内容への評価と、今後の対応に強く関連しているからだ。なお、15日に明らかにされたのは、合意の概要にすぎない。したがって、以下で紹介するコメントや声明は、発表された時期にもよるが、合意における不明な点などを推察しながら述べられた部分もあることに留意する必要がある。
イスラエルとハマスの武力衝突の直接的な契機は、2023年10月7日のハマスを中心にしたパレスチナの武装組織によるイスラエルへの武力攻撃だ。この攻撃で、イスラエル人を中心に1200人ほどが殺害されたうえ、250人余りが人質としてガザ地区に連行された。その直後、イスラエルはガザ地区への空爆、そして地上部隊を派遣。戦闘開始から1カ月半後の11月23日、戦闘が一時中断され、イスラエルから連行された人質の一部が解放される一方、イスラエルに捕らえられていたパレスチナ人の釈放が実現した。
しかし、1週間余りで戦闘は再開され、今年1月19日まで13カ月以上にわたり、イスラエルによる激しい攻撃が継続。地元の保健当局のGaza Health Ministry,によると、戦闘開始後のガザ地区における死者は、子ども1万8000人を含め、4万6000人を超えた。この数字には、瓦礫に埋まったままの人などは含まれていない。病気や飢餓などの間接死亡を含めると、2025年1月9日付の医療雑誌のThe Lancetは、” Traumatic injury mortality in the Gaza Strip from Oct 7, 2023, to June 30, 2024: a capture–recapture analysis”の中で、18万6000人に及ぶ可能性を指摘している。
戦闘の激化による民間人の死者が増える中で、周辺国のエジプトとカタールは、停戦に向けた協議を仲介、停戦案を策定。2024年5月には、アメリカのバイデン大統領が発表するに至った。ハマスは受入れを表明、国連の安全保障理事会も賛成したものの、「ハマスの壊滅」を掲げるイスラエルのネタニヤフ首相は、拒否、戦闘が継続された。その後、イスラエルは、ガザ北部に帰還するすべてのパレスチナ人を軍隊がスクリーニングする権利やエジプトとガザ地区の境界にあたるフィラデルフィ回廊からの撤退を拒否することなど、新たな要求も提示、停戦の実現はより困難になるかに見えた。
ここで、その後の動きを記述する余裕はないが、1月15日、カタールのムハンマド首相兼外相は首都ドーハで、バイデン大統領は首都ワシントンで、それぞれ会見を行い、以下の3段階からなる停戦合意内容を発表した。第1段階は、1月19日から始まり6週間にわたって停戦するもので、ハマスは33人の人質を解放、イスラエルは刑務所に収容しているパレスチナ人を最大1900人釈放することになる。また、イスラエル軍はガザ地区の人口が密集する地域から撤退し、住民がそれぞれの地域に帰還できるようにする。また、ガザ地区の住民への人道支援物資の搬入と配布が拡大されるとともに、医療施設の改修なども行うわれるとしている。第2段階と第3段階についは、停戦を続けながら協議を行い、恒久的な停戦を目指すというものだ。
この合意に沿って、ハマスは1月19日、イスラエルの人質3人を解放。一方、1月20日のNPOメディアDemocracy Nowの番組に出演したパレスチナ収監者への支援を行っている弁護士、Tala Nasirさんよると、予定より遅れ同日午前3時、92人のパレスチナ人が釈放された。このうち69人は女性で、子どももふたり、起訴・裁判なしで拘禁されるAdministrative Detaineeが20人含まれていた。なお、2023年11月に人質と収監者の交換により釈放され、その後、再度逮捕され、収監された人が6人いたという。
DemocracyNowの番組司会者Amy Goodmanさんは、停戦合意の第一段階に関する見通しについてNasir弁護士に尋ねた。これに対して、同弁護士は、釈放された人々が収監されていたのはイスラエル軍と憲兵によって管理されているヨルダン川西岸地区のOfer Prisonと呼ばれる施設だと指摘。収監者の家族は長時間、釈放を待たされた間に、イスラエル軍から音響爆弾やゴム弾、実弾による攻撃を受けたという。こうした実情を踏まえ、「今後、数週間、(停戦合意が)どのようになるか不安だ」と述べた。
停戦合意の見通しの厳しさを指摘する声は、アメリカ国内で停戦を求めて活動してきたNPOからも聞かれる。例えば、女性の平和団体、CodePinkは1月15日に発表した”CODEPINK Celebrates the Announced Ceasefire in Gaza”と題する声明の中で、「今のところ、停戦合意の第一段階だけがイスラエルとハマスの双方によって受け入れられているにすぎない」と指摘。そのうえで、「すべての段階ができるだけ早く受け入れられることを願う」と述べている。また、今回の合意内容は、昨年5月の停戦案と基本的に同じだとしたうえで、より早期に成立していれば、多くの血が流されなかったはずだとして、停戦案を拒否してきたイスラエルを批判した。
同様の指摘は、パレスチナを支援するユダヤ系の組織、Jewish Voice for Peaceからも聞こえてくる。1月15日にだされた”First ceasefire, then Palestinian liberation”と題する.声明は、停戦内容が「脆弱」主張。今後数週間が「ジェノサイドの全面的な停止に変えるためのパレスチナ連帯運動にとって極めて重要な時間になる」と述べ、停戦要求の継続の必要性を指摘している。クエーカーの平和団体として知られるAmerican Friends Service Committeeも、1月15日の” Cease-fire is the beginning, not the end”という声明の中で、「アメリカや他の関係者が一時的な休止ではなく、恒久的な停戦にしていくことを誓約する必要がある」としたうえで、ガザ地区への人道援助やイスラエル軍の即時撤退など、5項目の要求を提示した。
停戦合意が「脆弱」という主張は、新パレスチナ団体の思い込みだけとはいえない。例えば、イギリスのBBCは1月19日発信の” Israel 'reserves right to return to war' - Netanyahu”と題する記事の中で、ネタニヤフ首相は、停戦合意が発行する前述の18日、合意を「一時的」と主張。そのうえで、20日に大統領に就任するトランプがイスラエルが「戦争を再開する権利」を持っていることを認めているとともに、イスラエルが必要とする武器と弾薬の確保を保障していると述べたのである。
人道支援に関わってきたNPOは、停戦合意による活動の再開を期待する声が上がっている。201年のハイチ地震の被災者支援を目的に設立された、首都ワシントンに本部を置くNGO、World Central Kitchen (WCK) は1月16日、「希望につながる1日になった」という書き出しの一文をウェブサイトに掲載、停戦を歓迎する意思を表明。その1週間後の1月23日には、ガザ地区で、中東で食されることが多いピタと呼ばれる丸い平らのパンの製造に着手したと報告した。このピタは、WCKが初めて使用するオートメ化した製造機で生産するのもので、1時間に3000枚のピタを作ることができるという。なお、2024年4月1日、ガザ地区で食料を運搬していたWCKのトラックがイスラエル軍の空爆を受け、7人が死亡する事件があり、翌日から支援活動の中止を余儀なくされた。
この他、アラブ系やムスリムの団体などからは、イスラエルへの軍事支援を続けてきたバイデン・ハリス政権を批判したり、停戦合意に寄与したとされるトランプ大統領に感謝する声もあがっている。これらについては、別の機会に報告したい。なお、上述のDemocracyNowの番組は、”Gaza Ceasefire: Palestinian Lawyer Says Women, Children Released by Israel Faced Torture, Starvation”タイトルだが、その録画とトランスクリプトは、以下から見ることができる。
https://www.democracynow.org/2025/1/20/palestinian_prisoners
笹森恵子さんの死去と在米被爆者の反核・平和活動
2025年1月6日
日本原水爆被害者団体協議会(以下、被団協)がノーベル平和賞を受賞してから5日後の2024年12月15日、ロサンゼルス近郊のMarina del Reyで、ひとりの在米被爆者が息を引き取った。原爆投下によって全身に負ったやけどの跡、「ケロイド」の治療のため渡米。手術後、一時帰国したものの、再度訪米し、その後、アメリカでナースエイドとして働きながら、反核平和を訴える活動を続けてきた、笹森恵子(ささもり しげこ)さんである。唯一の原爆投下国、アメリカにおける原爆の被害者としての立場からの核兵器廃絶と平和を求める活動について、笹森さんを中心に紹介していきたい。
笹森さんが被爆したのは、13歳の時。爆心地から1.5キロの広島市中区平塚町で、全身の4分の1にやけどを負った。被爆時とその直後の彼女の状態などについては、2022年4月18日付の中国新聞の朝刊に掲載された「『記憶を受け継ぐ』 笹森恵子さん―大やけどの顔 渡米治療」とタイトルがつけられた記事(https://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=118593)が詳しく記述している。また、この記事は、ごく簡単にではあるが、渡米治療の経緯や再渡米後の活動についても紹介。なお、中国新聞によると、笹森さんは、渡米前にも2回手術を受けていた。そして、New York Times (June 22, 1980)によると、渡米後、39回もの手術を受けたという。にもかかわらず、私が1980年代にロサンゼルス住んでいた時、お会いした際には手や顔にケロイドの跡がはっきり残っていた。
手術のために渡米したのは、笹森さんだけではない。1955年、被爆した未婚の女性25人が海を渡り、ニューヨークのMount Sinai Hospitalで、18か月間に、あわせて138回もの手術を受けたのである。日本では「ヒロシマ・ガールズ」と呼ばれていたと伝えられているが、英語では“Hiroshima Maidens”(ヒロシマ乙女)だ。なお、彼女たちの訪米手術に尽力した人が日米両国にいた。日本では広島の流川教会の谷本清牧師、アメリカ側ではNorman Cousinsが、その代表といえよう。
Norman Cousinsは、週刊誌、Saturday Reviewの編集長を1942年から72年まで務めていたことで知られる人物だ。この雑誌は、1920年にNew York Evening Post(現在のNew York Post)の別冊として刊行され、1924年に独立した刊行物となり、最盛期には66万部を発行した記録が残っている。笹森さんは、Norman Cousinsの自宅で過ごし、後に養子となる。生まれた子どもは、Norman Cousins Sasamoriと命名された。
笹森さんとは何度かお会いしたが、きっかけは1982年6月7日から7月10日にかけてニューヨークで開催された第2回軍縮特別総会、いわゆるSSDIIを契機に、ロサンゼルスをはじめとしたアメリカ各地のアジア系住民により反核団体が設立されたことと関係している。広島と長崎への原爆投下による犠牲者への祈念と核兵器の廃絶を目指すうえで、核兵器の悲惨さを伝える「生き証人」としての被爆者の声を紹介する動きが広がったのだ。この活動に関わったことで、「生き証人」のひとり、笹森さんと知り合うことができた。
また、1984年のロサンゼルス・オリンピックに合わせて、反核平和団体は、世界に平和を訴えるイベントとして、Survival Festを開催。このイベントには、広島から平和の灯が被爆者によって届けられ、イベントの会場において、オリンピックの開会式に「聖火」を点火させるような形で、「点火式」が行われた。笹森さんは、スピーチを終えた後で、歓声が上がった「点火式」について、平和の灯の経緯や意味合いを述べたうえで、「亡くなった被爆者への追悼の意識が見られない」という意味合いの言葉を、怒りを込めた様子で発したことを覚えている。
笹森さんの「生き証人」としての活動は、反核や平和を訴える集会だけに限られたわけではない。1400ワードを超える長大な追悼文ともいえる記事を12月28日に掲載したThe New York Timesも紹介しているように、「学生、国連のインターンやガイド、連邦上院議員などの聴衆を前に、核戦争に反対する言葉を優しく、しかし確固とした口調で語った」のである。ここでいう連邦上院議員に対する語りとは、核戦争が人々の健康に与える影響を調査するための小委員会における証言のことで、1980年に実施された。
ひとりの被爆者として核兵器の恐ろしさ、廃止の必要性を訴えた笹森さんと異なり、組織を通じて、反核と平和の重要性を指摘してきた在米被爆者も少なくない。個人的に何度もお目にかかり、話を伺う機会があった人のうち、最も印象に残っているのは、据石和江さん(英語名:Mary Kazuye Suyeishi)だ。笹森さんと同様に、1980年代初頭に設立されたアジア系の反核平和団体の集会で被爆体験を語る活動を取材する中で、知り合った人である。据石さんは当時、米国被爆者協会(Committee of Atomic Bomb Survivors:CABS)の副会長だった。
CABSは、1971年にロサンゼルスの被爆者を中心に設立された在米被爆者協会と74年に発足したサンフランシスコ周辺地域の被爆者の組織である北加被爆者協会が、76年に合併してできた組織である。なお、北加被爆者協会の「北加」は、北カリフォルニアのことだ。初代の会長には、北加被爆者協会の代表だった倉本寛司さんが就任した。在米被爆者の多くは、ハワイ、カリフォルニア、ワシントンの3州を中心に約1000人が会員として参加。複数の州にまたがっていたこともあり、CABSは7つの支部で構成されていた。
反核平和を訴える被爆者がアメリカに1000人もいたのか、と思われるかもしれない。しかし、CABSの主要な関心は、被爆者にとってより現実的な健康に関する問題だった。すなわち、被爆による健康被害への不安から、日本で被爆者への医療を提供している医師による検診や相談の実現を望んだのである。これは、1977年に、広島からの健康診断のための医療スタッフの北米派遣として実現した。ただし、アメリカの医師法でアメリカの医療資格をもたない日本人医師の医療行為は認められていないため,広島県医師会とロサンゼルス郡医師会が姉妹協定を結び,アメリカ人医師の監督指導の下で健康診断のみ実施する形式を採用した。
この検診団の派遣は、その後も2年ごとに行われ、現在も続いている。直近では、2024年10月に広島県医師会の松村誠会長を団長にロサンゼルスを訪問。また、カナダのバンクーバーとブラジルのサンパウロも訪れ、被爆者の健康問題に対応した。さらに、ロサンゼルスでは、ロサンゼルスで現地の医師を対象に被爆者医療の研修会が開催された。このように述べてくると、在米被爆者の活動が順調に拡大してきたようにみえる。しかし、1992年にロサンゼルス・ハワイ支部がCABSに脱退届提出、据石さんを代表として、米国広島・長崎原爆被爆者協会(ASA)が設立されるなど、被爆者団体の団結が崩れてきたことも事実である。
在米の被爆者の活動の中心になってきた、倉本寛司さんは2004年、据石和さんも17年に亡くなり、「生き証人」は徐々に姿を消しつつある。そして、組織との関わりをあまり持たない笹森さんも亡くなった。笹森さんとの関係が深かったニューヨークのYouth Art New YorkのHibakusha Storiesの常連的な存在のSetsuko Thurlowは、今も声をあげている。とはいえ、原爆投下から80年目に当たるいま、「生き証人」にいつまでも期待するわけにはいかない。核兵器の悲劇と廃絶の必要性をどう語り継いでいくのか。据石さん、そして笹森さんの命の灯が消えた今、Youth Art New Yorkなどの活動に期待しつつも、このことを考えざるをえない。
なお、笹森さんを含めた上記のYouth Art New Yorkによる反核・平和に向けた活動は、以下から見ることができる。
https://youthartsnewyork.org/hibakusha-stories/
イスラエルへの軍事援助停止法案を上院が大差で否決、NPOや労働組合の声届かず
2024年12月3日
連邦上院本会議は11月20日、Bernie Sanders(無所属・バーモント州選出)らが提出していた、イスラエルへの多額の軍事援助を停止させる法案を大差で否決した。反戦平和や国際人道援助に関わるNPOや労働組合などが強く求めていたもので、来年1月に発足するトランプ新政権がよりイスラエル寄りになると見られる中で、議会による軍事援助停止への「最後の機会のひとつ」ともみられていた。法案の成立に向けて活動していた団体は落胆の色を見せつつも、上院本会議で軍事援助停止法案が採決に持ち込まれたのは初めてで、軍事援助反対への声の強さを示すことができたとしている。
なぜ、Sandersたちは、パレスチナのガザ地区をはじめとした中東各地で軍事行動を進めているイスラエルに対する軍事援助を停止させる法案を上院に提出したのか。その背景には、いくつかの理由がある。ひとつは、アメリカの人々の税金による軍事援助がイスラエルによる攻撃に用いられ、ガザ地区で深刻な人道危機を生み出しているからだ。ここでいう人道危機には、戦闘で4万人以上が死亡、その多くが女性と子どもであること、さらに人道援助に対するイスラエルの妨害で食料や医療が不足し、飢餓や病気が広がっていることなどが含まれる。また、今回、停止が求められた軍事援助が200憶ドルに上ることに示されるように、イスラエルへの援助額が膨大な額に上り、他国を圧倒していることも大きい。
1921年に設立され、外交問題の専門誌”Foreign Affairs”の発行でも知られる超党派の会員組織、Council on Foreign Relations (CFA)が2024年11月13日に発信した” U.S. Aid to Israel in Four Charts”というタイトルの記事は、その実態をデータとして如実に示している。1946会計年度から2024会計年度までの対イスラエル援助の総額は、2022年のドル価値に換算して、3100億ドル(約46兆5000億円)にのぼる。このうち軍事援助は2280億ドル(同34兆2000億円)を占めている。これは、20年間にわたり軍事介入を続けたアフガニスタンへの援助1610億ドル(うち軍事援助1050億ドル)のほぼ2倍だ。イラクに対する援助990憶ドル(同430憶ドル)に比べると、3倍以上に達している。なお、長年にわたった、ベトナム戦争における南ベトナム政府への軍事援助は950億ドルだった。
Sanders上院議員らが9月25日に提出した法案は、Joint Resolutions of Disapproval (JRDs)と呼ばれ、Senate Joint Resolution 111 (S.J. Res. 111) とSenate Joint Resolution 113 (S.J. Res. 113) 、Senate Joint Resolution 115 (S.J. Res. 115) の3つから成る。Resolutionと聞くと、拘束性のない決議案をイメージするかもしれない。しかし、これらは、拘束性のある法案だ。ただし、通常の法案と異なり、議会の上下両院で同じ内容のものが審議される。可決されると、大統領に送付、署名または拒否権の発動を受けることになる。拒否権が発動をした場合は、議会に法案が差し戻され、3分の2以上の議員が賛成しなければ、法案は不成立に終わる。
11月20日の上院本会議の採決の結果、S.J. Res. 111は賛成18 と反対79、S.J. 113は賛成19 に対して反対が78、S.J. Res. 115は賛成17と反対80だった。それぞれの法案の詳細を記載する余裕はないが、軍事援助内容などが異なるものの、いずれも援助の差し止めを求めたものだ。このように、いずれの法案も賛成が上院議員100人のうち20票に届かず、大差で否決された。
この結果だけ見ると、軍事援助反対派の完敗だ。しかし、イスラエル支援への姿勢を変えようとしないバイデン政権にとって、警戒感が広がったことも事実だ。例えば、11月20日付のHuffPostは、” Exclusive: White House Says Democrats Who Oppose Weapons To Israel Are Aiding Hamas”と題する記事の中で、バイデン大統領やChuck Schumer民主党上院院内総務が主に民主党議員に対して、法案への反対を強く求める活動を行っていたと伝えている。
バイデン政権や民主党指導部に対する対イスラエル軍事援助の停止圧力は、議会の中からでただけではない。反戦平和や人道援助、人権擁護などを掲げたNPO、さらには宗教団体や労働組合なども軍事援助停止の声をあげたのである。10月22日にパレスチナをはじめとした中東系の人々の会員団体Arab American Instituteや国際的な人権団体として知られるAmnesty International USA、Human Rights Watchなど110余りのNPOが署名した書簡が連邦上院議員に送付されたことは、その一例だ。
この書簡は、ガザ地区における死者数や人道状況の悪化を示したうえで、イスラエルへの軍事援助がForeign Assistance Actや Leahy Lawといわれる国内法や国際法に違反していると指摘。各上院議員に対して、援助停止に向けた行動をとることを求めている。書簡には、CODEPINKなどの反戦平和団体に加え、民主党左派系のIndivisible、さらにはキリスト教団体の連合組織のNational Council of Churchesなど、幅広い団体が名を連ねた。
宗教団体を含めたNPOに加えて、労働組合の動きも広がっていった。ガザ地区の武装組織、ハマスによる「イスラエル襲撃」から3か月後の今年2月8日、全米最大の労働組合の連合組織、American Federation of Labor and Congress of Industrial Organizations (AFL-CIO)は、ハマスの攻撃を批判したうえで、話し合いによる停戦の実現を求める声明を発表。その翌週には、National Labor Network for Ceasefire (NLNC)が結成された。即時停戦を求める7つの単産と200余りの地方組織や労働団体が参加した全米規模のネットワークだ。単産として加わったのは、American Postal Workers Union (APWU)、Association of Flight Attendants (AFA-CWA)、International Union of Painters and Allied Trades (IUPAT)、National Education Association (NEA)、National Nurses United (NNU)、United Auto Workers (UAW)、 United Electrical Workers (UE)で、これらの組合の組織人員は900万人にのぼる。
NLNCは、Sanders上院議員らが対イスラエル軍事支援停止法案を提出する2カ月前の7月23日、バイデン大統領に書簡を送付。「ガザ地区における戦争を即時かつ恒久的に終結させるための作業のひとつとして、イスラエルへの軍事援助を直ちに停止するよう」求めたのである。
こうした労働界の声は、労働組合や組合員からの資金や票、選挙活動支援などへの依存度が高い民主党の上院議員の心理に影響を与えただろう。だからこそ、前述のように、バイデン政権や民主党指導部は法案への反対を求め、議員に圧力を加え、軍事援助に反対する声を抑え込もうとたしたと考えられる。なお、この書簡には、National Nurses United (NNA)に代わりService Employees International Union (SEIU)が署名団体に加わっている。SEIUは11月18日、単独でSanders議員らの法案に賛成する声明を発表した。
しかしながら、事支援停止法案は不成立に終わった。法案の成立に向けた活動の中心団体のひとつ、クエーカー教系の団体としてロビー活動を行っているFriends Committee on National Legislation (FCNL)は、上院本会議の採決の2日後の11月22日、”This Week in the World: Our Advocacy is Making History”と題する一文をウェブサイトに掲載。採決について「19人の上院議員が力強いメッセージを送った。イスラエル政府のガザにおける壊滅的な戦争へのアメリカの共謀は受け入れられず、終わらせなければならない!」と述べた。さらに、バイデン政権やイスラエル政府などによる巨大な圧力があったものの、「決議は前例のない支持を集めた」と指摘。「停戦を確保し、イスラエル当局者の責任を問うための国際的な圧力が高まる中、議会でこの勢いを引き続き高めていく」と決意を語っている。
「戦争をしなかったトランプ」に対して、ウクライナやガザ地区で多くの住民を死に追いやる戦争に加担しているバイデン。こういう比較がしばしばなされる。しかし、トランプは2019年、サウジアラビアのイエメンへの軍事攻撃に武器を提供、数万に上る人命を失わせる原因を作った。そのトランプが2カ月余りで再登場する。ガザ地区から中東全体に広がりつつある戦火に注ぐ油をアメリカのNPOや労働組合が押しとどめることができるのかどうか。それは、ひとりアメリカだけでなく、私たちにも問われていることを忘れてはならない。
なお、上記のArab American InstituteやAmnesty International USA、Human Rights Watchなど110余りのNPOが署名した対イスラエル軍事支援停止を求める上院議員への書簡は、以下から見ることができる。
https://www.aaiusa.org/library/aai-joins-111-human-rights-orgs-in-support-of-joint-resolutions-of-disapproval-against-major-arms-sales-to-israel?rq=Joint%20Resolution
「ジェノサイド候補」ハリス敗北に寄与したアラブ系、ガザ停戦に向けた新政権への影響力は?
2024年11月15日
パレスチナのガザ地区に対するイスラエルの軍事攻撃とそれを支持する民主党のバイデン・ハリス政権に対して、アラブ系や若者を中心にした「即時停戦」を求める声が広がった。しかし、民主党政権は、こうした声に対して警察力で対応、2024年の大統領候補を指名するために8月に開催された民主党全国大会でも、発言の機会を与えなかった。民主党政権の姿勢に失望したアラブ系の有権者の多くは、ハリスを「ジェノサイド候補」と見なし、共和党のトランプに一票を投じた。彼らの投票行動は、ハリスの敗北にどの程度寄与したのか。そして、トランプ新政権下で、アラブ系の声は反映されるのか。以下、これらの点を考えていきたい。
その前に、選挙結果全体を整理しておこう。「史上稀に見る激戦」という前評判と異なり、大統領選挙は、復権を目指したトランプが312人の選挙人を獲得。ハリスの226人を大きく上回った。メディアの多くは、この結果をトランプの「大差」の勝利と報じた。しかし、得票率でいえば、トランプの50.1%に対して、ハリスは48.2%と、その差は1.9%にすぎない。これは、100人のうちひとりが投票行動を変えれば、勝者と敗者は入れ替わっていた可能性を示唆しており、「大差」ではなく、「僅差」ではないとしても、「小差」というべきだろう。
2020年にバイデンとトランプ、2016年にクリントンとトランプが争った大統領選挙結果と比較して考えてみよう。2020年には、バイデンが選挙人306人、投票率で51.3%を獲得、トランプはそれぞれ232人と46.9%に止まった。2016年の選挙では、クリントンの選挙人232人に対して、トランプは306人を獲得。しかし、得票率では、クリントンが48.5%と、トランプの46.4%を上回っていた。なお、両候補者の得票率が合わせて100%に満たないのは、無所属を含めたいわゆる第3政党の候補者が一定の割合を獲得したためだ。
アメリカの大統領選挙は、全米の得票数ではなく、各州などに配分された選挙人の獲得数で決まる。このため、真の勝者を判断することは難しい。しかし、2020年の選挙結果と比較すると、トランプは選挙人数でバイデンを6人上回ったものの、得票率では1.2%少ない。また、前述のように、今回の選挙の得票率の差は1.9%だが、2020年の選挙では、4.4%に達していた。2016年の選挙でもクリントンのトランプへのリードは、2.1%あった。いずれも今回の選挙より、得票率の差が大きい。換言すれば、得票率が最も接近、すなわち接戦となったのは、今回なのだ。この点は、後述する新政権のガザへの政策に影響していく可能性がある。
最初に述べたように、本稿では、今回の大統領選挙におけるアラブ系有権者の投票行動とその結果、そして新政権の「即時停戦」への対応を考えていく。そもそもアラブ系は、どのくらい存在するのか。政府が実施した2020年の人口統計調査によると、Middle Eastern and North African (MENA)の人々をアラブ系と定義し、純粋のMENAが254万人、他の人種との混血の人も含めると、352万人としている。このうち26%は18歳未満なので、投票権を持つ可能性があるMENAは、260万人程度になる。これは、投票可能な人口の2億4062万人の1%強に止まる。ただし、アメリカ国籍を持たない人も少なくないと仮定すれば、実際に投票可能なMENAは、200万人をやや上回るにすぎないとみられる。
投票可能な人口の1%強では、選挙に及ぼす影響はほとんどないのではないか、と思われるかもしれない。しかし、いわゆる激戦州をはじめとして、1%の投票者の一票が選挙結果を左右する現実がある。実際、前述のように、全米的にみても、トランプとハリスの得票率の差は2%に満たないのだ。さらに、アメリカでは、多くに人種や民族が集住する傾向が強い。アラブ系も例外ではない。人口1000万人強の激戦州のミシガンは、そのひとつだ。人口比で3%を数えるアラブ系の票の重みを、候補者は意識せざるをえないだろう。
ミシガン州でアラブ系が最も集住している地域は、Wayne郡にあるDearborn、Dearborn Heights、Hamtramck、Melvindaleの4つの市である。このうち、最も人口が多いのは、自動車の街Detroitに隣接したDearborn市で、10万人を超える。人口の55%がアラブ系といわれる、全米最大のアラブ系の集住地域で、市長もアラブ系だ。地元紙のDetroit Free Pressは、同市の投票結果を分析した記事を複数回にわたり掲載。2020年と比較して24年の大統領選挙の投票結果が大きく変化した、と伝えている。
Dearborn市全体でみると、2020年の得票率は、バイデンの69%に対して、トランプは30%にすぎず、バイデンの圧勝だった。しかし、今回は、トランプが43%を獲得、ハリスの37%、「即時停戦」を訴えたGreen Partyのジル・ステインの17%を上回り、トップに躍り出た。ハリスにとっては、4年前にバイデンが手にした得票率を30%以上も激減させた、大敗といえよう。このハリスの敗北は、トランプの勝利というよりも、両者、とりわけハリスへの一票を見送った影響が考えられる。” Abandon Harris” というハリスに反対する運動に加え、Council on American Islamic Relations (CAIR)やArab American Newsによるトランプ・ハリスいずれの候補も支持しないの呼びかけなどが行われていたからだ。実際、投票率は、2020年の64%に対して、今回は55%へと9%も減少した。
市内一部の地域では、ハリスへの評価が極めて厳しかった。例えば、人口の4分の3がアラブ系といわれる市の東部では、2020年にバイデンが投票数全体の82%を獲得、トランプは18%だった。しかし、今回は、首位はトランプで45%、第2位もステインで30%を獲得、ハリスは23%と第3位に甘んじた。ハリスの凋落がより顕著に表れたのは、市南部である。2020年にバイデンが75%をえたのに対して、わずか13%へと落ち込んだ。一方、トランプは55%、ステインも31%の支持をえた。なお、Dearborn市の西部では、ハリスが46%を獲得、トランプの42%、ステインの11%を抑えた。しかし、2020年にバイデンは62%をえており、ハリスは16%減らしたことになる。
こうしたハリスへの逆風は、予想されていなかったわけではない。例えば、8月25日から27日にかけて激戦州を中心にCAIRがムスリム系のうち投票の可能性の高い人々に対して世論調査を実施した。なお、ここでいうムスリム系は、アラブ系とほぼ同義と考えてよい。その結果、ミシガン州においては、ステインへの支持が最も高く40%に達していた。一方、トランプは18%、ハリスは12%に止まった。その後、ハリスに批判的なアラブ系は、ハリスへの反対の継続、ハリス・トランプのいずれへの投票も拒否、トランプへの懸念からハリス支持に移行、トランプへの投票という、複数の動きに分岐していった。
結果を見れば、アラブ系の票の争奪戦において、ステインは失速、トランプがハリスを大きく上回る支持をえた。ステインの失速の背景には、ハリス陣営による激しいステイン批判があった。「ステイン支持はトランプの当選を助ける」として、ステインにトランプのシンボル的なMAGA (Make America Great Again)を付けた防止をかぶせたポスターを作成したのは、その一例だ。選挙が近づくにつれ、勝つ見込みのないステインへの投票に疑問を持ったアラブ系の有権者も少なくなかっただろう。
では、なぜトランプは、当初の劣勢を跳ね返すことができたのか。トランプがアラブ・コミュニティの指導者に支持を訴え続け、現地を訪れたことが、その要因のひとつといえよう。面談を求めたDearbornのAbdullah H. Hammoud市長には拒否されたものの、HamtramckのAmer Ghalib市長とDearborn HeightsのAmer Ghalib市長から支持をえることに成功したのだ。そして、投票日直前の11月1日には、敵地ともいえるDeaborn市に入り、集会を開催。アラブ系指導者に対して、2017年に自ら実施したムスリム入国拒否に遺憾の意思を示すとともに、アラブ系指導者からの「即時停戦」要求の声に耳を傾けた。
こうしたトランプの姿勢が選挙後も続く保証はない。とはいえ、この地域では、2016年にトランプ、20年にはバイデン、そして、2024年にトランプが返り咲いた。アラブ系は、「ジェノサイド候補」ハリス敗北に寄与しただけではなく、3選を目指す意思をほのめかしているトランプにアラブ系の声の重要性を少なからず感じさせたのではないだろうか。なぜ、そういえるのか。大統領選挙と同時に行われた、ミシガン州の連邦上院議員選挙と州知事選挙で、民主党の候補が勝利しているだ。
ミシガンだけではない。連邦上院議員選挙を見ると、激戦州7つのうち、今回選挙が行われたのは、ノースカロライナとジョージアを除く5州。このうち再集計に持ち込まれるペンシルベニアを除く4州で、民主党の候補が勝利を収めている。したがって、トランプの勝利は、ハリスの敗北であっても、民主党の敗北とは言い切れない。もし、そうであれば、「即時停戦」の声に耳を貸そうとしなかったバイデン・ハリスの末路と異なる道をトランプが模索する可能性はゼロではない。その可能性を現実に転化させる、秘めた力をアラブ系が持っていることを、今回のDearbornの選挙結果は示したような気がする。
なお、Dearborn市における大統領選挙をはじめとした11月5日の選挙結果は、以下からみることができる。
https://dearborn.gov/sites/default/files/2024-11/UNOFFICIAL%20Results_Nov%205%202024%20Presidential%20Election%20-%20ALL%20-%20ELECTION%20DAY_City%20of%20Dearborn.pdf
「アイクの警鐘」が生き続けるアメリカ、軍産複合体を批判しNYSE前で抗議行動
2024年10月17日
ユダヤ系アメリカ人の反戦団体は10月14日、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃と攻撃に用いられているアメリカ製の武器輸出に抗議するため、ニューヨーク証券取引所(以下、NYSE)前で座り込みを行った。500人余りが参加、そのうち200人が逮捕されるという、NYSE前における行動としては、アメリカ史上最大の規模という。NYSE前で実施した理由について、イスラエルのガザ攻撃で多数の死傷者が出ている一方、軍需産業の株価はうなぎのぼりとなっていると指摘。アメリカ政府によるイスラエルの軍事支援が軍需産業に膨大な利益をもたらす事実を示し、世論を喚起するためだと述べている。
いわゆるウォール街にあるNYSE前で抗議行動を行ったのは、Jewish Voice for Peace (JVP)というNPOだ。カリフォルニア州バークレーでUniversity of California at Berkeley (UCB)の学部学生が1996年に活動を開始、2003年にはInternal Revenue Service (IRS)から税制優遇資格をもつ501c3団体として認められた。JVPがIRSに提出した書類(2022年度のForm 990)によると、2022年度の歳入は332万2296ドルで、その大半は個人寄付と助成金である。なお、2020年には、政府や議会にロビー活動などを行うことができる、501c4団体を設立。JAPとは法人格は別で、所在地は首都ワシントン、名称もJewish Voice for Peace Action (JVPA)となっている。2022年度の歳入は、80万3184ドルと、JAVの4分の1程度に止まる。
2023年10月にイスラエルのガザ地区への攻撃が始まって以降、JVPは、ニューヨークでターミナルステーションのGrand Central Stationや自由の女神、首都ワシントンで連邦議会を「占拠」するなど、「市民的不服従」と呼ばれる、非暴力の行動で人目を引いた。10月14日の行動も「市民的不服従」の原則に沿って行われ、警察から退去を命じられたものの、これを拒否、多数の逮捕者を出したが、暴力的な行為はなかったとされている。なお、この行動には、エミー賞を受賞したコメディアンEric Andréやアカデミー賞受賞の映画製作者Laura Poitras、オスカー候補者の俳優Debra Wingerなどの著名人も参加した。
抗議行動の参加者は、“Gaza bombed, Wall Street booms”、“Fund FEMA, not genocide”、“Jews say divest from Israel”などと、スローガンを叫んでいた。このうちNYSE前で実施したことと最も関係が深いのは、”Gaza bombed, Wall Street booms”だ。ガザ地区に爆弾が投下されることで、ウォールストリートが活況を呈しているという意味である。イスラエルがガザ地区で用いている武器の多くがアメリカ製で、その武器により住民が死傷する一方、RTX(旧Raytheon)やLockheed Martin、General Dynamicsなどの軍需企業を潤しているという指摘である。
実際、NYSEのデータによれば、2024年10月17日のRXTの株価の終値は125.44ドル。しかし、ちょうど1年前、イスラエルのガザ攻撃が始まった直後の2023年10月17日には73.89ドルにすぎなかったのである。実に169.7%も上昇したのだ。なお、RTXは、NASDAQにリストアップされているが、この指数の変化を同じ期間で見ると、13533.75ドルと18371.92ドルとなっている。上昇幅は、135.7%に止まる。Lockheed MartinやGeneral Dynamicsなど、他の軍需企業も同様にガザ攻撃によって収益を大幅に増加させているというのが、JVPの批判の根拠だ。
JVPの声明などでは語彙として用いられていないものの、こうした実態は、1961年1月、Dwight David Eisenhower大統領、通称Ike(アイク)が退任演説で触れた、軍産複合体につながっているといえよう。軍産複合体とは、軍需産業を中心とした私企業と軍隊、および政府機関が形成する政治的・経済的・軍事的な勢力の連合体をいう。とはいえ、バイデン政権が税金からイスラエルに対して多額の軍事支援を行い、アメリカの軍需産業を潤していることだけであれば、政府や政治は直接関与していないことになる。
しかし、実態は、異なる。例えば、現国防長官のLloyd James Austin IIIは、元々軍人だが、退官後、Raytheon(現RTX)などの企業の取締役を務めていた。国防長官就任への打診後は辞職したものの、関係性は継続している可能性はある。実際、Austinの就任後、国防総省は、RTXに多額の契約を発注している。また、SludgeというNPOのメディアの調査によると、HoneywellとRTXを筆頭にした軍需産業の企業の株式を保有している連邦議会の議員は、50人を超える。これらの議員が所有している株式の2023年における時価は、総額1090万ドルに及ぶ。当然、株価の値上がりにより、莫大な利益をえている。
親イスラエル団体によるロビーの活動や資金の影響力も見逃すことはできない。最もよく知られているのは、American Israel Public Affairs Committee、いわゆるAIPACである。AIPACは、前述のJewish Voice for Peace Actionと同じ、501c4団体だ。連邦政府や議会、議員などへのロビー活動を展開しており、2022年度のForm 990によると、同年度の歳入は7940万1004ドルという膨大な資金力を持っている。ただし、5014団体は、政治資金を提供することはできない。
このため、AIPACは、政治資金を提供するためのPolitical Action Committee (PAC)を設立している。なお、名称は、AIPAC Political Action Committeeで、略称がAIPAC PACのため、両者は混同されがちだ。AIPAC PACのウェブサイトによれば、親イスラエルの候補者への支援は、総額4000万ドル。支援した候補の98%は当選しているという。また、「反イスラエル」候補の落選活動も展開しており、ターゲットにした候補者は24人にのぼるという。
AIPACの資金は、具体的にだれに流れているのか。政治資金のモニター活動を行っているNPO、Open Secretsによると、1990~2024年までに最も多くの政治資金の提供を親パレスチナのPACから受けた政治家のトップは、現大統領のJoe Bidenで、422万3393ドル。日本円に換算すると、6億3300万ドルにのぼる。3番目にはHillary Clintonの名が出てくる。提供された政治資金は、235万7122ドル。現副大統領のKamala Harrisは、上院議員になった2017年以降に限定されるものの、53万629ドルもの資金を受けている。8月の民主党全国大会の大統領候補受託演説で、イスラエル支持を明確に打ち出したのも不思議はない。
以上のように見てくると、政府は税金として、人々から資金を集め、それをイスラエルへの軍事支援などに投入する。支援する軍事品は、アメリカの軍事企業が生産している。その企業に、多くの連邦議会の議員が投資、莫大なリターンをえている。そして、こうした親イスラエル議員を、AIPAC PCなどが政治資金を提供していく。単純化すると、このような構図の中で、イスラエルの軍事行動が正当化され、軍事支援も続いていく。この悪しき循環を止めなければならない。そうした意識がJVPによるNYSE前における抗議行動となって表れたといえよう。「アイクの警鐘」が今も生き続けているのだ
なお、前記のように、JVPは、“Gaza bombed, Wall Street booms”、“Fund FEMA, not genocide”、“Jews say divest from Israel”などのスローガンを叫んでいた。いままで述べた内容は、“Gaza bombed, Wall Street booms”に関連している。“Fund FEMA, not genocide”とは、9月から10月にかけてアメリカ南西部の襲ったふたつの大型ハリケーンで救援や復興活動を担うべき連邦政府機関Federal Emergency Management Agency (FEMA)の予算が十分でなかったことに関連している。ガザ地区におけるジェノサイドにではなく、災害被害者への対策に政府予算を使え、という主張だ。最後の“Jews say divest from Israel”とは、JVPを構成するユダヤ系アメリカ人がガザ攻撃を続けるイスラエルからの投資回収を政府や企業に求めるという意思を表明したもの考えられる。
なお、上記のOpen Secretsの親イスラエルのPACによる政治資金に関するデータの詳細は、以下から見ることができる。
https://www.opensecrets.org/industries/summary?code=Q05&cycle=All&ind=Q05&recipdetail=M
親パレスチナ・アラブ系・ムスリム団体、ガザ停戦候補支援で大統領選挙の「激戦州」に影響か
2024年10月5日
大統領選挙の投開票が1か月後に迫る中で、「激戦州」において、民主党のハリス、共和党のトランプ両候補による激しいつば競り合いを続けている。全米的にみると経済、移民、人工妊娠中絶などが争点になっているが、「激戦州」の一部はアラブ系やムスリムの有権者が多数居住。彼ら、彼女らの多くは、伝統的に民主党を支持してきた。しかし、今回の選挙では、パレスチナのガザ地区へのイスラエルの軍事攻撃への反発から、ハリス支持を見送ったり、ガザ停戦を主張する第三政党の候補への投票を呼び掛けるなどの動きが広がり、選挙結果に影響を与える可能性がでてきた。
アメリカの大統領選挙は、得票数が多い候補が勝利するとは限らない。例えば、2016年の選挙では、選挙人304人を獲得したトランプに対して、ヒラリー・クリントンは227人に止まり、敗北した。しかし、得票数でみると、トランプは6298万4828票(得票率46.1%)だったが、クリントンは6585万3514票(48.2%)と、クリントンが300万票近く上回っていた。なぜ、このような結果になるのか。各州などに配分された選挙人の過半数を確保した候補が勝利する仕組みで、州ごとに得票数が最も多い候補が、その州の選挙人を総取りすることができるからだ。
民主党の地盤の州をブルーステート、共和党が強い州をレッドステートと呼ぶ。アメリカ50州の多くは、このいずれかに色分けされている。換言すれば、それらの州は、投票前から結果が決まっているのである。このため、大統領選挙では、事実上、少数の「激戦州」の投票が全体を決することになる。10月5日現在、ケーブルテレビの大手、CNNによると、ハリスが226人、トランプが219人の選挙人をほぼ獲得にしている。残りの「激戦州」は、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、ノースカロライナ、ジョージア、アリゾナ、ネバダの7州にすぎない。
「激戦州」と呼ばれるように、これら7州は、いずれもハリスとトランプが僅差で争っている。したがって、わずかな票の移動が勝敗を決することになる。実際、2020年の選挙では、ジョージアやアリゾナ、ウィスコンシンなどの州で民主党のバイデンが勝利したが、トランプとの得票率の差は、それぞれ0.3%と0.4%、0.6%にすぎなかった。なお、両者の差が最も大きかったのはミシガン州で、得票率で3.6%、得票数で15万票ほどバイデンがトランプを上回った。
全米的にはハリス優勢が伝えられているが、「激戦州」においては、2020年と同様な状況だ。「激戦州」のうち、ウィスコンシンとミシガンは、アラブ系やムスリムの有権者が多いことで知られている。過去の大統領選挙においては、アラブ系やムスリムの有権者の6~7割が民主党の候補に一票を投じてきた。しかし、今回は、イスラエルのガザ地区への軍事攻撃が激化する中で、親パレスチナで停戦あるいはアメリカによるイスラエルへの軍事援助への反発が強く、投票動向が注目されてきた。
こうした中で、ガザ地区の戦闘の即時停止を求めてきたUncommitted National Movement (UNM)は9月19日、ハリス候補を支持しない旨を表明した。この団体の名称にあるUncommittedとは、いずれに候補も支持しないという意味だ。具体的には、今年の1月から6月まで実施された民主党の大統領候補選出の予備選挙で、希望する候補がいない旨を示すために一票を投じる運動だ。アラブ系の団体やイスラエルの攻撃に反対していた団体などが結成、全米各地で運動を繰り広げた。その結果、70万票余りがUncommittedを選択、8月の民主党の全国大会に代議員を37人送ることができた。
なお、Uncommitted自体は、これまでの選挙でも選択肢のひとつとして認められていた。また、今回、集まった70万票のすべてが、バイデン政権によるイスラエルへの軍事支援に反対して投じられたのかどうかは明らかではない。とはいえ、Uncommittedが運動として推進され、予備選挙全体で投じられた票4.3%を獲得したことの意味は小さくない。なぜなら、「激戦州」であるミシガン州の10万1436票(得票率13.21%)やウィスコンシン州の4万8162票(8.3%)のように、11月の大統領選挙の帰趨に大きな影響を与える可能性を示しているからだ。
予備選挙で代議員を獲得したUNMは、8月の全国大会で発言の機会を求めた。しかし、大会側は、これを拒否。その後、ハリスとの会談を要求したものの、指定した9月16日までに回答がなかったとして、19日にハリス支持を行わない旨の表明に至ったという。では、UNMは、大統領選挙にどのような方針を打ち出したのだろうか。選択肢として、トランプ支持か第三候補支持、あるいは自主投票などが考えられる。トランプについては、大統領時代の反アラブ系・反ムスリム政策の経験から支持はできないものの、第三候補への投票はトランプを利する可能性などから見送り、事実上、自主投票を求めることになった。
一方、第三候補の支援を明確に打ち出したアラブ系やムスリムの団体もある。American Muslim 2024 Election Task Force(以下、2024 Task Force)がそれだ。今回の大統領選挙に当たり結成された団体で、Americans for Justice in Palestine (AJP)やCouncil on American-Islamic Relations (CAIR), ICNA Council for Social Justice、 US Council of Muslim Organizations (USCMO)など、アラブ系やムスリムの有力団体が母体である。2024 Task Forceは9月20日、ハリス不支持とともに、Green PartyのJill Stein、Justice for AllのCornel West、Libertarian PartyのChase Oliverなどの候補への投票を呼び掛けることを明らかにした。
このような判断を2024 Task Forceが行ったのは、「ジェノサイド(大虐殺)」といわれるイスラエルのガザ攻撃を軍事支援によって支えているバイデン・ハリス政権への怒りだろう。この怒りは、アメリカの多くのアラブ系やムスリムに共有されていると思われる。2024 Task Forceの発足に関わった団体のひとつ、CAIRが8月に実施した調査によると、「激戦州」のうちアリゾナ、ミシガン、ウィスコンシンの3州で、ムスリムの有権者はハリスよりもJill Steinを支持しているのだ。
ハリスのランニングメート、Tim Walzは9月19日、パレスチナの武装組織、ハマスに人質にされているアメリカ人の家族と面談し、救出に全力を挙げる考えを示した。その一方で、9月にパレスチナの西岸地区でイスラエルの入植活動に反対し、イスラエル兵に射殺されたトルコ系アメリカ人女性について、バイデン政権は「事故」として処理しようとする姿勢を示した。レバノン系アメリカ人Hajj Kamel Ahmad Jawadさんが10月1日、訪問先のレバノンでイスラエルの空爆の犠牲になった。使用された爆弾は、アメリカ製と伝えられている。しかし、バイデン・ハリス政権は、イスラエルのレバノン空爆を支持し続けたままだ。
国民の生命と財産を守ることが国、そして政府の最大の役割といわれる。しかし、バイデン・ハリス政権は、その役割を国民がだれかによって差別しているといえよう。そのような政権が続くことに「否」という声をあげる行為。イスラエルの軍事攻撃で殺害されている人々が家族や親せき、または友人や知人という関係にあることが多い、アメリカのアラブ系やムスリムの人々。彼ら、彼女たちは、自らの税金が人々を死に向かわせていることに強い苦しみと怒りを感じているのだろう。その気持ちが、大統領選挙にどのように反映されていくのか、しっかり見つめていかなければならない。
なお、上記のCAIRが8月に実施した調査結果は、以下から見ることができる。
https://www.cair.com/wp-content/uploads/2024/08/CAIRMuslimVoterSurvey.pdf
イスラエル兵による西岸地区でのトルコ系アメリカ人女性射殺、真相究明求める声拡大
2024年9月13日
パレスチナのヨルダン川西岸地区を不法占拠しているイスラエルに抗議する活動に参加した、トルコ系アメリカ人女性が9月6日、イスラエル国防軍(IDF)の狙撃兵によって射殺される事件が発生した。事件に対して、女性の遺族や抗議活動を実施していた団体から非難の声が上った他、現地やアメリカ国内で、追悼集会などが開催されている。一方、Joe Biden大統領は、地面から跳ね返った銃弾が頭に当たり死亡した「事故」との見解を表明、事実上、イスラエル側の主張を追認した。この発言に対して、抗議行動の参加者が撮影したビデオなどから、イスラエル兵が意図的に射殺したことは明らかだとして、真相究明を求める声が遺族や親パレスチナ団体、さらには連邦政府の議員の間からも出てきている。
イスラエル兵によって射殺された女性は、トルコ生まれのAysenur Ezgi Eygiさん(26)。生後間もなく、両親とともにアメリカに移住。ワシントン州シアトルで高校や大学に通いながら、2015~18年の間は、Socialist Alternativeという左派系の政治団体のメンバーとして活動、当時注目されていた先住民の居留地に石油のパイプラインを通すDakota Access Pipelineの建設反対運動にも関わっていたという。西岸地区には、今年5月に大学を卒業後、パレスチナ人農民の支援団体、International Solidarity Movement(ISM)のボランティアとして活動するため、9 月初めに現地へ到着。ISMが毎週金曜日に行っている抗議行動に初めて参加し、狙撃兵よって射殺されたのである。
パレスチナ自治政府は9月9日、ヨルダン川西岸のNablusでEygiさんの葬列を行った。9月10日配信のAP通信の記事によると、彼女の遺体はパレスチナの国旗で覆われ、顔には黒と白の市松模様のスカーフが巻かれ、会葬者が彼女の遺体を救急車に運んだ。なお、Eygiさんは、アメリカとトルコの二重国籍者である。このため、トルコの外務大臣は9月8日、Eygiさんの遺体の搬送に積極的にかかわる考えを表明。遺族の希望に基づき、遺体をエーゲ海沿岸のDidimに埋葬するため、トルコに送還する作業を行っているという。遺体は、イスラエルに送られた後、ヨルダンを経由してトルコに搬送される見込みだ。
Eygiさんの死を悼む追悼行事は、アメリカでも行われている。9月11日夜、彼女が長年生活したシアトルの有名な海岸沿いの公園、Alki Beachで実施されたのは、そのひとつだ。地元紙のSeattle Timesによると、約250人が参加。Eygiさんが通っていたUniversity of Washingtonで、ガザ停戦などを求めて活動をしていた友人の姿も目立った。会場には、パレスチナの国旗が砂浜に並べられ、数本の白い凧がはためいていた。開会の挨拶で、主催者は、イスラエルに武器と資金を送り続けているとして、アメリカ政府を批判した。
パレスチナ自治政府が葬儀を行ったのと同じ9月9日、カリフォルニア州オークランドのLake Merrittにある広場でEygiさん追悼行事が開催された。この行事について保守系のテレビ局FOX Newsは「大勢の群衆」が集まったと報道。ニュースの中で、共同主催者のひとり、Yonana Tchouebaさんは、「Eygiさんが殺害されて以来、私たちの多くは、眠れない夜を過ごし、24時間体制で追悼行事の準備を進めてきた」と語り、Eygiさんの死への悲しみと怒りの強さを示唆している。また、追悼行事では、パレスチナでの流血の事態の終結を求める声が相次いだ。
イスラエル国防軍(Israel Defense Forces : IDF)は9月10日、Eygiさんが射殺された事件についての初期調査の結果を発表した。142文字の短い声明の中で、IDFは、銃撃について「彼女を狙ったものではなく、暴動の主要な扇動者を狙ったイスラエル国防軍の砲撃を受けた可能性が高いことがわかった。この事件は、数十人のパレスチナ人がBeita Junctionで治安部隊に向かってタイヤを燃やし、石を投げつけた暴力的な暴動の最中に起こった」と述べている。また、Joe Biden大統領は9月10日、記者団に対して、地面から跳ね返った銃弾がEygiさんの頭に当たった「事故」との認識を示した。
こうしたIDFの主張とそれに基づくBidenの発言に対して、Eygiさんをボランティアとして受け入れていたInternational Solidarity Movement(ISM)は、9月10日にプレスリリースを通じて、反論を行った。IDFの主張に対しては、銃弾が2発放たれ、そのうちのひとつは金属の物質から跳ね返り、パレスチナのティーンエージャーの骨盤に当たった。もうひとつは、Eygiさんに直接当たったと主張。そのうえで、ふたりは、2キロ近く離れた場所にたため、仮にティーンエージャーが「扇動者」とみなされたとしても、その人への狙撃の結果、Eygiさんの頭が打たれるはずはないとしている。また、一部のメディアが報じた、現地で暴動が起きていたという点については、平和的な抗議活動だったと述べている。
こうした主張は、活動家団体によるプロパガンダと見なされがちだ。しかし、アメリカの有力紙のひとつといわれるThe Washington Postは9月11日付の紙面で” New video, witnesses challenge Israel’s account of U.S. activist’s killing”というタイトルの記事を掲載。Eygiさんが殺害された当時の状況を、抗議行動に参加していた人々が写したビデオや証言なども参考にして、分単位で検証した結果を報告している。記事によれば、IDFが「暴動」と呼んでいるような事態は生じていないうえ、Eygiさんがいた場所とIDFの兵士が狙撃した場所は200メートルほど離れており、投石などで兵士の生命に危険が及ぶような可能性はなかったと指摘している。
また、9月10日発信の政治専門紙、The Hillが掲載したAP電による” Israel says it likely killed an American activist by mistake. The US condemns its ally”というタイトルの記事によれば、銃撃後、病院に運ばれたEygiさんを診断した医師は、彼女が頭を打たれたと述べていると伝えた。なお、この医師は、トルコ国籍の人だという。
このように、IDFの主張に基づき、銃撃行為への追及を避けようとするBiden大統領に対して、Eygiさんの遺族やパートナーのHamid Aliさん、ISMなどの活動団体は、第三者による調査を要求。この声は、連邦議会の中にも広がりつつある。先陣を切ったのは、シアトル市の一部を含む連邦議会のワシントン州第9選挙区選出のAdam Smith(民主党)下院議員だ。同議員は、9月7日に発表した声明の中で、「イスラエル政府に対し、迅速かつ徹底的に答えを出すよう強く求める。加害者は、完全で徹底的かつ透明性のある調査によって責任を問われなければならない」と述べ、事実上、第三者委員会による調査を求めた。
Smith議員に続き、同じワシントン州選出のふたりの民主党議員が声をあげた。Pramila Jayapal下院議員 とPatty Murray上院議員である。また、2020年の大統領選挙で、Bidenと民主党候補を争った、バーモント州選出のBernie Sanders上院議員は、Eygiさんが狙撃されたことを指摘。さらに学校への爆撃により6人の国連援助要員を含む14人が死亡した件などあげ、「もうたくさんだ。ネタニヤフの戦争にこれ以上のお金は必要ない」と述べ、イスラエルへの軍事支援を打ち切るべきだという考えを表明した。
現段階で、Eygiさんの死亡に対する真相究明やアメリカのイスラエル支援の見直しが大きく進むとは考えにくい。とはいえ、ひとりの女性の死が、周囲の人々の声とともに、アメリカ政府の戦争政策への問い直しにつながりつつあることは否定できない。パレスチナでIDFによる殺害されたアメリカ人はEygiさんだけではない。こうした悲劇を繰り返させないためにも、徹底的な真相究明と、事件の背後にあるイスラエルの西岸地区への不当な入植、そしてガザ地区の戦闘を中止させることが求められているといえよう。
なお、上述のInternational Solidarity Movement(ISM)のプレスリリースは、以下から見ることができる。
https://palsolidarity.org/
シカゴの民党全国大会(DNC)、内外からガザ停戦を求める声噴出か
2024年8月16日
民主党のJoe Biden大統領は7月21日、再選を目指さない意思を表明、元大統領で共和党のDonald Trumpは、Bidenが後継に示した現職の副大統領Kamala Harrisの猛追で劣勢に立たされた、と多くのメディアは報じている。しかし、Harris優位になりつつあるとはいえ、両者の差は統計的には誤差の範囲だ。こうした状況の中で、注目されるのは、Harrisのイスラエルによるガザ地区での虐殺への対応である。Bidenに比べるとHarrisは、ガザ地区の住民にシンパシーを示しているものの、イスラエル支援を変えようとしていない。このため、8月19日から始まる民主党全国大会 (Democratic National Convention: DNC)では、会場の内外から停戦要求の声が噴出する可能性がある。
Harrisがガザ地区の住民にシンパシーを寄せていると人々に知らしめたのは、7月8日に発売されたThe Nation誌のJoan Walsh記者による独占インタビュー記事だ。この記事は8月掲載予定だったが、Bidenが撤退し、Harrisが後継候補となる可能性がでてきたため、時期を早めたという。Bidenへの支持が低迷する一方、Harrisが後継になればTrumpと互角の勝負になりそうだ、という世論調査の結果が相次いでいた時だ。
このインタビューでHarrisは、ガザの住民が食料や水、生理用品などが十分確保できているのか、と疑問を提示。そのうえで、即時停戦を求める人々について、次のように語った。「ガザの状況に対する反応として、人間の感情がどうあるべきかを正確に示しています。…彼らの主張を全面的に支持するつもりはありませんが、…その背景にある感情は理解できます。」
この感情を理解しようとするためだろうか。Harrisは副大統領候補に指名したTim Waltzとともに選挙遊説のために訪問したミシガン州で8月7日、Uncommitted National Movement (UNM)のAbbas Alawieh とLayla Elabedのふたりと会談した。NPOのメディアDemocracyNowのインタビューに対して、Elabedは、Harrisの同情と共感が本物だと感じたとしながらも、「政策転換」が必要と主張。政策が変わらなければ、大統領選挙でHarrisに一票を投じることはないだろう、と述べた。
では、Harrisは、Bidenと同様、ガザでの即時停戦やイスラエルへの武器禁輸の要求を拒否するのか。Harrisの考えは不明だが、拒否には大きなリスクを伴う。なぜなら、これらの要求は、大統領選挙でキャスティングボートを握る「激戦州」の有権者の投票行動に大きな影響を与えるとみられるだからだ。8月14日に発表された、Institute for Middle East Understanding (IMEU) Policy Project/YouGov (以下、IMEU調査)の世論調査結果がそれを示している。
IMEU調査は、ペンシルベニアとジョージア、アリゾナの3州の民主党と無党派で投票に行く可能性が高い1500人ほどの有権者を対象にして実施された。回答者の34%は、Harrisがイスラエルへの武器輸出を停止すれば、Harrisに投票する可能性が高くなると答えた。一方、可能性が低くなると答えたのはわずか7%だった。18~29歳の有権者に限定すると、60%が、武器輸出を停止すれば、民主党に投票する可能性が高いと回答。低くなると述べたのは、わずか7%だった。
イスラエルへの武器禁輸とガザ停戦を求める声は、民主党の最も有力な支持母体の労働界にも広がっている。Bidenの選挙戦撤退表明の2日後で、イスラエルのBenjamin Netanyahuの訪米の直前の7月23日、組合員300万人で全米最大のNational Education Association (NEA)と190万人で第2位のService Employees International Union (SEIU)を含む、7つの大手単産がBiden政権に武器禁輸とガザ停戦を求め、声明を発表したのだ。その後、これらの労働組合の中には、Harris支持を打ち出したところもある。とはいえ、Harrisも、こうした声を完全に無視して選挙戦を進めるわけにはいかないだろう。
Democratic National Convention (DNC)は、8月19~22日までシカゴで開催される。Uncommitted National Movement (UNM)の活動を通じて選出された代議員36人も、これに参加する。5000人近い代議員全体から見ると、ごく少数だが、DNCで発言の機会の確保とともに、武器禁輸とガザ停戦についてHarrisと具体的に話し合うことを求めている。DNCを前にしたAp通信の取材に対して、8月7日にHarrisと会談したAbbas Alawiehは、「Harrisが党を団結させる機会を逃さないことを願っている」と述べた。
Harrisがこの機会を有効に用いない場合、どのような結果が生じるのだろうか。DNCで混乱が生じる可能性だけではない。DNCの会場の外では、8月19日と22日、全米200近い反戦平和や人権、労働者の権利、環境保護など多様な団体の連合体、Coalition to March on the DNC (CMD)による大規模なデモが予定されているのだ。イスラエルのガザ侵攻に武器輸出で応えてきたBidenに対して、親パレスチナの人々は、”Genocide Joe!(虐殺者、バイデン!)”と書かれたポスターを掲げ、抗議活動を展開。CMDは、これを”Killer Kamala!(殺人者、ハリス)”に書き換えてデモに臨む準備を進めている。この事態が生じれば、人々には「民主党の混乱」と映り、共和党からは「国を任せられない」という叫び声が噴出するだろう。
「1968年の再来」という言葉が聞かれる。その年の大統領選挙で、DNCが開催されたのは、今回と同じシカゴだ。この時、ベトナム反戦を掲げるデモの参加者に対するシカゴ警察の過剰警備がひとりの死者を含む、流血の事態を生み出した。これに先立ち、当時現職だったLyndon Johnson大統領が再選を断念。DNCは、副大統領だったHubert Humphreyを民主党候補に選出した。Humphreyは、当初優勢だったものの、ベトナム戦争終結への明確なビジョンを示せなかったこともあり失速。投票日直前に追い上げを図ったものの、共和党のRichard Nixonに僅差で敗北した。
愚かな為政者は、歴史から学ぼうとしない。Harrisも同様であれば、「歴史は繰り返す」ことになる。DNCの開催地シカゴは、今年1月31日、市議会がガザ地区における恒久的な停戦を求める決議を採択した。この都市で、ガザ地区におけるイスラエルの殺戮とそれを後押しするBidenの政策が変わっていく一歩を踏み出すことができるのか。それとも、虐殺を止めろという圧倒的多数のアメリカの人々の声を無視するのか。Harrisと民主党の意思が問われている。
https://www.marchondnc2024.org/
イスラエル首相の議会演説に反発、議員のボイコットや大規模抗議デモ実施へ
2024年7月21日
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、7月22日に首都ワシントンを訪れ、23日にバイデン大統領と会談、そして24日には連邦議会の上下両院の議員を前に演説を行う予定だ。これに対して、連邦議員のスタッフや議会の委員会などの職員の団体が議会演説に反対する声明を発表。また、イスラエルによるパレスチナのガザ地区への激しい軍事攻撃により多数の死傷者が出ていることに反発している平和団体などは、「ネタニヤフを逮捕せよ」をスローガンに、大規模な抗議行動を行うことを表明するなど、批判の声が高まっている。
AP通信などによると、ネタニヤフ首相の連邦議会での演説は、マイク・ジョンソン下院議長(共和党・ルイジアナ州選出)が主導。ホワイトハウスにも働きかけ、議会演説の前日にバイデン大統領と会談することも決まった。バイデン大統領の与党である民主党には、下院で2番目に大きな議員連盟であるCongressional Progressive Caucus (CPC)のメンバーをはじめとして、イスラエルのガザ攻撃に反発する議員も多い。実際、ネタニヤフ首相の演説が発表されると、CPCのメンバーをはじめとして、上下両院の議員からボイコットの意思が相次いだ。
連邦議員のスタッフや議会の委員会などの職員からも演説をボイコットすべきという声が出てきた。議会スタッフの団体としては最大の1500人の会員をもつといわれるCongressional Progressive Staff Association (CPSA)は7月17日、無記名の230人の会員とともに、連邦議員向けに書簡を発表。「政治ではなく、モラルの問題だ」としたうえで、「全米、そして世界中の市民、学生、議員が、ネタニヤフ氏のガザ戦争における行動に反対の声を上げている」と指摘。「イスラエル人は、停戦と人質解放の交渉に失敗した彼の失敗を非難して、何ヶ月も街頭で抗議してきた。私たちは、あなた(連邦議員)が彼(ネタニヤフ首相)の演説に抗議したり、出席を拒否したりする仲間の議員たちに加わることを願っている」と述べている。
2001年の同時多発テロ事件の後、アメリカによるアフガニスタンへの攻撃への懸念から結成されたANSWER Coalitionは、ネタニヤフ首相の議会演説が明らかになった直後にAmerican Muslims for Palestine、Palestinian Youth Movement、People’s Forum、Palestinian Feminist Collective、Jewish Voice for Peace, Palestinian Assembly for Liberation、Writers Against the War on Gazaなどの団体とともに、首都ワシントンで抗議集会を行うことを決定した。
これらの団体は、5月に国際刑事裁判所(ICC)がネタニヤフ首相とハマスの指導者を戦争犯罪などの罪で起訴する考えを打ち出したことを踏まえ、「ネタニヤフを逮捕せよ」というスローガンを掲げた。そして、アメリカ東部を中心に全米各地から抗議集会への参加を呼びかけ、バスの手配などを進めている。抗議集会の会場を管轄するNational Park Serviceに提出された集会の申請書によると、5000人の参加が見込まれているという。
なお、Congressional Progressive Staff Associationの声明とANSWER Coalitionの抗議集会の案内などは、それぞれ以下から見ることができる。
https://cdn.sanity.io/files/ifn0l6bs/production/c9fb7ce6c42e2c1b82cd7eb00dc0784e3b6930e8.pdf
https://www.answercoalition.org/arrest_netanyahu
イスラエルの「ガザ大虐殺」反対の声、キャンパスの学生による運動の後も拡大
2024年6月9日
パレスチナのガザ地区へのイスラエル軍の侵攻は、3万6000人を超える死者が生じ、「ジェノサイド(大虐殺)」として国際的な非難の声が高まっている。アメリカでも4月から5月にかけて全米各地の大学でエンキャンプメントと呼ばれる、キャンパス内にテントを張って寝泊まりしながらの抗議行動が広がった。これに対して、多くの大学では、警官隊を導入し、抗議活動を行う学生を排除。アメリカではイスラエルへの抗議行動が沈静化したように感じている人も少なくないだろう。
しかし、5月以降、イスラエルの侵攻に対する抗議や非難の行動は、新しい次元に入ったようにも見える。元々、今回の侵攻が始まった1カ月に満たない昨年11月4日には首都ワシントンで、主催者側発表で50万人が参加した大規模集会が開催され、さらに”Shut it down!” をスローガンにした駅や道路の「占拠」運動が、親パレスチナの活動家や反戦平和団体などによって展開された。
この動きの後に、大学におけるエンキャンプメントがスタート。そして、「Stop Genocide!(虐殺を止めろ)」とスローガンにした大規模集会に加え、労働界やマイノリティ団体にも停戦を求める声などが波及しているのだ。
今年に入ってからも大規模集会が続いている。1月13日に首都ワシントンで行われた”National March for Gaza”には主催者側発表で40万人が参加。イスラエルのラファへ侵攻が迫った2月12~13日には、カナダやイギリスも含め12都市で”Hands off Rafah!(ラファから手を出すな)”という呼びかけで、大規模なデモや集会が開催された。この他、数回にわたり大規模集会が行われ、直近では6月8日に”Biden, We are your Red Line. Stop Genocide”を掲げ、ホワイトハウス前で大規模な反バイデン政権行動が展開された。
”Biden, We are your Red Line.”とは、イスラエルによるラファ侵攻に対して、バイデン政権が”Red Line”を超えさせないといいつつも、「虐殺」を黙認していることを批判したものといえよう。この行動の一環として、2マイル(約3.2キロ)に及ぶ赤いバナーを”Red Line”として手にした人々がホワイトハウスを囲んで、反バイデンの声をあげた。
労働界やマイノリティ団体によるガザ侵攻を批判する声は、これまでにも存在した。しかし、5月から6月にかけて、注目すべき動きが出ている。労働界からは、United Automobile Workers (UAW) Local 4811によるストライキがある。UAWは、これまでにも停戦を求める声明を発表してきたが、今回のストライキは、カリフォルニア州の大学の院生らの組合員が行ったものだ。その数4万8000人。学生のエンキャンプメントに対する大学当局の警官隊導入などの暴力的な対応への批判が根底にある。
マイノリティからの声として最も注目されるのは、”NAACP Urges Biden-Harris Administration to Stop Weapons Shipments to Israel, Push for Ceasefire”というタイトルの声明がプレスリリースとして発表されたことだ。発表したNAACPは、 “National Association for the Advancement of Colored People”のことで、30万人(団体側資料)の黒人を会員としてもつ、全米最大の人権団体である。UAWもNAACPも、伝統的に民主党色が強く、バイデン大統領の支持母体だ。このことは、親バイデンの中からもイスラエルのガザ侵攻への反発が広がっていることを意味し、11月の大統領選挙を前にした、民主党にとって強い危機感を与えている。
なお、上記の赤いバナーを”Red Line”として掲げたデモの様子は、以下のCNNのビデオから見ることができる。
https://edition.cnn.com/2024/06/08/us/video/pro-palestinian-protesters-demand-ceasefire-gaza-washington-dc-white-house-todd-nr-digvid
イスラエルのガザ攻撃で停戦求める学生や労働者の声、バイデン政権に打撃
2024年5月2日
イスラエルによるパレスチナのガザ地区の南部の主要都市、ラファへの侵攻により、人道危機のさらなる拡大が懸念される中で、全米各地の学生による停戦を求める動きが広がっている。この動きに対して、多くの大学は、キャンパスに警官隊を導入。4月18日にニューヨークのコロンビア大学で108人が逮捕されて以降、CNNによれば、全米の少なくとも25州の40余りのキャンパスで、5月2日までに学生や教職員2000人余りが逮捕される事態に至っている。
この事態に対して、学生や教職員を支援する側から、ふたつの注目すべき動きがでている。ひとつは、労働団体からの支援の広がりだ。停戦要求運動の広がりのきっかけとなったコロンビア大学の院生の労働組合、Student Workers of Columbia— SWC-UAW 2710は、労働団体などに対して、連帯表明を求める署名活動を開始。これまでに70余りの団体と1300を超える個人が賛同している。
署名活動を開始した団体の名称のSWC-UAW 2710に”UAW”とあるように、この団体はUAW(全米自動車労組)の支部である。元々自動車メーカーの労働者の組合だが、現在では大学の教員の研究補佐や業務補助を行う、いわゆるアカデミックワーカーを多数組織。2022年年末から23年初頭にかけて、カリフォルニア州でストライキを敢行したことでも知られている。
コロンビア大学の停戦要求運動では、SWC-UAW 2710のメンバーも数名逮捕されたという。そのこともあり、署名の文面には、”An injury to one is an injury to all”(一人の怪我は全員の怪我)という言葉が用いられている。かつて労働運動の主流派だったAmerican Federation of Labor (AFL)に対抗した左派のナショナルセンター、Industrial Workers of the World(産業労働者同盟)によってよく使用されたこととで知られる言葉だ。
以前、この欄でも指摘したように、UAWは、ガザにおける停戦を組織として求めている。1960年代にベトナム戦争に反対し、その戦争を要因していたAFL-CIOに抗議、脱退した労働組合の面目を示した形だ。今回も、署名の賛同団体の多くがUAWの支部であったことも考慮したのだろう。UAWは5月1日、会長名で、停戦要求運動を行う学生への逮捕を批判する声明を発表した。なお、UAWはすでにバイデンの再選支持を表明しているしかし、実際にどの程度支援を行うのかは定かではない。とりわけ、一般の組合員の支援活動が鈍る可能性はある。したがって、バイデン政権も、UAWの声を簡単にむしするわけにはいかないだろう。
もうひとつは、民主党の学生組織、College Democrats of America (CDA)という学生組織の動きだ。全米の大学に10万人を超える会員をもつCDAが、イスラエルのガザ攻撃に対して有効な手立てを打てないバイデン政権を批判する声明を発表したのである。なお、この声明は、CDAの執行役員10人のうち8人の賛成で承認されたものだ。
声明は、民主党員としてバイデン再選を支持するとしながらも、「民主党が恒久的な停戦、二国家解決、パレスチナ国家の承認のために団結できない日ごとに、ますます多くの若者が党に幻滅している」と指摘。「学生民主党員の票は、民主党にとって当然のことではない。われわれは、わが党がわれわれの声に耳を傾けないとき、われわれを批判する権利を留保する」とまで述べている。
2020年の大統領選挙で、若者の6割はバイデンに投票、選挙の勝利の一因になったといわれている。それだけではない。有権者登録の推進や選挙における候補者支援、そして資金調達などの活動で、若者の行動力は極めて重要だ。その若者の中心ともいえる学生組織から批判がでていることは、バイデンの再選戦略にも大きな影響を与えるだろう。
UAWをはじめとした労働団体、そして学生を中心とした若者だけではない。SWC-UAW 2710の署名には、パレスチナ住民を支援するNPOやユダヤ系の平和団体、イスラエルからの投資回収を求めるNPOなども含まれている。これらの団体や人々の声と行動が、バイデン政権への圧力となり、イスラエルのガザ侵攻停止を導いていくことを期待したい。
なお、SWC-UAW 2710の署名は、以下から見ることができる。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScHA6XY8_B40zxf8Mbhys2fXYQKMUkBJ9sPKtLn6MNqUGMuww/viewform
民主党候補者指名争いにみるイスラエルのガザ攻撃への批判の声
2024年4月8日
半年前に始まったハマスとイスラエルの戦闘に関連して、今月に入ってから大きな動きが相次いでいる。
直近では、イスラエル軍がガザ地区南部から部隊の大部分を撤収させたことがある。イスラエルのガラント国防相は「南部ラファでの任務を含む、今後の任務に備えるために撤収した」と述べているうえ、ガザ地区への空爆は続けている。したがって、この動きが直ちに停戦に向かうとは考えにくい。
イスラエルの動きには、アメリカの意向が働いているという見方がある。バイデン大統領は4日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談を行い、「ガザでの民間人を保護しなければ、支援政策を見直す」と直接警告したことが、それだ。
国内で「Genocide Joe!(虐殺者、ジョー・バイデン!)」と批判され、国際的な反発を受けながらも国連の停戦決議に拒否権を連発してきたバイデン政権。なぜ、イスラエルへの姿勢を変更したかのような言動を示し始めたのか。
人道的な観点から見れば、「イスラエルによる飢餓の武器化を放置している」という批判を回避したいという意図があったのだろう。実際、バイデン政権は、食料の空輸や海上移送もやってきた、という言い訳がましい対応もしてきた。
そこで注目されるのは、ガザ地区の住民に食糧支援をしてきたアメリカのNPO、World Central Kitchen (WCK)のスタッフ7名がイスラエル軍の攻撃で殺害された事件だ。WCKは、7名が車で移動することは、イスラエル軍に伝達していたという。にもかかわらず行われた凶行に、アメリカの内外から、激しい非難の声が上がっている。バイデン政権は、この声を自らに向かわせたくないため、イスラエルに強く出たのではないか。
なぜ、バイデン政権は、イスラエル軍への非難が自らに向かうことを恐れるのか。いうまでもない。11月に大統領選挙を控えているからだ。ちなみに、4年に一度の大統領選挙の当事者は、大統領だけではない。連邦議会の上院議員の3分の1、下院の全議席、州知事のほぼ3分1、さらには州議会や自治体の首長や議員の多くも選挙を迎える。
Data for Progressが2月22日から26日にかけて全米1232人のLikely Voters (投票を行う見込みの高い有権者)に実施した発表世論調査結果によると、ガザ地区における停戦と戦闘の拡大反対を支持する回答は、67%(強く支持37%、どちらかといえば支持30%)。この割合は、民主党支持者の間では77%にのぼる。
それだけではない。予備選挙の投票動向を見ると、バイデン政権のイスラエルへの姿勢への反発の強さが見て取れる。いわゆるUncommittedという、立候補者への不信任を示す投票を促す活動が、アラブ系市民の多い、ミシガン州の予備選挙で注目を集めた。2月27日に行われた同州の予備選挙では、10万1467 人(13.2%)だった。
この活動は、依然として続いている。4月2日のウィスコンシン州の予備選挙では、Uncommittedと同様の意味をもつUninstructedの票が4万7846 票(8.4%)に達した。ミシガン州よりも実数だけではなく、割合としても少ない。しかし、ウィスコンシン州は、超激戦州のひとつで、2020年の大統領選挙で、バイデンとトランプの差は、2万0682票に過ぎなかった。仮に、Uninstructedの半数が棄権すれば、ウィスコンシン州はトランプの手に落ちる可能性がある。
もちろん、選挙は様々な要素が絡み合う。Uncommitted やUninstructedの数だけで、バイデンが危機にあるということはできない。例えば、共和党の予備選挙では、選挙戦を撤退したニッキー・ヘイリーらが一定の票を獲得している。トランプも盤石ではないのだ。予備選挙は、予備選挙。本選挙では、バイデンに投票することになるだろう、という見方も強い。
しかし、2020年の大統領選挙では、反トランプを旗印に、左派のサンダースらもバイデン支持を表明。民主党は、一本化した。だが、今回は、同じようになるかどうかわからない。特に、ガザの停戦を求める声が強いとされる若者は、非妥協的な可能性が強いだけでなく、過去の選挙活動で大きな役割を演じてきた。その若者を「敵に回す」ことになれば、バイデンの再選はおぼつかなくなる。
イスラエルの戦闘機の大半は、アメリカ製である。World Central Kitchen (WCK)の攻撃も、アメリカ製の可能性が高い。仮にそうであれば、WDKのスタッフは、アメリカの兵器によって殺害されたのだ。バイデン政権のイスラエル批判は、こうした非難を回避するためではないのか。そのご都合主義を許すつもりはない。しかし、仮にそうであっても、即時停戦は必要だ。ガザの状況は、それだけ危機的なのだから…。
なお、前述のData for Progressの世論調査結果は、以下から見ることができる。
https://www.dataforprogress.org/blog/2024/2/27/voters-support-the-us-calling-for-permanent-ceasefire-in-gaza-and-conditioning-military-aid-to-israel