2025年夏:米国におけるCovid-19政策の転換と公衆衛生の分断
2025年12月30日
アメリカでは、2025年1月に、第2次トランプ政権が誕生、COVID-19の存在やワクチンの安全性に懐疑的なRobert F. Kennedy Jr.が対策の中心となるDepartment of Health and Human Services (DHHS)のSecretaryに就任。ワクチン接種を含む感染対策が政治的対立を生み出した。しかし、2020年以降、フェイスブックなどを通じてこの問題の情報発信をしてきたものの、トランプ政権の他の政策の検討に時間を割かれたこともあり、今年年央以降、この問題を伝える時間を確保することができなかった。このため、年が変わる前に、COVID-19に関するアメリカの動きを1)感染状況、2)ワクチン接種をめぐる対立、3)コロナ対策への政府資金の提供をめぐる政治的対立、4)政府の政策への医療団体やNPOの対応、5)その他に分けて、整理することにした。すでに今年度の第一四半期(4-6月期)のレポートを掲載したが、今回は2025年7月から9月にかけての状況を把握するため、アメリカメディアの報道記事を中心に、トランプ政権下におけるCovid-19およびワクチン政策の変容、それに対する州政府や医療機関の反発、そして今後の公衆衛生への影響について整理した。なお、7-9月期だけでも274ページ、10万6000単語近くに上るため、AI (NotebookLMとGemini 3.0)で整理した内容を確認、必要な加筆修正を加えた。以下の文章が、それである。なお、「参考記事一覧」は、AIが作成するに当たり、参考にした記事である。これらの記事は、保存してあるので、希望される場合は、提供することができる。
1. はじめに:2025年7-9月期の感染状況
2025年の夏、米国ではCovid-19の新たな感染の波が確認された。Centers for Disease Control and Prevention (CDC) のデータによると、8月上旬時点で全米45州において感染が拡大または拡大の可能性が高いと報告された。特に西部や南部での感染拡大が顕著であり、下水サーベイランスではカリフォルニア州やテキサス州などで「高」または「非常に高」いウイルスレベルが検出された。
この時期に流行の主流となったのは、感染力が強いとされる新たな変異株である。
Nimbus (NB.1.8.1): 6月時点で米国の症例の43%を占め、喉にカミソリが入ったような激しい痛みを伴う「razor blade throat」と呼ばれる症状が特徴とされる。
Stratus (XFG): アジアで最初に検出され、米国でも急速に拡大。免疫回避能力が高い可能性が指摘されている。
こうした感染拡大の最中、連邦政府のワクチン政策は劇的な転換期を迎えていた。
2. トランプ政権とケネディHHS長官による政策転換
Donald Trump政権下で、Secretary of Health and Human Services (HHS)のRobert F. Kennedy Jr.,は、「Make America Healthy Again (MAHA)」というスローガンのもと、従来の公衆衛生政策を根本から覆す施策を次々と実行に移した。
(1) 専門家委員会の解体と人事介入
Kennedy 長官は、長年ワクチンの安全性と有効性を科学的に評価してきたCDCのAdvisory Committee on Immunization Practices (ACIP)に介入した。2025年6月、Kennedy 長官は ACIP の全委員17名を解任し、その空席をワクチン懐疑派を含む自身の選んだメンバーで埋めた。
さらに、CDC内部の人事にも介入した。2025年8月27日、上院で承認されてからわずか1ヶ月足らずの Susan Monarez, Director of the Centers for Disease Control and Prevention (CDC)が解任された。2025年8月28日発信のUSA TODAYによれば、彼女は Kennedy 長官とのワクチン政策を巡る対立の末、辞任を拒否したために解任されたとされる。これに抗議し、Chief Medical OfficerのDebra HouryやDirector of the National Center for Immunization and Respiratory DiseasesのDemetre DaskalakisらCDCの幹部3名が同日辞任した。後任のCDC長官代行には、Kennedy 長官の側近であるJim O’Neillが指名された。
(2) ワクチン推奨の制限とmRNAワクチン研究の打ち切り
Food and Drug Administration (FDA)は8月27日、最新のCovid-19ワクチンの承認を行ったが、その対象を「65歳以上の高齢者」および「基礎疾患を持つリスクの高い個人」に限定した。これにより、健康な65歳未満の成人や小児は、事実上ワクチンの定期接種推奨から外れることとなった。
さらに、2025年8月6日発信のAssociated Pressの記事によれば、Kennedy 長官は、Covid-19やインフルエンザ対策として進められていたmRNAワクチン開発プロジェクト22件、総額5億ドル(約750億円)相当の資金提供を打ち切ると発表した。彼はmRNA技術を「トラブル続き」と批判し、より広範な変異に対応できる従来型のワクチン開発に資金を振り向けるとした。
(3) フロリダ州における全ワクチン義務化の撤廃
連邦政府の動きに呼応するように、共和党が優勢な州でも急進的な動きが見られた。9月3日、フロリダ州知事のRon DeSantisとSurgeon GeneralのJoseph Ladapo長官は、公立学校を含め、州内の「すべてのワクチン義務化」を撤廃する方針を発表した。Ladapo長官は記者会見でワクチン義務化を「奴隷制」になぞらえ、個人の自由を守る措置だと主張した。
3. 州政府による対抗措置:分断される医療アクセス
連邦政府の方針転換により、ワクチンの入手が困難になることを懸念した民主党主導の州(ブルーステート)は、独自の対策に乗り出した。
(1) West Coast Health Alliance(西海岸健康同盟)の結成
9月3日、カリフォルニア、オレゴン、ワシントンの各州知事は、連邦政府の科学的根拠に基づかない政策に対抗するため、West Coast Health Alliance を結成した(後にハワイ州も参加)。この同盟は、CDCに代わり、独自の科学的レビューに基づいてワクチン推奨を行うことを目的としている。
(2) ニューヨーク州等の緊急措置
連邦政府の制限により薬局でのワクチン接種が困難になる事態を懸念した州は、以下のような独自の措置を打ち出した。
ニューヨーク州: Kathy Hochul, Governor of New York は9月5日、薬剤師が医師の処方箋なしでCovid-19ワクチンを投与できるようにする行政命令に署名した。
アリゾナ州: 民主党の Katie Hobbs, Governor of Arizona も同様に、処方箋なしでワクチンを入手可能にする行政命令を出した。
その他、ニューメキシコ州やマサチューセッツ州なども、薬局でのアクセス確保や保険適用の継続を求める措置を講じている。
4. 医療・研究機関および市民社会からの反論と要求
トランプ政権とHHSが主導する「4つの事実(政策変更)」に対し、米国の医療コミュニティは強い危機感を表明し、具体的な要求を行っている。
事実1:ACIP委員の総入れ替えと科学的プロセスの軽視
Kennedy 長官による ACIP 委員の解任と、ワクチン懐疑派の登用に対し、専門家は激しく反発している。
American Academy of Pediatrics (AAP)など主要な医療6団体は、7月8日にボストンの連邦裁判所に提訴した。彼らは、科学的根拠に基づかない手続きで小児や妊婦へのワクチン推奨を削除したことは連邦法違反であると主張している。
Paul Offit, M.D., Director of the Vaccine Education Center at Children’s Hospital of Philadelphiaは、現在の状況を混乱を招くものであると批判し、専門知識を持たない人々による決定が公衆衛生を危険にさらすと警告している。
事実2:ワクチンアクセス制限(健康な小児・妊婦・65歳未満の除外)
CDCが健康な小児や妊婦を推奨から外したことに対し、専門団体は独自のガイダンスを発表して対抗している。
American Academy of Pediatrics (AAP)は8月20日、CDCの方針に反し、生後6ヶ月から2歳の小児に対してもCovid-19ワクチン接種を「強く推奨」する独自の指針を発表した。
American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG)も8月23日、妊娠中のワクチン接種を推奨する立場を再確認する声明を出し、CDCの変更に追随しない姿勢を鮮明にした。
Jerome Adams, former U.S. Surgeon Generalは、FDAの新たな制限について「深い懸念」を表明し、基礎疾患の定義が曖昧な中で、多くの人がワクチンから遠ざけられるリスクを指摘している。
事実3:専門家の排除とCDC職員への圧力
Monarez 氏の解任や職員への圧力に対し、現場からは悲鳴に近い抗議の声が上がっている。
CDCのアトランタ本部では、8月8日にワクチン陰謀論を信じる男による発砲事件が発生した。これを受け、8月29日時点で750名以上の現・元HHS職員が署名した書簡が公開された。彼らはKennedy長官に対し、誤情報の拡散をやめ、職員の安全と科学的整合性を守るよう要求している。
辞任したDebra Houry 氏らCDC元幹部は、2025年8月29日発信のReutersのインタビュー記事の中で、Kennedy 長官が指名したアドバイザーたちが「データを見る前に結論ありき」で推奨を作成しようとしていたと暴露し、「危害を加えることになる(harm is going to happen)」ため辞任せざるをえなかったと語った。
事実4:mRNAワクチン研究資金の打ち切りと反科学的レトリック
mRNAワクチンの研究資金5億ドルの打ち切りについて、研究者からは将来のパンデミックへの備えを弱体化させるとの批判が出ている。
Chief of Pediatric Infectious Diseases at UC DavisのDean Blumbergは、この決定が科学の進歩を無視し、「時間を逆戻りさせる」ものであると警告した。彼はmRNA技術が次のパンデミック(例えば鳥インフルエンザなど)への迅速な対応に不可欠であると主張している。
Director of the Center for Infectious Disease Research and Policy at the University of MinnesotaのMike Osterholmは、「公衆衛生における50年のキャリアの中で、これほど危険な決定は見たことがない」と述べ、決定的な過ちであると断じた。
5. 結論
2025年夏の米国は、Covid-19の再流行というウイルス学的脅威と、連邦政府による科学的コンセンサスの解体という政治的脅威の二重の危機に直面していた。Kennedy 長官主導の連邦政府は、ワクチンの安全性への疑義を政策の中心に据え、専門家の排除とアクセスの制限を進めていった。これに対し、医学界や一部の州政府は、科学的根拠に基づいた独自のネットワークを構築して対抗しようとしているが、国民へのメッセージはかつてないほど混乱しており、特に低所得者層や医療アクセスの乏しい地域での健康格差の拡大が懸念される。
参考資料リスト
本レポートの作成にあたり、以下の記事・資料を直接参照した。
Is the US in a Summer COVID Surge? Cases Are Rising in These States, TODAY, August 9, 2025.
New ‘Stratus’ Variant Spreading Rapidly In US, The HealthSite.com, August 9, 2025.
New COVID variant 'Stratus' is spreading in the U.S. and worldwide, USA TODAY, August 6, 2025.
Bernie Sanders Launches Investigation of RFK Jr.’s Attacks on Vaccine Access, Truthout, July 30, 2025.
Pharmacies are not offering Covid-19 shots in 16 states, The Independent, August 30, 2025.
"Do no harm": Why three CDC officials left over vaccine policy, Reuters, August 29, 2025.
RFK Jr. Scores MAHA Win as Trump Taps His Deputy For Top CDC Role, The Daily Beast, August 29, 2025.
Trump fires CDC Director Susan Monarez, USA TODAY, August 28, 2025.
Kennedy halts funding for vaccines to fight Covid-19 and flu, Associated Press, August 6, 2025.
DeSantis to make Florida first state to end all vaccine mandates for schools, The Independent, September 4, 2025.
States form vaccine policy coalitions amid federal policy shifts, WCVB ABC5, September 3, 2025.
Hochul signs order letting New Yorkers get COVID-19 vaccine, Watertown Daily Times, September 6, 2025.
Gov. Hobbs orders that new COVID shots be available in Arizona, Tucson.com, September 11, 2025.
Medical groups suing RFK Jr. over vaccine policy change, FOX News, July 8, 2025.
US pediatricians’ new COVID-19 shot recommendations differ from CDC advice, Associated Press, August 20, 2025.
Another major medical association breaks from CDC as ob/gyn group recommends Covid-19 vaccines during pregnancy, CNN, August 23, 2025.
Trump and RFK Jr. to Ban COVID-19 Vaccine ‘Within Months’, The Daily Beast, August 25, 2025.
Court Ruling Clears the Way for Hundreds of CDC Staff to Be Laid Off, Truthout, August 22, 2025.
'Takes us back in time': UC Davis expert warns of risks from federal vaccine funding cuts, KCRA 3, August 8, 2025.
R.F.K., Jr., Brings More Chaos to COVID Policy and the C.D.C., The New Yorker, September 6, 2025.
アメリカのCOVID-19に関連する動き:2025年4-6月期
2025年12月29日
2019年12月に新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)が発生、翌年1月から世界中に感染が拡大していく中で、公衆衛生だけでなく、政治経済そして社会にも大きな影響を世界全体に与えていった。アメリカでは、2025年1月に、第2次トランプ政権が誕生、COVID-19の存在やワクチンの安全性に懐疑的なRobert F. Kennedy Jr.が対策の中心となるDepartment of Health and Human Services (DHHS)のSecretaryに就任。ワクチン接種を含む感染対策が政治的対立を生み出した。しかし、2020年以降、フェイスブックなどを通じてこの問題の情報発信をしてきたものの、トランプ政権の他の政策の検討に時間を割かれたこともあり、今年年央以降、この問題を伝える時間を確保することができなかった。このため、年が変わる前に、COVID-19に関するアメリカの動きを1)感染状況、2)ワクチン接種をめぐる対立、3)コロナ対策への政府資金の提供をめぐる政治的対立、4)政府の政策への医療団体やNPOの対応、5)その他に分けて、整理することにした。作業に当たり、今年に入っても続けてきたメディア報道の記事の切り抜きを活用することにした。とはいえ、膨大な量に上るため、4-6月期、7-9月期、10-12月期の3期に分けて紹介していく。4-6月期だけでも94ページ、3万7000単語余りに上るため、AI (ChatGPT)で整理した内容を確認、必要な加筆修正を加えた。以下の文章が、それである。なお、「参考記事一覧」は、AIが作成するに当たり、参考にした記事である。これらの記事は、本文を保存してあるので、希望される場合は、提供することができる。
アメリカのCOVID-19に関連する動き:2025年4-6月期
1.COVID-19の感染、入院、死亡動向(2025年4~6月)
2025年4月から6月にかけての英語圏メディア報道は、米国において連邦政府による新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の包括的監視体制が縮小された後も、COVID-19が依然として公衆衛生上の重要課題であり続けていることを一貫して示している。全米規模での感染者数、入院者数、死亡者数の定期的集計は終了したものの、病院データ、専門家への取材、地方レベルの統計に基づく報道は、SARS-CoV-2が引き続き有意な疾病負荷をもたらしていること、とりわけ高齢者やその他の脆弱集団に深刻な影響を及ぼしていることを強調している。
全国紙のUSA Today は、COVID-19による入院がすべての年齢層で確認されており、その約3分の2が65歳以上の高齢者に集中していると報じた。小児については、過去の感染拡大期と比べて入院者数は減少しているものの、特に4歳未満では季節性インフルエンザと同程度であるとされ、COVID-19がすでに疫学的に無視できる存在となったとする見方に疑問を投げかけている。
新たな変異株の出現も状況を複雑化させた。HuffPostは、中国で初めて確認され、その後米国でも検出されたNB.1.8.1変異株について、世界の検体中に占める割合が1か月で約2.5%から10%へと急増したと報じている。World Health Organization (WHO) および米国の専門家は、現時点で重症度や死亡率の上昇を示す証拠は確認されていないとしつつも、感染力の増大が免疫低下集団やワクチン接種率の低い集団において新たな流行波を引き起こす可能性を指摘している。
妊婦は、特に高リスク集団として繰り返し取り上げられた。報道では、妊娠中のCOVID-19感染が、同年代の非妊娠女性と比較して、入院、集中治療室(intensive care unit, ICU)入室、人工呼吸器使用、死亡のリスクを高めることが強調されている。また、生後6か月未満でワクチン接種ができない乳児は、高齢者と同程度の入院リスクを有するとされ、母体免疫による間接的防御の重要性が示唆されている。
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2.ワクチン安全性をめぐる議論と科学的知見
2025年4~6月の報道において、COVID-19ワクチンの安全性は最も争点化したテーマの一つであった。ただし、その多くは新たな科学的証拠に基づくものではなく、政治的判断や制度変更に強く影響されていた。複数のメディアは、Department of Health and Human Services (DHHS)のSecretary、Robert F. Kennedy Jr. による政策変更が、医学界の安全性評価にもかかわらず、市民の不信感を拡大させた経緯を報じている。
NPOのメディア、Mother Jones は、Centers for Disease Control and Prevention (CDC) の Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) の委員全員が解任された決定を詳述し、これに対して 医療系のNPO、American Medical Association (AMA) や American Academy of Pediatrics (AAP) が強い懸念を示したと伝えた。
USA Today や CBS News に登場する専門家は、COVID-19ワクチンに関連する重篤な副反応は極めて稀であると繰り返し説明している。心筋炎(myocarditis)についても、ワクチン接種後の発症頻度は低く、通常は軽症であり、むしろCOVID-19感染後の方がリスクは高いとされている。
妊娠中のワクチン接種をめぐる安全性は特に大きな論争を呼んだ。HIT Consultant や Ottawa Citizen の報道によれば、数十万例規模の国際研究データは、妊娠中のワクチン接種が安全であり、重症化、早産、新生児合併症のリスクを低下させることを示している。
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3.COVID-19関連財政をめぐる政治的対立
2025年中頃、COVID-19関連財政をめぐる政治的対立は激化し、公衆衛生政策をめぐるイデオロギー的分断を明確に示した。象徴的な事例が、パンデミックインフルエンザ対策としてのmRNAワクチン開発を目的とした、Moderna との総額7億6600万ドル規模の連邦契約の打ち切りである。
Associated Press によれば、この決定は、臨床試験の中間結果が良好であり、H5N1型鳥インフルエンザの人への感染拡大が懸念される状況下で行われた。専門家は、これを国家的パンデミック対応能力の弱体化につながるものとして批判した。一方、支持者は、mRNA技術の安全性や公的資金投入への懐疑を理由に擁護した。
また、USA Today は、Centers for Disease Control and Prevention (CDC) による接種勧奨の縮小により、65歳未満の健康な成人が保険適用外となり、1回あたり約200ドルの自己負担が生じる可能性を指摘した。
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4.政府政策に対する市民社会・非営利団体の反応
この時期、市民社会組織は政府のCOVID-19政策に対する主要な批評主体として機能した。American Medical Association (AMA)、American Academy of Pediatrics (AAP)、Infectious Diseases Society of America (IDSA) などの専門職団体は、科学的助言プロセスを軽視する政策決定を批判し、ワクチンの安全性と有効性を改めて強調した。
カナダの医療団体も米国の政策変更に懸念を表明し、Ottawa Citizen は、Society of Obstetricians and Gynecologists of Canada (SOGC) が妊婦へのワクチン接種を引き続き推奨する立場を明確にしたと報じている。
一方、Children’s Health Defense や Americans for Health Freedom といった反ワクチン系団体は、これらの政策変更を「医療の自由」の勝利として歓迎した。
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5.メディア効果、社会的影響、その他の論点
一部の報道は、COVID-19が社会に及ぼした広範な影響にも焦点を当てた。アジア系メディアのNextShark および PsyPost は、COVID-19報道の増加が、米国内におけるアジア系住民への否定的感情の高まりと統計的に有意な関連を有することを示したAmerican Politics Researchの研究を紹介した。この影響は、特に Donald Trump 大統領の支持者層で顕著であり、政治化された言説と結びついていた。
参考記事一覧
1. Karen Weintraub, “Want a COVID vaccine? It could cost you $200,” USA Today, May 29, 2025.
2. Julia Ries, “A New COVID Variant Is Spreading Quickly — These Are The Symptoms Doctors Are Warning About,” HuffPost, June 3, 2025.
3. Heather Bosch, “‘This Is a Tragedy’: UW Doctor Pushes Back Against RFK Jr.’s COVID Vaccine Recommendations,” HIT Consultant, June 6, 2025.
4. Alexander Tin, “CDC Now Says Kids ‘May Receive’ COVID-19 Vaccines,” CBS News, May 30, 2025.
5. Kiera Butler, “RFK Jr. Fires the CDC Vaccine Experts—and the Anti-Vaxxers Rejoice,” Mother Jones, June 11, 2025.
6. Elizabeth Payne, “Canadian Experts Strongly Recommend COVID Vaccines in Pregnancy Amid U.S. Policy Changes,” Ottawa Citizen, May 30, 2025.
7. Aria Bendix, “FDA Grants Limited Approval to New Covid Vaccine from Moderna,” NBC News, June 2, 2025.
8. “Trump Administration Cancels $766 Million Moderna Contract to Fight Pandemic Flu,” Associated Press, May 29, 2025.
9. Ryan General, “COVID-19 Coverage Spurred Rise in Anti-Asian Hate, Especially Among Trump Supporters,” NextShark, June 25, 2025.
10. Eric W. Dolan, “COVID-19 Coverage Linked to Rise in Anti-Asian Sentiment,” PsyPost, June 17, 2025
死者数の高止まりや新たな変異株の発見…、沈静化しないコロナ禍における政府のワクチン接種対策後退に批判の声
2025年5月27日
アメリカ政府は2年前、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ感染)に関する国家緊急事態と公衆衛生緊急事態を解除した。世界保健機関(WHO)がコロナ感染の「国際的な公衆衛生上の緊急事態」の終了を、2023年5月6日に発表した直後のことだ。コロナ感染対策の緩和や撤廃が進むとともに、「コロナ禍は収束した」という認識が広がっている。しかし、その後も、相次いで新たな変異株が登場し、感染だけでなく、入院や重症者、そして死者も出続けている。アメリカでは先週、新型コロナウイルス感染症に関連する報道が相次いだ。ピーク時に比べればはるかに少ないとはいえ、依然として死者が高い水準で継続し、新たな変異株が発見されたにもかかわらず、ワクチン接種の対象者を大幅に削減させる措置が打ち出されたためだ。この事態に、コロナ対策の充実を求めているNPOなどから批判の声がでている。
新型コロナウイルス感染症の患者がアメリカで最初に確認されたのは2020年1月21日で、中国からワシントン州に帰国した人だった。同年3月に入るとニューヨーク州などで感染者が急増、ピークとなった2021年1月3日から9日までに1週間には2万5974人に死亡が確認されるなど、極めて深刻な状況に陥った。その後、ワクチンの開発や接種が進み、感染者だけでなく、入院や重症に至る人、そして死者も大幅に減少した。とはいえ、2024年春には1週間の死者数が300人台になったものの、8月から9月には1000人を超える状態が継続。11月に減少したが、12月に入るとまたしても増加に転じ、今年1月には1週間の死者が1000人を超えた。その後、感染状況が落ち着きを見せているが、4月から5月にかけて毎週300人ほどの死者がでるなど、「コロナを抑え込んだ」といえない状態だ。
コロナ感染による死者が毎週300人という高い水準で推移している背景として、いくつかの要素が指摘されている。ひとつは、新たな変異株の出現である。例えば、連邦政府のCenters for Disease Control and Prevention (CDC)によると、いずれも推計値だが、今年の2月1日までの2週間に最も多く確認された株はXECの38%。次いでLP8.1が22%、そしてKP3.1.1の12%と続いた。かつて最大の割合を占めていたJN.1は、わずか1%にすぎなくなっていた。ところが、5月1日までの2週間になると、LP8.1が70%と圧倒的な広がりをみせた。一方、年初には最も多かったXECは6%に低下。また、XFCという年初には統計上0%となっていた、比較的新しい株が9%を占めた。KP3.1.1も、直近では1%にすぎない。なお、これらは、いずれもオミクロン株の亜種である。
このように、新型コロナウイルスは、次々と新しい変異株、そしてその亜種が生まれ、入れ替わっていく。それそれの変異株や亜種は、特徴がある。上記のように最近流行しているのは、オミクロン株の亜種なので、同じワクチンでも一定の効果は期待されるものの、常に新たな新型コロナウイルス感染症用のワクチン(以下、コロナワクチン)の製造と接種が求められる。したがって、対策も容易ではない。感染がピークを迎えると、重傷者や死者が減少するのが一般的な他の感染症の事例と異なり、高止まり状態が続き、増減が繰り返されていくからだ。現在、世界的には、中国を中心にNB.1.8.1という変異株が流行。一方、前述のLP8.1は、アメリカをはじめとした北米に加え、南米の一部やヨーロッパ、南アフリカなどで広がりを見せている。
しかし、これまでほとんど見られなかったNB.1.8.1が、アメリカ各地で発見されるようになった。これが、最近、新型コロナウイルス関係の報道が相次いでいる第2の理由だ。空港で海外からの渡航者に対する新型コロナウイルスの任意の検査をCDCと連携して実施しているGinkgo Bioworksによると、カリフォルニア、ワシントン、バージニア、ニューヨークの各州などの空港で、日本などからの入国者からNB.1.8.1株が発見された。これらは、いわゆる水際対策の成果といえる。しかし、オハイオ州とロードアイランド州、そしてハワイ州では、空港以外にNB.1.8.1が検出されたのである。検出された件数そのものは、ごく少数なので前述の変異株の種類と割合を示したCDCの統計には名称とともに示されるには至っていない。とはいえ、空港外、そして中西部のオハイオ州、大西洋岸北部のロードアイランド州、そして太平洋上のハワイ州と、全く異なる地域で発見されたことは、NB.1.8.1がかなりの地域で広がっているといえよう。
では、NB.1.8.1は、新型コロナウイルス感染症対策(以下、コロナ対策)にどのような影響があるのだろうか。比較的新しい株ということもあり、NB.1.8.1の特性などは十分に把握されていない。しかし、これまでの調査研究によると、NB.1.8.1は、以前のいくつかの変異株と比較して高い感染率を示している。この変異体がヒト細胞に結合する能力が増強されているためと見られる。ただし、感染した場合に症状の悪化が他の株よりも深刻であるという兆候は確認されていない。とはいえ、感染率が高いということは、いずれ現在主流のLP8.1などに代わり、アメリカでも主流になっていくことが予想される。前述のように、NB.1.8.1はオミクロン株の一種であり、現在利用されているワクチンの効果が期待できる。ただし、ModernaやPfizerなどのメーカーは、LP.8.1に対応可能なワクチンの開発を進めており、NB.1.8.1にも効果があるとの報告がなされている。
WHOは5月23日、NB.1.8.1が複数の国で存在し、公衆衛生に影響を与える可能性があることから、正式にVariant Under Monitoring (VUM:監視中の変異株)に分類した。NB.1.8.1が確認されたアメリカでは、ウイルスへの監視に加え、予防措置の拡充などのコロナ対策を進めるべきという考えがでてきても不思議はない。しかし、連邦政府のFood and Drug Administration (FDA)のCommissioner Martin Makary氏とワクチン管理部門のVaccines and Related Biological Products Advisory Committee (VRBPAC)の責任者Vinay Prasad氏は5月20日に公開された医療系雑誌New England Journal of Medicine (NEJM)への投稿文の中で、コロナワクチンの定期接種を65歳以上の高齢者と重症化のリスクのある疾患をもつ65歳未満の人々に限定する考えを表明した。投稿文では、ヨーロッパ諸国などが65歳以上、もしくはそれ以上の年齢層に限定して行っていることや、65歳未満の感染者に重症化のリスクが低いことなどを指摘。「高リスクの人に対するワクチンを承認すると同時に、低リスクの人に関する確固たるゴールドスタンダードのデータを要求する」と述べ、バランスの取れた措置だと自画自賛している。
しかし、FDAのトップふたりによる投稿文への批判がでてきた。ひとつは、意思決定の方法についてである。FDAのVRBPACは通常、CDCのAdvisory Committee on Immunization Practices (ACIP)と呼ばれる委員会と連携して、ワクチンの承認と推奨事項を公にレビュー、評価、および議論する方法を採ってきた。今回は、5月22日にVRBPACの会議で了承されたものの、それ以前にFDAの単独で、しかも外部の研究誌にプランを表明、既成事実化する形になっている。また、65歳以上の高齢者と重症化のリスクのある疾患をもつ65歳未満の人々に限定する措置への批判もでた。例えば、コロナ感染やワクチン接種に関連した政策提言などを行っている市民団体、People’s CDCは5月23日、メールマガジンで” Trump's FDA is taking away our vaccine Access. By end of today, tell them we need universal COVID vaccine access”と題する一文を発信。妊婦や若年層で重症化するリスクを持つ人々への接種が妨げられるとして、FDAの方針を批判した。
さらに、People’s CDCは、このタイトルにあるように、コロナワクチンの接種が続けられるように、FDAに要請文を送るように呼び掛けている。受付期限が5月23日の午後11時59分までと、People’s CDCがメールマガジンを発行した日と同じだ。このため、要請文を送った人は、それほど多くないと推察される。とはいえ、期限が迫っていてもギリギリまで努力するという姿勢は、市民団体として重要だ。なお、これに先立ち、5月22日に開催されたFDAのVRBPACに向けて、8000通の要請文を送付されたが、そのうち2000通はPeople’s CDCの購読者からだったという。一般的にパブリックコメントと呼ばれる政府への要請文は、ひな形に沿って書かれたものが送付されることが少なくない。しかし、People’s CDCは、要請者自身またはその家族や地域の人々がなぜワクチン接種を求めるのか、個人としての思いを盛り込んだ文章にして送ることを求め、そのためステップバイステップの書き方を示している。
1971年に消費者運動家として知られるRalph Naderらによって設立されたNPO、Public CitizenもFDAのVRBPACにおける議論に関係して、ふたつの問題を提起している。Public CitizenのSenior Health ResearcherのMichael T. Abrams氏の名前で5月23日に出された声明文に示された問題のひとつは、People’s CDCの批判と同様に、ワクチン接種を65歳以上の高齢者などに限定した点だ。Abrams氏は、65歳未満で健康な人であっても家族などにハイリスクの人がいる可能性を指摘。また、コロナ後遺症の回避や緩和のために接種を望むこともあると述べている。もうひとつは、トランプ政権下の連邦政府職員の大幅削減がコロナ感染対策に影響が出るのではないかという懸念である。Abrams氏は具体的な人数を示していないが、4月1日発信のUSA Todayの” Trump administration starts mass layoffs at health agencies”という記事は、CDCとFDAで合わせて1万人の人員削減が行われると伝えている。政権による人員削減が人々の命にかかわる問題に影響する可能性を示唆しているといえよう。
なお、コロナ対策を市民サイドから捉え、教育啓発を行っているPeople’s CDCのメールマガジンは、以下のサイトでメールアドレスを打ち込むだけで、購読することができる。
https://peoplescdc.substack.com/
「コロナ後遺症」月間・週間、患者団体などが社会啓発や支援策を求め実施
2025年3月11日
新型コロナウイルス感染症も5年が経過し、人々の意識から薄れつつある。しかし、いまもなお、多くの人々が病に伏せ、亡くなっている。それだけではない。感染症による「後遺症」に苦しんでいる、膨大な数の人々も存在する。この状況に対して、後遺症の患者やその家族などによる活動がアメリカ国内だけでなく、海外にも拡大。毎年3月を「コロナ後遺症月間」、中旬には「週間」が設定され、社会啓発や後遺症患者への支援政策を求める活動が展開されている。
「コロナ後遺症」月間・週間とその具体的な動きを見る前に、後遺症の実態について紹介しておこう。そもそも「コロナ後遺症」とはなんなんのか。英語では、Long COVID (LC)などと呼ばれることが多い。統一的な定義があるわけではないが、新型コロナウイルス感染症にかかった後、3カ月以上にわたりなんらかの健康障害が継続する状況を指すことが一般的だ。
後遺症の症状は多様かつ、患者による相違も大きい。典型的な症状には、味覚や嗅覚の障害があげられる。また、疲労感の継続や集中力の低下、記憶障害、頭痛、睡眠障害なども多い。特定の症状だけの人もいれば、複数の症状が現れ、苦しんでいる人も少なくない。後遺症の原因になった症状は、必ずしも重症ではなく、軽症の患者にも発生者がみられる。さらに、人種や性別、年齢などにより発生率に差が見られるものの、新型コロナウイルスの感染者であれば、誰にでも発症しうる。
では、どのくらいの人が「コロナ後遺症」に悩まされているのだろうか。2024年3月~4月にかけて、連邦政府のCensus BureauとNational Center for Health Statistics Household Pulse Surveyが実施した調査によると、全米の成人のうち17.6%の人々が「コロナ後遺症」にかかった経験があるという。これ以外の調査でも、新型コロナウイルスに感染した人のうち20%程度が後遺症を引き起こすとされている。
このため、患者団体のひとつ、COVID-19 Longhauler Advocacy Projectは、全米の3億3145万人の20%が「コロナ後遺症」になった経験があると推定。人口比から推測すると、その数は6629万人にのぼる。また、連邦政府のDepartment of Veteran Affairsによれば、複数の症状が現れた人の方が単一の症状の患者より入院の確率などが高い。感染後に比べれば少ないとはいえ、後遺症による死者も5000人を超えているという。
「コロナ後遺症」の患者団体は、政策的な支援を求めている。そのためには、単に味覚や臭覚に異常をきたす人が少なくない、というだけでは不十分だ。労働市場への影響など、経済的なネガティブなインパクトを提示、患者救済が経済社会にとっても必要という認識を広げようとしている。
例えば、2022年に、David Cutlerという経済学者が全米で350万人が「コロナ後遺症」による就労困難な状況にあると推計。過去5年間に後遺症患者の状況が同様と仮定した場合、質調整生存年(Quality Adjusted Life Year)や後遺症がなかった場合の所得及び医療費負担などによる経済的損失が37兆ドルに上る。また、Economist Impactが2024年に実施した調査では、同年だけで15億時間の労働が「コロナ後遺症」によって奪われた結果、1526憶ドルの所得がなくなったとしている。
こうしたデータの提示に加えて、患者団体などは、「コロナ後遺症」月間・週間を設定。後遺症への理解を求めるとともに、患者への支援を求める政策活動を進めてきた。今年も、3月を#LongCOVIDAwareness2025月間に設定。同月10日から16日までを週間として、以下のような活動を提起している。なお、これらの活動の中には、3月12日のウェビナーのように#LongCOVIDAwareness2025の実施団体が主催するものもあるが、大半は各地の患者とその家族、支援者が行うように求めたものだ。
・3月10日
「地域からの支援と理解をえるための一日」と銘打って、支援団体のウェブサイトに掲載されている後遺症患者の写真やプロフィールを更新する他、Center for Independent Livingなど地域や州の障害者団体に「コロナ後遺症」向けの活動に取り組むように要請
(注)アメリカでは、日常生活に支障をきたす症状が出た患者も「障害者」と位置付けられ、法的な救済の対象になる。「コロナ後遺症」向けの活動に障害者団体が取り組むように求めるのは、このような社会的な背景がある。
・3月11日
「政府の政策の成否を確認する一日」というスローガンの下、正副大統領、連邦議会議員、州知事・州議会議員に対して、「コロナ後遺症」への理解と緊急対策を求める行動を実施。また、政府が最近導入した「コロナ後遺症」対策が患者らにどのような影響を与えているか、SNSなどに投稿
・3月12日
「『コロナ後遺症』の子どもや介護者への理解を求める一日」というテーマで、東部時間午後2時からMichael Osterholm医師によるウェビナーを開催。また、教育委員会に相当する学校区に連絡を取り、「コロナ後遺症」に関する情報を提供、理解を求め、後遺症の子どもや介護者についての教育を学校で促進
・3月13日
「公共政策の成否を確認する一日」と題して、新たに厚生労働長官に就任したRobert Kennedy Jr.のオフィスに連絡をして、「コロナ後遺症」の緊急性を訴えるとともに、これまでの政策を変更するよう要請
・3月14日
「公の場で支援要請や亡くなった人々への追悼のための一日」という言葉で、「コロナ後遺症」への理解を深め、支援を獲得するために、街頭でチラシやマスクを配布する活動に加え、ビジルや写真展を開催。また、後遺症の問題に取り組む医療関係者に感謝の気持ちを伝えるためのイベントを実施
・3月15日
「コロナ後遺症の日:5年後の今」というタイトルで、東部時間午後3時10分から20分の間に、「黙とう」を実施。また、午前8時から午後11時まで、毎時間ごとに、「コロナ後遺症」に関するデータや情報を提供するセッションに加え、オンラインによるイベントや集会を開催
・3月16日
「お疲れ様、休息をとりつつも生涯にわたるアドボカシーに向けて」という呼びかけで、主催者側から参加者に感謝の言葉を送るとともに、ひと時の休息を提案。そのうえで、今後も活動を継続していく必要性について、「月間」である3月だけでなく、これからの毎日続けていくことが求められていると指摘
このように、「コロナ後遺症」週間には、地域の人々や教育現場で後遺症への理解を求める他、政府への働きかけ、そして後遺症についてよりよく理解するためのセッションまで、幅広い活動が展開されている。また、前述のように、活動は、「週間」だけではない。3月1日から31にまで「月間」でも行われているのである。さらに、イギリスのLong Covid Supportと共同の活動も企画されるなど、今年は、この問題に対する国際的な連帯の動きが進んだ。Long Covid Supportは、「コロナ後遺症」の患者らから寄せられた生地を集め、患者のひとりでもあるアーティストにより患者とその介護者のためのタペストリーとして位置づけられていくという。
なお、新型コロナウイルス感染症の後遺症の実態や「コロナ後遺症」月間・週間については、以下のサイトのデータや記事などを参照されたい。
https://www.longhauler-advocacy.org/
治療薬開発など政府の「コロナ後遺症」対策の遅れ、罹患者や患者団体が批判
2025年1月25日
日本では1月15日、アメリカでは1月20日。それぞれの国内で、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)で、感染者が初めて確認されてから5年目に当たる日だ。この「記念日」に、両国のメディアは、当時の状況を振り返ったり、感染の現状や今後の課題などについてて伝えている。また、依然として感染が続いていることへの警戒感やワクチン接種を含めた予防対策の必要性の指摘など、共通の報道内容も少なくない。一方、「コロナ後遺症」については、日本ではほとんどみられない反面、アメリカではかなり報じられている。その背景には、1700万人ともいわれる後遺症に苦しむ人々の存在と、依然として有効な治療薬などが開発されていないことに対して、患者と彼らを中心にしたNPOが政府や議会に対策を求めていることなどがあるといえよう。
「コロナ後遺症」には、画一的な定義があるわけではない。日本の厚生労働省は、新型コロナに罹患した後に、「感染性は消失したにもかかわらず、他に原因が明らかでなく、罹患してすぐの時期から持続する症状、回復した後に新たに出現する症状、症状が消失した後に再び生じる症状の全般」と定義。世界保健機関(WHO)は、新型コロナに罹患した人にみられ、「少なくとも2ヵ月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないもの」と説明している。
一方、アメリカの疾病予防管理センター(CDC)の定義は、新型コロナ感染後も継続、または感染後に発症する徴候、症状、および状態全般という幅広いものだ。なお、後遺症の症状は、発熱や倦怠感などの一般的なものに加え、呼吸器や心臓の疾患に見られがちな咳や呼吸困難、胸の痛み、頭痛や睡眠障害、味覚障害、うつ症状などの神経性の病など、多岐にわたる。なお、コロナ後遺症の英語の呼び名は、Long COVID、Post-COVID Conditions, Long-haul COVIDなどさまざまだが、Long COVIDが最も多く用いられているように感じられる。
では、コロナ感染症に苦しむ人は、どのくらいるのか。日本の場合、厚生労働省の調査によると、2022年9月までに新型コロナに感染し、咳やけん怠感などが2か月以上続く症状があると答えた人の成人の割合は、札幌市で23.4%、大阪府八尾市で15.0%、東京・品川区で11.7%に及んだ。5歳から17歳の子どもを調査した札幌市と八尾市では、いずれ6.3%と、成人より大幅に少なかった。
アメリカでは、さまざま調査が行われてきた。2023年9月には、CDCなどが”Long COVID in Adults: United States, 2022”と題する報告書を発表した。この報告書によると、回答者の6.9%がコロナ後遺症にかかったことがあると回答。また、調査時点で症状があるという人は、3.4%にのぼった。性別では女性の方が男性よりも症状者が多く、年齢別では35-49歳の人々の割合が最も高く、発症経験者が8.9%、調査時点で症状が出ている人も4.7%に達した。人種別では、黒人の割合が最も高く、アジア系が最も低かった。
政府による本格的なコロナ後遺症対策は、Researching COVID to Enhance Recovery (RECOVER)から始まったといえる。連邦議会は2020年12月、日本の旧厚生省に相当するDepartment of Health and Human Servicesの一機関、National Institutes of Health (NIH)に11億5000万ドルの予算を承認した。その目的は、コロナ後遺症の疾患をより精密に把握し、潜在的な治療法の臨床試験を実施する基盤を作ることだった。しかし、予算の多くは、観察研究や病態生物学研究に投入され、罹患者が期待する治療薬の開発は進んでいない。
この点について、New York UniversityでRECOVER-関係の研究に携わってきたLeora Horwitz博士は、KFF Health Newsの” Long COVID Patients Frustrated That Federal Research Hasn't Found New Treatments— Over $1 billion of funding has so far failed to bring any new therapies to market”と題する記事の中で、症状が多岐にわたっていることなどを指摘。コロナ後遺症以外の病気では、数十年の歳月をかけ、資金もより多く投入されているケースもあるなどと述べ、研究に時間がかかることへの理解を求めている。しかし、治療薬が開発され、Food and Drug Administration (FDA)の認可がでなければ、医療保険の対象にならない。このため、罹患者は、高額な治療費の負担に悩まされる、と上記のKFF Health Newsの記事は伝えている。
前述のように、アメリカにおけるコロナ感染者確認から5年後の1月20日前後、メディアはコロナ禍について報道、そのなかには後遺症に関するものも少なくなかった。例えば、1月23日付のTechnology Networkは” Females Have a Higher Associated Risk of Developing Long COVID”という記事の中で、University of Texas Health Science Center at San Antonioの調査結果を紹介。女性の後遺症の発生率が男性に比べ31%も高い、と指摘した。また、同じ日に発信されたMedical Xpressの” Long COVID symptoms linger: Study shows no major changes in second year”と題する記事は、ドイツの大学の研究に基づき、後遺症を患った人の3分の2は、身体運動能力や認知テストのパフォーマンスが低下しているだけでなく、1年以上にわたって持続的な客観的な症状を示しており、病気の2年目は症状に大きな変化がないと報じた。
こうした状況の中で、コロナ後遺症の罹患者や患者団体からは、政府の対策の遅れなどを批判するとともに、治療薬開発の促進を求める声が相次いでいる。例えば、昨年9月23日から25日にかけて行われた、NIH主催の“RECOVER: Treating Long Covid (RECOVER-TLC)–Navigating the Pathway Forward.”というワークショップで、Long COVID CampaignのMeighan Stone事務局長は、「(コロナ感染)が始まってから4年以上経った今でも、FDAが承認した薬がひとつもないのは極めて遺憾だ」とと述べ、治療薬の早急な開発の必要性を訴えた。なお、このワークショップには、対面で180人、オンラインで1200人が参加。大半の参加者は、政府や大学の医療関係者だったが、COVID-19 Longhauler Advocacy ProjectやLong COVID Justice などの罹患者が中心になった団体の関係者の姿も見られた。
コロナ感染の拡大とともに、医療提供に当たらな方式が導入された。Telehealth Serviceは、そのひとつだ。日本で遠隔医療と呼ばれているもので、元々コロナ後遺症の罹患者向けに開発されたわけではないが、農村地域の居住者や後遺症によって移動が困難な人々にとって、医療へのアクセスが広がることになる。コロナ禍で、外出が困難になると、政府は、Telehealthの利用拡大のため政府の医療保険や医療補助への適用を進めた。しかし、今年4月1日以降、保険適用が打ち切られる。コロナ感染に関するアドボカシーに取り組んでいるPeople’ CDCは、Telehealthの無期限延長を求め、Serviceを管轄するCenters for Medicare and Medicaid (CMS)に要請文を送る活動を進めている。
なお、この活動の概要と要請文のサンプルなどは、以下から見ることができる。
https://actionnetwork.org/letters/medicaremustextendtelehealth?utm_source=substack&utm_medium=email
コロナ禍で独身女性の寄付者の割合が減少、ひとり当たりの寄付額は大幅に増加
2024年12月30日
新型コロナウイルス感染症が確認されてから5年が経過した。当初、未知のウイルスへの恐怖と警戒から、人々の行動は大きく制限され、経済や社会に深刻な打撃を与え、その影響は、NPOにも及んだ。医療面における危機的な状況はもとより、学校の閉鎖や失業者の急増などにより、NPOへのニーズが拡大。その一方、多くの人々が経済的に苦境に陥ったことで寄付者が減少、またソーシャルディスタンスの確保の必要性もあり対面によるボランティア活動が制約される状況などが報じられた。では、現実は、どのようなものだったのか。今後、同様の危機的な状況が生じた場合のNPOの対応に示唆を与える意味も含め、検討作業が進められている。最近発表された、“Women Giving 2024”と題するコロナ禍発生直後の寄付活動に関するジェンダー視点からの調査結果は、そのひとつだ。
この調査を行ったのは、Indiana University Lilly Family School of PhilanthropyのWomen’s Philanthropy Institute(以下、WPI)。Indiana Universityは、1820年にアメリカ中西部のインディアナ州に設立された州立大学で、現在は州内に8つのキャンパスが設置されている。Lilly Family School of Philanthropyは、そのひとつIndianapolisキャンパスで、1986年にフィランソロピー研究機関としてスタート。2012年にSchool of Philanthropyとなり、現在は、学士号(BA)に加え、修士号(MA)、博士号(PhD)も授与できる教育機関に発展している。
WPIは、1991年にNational Network of Women as Philanthropists という名称で設立された。現在は、Lilly Family School of Philanthropyに設けられている4つのInstituteのひとつで、女性とフィランソロピーに関する教育研究を実施。なお、WPIは2021年11月、”COVID-19, Generosity, and Gender: How Giving Changed During the First Year of a Global Pandemic”という、コロナ禍とジェンダー、フィランソロピー活動の交差点に焦点を当てた研究報告書を発表した。
“Women Giving 2024”には、“20 Years of Gender & Giving Trends”というサブタイトルがつけられている。このサブタイトルが示すように、2024年における女性の寄付活動について検討しただけではなく、過去20年間という長期にわたる寄付活動をジェンダーの視点から考察した点が特徴といえる。ただし、本稿では、コロナ禍との関係を中心に記述していく。ここでいうジェンダーの視点からの考察を行うために、“Women Giving 2024”の執筆者は、寄付者を独身女性、独人男性、夫婦という3つのタイプの世帯に分類。また、寄付先を宗教関係と非宗教関係に分けている。なお、この調査では、全米5000世帯、1万8000人を対象にした、アメリカのフィランソロピー研究で長年用いられている、Panel Study of Income Dynamics (PSID)というモジュールが利用された。
報告書は、以下の4点を主要なファインディングとして示している。
① 寄付におけるレジリエンス:2000年から2020年にかけては「寄付者の減少」現象が夫婦、独身男性と独身女性のいずれにも該当したが、独身女性の減少は遅く始まり、独身男性に比べて独身女性の方が減少幅が少なかった。具体的な数値でみると、この20年間に、独身男性と夫婦のうち寄付をした人は20%減少。一方、独身女性の減少幅は15%に止まった。ただし、コロナ禍前の2018年とコロナ入りした2020年を比べると、宗教的寄付に関して独身女性だけが増加したものの、非宗教的な寄付は夫婦や独身男性と同様、減少した。なお、「寄付者の減少」とは、寄付をする人の人数が減少する半面、ひとり当たりの寄付額と、寄付額全体が増加する現象をいう。
② 危機時の適応性:2000年から2018年にかけて、寄付をした世帯の平均金額は、夫婦、独身男性と独身女性とも、比較的安定していた。しかし、コロナ禍前後の2018年と20年を比べると、独身女性の寄付は、独身男性と比較して、寄付全般および非宗教的な寄付において増加した。例えば、2018年には独身女性の寄付額は独身男性を若干上回る程度だったが、2020年にはそれぞれ2225ドルと1662ドルと、かなりの差が生じている。
③ コロナ禍のシフト:一方、コロナ禍以前は、独身女性の寄付者の割合の減少率が夫婦や独身男性よりも緩やかだった。このことは、2008年前後のグレート・リセッションなどの社会的経済的な危機からの回復傾向が強いことを示唆していた。しかし、2010年以降の独身女性の寄付者の減少傾向は、独身男性と比較してあまり変わらない状況になってきた。2020年の寄付者の割合は、独身女性の41.7%に対して、独身男性は32.9%となっている。
④ 経済的な課題:2018年と20年を比較すると、独身女性における寄付者の割合は、独身男性とほぼ同様の割合で減少している。しかし、独身女性の場合、宗教的寄付を行った人の割合が増えているのに対して、非宗教的な寄付者の割合は大きく減少。一方、独身男性では、宗教的な寄付を行った人の割合はほとんど変化していないうえ、非宗教的な寄付も下げ幅が女性ほどではない。したがって、コロナ禍における失業などによる経済的な損失が、独身女性の寄付者の割合を減少させた可能性がある。
“Women Giving 2024”は、全部で22ページ。この中に2000年から2020年までの寄付活動におけるジェンダーの視点からの分析結果を提示している。しかし、提示されたデータは、2年ごとに折れ線グラフの形で表示され、経年変化の概観を掴むことはできるものの、初年と最終年以外の数値が示されていないため、詳細な変化を数字として把握することができない。また、コロナ禍の経済的な影響として失業などが提示されているものの、独身女性と独身男性、そして夫婦に対して、どの程度影響したのかについても、示されないままだ。
以上から、“Women Giving 2024”は独身女性と独身男性、夫婦の寄付に関する長期的な傾向と、コロナ禍における変化の大枠を理解するうえで参考になるものの、寄付を求めるNPOのサイドにとってどこまで有益なのか、判断することは難しい。なお、”Women Giving 2024”の執筆者自身、人種や社会的経済的な状況が寄付に与える可能性を示したうえで、それらを含めた検討が行われていないことを認めている。
特に、社会的経済的な状況についていえば、コロナ禍は、格差社会を助長した。この事実は、独身女性の間でも生じており、それが寄付者の減少と寄付額の増加という、一見相反する現象をもたらしたのではないだろうか。また、労働省のデータなどを見ると、失業率の高低は、男女間よりも、人種や学歴の相違によるものが大きい。
こうした点も考慮したうえで、報告書を読み、そこに示されたコロナ禍を含めた社会的経済的な危機が及ぼす寄付行為への影響をジェンダーの視点から参考にしていくことをお勧めしたい。なお、”Women Giving 2024”の報告書は、以下からダウンロードすることができる。
https://scholarworks.indianapolis.iu.edu/items/b1a60723-37d9-41da-9556-4505270d9c8f
コロナ禍で広がったオンライン診療、医療界や患者団体が来年以降の継続を議会に要請
2024年12月10日
アメリカでは、2023年4月から5月にかけて、新型コロナウイルスに関する全米緊急事態宣言が終了するとともに、感染の検査やワクチン接種などに関する公衆衛生に関する緊急措置も廃止された。一方、コロナ禍の深刻化により、ソーシャルディスタンスの確保が求められたことなどにともない、オンライン診療が飛躍的に拡大、そのニーズは依然として大きなものがあるとみられる。しかし、連邦政府が運営する医療保険制度のMedicareなどを用いたオンライン診療は、コロナ禍の特例として扱われてきており、この年末で期限切れとなる。このため、医療界や外出が困難な患者団体などから、期限延長法案の成立を求める声が高まっている。
国民皆保険制度がない唯一の先進国、といわれるアメリカ。しかし、国民すべてが加入する保険はないものの、政府による医療面でのセーフティネットとして、高齢者と障害者者向けの医療保険Medicareと低所得者に対する医療補助Medicaidが存在する。前者の運営は連邦政府、後者は連邦政府と州政府が共同で運営している。2022年9月に、連邦議会のGovernment Accountability Office (GAO)がウェブサイトにアップした”Telehealth in the Pandemic‐How Has It Changed Health Care Delivery in Medicaid and Medicare?” と題する記事によると、Medicareには6400万人、Medicaidには7600万人が加入。両者を合わせると、全米の人口のほぼ半数がカバーされる。
英語で”Telehealth”や” Telemedicine”と呼ばれるオンライン診療は、コロナ禍以前から実用化されていた。ただし、Medicare、Medicaidとの関連でみると、相違がある。Medicaidについては、規則が緩やかで、大半の州では、積極的に活用されてきた。これに対して、Medicareは、規制が強い。例えば、医療機関が住居から離れた遠隔地にあるなどの理由がなければ、利用できなかった。しかし、コロナ禍に当たり、Medicare を管轄する連邦政府機関のDepartment of Health and Human Services (HHS)は、規制を緩和、オンライン診療を幅広く用いることが可能になった。
コロナ禍において対面での診療を避ける状況が拡大したこともあり、MedicareやMedicaidを用いたオンライン診療は、爆発的に増加した。2022年3月にGAOが発表した” CMS Should Assess Effect of Increased Telehealth Use on Beneficiaries’ Quality of Care”というタイトルの報告書によると、Medicareをもちいたオンライン診療は、2019年4月~12月までの間に500万件だった。しかし、2020年4月~12月には、5300万件と、10倍以上に拡大。これによる、Medicareの支出も、3億600万ドルから37憶ドルへと急増した。Medicaidについて、GAOは、5つの州について調査。その結果、2019年3月から20年2月の間の利用は210万件だったが、20年3月から21年2月には3250万件へと増加したという。
オンライン診療についての最近の利用実態について調査は見当たらないが、いまもニーズは高いといわれている。前述のように、Medicareのオンライン診療の多くは、コロナ禍の特例措置によるものだが、今年12月末で期限を迎える。このため、連邦議会に、期限の延長を求める法案が提出されている。5月7日に民主党のMike Thompson(カリフォルニア州)がひとりで連邦下院に提出した、”H.R.8261 - Preserving Telehealth, Hospital, and Ambulance Access Act”は、そのひとつだ。この法案には、アメリカの医療界全体をカバーするNPOといえるAmerican Medical Association (AMA)が賛同。しかし、5月10日に委員会に送付されたものの、連邦議会に提出された法案の動向を報告しているサイト、Congress.govには、その後の動きは示されおらず、下院での決議などに至っていないと推察される。
これに先立つ3月19日、15人の上院議員が共同提案者として、”S.3967 Telehealth Modernization Act”を上院に提出。同日、委員会に送付されたものの、この法案も、Congress.govを見る限り、12月10日現在まで、委員会に止まった状態にある。上院に法案が提出される前の3月12日、Thompson議員のH.R.8261とは別の法案が下院に提出されていた。” H.R.7623 - Telehealth Modernization Act of 2024” である。この法案は、7人の議員が共同提案者になって提出されたが、12月4日までに30人に増えている。また、9月18日にCommittee on Energy and Commerce Markupで審議されており、他の法案に比べれば、成立の可能性が一番あるといえる。とはいえ、下院の過半数は218人なので、状況は厳しい。
こうした中で、コロナ後遺症に悩む人々の組織、COVID-19 Long hauler Advocacy Project (C-19LAP)は、Telehealth Modernization Act of 2024の年内制定を実現させるため、議会に嘆願文を送付する活動を開始した。活動への協力を呼び掛けるに当たり、C-19LAPは、進歩的な活動を行う個人や団体が自由に活用できる情報発信サイト、Action Networkに要請文を掲載。その最後を次のように締めくくっている。
「(オンライン診療の継続を求めること)は単に利便性の問題ではなく、最も必要とする人々に公平な医療アクセスを確保するためのものです。議会は、遠隔医療を私たちの医療制度の恒久的なものにし、すべてのアメリカ人の医療へのアクセスを拡大するための進歩を維持するために、今すぐ行動しなければなりません」
なお、上記のAction Networkに掲載されたC-19LAPの要請文と議会に嘆願文を送付するフォーマットは、以下から見ることができる。
https://actionnetwork.org/letters/0ddc653a44dde77210803ff110f12d156e888461/?hash=c7f791cc9f4cf0214498cadb5be2c3af
トランプによるKennedy Jrの厚生長官指名、「陰謀論者」「反ワク」候補として懸念や反発が噴出
2024年11月23日
共和党のドナルド・トランプ元大統領は、11月5日の大統領選挙で当選が確定した直後から2025年1月からの政権移行に向けて、閣僚候補を次々と発表している。しかし、指名された候補者に対して、不適切との批判が相次いでいる。そのひとり、司法長官に指名されていたMatt Gaetz前下院議員は11月22日、辞退を表明。未成年者にわいせつ行為をした疑惑をめぐり、承認手続きの難航が予想されたことが影響したようだ。今後、最大の焦点になるのは、厚生長官に指名されたRobert F. Kennedy Jr(以下、Kennedy Jr)と見られる。新型コロナウイルス感染症向けをはじめとしたワクチンの誤情報を流布させてきたなどの批判があり、指名の可否を判断する連邦上院議員だけでなく、医療系のNPOからも撤回を求める声がでている。
アメリカ政府の閣僚などの人事の多くは、大統領が候補者を指名、連邦上院司法委員会の審査をへて、本会議の採決を行い、過半数が賛成した場合、承認される。合衆国憲法の「上院のアドバイスと同意」に基づく、という規定に沿った措置だ。このため、大統領の指名を上院が否決する可能性もある。なお、大統領が指名できる政府の役職は約4000、このうち1200ほどに「上院のアドバイスと同意」が求められる。しかし、実際に上院が否決することは例外的で、最も直近では、1989年にGeorge H. W. Bushが国防長官に指名したJohn Towerが反対53・賛成47で否決された例に遡る。ただし、指名を否決される前に、辞退するケースは少なくない。上述したMatt Gaetz前下院議員は、そのひとりだ。John Towerへの否決以降、同議員を含めると、その数は17人に及ぶ。
指名難航が予想される背景などについて触れる前に、Kennedy Jrについて整理しておこう。Robert F. Kennedy Jrという名前が示すように、Kennedy JrはRobert F. Kennedyの息子のひとりで、正確には3男だ。Robert F. Kennedyは、1961年に第35代大統領に就任したJohn F. Kennedyの弟で、連邦上院議員や司法長官を務めたが、1968年に大統領選挙に立候補、選挙演説の会場で暗殺された。このように「アメリカ政界の名門ケネディ家」の一員で、1987年にEnvironmental Litigation Clinic at Pace University School of Lawの活動を開始、環境問題の弁護士として活躍した。しかし、その後、2007年にChildren’s Health DefenseというNPOを設立し、理事長に就任。ワクチンの危険性などを主張、他のリベラルな親族と異なる姿勢を見せるようになった。コロナ禍においても「陰謀論者」「反ワク」として見られる言動が少なくない。2024年の大統領選挙に無所属で出馬したものの、支持が低迷する中で、撤退し、トランプ支持を打ち出していた。
コロナ禍が全米に拡大していった2020年5月、当時のトランプ大統領は、Operation Warp Speedをスタートさせた。2021年1月までに、新型コロナウイルス感染症に有効なワクチン3億回分を官民共同で開発することを目指した一大プロジェクトだ。当初、100億ドルの予算が想定されていたが、その後、増大。2020年10月までに180億ドルの巨費が投入されたと、同年10月29日のBloomberg Businessweekは伝えた。Operation Warp Speedの資金を受けてワクチンの開発を進めた企業は、Johnson & Johnson、AstraZeneca、Modernaなど8社。2020年12月には、ModernaなどがFood and Drug Administration (FDA)から緊急使用を許可され、全米だけでなく、世界各地の接種に活用されていくことになった。
このように、コロナワクチンの開発は、いわばトランプの功績である。当初、トランプは、これを自画自賛。しかし、徐々にワクチンへの言及が減少していった。この変貌の最大の理由は、トランプ支持者の多くがワクチンに否定的だったことだ。例えば、NPOの調査機関、Pew Research Institute (PRI) が2020年9月17日に発表した” U.S. Public Now Divided Over Whether To Get COVID-19 Vaccine”というタイトルの報告書によると、同年9月時点にコロナワクチンが完成した場合、接種を「絶対にしない」と「おそらくしない」と答えた人の割合が49%に上っていた。共和党支持層に限定すると、56%と過半数を超えた。なお、民主党支持者の間でも42%が接種に消極的だった。PRIは2020年5月にも同様の調査を行っていたが、この時点で接種をためらう人は、9月の調査時点の半数程度に止まっていた。この数カ月の間に、ワクチンに否定的な意識が急速に広がったといえよう。
では、なぜ人々は、ワクチン接種をためらうようになったのか。PRIの報告書によると、接種に消極的な理由として、「副反応への懸念」が最も多く、調査対象者の90%にのぼる。このうち「主要な理由」とした人だけでも76%に及んだ。2番目に多い理由は、「効果が不明」なことだ。これをあげた人は85%で、そのうち72%は、「主要な理由」としていた。また、「必要性を感じない」が55%(「主要な理由」は31%)、「費用が掛かりすぎる」が32%(同13%)にのぼった。さらに、ワクチン認可への不安を持つ人の割合も高かった。ワクチンの安全性や効果が十分確認されないうちに、接種が始めるのではないかと考えていた人が、77%に及んでいたのだ。このうち36%は、強い懸念を表明していた。
こうした不安や懸念が存在したものの、前述のように、FDAは2020年12にコロナワクチンの緊急接種を承認。その数日後から、大規模な接種が開始された。US Coronavirus Vaccine Trackerによれば、2021年3月11日までに対象者の19%が1回、10%が2回の接種を終えた。1年後の2022年3月11日には、接種率がそれぞれ77%と65%にまで増加、また3回目のブースター接種を受けた人も29%にのぼった。これらの数字を見る限り、接種は順調に進んでいったように感じられるかもしれない。しかし、コロナ禍以前から見られていた反ワクチンの動きが、コロナワクチンの接種率の上昇とともに、全米に拡大していったのである。
近年の反ワクチン運動で大きな契機になったのは、2015年にカリフォルニア州で小中学校の児童などへのワクチン接種の免除理由から信条を削除する上院法案277号に対する反対運動である。この運動を通じて、全米の反ワクチン団体は、連携を強めていった。ただし、当時の活動は、法案277号への反対運動のように、学校での接種において児童の保護者の懸念に乗じていくものが中心だった。一方、コロナ禍においては、ソーシャルディスタンスや学校閉鎖、ワクチン接種やマスク着用の義務化など、政府のコロナ対策に対する人々の不満が拡大。こうした政策への不満を運動に巻き込んでいったのが特徴だ。
運動にかかわる人々も、右翼団体や一部の公職者、キリスト教民族主義の牧師、そして政治家など、幅が広がった。運動の進め方としては、「健康の自由」を訴えて公衆衛生の介入に異議を唱え、新型コロナウイルス感染症の深刻さを軽視。その結果、コロナ禍の拡大を助長したといえる。また、デモや集会を積極的に実施した他、2021年以降には、司法の場に問題を持ち込むケースも増えていった。医療や介護や学校、政府機関など特定の職場におけるワクチン接種の義務化への反対や、接種による副反応への補償要求など、多様な内容の訴えが起こされた。さらに、保守的な州や自治体では、ワクチンメーカーに訴訟を起こす動きが広がっていった。
ワクチン接種をはじめとしたコロナ対策全般への反対運動において、SNSが重要な役割を果たした。それを裏付ける調査や研究も行われており、アメリカ政府機関のNational Library of Medicineが運営するPubMedという医療関係の論文などを集めたサイトに2023年2月24日に掲載された論文、” One Year of COVID-19 Vaccine Misinformation on Twitter: Longitudinal Study”は、そのひとつだ。タイトルにあるように、ツイッターに掲載されたコロナワクチンに関連する誤情報を収集、分析されたもので、対象となったのは2021年のツイート3億回にのぼる。分析の結果、約800人の「スーパースプレッダー」の小グループによるツイートが平均的な日に誤情報の再共有全体の約35%を占めていることが判明。そして、最大のスーパースプレッダーとされた(@RobertKennedyJr)がリツイートの13%以上を占めていた。@RobertKennedyJr、すなわちKennedy Jrのツイッター、現在の「X」のことだ。
この論文だけではない。Annenberg Public Policy Center of the University of Pennsylvaniaのプロジェクト、 FactCheck.Orgは2023年8月11日、”RFK Jr.’s COVID-19 Deceptions”と題する記事を掲載した。なお、この記事は、2024年8月23日にアップデイトされている。ファクトチェックの専門団体が調べた内容にふさわしく、RFK Jr.、つまりKennedy Jrの言動を詳細にわたって調べている。そのうえで、Kennedy Jrによるコロナワクチンの効果やコロナ感染についての指摘に対して、医学研究の結果などを提示しながら批判。さらに、コロナワクチンに関連した裁判や政策についての誤情報についても、データを示しながら反論している。Kennedy Jrは、自らを反ワクチンであることを否定し、ワクチンの安全性や承認を慎重に進めることを求めているにすぎない、と主張。しかし、こうしたツイッターの分析結果を見ると、Kennedy Jrは、反ワクチンのスーパースプレッダーであると指摘されるのは当然といえよう。
Kennedy Jr.が長官に就任する可能性がある、厚生省(Department of Health & Human Services)には、アメリカのコロナ対策でしばしば名前がでてくるNational Institutes of Health (NIH)やCenters for Disease Control and Prevention (CDC)、ワクチンの認可を行うFood and Drug Administration (FDA)など、人々の健康や医療に関係する多くの機関が含まれている。コロナ対策に関しても、新型コロナウイルス感染症の検査、ワクチン接種、治療などに加え、これらの措置を健康保険に未加入の人々に提供する役割も担っている。そのトップに反ワクチンのスーパースプレッダーと形容された人物が就任するとなれば、懸念や批判の声が出ない方が不思議だろう。では、どのような人々や団体から、どのような声が出ているのか。以下、整理して、紹介しよう。
・Mandy Cohen, CDC長官
「(Kennedy Jrの厚生長官への就任によって)ワクチンの効果を思い出させるために、子どもや大人が苦しんだり命を落としたりする状況に、(歴史を)後戻りさせたくない」
・Kyle McGowan, 第一次トランプ政権のCDC首席補佐官
「(ワクチンの効果を疑問視するKennedy Jrに対して)ワクチンは、歴史上最も強力な公衆衛生のイノベーションであり、他のどのツールよりも多くの命を救ってきた。私と同年代の人で、隣人がポリオにかかったことや、はしかで聴力を失った子どもを覚えている人はほとんどいない」
・Georges Benjamin, American Public Health Association事務局長
「(Kennedy Jrの厚生長官指名に)失望している。彼は訓練、経験、気質において適切な人物ではない…。彼の反ワクチン的な見解は、彼を公衆衛生の実践や科学、そもそも医学さえも尊重しない人物としてみなされる結果になっている」
・Robert Weissman, Public Citizen共同会長
「Kennedy Jrは、国民の健康に対する明白かつ現実的なの脅威である。彼は厚生省に立ち入ることを許されるべきではなく、ましてや国の公衆衛生機関の責任者に任命されるべきではない」
・Dr. Peter Lurie, Center for Science in the Public Interest会長兼事務局長
「良い科学と悪い科学の違いを見分けられない人物(Kennedy Jr)を(厚生省の)責任者にすることは、アメリカ人にとって本当に危険だ」
・Mark Gallagher, Protect Our Care Maineのリーダー
「(Kennedy Jrの」メッセージは、『我々は根絶された病気(感染症)を復活させるつもりだ』という意味に他ならない」
・「RFK Jr.と(トランプがCenters for Medicare & Medicaid Services のAdministratorに指名した)Dr. Mehmet Oの両者には共通点がひとつある。彼らがアメリカの医療機関を運営するのに全く不適格な、ジャンクサイエンスの悪党だということだ。このふたりがアメリカの医療の舵取りをしていくとすれば、私たちは暗い道を進むことになるだろう。これらの無謀な指名の結果は、全米のほぼすべての家庭に影響を及ぼす。有権者の健康を気にするすべての上院議員は、彼らの指名に反対すべきだ」
こうした主張だけではない。Kennedy Jrの指名阻止に向けた運動が始まっている。“Stop RFK War Room”は、そのひとつだ。運動をスタートさせたのは、Protect Our CareというObamacareと呼ばれる皆保険に近い制度の維持などを掲げ、ロビー活動を中心にしている501c4団体だ。501c3団体と異なり、寄付控除の資格はないが、関連事業の収入への課税が免除されるNPOである。“Stop RFK War Room”の詳細は明らかになっていないが、政治専門紙のPoliticoなどによると、11月18日に数十の団体から200人ほどが参加して会議を開催。指名阻止に向けた活動の戦略などを話し合った。連邦上院で共和党議員も対象にしたロビー活動を展開する他、指名のカギを握るとみられる上院議員の出身州で啓発活動などを行うとみられる。
なお、前述の” One Year of COVID-19 Vaccine Misinformation on Twitter: Longitudinal Study”というタイトルの論文は、以下から見ることができる。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36735835/
Trump・共和党による「ワクチン懐疑論」拡大、州議会で「反ワクチン法案」成立相次ぐ
2024年10月19日
秋から冬にかけて新型コロナウイルス感染症の拡大が予想される中で、全米各地で2024~25年向けのワクチン接種が実施されている。一方、大統領選挙などを通じて、「ワクチン懐疑論」が拡大し、コロナワクチン以外への影響も懸念される状況だ。影響力の強い共和党の大統領候補のDonald Trumpや連邦議員候補者に加え、州や地方の政治家、さらには草の根のNPOなども展開。州議会では、「反ワクチン法案」が相次いで成立しており、懐疑論の広がりを示している。
新型コロナウイルス感染症がアメリカ国内で最初に確認されたのは、2020年1月。当時のTrump政権は同年5月、Operation Warp Speedと命名された官民共同プロジェクトにより、コロナワクチン開発を推進する考えを表明した。このプロジェクトは当初、100億ドルの資金を投入して、3億回分の生産を目標にしていた。資金は180億ドルまで膨れ上がったものの、2020年12月には、Moderna社による製品が連邦政府のFood and Drug Administration (FDA)による最初の認可にこぎつけた。
当時の大統領、Trumpは、これを自らの成果として強調していた。その後、Trumpの与党の共和党とその支持者を中心に「ワクチン懐疑論」が拡大。例えば、2023年9月に政治問題の専門紙、Politicoなどが実施した調査によると、コロナワクチンについて効果が大きいとする回答は62%だったのに対して、リスクが大とする人も38%にのぼった。共和党員や支持者に限定すると、この割合は49%と51%で、危険視する人が過半数を超えた。
こうした世論もあり、2020年の選挙で落選したTrumpは、24年に再選を目指すに当たり、コロナワクチンの意義や効果について言及を避けるようになった。さらに、大統領選挙が近づくにつれ、コロナワクチンの接種に反対する姿勢を強めていく。例えば、10月4日発信の健康医療関係専門のメディアのKFF Health Newsによると、2024年に入り、Trumpは少なくとも17回にわたり、ワクチンの接種を義務付けている学校に対して、連邦政府の予算をカットすると表明。Trumpのキャンペーン報道官は、コロナワクチンだけが対象と述べたものの、KFF Health Newsは、ポリオや麻疹など一般的で致命的な可能性のある小児疾患の予防接種ルールも対象とするのではないか、という懸念の声を伝えている。
このTrumpの動きを促している要因のひとつと考えられるのが、Robert F. Kennedy Jr. (RFK Jr.) の大統領選挙からの撤退とTrump支持の表明である。その後、Trumpの政権移行チームに加わったRFK Jr.は、元大統領のJohn F. Kennedyを伯父、その弟で元司法長官のRobert F. Kennedyを父親にもつ。本人は、「ワクチン懐疑論」者であることを否定しているが、2021年12月にコロナワクチンを“the deadliest vaccine ever made”と形容するなど、ワクチン批判の急先鋒として知られている。また、Children’s Health Defense (CHD)という「反ワクチン団体」の理事長(休職中)だ。
CHDは、Childrenと銘打っているが、「ワクチン被害」全般についての広報や訴訟などを展開している。ホームページの一部には、ワクチンに関する医療や政治的な動きを批判的に紹介する、Defenderというニュースと論説のサイトを設置。その中に「コロナ」というコーナーがあり、世界で最初に日本で承認されたレプリコンワクチンについても、10月8日付の記事で紹介。日本の厚生労働省がその効果を確認したとしていることに対して、”untested, risky and potentially dangerous”と警告する専門家もいるなどと解説している。
RFK Jr.は、撤退表明から間もない9月5日、MAHA AllianceというSuper PACをFederal Election Commission (FEC)に登録した。MAHAは、Make America Healthy Againの略で、TrumpのMake America Great Again (MAGA)をもじって命名したものである。FECによると、10月19日現在、Trump支持に関する活動に73万9747ドル、民主党のKamara Harris大統領候補に反対する活動に55万4667ドルを投入するなど、活発に運動を進めている。なお、Super PACとは、Super Political Action Committeeの略である。政治活動の資金を制限なく集めることができるが、通常のPACのように候補者や政党に資金提供するのではなく、第三者的に活動を進める組織だ。10月19日現在、FECに登録されている団体の数は2444にのぼる。
MAHA AllianceのHがHealthyであることが示すように、健康医療の問題を扱う団体である。 そのウェブサイトには「ワクチン懐疑論」的な記述は見当たらない。しかし、KFF Health Newsは、Medical Freedom Movementの足掛かりを作る運動体と指摘している。なお、Medical Freedom Movementは、医療を受けるに当たり政府の関与を否定し、個人の権利を重視。具体的には、ワクチン接種を拒否する権利やインフォームドコンセプトの重要性を主張する運動だ。
「ワクチン懐疑論」を強く主張する連邦議員のひとりに、Marjorie Taylor Greeneがいる。2020年にジョージア州から立候補、下院議員に初当選した共和党の超右派とされる人物だ。イギリスのメディアThe Independentは10月19日、Greeneが”Covid vaccines may be responsible for ‘all time high’ cancer rates”と主張していると報じた。癌による死亡者が2024年に61万1000人に上る見込みというAmerican Association of Cancer Researchの発表に基づいたXへの投稿だ。
しかし、連邦政府の感染症対策の研究所、Center for Disease Control and Prevention (CDC)によれば、2022年にも 60万8366人の死亡者が報告されており、24年の予想値が急増を意味するわけではない。Greene の投稿に対して、American Cancer SocietyとNational Cancer Instituteは、コロナワクチンががんを引き起こす、あるいは寛解した患者に癌を再発させるという主張を裏付ける証拠はないと述べている。なお、Greeneは、9月から10月にかけてアメリカ南東部を襲ったふたつのハリケーンについても、政府が天候を操作して共和党支持者が多い地域を襲わせたなどとする「陰謀論」をXに投稿、物議を醸しだした。
新型コロナウイルス感染症が急速に拡大した2020年から22年にかけて、連邦政府は、医療関係者をはじめとした特定の職業に従事している人々などを対象に、コロナワクチンの接種やマスクの着用などを義務づける措置をとった。しかし、ワクチン接種などにより、感染による死者が大幅に減少し始めるとともに、これらの措置を撤回。一方、「ワクチン懐疑論」に立つ政治家は、州議会において、コロナワクチンをはじめとしたワクチン接種に反対する法案の成立に向けた動きを進めている。
Boston UniversityのSchool of Public Health (BUSPH)は2023年12月、State Vaccine Policy Project (SVPP)をスタートさせた。1980年代中期以降の州議会におけるワクチン関係の法案の動きを把握するためだ。SVPPが2024年10月4日に発表した報告書によると、2023年に全米の州議会に提出されたワクチン関係の法案は、813件にのぼった。このうち376件は、「反ワクチン法案」と呼べるものだが、ほぼ同数の372件は「親ワクチン法案」だった。なお、残りの65件は、いずれにも分類しにくい法案だという。
「反ワクチン法案」の84%に当たる317件は、共和党議員によって提出されたものだ。民主党議員による法案は、10件と、全体の3%にすぎなかった。州による民主・共和両党の勢力関係を反映して、提出された法案の性格も大きく異なっていた。例えば、民主党の地盤といわれるニューヨーク州では、73件の法案が提出されたが、このうち「反ワクチン法案」は22件(16%)にすぎない。一方、共和党が強いテキサス州では、提出された65件の法案の75%に当たる45件は「反ワクチン法案」だ。
アメリカでは、議会に提出された法案の大半は未成立に終わる。州議会で審議に付されたワクチン関係の法案も同様だ。例えば、376件の「反ワクチン法案」のうち、71%に当たる271件は審議未了。否決された法案も63件(7%)に上った。ただし、42件(5%)は成立しており、これは成立したワクチン法案の30%(42件)を占めている。「親ワクチン法案」の成立件数に比べると少ないものの、ワクチンを否定しようとする動きも無視できない広がりを持っているといえよう。
なお、上述の「反ワクチン団体」Children’s Health Defenseの活動内容などについては、以下から見ることができる。
https://childrenshealthdefense.org/
予想される”Tripledemic”を前に、ワクチン接種推奨や検査キットの無償配布実施
2024年10月6日
アメリカでは、新型コロナウイルス感染症に加え、季節性インフルエンザ、そしてRSVと略称で呼ばれるウイルス性の呼吸器疾患の3つの感染症がこの冬に同時に拡大することが予想されている。いわゆる”Tripledemic”だ。この想定に立ち、政府や自治体、医療関係者などは、ワクチンの接種を推奨。また、連邦政府は、新型コロナウイルス感染症の検査キットを希望する家庭に無償配布することを明らかにしている。しかし、新型コロナウイルスに関しては、新たな変異株が拡大。また、コロナワクチンの接種は、200ドル程度必要だ。このため、”Tripledemic”の抑え込みに向け、政府の対策を強化すべきとの声も強い。
連邦政府機関のCenters for Disease Control and Prevention (CDC)によると、9月21日までの1週間に新型コロナウイルス感染症の検査を受けた人のうち、陽性反応が出たのは11.6%だった。かなり高い割合だが、その週を含めた過去2週間の陽性率は14.1%なので、減少傾向にあると見ることもできる。しかし、9月14日までの1週間における入院患者は、人口10万人に対して、3.7人に及んだ。また、9月28日までの1週間に死亡した人のうち、新型コロナウイルス感染症が原因だったのは1.9%に上る。これらの数字を1年前と比べると、陽性率は高く、入院患者数や死者の割合は少ない。
とはいえ、今後の見通しは明るくない。ニュース専門チャンネルのCNNが10月4日に報じた”It’s time to get flu and Covid-19 shots”というタイトルの報道は、CDCの予測を次のように伝えているからだ。今年の呼吸器疾患シーズンは、ピーク時には1週間で10万人あたり20人以上が入院した昨年と同様な状況になると見込まれ、コロナ禍以前よりもはるかに悪化するという。例えば、昨年のシーズン中にインフルエンザで死亡した子どもは少なくとも200人で、これは記録上の他のどの年よりも多い。これらの子どもの死者のほとんどは、ワクチン未接種だった。
新型コロナウイルス感染症の拡大が予想される背景には、新たな変異株が急速に広がる気配が強いことがある。今年春までオミクロン系のJN.1系統が主流だった。しかし、その後、KP.3系統の変異株が急増。夏に入ると、KP.3の亜種、KP.3.1.1が増え、これが現在では6割を占め、主流になっている。ところが、最近、さらに新しい変異株が登場してきた。
今年6月にドイツで最初に確認された、XECである。これもオミクロン株の一種だが、9月15~28日の間におけるCDCの推定値で5.7%を占めた。すでに全米25州で確認されており、今後、急速に増えていくと見られている。Yale UniversityのScott Roberts医師は、Yale Medicine の中で、XECについて3つの点について留意が必要だと述べている。
第一に、XECはKP.3.3と KS.1.1というオミクロン系のふたつの亜種から生まれたものであること。なお、ふたつの亜種が合体して生まれるのは、同一人物にふたつの亜種が同時に感染したためと見られる。第二に、KP.2を対象に開発されたPfizerとModernaのワクチン、JN.1をターゲットにしたNovavaxのワクチンも、XECに効果があると考えられること。最後に、今後の感染見通しから見て、10月中に接種することが望ましいという。なお、Roberts医師はこの3点以外に、これまで指摘されてきた人込みでのマスク着用や手洗い、うがいなどの基本的な感染予防策をとることが必要だと述べている。
アメリカでは、「反ワクチン」運動がかなりの広がりをみせている。とはいえ、Roberts医師の指摘のように、「コロナ禍の切り札」としてワクチン接種の必要性を主張する声は強い。しかし、2023年5月に「公衆衛生上の緊急事態」が終了したため、接種は有料になった。民間の医療保険や政府が運営するMedicareと呼ばれる保険の加入者やMedicaidという医療補助の対象となっている人は、原則として無償で受けることができる。
とはいえ、ワクチン接種をカバーしない民間保険の加入者や保険未加入者は、有償になる。保険に未加入なのは、所得が少ないためだろう。したがって、自費で接種を受けることは難しい。このため、「公衆衛生上の緊急事態」が終わる際、Bridge Access Programという制度が導入され、保険未加入者などへの接種は無償となった。しかし、この制度は、今年8月で終了された。
Bridge Access Programの再開を求める声もあるが、実現の見通しは立っていない。こうした中で、連邦政府のDepartment of Health and Human Services (DHHS)の対策のひとつとして実施されたのが、検査キットの無料配布だ。専門のサイト(https://covidtests.gov)を通じて申し込めば、1世帯当たり4個のキットを受け取ることができる。なお、送料も不要で、インターネットにアクセスできない人は、DHSSがキットを学校やフードバンクなどの地域団体に送付しているので、そこで受け取ることもできる。
「公衆衛生上の緊急事態」終了後、政府は、この検査キットの無料配布を自ら積極的に実施しようとしたわけではない。新型コロナウイルス感染症の問題に取り組む、医療関係者などで構成されているボランティア団体、People’s CDCが連邦議員に実施を求めるメールを送る運動を実施したのである。People’s CDCによると、連邦議員に送られた要請メールは1万3000通余りにのぼる。こうした草の根の活動によって、保険未加入者への医療の権利がごく一部とはいえ、確保されていくのだ。
郵送などによる無料検査キットとは別に、CDCは、Increasing Community Access to Testing (ICAT)というプログラムを実施している。ICATは、全米各地に設置されており、そこで無償の検査を受けることも可能だ。最寄りのICATの施設は、上記の無料キットの申し込みを行う専門サイトから検索できるようになっている。
なお、上記のPeople’s CDCは、保険未加入の成人すべてが無償でコロナワクチンの接種を受けられるようにすべきだとして、検査キットの無料配布の時のような連邦議員へのメール送付運動を進めている。その趣旨や送付するメールのテンプレートなどは、以下から見ることができる。
https://actionnetwork.org/letters/keepcovidvaccinesfree
新変異株に対応したワクチン接種開始、感染拡大のなか保険未加入者は自己負担200ドル
2024年9月15日
新たな変異株の発生に加え、感染対策の消極化もあり、アメリカでは夏に入り、新型コロナウイルス感染症が急速に拡大した。9月に入り、状況はやや改善しつつあるものの、年末から年初にかけて、感染の再拡大の可能性指摘されている。こうした中で、ワクチン接種への重要性が指摘されている。しかし、2023年5月に「公衆衛生上の緊急事態」が終了し、接種の有料化が始まった。保険未加入者に対する特例措置が取られたものの、これも今年8月で終わりを告げた。1回の接種が200ドルといわれる状況の中で特例措置の復活を求める声もあるが、見通しははっきりしない。新たな変異株に対応するワクチン接種を希望する人の割合も多くなく、感染状況の悪化が懸念されている。
新型コロナウイルスの変異株は、今年春までJN.1系統が主流だった。しかし、連邦政府のCenters for Disease Control and Prevention (CDC)の最新のデータによると、8月下旬の2週間の推計値で、JN.1は0.2%、同系統で最も多いJN.1.18も1.7%にすぎない。これに対して、夏以降に急増したKP.3系統の変異株の中心、KP.3.1.1は52.7%と、全体の半数を超えた。
これらの数字が示すように、KP.3系統の変異株は、JN.1系統に比べて感染力が強い。重症化のリスクは同程度と見られるものの、感染者の増加により、今年8月の新型コロナウイルス感染症による死者は、全米で約4000人にのぼった。9月最初の1週間には535人へと減少したものの、Labor Dayの連休が終わり、大学などの教育機関の新学期が始まるため、今後、再拡大が懸念される状況だ。
連邦政府のFood and Drug Administration (FDA)は8月下旬、製薬会社からだされていた新たなコロナワクチン申請に対して、相次いで承認の決定を行った。これらのワクチンは、10月から全米各地で接種される予定だ。ワクチン接種は、感染拡大防止のためだが、いくつか問題が指摘されている。
ひとつは、ワクチンが対象とする変異株との関係だ。承認されたワクチンは、KP.2に対するもので、前述したKP.3.11を対象としているものではない。これは、開発当時、流行が見込まれたKP.2に対するワクチンが望まれていたことを反映している。したがって、現在、最も流行している変異株に対応していない。ただし、KP.3.11は、KP.2と同様に、いわゆるオミクロン株の一種なので、一定の効果は期待できるとみられる。なお、日本で10月から始まる「定期接種」に用いられるワクチンはJN.1対応で、日本でもKP.3系統が主流になっているため、効果が低くなる可能性がある。
もうひとつの問題は、ワクチンの接種にかかる費用についてだ。前述のように、2023年5月に「公衆衛生上の緊急事態」が終了したため、接種は有料になった。ただし、民間の医療保険や政府が運営するMedicareと呼ばれる保険の加入者やMedicaidという医療補助の対象となっている人は、原則として無償で受けることができる。
では、ワクチン接種をカバーしない民間保険の加入者や保険未加入者は、どうなったのか。「公衆衛生上の緊急事態」が終わる際、Bridge Access Programという制度が導入された。これにより、保険未加入者などへの接種は無償となった。しかし、この制度は、今年8月で終了された。議会が予算をつけることを拒否したためだ。
これとは別に、Vaccines for Adults ProgramとVaccines for Children Program というプログラムがある。前者は19歳以上、後者は18歳までの児童の保険未加入者を対象に、ワクチンを無償または安価で提供する制度だ。ただし、コロナワクチンについては、Vaccines for Adults Programには適用されていない。CDCによれば、2023年現在、民間や政府の医療保険や医療補助を受けていない人は、全米の人口の7.6%、2500万人に及ぶ。このうちVaccines for Children Program の対象者を除く人々は、自己負担が求められる。
では、接種にいくらかかるのか。コロナワクチンの価格は、製薬会社の製品にもよるが、CDCのVaccine Price Listのよると、12歳以上の人向けはModerna製で141ドル80セント、Pfizer製は136ドル75セントなどとなっている。
ただし、これはワクチン自体の価格である。接種を行う医療機関やドラッグストアは「手数料」を追加するため、200ドル程度になる。仮に4人家族であれば、600ドル(日本円で約9万円)だ。医療保険に加入していない人の多くは、保険代を支払うことが困難だからだろう。その人たちにこれだけ高額のワクチン代を払えるだろうか。民間の立場からコロナ問題に取り組んでいるPeople’s CDCはBridge Access Programへの予算化を求めているが、実現のメドはたっていない。
Bridge Access Programが延長されなかったのは、連邦下院の共和党の反対によるものだ。しかし、民主党も新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に積極的とはいえない。例えば、Kamala Harrisを大統領候補として正式に指名した8月の民主党全国大会、いわゆるDNCでは、感染防止策がほとんどとられていなかった。大会のガイダンスに「障害のために必要な場合は、マスクの着用が許可されます」という記述があったことは、感染防止に対する民主党の姿勢を如実に示していた。その結果、Hilary Clintonをはじめ、多くの感染者が出たと報じられ、DNC24(2024年民主党全国大会)をもじって、”DNCovid24”という言い方も広がったほどだ。
こうした状況も反映しているのかもしれない。間もなく始まるコロナワクチンの接種希望者が半数に満たないことが明らかになった。9月13日にOhio State University Wexner Medical Centerが発表した世論調査結果によれば、 コロナワクチンの接種を済ませたか、これら行う予定と回答した人は43%にすぎなかったのである。この調査では、インフルエンザワクチンの接種についても尋ねている。これについては56%が接種済みまたは接種予定と回答。新型コロナウイルス感染症への警戒心が減退し、11月下旬の感謝祭連休後から来年のバレンタインデーの間に感染拡大が生じるのではないか。この予想が現実のもになろうとしているといえよう。
なお、上記のPeople’s CDCは、新型コロナウイルス感染症の感染状況の報告やコロナ禍に対応している政府の政策とその課題、課題に対するアドボカシー活動など、様々な情報の提供や行動提起を行っている。興味のある人は、以下のサイトにアクセスしてみるといいだろう。
https://peoplescdc.org/
コロナ拡大下にマスク着用禁止条例制定、感染リスク増大恐れ障がい者団体が集団訴訟
2024年8月23日
ニューヨーク州ロングアイランドの地方政府、Nassau Countyの議会は8月5日、マスクやフェイスカバー(以下、マスク)着用を禁止する条例を可決した。14日には首長にあたるCounty Executiveが署名し、条例は成立。パレスチナのガザ地区へのイスラエルの侵攻に反対する活動家のマスク着用が多いことなどから提案されたものだ。しかし、公共の場だけでなく、私的な空間でも着用が禁止されており、表現の自由の侵害の懸念に加え、感染による重症化リスクが高い障がい者団体などから、批判の声が上がっている。
Nassau Countyは、ニューヨーク市の中心街から東に60キロほど離れた地域で、人口は約140万人。人種的には、白人が7割を占め、ニューヨークの他の地域に比べ、非白人の割合が少ない。一方、所得水準は高く、貧困ライン以下で生活している人は、全米平均の半分程度にすぎない。経済的には豊かな地域だが、警察によるレイシャルプロファイリングが問題になってきた。
ニューヨークは、州、市とも、リベラルな土地柄で知られており、2020年の大統領選挙では、民主党の候補が共和党候補に比べて、10ポイント近くリードして、勝利した。しかし、Nassau Countyは、共和党が強い。マスク着用禁止条例には、19人の議員のうち共和党の12人が賛成、民主党の7人が欠席する中で、可決された。法案に署名したBlakeman氏も共和党に所属している。
マスク着用禁止条例の公式名は、Mask Transparency Act(マスク透明化法)。今年春、ニューヨークのコロンビア大学など、全米の大学でイスラエルによるガザ侵攻に抗議する活動が広がった。その際、学生の一部はマスクを着用。また、6月10日にニューヨークの地下鉄で、「シオニストは下車しろ」と叫び、逮捕された男性も、マスクをしていた。こうした事例に対して、マスクをつけることで本人と特定されにくくなっている、という批判の声が上がっていた。
Mask Transparency Actによれば、マスクやフェイスカバーを着用している人は法律に違反しているとみなされ、「軽犯罪」容疑で逮捕、起訴される可能性がある。ただし、唯一の例外として、健康上または宗教上の理由でマスクまたはフェイスカバーを着用することはできる。「軽犯罪」とはいえ、最大で罰金1000ドルまたは収監刑1年が科せられることに示されるように、罰則は軽くない。
County ExecutiveのBruce Blakemanは、マスクを着用した人々により万引きやカージャック、銀行強盗が行われてきたとしたうえで、「これ(条例)は広範な公共安全対策」だと指摘。しかし、イスラエルのガザ侵攻が背景にあったことから、表現の自由への侵害だという違反がでている。大手の人権擁護団体、New York Civil Liberties Unionは、声明を発表。「Countyの当局は、ニューヨークの住民を犠牲にして政治的なポイントを獲得するのではなく、権利と自由を保護するべきだ」と述べている。また、レイシャルプロファイリングが頻繁に行われていることから、黒人やムスリム女性が嫌疑をかけられるのではないかとの懸念も聞かれる。
マスク着用が犯罪として扱われるようになることで、健康面で影響を受けるという観点から訴訟を起こしたNPOもある。Disability Rights New York (DRNY)がそれだ。8月22日、Nassau CountyとBlakeman氏を相手取って、United States District Court Eastern District Court of New Yorkに集団訴訟として、条例の施行の仮差し止め及び一時差し止め命令を求め、訴えた。訴えの根拠として、DRNYは、United States Constitution、the Americans with Disabilities Act、Section 504 of the Rehabilitation Act及びNew York State Legislative Intentをあげている。
条例案が提出された後、DRNYは、パブリックコメントを提出していた。その中で、「マスク禁止は、障害や医療ニーズに対応するためにマスクを使用する障害者が大きな影響を受ける」と指摘。さらに、「ニューヨーク州で新型コロナウイルスの感染が拡大している中で、障がい者とその家族に感染のリスクを増大させる」と批判していた。健康上の理由による着用は免除される点については、それを判断する警察官に知識がないなど、制度の不備を指摘している。
なお、DRNYによる訴訟にあたるClass Action Complaintの全文は、以下から見ることができる。
https://www.dropbox.com/scl/fi/i76648z1800hwx0akzui6/1-Class-Complaint.pdf?rlkey=52kxgjs9km0xgnu56g7wgjrqd&e=1&st=5es9p1yj&dl=0
コロナ後遺症対策に10年間で10億ドル投入、連邦上院に法案提出
2024年8月4日
連邦上院の委員会は8月2日、コロナ後遺症に関する調査研究や啓発などを進めるために10年間で総額10億ドルの支出を政府に求める法案を連邦議会に提出した。法案には、後遺症問題に取り組んできたNPOなど40余りの団体が支持を表明しており、当事者らの間で法案への期待の強さを感じさせる。ただし、5人の上院議員が共同提案者として名を連ねているが、いずれも民主党の議員で、野党共和党の議員は含まれていない。また、立法化には下院の賛成と大統領の署名が必要で、かなりの時間がかかるものと見られる。
法案を提出したのは、Health, Education, Labor, and Pension (HELP)委員会。委員長は、2020年の民主党の大統領候補指名で、バイデン現大統領と争った、「左派」のBernie Sanders (I-Vt.)議員。HELP委員会が提出した法案の名称は、Long COVID Research Moonshot Act。ここにあるMoonshotとは月着陸を目指した1960年代のアポロ計画で用いられた言葉といわれ、非常に困難な課題に挑戦するという意味合いが込められている。なお、法案の提出にあたり、Sanders議員は、全米でコロナ後遺症の患者が大人2200万人、こども100万人にのぼるとしており、「公衆衛生上重大な問題」といえる。
アメリカでは、新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年からしばらくすると、連邦政府内でもコロナ後遺症の問題への対応の必要性が検討されてきた。2022年8月に連邦政府のDepartment of Health and Human Services(DHHS)によってNational Research Action Plan on Long COVID が発表されたのは、そのひとつだ。
これに先立ち、立法府でも2022年3月、Tim Kaine (D-VA) j上院議員が中心となり、コロナ後遺症の調査研究の拡大と治療へのアクセス改善を進めるため、Comprehensive Access to Resources and Education (CARE) for Long COVID Actを提出。翌月には、コロナ後遺症の患者への治療を進める医療機関への補助などを盛り込んだ、Targeting Resources for Equitable Access to Treatment for Long COVID (TREAT Long COVID) Actを議会に上程した。さらに、2023年7月、Long COVID Support Actを超党派の共同提案者による法案として提出していた。Kaine議員は、自らコロナ後遺症を患っており、8月2日の法案の提案者のひとり。
2024年に入ると1月に、前述のHealth, Education, Labor, and Pension (HELP)委員会が公聴会を開催。コロナ後遺症に悩む患者や患者の支援団体、医療関係者らが次々と登壇し、後遺症の深刻さや対策の不十分性などを訴えた。例えば、バージニア州から参加したRachel Bealeさんは、コロナ後遺症がAmericans with Disabilities Actが規定する「障害」に該当し、社会保障の障害者手当が受給できるはずにも拘らず、2度にわたり、申請が拒否されたと語った。
この公聴会の結果を踏まえ、HELP委員会は4月、コロナ後遺症に関する法律の素案を発表、患者団体などの意見を求めたうえで、最終案を発表すると表明していた。8月2日にSanders議員が中心となって提出された法案は、こうした経緯を踏まえて作成されたもので、以下の政府機関に、次のような具体的な実施内容と予算措置を求めている。
・Centers for Disease Control and Prevention (CDC):今後10年間、毎年3200万ドルをコロナ後遺症とIACCサーベイランスに充当させるとともに、毎年4500万ドルを州、地方、部族の保健部門に助成金として提供。さらに、全米レベルの教育啓発のために、今後5年間、毎年2150万ドル支出。
・Food and Drug Administration (FDA):今後10年間、毎年1660万ドルを拠出し、患者が現在の治療法およびコロナ後遺症の開発中の治療法を特定するための電子報告を継続。また、毎年900万ドルを拠出し、臨床アウトカム評価を開発および検証。
・Department of Health and Human Services(DHHS): 今後10年間、毎年300万ドルを教育啓発活動に充当。
この他、Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)やInteragency Autism Coordinating Committee (IACC)に対しても、予算措置とともに具体的な実施内容を求めている。
なお、法案に賛同している民間団体には、以下の団体が含まれる。
Body Politic, Covid-19 Longhauler Advocacy Project, Long Covid Alliance, Infectious Diseases Society of America, Marked by Covid, Mount Sinai Health System, National Partnership for Women and Families, and Patient-Led Research Collaborative (PLRC)
また、法案の骨子は、以下から見ることができる。
https://www.sanders.senate.gov/wp-content/uploads/8.2.2024-Long-COVID-Research-Moonshot-One-Pager.pdf
コロナ禍で拡大したリモートワーク廃止で裁判、原告の労働組合が敗訴
2024年7月18日
コロナ禍で急速に広がった、リモートワーク(在宅勤務)。しかし、感染対策の緩和とともに、オフィスワーク(職場勤務)に戻す企業や政府機関が増加してきた。こうしたなかで、ペンシルベニア州フィラデルフィア市は2024年5月、新たに就任した市長がフルタイムの職員に対してリモートワークをオフィスワークに戻すことを決定。これに労働組合が反発、訴訟に発展していたが、組合側が敗訴した。
NPOの調査機関、Pew Research Instituteが2023年3月30日に発表した” About a third of U.S. workers who can work from home now do so all the time”というタイトルの報告書によると、コロナ禍から3年余りが経過した2023年3月時点におけるリモートワークで働いているアメリカの労働者の割合は、35%に止まった。これは、コロナ禍発生から間もない2020年10月の55%、2022年1月の43%に比べ、かなり減少したことを意味する。
ただし、これらは、リモートワークだけで働く労働者の割合で、リモートワークとオフィスワークを組み合わせた、いわゆるハイブリッド・ワークは、2022年1月から23年3月の間に35%から41%へ増加。また、リモートワークを全く経験していないという労働者は、この期間に11%から12%へと微増したに止まる。このように、アメリカにおいては、リモートワークがかなり定着してきた、といってよいだろう。
こうした状況下で、2023年11月のフィラデルフィア市長選挙で初当選し、24年から市長に就任したCherelle Parkerは5月20日、フルタイムの市職員に対して7月15日以降、オフィスワークに戻るよう指示。これに対して、職員の労働組合、American Federation of State, County and Municipal Employees (AFSCME) Local 2187は強く反発。AFSCMEの地域連合会に当たるDistrict Council 47は、指示を無効だとして、フィラデルフィアの郡裁判所のひとつ、Philadelphia Court of Common Pleasに訴えを起こした。
District Council 47は、市長の指示は労使協約違反であり、労働者に悪影響を及ぼすと主張。これに対して民主党の市長は、人の姿が見え、市民が利用しやすい行政府にするためにオフィスワークが必要としたうえで、労働条件の改善も提示していると述べていた。具体的には、有給の育児休暇を6週間から8週間に延長したり、感謝祭の後の金曜日を休日に指定すること、家族介護のための病気休暇の制限が緩和などをあげている。2日間の審議を経た7月12日、Philadelphia Court of Common Pleasは、オフィスワークへの復帰を市は職員に命じることができるという判断を示した。
また、District Council 47は、コロナ禍で導入されたリモートワークの存廃は、労使協議を通じて決定されるべきだととして、Pennsylvania Labor Relations Board (PLRB)に訴えを起こしていた。PLRBは、1937年に設立されたペンシルベニア州の機関で、労使関係の平和的解決を促す機関だ。労働側の訴えに対して、市長は、労使協議の対象事項ではないという立場を提示している。この案件については、まだ判断が示されていない。
前述のように、コロナ禍に対する規制緩和が進む中で、徐々に減少したとはいえ、依然としてかなりの割合の労働者が利用しているリモートワーク。オフィスワークへの復活を求める経営者が少なくない中で、今回のような訴訟が今後も続く可能性がある。その際、労働者の就労環境などとの関連も踏まえ、注視していきたい。
なお、この裁判については、多くのメディアが伝えている。ここで紹介できなかった内容も知りたい場合は、以下の記事を参照されるとよいだろう。
https://apnews.com/article/philadelphia-workers-back-to-office-cf5419f3c71e36949e16ea972bb8e77e
コロナ禍のオンライン授業で和解、大学が学生に495万ドル支払いへ
2024年6月2日
新型コロナウイルス感染症の広がりとともに、全米の教育機関の大半は、授業形態を対面からオンラインへと切り替えた。多くの大学も同様の措置をとったが、この措置に対して、学生から授業料の返済などを求められた大学も少なくない。そうした大学のひとつ、中西部の私立校のシカゴ大学は5月23日、クラスアクションとして訴えていた学生との間で、裁判所による和解案が合意に達したことを明らかにした。和解金は、総額で最大495万ドルに及ぶ。
この裁判は2020年5月、当時シカゴ大学の学生だったArica KincheloeさんとAlexander Castroさんのふたりによって、連邦地方裁判所イリノイ州北部支部に起こされた。ふたりは、UChicago for Fair Tuition (UCFT)という学内組織を立ち上げ、賛同者を募る署名や授業料の支払拒否活動を展開。同年5月1日には、ストライキを行うなどした。しかし、大学側は、四半学期当たり400ドル余りの 学生サービス料を125ドルに減額するなどの措置をとったものの、授業料の半減要求には応じなかった。
UChicago for Fair Tuition (UCFT)が問題視したのは、オンライン授業になったことで、期待していた授業が受けられなかったというだけではない。被告のシカゴ大学は、私立の有名校で、2019年だけで50億ドルもの募金を集めている。また、大学の基金には、82億ドルもの資金がある、と学生は主張。授業料を半減させても、大学の負担は8500万ドルにすぎないとして、コロナ禍による経営の悪化という大学の主張が事実だとしても、学生に負担を押し付けるのは不公平と述べていた。
なお、和解による決着は、大学側の違法行為を認定したことを意味するものではない。また、和解金の495万ドルは、Arica KincheloeさんとAlexander Castroさんへの支払いではなく、クラスアクションなので、「クラス」に該当する学生すべてが対象となる。この訴訟における「クラス」は、2020年1月から同年の春の四半学期に在籍していた学生だ。このため、学生ひとり当たりでは、25ドルにすぎない。なお、アメリカの大学の多くは、春と秋の二学期制ではなく、春と秋に二学期を行う四半期制を採用している。
シカゴ大学以外でも、同様の裁判が数多く起こされている。正確な数字は不明だが、2023年3月1日付のTimes Higher Education の”Leading US universities settle Covid online teaching lawsuits”という見出しの記事によると、300件もの訴えが起こされたという。大半は学生によって起こされたと推察されるが、ニュージャージー州のRutgers Universityの場合は、学部学生の保護者が原告になっている。オンライン授業による質の低下や学生に対面授業の選択肢を与えなかったことに加え、学生が利用できなくなったサービス料を返却しないなど、大学側が不当に利益をえているなどと批判していた。
こうした訴えに対して、大学側は、オンラインであっても授業を提供し、学生の多くが受講してきたことにより、教育機会は確保してきたと主張。また、授業形態を対面で行うことを学生との間で事前に合意していたわけではないとして、契約違反にもあたらないなどを反論してきた。とはいえ、キャンパス内の寮で食住を確保している学生が多いアメリカの大学の仕組みを考えると、オンライン授業に切り替わるとともに、学生寮から出ることを求められるなど、学生が大きな被害を受けたことも事実だ。
シカゴ大学以外の大学における裁判とその結果には、次のようなものがある。DePaul University では、2020年に裁判が起こされたが、大学側が対面授業の実施を約束していたわけではないとして、 21年2月に訴えが却下された。一方、Cornell Universityでは、2023年に学生側に300万ドルを支払うことで大学側と合意。George Washington University では2024年初頭、540万ドルを学生側に支払うことで和解が成立した。
なお、シカゴ大学は、和解内容を「クラス」の在学生や元学生に伝えることが求められているが、その内容などについては、以下のサイトから見ることができる。
https://2020tuitionandfeessettlement.com/
ワクチン懐疑派とアメリカのNPO
2024年4月25日
自民党の麻生副総裁は日本時間の4月24日、訪問先のニューヨークで、アメリカのトランプ前大統領と会談した。何のための会談なのか。いわゆる「もしとら」、すなわち11月の大統領選挙において、現職のバイデン大統領との対戦で、トランプが「もし」勝利した場合に備え、関係を作っておくためだろうと報じられている。
「もしとら」報道が示唆するように、11月の大統領選挙は、バイデンとトランプの一騎打ちになると見方が大半だ。この見方自体を否定するつもりはない。しかし、バイデンはイスラエル支援、トランプは数々の裁判と、不安要素がある。また、バイデンとトランプ以外にも、気になることがある。
第三者の候補だ。Quinnipiac Universityが4月24日に発表した世論調査結果によると、バイデンとトランプが37%ずつの支持率で並んでいるが、ロバート・ケネディ・ジュニアも16%というかなりの支持を獲得している。ロバート・ケネディ・ジュニアは、元大統領のジョン・F・ケネディの弟、ロバート・ケネディの息子である。なお、緑の党のジル・ステインと無所属のコーネル・ウエストも3%ずつの支持を受けている。
ステインとウエストは、いわゆる左派だ。しかし、両者ともイスラエルのガザ侵攻に対するバイデン政権の姿勢を強く批判。前回はバイデンに流れた票を奪い、トランプ有利に導く可能性がある。一方、ケネディは、環境保護を訴え、リベラルにみられる反面、さまざまな問題に関して「陰謀論」を唱えてきた人物でもある。
そのケネディの「資金源」として、フランスの通信社、AFPが4月16日に配信した”Big money flows to US charities fueling vaccine misinformation”というタイトルの記事が注目されている。新型コロナウイルス感染症のワクチンの危険性を主張する、いわゆる反ワクチン団体で働いていた経験などが指摘されているのだ。
AFPの記事は、ProPublicaというNPOのデータを主に引用して書かれている。この団体ウェブサイトは、ケネディが理事長と主席法律顧問を務めていたChildrens Health Defenseの財務報告を提示。それを見ると、2022年度にケネディが受けた報酬は、51万515ドルにのぼる。円安の影響もあるが、日本円で8000万円近くになる。
Childrens Health Defenseは、2007年にニュージャージー州で設立されたNPOである。コロナ禍前の2019年度の歳入は294万1894だった。コロナ禍が始まると、歳入は急増。2020年度は683万4424ドル、21年度は1599万132ドル、22年度は2354万1029ドルと、19年のほぼ8倍に達している。この間、ケネディは、役職は同じだが、報酬は、25万5000ドルから、34万5561ドル、49万7013ドル、そして22年の51万ドル余りへと倍増した。
NPOの事業が拡大し、それにともないトップの報酬が増える自体を非難するつもりはない。とはいえ、アメリカのコロナ政策やワクチン接種に様々な批判があるとはいえ、AFPの記事の見出しのように”fueling vaccine misinformation”(ワクチンの誤情報を煽ってきた)NPOで働き、多額の報酬をえてきた人物が大統領選挙のキャスティングボートを握る可能性があることに、強い違和感を持たざるをえない。
Childrens Health Defenseの歳入の95.8%(2022年度)は「寄付」である。「寄付」は自主的なものである以上、これも批判の対象にすることは適切ではないかもしれないが、やはり違和感がする。Childrens Health Defenseだけの問題ではない。AFPの記事が示しているように、ケネディの選挙運動のCommunications DirectorのDel Bigtreeは、反ワクチン団体のInformed Consent Action Network)というNPOの設立者で、コロナ禍で反マスクを訴えてきたことで知られている。なお、このNPOも、コロナ禍にあって、歳入を大幅に拡大してきた。
こうしたNPOが多額の資金を集める一方、それを問題として社会に訴えていくNPOも存在する。それがアメリカのNPOの幅の広さとして評価できないわけではない。しかし、反ワクチン派の資金が報酬という間接的にせよ、候補者に流れていったことについては、違和感を抱き続けていかなければならないと思う。
なお、前述のProPublicaがウェブサイトに掲載しているChildrens Health Defenseの収支報告は、以下から見ることができる。
https://projects.propublica.org/nonprofits/organizations/260388604