Non-Profit Management
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GivingTuesdayに総額40億ドル寄付が集まった一方、寄付活動の課題も表面化
2025年12月7日
毎年Thanksgiving Day(感謝祭)の翌週の火曜に実施されている寄付活動、GivingTuesdayは、今年もアメリカをはじめ、世界各地で行われた。12月3日に発表された報告によると、アメリカだけで、1910万人が総額40億ドルの寄付が集められた。寄付者、寄付額とともに、2012年に開始されて以来、過去最高の数字となった。これにより、GivingTuesdayは「寄付のエコシステム」作りを進めることができたように見える。一方、NPOの寄付活動全般で見ると、課題も少なくない。GivingTuesdayも懸念した、寄付者の減少は、そのひとつだ。また、超富裕層への依存度の拡大によるNPOの経営への影響の拡大やインフレ下における寄付の低迷も見逃すことができない。さらに、トランプ政権によるNPOへの補助金や事業委託の削減にともない社会的なニーズに対応できる財政基盤をどう形成するかといった、課題も指摘されている。
アメリカでは、11月の第4木曜日がThanksgiving Dayとして祭日に指定されている。翌日は、日本でも馴染みになったBlack Fridayで、クリスマスに向けた商戦が本格的にスタート。ビジネスに関しては、Black Fridayの翌日がSmall Business Saturday、そして翌週の月曜はCyber Mondayと続く。なお、Black Fridayの起源は定かではないが、1975年11月29日にはNew York Times紙が用いたことから、広がった言葉といわれている。Small Business Saturdayは、2010年にAmerican Expressが中小企業の支援策として提唱し、翌年には連邦政府のSmall Business Administration (SBA)の後援。Cyber Mondayは、2005年に小売業の業界団体National Retail Federation (NRF)がプレスリリースで用い、ネット販売が広がる中で、一般化していった。なお、2024年のBlack Fridayの売上高は前年比10.2%増の108億ドル、Cyber Mondayも10.7%増えて133 億ドルを記録した。一方、こうしたコマーシャリズムに反対するBuy Nothing DayがBlack Friday と同日、1992年以来行われている。
GivingTuesdayが始まったのは、2012年。ニューヨークのマンハッタンにあるユダヤ系の文化団体、92nd Street YというNPOが「善行を促す日」として開始した活動だ。クラウドコンピューティングのプロバイダーでNPOにも積極的に支援しているBlackbaud社の支援を受けて開始。3年後の2015年には、アメリカ国内で1億1670万ドルの寄付を集めることに成功した。コロナ禍で募金活動は急速に拡大、2019年の19億7000万ドルから20年には24億7000万ドルへと増加した。その後も寄付は増え、2024年には36億ドルに達した。この間、Facebookをはじめとした企業やBill & Melinda Gates Foundationなどの助成財団の協力を受け、活動を展開。なお、GivingTuesdayは、自らの団体向けに募金を求めるのではなく、11月の第4木曜日以降に統一してファンドレイジングを行うNPOを広報面で支援する組織といえる。また、発足から2019年7月までは92nd Street Yのプロジェクトという位置づけだったが、その後、独自のNPOとして今日に至っている。
2025年にGivingTuesdayを通じて集まった寄付の総額は、前年比13%増の40億ドルに及んだ。これにより、2012年から集まった寄付は225億ドル、1ドル150円に換算すると、3兆3750億円に上る。また、寄付者は、2024年に比べ3%増え、1910万人となった。物品を寄付した人は、1350万人で、前年比4%増加。ボランティアとして参加した人の数は、前年比で20%増え、1110万人に達した。また、GivingTuesdayの活動は海外にも広がり、今年新たにグアテマラやモザンビーク、カタールなどが加わり、100以上の国・地域に及んでいる。これらの数字を見て、GivingTuesday の創設者で現在CEOを務めているAsha Curranらは、胸をなでおろしたことだろう。2024年に寄付者以外も含めた参加者が前年比10%も減少したため、「寄付のエコシステム」作りが暗礁に乗り上げるのではないかと懸念していたためである。
Curran CEOのいう「寄付のエコシステム」とは、多くの人々が寄付やボランティア活動を通じて、NPOが取り組む社会課題とNPOの運営を支えていくことを意味するといってよいだろう。そう考えた時、GivingTuesdayが今年集めた寄付の40億ドルという金額は、昨年のBlack FridayやCyber Mondayの実績の3分の1前後に相当する。したがって、「寄付のエコシステム」は十分機能していると思う人が多いだろう。しかし、アメリカの寄付市場全体に目をやると、必ずしも安心できる状況ではない。例えば、寄付データの収集や分析を行っているGiving USAによると、2023年の全米のNPOに対する寄付総額は、5572 億ドルに達した。これは、前年に比べると1.9%の増加だが、インフレを考慮した実質の変化はマイナス2.1%になっている。さらに、個人の寄付の総額は増えているものの、2023年の寄付者の人数は前年比マイナス3.4%という状況だ。
今年のGivingTuesdayの実績を見ても、寄付額の増加に比べ、寄付者の増え方が少ない傾向が見られることは否めない。では、なぜ、このような状況が生まれるのか。そのひとつとして指摘されているのが、超富裕層による莫大な額の寄付が増えていることだ。例えば、今年のGivingTuesdayの実施日に合わせたかのように、コンピュータ関連企業のDell Technologiesの創業者のMichael Dellとその妻Susanは、62億5000万ドルの寄付を行うと発表した。GivingTuesdayに2000万人近い人々が提供した資金の1.5倍にも上る膨大な金額だ。アメリカの子ども2500万人にひとり当たり250ドルの支援を行うためである。Dell夫妻のような超富裕層による社会的な課題解決に向けた寄付は、格差の是正にもつながる行為であり、肯定的に捉えるべきだと思われるかもしれない。しかし、その実態調査を踏まえ、懸念を示す声も存在する。
超富裕層に関する調査研究を行っているAltrata社は2024年3月、”Explore the trends shaping the global giving landscape today”と題する報告書を発表した。2023年時点で純資産3000万ドル以上をもつ超富裕層は世界中に40万人存在し、その総資産は48兆ドルにのぼる。これらの超富裕層は、活発に寄付活動を行っており、2022年の寄付総額は18年に比べて24%増え、1897億ドルに上った。地域別に見ると、寄付の半分近い906億ドルは、北米の超富裕層によって行われている。次いで、ヨーロッパの超富裕層が622億ドルを提供。なお、2018年に比べた寄付の増加率は、南米が50.7%で最も高く、アジアが28.3%で続いている。超富裕層の寄付活動の特徴のひとつは、目に見える変化を重視し、寄付を受けた団体の活動を継続して支えていく考えが少ないという。このため、多額の寄付と引き換えに、団体のミッションに基づく運営が困難になる可能性もでてこよう。
GivingTuesdayが募金活動を実施したThanksgiving Dayからクリスマスにかけては、アメリカのNPOがファンドレイジングに最も力を入れる時期だ。例えば、全米最大の共同募金団体のUnited Way of Worldwideは、支部ごとに10月から12月に集中してWorkplace Givingと呼ばれる、民間企業における寄付活動を展開。また、街頭でベルを鳴らしながら吊り下げられた赤い鍋に寄付金を入れるように訴えるSalvation ArmyのRed Kettle Campaignも、Thanksgiving Dayからクリスマスまでが実施期間として設定されている。Red Kettle Campaignの開始日のThanksgiving Dayは、毎年異なるので、実施期間は一定ではないが、Salvation Army によれば、2024年には28日間で9947万4124ドルが集まったという。邦貨に換算すると150億円近い、膨大な金額である。
経済専門誌Forbesが2024年12月10日に発表した”America’s Top 100 Charities”によると、年間に最も多くの寄付を集めたNPOは、フードバンクの連合体Feeding Americaで49億1000万ドル。Salvation Armyは6番目で、23億ドルである。上記のようにRed Kettleからの募金額は約1億ドルなので、団体の寄付の大きな部分を占めているわけではない。とはいえ、Salvation Armyのシンボル的な募金活動であることには変わりはない。Salvation Army の2024年のAnnual Reportによると、Red Kettle Campaign による募金額は、22年は1億206万1493ドル、23年にも1億443万2180ドルと、1億ドルを突破していた。しかし、上記のように、2024年には1億ドルを割り込んだ。2024年の開催日は23年より5日間少ないことが影響しているとはいえ、インフレが進む中で、実質的にマイナスになっている可能性もある。
最後に、トランプ政権の政策をはじめとした現在の政治状況が寄付との関係でNPOの運営に与える影響について触れておこう。いうまでもなく、NPOにとって、寄付は重要な収入源のひとつである。とはいえ、現実には、補助金や事業委託に依存度が高いNPOも少なくない。環境保護や人権擁護、対外援助、生活困窮者や移民をはじめとした社会的弱者あるいは少数者を支援するNPOの一部は、寄付よりも補助金や事業委託を財源の中心に据えて活動してきた。また、10月から11月にかけて実施された「政府閉鎖」に象徴される政治的な混乱は、日々の食料の購入資金を政府援助に依存する低所得者の生活大きく圧迫、その救済先としてNPOに期待が集まった。しかし、そのNPOも補助金や事業委託が縮減されている。
このような状況下で、人々の関心、そして寄付先は、食料などを直接提供するNPOに向かいがちだ。その結果、寄付やボランティアの増加も伝えられている活動領域もある。とはいえ、政府資金の空白を民間が埋め合わすことは事実上不可能だ。政府の政策を変える活動、すなわちアドボカシー団体にこそ支援を広げるべきではないか。Jennifer Johnson
は、こう主張するひとりだ。12月1日発信のThe NonProfit Quarterlyの”Be Bold This GivingTuesday: Lessons from Public Rights Project”と題する一文を投稿。その中で、Johnsonは、政権の政策を変えるために、GivingTuesdayにおいても、自治体の職員にトレーニングを提供したり、政策の変更を求め訴訟を起こすなどしているPublic Rights Project (PRP)のようなアドボカシー型のNPOへの支援の必要性を訴えている。ここで、PRPの活動とその意義を説明することはしないが、GivingTuesdayをはじめとしたNPOへの寄付は、なんのためなのか、改めて問い直すことが求められている時代なのではないだろうか。
なお、上述した今年のGivingTuesdayの結果の詳細は、” Generosity Sweeps the Globe: Participation and Donations Rise on Another Record-Breaking GivingTuesday”というタイトルがつけられた、以下のプレスリリースから詳しく知ることができる。
https://www.givingtuesday.org/blog/2025-results/
連邦政府の閉鎖2カ月目に突入へ、NPO活動の利用者に大きな影響
2025年10月31日
日本のメディアも相次いで報道しているように、アメリカの連邦政府の一部が10月1日から閉鎖され、2カ月目に入ろうとしている。11月1日には前年度の低所得者向けの食料支援援助の政府資金が枯渇するのを前に、各地のフードバンクなどは、州政府や自治体と連携し、食料支援を拡大する体制づくりに向けた動きを進めてきた。しかし、政府閉鎖の影響は、食料問題だけではない。教育や住宅、医療、国立公園の運営などにも及んでいく。また、多くの連邦政府職員が無給の休職に追い込まれ、職員とその家族の生活が悪化したり、航空管制官の不足によるフライトのキャンセルや遅延などの問題も発生。政府職員の労働組合からも、早期再開を求める声もでている。こうした政府閉鎖による影響のうち、NPOそして、その利用者への影響を中心に、検討していきたい。
連邦政府の閉鎖による影響に言及する前に、閉鎖がなぜ起きたのかについて説明しておく必要があるだろう。合衆国憲法は、連邦議会が予算を編成し、大統領をトップにした行政府が各種の事業として執行することを定めている。政府機関の閉鎖は、議会が予算を成立させることができなかったことで生じる事態だ。アメリカの会計年度は10月1日から翌年の9月30日までである。予算を執行させるにはAntideficiency Act に基づき、12件の法案を両院で可決、大統領が署名する必要がある。新しい会計年度が始まる前に、先議権をもつ下院が9月19日に2法案を可決。その後、上院で審議、採決が行われたが、可決に至らなかった。下院は単純過半数で可決できるのに対して、上院はフィリバスターと呼ばれる審議の引き延ばしを中止させるには100人中60人以上の賛成が必要なためだ。
以上を簡単に整理すると、会計年度末までに本予算の成立が困難と見られたため、つなぎ予算を下院が可決した。しかし、上院では可決できなかった。このため、10月1日からの新年度の予算が執行できず、政府機関の閉鎖に至った。下院が可決したつなぎ予算の執行可能期限は11月21日である。したがって、仮に11月3日の週明け直後に下院案を上院が承認しても、執行できる期間は限られ、新たなつなぎ予算、そして本予算が成立しない限り、閉鎖の影響は続くことになる。この繰越資金が枯渇することで、政府閉鎖の影響が本格化することになる。なお、航空管制官をはじめとした政府職員の給与は支払われていない。
連邦政府の閉鎖は、今回が初めてではない。政府閉鎖の定義によって数字は異なるが、10月1日発信のAsheville Citizen Timesの”Why did the federal government shut down? What people in North Carolina, U.S. should know”というタイトルの記事によれば、1976年以降、21回行われており、今回は22回目に当たる。平均すると2年に1回のペースだが、1977年のカーター政権下では3回行われ、1年間の回数としては最大だ。第1次トランプ政権では、2018年に2回、19年に1回実施された。このうち2019年の閉鎖は35日間と、最も長期にわたった。なお、2001年に大統領に就任したGeorge W. Bushのように閉鎖を経験していない大統領もおり、政権による差が大きいことがわかる。
連邦政府資金への依存度が高いNPOは、閉鎖の可能性を視野に入れ、事前に対策を取ることが推奨されている。例えば、全米の3万以上のNPOを会員にもつNational Council of Nonprofits (NCON)は9月9日、会員団体向けに”Government Shutdown: What Should Nonprofits Do?” と題す文書を発表。閉鎖の内容やNPOの経営に及ぼす影響などを示したうえで、以下の内容を含む、閉鎖に備えて行うべき事項を紹介している。
・連邦政府からの補助金や事業委託の有無の確認
・閉鎖により政府資金の確保が困難になった場合を想定したキャッシュフローの把握
・政府資金で運営する事業などの継続に向けたプランの作成
・内外の関係者との事前協議
・議会へのアドボカシー活動の実施
一言でNPOといっても、活動内容は多様だ。では、政府閉鎖は、NPOのどのような活動に影響を与えているのか。CLA Connectというコンサルティング会社は、10月23日に発信した同社のBlog記事” Impact of Government Shutdown on Nonprofit Services”において、食料、住居、医療・福祉、育児・児童教育、国立公園・博物館・政府施設に分けて説明している。以下、CLAの説明を補足しながら、それぞれの概要を見ていく。
・食料支援(フードバンクやパントリー)
メディアで最も多く取り上げられている事業だが、直接的な影響よりも、間接的な影響が大きい。連邦政府は、低所得者向けの食料支援事業として、購入費の補助事業のSupplemental Nutrition Assistance Program (SNAP)を通じて、全米4200万人に毎月、所得などに基づき、一定額を給付している。これが前年度の資金が枯渇する11月から支払い停止になるため、フードバンクやパントリーに食料を求め人々が押し寄せている。なお、SNAPが提供されていた10月中も、フードバンクなどへのニーズが急増していた。これは、連邦政府の職員が無給の休暇に追い込まれたことなどが影響していると見られる。
・住宅・ホームレス支援
住宅に関しては、低所得者向けの補助金が直接支払い停止になるわけではないが、支払業務を担う政府職員の減少による遅延の可能性がある。また、政府は、家賃だけでなく、光熱費への補助も行っており、同様に遅延による問題への懸念が指摘されている。ホームレスについては、支援団体への補助金や事業委託の支払いが滞った場合、その影響が支援を受けるホームレスの人々に及ぶことになる。
・政府が運営する医療保険のMedicareや低所得者向けの医療補助のMedicaidは、一般会計ではないため、利用者に直接影響しない。しかし、政府による還付が遅れれば、医療機関の経営に影響を与え、その結果、利用状況の悪化も考えられる。なお、政府の補助金や事業委託で実施されているメンタルヘルスなどのサービスは直接影響が及ぶ。
・育児と教育、生活支援などを組み合わせた、政府の補助金などを利用して、Head Startと呼ばれるプログラムがNPOなどにより全米各地で実施されている。現在の利用者は、約100万人にのぼる。利用者の児童だけでなく、保護者にも影響が及ぶことは必至だ。
・国立公園・博物館・政府施設のうち、博物館はNPOが設立運営しているところも多数存在する。しかし、運営に当たっては、政府から補助金などを受給することが多い。国立公園は、政府施設の一部だが、他の政府施設と同様に、NPOの活動場所として利用されることも少なくない。政府の資金が滞れば、影響が及ぶことになる。
以上のように、政府閉鎖で影響を受ける政府事業やNPOの活動は、国立公園・博物館・政府施設を除くと、低所得者向けが多い。MedicareとMedicaidの影響は間接的なので判断は難しいが、2025年7月にCenter for Medicare and Medicaidが発表した”Medicare and Medicaid by the Numbers”によると、Medicaid とMedicaid受給資格を超える所得がある家庭の児童や妊婦向けの医療保険Children’s Health Insurance Program (CHIP) を合わせた利用者は8200万人に及ぶ。MedicaidとCHIPの受給者の大半は Medicareの受給者と重複しているため、医療関係で影響を受ける可能性がある人は全体で8200万人をやや超える程度と見られる。
しかし、政府閉鎖の影響は、上記の事業を利用していない人にも及ぶ。例えば、SNAPを利用して自宅付近のスーパーなどで食品を購入していた人々が政府の援助をえられなくなり、フードバンクなどで食料を無料でもらうことになれば、スーパーの売上は減少する。地域経済にネガティブな影響を与えるということだ。連邦議会の調査機関Congressional Budget Office (CBO)が10月27日に連邦下院のCommittee on the Budgetの委員長に送付した書簡によると、政府閉鎖によるアメリカ経済への影響は少なく見ても70億ドル、多い場合は140億ドルに達すると推定している。
では、この状態を有権者はどのように考えているのか。Quinnipiac Universityが10月22日に公表した世論調査結果によると、「政府閉鎖の責任が民主党、共和党どちらにあると考えるか」という問いに対して、共和党の45%に対して、民主党は37%、両者ともが11%、その他5%だった。女性の間では、共和党50%、35%とさらに大きな差がある。また、「連邦下院議員選挙が今日、投票日だった場合、民主党、共和党どちらの勝利を期待するか」という問いには、共和党41%、民主党50%、その他9%と、ここでも共和党に逆風が吹いている。女性に限定すると、共和党37%、民主党57%と20ポイントもの差が見られる。大統領選挙や中間選挙ほどではないが、11月4日には、一部の州の知事選挙や議会選挙、自治体などで選挙が行われる。その結果は、政府閉鎖の動向にも影響を与えていくに違いない。
なお、上述のNational Council of Nonprofits (NCON)は、”Government Shutdown: What Should Nonprofits Do?”と題する文書をはじめとした政府閉鎖に関する記事の掲載のような情報提供だけでなく、政府を相手取った訴訟も行っている。これらについては、NCONの以下のサイトから見ることができる。
https://www.councilofnonprofits.org/pressreleases/government-shutdown-threatens-nonprofits-ability-serve-communities
連邦政府職員の共同募金廃止の動き、NPOの反発で政府は実施表明も26年の改定示唆
2025年9月14日
8月末、連邦政府職員によるNPOへのCombined Federal Campaign (CFC)と呼ばれる共同募金活動が、政府側の担当部署であるOffice of Personnel Management (OPM)によって廃止されると報じられた。この報道を受け、The Nonprofit Alliance (TNPA)などのNPOの中間支援組織は、廃止撤回を求め、政府や議会へ働きかけを行った。OPMは9月11日、プレスリリースを通じて、今年のCFCを10月1日から開始する旨を発表した。運動を主導したTNPAなどは、募金の意義が確認されたとして、例年通りの実施に歓迎の意思を表明。しかし、OPMは、参加NPOの数の減少や管理運営費の負担など、CFCに問題があるとして、2026年に事業の改定の可能性を示唆しており、余談を許さない状況だ。
CFCは、寄付を求めるNPOの職員らが、連邦政府職員のボランティアとともに、毎年秋に退職者を含む連邦政府職員や米軍の関係者など(以下、連邦職員)に寄付を要請、賛同した連邦職員がNPOに寄付を行う仕組みだ。大半の連邦職員は、事前に承認した金額を給与から毎月天引し、就業先の省庁を通じて寄付してもらう方式を選択。ただし、クレジットカードや銀行の口座振替などの形で、個人で寄付をしたり、単発の寄付も可能だ。CFCのデータを調査しているCharityChoice.comによると、2024年に毎月、給与からの天引きした人は、寄付者全体の9割近くで、単発の寄付者は12%にすぎない。なお、連邦職員のボランティア活動を金銭に換算すると、300万ドル余りに達するという。
アメリカで職場における共同募金活動というと、United Wayをイメージする人が多いだろう。United Wayは民間企業における活動が主体で、CFCは連邦政府の職員に対して職場で寄付を勧誘するもので、対象者が異なる。また、CFCは、制度的な裏付けに基づき実施されており、United Wayのように企業の自主的な判断による取り組みとは異なる。連邦政府職員に対する寄付集めの体制は、1948年から徐々に始まり、50年代半ばからDwight Eisenhower大統領令10728号”Establishing the President's Committee on Fund-Raising Within the Federal Service”により方向性が定められた。そして、1961年に当時のJohn F. Kennedyの大統領令10927号” Abolishing the President's Committee on Fundraising Within the Federal Service and Providing for the Conduct of Fundraising Activities”によって制度化された。
Kennedyの大統領令から数年は、参加団体がAmerican Red Crossなど全米的な医療や福祉関係の団体に限定されていた。しかし、1970年代に、医療や福祉以外のNPOにも門戸を開くことを求めて訴訟Natural Resources Defense Council v. Campbellが起こされるなどして、参加団体は増加。CFCのウェブサイトに掲載されている資料”The History of the CFC”によると、1964年には1290万ドルだった寄付総額は、79年には8280万ドルへと急増。1984年には、501c3団体であれば、CFCに参加できるようになったこともあり、参加団体数も2000年代初頭には2万団体に上り、2004年の寄付総額は2億5600万ドルに達した。その後、参加料を求めるなどしたこともあり、参加団体は大きく減少。直近の2024年には、参加団体4400、寄付総額6600万ドルに止まっている。
CharityChoice.comの報告書” Combined Federal Campaign giving stays strong in 2024, with the average pledge rising to nearly $1,000”によると、2024年の寄付総額は前年の6870万ドルと比べ、4%のマイナスとなった。ただし、ひとり当たりの平均寄付誓約額は992ドルで、前年より75ドルも増加した。また、退職者の寄付額は平均1331ドルと、現役の職員に比べ、かなり多い。CFC全体への寄付額が減少したものの、American Red Crossをはじめとした公共の安全や被災者支援に取り組む団体への寄付は、前年比23.4%もの伸びを示した。これは、HeleneやKirkなど、超大型のハリケーンが大きな被害を及ぼしたためと見られる。また、住宅やシェルター、公民権や社会正義の活動などの団体も寄付を増やした。一方、教育や医療は、10%を超えるマイナスだった。
CFC継続への暗雲が立ち込めたのは、8月29日。The Washington Post紙の” Trump administration pauses work on annual federal worker charity drive”というタイトルの記事によってである。9月2日にCFCのウェブサイトに今年の募金活動の実施の案内が掲載される直前のことだ。同紙は、OPMが8月26日にCFCの募金活動に関する準備作業を停止するように求めるメモを発表していたと報じた。その一方、OPMの報道官McLaurine Pinoverの話として、今年のCFCを実施するかどうか、決めていないと伝えた。これに対して、100余りのNPOにCFCを通じて募金活動を支援しているAmerica’s Charitieの会長兼CEO、Jim Starrは、CFCには税金が投入されていないため、廃止の理由がわからないと指摘。そのうえで、連邦政府の補助金が大幅削減されることで「(NPOが負った)傷に塩を塗るような行為だ」と述べている。
この報道を受けた形で、NPOの中間支援組織がCFCの継続を求め、OPMや議会への働きかけを開始した。9月初頭、The Nonprofit Alliance (TNPA)は、38のNPOの代表の署名を加え、連邦議会の上下両院の民主・共和両党の指導者に書簡を送付、CFCの継続を訴えた。また、National Council of Nonprofits (NCON)とUnited Way Worldwide (UWW)は、TNPAと別に、OPMのDirector、Scott Kuporに対して、CFCを廃止するのではなく、CFCのステークフォルダーと連携し、連邦職員によるNPOへの寄付の機会を継続していこうと呼びかけた。
OPMのDirector に対するNCONとUWWの書簡は、TNPAの書簡が送られた上下両院の民主・共和両党の指導者に転送された。TNPAも含め、NPO側には、議会を通じてOPMにCFCの継続を働きかけようとした意図が感じられる。ただし、9月4日発信の” Charities Push Feds To Keep Combined Federal Campaign”と題するThe NonProfit Timesの記事によると、NPO側はOPMに対して、緊急会談の開催を求めた。この記事には、緊急会議の開催を求めた主体は明示されていない。しかし、TNPAが議会指導者に送付した書簡の末尾には、緊急会談を要請したという記載があり、OPMとの話し合いを通じて問題の解決を図ろうとしたスタンスが感じられる。
連邦議会やOPMに対するTNPAやNCON、UWWなどの働きかけが功を奏したのだろう。OPMは9月11日発信の” OPM Announces 2025 Combined Federal Campaign, Evaluates Path Forward”と題するプレスリリースで、10月1日から12月31日まで、CFCを実施することを表明。しかし、OPMは連邦職員のNPOへの寄付という「寛大な行為を支持する」としながらも、「プログラムの管理コストと参加者の減少」という問題があるとして、2026年にCFCの改定の可能性を指摘している。この言葉から、CFCの存続の議論は、来年に持ち越されたにすぎず、永続的な事業として保障されたわけではないことを理解する必要がある。
前述のように、CFCに参加するNPOの数や寄付を行う連邦職員の人数が減少していることはデータによって裏付けられている。では、プレスリリースが指摘する「プログラムの管理コスト」とは何を意味するのか。上記のAmerica’s CharitieのStarrの会長兼CEOには税金が投入されていないという言葉を矛盾するように聞こえる。The Washington PostやThe NonProfit Timesの記事、OPMのプレスリリースなどには、この疑問への回答は明示されていない。しかし、TNPAが議会指導者に送付した書簡には、7月に成立したトランプの歳出法案の審議の中で、連邦政府職員によるNPOなどへの寄付に対して、寄付額の10%を管理コストとして徴収する案が削除されたことが示されている。
政府としては、職員が寄付を行うに当たり、職員の給与から天引きして、寄付先に送付する作業が求められるのであれば、その経費を請求するという意味だ。America’s Charitiesの会長兼CEOが述べたように、CFCには税金が投入されているわけではない。しかし、給料からの天引きとそれを数千ものNPOに送付するには、一定の事務作業が生じる。その作業は、有給の連邦職員が担っている以上、そのコスト負担を求めるのは当然、ということなのだろう。また、OPMのプレスリリースでは触れられていないが、CFCを通じた寄付はトランプ政権に批判的なNPOにも提供されている。Planned Parenthood Federation of AmericaやNational Parks Conservation Association、ACLUなどは、その一部だ。CFCの改定、そして廃止への動きの背後には、こうした政治的な意図が存在しているのではないだろうか。
なお、上記のTNPAによる連邦議会の指導者への書簡は、以下から見ることができる。
https://federalnewsnetwork.com/wp-content/uploads/2025/09/CFC-Letter-to-OPM-September-4-2025-FINAL.pdf
大統領令による補助金制度の改定、政権の意向の反映につながるなどの懸念も
2025年8月23日
トランプ大統領は今月初め、補助金制度を改定する大統領令に署名した。1月の就任後、大学やNPO・NGOに対する補助金の支払い停止などが行われ、受給団体の運営や団体の事業の利用者に大きな影響を与えてきた。今回の大統領令は、新たに申請を受け付ける補助金に対するものだ。改定後は、補助金制度の運用が政権の指名した高級官僚が行うことで政権の意向に沿った事業しか採択されなくなることへの懸念が指摘されている。また、間接費への規制が強まり、受給団体の経営が困難になるなどの見方もある。NPOの連合体などからの声明などは、いまのところ出されていない。一方、研究者や研究機関をメンバーとする団体やNPO関連の情報を提供するメディアからは、懸念がだされており、それらの指摘から、大統領令の問題を探ってみることにした。
連邦政府の補助金制度改定に関する大統領令のタイトルは、”Improving Oversight of Federal Grantmaking”で、トランプ大統領が署名、公布したのは8月7日。このタイトルが示すように、連邦政府による「Grantmaking(補助金供与)に関する「Improving Oversight(管理体制の改善)」を目指した措置だ。なお、大統領令の第2条の「定義」によればGrantは、2 CFR 200.1という法律に規定された “cooperative agreement”(協力契約)によって公共目的の事業に対して政府が提供する資金をさす。また、大統領令の冒頭には、税金の無駄使いを終わらせることで、補助金の管理体制を改善するという趣旨が述べられ、第1条の「目的」に大統領令発令の背景も含め、具体的に記述されている。
「目的」と書かれているものの、第1条の大半は、現在の補助金供与制度が不適切であることを、事例を通じて指摘する内容が大半だ。具体的には、DEIの推進や「反米イデオロギー」の拡散、「不法移民」への支援活動などが上げられている。こうした補助金事業のテーマに加え、成果の不明瞭さや、補助金が事業に直接関係ない管理費などに充当されていること、申請書類の作成が複雑なことや審査の公正性への疑問も提示。これらの問題を解決するため、第2条で主要な語彙の定義を行った後、第3条から6条に示された、改善策の提示という構成にしたとみられる。以下、これらの条項を簡潔に紹介していこう。
第3条のタイトルは、「政府機関の補助金供与に対する説明責任の強化」である。その中心は、各省庁の補助金供与の実施を監督する高級官僚を指名し、省庁の優先内容と国益にそって決定していくことだ。第4条は「裁量的な補助金に関する考慮事項」とあるように、供与の対象となる補助金が省庁の裁量によって決めることができるものに限定されている。大統領令の第2条の「定義」にある、供与の仕組みが法律などに基づく、いわゆる義務的経費に関する補助金は、対象外になる。そのうえで、裁量的補助金は、大統領の政策の優先事項を前進させなければないとしている。
第5条の「統一ガイダンスの改訂」は、いわゆるUniform Guidanceと呼ばれる連邦政府の補助金供与に関する指針の変更についてだ。特に、供与が決まった後、協力契約を解除するための変更を盛り込むことを規定。また、裁量的補助金の使用を適切に制限するための規定を盛り込むことを求めている。第6条の「実施および終了条項」には、各省庁の長がそれぞれ省庁の補助金制度を精査し、30日以内に報告書としてまとめることを要請している。なお、最後の第7条の「一般規定」は、他の法律との整合性を求める内容の記述がなされていることだけ記しておく。
以上のような条項によって構成されている大統領令は、政権の意向を示したものである。したがって、問題点などは示されていない。このため、Independent SectorやNational Council of Nonprofits (NCN)などの全米規模のNPOの中間支援組織や複数の州レベルの連合体のウェブサイトに大統領令に関する声明などが掲載されていないか、確認してみた。しかし、大統領令に関連した声明やプレスリリースを発見することはできなかった。ただし、 NCNは” Executive Orders Affecting Charitable Nonprofits”と題する8月8日最終更新されたコーナーで、大統領名が発令されたことと、その概要を掲載している。
このため、Grant Professionals Association (GPA)が8月11日に公表した大統領令に関する声明文”GPA Statement on ‘Improving Oversight of Federal Grantmaking’ Executive Order”から考えていくことにした。GPAは、1998年に設立され、カンサス州Overland Parkに本部を置く非営利団体。内国歳入法(IRA)の分類では、寄付控除が認められる501c3団体ではなく、501c6団体として内国歳入庁(IRS)から認可されている。補助金に関心をもつ個人の会員団体で、商工会議所などと同じ位置づけになる。なお、同一団体から複数の会員が参加する場合は、「団体会員」としても割引が適用される。IRSに提出された2023会計年度の報告書によると、総収入の176万ドルのうち会費収入が80万ドル余りと、ほぼ半分を占めている。
声明の中でGPAは、大統領令の問題点について、以下の4点をあげている。なお、声明文の直訳では、わかりにくい点も少なくない。このため、内容の一部は、筆者が補足した。
1)幹部職員の政治的選出による専門家排除
大統領令の第3条は、補助金の審査や資金供与決定のプロセスの責任者として、各省庁が高級官僚を指名することを定めている。こうした政治的な任命者を審査の検討に加えることは、資金提供を遅らせることで、国民の生活向上を目的としたサービスの中断を招きかねない。なぜなら、省庁は議会に予算を要請し、承認された予算に基いて決定した補助金事業に対する申請を受け取り、各省庁の専門家が詳細を検討し、供与先を決定する。この過程に政治的に選出され、補助金事業の詳細を理解していない高級官僚が入り込み、政権の意図を反映させようとすれば、意思決定に時間がかかるだけでなく、適切な供与先の確保も難しくなる恐れがでてくる。
2)間接費率の引き下げに伴う補助金受託団体の運営への影響
政府や民間財団によるNPOに対する補助金や助成金には、直接必要となる経費以外に、事務所の家賃などの施設費や管理費が間接費(以下、間接費)として提供されることが一般的だ。アメリカの連邦政府の補助金においては、通常、15%を上限としつつも、自然科学系の大学などの研究機関や大規模な団体の事業においては、これを大きく上回る割合の間接費が支払われてきた。この現状に対して、大統領令は、間接費の規制を強め、同様の事業計画が提出された場合、間接費が少ない団体の計画を採用するように求めている。GPAは、間接費が継続的なサービス提供に不可欠だと指摘。間接費率に競争要素として低く設定することは、補助金を受託した団体の持続性に悪影響を可能性があるとGPAは懸念している。実証的な財務データに基づく真のコストを反映せず、競争のために恣意的に決定された費用のみを提示すれば、申請団体に対する財政的負担の増加、サービス提供能力やサービスの質の低下が生じる可能性がある。
3)進行中の補助金の「便宜的な理由による終了」について
大統領令は、すべての裁量的補助金に「便宜的な理由による終了」を認めるとしている。特に懸念されるのは、すでに授与された補助金が事業の途中で「終了」すなわち取り消される可能性がある点だ。事業途上における取り消しは、団体内に悪影響を及ぼすだけでなく、支援を必要とする人々がサービスを受けられなくなり、地域社会の雇用喪失、失業率の上昇、事業を実施していた団体の施設の空洞化、さらには経済全体への悪影響が生じる可能性があるいえよう。
4)特定事業への補助金の直接引き出し要件の変更に伴う問題
受託が決まった補助金の引き出し際に書面による説明と申請が必要となるなど、要件が追加された。これにより、受託団体は、資金アクセスに対する事務的な負担が増加することになる。また、事業が途中で打ち切られた場合、すでに実施のために支出された資金を政府が返還を求めることになった。こうした実施済みの事業に充当した経費を団体に求めることは、納税者であるアメリカの人々を支援するという大統領令の目的に反するとともに、人々の生活向上や国益の推進に逆行するといえる。
CPAの以上の指摘は、NPOの経営にとっても重要な点である。とはいえ、NPOは組織を維持・発展させることが主眼ではなく、ミッションの達成を目指すことが最大の存在理由といえる。NPOのミッションは、団体によって異なるが、トランプの大統領令の「目的」に示唆されているように、DEIの推進や「反米イデオロギー」の拡散、「不法移民」への支援活動などの事業を連邦政府の補助金供与から排除していることを意図しているといってよいだろう。これらのミッションについて賛否はあるとしても、NPOは、それぞれのミッションを掲げ、それを政府も受入れることで、政府とNPOのパートナーシップ、さらには市民社会が成立してきた。
こうしたNPOのミッションの重要性とそれを侵害していく可能性について、CPAの声明は取り上げていない。また、NPOの中間支援組織は、夏休みで意見集約が困難なのかもしれないが、意見表明すら行っていない。では、NPOの運営や活動にフォーカスした情報発信をしている、メディアはどのように対応しているのか。比較的認知度が高いと考えられる、Chronicle of Philanthropy (CP)とNonProfit Times (NPT)に加え、NonProfit Quarterly (NPQ)について調べてみた。順番は逆になるが、NPQには関連記事がない。NPTは8月11日に”Commentary: Grave Concerns Arise From Federal Grants Executive Order”と題する記事を掲載している。しかし、この記事は、CPAのCEOであるMike Chamberlainの署名入りで書かれたもので、内容もCPAの声明とほぼ同じだ。
では、Chronicle of Philanthropy (CP)はどうなのか。8月13日に”New Trump Order Injects Politics Into Federal Grant Decisions”というタイトルの記事を掲載している。したがって、この記事が主要なNPOメディアが大統領令について取り上げた独自の記事としては、唯一のものといえよう。記事の執筆者は、CPのシニアレポーターAlex Danielsである。PCに掲載されたプロフィールを見ると、入職前はアーカンソー州の州都Little Lockに本社を置く日刊紙、Arkansas Democrat-Gazetteで連邦議会を含めた全米の政治問題の記事を執筆していた。しかし、NPOにおける就労経験は書かれていない。
CPの記事は、Daniels記者がテーマに沿った専門家3人にインタビューを行い、それを中心に構成されている。3人のうち、最も多く引用されているのは、MyFedTrainerという連邦政府から補助金の獲得を目指す企業やNPOにコンサルティングを提供している団体のRachel Wernerで、実名が6回、代名詞が1回登場する。他のふたりは、それぞれ1回と2回にすぎないことからも、Wernerの役割の大きさが感じられる。そして、記事は、トランプが今後も補助金制度の新たな改定を進めることを想定されるとしながらも、補助金を獲得するために理念を曲げるのではなく、「ミッションに忠実であるべきだ」というWernerの言葉で結ばれている。
このWernerの言葉に、Daniels記者、そしておそらくCPのNPOへの思いが託されているように感じる。なぜなら、3人のいずれの言葉も直接引用していないものの、係争中のVera Institute of Justice (VIJ)の事例について記事が触れているからだ。ニューヨークのブルックリンに本部を置くVIJは、司法制度における人種差別の解消などを求めているNPOで、Black Lives Matterの運動でも重要な役割をはたしてきた。第2次トランプ政権の成立後、VIJなどに連邦司法省から供与されていた8億2000万ドルの補助金が、イーロン・マスクが主導していた政府効率化省(DOGE) に取り消されたことを不服として、訴訟を起こした。一審で敗訴したもののNational Council of Nonprofits (NCN)など多くのNPOなどの支援を受けながら、控訴して闘いを継続中だ。
「ミッションに忠実であるべき」という言葉を語ることは容易だ。しかし、現在のトランプ政権下では、経営体としてのNPOの財政基盤を壊しかねない。こうした困難状況にアメリカのNPOは直面していることに、日本のNPO関係者も、その実態を理解し、声をあげるべきではないだろうか。なお、上記のChronicle of Philanthropy (CP)が8月13日に発信した”New Trump Order Injects Politics Into Federal Grant Decisions”というタイトルの記事は、以下から見ることができる。
https://www.philanthropy.com/article/new-trump-order-injects-politics-into-federal-grant-decisions
トランプ大統領就任から半年、NPOの運営や活動に大きな影響を与えている政策の検討
2025年7月28日
第2次トランプ政権がスタートしてから、7月20日で半年が経過した。対外的には関税の引き上げや国際紛争への対応、対内的にはDEIの撤廃や「不法移民」への取締強化など、その大半は、バイデン政権の政策を一変させる内容だ。NPOの経営や活動に関しても、就任直後からトランプは、海外援助活動への財政支援の縮減、DEIの不当性や反ユダヤ主義への対応の必要性を掲げた大学運営への介入、省庁からのNPOへの補助金の停止など、幅広い分野で、これまでの政府とNPOの関係を大きく変える政策を打ち出してきた。一方、NPOもトランプの政策を黙って受入れてきたわけではない。訴訟や議会への働きかけ、デモや集会、市民への啓発など、さまざまな形で対応している。就任から半年を区切りとして、NPO全体の運営や活動に関わり、どのような政策が打ち出され、それにNPOがどう対応してきたのか、その枠組みや概要を整理、検討していく。
トランプの政策へのNPOの対応という表現を用いると、NPOは政府の政策に受動的に対処してきた、という印象をもたれるかもしれない。NPOとしての主体的な理念や原則はないのか、という疑問である。極めて多様なテーマを大小さまざまな形で活動として実践するNPOの性格を踏まえれば、トランプ政権に対して、NPOがセクター全体として統一した考えや行動が存在することはありえない。とはいえ、アメリカにも「NPOセクターを代表する組織」が複数存在しており、随時、「セクターとしての考え」を表明してきた。大統領選挙でトランプの勝利が確実になった直後の昨年11月7日、全米のNPOやフィランソロピー関係の団体で構成されているIndependent Sectorは、” A Statement on the 2024 U.S. Presidential Election”と題する声明を発表。NPOセクターの発展に向けた政策の実現を目指すとしたうえで、政策の優先項目として、以下の5つをあげた。以下、それぞれについて、筆者の認識も含め簡潔な説明を加えておく。
・政府内の代表権の確保
政府内にNPOの声を聴き、対応する部門を設定すること
・税制改革
健全かつ信頼されるNPOセクターの建設に必要な大規模な税制改革の実施
・寄付税制の推進
NPOの寄付に対する控除措置の納税者全体への拡大
・職員への税額控除
民間企業の従業員に認められている年金や育児に関する税制控除の導入
・賃金などの雇用関係のデータの収集
NPO職員に限定した賃金など雇用関係のデータを政府が収集、開示すること
以上から明らかなように、これらはNPOの運営や職員の処遇に関する内容だ。教育や福祉、環境など、個別の事業分野については、含まれていない。事業分野の多様性に加え、団体により理念などが異なる以上、「NPOセクターを代表する組織」とはいえ、個別の事業分野に関する政策に踏み込むことは難しい。また、5項目のうち、3項目は、税制に関連している。寄付控除のような税制面の支援が寄付の増加という形で、NPOの経営の拡充や安定に寄与するためだ。一方、税制改革や職員への税額控除の必要性については、NPOが社会を支える重要なセクターとして、税制上、適切に位置づけられていないことへの問題提起といえよう。
寄付税制の推進の具体策のひとつに、Universal Charitable Deduction (UTD)という、寄付を促進するための政策がある。納税者は、所得税の申告において、Itemizeと呼ばれる項目別に支出を提示して控除を求める方式と、Non ItemizeまたはStandard Deductionといわれる支出の明細や領収書なしに一定額の控除が認められる方式のいずれかを選択できる。Standard Deductionによって認められる控除額には、寄付による控除も含まれているとみなされている。現在、納税者の9割は、Standard Deductionを選択しており、寄付による税制上もメリットは、事実上、存在しない。そこで提唱されているのが、UTDである。過去に一時的な措置として導入され、寄付の増加が見られたという報告もある。このためNPOセクターからの要望は強かった。
7月3日に連邦議会を通過し、翌日大統領が署名した、いわゆる"Big Beautiful Bill" (H.R. 1=下院法案1号)には、このUTDが盛り込まれていた。単独の納税者の申請の場合は1000ドル、夫婦による申請では2000ドルまで控除できる仕組みだ。しかも、一時的な措置ではなく、恒久的な措置として導入されることになっ。連邦議会のJoint Committee on Taxationの推計によると、UTDの導入により、今後10年間に740億ドルもの寄付の増加が見込まれる。1ドル150円で換算した場合、11兆7000億円に及ぶ膨大な金額だ。長年にわたるNPOの要求の成果といえるが、NPOも一枚岩ではない。政府の補助金への依存度が高いNPOも数多く存在する。こうした補助金依存型のNPOは、以前から寄付控除の拡大が補助金の減少につながるとして反対してきた。
"Big Beautiful Bill"との関係でいえば、問題はさらに複雑である。全米最大のNPOのネットワーク組織といわれるNational Council of Nonprofits (NCN)は、"Big Beautiful Bill"が連邦議会を通過した7月3日、”New Tax Law Threatens Nonprofits’ Ability to Serve Communities, Warns National Council of Nonprofits”と題する声明文を発表した。このタイトルが示すように、このトランプ肝入りの法律がNPOの地域活動を行う能力にとり脅威になるという認識に立っている。UTDの導入による寄付増の反面、UTD以外に寄付を消極化させる措置が導入され、その結果、10年間に810億ドルの寄付額の減少が生じると見込まれるためである。なお、この減少額も、Joint Committee on Taxationの推計によるものだ。これらふたつの推計に基づけば、NPOへの寄付は10年間に70億ドル、毎年平均7億ドル減少することになる。なお、寄付データを集計、公表しているGiving USAによると、2024年におけるNPOへの寄付総額は5925億ドルにのぼる。
"Big Beautiful Bill"には、NPOへの課税強化を目的にした条項もあった。501c3団体として認可された大学の基金への税率引き上げは、そのひとつだ。大学の基金に対する課税措置は、第1次トランプ政権下の2017年、Tax Cuts and Jobs Act (TCJA)によって導入された。学生数500人以上、学生ひとり当たりに換算して50万ドル以上の基金をもつ大学が対象だ。課税率は、基金の規模に関わらず、基金収益の1.4%とされた。しかし、"Big Beautiful Bill"の成立により、基金の規模により税率がアップされ、最大税率は8%に及ぶ。法案提出時の21%から削減されたものの、大規模な基金を持つ大学の歳出に大きな影響を及ぼすことは必至だ。例えば、530億ドルと全米の大学で最大の基金をもつ、Harvard Universityの学内新聞、The Harvard Crimsonは、7月5日発信の”Trump Signs Spending Package Into Law, Imposing 8% Tax on Harvard’s Endowment Income”という記事の中で、Harvardの場合、年間2億ドル以上の税支出が予想されると伝えている。
Crimsonによれば、2024会計年度のHarvardの歳入に占める基金収入の割合は37%で、その8割は、資金提供者の要望に沿って支出に拘束性のある資金だ。このため、新たな課税による負担は、残りの2割余りの基金から支出せざるをえないという。今年第1四半期にHarvardは、23万ドルの資金を連邦政府へのロビー活動に投入。このうち9万ドルは、トランプ政権に近いロビー団体、Ballard Partnersに対するもので、政権への働きかけを強めていた。法案が成立の影響は、大学の一般的な運営に限定されるだけではない。大学の基金の一部は、Environmental, Social, and Governance (ESG)投資にも向けられている。パレスチナ問題に関わる学生運動などは、大学にイスラエルからの投資回収を求めてきた。Harvardなど、多額の基金を持つ大学は、この運動のターゲットになっており、大学基金への課税強化の背後には、「反イスラエル」のESGを抑え込もうとする、トランプ政権の「反ユダヤ主義」の影響が見え隠れする。
課税強化の対象とされたNPOは、大学だけではない。民間助成財団とコミュニティ財団に対しても、課税率を引き上げる条項が盛り込まれていた。これは、財団の基金の運用益に対して、それぞれの基金額に応じて増加させる、累進課税制度の導入が意図されていた。当初案では、現行の1.39%を10%まで引き上げることが想定されていたが、6月16日までの連邦上院の審議で削除された。とはいえ、助成財団への「攻撃」は、"Big Beautiful Bill"以外でも行われる可能性が高い。そのひとつは、Diversity, Equity, and Inclusion (DEI)に関連する措置だ。トランプは就任翌日の1月21日に” Ending Illegal Discrimination and Restoring Merit-Based Opportunity”という大統領令を発令。DEIを公民権法に違反するとしたうえで、民間セクターにおける廃止を促すと表明。助成財団の多くは、特定の人種やジェンダーの人々への支援などを行うNPOに財政支援を提供している。これが違法とみなされれば、マイノリティなどへの助成は事実上、不可能になる。
税制関連以外にも、"Big Beautiful Bill"には、NPOにとって極めて重要な内容が含まれていた。“Terrorist Supporting Organizations”から税制優遇措置を剥奪する規定だ。この規定の問題は、財務長官の恣意的な判断により、裁判などの法的なプロセス抜きに、501c3団体としての資格を取消すことができる。しかも、財務長官は、取消しの根拠を示す必要がない。なお、NPOの税制優遇措置の認可を行うInternal Revenue Service (IRS)は、連邦政府の財務省の一機関である。その長の財務長官の判断で、“Terrorist Supporting Organizations”とみなされれば、税制優遇措置が剥奪されることになる。この条項は、トランプの就任以前に、連邦下院に提出されていた法案(H.R. 9495=下院法案9495号とその前身のH.R.6408=下院法案6408号)のコピーといえる。
これらの法案に対しては、2024年に提出された時点からNPOの多くが反対の意思を表明してきた。同年11月15日には”We Oppose H.R. 9495”と題する共同声明を発表。この声明には、前述のIndependent SectorとNCNに加え、助成財団の全米組織Council on Foundationsとフィランソロピー関係の地域組織などの連合体United Philanthropy Forumが名を連ねており、幅広いNPO関係者の間に懸念が共有されていたことがわかる。その後、H.R. 9495は11月21日に下院本会議を通過したものの、上院での審議が進まず、不成立に終わった。にもかかわらず、"Big Beautiful Bill"に盛り込まれたことに、NPOは強く反発、法案からの削除を求めた。その結果、5月19日までに連邦議会は、“Terrorist Supporting Organizations”から税制優遇措置を剥奪する規定を法案から除外することになった。
NPOの運営や事業への影響は、上記の税制に関連した直接的なものだけではない。"Big Beautiful Bill”の成立にともなう連邦政府事業の予算削減や実施方法の変更によって生じる変化が及ぼす可能性が指摘されている。その最たるものは、低所得者向けの医療補助Medicaidや食糧支援事業のSupplemental Nutrition Assistance Program (SNAP)だ。現在、Medicaidの受給者は7100万人、SNAPも4200万人にのぼる。このふたつの政策には、予算削減に加え、受給資格の変更を盛り込まれた。Medicaidについては、19歳から64歳までの年齢層の場合、月に80時間の就労が求められることになった。SNAPについても、18歳から54歳に限定されている一定の就労要件を、55歳から64歳までの年齢層にも拡大される。これらの条件を満たせない人は、受給が認められず、セーフティネットから抜け落ちてしまう。その結果、NPOは増大するニーズに、限られた政府の資金援助で対応することに迫られる。
トランプ政権下でNPO全体にネガティブな影響を与える可能性があるのは、"Big Beautiful Bill"に基づく措置だけではない。Public Service Loan Forgiveness (PSLF)のNPOへの適用除外は、そのひとつだ。PSLFは、連邦政府の奨学金の受給が卒業後10年間、政府機関やNPOで働いた場合、奨学金の返済を免除する制度だ。トランプは3月7日、”Restoring Public Service Loan Forgiveness”という大統領令を公布、「不法移民」や「テロリズム」の支援などに関わる団体をPSLFの就労先から除外する考えを表明した。しかし、PSLFは、連邦議会が制定したCollege Cost Reduction and Access Act of 2007に基づくため、大統領令で変更することはできず、議会による立法措置が必要となる。なお、現在、連邦政府の奨学金の返済義務を持つ元学生は3400万人、このうちPSLFを利用者は100万人とみられる。PSLFからの除外は、NPOにとって将来のリーダー候補を確保する機会の減少も意味している。
このように、トランプ政権の政策は、NPOの運営や事業に大きな影響を与えており、今後、その影響はさらに拡大していくとみられる。例えば、カリフォルニア州のシリコンバレーの南にあるCommunity Foundation for Monterey Countyは、地元のNPOの財政状況の見通しに関する調査を実施。5月に発表した”Impacts on the Local NonProfit Community”と題する報告書によると「現在の財源が信頼できるかどうか」という質問に対して、「強く信頼できる」と「信頼できる」は、5月25日現在では全体の20%と止まった。半年前の11月24日には、この割合が45%に達していた。また、「政府資金を受けている場合の事業継続への影響」を問われたことに対して、「現状と同じレベルで実施」という回答は15.5%に止まった。限られた地域のNPOに対する調査とはいえ、政府資金の削減や廃止への懸念の大きさを示しており、トランプの政策のを継続して見守る必要性を感じさせる。
なお、NCNは、NPOに影響を及ぼすトランプの大統領令に関するサイト”The Impacts of the Recent Executive Orders on Nonprofits”を開設している。DEIや移民など、大統領令の分野別に整理しているだけでなく、連邦政府資金に対するNPOのチェックリストなど実務的な内容なども含めて公開しており、以下から見ることができる。
https://www.councilofnonprofits.org/impacts-recent-executive-orders-nonprofits
免税資格もつ宗教団体の選挙活動容認へ、IRSの方針転換にNPOの原則崩すと批判の声
2025年7月11日
連邦政府のInternal Revenue Service (IRS)は7月7日、宗教団体などから訴えられていた裁判で、訴えていた宗教団体とともに宗教団体が選挙に直接関わることを可能とする合意文書を作成、裁判所に提出した。この合意文書は、言論や宗教の自由などを理由に、免税資格をもつ宗教団体が選挙で候補者の推薦などの活動を行うことを禁止した措置、いわゆるJohnson Amendmentの適用から宗教団体を除外することを確認するものだ。トランプ大統領は、2017年に第1期目に就任した時から、この措置の撤廃を強く求めており、大統領の意向に沿ってIRSが対応したものと見られる。しかし、宗教団体をはじめとしたNPOや世論は、免税団体が選挙活動に関わることには否定的で、NPOの連合会や政教分離を訴えるNPOなどからは、批判の声があがっている。
日本の国税庁に相当するIRSは、連邦政府のDepartment of Treasury(財務省)の一部門で、税金の徴収や年末調整の実施が主な業務だ。2023年度には、4兆7000億ドルの税金を徴収、年末調整で2億7150万ドルを還付した。アメリカのNPOに関する制度は、法人格と免税措置のふたつに大別される。法人格と州の税金の免除などについて、NPOは、法人化する州に申請する。連邦政府に対する個人や法人が支払う税金の控除などの特典に関しては、IRSに行うことになる。なお、本稿で「免税」という言葉を用いているが、これはIRSが使用している”Tax-Exempt”の直訳である。固定資産税のように税金が免除される場合もあるが、所得税や法人税は、寄付者の所得から、その一部が控除されるに留まる。アメリカのNPOは、20余りに分類されている。本稿が取り上げる「免税団体」は、所得税や法人税から寄付者が控除する可能な、いわゆる501c3団体をさす。
IRSを訴えていたのは、Evangelical(福音派)のメディア、National Religious Broadcasters and Intercessors for America (NRB)と、Christian Nationalismと呼ばれる超保守的なキリスト教の一派Sand Springs ChurchとFirst Baptist Church Waskomなど4団体。Christian Nationalismは、アメリカがキリスト教の国家として建国されたと主張、政府と社会はキリスト教の価値観を反映すべきとみなすイデオロギーに基づいて活動。Christian Fundamentalism(キリスト教原理主義)やWhite Supremacy(白人至上主義)と重なる部分も多く、同義語のようにみなされることも少なくない。アメリカでは、2007年から数年間、中央政界に影響を与えたTea Party Movementを起源とする考えもあるが、1940年代に注目を集めたEvangelicalのBilly Grahamの活動に遡るとみなす研究者もいる。2023年にAmericans by the Public Religion Research Institute (APPRI)とBrookings Institutionが6212人を対象に行った調査によると、アメリカ人の10%がChristian Nationalistsと回答。そのシンパと答えた人も19%に上った。なお、Christian Nationalismは、ロシアを含めたヨーロッパやガーナなどのアフリカなどにも存在する。
NRBなど4団体がIRSを訴えたのは、2024年8月28日。United States District Court for the Eastern District of Texas Tyler Divisionへの訴状によると、被告はIRSとIRSのCommissionerのDanny Werfelだった。しかし、2025年1月にWerfelは退官、今年6月にトランプ大統領の指名を受けたBilly Longが連邦上院本会議でCommissionerに承認され、IRSの第51代のCommissionerに就任した。このため、裁判の被告もWerfelからLongに代わり、現在のケース名はNational Religious Broadcasters v. Longになっている。2024年8月の訴状のなかで、原告側は、宗教団体がIRSの審査なしで501c3団体として認定されるため、Internal Revenue Act (IRA)のJohnson Amendmentに基づき、選挙活動への関与が否定されていると指摘している。この措置を憲法修正第1条の表現の自由に関する宗教団体の権利の侵害であり、違憲行為だと批判。違憲の根拠のひとつとして、NPOのメディアが選挙の際に候補者の推薦などを行っているとして、宗教団体との相違を指摘、憲法修正第5条のDue Process Clause (Equal Protection)に反する意見行為だと主張。この他、1993年に制定されたReligious Freedom Restoration Actにも違反していると指摘している。
Johnson Amendmentは1954年に、当時の上院議員で後に大統領に就任したLyndon Johnsonの提唱で、IRAに盛り込まれた条項だ。いわゆる「慈善団体」や助成財団、大学、教会など、寄付控除が認められた501c3団体が選挙において、候補者の推薦や反対のための活動を行うことを禁止している。トランプ大統領は2017年に第1期に就任して間もない5月4日” Promoting Free Speech and Religious Liberty”というタイトルの大統領令に署名、連邦政府内において言論の自由と信教の自由を保障することを求めた。これにより、Johnson Amendmentは撤廃されたと主張しているものの、IRAには今日まで盛り込まれている。また、共和党もJohnson Amendmentの撤廃を求めており、今年3月31日には連邦下院に15人の共和党議員が共同提案者となり、”Free Speech Fairness Act”を提出し。しかし、6月5日までに提案者が10人増えたものの、採決に至っていない。
トランプの大統領令” Promoting Free Speech and Religious Liberty”と連邦下院共和党による”Free Speech Fairness Act”は、ともにJohnson Amendmentに反対する立法措置である。しかし、ふたつ大きな相違がある。前者は宗教団体だけ、後者は宗教団体を含めたNPO全般の選挙活動を対象にしている点がひとつ。もうひとつは、適用範囲が連邦政府内か、アメリカ社会全体かという点だ。なお、上記のNational Religious Broadcasters v. Longにおいて、NRBなど4団体は、Johnson Amendment の完全な撤廃、すなわちNPO全体に対する選挙活動の自由化を求めていた。しかし、7月7日にテキサス州の連邦地方裁判所に提出されたNRBなど4団体とIRSの文書は、宗教団体の選挙活動の規制撤廃に関する合意のみで、「慈善団体」や助成財団、大学など、宗教団体以外の501c3団体の政治活動については触れていない。これは、NPO全体の選挙活動規制の撤廃に反対する世論が強いことを考慮した可能性がある。
NPOや助成財団、企業フィランソロピーの関係者などによって構成されているNPO、Independent Sector (IS)は今年の2月18日、”New Poll: Voters Want Policymakers to Support Nonprofits in an Uncertain Time”と題する調査報告書を発表した。世論調査会社のTargetPoint Consultingに委託して、1月28日から2月3日にかけて登録有権者1395人を対象に実施した調査結果をまとめたものだ。調査の質問項目のひとつに、Johnson AmendmentとNPOについての問いがある。この問いに対して、75%の回答者は、Johnson Amendmentを維持すること、すなわち選挙に当たりNPOは候補者の推薦や反対を行うべきではないと回答している。2023年8月の調査では73%だったので、ほとんど変化はないものの、「維持派」が若干増加したことになる。
Johnson Amendmentの廃止を求め、裁判に訴えたのは、宗教系のNPOや宗教団体である。この点を考慮してだろう。ISの調査では、教会によく通う人とあまり通わない人、まったく通わない人の3つのタイプに分け、調査結果を分析している。その結果、Johnson Amendmentを維持すべきという回答は、それぞれ69%、76%、78%。また、支持政党別で見ると、共和党支持者の73%、民主と支持者の76%、支持政党なし76%と、ほぼ同様の割合で、NPOの候補者への支援や反対活動に対する関与に否定的な回答を行っている。なお、この調査は、登録有権者を対象にしたと記載されているが、Non-registered Voters(非登録有権者)の61%は維持すべきと回答したという。
一般世論だけではない。前述のように、2017年に第1次トランプ政権が発足後の同年5月4日、” Promoting Free Speech and Religious Liberty”というタイトルの大統領令が公布された。ここでJohnson Amendmentの適用除外にすべきとされたのは、宗教団体だけだ。また、大統領令の制約上、連邦政府内の措置とされた。しかし、NPOや宗教団体の多くは、この動きを懸念し、2017年9月5日付の書簡、”Community Letter in Support of Nonpartisanship”を上下両院の指導層に送付したのである。この書簡には、全米50州のNPO、5800団体余りに加え、宗教指導者4300余人、100以上の宗派が賛同者として、名を連ねていた。このことは、宗教界をはじめとしたNPOの関係者の間で、Johnson Amendmentを維持すべきという考えが強いことを示唆しているといえよう。
今回のNRBなど4団体とIRSによる合意文書は、Johnson Amendmentの対象から除外対象をNPO全般としているわけではない。また、この合意文書により、裁判所がJohnson Amendmentの対象から宗教団体を除外することを認めるかどうか、現段階では不明だ。とはいえ、Johnson Amendmentが存亡の危機に陥ったという認識がNPOの関係者の間から相次いでいる。例えば、全米最大のNPOのネットワーク組織、National Council of Nonprofits (NCN)は、裁判所に合意文書が提出されたのと同じ7月7日、”Statement from the National Council of Nonprofits on IRS Request to Allow Churches to Endorse Political Candidates”というタイトルによる団体の会長兼CEOのDiane Yentelによる声明を発表、合意文書に「強い憂慮の念」を表明した。なお、NCNは、全米各地のNPOセンター的な組織によって構成されており、これらの地域にあるNPOセンターに加盟しているNPOは、3万団体を超える。
また、政教分離を訴えているNPO、Americans United for Separation of Church and State(AU)は7月8日、” AU denounces IRS plan to exempt houses of worship from the Johnson Amendment”と題するRachel Laser会長兼CEOによる声明を発表した。同会長は、「トランプ政権によるJohnson Amendmentの抜本的な再解釈は、教会と国家の分離に対する恥知らずな攻撃であり、一般の非営利団体よりも宗教団体を優遇し、彼らを党派政治に引き込むことで、民主主義を脅かす」と指摘。また、「宗教団体をJohnson Amendmentの適用を免除する一方で、一般のNPOに対して強制するというIRSの提案は、宗教に特別な恩恵を与えることになり、政教分離の違憲違反」になると主張している。そのうえで、Johnson Amendmentの弱体化は、「宗教団体やNPOを政治活動委員会に変質させ、選挙にさらに闇の資金が流入することになる」と批判している。こうした認識に基づき、AUは7月11日、和解に進む可能性があるNRBなど4団体とIRSの訴訟に法的に介入する意思を表明した。
日本のNPO法人は、アメリカの501c3団体と同様に、候補者への支援や反対などの選挙活動は禁止されているとみなされてきた。これに対して、選挙は民主主義の基本であるとして、NPO法人への選挙活動への規制を問題視する声もある。しかし、501c3団体は、寄付控除を受けられる資格をもつ非営利組織だ。したがって、501c3団体の選挙活動を認めることは、AUが指摘するように候補者や政党への資金に流用される可能性が否定できない。寄付控除は、「免税」と表現されることもあるように、本来は税金として納められる資金を、501c3団体に寄付した場合、公益性の高さから納税額からの控除が認められることを意味する。Johnson Amendmentが否定されれば、NPOへの寄付を名目にして、税金を特定の候補者などに提供することが可能になる。それは、NPOが党派性をもち、政党に従属するような存在になってしまう恐れも含んでいる。NCNやAUなどがJohnson Amendmentの擁護を訴える背景には、こうした理由があることを指摘しておきたい。
なお、上記のNCNの”Statement from the National Council of Nonprofits on IRS Request to Allow Churches to Endorse Political Candidates”というタイトルによる団体の会長兼CEOのDiane Yentelによる声明は、以下から見ることができる。
https://www.councilofnonprofits.org/pressreleases/statement-national-council-nonprofits-irs-request-allow-churches-endorse-political
運営資金枯渇1万4000団体と失職者280万人、連邦政府補助金の廃止削減がNPOに甚大な影響
2025年5月7日
トランプ政権による連邦政府機関の改廃や職員削減、補助金や事業委託の廃止・削減がNPOに大きな影響を与えていることは、メディアなどで数多く報じられている。では、その影響がNPOの財政や雇用をどの程度悪化させていくのか。4月29日、この問いについて調査した結果が発表された。実態調査ではなく、連邦政府のGrantsがなくなった事態を想定した推計を示したものだが、3カ月以内に運営資金が枯渇するNPOは、1万4015に上る。また、財政難で失職するNPOの職員は280万人に達することが見込まれるという。連邦政府資金への依存度の高いNPOは、職員数が多く、事業規模も大きい傾向が強い。このため、事業の利用者にも甚大な影響が及ぶことが必至だ。
この調査を実施したのは、後で詳述するCandidというNPOである。CandidのAssociate Vice President of ResearchのCathleen Clerkin博士によると、連邦政府のGrantsを受給しているNPOの約3分の1に相当する3万5000団体は、財源の50%以上を政府資金に依存している。調査の結果、こうした政府資金への依存度が高いNPOは、短期間の間に、団体の財政状況が急速に悪化し、事業の継続に支障が及ぶところもあることが明らかになったという。なお、Candidは、政府資金の廃止削減がもたらすNPOへの影響について、アメリカ全体についてだけでなく、NPOの業種別の状況、さらに州や連邦会員議員の選挙区ごとに見た影響も検討したとしている。
その結果、業種別に最も大きな影響を受けるのは、社会福祉や教育、住宅やシェルターなど、人々の生活に直接かかわる分野であることが明らかになった。また、州別に見た場合、ニューヨーク州だけで、補助金の廃止削減から3カ月以内に1366のNPOが財政破綻状態に陥ると見られる。これに伴い、36万1000人のNPOの職員が仕事を失う可能性があるという。こうした調査結果を踏まえ、CandidのCEO、Ann Mei Changさんは、NPOが提供する事業が大幅に縮小すれば、退役軍人への支援から地域の活動施設の運営、若者の芸術活動まで、さまざまな利用者を含む地域全体が大きな損失を被ると述べ、影響の大きさと広がりへの懸念を示している。
Candidのような大手のNPOが調査を実施した場合、その概要などをプレスリリースで示す他、報告書をウェブサイトに提示するのが一般的だ。しかし、今回のCandidの調査については、ウェブサイトなどを精査したものの、報告書は見当たらない。このため、Candidの調査に関する本稿の執筆では、プレスリリース的な文書とそれをもとに作成したと見られるNPO関係の情報誌の記事などを参考にした。なお、これまで連邦政府からNPOへの補助金などをGrantsと表記してきた。これも、語彙の定義がなされていないためだ。補助金の他、事業委託や融資なども含まれている可能性があるものの、不明確なため、Grantsと記載することにした。
全米レベルの調査ではないが、州のNPOセンターに相当する団体が、トランプ政権によるGrantsの廃止・削減のNPOへの影響について実施した調査がある。首都ワシントンの東、大西洋岸に位置するデラウエア州の中間支援組織、Delaware Alliance for Nonprofit Advancement (DANA)が2月20日に発表した”Delaware Nonprofits and the Impact of Executive Orders and Federal Policy Changes”と題する調査報告書は、そのひとつだ。この調査は、連邦政府のOffice of Management and Budget (OMB)が今年1月27日に、連邦政府の資金供与を一時的に全面停止することが明らかになった直後に行われた。2月7日までに400余りのNPOから回答があったものの、記載の不備などから、集計に用いたのは300強に止まったとしている。
集計に用いたNPOの44%は、連邦政府の資金供与が差し止められた場合に影響を受けると回答。その額は、全体で2億2900万ドルに及んだ。DANAの調査は、停止される政府資金の種類についても尋ねている。最も多いのは、州政府を経由して提供されるGrants(補助金・助成金)で、38%の団体が該当したという。次いで、連邦政府から直接提供を受けるGrantsの停止が36%、州政府を経由して行われるContracts(事業契約)が13%、連邦政府からのLoans(融資)が3%、連邦政府と直接締結したContractsが2%などとなっている。なお、その他も9%に上った。また、資金供与が差し止められた場合、その影響がいつ生じるかという問いに対しては、現在の会計年度中が最も多く62%に上る。次いで、今後の会計年度とする回答が21%に及び、影響なしは17%に止まった。
DANAの調査では、連邦政府資金供与の一時停止に関する1月のOMBの声明に加え、NPOに対する大統領令の影響についても尋ねている。複数選択可という条件で回答を求めたところ、最も多かったのはGrantsやLoansの停止で、回答した309団体のうち88%が影響を受けるとした。次いで、Diversity, Equity, and Inclusion (DEI)と移民問題が34%ずつ、LGBTQの権利の25%、セーフティネット事業の21%、妊娠中絶問題の20%、環境保護・温暖化問題の17%と続き、その他も6%あった。これらの問題は、大統領令を含め、トランプ政権が激しく非難してきた。DANAの調査は、その問題に取り組んでいるNPOが危機感を持っていることを如実に示したといえよう。
DANAも述べているように、NPOに提供される政府資金は、最終的に住民に恩恵をもたらす。換言すれば、政府資金の差し止めは、住民の生活にネガティブな影響を与える。DANAでは、OMBの声明による連邦政府資金のNPOへの差し止めは、州内の50万人の住民に影響を及ぼすと推定している。なお、連邦政府のCensus Bureauによると、2024年7月現在のデラウエア州の人口は105万人にすぎない。したがって、連邦政府のNPOへの資金供与の廃止・削減は、その半数に影響が及ぶことを意味している。また、政府資金による事業が廃止・縮小されても、ニーズがなくなるわけではなく、NPOは、新たな資金を探し、事業の継続を迫られることになる。
こうした状況の中で、NPOは中間支援組織に何を期待しているのだろうか。DANAの調査は、この問いを盛り込んだ。その結果、アドボカシーと情報提供(交換)が重要という回答が多かったという。政府資金の提供を受け、事業を実施しているNPOとしては、個別に政府に異議を申し立てるなどの行為は取りにくい可能性がある。中間支援に望まれるアドボカシーとは、個々のNPOの利害を整理、分析し、政府に提言や改善を求めることだと推察される。こうしたニーズを踏まえ、DANAは、コミュニティ財団のDelaware Community Foundationや共同募金団体のUnited Way of Delaware、州内の助成財団などの連合体Philanthropy Delawareと連携して、連邦政府の資金供与の廃止・削減の影響を受けたNPOや住民への支援活動を進めているという。
また、全米レベルの中間支援組織であるCouncil on Foundations、Independent Sector、National Council of Nonprofits、United Philanthropy Forum on Threats to Civil Societyの4団体は4月17日、ハーバード大学の税制優遇措置の取り消しを示唆するトランプ政権に対して、NPOの独立性を損なうとして批判する声明を発表。また、この4団体のひとつ、National Council of Nonprofitsは、1月27日にOBMによる連邦政府資金の供与を一時的に停止する方針が明らかになった翌日、American Public Health Association、Main Street Alliance、SAGEとともに、首都ワシントンの連邦地裁に供与停止の差し止めを求め、裁判を起こした。その結果、2月3日には、OBMに対して、一時差し止め命令が判事によってだされた。こうしたトランプ政権とNPOの間の連邦政府資金の供与をめぐる対立については、後日、本稿で整理して報告する予定だ。
なお、最後にCandidについて説明しておこう。この団体は、NPOの評価活動を行っていたGuideStarと助成金に関する情報を提供していたFoundation Centerが、2019年に合併してできた、いわゆる501(c)(3)団体だ。合併後、Candidは、GuideStarは、従来と同じ名称で事業を継続。一方、Foundation Centerは、合併前は、全米に数カ所図書館機能を備えて施設を持っていたが、現在はFoundation Directoryという助成財団などの検索サイトを通じて情報を提供。また、このふたつの事業の他、NPOの運営に関するトレーニングを提供するNonProfit trainingとAPIsのふたつの事業が設けられている。補助金や助成金申請書の作成などをテーマにした無料を含め、多くのウェビナーが提供されているので、関心のある人は、Trainingのサイトを見てみるとよいだろう。
直近のトレーニングプログラムには、5月12日に開催される” Funding beyond federal: How to diversify funding to ensure stability in uncertain times”というタイトルのウェビナーがある。連邦政府の補助金などが不確実になっている今、NPOの関係者が知っておくべき情報を提供することを目的にしたもので、Candidのスタッフふたりが3時間かけて講義を行う。参加は無料だが、事前登録が必要。ただし、当日参加できない人のために、終了後、録画が閲覧できるように配慮されている。5月12日のウェビナーは、以下から申し込や録画の閲覧希望を送付することができる。
https://learning.candid.org/training/2025-05-12-funding-beyond-federal-how-to-diversify-funding-to-ensure-stability-in-uncertain-times/
トランプのハーバード大学の税制優遇措置剥奪発言、NPO界全体への拡大に懸念や批判
2025年4月21日
トランプ大統領は4月15日、SNSのTruth Socialを通じて、ハーバード大学の税制優遇措置を剝奪すべきとの考えを表明した。同大学の多様化政策や親パレスチナの学生運動への対応を問題視したためだ。この発言に対して、他大学からハーバードに同調する声が出ている。一方、税制優遇措置を失った場合、寄付集めが困難になることは必至だ。このため、大統領から同様の対応を求められている大学の一部は、政権の意向に応じる考えを表明。さらに、態度未定大学もあるなど、対応が分かれている。現時点で、税制優遇措置の剝奪について名指しされたのは、ハーバード大学だけと見られるが、その影響は、他の大学、そしてNPO全体に及ぶ可能性もある。こうした状況を踏まえ、NPOの全米組織が共同で反対声明をだすなど、NPO界全体の問題に発展しつつある。
大統領就任後、トランプは、個々の企業や大学、NPOなどへの批判を行っている。真っ先にターゲットにされたのは、大手法律事務所だ。事務所側のDEI (Diversity, Equality, and Inclusion)と呼ばれる多様化政策への批判や政府機関を通じた対応策を開始。Kirkland & Ellis LLP、Allen Overy Shearman Sterling US LLP、Simpson Thacher & Bartlett LLP、Latham & Watkins LLPの4事務所との間で、退役軍人や反ユダヤ主義に関連した問題への法的な対応として、総額1億2500万ドル相当の業務を無償で行わせることで合意した。また、Cadwalader, Wickersham & Taft事務所とは、「違法な」DEIプログラムを廃止することと、1億ドルの業務をプロボノで提供させることになった。
弁護士事務所の次にターゲットになっているのは、大学だ。学生の選抜や教職員の採用などに関するDEI政策の廃止に加え、大学内の学生らによる親パレスチナ活動の取締強化などを求めている。大学への圧力として、当初は補助金の縮減が手段として活用されてきた。昨年春の新パレスチナ活動の発火点ともいえるコロンビア大学は、真っ先に矢面に立たされた。同大学は、アメリカ東部の有名大学を意味するアイビーリーグのひとつで、連邦政府から多額の補助金や事業委託を受けている。今年3月初め、トランプ政権は、4億ドルを超える補助金や事業委託を解約すると発表。これに対して、コロンビア大学は、政権側が求めてきた学内におけるイスラエルへの抗議活動への対応策の強化やMiddle Eastern Studies(中東研究科)を新たな機関の下に置くことなどの考えを明らかにし、補助金や事業委託の確保に努めた。
こうした中で、トランプ政権の要求に対して、明確にNOを突き付けた大学が現れた。コロンビア大学と同じ、アイビーリーグのひとつで、全米最古のNPOといわれるハーバード大学である。大学の声明文は「どの政党が政権を握っているかにかかわらず、いかなる政府も、私立大学が何を教えることができるか、誰を受け入れて雇うことができるか、どの研究分野や調査を追求できるかについて指図すべきではない」と主張。大学の自治を守る意思を明確にした。ハーバード大学の4月14日声明に対して、同大学の卒業生のバラク・オバマ元大統領は、翌15日のSNSのXへの投稿の中で、トランプ政権の要求を「学問の自由を抑圧する違法で不法な試み」として批判。「ハーバードのすべての学生が知的探究、厳格な討論、相互尊重の環境から利益を得ることができるようにするための具体的な措置を講じている」と述べた。
では、ハーバード大学の声明の後、他大学は、どのような姿勢を示しているのだろうか。シリコンバレーにあるスタンフォード大学は、連邦教育省から反ユダヤ主義の疑いで調査を受けている大学のひとつだ。スタンフォード大学の学生新聞” The Stanford Daily”に掲載された声明の中で、学長は、大学が「政府の投資に基づいて構築されている」として補助金などの重要性を指摘しつつも、「政府の支配によって成り立っているわけではない」として、ハーバード大学の考えを支持する意思を示した。また、東部のニュージャージー州にあるプリンストン大学の学長は、LinkedInへの投稿の中で、「プリンストンは、ハーバードとともにある」と述べたうえで、ハーバードの声明を熟読するよう訴えた。
ハーバード大学は、連邦政府からの補助金22憶ドル、事業契約6000万ドルを受けている。この膨大な資金を失っても、大学の運営が続けられるのか、と疑問を持つ人もいるだろう。アメリカの大学の多くは、多額の基金を保有している。ハーバードの場合、532億ドルにのぼる。一見すると、補助金や事業契約がなくても運営は可能だ。しかし、基金のうち8割は、奨学金のように使途が決まっている。大学の裁量で自由に使えるのは、20%に止まる。したがって、「豊富な資金があるから政権に反対できた」という見方は必ずしも妥当ではない。逆に、この点を見越してか、トランプ政権は、さらなる追い打ちをかけようとしている。税制優遇措置の剥奪である。
事実、数は少ないものの、大学を含め、過去に税制優遇措置を失ったNPOも存在する。なお、ここでいう税制優遇措置とは、寄付控除の対象として認定されることを意味する。いわゆる501c3団体に認められることで、各種の統計データを紹介しているStatista.comによれば、2023会計年度時点で、151万団体に及んでいる。税制優遇措置があることにより、とりわけ高額の寄付を受けやすくなる。換言すれば、この特権を失えば、寄付集めが厳しくなる。2024会計年度のハーバード大学の財務報告書によると、同年度の歳入は65億ドル、このうち45%は寄付収入で、授業料などが21%を占め、連邦政府の補助金やその他の機関からの研究助成は16%に止まる。仮に寄付控除の資格を失えば、最大の収入源の寄付への影響は甚大になり、大学の経営にも大きな影響がでるだろう。
とはいえ、トランプ政権がハーバード大学の税制優遇措置を剥奪することは容易ではない。そもそも大統領には、剥奪する権限はない。先例にしたがえば、剥奪するには、税制優遇措置を付与する権限をもつ財務省のInternal Revenue Service (IRS)が対象となる団体と協議を行うなどして、剥奪の根拠を明確にする必要がある。また、団体側が剥奪に異議を唱えれば、訴訟に持ち込むこともできる。例えば、第一次トランプ政権下の2017年、親イスラエル団体のLawfare Projectの訴えを受け、パレスチナ人の権利擁護団体であるAmerican Muslims for Palestine(AMP)の501c3団体としての税制優遇措置が問題にされた。剥奪には至らなかったものの、訴訟に伴う出費などでAMPの財政は悪化、その後の活動に影響がでた。企業によるアドボカシー型のNPOへの攻撃、Strategic Lawsuit Against Public Participation (SLAPP)の政府版だ。
こうした先例から、NPOの中には、税制優遇措置との関係で、活動内容が問題化しないように対策を行う動きが広がったといわれている。トランプ政権によるハーバード大学の税制優遇措置の剥奪を示唆する発言は、同様の効果を狙っている可能性がある。ただし、これは可能性に止まらない。連邦議会は、「反イスラエル」活動などに関わったNPOから税制優遇措置を剥奪する下院法案9495号(HR 9495)を可決しているからだ。上院での審議が進んでいないため、成立するかどうか不明だが、この法案では「反イスラエル」活動と政府がみなせば、証拠の提示なく、税制優遇措置を剥奪できるという、法の適正な手続きを無視する手法として、NPO界から批判の声が上がっており、それが上院での審議を止めている理由のひとつと見られる。
トランプ大統領によるハーバード大学の税制優遇措置の剥奪の示唆についても、NPO界から反発がでている。4月17日の“Joint Statement on Threats to Civil Society and the Independence of the Charitable Sector”は、そのひとつだ。Council on FoundationsとIndependent Sector、National Council of Nonprofits、United Philanthropy Forum on Threats to Civil Society and the Independence of the Charitable Sectorという5つの全米規模のNPOの連合体が共同で発表した声明だ。NPO界を代表してトランプのハーバードに対する発言に反対すると述べたうえで、「IRSが政府の独立機関として、政治的な圧力や影響から独立して、その責務を果たさなければならない」と指摘。そして「我々の民主主義は、強く、活気に満ちた、独立した市民社会に依存している。それを弱体化させることは、どのような理由、いかなる指導者によるものであれ、看過できない、かつ看過しない脅威である」と述べ、トランプの発言を批判した。
NPOのひとつであるハーバード大学から税制優遇措置を剥奪する件については、親イスラエル団体からも懸念の声がでている。ユダヤ系の人権団体、Anti-Defamation League (ADL)はそのひとつだ。4月18日発信のSan Diego Jewish Worldに掲載された”Government’s Crackdown on Harvard University Wrongly Conflates Antisemitism and Other Issues”と題する投稿文の中で、ADLのCEO Jonathan Greenblattは、ハーバード大学のユダヤ系学生への対応が不十分だったとしながらも、改善が見られていると指摘。政府の補助金の削減などの厳しい措置は、改善の意志がない組織に限定されるべきと主張している。さらに、大学に対するトランプ政権の要求は、概ねADLが求めてきた内容と一致するものの、税制優遇措置は反ユダヤ主義の抑制と関係がないととして、仮に懲罰的な姿勢を示すためであれば、長期的な問題改善につながらないという認識を示している。
ここで、税制優遇措置にについて整理しておこう。税制優遇には、様々な種類があるが、主要なものは寄付控除と関連事業の収益に対する非課税措置である。寄付控除の資格がないNPOであっても、すなわち501c3団体以外のNPOの大半は、関連事業の収益には課税されない。また、税制優遇措置は、州政府と連邦政府のIRSが認定するもので、法人格は、州政府が認可する。したがって、仮に寄付控除の資格を失っても、法人としての活動が否定されるわけではなく、また関連事業の収益は非課税扱いのままだ。とはいえ、寄付控除がないNPOは、政府の補助金や助成財団からの助成金を直接受けることができない。また、企業は法人税、大口の寄付者は所得税からの控除を前提に寄付先を検討することが大変なため、寄付集めに支障をきたす可能性が強い。このため、501c3団体の認定が取り消されることは、とりわけ寄付への依存度が高いNPOにとっては死活問題だ。
税制優遇措置の剥奪を武器に、自らの意志を押し付けようとするトランプ大統領の姿勢は、ハーバードなどの大学にだけ向けられているのではない。4月17日発信のAPの記事” Trump rethinking tax-exempt status of other groups, including ethics watchdog”によれば、環境保護団体や政府の不正行為などを監視する「番犬」を意味するWatchdogも対象にする考えを示した。Watchdogについては、具体名としてCitizens for Responsibility and Ethics in Washington (CREW)があがっている。その理由として、CREWの唯一の活動が
「ドナルド・トランプを追求することだ」として、「慈善団体」としての資格がないという認識を示している。なお、ここでいう「慈善団体」とは、Charitable Organizationの訳で、公益型のNPOを意味する。
CREWは、2003年に保守的なWatchdog団体に対抗して設立されたリベラルなNPOで、政治家の不正行為などを追及している。対象となった政治家は、共和党の方が多いものの、民主党の議員らも含まれている。トランプ政権に対しては、批判的な姿勢が強く、2017年に就任した3日後には、訴訟を起こした。今回も、連邦政府職員の大量解雇につながる大統領行政命令の交付直後の1月28日、メリーランド州の連邦地裁に大統領を訴えた。なお、CREW の2023会計年度の財務報告書によれば、同会計年度の歳入は669万ドル、そのうち614万ドルは寄付または助成金だ。仮に寄付控除を失えば、1000万ドルを超える資産があるとはいえ、活動の大半は中止に追い込まれてしまう恐れがある。
税制優遇措置を剥奪する対象として、トランプ大統領は、個別具体的な団体名をあげているわけではない。しかし、地球温暖化を否定的に捉えるなど、環境保護よりも企業活動や経済開発を優先する姿勢を明確に示してきた。さらに、環境問題に直接関連しているわけではないが、これまでの大統領令で、Public Service Loan Forgivenessと呼ばれる学生時代に受けた奨学金返済の免除となる就労先のNPOを制約する方針が出されている。また、保守系のNPOの法律団体American Alliance for Equal Rightsは4月1日、Gate FoundationなどのDEI政策を問題視し、税制優遇措置の剥奪を求めて提訴した。こうした状況もあり、4月17日発信のThe NonProfit Timesは、”Under Fire: How The IRS Can And Can’t Revoke Exempt Status”という記事の中で4月22日のアースデーに、NPOの環境保護活動を規制する大統領令が出されるのではないかという懸念が環境保護団体の間に広がっている、と伝えた。
なお、上述した5つの全米規模のNPOの連合体による“Threats to Civil Society and the Independence of the Charitable Sector”と題する共同声明は、以下から見ることができる。
https://cof.org/news/threats-civil-society-and-independence-charitable-sector
内外に不安と混乱を招くトランプ関税、国内では懸念の声やNPOによる訴訟
2025年4月7日
世界の株式市場を大きな混乱に陥らせている、4月2日のトランプ関税。しかし、1月に就任した大統領の行政命令を通じた関税は、これに止まらない。一連の関税の影響は、海外の政府や企業、人々だけでなく、アメリカ国内にも及んでいる。3月に中国に対して引き上げられた関税により事務用品などを輸入している企業は、NPOの法律事務所を通じて、大統領が20%の関税を中国に科したことを違法として提訴。同様の訴訟は、今後相次ぐとの見方もある。関税率の大幅な引き上げは、物価高騰の影響への不安を消費者に与えている。さらに、報復関税により輸出の減少も想定される中で、個人経営の農家などは、短期的な売り上げの減少だけでなく、海外の競合相手に市場を奪われ、廃業につながる恐れもあるという。こうした消費者や農民の懸念や反発は、NPOやメディアを通じて、発信され、人々の不安感や反発を強めており、トランプの「耐えろ」という声を打ち消そうとしている。
アメリカでは、大統領にDirectivesと呼ばれる指令を出す権限を与えている。一般的に、大統領令といわれるものだ。しかし、「公式」の定義ではないが、対象者などにより、Executive OrderとExecutive Memoranda、Proclamationの3種類にわけて説明されることが多い。Executive Orderは、憲法や特定の法律に依拠して、政府機関や職員に対して命じる措置だ。Executive Memorandaは、Executive Orderと同様に政府機関や職員に対する命令だが、憲法や法律に基づく措置である必要はない。Proclamationは、個人に対する命令だが、法的な強制力はない。トランプは、就任以来、これらの指令を連発しているといわれている。実際、4月2日までに、貿易や関税に関するものだけでも、Executive Orderが16件、Executive MemorandaとProclamationが3件ずつ、合計22件もの指令が発せられた。
これらの指令のうち、関税に関して重要なものを時系列的に整理すると、以下のようになる。
・1月20日:アメリカ第一貿易政策宣言 (Memoranda)
・2月1日:カナダ(25%)・中国(10%)・メキシコ(25%)への関税導入 (国別に3つのExecutive Order)
・2月3日:カナダ(10-25%)・メキシコ(25%)の追加関税(国別にふたつのExecutive Order)
・3月3日:中国への10%関税を廃止し、20%に引き上げ(Executive Order)
・4月2日:「世界共通関税」10%(4月5日実施)と57の国・地域への「相互関税」最大50%(4月9日実施)の導入を発表 (Executive Order)
以上から明らかないように、国境を接するカナダとメキシコ、そして中国を対象に開始された高関税政策の導入は、4月2日に全世界に拡大。日本に対しても24%が課せられることになった。「世界共通関税」は4月5日、対米貿易黒字が大きい国・地域を対象とした「相互関税」は9日から実施される。なお、カナダとメキシコに対しては、「不法移民」や合成麻薬フェンタニルの流入を理由にしたInternational Emergency Economic Powers Act (IEEPA)に基づく関税が適用されていたため、4月2日の「相互関税」リストからは除外された。ただし、中国への関税は、合成麻薬オピオイドの流入を理由にしていたが、20%から34%に引き上げられることになった。CNNによれば、「相互関税」の税率は、対象国との赤字額をそのくにの対米輸出総額で割り、それに2分の1をかけて算出された。
こうしたトランプの手法に対しては、身内の共和党からの反発もでてきた。その象徴的な出来事として、「世界共通関税と「相互関税」が発表された直後、連邦上院本会議がカナダへの関税の差し止めを求める決議案を採択したことがある。この決議案は、下院で承認される見込みは少ないといわれているが、与党内の反発の声が具体化した事例として注目を浴びた。なお、この決議案は、上記のIEEPAと関連している。憲法は、連邦議会に関税を決定する権限を付与している。しかし、1977年に制定された同法は、大統領が緊急事態宣言を発動することで、議会の承認なく外国または地域に関税を課することを認めた。ただし、議会の上下両院が決議案を採択した場合は、その限りではない。
上記のように、大統領はカナダとメキシコからフェンタニルが流入しているとして、関税を課した。しかし、3月4日発信のBBCの”How does fentanyl get into the US?”と題する記事によれば、連邦政府機関のCustoms and Border Patrol (CBP)のデータとして、CBPが押収したフェンタニルの98%はメキシコ国境であり、カナダからは1%にすぎないという。カナダが反発し、報復関税を実施したのは、当然といえよう。その結果、株価は大きく下落。トランプ大統領は、カナダとメキシコと締結している自由貿易協定、Agreement between the United States of America, the United Mexican States, and Canada (USMCA)の対象品目を追加関税の対象から外すことを余儀なくされた。
IEEPAは、中国に対する関税との絡みで、訴訟につながっている。訴えたのは、フロリダ州の西部に本社を置くEmily Ley Paper社で、その子会社のSimplifiedはノートなどの文房具を販売している企業である。原告の代理人になったのは、New Civil Liberties Alliance (NCLA)という首都ワシントンのNPOの法律事務所だ。名称にある” Civil Liberties”という語彙から、リベラルな団体のように見えるが、保守的な支援者の寄付を中心に運営されている。NCLAが訴えを持ち込んだのは、US District Court, Northern District of Floridaである。4月3日に提出された訴状は、合衆国憲法が関税を課す権利を連邦議会に付与しているとして、トランプ大統領がIEEPAに基づき関税を課したことを違憲と主張。中国からの輸入品を扱っているSimplifiedは、輸入に伴い関税額が増加し、事業に悪影響が出ていると述べている。
トランプは、関税の負担は輸出国の事業者が行うかのように説明している。しかし、実際は、直接的には輸入業者が支払うことになる。例えば、10万ドルの商品を輸入した場合、関税が25%であれば、2万5000ドルを負担するのは、アメリカの輸入元であり、当該の裁判でいえば、Emily Ley Paper社 またはSimplifiedだ。前述のように、保守的なNCLAが原告の企業の代理人になっているが、リベラルなNPOの法律団体、Brennan Center for JusticeのDirector Liza Goitein氏は、4月4日発信のPoliticoの” Trump’s tariffs could face more than one legal challenge”という記事の中で、過去の連邦最高裁判所の判決から見て、勝訴の可能性があると述べている。
なお、NCLAは、IEEPAに基づく関税の徴収を直ちに停止するための仮差止命令を求めていない。判事が仮差止を命令した場合、トランプ政権によって控訴され、訴訟が長引くことを懸念したためと見られる。裁判が順調に進めば、年末までにトランプのExecutive Orderが違法かつ違憲であるという判決が出される可能性がある。では、その前にトランプ関税に反対する訴訟は、出てくるのだろうか。NCLAの訴えは、2月と3月の中国に対する関税の影響に基づいている。4月2日の「世界共通関税」と「相互関税」は、それ以外の多くの国に向けられた措置だ。したがって、影響を受ける事業者も、はるかに多くなるため、被害の発生が立証できる時点になれば、政権に対する訴訟が相次ぐのは必至といえよう。
関税の影響を懸念する声は、さまざまなNPOから発せられている。物価は上がり、家計への負担増につながることは、そのひとつだ。消費者団体のNational Consumers LeagueのJohn Breyault氏は、4月4日発信の” How Trump’s latest tariffs could affect your wallet”というAPの記事の中で、Yale Universityで経済政策についての分析などを行っている調査機関、The Budget Labが発表した” Where We Stand: The Fiscal, Economic, and Distributional Effects of All U.S. Tariffs Enacted in 2025 Through April 2”と題する報告書を参考にして、「所得分布の底辺にいる世帯の年間損失は、4月2日の政策だけで980ドルと見積もられている」と指摘。産業面で見ると、関税の影響はアパレル関係で大きく、17%の値上がりが予想されると述べた。また、National Association of Home Buildersの分析によれば、新築住宅の価格は9200ドルも上昇する見込みという。
トランプが「世界共通関税」と「相互関税」を発表した翌日、世界で4番目の販売台数をもつ自動車メーカー、Stellantisは、カナダとメキシコの工場の一部の操業を停止させることにともない、ミシガンとインディアナ両州の5つの工場で、あわせて900人の労働者を一時解雇することを発表した。関税が国内産業と労働者を守ることにつながるというトランプ大統領の考えを、真っ向から否定したことになる。大統領だけではない。自動車産業の労働者を組織しているUnited Automobile Workers (UAW)のSean Fain会長は、関税を「正しい方向」として賛同の意志を表明していた。しかし、Stellantisが一時解雇の対象とした工場のひとつは、同会長がかつて働いていたインディアナ州のKokomo工場であり、トランプ関税への見通しの甘さを指摘されても仕方がない。
Stellantisは、カナダとメキシコの工場の操業停止とアメリカ工場の一時解雇を短期的な措置としている。しかし、UAWのKokomo支部に当たるLocal 685のDenny Butler副会長は、4月7日発信のCNNの“A lot of US autoworkers like the idea of auto tariffs. But some are being laid off as a result”と題する記事の中で、数ヵ月、数年先の雇用について組合員の間に不安が広がっていると述べている。上記のように、Stellantisは、カナダとメキシコの工場で操業を停止した。カナダの工場では4500人、メキシコでも2400人が求職に追い込まれている。カナダの自動車労働者の組合、UniforのLana Payne会長は、「アメリカの関税は、(導入)直後に労働者を傷つけることになる」と警鐘を鳴らしていた。いま、この言葉が現実のものになっている。
トランプ関税の影響は、製造業だけではない。農業団体や農家からは、報復関税により、とりわけ中国への輸出が減少することへの懸念が聞かれる。連邦政府のU.S. Department of Agriculture (USDA)によれば、2022会計年度におけるアメリカの農産物の中国への輸出は364億ドルにのぼった。このうちほぼ半分に当たる164億ドルは、大豆の輸出によってもたらされた。なお、アメリカの大豆の輸出先のほぼ半分は、中国向けだ。2017年の第一次トランプ政権下でも、中国への関税引き上げが行われ、大豆の輸出も大きく落ち込んだ。それだけではない。中国は、大豆の輸入先をブラジルへ切り替えを進め、近年ではアメリカの2倍前後の大豆をブラジルから輸入するようになっている。
今回の関税引き上げ率は、前回を大きく上回る。大豆農家の懸念は、中国の報復関税による輸出価格の上昇により想定される輸出の減少だけではない。ミネソタ州北西部の大豆農家のTim Dufault氏は、4月5日発信のAPの”Farmers fear tariffs could cost them one of their biggest markets in China”と題する記事の中で、今回のトランプ関税が「今年(の収穫)に向けて土地を借りた若い農家を含む、多くの農家を廃業に追い込むのではないかと心配している」と述べている。関税による経営が悪化した場合、政府の救済策が必要になる。しかし、Brooke Rollins農務長官は、FOX Newsとのインタビューで、現段階ではその必要がないとの考えを示したものの、必要性が明確になれば、政権として支援を行うとした。
前回の対中関税への影響に対して、第一次トランプ政権は、2019年に220億ドル、20年には460億ドルの支援を農家に行った。ただし、これには、新型コロナウイルス感染症への対策費も含まれている。では、農家は、こうした支援を望んでいるのだろうか。Kansas Grain Sorghum Producers AssociationのAndy Hineman副会長は、「政府の支援で生き延びたいわけではない。育てた作物を売ることで、生計を立てたいのだ」と主張。 また、ケンタッキー州で大豆を育てているAmerican Soybean Associationの会長、Caleb Ragland氏は、関税の引き上げを「お互いの顔を殴り合うようなもので、それから何もものははなく、私たちを傷つけるだけだ」と述べている。こうした生産者の声を政権の座にある人物は、どこまで聞く耳を持ち、政策に反映していくのだろうか。
一方、トランプ関税に対して、日本政府は「対米貢献の大きさを示し緩和を求める」という姿勢を打ち出している。しかし、政府間の話し合いに任せるだけでよいのだろうか。本稿で示したように、労働者や農家同士、あるいは消費者同士というような、同じ立場で問題を話し合い、解決策を模索する必要があるのではないか。自動車をめぐるアメリカとカナダ、メキシコの労働者と組合の間の考えや行動の相違を認識する中で、こう感じざるをえない。
なお、上述したThe Budget Labが発表した” Where We Stand: The Fiscal, Economic, and Distributional Effects of All U.S. Tariffs Enacted in 2025 Through April 2”と題する報告書は、以下から見ることができる。
https://budgetlab.yale.edu/research/where-we-stand-fiscal-economic-and-distributional-effects-all-us-tariffs-enacted-2025-through-april
パイプライン建設訴訟で6億6000万ドルの支払命令、敗訴のGreenpeaceは’SLAPP’によるNPO全体への攻撃と反発し裁判闘争継続表明
2025年3月26日
ノースダコタ州のMorton County District Courtの陪審員は3月19日、Dakota Access Pipeline (DAPL)の建設工事に当たり、Greenpeaceが妨害活動を行ったなどとして訴えられていた裁判で、原告の企業側の主張を認め、被告側に総額6億6000万ドルの支払いを命じた。この支払額は、Greenpeaceの財政能力を大きく超えており、確定すれば、倒産に追い込まれるのは必至だ。とはいえ、Greenpeaceは反対運動を主導してきたわけではない。企業側の訴えは、運動による被害補償を求めるためではなく、NPOや市民によるアドボカシー活動を抑え込む手段、いわゆる’SLAPP’に他ならないとして、Greenpeace側は強く反発。本部を置くオランダを含めたヨーロッパやアメリカ国内の環境保護団体などの支援を受け、訴訟を継続していく意向を示している。
DAPLは、ノースダコタ州の北西部のBakken地方で生産される原油を、同州のStanleyからサウスダコタとアイオワの2州をへて、イリノイ州Patkaまでの1172マイル(1886km)を輸送するためのパイプラインだ。2014年に計画が発表され、16年6月に工事が開始、17年4月に完成し、翌月から操業が開始された。総工費37億8000万ドル(5670億円)、人件費だけで20億ドル(3000億円)にのぼる巨大プロジェクトだった。DAPLの建設と運営を行っているEnergy Transfer Partners (ETP)のDakota Access Pipelineというウェブサイトによれば、1日の生産量は75万バーレル。2017年から22年までの5年間にパイプラインが通過しているの4つの州に2億2200万ドルの税収をもたらしたとして、地元経済への貢献度が大きいという。
環境保護団体のNatural Resources Defense Council (NRDC)が2024年6月12日にウェブサイトに掲載した”The Dakota Access Pipeline: What You Need to Know”と題する資料によると、ETPは当初、ノースダコタ州の州都Bismarckから北に約10マイルのミズーリ川を横断させる案を提示していた。しかし、住民の反対により、2015年に水質管理を担当する政府機関のU.S. Army Corps of Engineers (Corps)がこの案を拒否。パイプラインは、Standing Rock Sioux Tribeに隣接するLake Oaheをまたぐルートに変更された。同じ飲み水の問題が問われたにも関わらず、Bismarckの住民の大半は白人だが、Standing Rock Sioux Tribeは先住民の保留地だ。環境問題をマイノリティや低所得者に押し付ける、環境レイシズムの典型だとして、環境保護や人権問題に取り組む多くのNPOなどがDAPL建設反対に関わっていった。
ここで留意すべきことがある。Standing Rock Sioux Tribeがアメリカ政府から迫害や差別的な対応をされてきたのは、DAPL建設が初めてではないということだ。ヨーロッパからの「植民者」は、アメリカ大陸に先住していた「インディア」を居留地に押し込んでいった。Standing Rock Sioux Tribeに対しても同様で、アメリカ政府は1851年、複数の部族とTreaty of Fort Laramieを締結、Sioux族の歴史的な領土のほんの一部に境界を指定した。1868年までに、当時のGreat Sioux Reservationが正式に設立された。その後、U.S. Cavalry (騎兵隊)がBlack Hillsで金鉱を発見すると、連邦議会はSioux族の領土を接収、5つの居留地に分割した。そのひとつが、今日のStanding Rockである。さらに、1944年にはミズーリ川沿いの土地に5つのダムを建設するために、先住民の土地を取り上げていった。
DAPLの計画から建設着工までの間にも、様々な問題が生じていた。その複雑な経緯をここで詳しく述べることはできないが、環境規制の観点からEnvironmental Protection Agency (EPA)などの政府内からも懸念の声がだされていた。しかし、CorpsとETPが中心となり、建設計画が進められていった。こうした動きに、先住民が反発。2016年初頭、Standing Rockに加え、Cheyenne River LakotaとRosebud Siouxの居留地の先住民は、Lake Oahe付近に反対運動の拠点となるキャンプを設営した。この活動は、”#NoDAPL”というハッシュタグを通じてSNSで拡散され、政治家や環境保護や人権問題に取り組むNPO、セレブなど数千人が参加する抗議活動が実施されるまでに拡大。警察やETPの警備員と抗議運動の参加者が衝突、多くのけが人が出る事態も生じた。
ノースダコタ州の地方裁判所で裁判に提訴されたのは、DAPLの反対運動におけるGreenpeaceの役割や活動に関してだ。なお、ETPによる訴訟の被告は、Greenpeace USAとGreenpeace Fund、Greenpeace Internationalの3団体である。Greenpeace USAはアドボカシー活動を中心にする501c4団体、Greenpeace Fundは寄付控除を受けられる501c3団体だ。一方、Greenpeace Internationalは、オランダに本部を置くNGOである。したがって、組織の性格や反対運動における役割も異なる。しかし、裁判では、”Collective Liability Theory of Protest”といわれる、抗議活動に対して集団として責任を負わせる理論が適用されており、判決も3団体が共同して支払うことを命じている。
ETPが主張するGreenpeaceの「違法行為」は、以下のような内容だ。まず、抗議行動中に行われた違法行為の「扇動」。次に、DAPLに関連して資金を提供していた金融機関に対する投資回収運動における役割とその結果としての経営的損失。そして、ETPが虚偽と見なすGreenpeaceの発言による名誉毀損とその損害である。しかし、Greenpeace USAは、先住民団体の要請を受け、6人の専従を現地に派遣したり、活動のためのトレーニングを実施したものの、違法行為を「扇動」していないと主張。また、”Global call on banks to halt loan to Dakota Access Pipeline”と題された投資回収を求める書簡は、東京三菱UFJ銀行など世界各地の金融機関に送付されたが、Greenpeaceが起草したものではなく、50余りに国々で活動する500以上の団体が署名している。Greenpeace FundとGreenpeace Internationalの活動は、極めて限定的だ。
6億6000万ドルという巨額の支払をGreenpeaceに命じたのは、陪審員である。「陪審員裁判は市民感覚が反映される」と評価されることが少なくない。しかし、裁判が行われる場所により、選出される陪審員のタイプは大きく異なる。裁判が行われたMorton Countyは、DAPL保守的な地域で、公正な裁判が期待できないため、他の地域に移すことをGreenpeaceは要望していた。陪審員裁判ではしばしばとられる措置だが、州の最高裁判所は、この訴えを却下。Greenpeaceは、裁判開始前から不利な状況にあったといえる。原告による8億ドル余りを請求していたが、そのうち抗議活動による直接的な被害は7570万ドル、警備費が6010万ドルにすぎず、大半はGreenpeaceの活動に対する懲罰的制裁金だった。結果的に、その大半を陪審員は認めたことになる。
Greenpeaceは、ETPによる訴えを’SLAPP’と批判していた。Strategic Lawsuit Against Public Participationの略である。NPOや市民による直接的な損害に対する賠償を求めるためではなく、活動を抹殺するため、関わったNPOなどを破産させることを目的にした訴訟をいう。実際、資金調達部門といえるGreenpeace Fundの2023年の歳入は4000万ドル、同年のGreenpeace USAの流動性金融資産は650万ドルにすぎない。ETPが求めた8億ドルもの賠償金などは、そもそも払う能力がないのだ。’SLAPP’は、裁判が長期化することで、訴えられたNPOの財源が枯渇することを意図しているともいわれている。Greenpeaceは、判決を不服として控訴する意向を示している。しかし、裁判の長期化にともない、財政的に可能なのか、懸念する声も聞かれる。
不当あるいは不正と考える行為に対して、抗議を行うのは市民そしてNPOの権利である。このアドボカシーを否定する動きのひとつとして’SLAPP’があり、その動きは、決して例外的ではない。例えば、’SLAPP’の問題に取り組んでいる、Coalition Against SLAPPs in Europe (CASE)によると、2010年から23年までの間に、ヨーロッパだけで1049件もの’SLAPP’訴訟が起こされた。なお、アメリカには今年1月現在で、35州と首都ワシントンで何らかの形で’SLAPP’を規制する法律が存在する。しかし、Greenpeaceの裁判が行われたノースダコタ州には、この法律が制定されていない。
NPOのアドボカシーを否定するような’SLAPP’を放置することは、市民社会にとって脅威である。とりわけ小規模な団体は、訴えに対応する法的な知識や裁判に取り組む財政的な余裕は少ない。ETPによる裁判は、Greenpeaceという’Big Name’をターゲットにして、組織を崩壊させることで、中小のNPOや活動団体に恐怖感を与え、反対運動に距離を置かせようとした措置という見方もある。
このような観点から、国際的にはCoalition Against SLAPPs in Europe (CASE)、アメリカ国内ではDAPLの反対運動に関わった団体をはじめとした環境保護や人権問題に取り組みNPOなどが、Greenpeaceへの支援と’SLAPP’規制への動きを進めようとしている。トランプ政権下で、環境保護の動きが大きく後退し、人権擁護が否定されようとしている中で、Greenpeaceへの攻撃を個別の問題として顧みないのではなく、NPO、そして市民社会を守る活動へと展開させていく必要があるだろう。
なお、上記の投資回収を求める書簡、”Global call on banks to halt loan to Dakota Access Pipeline”は、以下から見ることができる。
https://www.banktrack.org/news/global_call_on_banks_to_halt_loan_to_dakota_access_pipeline
全米50州の州都や主要都市でデモや集会、トランプ政権の政権に対峙する「非集権型運動」の可能性
2025年2月8日
先月発足した第2次トランプ政権は、マイノリティや移民、ジェンダーなどに関する従来の政策を大きく変更する措置を相次いで発表したが、大規模な集会やデモなどによる反発の動きはあまり見られなかった。しかし、月が替わった2月3日には、反移民政策に抗議する” A Day Without Immigrants”が全米各地で実施。さらに5日には、全米の州都や主要として、50501 Movementと呼ばれる集会やデモが行われ、移民規制の強化やDEIの廃止をはじめトランプ政権の幅広い政策が非難された。SNSを通じて各地域で「非集権型運動」として進められた50501は当初、1日限定の行動のように見られていた。その後、組織的な体制整備を進めていく姿勢も示しており、トランプ政権の超保守的な政策に対抗する動きに広がっていくのか、注目されている。
日本の官報に相当するアメリカのFederal Registerによると、トランプ大統領が就任後にだしたExecutive Orders (大統領行政命令、以下EO)は2月1日までに49にのぼっている。歴代の大統領によるEOには番号が付けられており、マイノリティや移民、ジェンダーなどを中心にした政策には、以下のようなものがある。
・EO 14151: Ending Radical and Wasteful Government DEI Programs and Preferencing
・EO 14159: Protecting the American People Against Invasion
・EO 14160: Protecting the Meaning and Value of American Citizenship
・EO 14163: Realigning the United States Refugee Admissions Program
・EO 14164: Restoring the Death Penalty and Protecting Public Safety
・EO 14165: Securing Our Borders
・EO 14168: Defending Women From Gender Ideology Extremism and Restoring Biological Truth to the Federal Government
・EO 14170: Reforming the Federal Hiring Process and Restoring Merit to Government Service
・EO 14173: Ending Illegal Discrimination and Restoring Merit-Based Opportunity
・EO 14182: Enforcing the Hyde Amendment
・EO 14183: Prioritizing Military Excellence and Readiness
・EO 14185: Restoring America's Fighting Force
・EO 14188:: Additional Measures To Combat Anti-Semitism
・EO 14190: Ending Radical Indoctrination in K-12 Schooling
・EO 14194: Imposing Duties To Address the Situation at Our Southern Border
それぞれのEOの内容を正確に示すには、かなりの説明が必要になるため、ここではEOのタイトルを示すだけに止める。とはいえ、49のEOのうち13がマイノリティや移民難民、LGBTQなどの人権に関する政策に該当すると考えられる。このことからだけでも、トランプ政権が、この領域の課題をいかに重視、攻撃を加えているのかが、うかがえる。なお、環境保護につながるパリ協定からの離脱はEO 14162: Putting America First in International Environmental Agreements、世界保健機関からの離脱はEO 14155: Withdrawing the United States From the World Health Organizationに基づく措置である。
EOは、法律の一種だ。しかし、憲法や議会が制定した法律は、EOより上位に位置づけられる。また、EOは、原則として連邦政府が対応できる領域に限定される。例えば、EO 14151: Ending Radical and Wasteful Government DEI Programs and Preferencingは、Governmentという語彙が示唆するように、連邦職員の人事に関するDEI (Diversity, Equity, and Inclusion)政策を中心にした措置だ。ただし、民間企業やNPOであっても、政府の事業契約や補助金を受給する場合には、対象となる。また、このEOの本文には、DEIに加えてDEIAやEnvironmental Justiceという語彙も見られる。DEIAのAはAccessibilityの略で、障がい者のアクセス保障のことだ。Environmental Justiceは、環境正義と訳されることが多いが、環境問題と人種や貧困などを関連させて、問題を取り上げることを指す。
トランプが署名したEOの多くは、法廷の場で争われる事態を招いており、執行が差し止められているものも、少なくない。日本の国籍に当たる市民権の保障について、憲法に基づく出生地主義を一部改訂しようとする、EO 14159: Protecting the American People Against Invasionは、裁判所が一時的に差し止めを命令。こうした裁判闘争は、トランプの「ファシズム」的な政策への抵抗力として、一定の役割を果たしている。
一方、2017年の第1期の就任式では、女性差別などへの批判を中心にしたWomen’s Marchの参加者が首都ワシントンを埋め尽くした。その後、Women’s Marchは独自の組織になり、女性の権利擁護のイベントを毎年開催し続けてきた。しかし、今年は、People’s Marchに改称して、テーマを広げたものの、首都ワシントンの参加者は推定5万人と、2017年の同47万人から大きく減少。大量動員によって政府に圧力をかけ、政策の変更を迫る運動は、限界を迎えたかに見えた。
しかし、2月に入ると、状況が変わってきた。2月3日に移民が多いカリフォルニアやテキサス、オレゴン、コロラドなどの州で行われたA Day Without Immigrantsは、その端緒といえる。「不法移民」を含めた移民がいなければ、アメリカの社会は成り立たない。このことを示そうとした活動である。第1次トランプ政権がメキシコとの国境に壁と建設すると発表したことから、2017年2月に行われた。コロナ禍、そしてバイデン政権の成立もあり、その後は中断されていた。しかし、第2次トランプ政権が誕生し、「史上最大の強制送還」が打ち出され、これに関連するEOも発出されたことから、8年ぶりの実施となった。「不法移民」らが仕事を休み、集会やデモに参加することで、社会的経済的な存在意義を示そうとする活動だ。実際、どのくらいの「不法移民」らが職場を放棄したのかは不明だが、一部のビジネスや自主的あるいはやむをえず休業に到ったと報じられた。
Women’s MarchやA Day Without Immigrantsは、トランプ政権の政策への懸念や問題性を批判した。しかし、Women’s Marchは女性、A Day Without Immigrantsは移民という特定の人々を主対象にした活動だ。いわば、シングルイシューを取り上げた運動だ。一方、第2期に就任したトランプのEOは、多岐にわたっており、影響を受ける人々も幅広い。したがって、多様な問題や人々、すなわちそれぞれのシングルイシューに取り組む活動がつながり、連携して運動を進める必要があるのではないか。こうした考えを背景にして生まれたのが、50501 Movement(以下、50501)といってよいだろう。
なお、50501は、上記のEOで示された人権問題だけでなく、政府職員の解雇や政府機関の閉鎖などを含め、トランプ政権の姿勢を「ファシスト」と非難している。このため、ネット上には、反ファッショ主義者や団体の総称、Antifaであるかのような指摘も見られる。しかし、Antifaの定義にもよるが、後述するように、2月5日後の動きを見ると、民主党の左派系の団体と連携して、組織体制の整備を進めていく考えも示している。したがって、現在の体制を根本から覆えす「過激な集団」という認識は正確ではない。
Women’s Marchは、ひとりの女性によるFacebookへの投稿から始まった。同様に、50501も、SNSにアップされた呼びかけに端を発している。しかし、Women’s Marchは、首都ワシントンにおける大規模な集会とデモの実施や全米各地の活動の調整に向けて、リプロダクティブ・ライツに関する医療サービス活動を世界規模で行っているPlanned Parenthood Federation of America (PPFA)のような、核となる団体が存在した。一方、50501は、SNSによる呼びかけや関心を持つ人々が地域レベルで連携しながら実施された。なお、2017年と25年のA Day Without Immigrantsは、SNSを通じて進められたという意味では、50501と同様の運動形態といえる。
このような運動形態は、Decentralized Self Organizing Community Action(以下、非集権型運動)などと呼ばれている。従来の”Centralize”つまり中央集権的な組織形態で指導部の指示に基づく活動と異なり、”Decentralized”(非集権的)かつ”Self Organizing” (参加者自らが組織化を担う)、”Community Action”(地域レベルの活動)を意味する。50501についても、後述するように、最初に呼びかけた人も”#50501 is a Decentralized Self Organizing Community Action Event”と規定している。
非集権型運動は、近年になった始まったわけではない。しかし、この運動形態においてSNSが大きな役割を果たしていることは間違いなく、その意味ではインターネット時代の運動方式といえる。例えば、Women’s Marchは、Facebookへの投稿がきっかけっだ。50501は、RedditというSNSを通じて拡大していった。Redditは、インターネット上に記事を書き込んだり、閲覧したり、コメント(レス)を付けられるようにしたソーシャルメディアの一種。特定のテーマについて意見交換などを行う”Community”が設けられており、Redditによると2024年9月現在、活動中のものだけで、その数は10万を超える。
50501を最初に呼び掛けたのは、Reddit のユーザーのひとりEvolved_Fungiという人物だ。なお、この名前はユーザーネームで、本名ではない。また、50501は、50 protests, 50 states, one dayの略で、全米50州で50の抗議活動を1日(同じ日)に行おうという呼びかけにつながる。Evolved_Fungiは、当初、実施日を5月5日に設定することを考えていたという。日本語のゾロ目のように、同じ数字が続きゴロがよいからだろう。しかし、時間的に先過ぎ、もっと早く実施すべきという意見がでて、2月5日に決まったという。この話が示唆するように、Evolved_Fungiは、活動の発起人であっても、リーダーではないと自ら述べている。
Evolved_Fungiが50501の実施を呼びかけたRedditへの投稿は既に削除されている。ただし、ファクトチェック団体Snopesの2月4日の”What we know about nationwide anti-Trump protests on Feb. 5”という記事では、FacebookとRedditの過去の記録から、1月25日と判断している。したがって、実施まで、わずか12日しかなかったことになる。とはいえ、投稿への反応は極めて大きく、Evolved_Fungi自身の2月1日のRedditへの投稿によれば、1時間当たり300~500人が50501のコミュニティに参加。同日時点における全米各州の参加者は、平均200人を超えたと述べていた。そして、50501が行われた2月5日にhoneydoulemonと名乗るRedditのユーザーの投稿によると、50501は全米40州の67カ所で実施され、参加者は7万2000人に上ったという。
2917年のWomen’s Marchや今回の50501の実績は、インターネットのSNSを駆使した非集権型運動の意義と可能性を示しているといえよう。では、50501は、今後も非集権型運動として進めていくのだろうか。この点についてhoneydoulemonは、前述のRedditへの投稿の中で、「Progressive Democrats for Americaなどの組織によって推進されてきた」としたうえで、「活動家団体のPolitical Revolutionと提携している」ことを明らかにした。これまでも、完全な非集権型運動だったわけではないのだ。
Progressive Democrats for Americaは2004年、Political Revolutionは2016年から活動を始めた組織ということからも明らかなように、異なる団体だ。しかし、いずれも2016年の大統領選挙でBernie Sandersを支援してきた、民主党の左派組織である。運動の継続には組織体制の整備が不可欠といわれる。誕生間もないとはいえ、非集権型運動を標榜し、短期間に多くの人々を動員した活動が、組織に飲み込まれるのか。あるいは既存の集権型の組織とともに発展していくのか。反トランプの動きの広がりを考えるうえで、重要なポイントといえよう。この点にも留意しながら、50501の動きを追っていきたい。
なお、50501は独自のウェブサイトを構築しているわけではなく、BuildTheResistance.orgという民主主義の擁護と反トランプを掲げる運動体のサイトの中に紹介サイトを設置している。このサイトは、以下から見ることができる。
https://www.buildtheresistance.org/50501
「ロサンゼルス火災」とヒスパニック系住民、特有な課題と状況を踏まえた支援に取り組むNPO
2025年1月18日
カリフォルニア州最大の都市、ロサンゼルスの中心街の西30キロほどに位置するPalisadesで1月7日に発生した山火事は、18日現在もPalisadesだけでなく、ロサンゼルス東のEaton地域でも炎上し続けている。経済的損失は、300憶ドル(約47兆円)に上るという推計も出されるなど、経済的に極めて大きな被害が発生。この事態に対して、連邦政府や州政府は、財政面を含めた被災者への支援策を打ち出している。また、NPOも義援金や支援金を集め、被災者への支援や被災地の復興に向けた活動を進めつつある。しかし、被災者と一括りにする傾向があるが、抱える課題や状況は一律ではない。ここでは、ヒスパニック系の住民に特有な状況を踏まえ、大規模火災によって受けた打撃と、それに対するNPOの活動について見ていきたい。
日本のメディアが「ロサンゼルス火災」と呼んでいるように、火災自体は南カリフォルニアの広範な地域に及んでいるものの、被害が集中しているのはロサンゼルス郡である。なお、「郡」は、州内に政府が設けた行政区画で、この中に、市や町が自治体として設立され、自治体がない地域は郡の直轄となる。ロサンゼルス郡には、ロサンゼルス市の他、サンタモニカや東部のEaton火災の被災地のひとつパサデナなど、88もの市がある。一方、最初に火の手が上がったPalisades (Pacific Palisades)は、ロサンゼルス市の一部だが、Eaton火災で最大の被害を被ったAltadenaは、ロサンゼルス郡の一地域になる。
連邦政府の人口統計局のデータによると、2023年時点におけるロサンゼルス郡の人口は966万人。このうちヒスパニック系の人々は48.6%と、ほぼ半数を占める。歴史的に見れば、カリフォルニアは、1846~48年の米墨戦争の結果、メキシコに勝利したアメリカが併合した地域なので、ヒスパニック系の人口が多いのは当然ともいえる。ただし、今回の火災との関係でいえば、ヒスパニック系の人口はPacific Palisadesでは4%にすぎないものの、Altadenaでは27%に及んでいる。なお、3番目に大きな被害を出したHurst火災の中心地、Sylmarでは、人口の79%がヒスパニック系だ。
このように述べてくると、「ロサンゼルス火災」で最も被害が大きかったPacific PalisadesとAltadenaでは、ヒスパニック系の住民が比較的少ないため、影響も小さいのではないかと思われるかもしれない。しかし、火災発生から8日後の1月15日にUniversity of California at Los Angeles (UCLA)のLatino Policy and Politics Instituteなどが発表した” Wildfires and Latino Communities: Analysis of Residents, Workers and Jobs in LA County Fire Evacuation Zones”(以下、UCLA報告書)というタイトルのレポートによると、大きく異なる実態が示されている。
UCLA報告書は、まず火災地域のヒスパニック系の人口と就労者の割合に大きなの相違があることを指摘。Eaton火災地域では、人口に占めるヒスパニック系の割合は27%だが、就労者では35%に達する。Palisades火災地域では、それぞれ7%と34%。また、Hurst火災地域でも、23% と36 %となっている。いずれも就労者の割合が高くなっているが、Palisades火災地域では、人口と就労者の割合の差が5倍近くもあり、極めて大きい。この地域は、富裕層が多く、家事労働や庭の手入れなどにヒスパニック系の労働力への依存度が高いためだ。
家事労働者に占めるニスパニック系の割合の高さは、Palisades火災地域だけの現象ではない。UCLA報告書によると、ロサンゼルス郡全体で見ても、家事労働の85%はヒスパニック系によって担われているという。しかも、ヒスパニック系の家事労働者の多くは、フリーランスだ。報告書は、ヒスパニック系と白人の家事労働者のフリーランス率を比較しているが、前者の47%に対して、後者は27%にすぎない。このことは、富裕層の住居が火災で炎上し、家事労働者が不要になっても、白人の家事労働者であれば、雇先の企業から他の家庭の紹介を受けたり、失業保険を受給できる可能性が高いことを意味する。
一方、フリーランスが大半を占めるヒスパニックの場合は、新たに家事労働者を必要とする家庭を探すことは困難なうえ、失業保険に加入している人も少ないと推定される。元々、「日銭暮らし」を強いられてきた、ヒスパニック系の家事労働者は、火災による「職場の消失」により、明日の生活にも事欠く状況に陥ってしまった可能性が大だ。連邦政府や州政府の支援策も、合法的な居住権を持たない「不法移民」が多いヒスパニック系の労働者にとって、「救いの手」とはならない。
家事労働の担い手の大半は女性だ。一方、ヒスパニック系の男性の多くは、建設業などに従事している。ロサンゼルス郡においては、建設業に携わる労働者のうち実に85%がヒスパニック系だ。白人は11%にすぎない。火災が沈静化し、住宅建設が始まれば、ヒスパニック系の建設労働者も、雇用の機会が増えるだろう。しかし、火災現場には、アスベストなど、有害な物質が残っている可能性も少なくない。労働現場の安全性の確保がなされるかどうか、見守る必要がある。
なお、ロサンゼルス郡におけるヒスパニック労働者は、家事労働や建設業以外にも、特定の産業や職種に集中している。2018年のCalifornia Employment Development Departmentのデータによれば、チャイルドケアに関わる労働者の65%はヒスパニック系である。レストランなどのフード産業でも、その割合は63%に及ぶ。この他、幼稚園から高校までの教員の45%、警察官や消防士の44% などの職業では、ヒスパニック系労働者の割合が極めて高い。一方、UCLAの報告書は、2018年から22年の間に、在宅勤務をしていたヒスパニック系労働者の割合は7%と白人の22%に比べると、3分の1に満たない。家事労働や建設業、レストランなど、「現場」で働くことが求められる職種の高さを示唆している。
「ロサンゼルス火災」の甚大な被害が伝えられる中で、各地のコミュニティ財団や大手のNPOは相次いで、緊急支援基金を設立し、募金活動を開始した。また、最初に火の手が上がったPalisades地域に居を構える人が少なくないといわれるハリウッドのセレブや大リーグのドジャースをなどのプロスポーツ団体、そして大手の企業などが先を争うかのように、寄付表明をおこなっている。しかし、寄付先の多くは、教育委員会が設置した基金や消防署、あるいは低所得者住宅の建設などで知られるHabitat for HumanityやFood Bankのような「著名」なNPOだ。
こうした状況に対して、ヒスパニック系のNPOは、独自の募金活動などを開始している。Coalition for Humane Immigrant Rights (CHIRLA)が設立したiRelief Fundは、そのひとつだ。ヒスパニック系の「不法移民」などに対する支援を行っているCHIRLAが独自の緊急支援基金としてiRelief Fundを設立したのは、連邦政府の被災者支援が「不法移民」が届かないためだ。2020年のコロナ禍において、カリフォルニア州政府と連携して、「不法移民」への現金支援策として行った事業を「ロサンゼルス火災」版として、再開したものだ。ちなみに、コロナ禍では15万人の「不法移民」に支援を行った。
カリフォルニアのニュースに特化したNPOのメディア、CalMattersが1月17日に‘It all ended in a second’: Thousands of low-income and immigrant workers lost jobs in LA fires”というタイトルで発信した記事によると、CHIRLAのDirector of Climate Justice Programsの
Vladimir Carrascoさんは、少なくとも数千人がiRelief Fundの支援を求めてくるだろうと述べている。Carrascoさんは、ヒスパニック系の労働者を支援しているNPO、Instituto de Educación Popular del Sur de California (IDEPSCA)と連携し、「ロサンゼルス火災」の結果、収入の道が途絶えた家事労働者や日雇いの建設労働者など80人から相談を受けているという。
「ロサンゼルス火災」で被災したヒスパニック系労働者への支援は、Palisades火災地域でも始まっている。その中心になっているのは、Malibu Community Labor Exchange (MCLE)というNPOだ。団体名のトップにあるMalibuは、Palisades地域にある市で、連邦政府の人口統計局のデータによると、人口は1万人をやや上回る程度だが、2023年のひとり当たりの中位所得は12万7000ドルに上り、住宅の中位価格も200万ドルを超える、富裕層中心の土地というイメージが強い。しかし、連邦政府が規定する貧困ライン以下の生活を送っている人も12.5%に上っており、その多くは富裕層の家庭での家事労働などに従事しているとみられる。
MCLE は、Malibuの海岸沿いにあるZuma Beachで1990年に設立されたCoalition for Homeless and Dayworkers (CHAD)を起源とする団体だ。その名の通り、ホームレス支援とともに、家事や庭の手入れを行う日雇いの労働者への仕事を斡旋してきた。Malibuでは、今回のPalisades火災の1カ月前の12月中旬にもFranklin火災と呼ばれる山火事に襲われ、日雇い労働者の多くが仕事を失っていた。その傷がいえないうちに新たな火災に見舞われたことで、求人の問い合わせが全くない状態に陥っているという。このため、失業中の労働者のために独自の基金を開設、募金活動を開始した。
「ロサンゼルス火災」は、メディアの報道も多いうえ、ハリウッドのセレブなどの支援もあり、被災者と被災者を支援する活動に対して、多額の資金が寄せられている。しかし、政府の支援を受け取れない立場にある人々などには、その支援が届くという保障はない。独自の基金を作り、募金を進め、「不法移民」をはじめとしたヒスパニック系の労働者を支援しようとする活動。それは、彼らの労働力の大きさを考えれば、「慈善活動」ではなく、地域の社会と経済を維持するうえでも、必須のことといえよう。
なお、前述のCHIRLAのiRelief Fundについては、以下から寄付を行うこともできる。
https://www.chirla.org/donatenow/
アメリカ版「歳末たすけあい運動」、現物寄付への関心の高まりと課題
2024年12月28日
日本の「歳末たすけあい運動」のような統一した呼び名があるわけではないが、アメリカでも、11月の感謝祭からクリスマスにかけての季節になると、寄付活動が盛んになる。寄付というと、NPOなどの支援団体に現金を提供し、団体の活動を利用する人々のために役立ててもらうことがイメージされがちだ。こうした現金寄付に加え、アメリカでは、現物の寄付も幅広く行われている。かつては教会や学校に古着や使わなくなったおもちゃなどをもちより、必要な人に提供する方式が一般的だった。近年では、インターネットを利用して未使用の商品を寄付者と受益者の間で取り持つ仕組みが拡大。利便性が高まる反面、利用者が期待した商品が届かないなどの問題も指摘されている。
キリスト教の影響が強いアメリカでは、感謝祭からクリスマスにかけて、Season of SharingやGiving Season、あるいはHoliday Seasonなどと呼んで、「恵まれない人々を助ける」活動が各地で行われている。典型的な活動のひとつは、ホームレスや低所得の高齢者などに、ターキーを含めた食事をランチやディナーに提供したり、配食するものがある。しかし、宗教を含め、多文化社会の広がりとともに、この時期に特別な支援活動を行わない人々も増えている。とはいえ、大手メディアやSNSには、ターキーをふるまう教会やNPO、食する人々の姿が数多く映し出されていることも事実だ。
Season of Sharingでは、Shareする人々が存在する。寄付者と受益者である。とはいえ、寄付者は直接、受益者に金銭や物資を提供することはあまりなかった。両者の間に教会やNPOが介在し、寄付された資金をディナーの食材に変えたり、衣類などの生活に必要な物資を受益者が受け取る形が一般的だったといえよう。しかし、スマートホンの利用が低所得者の間にも拡大するとともに、インターネットを通じた寄付者と受益者のマッチングが広がってきた。アメリカとカナダで実施されている、Salvation ArmyのAngel Tree Programは、そのひとつである。
日本では「社会鍋」、アメリカでは” Red Kettle”と呼ばれる街頭募金活動で知られているSalvation Army。1865年にChristian Missionという名称で、イギリスのロンドンでスタートは、2021年には133ヵ国で活動を行うなど、世界的な知名度をもつ組織に発展している。キリスト教の団体ということもあり、アメリカでは、宗教活動はもとより、災害の被災者救援、ソーシャルサービス、ユースサービス、シニアセンターの運営、人身売買、退職軍人さらには刑務所の受刑者への支援など、幅広い活動を展開。年間の利用者は、2700万人にのぼるという。
Angel Tree Programは、11月から12月にかけてクリスマスに低所得者世帯の児童や高齢者に贈り物をするプログラムである。寄付者と受益者のマッチングだが、ここでいう受益者は、Angelと呼ばれる低所得者世帯の児童や高齢者だ。Angelは、衣類や玩具など、自分が希望する商品をWish Listと呼ばれる一覧表に提示。寄付者は、その中から自分が住んでいる付近の贈り先を選定、商品を購入し、近くのSalvation Armyに届けるか、オンラインで購入、配送してもらうかを選ぶことになる。このプロセスで明らかなように、Angelに贈られる商品は、古着などのように使用済みのものではなく、新しく購入される。
オンラインでの購入と配送については、パートナー企業も介在する。WalmartとSam’s Clubがそれだ。Walmart は、2002年から21年まで西友を傘下に収めていたことからも日本でも知名度が高い。一方、Sam’s Clubは、日本に未進出なのであまり知られていないが、メンバーシップ・ホールセール・クラブ(会員制量販店)で、アメリカでは同じ業態のCostcoに次ぐ2番目の規模を誇っている。なお、Sam’s Clubは、Walmart創業者のファーストネームをつけていることに示されるように、Walmartの子会社である。
この両社は、過去40年にわたり、Salvation Armyと連携してAngel Tree Program進めてきた。また、過去5年間にWalmartとWalmart FoundationがSalvation Armyに行った寄付は700万ドル。Walmartの顧客とSam’s Clubによる会員がSalvation Armyへの寄付は、2023年だけで3400万ドルにのぼるという。
Salvation Armyは、マッチングを行う前に、寄付者と受益者の情報を収集、その一部を寄付者に開示している。寄付者には、写真付きの身分証明書や居住を証明する書類の提出が求められる。受益者のAngelには、出生証明書などの身分証明のための書類、衣料や靴のサイズ、希望するおもちゃの内容などとなっている。なお、寄付者には、Angelのファーストネームが示される他は、個人情報の提示はなく、Wish Listに掲載される商品がわかるだけになっている。
長年行われている活動なので、概ねスムーズに進んでいると推察されるが、問題を指摘する声が寄付者と受益者双方から出ていることも事実だ。例えば、2024年12月24日発信の雑誌Peopleの” Angel Tree Causes Chaos on TikTok: Parents Upset After Receiving Gifts Not on Their Kid's Wish List”という記事は、Angel側の不満を伝えている。あるAngelの保護者によると、受け取った服は子どものために要請したサイズではなかったうえに、Wish Listに入っていなかったアイテムが数多く送付されてきたという。また、別のAngelの保護者は、彼女の16歳の娘にランチボックス、スカーフ、ビーニーなどの「中古」プレゼントが贈られたと指摘。「贈り物を買う余裕がないなら、Angel Treeを選ばないでほしい」と語った。
寄付者のサイドからも、困惑の声が聞こえてくる。12月27日発信のPeopleの” Woman Shares Gifts She Bought for Her Angel Tree Kid — and Her Purchases Cause Uproar on TikTok (Exclusive)”という記事は、Shay Jacksonという寄付者の声を実名で紹介。彼女のAngelはIvannaという10歳の少女で、Wish Listには、衣類の他、Stanley社製のカップに加え、150ドルもするSprayground社製のバックパックなどが記載されていた。結局、Shayさんは、一部の商品は10歳の子どもには不適切と判断。残りをAmazonやTargetというスーパーなどから同様なものを購入して送った。購入に要した費用は200ドルほど。送付前に商品を紹介したTik Tokには940万件のアクセスと7000件のコメントが寄せられたという。
これらの問題は、対面ではなく、インターネットを通じて制限された情報のやり取りの中で実施されることに原因の一端があるのかもしれない。とはいえ、せっかくの善意や期待を傷つけないような細やかな対応も求められているといえよう。問題が生じれば、上記の二つの事例のように、Tik Tokのようなネット媒体を通じて、広く拡散してしまう可能性もあるのだ。
なお、Salvation ArmyのAngel Tree Programの詳細は、以下から見ることができる。
https://saangeltree.org/
12月3日に実施されたGivingTuesday、参加者3610万人・寄付総額36万人を達成
2024年12月6日
ニューヨークで2012年に始まり、その後、全米そして日本を含めた世界105ヵ国で行われるようになったGivingTuesday。今年も11月第4木曜日の感謝祭が明けて最初の火曜日に当たる、12月3日に実施された。アメリカでは、3610万人が参加、集まった寄付金は36億ドルと、ともに過去最高を記録した。この一大イベントの沿革などを振り返ったうえで、今年の活動全体の成果や個別の具体的な事例について見てみよう。
GivingTuesdayを生み出したのは、ニューヨークにあるThe 92nd Street Y (92Y)に集っていた人々だ。マンハッタンのイーストサイド、East 92nd StreetとLexington Avenueのコーナーに位置する92Yは、1874年に法人化されたYoung Men's Hebrew Association (YMHA)の活動が起源だ。この名が示すように、当初は、ユダヤ系男性の社交クラブ的な存在で、活動場所もいまとは異なっていた。現在の場所に移ったのは1900年で、30年に新しいビルを建設。その後、芸術文化活動の拠点として知られるようになっていく。なお、YMHAは1945年、ユダヤ系女性団体と合併し、Young Men's and Young Women’s Hebrew Association (YM-YWHA)に改称された。
アメリカでは、Thanksgiving Day(感謝祭)が連邦政府が制定した祝日で、その翌日のいわゆるBlack Fridayからクリスマスに向けて、商戦が活発になる。21世紀に入ると、感謝祭の週末明けの月曜日にネットで買い物をする人が急増。やがて、この日は、Cyber Mondayと呼ばれるようになっていく。92Yに集っていた人々の中に、ショッピングにお金を費やすだけでなく、社会的に良いとされることを行うべきという考えがでてきた。こうして、Cyber Mondayの翌日をGivingTuesdayとしてフィランソロピー活動が進められていくようになった。
2012年に始まったとされるGivingTuesdayだが、その年の実績などは、あまりはっきりしない。しかし、翌年の活動については、12月10日付のUSA Today紙が”Growth in online 'Giving Tuesday numbers 'inspiring'”という記事で紹介している。この記事によると、2013年にオンラインで寄せられた寄付は1920万ドルと、前年より90%も増加。1件当たりの寄付額も、142ドル5、セントと、2012年より40ドル以上増えた。また、首都ワシントンに隣接したメリーランド州ボルチモアでは、500万ドルの目標を超えて、540万ドルが集まったという。
興味深いのは、2013年のBlack Fridayの売上が3%近い減少だったというNational Retail Federationのデータを提示していることだ。Giving Tuesdayの知名度が高まったことの影響が大きいだろうが、USA Today紙の記事からは、商業ベースの売上が減少した反面、NPOへの寄付が増えたという印象を受ける。こうした成果を収めることができた背景として、USA Today紙は、SNSの活用をあげている。GivingTuesday の1日だけで、32万回ものツイートが行われたのは、その一例である。また、Facebookの共同創設者のひとり、Dustin Moskovitzとその妻Cari Tunaがスタートさせた助成財団、Good Venturesが500万ドルの寄付を申し出るなど、大口の寄付も少なくなかったようだ。その後、GivingTuesdayは順調に発展していく。
13年目を迎えた今年は、前述のようにアメリカだけで参加者が3610万人(前年比7%増)、寄付総額が36億ドル(同16%増)と、いずれも開始以来最高の数字を記録した。ただし、これらの数字には、少し説明が必要になる。例えば、参加者のすべてが金銭の寄付を行ったのではない。金銭の寄付者は1850万人(同4%増)で、現物寄付者が1290万人(同32%増)、ボランティアとしての参加者が910万人(同4%増)などとなっている。以上から、現物寄付者の増加率が、特に高いことがわかる。
12月5日発信のThe NonProfit Timesによると、2024 年のBlack Fridayの売上は前年比10.2%、Cyber Mondayは10.7%だった。GivingTuesdayの16%増という数字は、これらを上回っている。2013年の実績を伝えたUSA Today紙と同様な報道姿勢だが、非営利が営利を上回ったという成果も共通しており、興味深い結果といえる。なお、Cyber Mondayの翌日に実施するイベントとはいえ、GivingTuesdayを掲げた募金活動は、その日だけで完結するわけではない。
例えば、全米の9万を超える公立学校に教科書や教材を提供しているNPO、DonorsChooseは、学校の教員が必要とする教材などのリストを作成しておく。例えば、ノースカロライナ州の高校の教員が拡声器を希望しており、具体的な用途を説明したうえで、消費税を含めた購入費やDonorsChooseへの支援金などで286ドル28セントが必要というデータがウェブ上に提示される。これまで寄付実績のある人々に寄付依頼をGivingTuesdayに行う、というような流れにしているようだ。この要請に対して、70ドルの寄付が2件寄せられているが、不足額があり、12月5日現在も募金を続けている。
こうした準備を進めたうえで、募金活動を実施しているわけだが、前記のThe NonProfit Timesによると、DonorsChooseの今年の目標額は500万ドルで、すでに550万ドルを達成したという。全米の1万7000人余りの教員の要請に対して、2万7000人超える寄付者が現れたことによる成果だ。ただし、昨年実績の600万ドルには届いていない。なお、DonorsChooseのウェブサイトによると、2022-23会計年度に公立学校の教員に提供した教材などの寄付は1億4000万ドル余りだという。
これに比べると、今年のGivingTuesdayで集まった 550万ドルは、驚くほどの額ではないと思われるかもしれない。しかし、「パートナー」と呼ばれる企業などからの大口寄付があるとはいえ、歳入の大半をカバーできているわけではない。例えば、500万ドル以上を支援している企業・団体は4、100万~500万ドルは16の企業・団体に止まる。2000年の設立以降、総額17億3000万ドル相当の教材などを提供できた背景には、これらの大口寄付だけではなく、633万人もの寄付者の支援を獲得することができたからだろう。その要因のひとつに、GivingTuesdayを通じた新たな寄付者の開拓があったに違いない。
なお、今年のGivingTuesdayの成果については、以下から見ることができる。
https://www.givingtuesday.org/blog/givingtuesday-2024-record-breaking-results/
連邦下院本会議「NPO殺戮法案」否決、人権団体などのロビー活動が奏功
2024年11月18日
連邦下院本会議は11月12日、” Stop Terror-Financing and Tax Penalties on American Hostages Act”の採決を行ったものの、成立に必要な賛成票をえられず、否決された。この法案は、アメリカ人を人質にしたテロリストを支援するNPOの税制優遇措置をはく奪する手続きなどを定めたものだ。しかし、担当する財務長官の恣意的な裁量権が強く、次期大統領に決まったドナルド・トランプの意に沿わないNPOの財源を断つ手段として用いられる恐れがあるとして、人権団体などから強い反対の声が上がっていた。法案に反対していた人権団体などは、下院本会議の採決結果を歓迎しつつ、共和党が再度、提案してくる可能性が高いとして警戒している。
アメリカの議会では、法案に番号をつけている。“Stop Terror-Financing and Tax Penalties on American Hostages Act”の番号は、H.R. 9495。ここにあるH.R.とは、House of Representatives、すなわち下院を意味する。したがって、H.R. 9495は、下院法案9495号となる。なお、連邦上院の法案は、上院、すなわちSenateの頭文字をとってS.と記載される。また、法案の多くは、同様の課題を扱ったものが、上下両院に提出、審議され、両院を通過後、一本化のための競技が行われる。H.R. 9495と類似の法案は、上院にも提出されている。法案は、A bill to amend the Internal Revenue Code of 1986 to terminate the tax-exempt status of terrorist supporting organizationsという名称で、番号はS.4136だ。
H.R. 9495の採決では、共和党からひとりの反対がでたものの、民主党から52人の議員が賛成票を投じた。この結果、賛成256票に対して、反対は145票となり、過半数を超えた。通常、議会の法案は、有効投票の過半数の賛成で成立する。しかし、H.R. 9495は、Fast-track billとして扱われたため、成立には3分の2が必要だった。法案の審議は、議会に提出された後、委員会で議論、修正などが加わるなどしてから、採決に持ち込まれる。そのため、かなりの時間がかかるのが普通だ。Fast-track billsは、迅速な採決を可能にする一方、成立には3分の2の賛成が求められる方式である。
“Stop Terror-Financing and Tax Penalties on American Hostages Act”という法案の名称からは、その意図を判断しにくいが、ふたつの目的が掲げられている。ひとつは、海外で違法または不当に拘留されたり、人質にされたりしたアメリカ人とその配偶者の特定の納税申告期限を延期するとともに、拘留ないしは人質にされたアメリカ人が支払った税金の罰金や罰金の払い戻しと軽減などを可能にすることだ。この文言から推察されるように、2023年10月に行われた、パレスチナのガザ地区の武装組織、ハマスのイスラエル攻撃により人質になったアメリカ人への納税に関する優遇措置の提供が、その具体的な内容といえる。
では、もうひとつの目的はなにか。 “Stop Terror-Financing”の部分が、これにあたる。テロリストを支援するNPOから税制優遇措置をはく奪することを指し、法案の第4条で定められている。では、テロリストを支援するNPOとは、どのような組織を意味しているのか。この点について、第4条は、まず財務長官によって指定された組織であると規定。そのうえで、指定に先立つ3年間に、デ・ミニミス(些細)な額とはいえない物質的支援またはリソースの提供を行った組織としている。法律の条文に沿った記述のため、理解しにくいかもしれないが、素直に読めば、テロリストに相当の物質的ないしは財政的な支援を実施したNPOを財務長官がテロ支援団体として指定するということになる。指定されたNPOは、税制優遇措置を失う。
この文言だけであれば、「NPO殺戮法案 (Nonprofit Killer Bill)」と形容する内容とは考えにくい。しかし、法案に反対している人権団体などは、政府に批判的なNPO全体に影響が及ぶ可能性につながると指摘。例えば、National Iranian American Council Action (CAIR)のRyan Costello氏は、NPOのインターネットメディア、The Interceptの取材に対して、パレスチナ問題や反戦活動に取り組む団体だけでなく、「プロチョイス団体、そして環境保護団体にも適用されることが考えられる」と述べている。CAIRは、11月12日のH.R. 9495の採決直前に発表した”Urge Your Member of Congress to Vote NO on Nonprofit Killer Bill Aimed at Silencing Palestine Activism”というタイトルの緊急声明の中で、次のような法案の4つの問題点を提示した。
・ “terrorist-supporting organizations”の定義が不明瞭で、指定の権限を持つ財務長官による乱用の可能性があること
・政治的に大きな議論になっている課題を扱っているNPO全体への脅威になること
・ “terrorist-supporting organizations”と指定した根拠を財務長官が提示することが求められていないため、指定されたNPOが事実上、反論できないこと
・Antiterrorism and Effective Death Penalty Act of 1996やInternational Emergency Economic Powers Act (IEEPA)など、テロ支援団体が税制優遇資格を取得することを禁止する法案が存在していること
これらの指摘を見れば、H.R. 9495の問題が理解できる。例えば、中東で難民支援に関わっている団体は、支援の提供先から完全にテロリストを排除することは困難といえる。テロリストの家族や親族も、テロリストと見なされる可能性があるからだ。そして、こうした支援団体と連携して米国内で活動しているNPOも、財務長官によってテロリスト支援と見なされる恐れがある。しかも、財務長官は、指定の根拠を示す必要はない。指定後90日の間に、異議申し立ての機会が指定された団体に保障されているとはいえ、根拠が明示されない以上、明確な反論を行うことは至難といえる。
こうした問題が「NPO殺戮法案」という理解に進むには、アメリカのNPOの運営における税制優遇の重要性を知る必要がある。アドボカシー活動を主体としたNPOの多くは、寄付や助成金への依存度が高い。上記の4点を指摘したCAIRが税務当局に提出した書類によると、2022年度の歳入は113万5971ドルだったが、このうち寄付と助成金は112万2442ドルに及んでいる。小口の寄付者は税制優遇のひとつ、寄付控除を意識することは少ないだろう。しかし、大口の寄付者や助成金は、寄付控除のない団体に提供されることはないといってよい。換言すれば、NPOに対する強力な兵糧攻めなのだ。
H.R. 9495が議会に提出されたのは、9月9日。これに先立ち、NPOの税制優遇のはく奪に限定した法案が2023年11月14日に連邦下院に提出されていた。” H.R. 6408 - To amend the Internal Revenue Code of 1986 to terminate the tax-exempt status of terrorist supporting organizations” がそれである。今年4月15日に法案は下院本会議を通過したものの、上院の同様の法案が不成立に終わり、事実上、立ち消えになった。このため、H.R. 6408には盛り込まれていなかった、テロリストの人質になったアメリカ人への納税への配慮を盛り込んだ、H.R. 9495が提出されたといえよう。人質の納税への配慮に反対する議員はいない、との判断からと推察される。法案の反対派は、これを「策略」と見て、批判している。
この「策略」に対して、大手の人権団体、American Civil Liberties Union (ACLU)を中心にした反対派は、法案提出から2週間ほど経った9月20日、下院の民主・共和両党の指導者に書簡を送付した。書簡は、H.R. 9495がH.R. 6408の内容を引き継いだものだとの認識を提示。H.R. 9495に盛り込まれた人質への納税に関する配慮に反対するものではないことを明示す一方、既存の法律でテロ支援団体への税制優遇措置が認められていないことを指摘した。さらに、テロ支援団体への根拠を明示しない点などの問題点を取り上げ、法案に反対するように求めた。書簡に署名した団体は、150余りで、主な活動分野別に見ると、以下のようになる。
・人権団体:Amnesty International USAやHuman Rights Watch
・プロチョイス団体:National Women's Law CenterやWomen’s March
・環境保護団体:EarthRights InternationalやGreenpeace USA
・反戦平和団体:Bend the Arc: Jewish ActionやPeace Action
・ムスリムやパレスチナの権利擁護団体:Council on American-Islamic RelationsやMuslim Justice League
なお、この書簡とは別に、CAIRは10月3日付で連邦下院のMike Johnson議長と下院歳入委員会のJason Smith委員長に、100余りの賛同団体を添えて、書簡を送った。Smith委員長に関しては、税制優遇措置の認可を行うInternal Revenue Service (IRS)がパレスチナ人の人権を擁護する15のNPOの資格をはく奪するという根拠のない主張を行ったことを批判。また、Johnson議長が税制優遇措置を速やかに取り消すべきなどと述べたことを問題視していた。
とはいえ、こうした抗議文的な書簡の送付だけで、H.R. 9495が不成立に終わったわけではない。NPOによる活発なロビー活動が功を奏したといえる。例えば、ACLUの書簡の賛同団体として名を連ねた、Bend the Arc: Jewish Actionは、法案採決の翌日の11月13日にアップされた同団体のウェブサイトにおいて、以下の3つの活動を行ったことを明らかにした。
・民主党の全下院議員に対して、法案に反対するよう要請
・法案に賛否が明確になっていない議員に対して、個別に話し合いを実施
・他のユダヤ系の団体や進歩的なグループと連携して、議会の主要メンバーがNPOによる法案反対のロビー活動による圧力を確実に受けられるようにしたこと
NPOによるこうしたロビー活動がどの程度の効力を持ったのかについては、明確に判断することはできない。とはいえ、人質の納税への配慮という「策略」にもかかわらず、H.R. 9495への賛成256票に対して、反対は145票と、H.R. 6408の採決における賛成382票、反対11票に比べると、大幅に反対が増えたことは事実だ。また、法案の共同提案者として、民主党からふたりの議員が名を連ねていたが、そのひとりネブラスカ州選出のDina Titus議員は、採決直前に反対に回り、周囲を驚かせた。2025年には、トランプが再登場し、上下両院とも、共和党が多数を占める議会になる。その時点で、H.R. 9495と同様な法案が提出された場合、その成立を阻止できるか。NPOの力量が試されていくことになる。
なお、NPOの連合組織、Council on FoundationsとIndependent Sector,、National Council of Nonprofits、United Philanthropy Forumの4団体は、H.R. 9495とH.R.6408への反対の意思を表明した。Council on FoundationsとIndependent Sectorのウェブサイトで明らかにしたものだが、掲載日は11月15日とH.R. 9495の採決から3日後のことである。したがって、採決に影響を与えたことは考えにくい。しかし、ふたつの法案に示された財務長官の恣意的な判断でテロ支援団体と指定され、反論もままならない制度の立法化に批判的な考えがNPOの世界に強く存在していることを示したといえよう。
なお、前述のACLUをはじめとしたNPOによるH.R. 9495に反対する9月20日付の下院議長らへの書簡は、以下から見ることができる。
https://www.aclu.org/documents/civil-society-letter-to-congress-opposing-hr-9495
電話・メールの生活相談がコロナ禍に比べ大幅増、United Wayが相談事業を分析
2024年10月23日
Nonprofit Businessといわれることがあるように、NPOは事業体だ。設立当初の活動だけを継続している団体もあるが、多くは、社会の変化や団体の理事やスタッフの関心や知識、経験などに応じて、変貌を遂げていく。地域の募金団体としてスタートし、日本にNPOが紹介された1990年代初頭には全米最大の共同募金団体と形容された、United Wayの例外ではない。いまでは、電話やメールで生活相談を受け付ける事業も実施しているのである。さらに、受けた相談内容を整理、分析し、報告書として発表。最近、2023年度版の報告書が公表され、社会課題に対する政府や民間のサービスが現実のニーズに十分対応できていないと指摘している。
United Wayの起源は、1887年10月16日にコロラド州デンバーで設立された、Charity Organization Societyに遡ることができる。宗教関係者ら数名が、共に活動することで、すべての人にとって住みよいコミュニティにしていくことを目標にしていた。今日のNPOのマネジメントでいえば、ミッションに当たるものだ。このミッションを達成するための具体的な活動、すなわちオブジェクティブとして実施されたのは、健康、医療、福祉などに関わる地域団体を支援するため募金活動を行うことだった。この時、集まったのは、総額2万1700ドル、現在の価値におきかえると70万ドルになる。
Charity Organization Societyの活動は、Community ChestまたはUnited Fundと呼ばれるようになり、全米各地に広がっていく。こうして出来上がった団体は連合体を形成、名称が何度か変更された後、1970年に生まれたのが、United Wayである。そして、活動を海外にも拡大、1974年に米国内の活動団体としてのUnited Way of Americaと 国際活動を担うUnited Way Internationalに分かれた。その後、両団体は、United Way Worldwideに統一された。ここでは、United Way WorldwideをUnited Wayと記述していく。なお、United Wayは、各地の「支部」の連合体だが、「支部」はそれぞれ独立したNPO法人として活動している。
最初に述べた電話やメールで生活相談を受け付ける事業を最初に始めたのは、「支部」のひとつ、ジョージア州にあるUnited Way of Atlantaだ。こ事業の名称は、「211」。日本でいえば、消防や救急の際の「119」などと同様、三桁の数字で電話することにより、特定の情報やサービスが受けられる仕組みである。「211」が開始されたのは1997年だが、当初からこの番号が全米で利用可能になっていたわけではない。1998年にUnited Wayなどが連邦政府の独立機関、Federal Communications Commission (FCC)に番号登録の申請を行い、2000年に認可され、アメリカ各地で用いられるようになった。現在は、カナダでも利用可能だ。なお、相談は無料で、英語以外に180余りの言語で対応しているという。
生活相談事業としての「211」は、United Wayと各地の「支部」が連携して運営されている。相談を受けた内容に沿った対応先を紹介するには、地域の情報が不可欠だからだろう。このため、相談をしたい人は、直接「211」に電話で連絡をすれば、United Wayにつながり、そこで対応されることもあれば、相談者が居住する地域に合わせた対応が必要と判断されると、「支部」の「211」に転送されることになる。
メールの場合は、相談を受け付けるインターネットのサイト「211.org」を活用できる。そのサイトに入り、「Find local 211」をクリックし、Zip Code(郵便番号)を入力すると、最寄りの「211」事業団体の電話番号やテキストメッセージの送り先が表示されるようになっている。なお、「支部」の中には、「211」の事業を行うために、別法人を設立しているところも多い。
この「211」事業の2023年の報告書に当たるのが、10月8日に発表された”2023 211 Impact Survey”である。この報告書によると、「211」が受けた相談件数は約1600万件、その内容によって照会した件数は1900万件ほどに達する。電話だけで、1日平均4万2000件ほどの相談に応じているという。年間を通して休みなく、1日24時間対応している事業だが、対応するスタッフは2000人。かなりの人数で、ボランティアが含まれていないのかもしれないが、事業の実施時間や相談件数を考慮すると、スタッフにかなりの負荷があるような数字といえる。
”2023 211 Impact Survey”は、生活相談の内容のうち住居、水道光熱費、食料と食事、メンタルヘルスの4点が特に重要な結果を示していると指摘。例えば、住居については、コロナ禍前の2018年の相談件数が260万件だったのに比べ、23年には530万件に及んだという。同じ期間に、水道光熱費に関する相談も、170万件から100万件以上増え、280万件に達した。住居と水道光熱費は、「住」に関する相談といえるが、両者を合わせた相談全体における割合は、2018年の34.1%から42.3%へと増加した。
食料と食事に関しては、2018年の120万件から240万件へと倍増。メンタルヘルスは、100万件弱から110万件へと増えた。この他、5番目に多い相談内容として、法律や消費者問題、安全性をまとめた分野があげられている。2023年には120万件と前年比10万件に及んだ。
この原稿を執筆している時点には、ウェブサイトから報告書をダウンロードすることができなかった。このため、プレスリリースのタイトルに見られる”Widespread Unmet Community Needs”の根拠などは不明だ。しかし、ダウンロードできた2022年版を見ると、同様に”Unmet Community Needs”という語彙はあるものの、根拠は明示されていない。おそらく、特定の分野の相談件数が増えていることから、その分野の課題が解決されていないことを示唆していると推察される。
なお、”2023 211 Impact Survey”について示したUnited Wayのプレスリリースは、以下から見ることができる。
https://www.unitedway.org/news/211-impact-survey-uncovers-widespread-unmet-community-needs-nationwide
Hurricane Heleneで米南東部に甚大な被害、被災者支援に止めず温暖化対策が急務
2024年10月8日
メキシコ湾で9月24日に発生したHurricane Heleneは、中南米の一部やキューバを通過した後、26日フロリダ州に上陸。中心気圧は、938hPa、最大風速も62.5メートルに達する超大型ハリケーンだった。上陸地のフロリダ州に加え、サウスカロライナ州やジョージア州など、アメリカ南東部に甚大な被害を与えた。この事態に対して、連邦政府や州政府などの危機管理対策部門に加え、災害援助のNPOが被災者支援活動を開始。その一方で、大規模なハリケーンの発生が地球温暖化の結果だとして、温暖化防止に取り組むNPOは、対策の強化を求めている。
Hurricane Heleneの被害の全体像は、またはっきりしていない。しかし、10月7日のCNNの報道によると、ノースカロライナ、サウスカロライナ、ジョージア、フロリダ、テネシー、バージニアの6州で、少なくとも232人が死亡。これは、2005年のHurricane Katrinaによる1833人に次ぐ、過去50年間のハリケーン被害としてはアメリカで2番目の惨禍だ。なお、10月1日付のNational Public Radio (NPR)は、ノースカロライナ州のBuncombe Countyだけで、600人が行方不明と伝えており、今後、死者数が増えることは確実と見られる。
地震やハリケーンなどの災害時に活動する連邦政府機関として、最もよく知られているのはFederal Emergency Management Agency (FEMA)だろう。10月7日付のFEMAのプレスリリースによると、Hurricane Heleneへの対応においても、FEMAのスタッフを含め、連邦政府機関から約7000人を被災地に派遣。食事1560万人分、水13900万リットル、157台の発電機と50万5000以上の防水キャンバスを提供したという。また、FEMAは、被災者に対する連邦政府の支援プログラムの広報や受付なども実施していく。
民間の災害支援団体というと、American Red Cross (ARC)やSalvation Army (SA)が真っ先にイメージされる。9月27日付のARCのプレスリリースによると、過去48時間の間に140余りのシェルターを開設、9400人近い被災者の仮住居を提供した。シェルターは24時間体制で運営されているが、運営に当たって80以上の団体から人的・物質的な協力を受けているという。また、ARCの災害援助ワーカー500人余りが被災地に入るとともに、多数の災害対応用の車両を運び込んでおり、安全が確認された地域から食事などの支援物資を運送する予定だ。
Salvation Army (SA)は、発生したばかりのHurricane Heleneがアメリカ南西部に上陸するという想定に立ち、フロリダ州で9月24日、ジョージアとサウスカロライナ、ノースカロライナの各州でも26日に準備を開始した。これらの州に加え、テネシーとウエストバージニアでも準備を行い、ハリケーン上陸後、災害対応用の車両も用いて、食事や飲み物などの提供に加え、被災者への精神的ケアも実施した。10月4日付のプレスリリースによると、ホットミール12万5000食、ミールキット2万6000食、水7万3000人分、スナック4万4000人分、7000人への精神的ケアなどを提供。なお、これらの活動には、合わせて1万4000時間相当のボランティアの参加があったという。
Hurricane Heleneの被害の多くはAppalachiaと呼ばれる地域に集中している。この語彙を聞くと、北米東部のAppalachia山脈をイメージする人が多いだろう。山脈としてのAppalachiaはカナダも含む広い地域だ。一方、アメリカで狭義に用いられる概念としては、1965年に成立したAppalachian Regional Commission (ARC)の管轄地域を指す。経済開発が遅れ、貧困者が多い東南部13州の420の郡などで構成され、連邦政府と州政府、地方政府などが連携して開発を進めようとしたのが、ARCだ。
このAppalachiaの名を冠して、地域の経済開発などを進めているNPOの連合体がある。2010年に設立され、70余りの助成財団をはじめとしたNPOで構成されるAppalachia Funders Network (AFN)が、それだ。Hurricane Heleneによる甚大な被害が明らかになった9月28日、AFNはAppalachian Helene Response Fundというプロジェクトを設立。被害が大きかった6州を中心に、地域社会の緊急支援や復興に向けた継続的な支援を行うための基金として機能させるのが目的だ。すでに独自のウェブサイトも構築され、活動内容や寄付などが説明されている。
Salvation Armyは10月7日、団体のウェブサイトに” Despite Helene's fatigue, Hurricane Milton is still looming”というタイトルの記事を掲載した。Hurricane Heleneへの対応で人々が疲弊している中で、新たなハリケーン、Miltonの襲来が見込まれている状況に危機感を示したのである。Hurricane Miltonは8日現在、キューバの西方のメキシコ湾を北東に向け進んでおり、一両日中にフロリダ州に上陸すると見込まれている。ハリケーンの強さは、カテゴリー1から5までに分類され、Heleneは4だった。Miltonも現時点では4だが、勢力を強め、最強の5になる可能性もある。そうなれば、フロリダ州を襲うハリケーンとしては、過去100年来で最大規模になる。
アメリカで最も有力な災害援助団体のひとつ、Salvation Armyが危機感を抱くHurricane Milton。大手債券の格付け事業を行っているMoody’sが10月8日に発表した報告書によると、Miltonは、フロリダ州の中央部を通り、大西洋に抜ける見込みだ。この地域には、23万棟余りのコマーシャルビルなどが集中し、その市場価値は1兆1000億ドルにのぼる。そのすべてが打撃を受けるわけではないとはいえ、経済的な損失は少なくないだろう。なお、州知事は、予想進路の住民に避難命令を発令しており、100万人が避難しているという。
大規模な自然災害が相次ぐ以上、政府やNPOなどの災害援助や復旧・復興に向けた支援は必要かつ不可欠だ。しかし、ハリケーンに関していえば、カテゴリー4を超えるものがなぜ次々と発生するのか。それを「自然現象」として片づけてよいのだろうか。Hurricane Heleneがアメリカ南東部を襲った時、Greenpeace USAは、”#HURRICANEHELENE MUST BE A WAKE UP CALL FOR CLIMATE JUSTICE!”と指摘したうえで、”The corporations heating the climate must be held accountable"と”X”に投稿。同様の指摘は、気候変動問題に取り組む若者の団体、Sunrise Movementからも発せられた。
GreenpeaceやSunriseの指摘の背景には、大手メディアが超大型ハリケーンの発生を気候変動と関連させて報道する姿勢をほとんど見せていないことがある。温暖化の主因といわれる化石燃料で収益を上げる企業に限定することの妥当性には、議論があるかもしれない。しかし、ハリケーンの大型化と甚大な被害の発生の背景には、地球温暖化の問題があることは明らかだ。この点を無視したまま、防災体制の強化や被害者支援を訴えても、被害を止めることはできない。アメリカの政治、そしてNPOがHurricane HeleneやMiltonを「気候正義への警鐘」としていくことができるのか。大統領選挙における議論も含め、しっかり見つめていきたい。
なお、上記のAppalachian Helene Response Fundのウェブサイトは、以下から見ることができる。
https://www.appalachiahelenefund.org/
MacKenzie Scottによる先住民主体のNPOへの寄付、金額の大きさや波及効果に注目
2024年9月19日
近年、大富豪による100万ドル単位の超大型寄付が珍しくなくなってきているが、MacKenzie Scottによるネイティブアメリカン(以下、先住民)のNPOに対する寄付活動が注目されている。過去4年で総額1億3250万ドルに上る寄付の大きさもあるが、提供先のNPOが先住民主体で運営されていることも、関心が高まる理由のひとつだ。また、資金を受けるNPOとしては、支援決定の迅速さや使途の制約が少ないことに加え、Scottの支援が他の団体や個人の寄付の増加などの波及効果につながっているという。
アメリカでは、助成財団の寄付活動について、様々な調査や研究が行われている。2019年9月に発表された” Investing in Native Communities: Philanthropic Funding for Native American Communities and Causes”というタイトルの報告書は、そのひとつだ。Native Americans in PhilanthropyとCandidの共同プロジェクトとして実施されたもので、この報告書によると、2006年から19年までの間に大手の助成財団が先住民に関する活動に提供した助成金は、5789のNPOに対して、7万1355件、金額は54億ドルにのぼった。しかし、大手助成財団の助成額全体の0.4%前後にすぎなかった。
こうした状況下で、Scottが過去4年で37件、総額1億3250万ドルもの寄付を行ったことに関心が集まっても不思議はない。とはいえ、同じ期間に、Scottは、2300余りのNPOに対して、総額173億ドルもの資金援助を行っている。したがって、先住民主体のNPOへの割合は、わずか0.8%だ。Archibald (Archie)とEdyth Bushが1953年に設立したBush Foundationやコーンフレークで知られる実業家のW.K. Kelloggによる財団、ミネソタ州生まれの実業家Louis W. Hillが作ったNorthwest Area Foundationなどは、長年、先住民主体のNPOに積極的に寄付活動を行ってきたことで有名だ。
前述のように、2006年から19年までの間に大手の助成財団は、先住民に関する活動に総額54億ドルの資金を提供している。1ドル=150円で換算すれば、8400億円もの巨費である。しかし、先住民への寄付活動を研究している、Harvard大学のProject on Indigenous Governance and DevelopmentのMiriam Jorgensen調査部長は、こうした寄付の多くは、先住民の文化や教育に関するものだが、先住民主体のNPOに提供されているわけではないという。一方、Scottの寄付の圧倒的多数は、先住民主体のNPOに対するものだと、同調査部長は述べている。
寄付を受けるNPOが先住民主体であるかどうかが、なぜ問題になのか疑問を持つ人もいるだろう。先住民主体の組織であれば、そこに投入された資金を活用して、先住民自身のエンパワメントが期待できる。しかし、先住民の歴史や文化を展示するだけでは、先住民への社会的な理解を深めたとしても、先住民自身の力量を高めるとは限らない。これは、先住民のNPOに限定されるわけではなく、マイノリティや女性、障がい者などのNPOについてもいえることだ。当事者主体の組織であるかどうかは、助成先の決定に大きな影響を及ぼすようになってきている。また、先住民に関する博物館などへの助成金の提供が、助成財団による先住民主体のNPOへの支援と誤解されることも少なくないと、Jorgensen調査部長はいう。
NPOが金額が大きな助成金を受け取るには、沢山の書類を作成し、予備申請や本申請を行うだけでなく、面接や団体訪問をへることもある。したがって、申請から、決定まで、数カ月かかることが一般的だ。これに対して、Scottの場合、支援決定が迅速に決められるという。例えば、先住民の経済開発などに取り組んでいるFirst Nations Development Instituteは、Scottから800万ドルの寄付を受けた。このNPOのMichael Roberts会長兼CEOは、寄付を受けるに当たり、Scottのアドバイザーから2回電話を受け、団体の活動について聞かれた。その後、3回目の電話で寄付が決まったと、9月13日発信のAP通信の記事” MacKenzie Scott’s millions boost Native American nonprofits”の中で述べている。
また、使途の制約が少ないこともメリットだ。アメリカのNPOが多額の資金をえるには、政府系の補助金の申請を行うことが多い。しかし、前述の報告書の共同作成団体のひとつ、Native Americans in PhilanthropyのCEO、Erik StegmanがAP通信の記事で指摘しているように、政府系の資金は様々な面で使途が制約されている。使い勝手が悪い、ということだ。これに対して、Scottの寄付は、使途の制約がないという。制約がない大きな資金を受けることができると、それを活用して、拘束性の高い政府系の資金も利用しやすいので、申請に踏み切りやすい。その結果、NPOの活動は広がっていく可能性が高まる。
さらに、Scottからの寄付は、メディアなどで大きく報じられる傾向がある。それが呼び水になって、従来の寄付層の拡大や寄付額の増加が生まれることも少なくない。例えば、先住民への教育事業などに取り組んでいるNative Forward Scholars Fundは、Scottから2000万ドルの寄付を受けた。このNPOのCEO 、Angelique Albertは、前述のAP通信の記事の中で、以前は5ドルから25ドル程度の寄付して受けられなかったが、彼女の寄付以降、1000ドル以上の寄付が寄せられるようになった。また、新たな寄付者もでてき来るなど、波及効果が生まれているという。
なお、MacKenzie Scottは、Amazonの創設者Jeff Bezosと25年間結婚していたが、2019年に離婚。Wall Street Journal紙によると、その際、元夫からAmazonの株の4%を受け取り、それを資金源として現在はフィランソロピストとして活動している。彼女の寄付活動について紹介するサイト、Yield Givingが作成されており、寄付を行ったNPOとそのミッション、寄付額などは、以下に一覧表となって公開されている。
https://yieldgiving.com/gifts/
全米各地で「未請求財産」の返却などのイベント、National Nonprofit Dayで実施
2024年9月1日
National Nonprofit Dayの8月17日、全米各地でNPOに関連したさまざまなイベントが実施された。今年、特に注目されたのは、連邦政府や複数の州政府機関が「未請求財産」の返却推進に向けて、未請求だったNPOに返却を行うとともに、個人や団体に対して、積極的な返済要請を呼び掛けたことだ。「未請求財産」は、所有者が確定され、その人や団体に返却されるのが原則だが、遺失物扱いになっているギフトカードのように確定が困難なものもあり、それをNPOに寄付として提供した州もある。そうした方法も含め、「未請求財産」がNPOの活動に提供されることが期待されている。
日本語にすると、「全米NPOデー」という名称のNational Nonprofit Dayだが、その知名度は、それほど高いとはいえない。Sherita J Herringという女性フィランソロピストが提唱し、2017年から始まったことに示されるように、長い歴史があるわけでないことも影響しているのだろう。なお、8月17日に設定されたのは、Wilson-Gorman Tariff Act of 1894が制定された日にちなんでいる。この法律は、アメリカ史上初めてNPOへの税制優遇の導入を求めた内容を含んでいた。しかし、翌1895年、連邦最高裁は、同法を違憲と判断。NPOへの寄付を個人の所得税から控除する措置は、1917年のThe Revenue Act of 1917まで待たなければならなかった。
この経緯からも推察されるように、National Nonprofit Dayは、NPO活動を進めるうえで必要な資金との関係を意識するところが大きい。例えば、NPOのファンドレイジングに関する情報を紹介しているDonarboxというサイトに今年3月8日に掲載された記事は、”Celebrate National Nonprofit Day | Inspire More People to Give”というタイトルが示すように、より多くの人々によるNPOへの寄付を鼓舞している。
NPOを事業体として捉えるならば、「未請求財産」を活動資金として役立てていくことは意味があるといえよう。では、「未請求財産」とは、どのような資金を意味するのか。所有者が不明で請求が行われないため、国庫ないしは州の財務省など(以下、国庫)に保管されている資金のことだ。具体的には、銀行口座の残金や株式、過払い金、現金化されていない小切手、および法律により州に引き渡さなければならない未使用のギフトカードなどがある。なお、「未請求財産」の所有者は、その人の財産の返却を国庫に請求する権利を失うことはない。
全米の州や首都ワシントンなどは、財務省の中に「未請求財産」を扱う部署を設置している。これらの州などの部署の連合組織が、National Association of Unclaimed Property Administrators (NAUPA)である。NAUPAによると、2023年度に法的な所有者に返却された「未請求財産」は50億ドル余り(約7500億円)に上るという。「未請求財産」があると思われる人は、NAUPAのウェブサイトから、所在が想定される州の検索サイトに移行し、調べることができるようになっている。
今年のNational Nonprofit DayにNPOの「未請求財産」の返却を行った州が複数存在する。そのひとつ、テネシー州は、今年6月末現在、12億ドルの「未請求財産」を保管している。そして、National Nonprofit Dayにあわせて、以下の4団体に返金した。
・Mercy Ministries of America: $546.07
・Operation Stand Down: $788.62
・St. Jude Children’s Research Hospital: $17,212.01
・Tennessee Kidney Foundation: $1,686.08.
また、所有者を確定できないと判断されたギフトカードをNPOに寄付した州もある。ペンシルべニア州は、そのひとつだ。同州が8月12日に発表したところによると、Ronald McDonald House、Special Olympics Pennsylvania、Veterans Multi-Service Centerの3団体に、それぞれ約7200ドル、合わせて2万1000ドル相当のギフトカードを寄付した。これらのギフトカードは、大手小売店のTargetやカード会社のVisaやMasterCardが発行したもので、合計53枚。いずれも法的な所有者の情報がないため、寄付することに決めたという。
なお、ペンシルベニア州の「未請求財産」は45億ドルにのぼる。また、毎年少なくとも1憶ドルが返却されているという。したがって、今回のNPOへのギフトカードの寄付は、「未請求財産」のごく一部にすぎない。
このギフトカードの寄付とは別に、ペンシルベニア州のStacy Garrity財務長官はNational Nonprofit Day の8月17日、「すべてのNPOに、財務省のウェブサイトを検索して、NPOが利用できる財産があるかどうかを確認することを勧める」と述べた。この発言は、州内のNPOに助成金を提供している、United Way of Pennsylvaniaなどとともに行ったものだ。United Way of Pennsylvaniaは、今年初め、ペンシルベニア州の財務省から16万ドル余りの「未請求財産」の返済を受けている。
なお、National Nonprofit Dayについては、以下のサイトなどを参考にするとよいだろう。
https://www.facebook.com/NationalNonprofitDay/
夏場の血液不足が危機的状況に、事業団体が相次いで緊急声明発表
2024年8月12日
全米で輸血や血液製剤製造のための血液不足が深刻化している。夏場という季節的な要因に加え、気象状況の悪化により献血に行くことが難しいことなどが、状況悪化に拍車をかけているとみられる。さらに、血液事業団体へのサイバー攻撃が行われた。こうした状況下で、大手の血液事業団体は相次いで、積極的な献血を求める声明を行うとともに、提供者にギフトカードを贈るなどの対策も打ち出した。
アメリカとカナダで600余りの献血センターを運営している団体の連合体、America's Blood Centers (ABC)は、血液供給量の適正水準を3つのレベルに分け、ウェブサイトで状況を確認できるようにしている。それによると、血液供給量が3日以上あれば、通常の需要を満たすのに十分という。これに対して、2日分の供給量しかない場合は、献血を増やす必要がある。1日以下のセンターは、血液が極めて少ない状態とみなされ、早急に対応することが求められる。なお、血液供給量を発表していないセンターもある。
この3つのレベルに基づいて8月12日現在のアメリカ国内のセンターの血液供給量を分類すると、供給量が十分とされる3日以上のセンターは、全体の10%にすぎない。1日から2日のセンターは39%、1日未満が24%にのぼる。残りの27%は未報告だ。なお、これらの数字は、全米のセンターの状況で、地域差は考慮されておらず、血液型による過不足も示していない。ABCなどによると、最も不足が著しいのは、O型の陽性と陰性だが、血小板も不足しているという。
血液のニーズは、年間を通してあまり変わらない。しかし、供給面では、夏場に減少する傾向があるという。夏休みの休暇をとったり、秋学期が始まる前で、献血を行う時間を確保することが難しいことなどが、その理由だ。近年では異常気象の影響もでてきた。今年の場合、全米的に猛暑が続き、献血に行くことや会場の準備が困難になるなどの問題が生じているのである。8月5日にフロリダ州に上陸したハリケーン、Debbyにより交通網が遮断されるなどの被害が出ているが、その影響も大きい。
こうした自然災害だけではない。7月31日、フロリダ、ジョージア、ノースカロライナ、サウスカロライナの4州で血液事業を行っているOneBloodがサイバー攻撃を受けたのである。OneBloodは、事業を継続。他の血液事業団体が血液供給を支援するなどしているが、全米の供給に影響を与えている。なお、OneBloodへのサイバー攻撃などを想定して、Interorganizational Task Force on Domestic Disasters and Acts of Terrorismという対策が作られており、今回、これが発動された。
このように血液不足が深刻化する中で、ABCに加え、上記の対策を発動したAssociation for the Advancement of Blood and Biotherapies (AABB)とAmerican Red Cross (ARC)は、それぞれ声明を発表。血液不足に対処するために、積極的な献血を呼び掛けた。ARCは、8月31日までに献血を行った人に20ドル相当のAmazonのギフトカードを贈ることを明らかにした。これは、献血を善意だけに頼ることができない状況を象徴しているといえよう。
ARCは、上記のギフトカードを贈ることを示したサイトに、オンラインで献血の予約をできるように設定している。このサイトの指定の場所に郵便番号を入力すると、最寄りの献血センターを地図入りで示してくれる。興味のある人は、以下から見てみるといいだろう。
https://www.redcrossblood.org/
共和党の「DEI」批判、フィランソロピーの世界でも顕在化
2024年7月28日
残り100日ほどに迫ったアメリカの大統領選挙は、ジョー・バイデン大統領が民主党候補者指名争いからの撤退を表明。ジャマイカ系とインド系の両親をもつ女性の副大統領、カマラ・ハリス氏の指名獲得が確実視される状況下で、共和党関係者中から、ハリス氏を「DEI」候補と揶揄、非難する声があがっている。こうした反「DEI」の動きは、訴訟を通じてフィランソロピーの世界でも顕在化。NPO関係者からは、強い懸念と反発の声が表面化してきた。
「DEI」は、Diversity、Equity、Inclusionの頭文字をとった略語である。その定義や解釈は統一されているとはいえないが、人種、民族、宗教、能力、性別、性的指向など、さまざまな属性を持つ人々のダイバーシティ(多様性)を尊重し、エクイティ(平等)な対応を求め、インクルージョン(包摂)された組織や社会を築くために、密接に結びついた3つの価値観を集合させた概念といえよう。
歴史的にみると、反差別と平等を求める運動の成果として、多様な属性持った人々が共に学び働き、生活する社会が形成されつつある。その一方で、属性の違いなどから生じる軋轢に対処し、多様性を生かしていくための価値観として「DEI」の概念が発展。しかし、「白人(男性)への逆差別」とした訴訟も相次いだこともあり、特定の人種などを「優遇」するための措置ではないことも強調されてきた。
こうしした「DEI」をめぐる議論に大きな転機になったのは、2023年6月の連邦最高裁判所の判決だ。HarvardとUniversity of North Carolinaの入学選考において人種が基準のひとつに含まれていたことに対して、Students for Fair Admissionsという保守的なNPO起こした裁判に示された判断である。判決は、それまで許容されてきた、人種を基準のひとつにすることを、ほぼ全面的に禁止。判決後、全米各地の大学で、入試に止まらず、奨学金制度などにおいても、人種を選考基準に盛り込む措置が「自主的に廃止」する動きが相次いでいる。
この動きは、フィランソロピーの世界にも広がりを見せてきた。フロリダ州マイアミにある連邦第11区巡回控訴裁判所が今年6月にだしたAmerican Alliance for Equal Rights v. Fearless Fund Managementに関する判決がそれだ。原告のAmerican Alliance for Equal Rightsは、保守的なNPOである。Fearless Fund Managementが設立したNPO、Fearless FoundationのFearless Strivers Grant Contestという助成金事業が黒人女性だけを対象としており、42 U.S. Code § 1981(合衆国法1981条)が禁止している「契約」関係における人種差別に当たると主張。マイアミの裁判所は、助成金事業の中止を命じた。
この判決に先立ち、Fearless Strivers Grant Contestに対して、American Alliance for Equal Rightは、ジョージア州アトランタの第11区巡回控訴裁判所に緊急一時停止命令を出すことをに求め、2023年9月、裁判所により訴えが認められた。ジョージア州の判決を受け、Fearless Foundationは、Fearless Strivers Grant Contestにより黒人女性の企業4社に2万ドルずつ助成するという事業を中止。このため、今年6月の判決による事業への直接的な影響はない。
敗訴した被告のFearless Fund ManagementとFearless Foundationは、最高裁への上告を含め、複数の選択肢から対応を検討中とみられる。しかし、被告側の意図は別として、この訴訟は、フィランソロピーの世界全体に影響を及ぼす可能性が大きい。Fearless Strivers Grant Contestによる2万ドルが「契約」関係に基づく措置だとした原告訴えに対して、被告側は「助成金」、すなわち黒人女性起業への「寄付」と主張。「寄付」行為は、憲法修正第1条が認める「表現」であるとして、助成事業の合憲性を訴えていたからだ。しかし、フロリダ州の判決が確定すれば、「表現」の自由という憲法上の権利として寄付とその使途をNPOが決定できる権利が侵害される恐れがある。
このため、フロリダ州の判決の直後、全米のNPOの連合組織的性格をもつCouncil on FoundationsとIndependent Sectorは、判決に失望の意思を表明。そのうえで、Independent Sector の会長兼CEOのAkilah Watkins氏は、「この判決は、フィランソロピーの基本的な憲法修正第1条の保護を弱体化させることで、歴史的に疎外されてきた人々への支援を困難にし、公平性と正義を促進する私たちの取り組みを危険にさらしてしまう」と指摘した。そして「これまで以上に、私たちのセクターは、すべての人々が繁栄する国を築くのに役立つ公平な政策とシステムを提唱することを求められている」と述べた。
なお、Council on FoundationsとIndependent Sector による”Fearless Foundation Grant Program for Black Women Will Remain Halted While First Amendment Case Is Heard”と題する声明文は、以下から見ることができる。
https://independentsector.org/blog/as-court-rules-against-fearless-foundation-council-independent-sector-stand-by-commitment-to-funders-right-to-give-in-line-with-values/
2023年の慈善団体への寄付5500億ドル突破、前年比で実質2.1%減少
2024年7月9日
6月25日に発表された”Giving USA 2024”によると、2023年の慈善団体(NPO)への寄付は、総額5571億6000万ドル(1ドル160円で89兆円余り)にのぼった。前年比で名目1.9%増だが、物価上昇を差し引いた実質では2.1%減少した。
”Giving USA”は、Giving USA FoundationとThe Giving Institute、Indiana University Lilly Family School of Philanthropyの3団体が毎年発行している全米の寄付活動の調査報告書である。アメリカのフィランソロピー活動の全体を網羅した報告書として、1956年以来発行されている。2024年版は、350ページ余りにも及ぶ、膨大なデータが掲載されている。
2023年の寄付活動を寄付者別にみると、最大の寄付者は「個人」で、3744億ドルと、全体の67%を占めた。次いで、「助成財団」の1035億3000万ドル(19%)、「遺贈」の426億8000万ドル(8%)と続く。多額と思われがちな「企業」寄付は、365億5000ドルと、全体の7%にすぎない。
個人寄付の割合が67%と聞くと、市民の寄付活動が広範に行われていると考えがちだ。実際、個人寄付の割合は、2022年の63.9%から2023年には67.2%へと増加している。しかし、2013年には、個人寄付が寄付全体の73%を占めていた。このことは、個人寄付の割合が長期低落傾向にあるといえよう。
しかし、問題は、個人寄付の割合が低下しているだけではない。慈善団体に寄付をする人が減っているのだ。BBB Wise Giving AllianceとCharity Monitoring Worldwideが今年3月21日にニューヨーク市で開催したDonor Trust and Participationというイベントにおいて、Aspen Instituteの副会長、Jane Wales氏は、2000年から2016年までの間に全米で2000万世帯が寄付活動を行わなくなったと指摘している。
とはいえ、名目上の金額で見る限り、寄付額全体の数字は伸びている。これは、少数の人々が多額の資金を提供しているためだ。例えば、2023年版のGiving USAによれば、5億5000万ドル以上の寄付者は、2022年に個人寄付の5%に相当する140億ドルもの資金を慈善団体に提供した。2023年には、それぞれ2%と80億ドルに減少したものの、Chronicle of Philanthropy紙によれば、100万ドル以上の寄付者は、2024年の最初の5か月間に前年同期に比べ、全体で3億ドル以上多くの寄付を行った。
寄付だけではない。ボランティア活動に関しても、参加する人の割合が減少する半面、一人当たりの活動時間が増加傾向にある。このことは、市民一人ひとりが皆で社会を支えていくという、市民社会の理念が希薄化していることを意味しているといえよう。それは、民間非営利活動だけでなく、民主主義にとっても懸念される事態と指摘する声もある。
なお、Giving USA 2024は、寄付の受け手の団体に関して、業種別の金額や変化を示している。最も多くの寄付を受けたのは、宗教団体だ。2023年に1458億1000万ドルの寄付を受けた。2022年に比べ、名目では3.1%増加したものの、実質では1%減少した。国際協力団体も、実質マイナスになった。金額ベースでは、299億4000万ドルを集めたものの、マイナス幅は1.6%に達している。
一方、社会福祉、教育、フィランソロピーなどの業種では、実質でも増加。特に、助成財団などのフィランソロピーは、実質で10.8%と、唯一二けたの伸びを示し、金額でも800億ドル余りを集めた。
なお、Giving USA 2004については、以下から概要やレポートの購入方法を見ることができる。
https://givingusa.org/giving-usa-u-s-charitable-giving-totaled-557-16-billion-in-2023/
NPOなどの反対の中、郵便料金7月から今年2度目の値上げ
2024年6月21日
U.S. Postal Service (USPS)による郵便料金の改定案を検討してきた、連邦政府の独立機関Postal Regulatory Commission(PRC)は5月30日、今年2度目となる値上げを承認した。これにより、7月14日から新しい料金体系に基づき事業が実施される。値上げの背景には、インターネットの広がりによる利用者の減少や物価の高騰があげられている。出版物の発送や広報、募金集めなどを郵便に大きく依存するNPOは、値上げ反対の活動を続けてきたが、押し切られた形だが、相次ぐ値上げに危機感を表明している。
政府の独立機関として郵便事業を行っているUSPSの年間の郵便物の取扱件数は、2006年には2131億件に到達。しかし、その後、減少が続き、2023年には1161億件と、半減状態に陥っている。経営状況も悪化し、料金改定が繰り返されてきた。例えば、直近の2年間に限定しても、2022年7月、23年1月と7月に引き上げられた。さらに、今年1月にも料金改定を行ったが、年間65億ドルに達する赤字が予想されるなど、7月から平均10%弱の値上げが行われても、経営状況の改善は見込めていない。
USPSは、赤字の一因として、NPOへの郵便料金の割引をあげている。24年前に連邦議会が制定した法律により、NPOが出す郵便物については、通常のコストの60%をカバーする料金が設定されている。しかし、連邦政府は、USPSに多額の補助金を提供しており、社会的に必須なサービスを提供しているNPOへの「優遇」は必要かつ当然と、多くのNPO関係者は考えている。
インターネットの広がりとともに、NPOなどの郵便への依存度が高い事業においても、郵便離れが進んでいる。とはいえ、多くのNPOは、依然として団体の出版物の発送や広報、募金活動などを行う際、郵便を用いることが多い。例えば、USPSのデータによると、2022-23会計年度の間に、郵便物全体における営利企業の利用割合は92.7%から 89.8 %へと減少。一方、NPOは、7.3 %から10.2 %へと増加した。
このデータは、今日でも郵便事業がNPOにとって重要な位置を占めていることを示唆している。郵便に依存する割合が高いNPOは、1980年にAlliance of Nonprofit Mailers (ARM)を結成。郵便事業におけるNPOの役割を啓発するとともに、NPO向けの料金設定を求めるなどしてきた。今回の料金改定においても、ARMは5月6日に「アラート」を発布、改定案を審議するPRCに値上げを見送るよう要請。また、2021年から導入された消費者物価指数を上限とする郵便料金引き上げ条件の撤廃などを求めた。
相次ぐ郵便料金の改定に対して、ARMは、引上げが利用者を減少させ、それによる収入減を補うため値上げを実施、それがさらに利用者を減らしていくという悪循環に陥っており、この状態を変える必要があると指摘している。また、郵便局の統廃合などの問題に取り組んでいるSave the Post Office Coalitionは、値上げが郵便物への依存度が高い地方の集落の住民や退職者、障害を持つ人々、黒人や先住民のコミュニティを置き去りにしてしまう、と批判している。
なお、ARMは、高齢者団体のAARP、健康医療に関わるAmerican Heart AssociationやNew England Journal of Medicine、消費者団体のConsumer Reports、障がい者の権利擁護を進めるDisabled American Veterans、環境保護活動で知られるNational Wildlife Federationなど、全米的に著名なNPOなどにより構成されている。今回を含め、郵便料金改定などに関する活動は、以下のサイトから見ることができる。
https://www.nonprofitmailers.org/advocacy/
全米最大のフードドライブ、郵便集配人の組合を中心に実施
2024年5月13日
アメリカで最初にフードバンクの活動が始まったのは、1967年。アリゾナ州フェニックスでSt. Mary’s Food Bankが設立された時である。その後、フードバンクは、全米に拡大。2021年時点で、フードバンクの連合組織であるFeeding Americaの傘下団体は約200、連携関係にあるフードパントリーや食事プログラムは6000、食品や食事(以下、食糧)の受給者は全米で6000万人にのぼる。
生活困窮者に食糧を提供するために、フードバンクは、食糧を集めなければならない。この作業は、フードドライブと呼ばれている。フードドライブにはさまざまな形があるが、最もよく知られた活動のひとつが、National Association of Letter Carriers (NALC)がイニチアチブをとって行っている、Stamp Out Hunger Drive(飢餓根絶運動)と呼ばれるプログラムだ。
Stamp Out Hunger Driveは、1991年にNALCと アメリカの労働組合のナショナルセンター、AFL-CIOのCommunity Services、日本の郵便局に相当するUSPS の関係者が協議し、全米10都市でパイロットプログラムを実施したのが起源である。1993年5月の第2土曜に全米統一行動を開始。NALC の220余りの支部が参加し、1100万ポンドの食糧を調達。それ以降、毎年5月の第2土曜日に実施されてきた。
NALCは、その名が示すように、郵便物の集配業務を行う労働者の組合である。Stamp Out Hunger Driveは、郵便物の集配業務に関連した形で行われている。具体的には、次のようなものだ。まず、寄付者が戸建てや集合住宅の郵便受けのそばに寄付を行う食糧をレジ袋などのプラスチックバックに入れておいておく。それをNALCの組合員である集配人が集め、地域のフードバンク等に提供する。
日本の郵便局が戸建てや集合住宅の郵便物の集配業務に用いるのは、二輪車が大半と思われる。そのため、食糧のように、かさばるものを業務と並行して集めることは困難だ。しかし、アメリカでは、小型のトラックが用いられている。最も一般的なのは、Grumman Long Life Vehicle (LLV) と呼ばれ、長さ4.46メートル、幅1.91メートル、高さ2.16メートルで、積載量は1200キロ、つまり1.2トンにもなる。したがって、かなりの量の食糧を運ぶことも可能だ。
コロナ禍で食糧集めが中断されたが、2022年のStamp Out Hunger Driveでは、3947万3516ポンドの食糧を集めることができた。1ポンドは、約450グラムなので、1776万キロほどになる。食糧に加え、募金集め行われ、 NALC本部のマッチングを含め、100万ドル余りが集まり、各地のフードバンクに寄贈された。これらの数字は、NALCが2022年6月29日に同日現在で集計を終えた全国のフードドライブの結果を公表した結果に基づいている。
コロナ禍がまだ収束していない段階ということもあり、例年よりも集まった食糧は、少ない。2023年には、6月13日時点における集計によれば、4200万ポンドに増加。また、寄付も21万2808ドル集まったという。これにより、開始以来19億ポンド近い食糧を集めたことになる。なお、今年の結果は、6月に集計、公表される予定だ。
Stamp Out Hunger Driveを5月に行うのは、夏休みとの関係がある。小中学校などに通う子どものうち、政府が規定する所得水準に満たない家庭の児童は、無償で朝食や昼食をとることができる。しかし、夏休みに入り、学校に行かなくなると、給食を食べることができない。このため、低所得家庭の児童の場合、特に夏休み期間中は、食べ物に不自由するかことが多くなる。当然、フードバンクへのニーズも増え、それに対応する一助という意味をもっている。
もちろん、今日、食事を十分にとることができないのは、子どもだけではない。年金生活の高齢者の多くも、食べるものに不自由しているといわれている。NALCなどでは、全米で食事が十分確保できない人が8人にひとりいるとして、Stamp Out Hunger Driveなどを通じた食糧支援を呼び掛けている。
しかし、今年、活動を行ったNALCの支部などからは、寄付される食糧が前年より少ない傾向がみられるという報告もある。物価が高騰し、それまで食糧を寄付してきた人々に、その余裕がなくなってきたためではないかという。一日の活動としては全米最大のフードドライブといわれる、Stamp Out Hunger Driveの重要性が増しているともいえよう。
なお、NALCは、Stamp Out Hunger Driveを進める際、各支部がスムーズに体制を整備し、食糧集めができるように、さまざまなノウハウを示したFood Drive tool kitと呼ばれるマニュアルを作成、公表している。以下のサイトから見ることができるので、関心のある人は閲覧することをお勧めする。
https://www.nalc.org/community-service/food-drive/food-drive-toolkit
Boy Scouts名称変更、背景の問題を探る
2024年5月9日
Boy Scouts of Americaが5月7日、団体名を変更すると発表した。
新しい名称は、Scouting Americaで、創立115周年に当たる2025年2月8日から使用されることになる。
企業名の変更はしばしば聞くことがある。しかし、NPOの団体名が変わるという話は、あまり聞かないのではないだろうか。統計的なデータはないだろうが、NPOのM&Aが珍しくないアメリカでも、NPOの大半は、合併後はいずれかの団体の名称を名乗るように感じる。2001年にフードバンクの連合体、Second HarvestがFoodchainと合併した後、Second Harvestを名乗ったのは、その一例だ。
合併後の2005年、Second Harvestは、Feeding Americaに名称を変更した。直訳すれば、Second Harvestは、第二の収穫。Feeding Americaは、アメリカを養う、あるいはアメリカ(人に)食事を与えるという意味になる。Feeding Americaの方が活動をより適切に表している、という説明が行われたように記憶している。
Boy Scouts of AmericaがScouting Americaに団体名を変更したのはなぜか。Boy Scouts of America のプレスリリースでは、名称は変えても、ミッションは変わらないという。団体のプレスリリースには、”Scouting America currently serves more than 176,000 girls and young women across all programs”という一文がある。
Boyという名称からは、男の子のための団体というイメージがつきまとう。しかし、現実には、17万6000人もの女の子や若い女性が参加しているのだ。名称変更は、こうしたデモグラフィーの変化を反映したものと見ることができる。
このように述べてくると、「さすが、アメリカの代表的なNPOのひとつだ。ジェンダーに関わりなく、子どもたちを受け入れ、その成果を反映した団体の現状を示すものとして”Boy”を取り、”Scouting”だけを残したのか」と思われるかもしれない。そうした意味がないとは言わない、しかし、現実は、もう少し複雑な背景を感じる。
第一に、女の子や若い女性を受け入れることは、同様のクラスの人々を対象にした団体から反発を受ける可能性がある。実際、Girl Scouts of Americaは、Boy Scoutsが女の子や若い女性を受け入れていることに反発、2018年に裁判を起こした。しかし、Girl Scouts側が敗訴。これにより、Boy Scoutsとしては、ジェンダーに関わらず、Scouting活動を行うと公に表明できる状態になったといえよう。
とはいえ、必ずしもBoy Scoutsがジェンダー平等に積極的だったというわけではない。遡れば1960年代からBoy ScoutsのボランティアやScout masterと呼ばれるリーダーによって、多くの男の子が性的虐待の被害を受けていたのである。この問題は、訴訟に発展。8万4000人が被害を受けたとして争われた結果、Boy Scoutsが8億5000万ドルの支払いを行うことで決着した。しかし、裁判費用などを負担しきれず、破産申請を行うに至った。
今回の団体名の変更は、こうした負の遺産の解消を狙ったのではないか。新たな一歩を踏み出すために、名を改めるということがあってもよいだろう。しかし、過去の問題をなかったことにするためであってはならない。訴訟が起きる前、Boy Scoutsは同性愛の男の子やLGBTの児童の受け入れを開始。前述したように、女の子や若い女性の受け入れも行っている。こうした多様性の確保というポジティブな面を進めていく契機として、名称変更が活用されることを期待したい。
なお、前述したBoy Scoutsの名称変更に伴うプレスリリースは、以下から見ることができる。
https://www.prnewswire.com/news-releases/boy-scouts-of-america-to-become-scouting-america-302137787.html
ボランティアの推定時給5000円超、NPOの経営への重要さ提示
2024年4月27日
アメリカの大手のNPOや助成財団、フィランソロピー活動に取り組む企業などによって構成されているNPO、Independent Sectorは4月23日、2023年のボランティアの労働に対する1時間当たりの報酬額を公表した。それによると、全米でみると、33.49ドルと、邦貨に換算する5000円を超えており、NPOの経営にとっても重要な意味を持つことが理解できる。
アメリカのボランティアは、基本的に無償だ。したがって、Independent Sectorが発表した報酬額は、実際にNPOがボランティアに対して支払っている金額ではない。あくまで、ボランティアの労働の対価がいくらになるか推計したものだ。推計に当たっては、The Do Good Institute at the University of Marylandの協力を受けた。
推計の根拠として用いているのは、連邦労働省のThe Bureau of Labor Statistics (BLS)のThe Current Employment Statistics (CES) のデータベースだ。このデータベースは、民間企業の従業員の賃金やベネフィットを集計した結果を、統計として公表している。なお、Independent Sectorは、ボランティアの労働の報酬額の推計に当たり、非農業部門の労働者のうち、管理職を除く一般労働者の賃金を基準として採用。また、賃金以外の社会保険などのベネフィットも含めている。
Independent Sectorは、全米のボランティアの労働の時給に加え、州ごとの時給も提示。最も高額なのは、首都ワシントンで時給50.88ドル。2番目はマサチューセッツ州の40.97ドルなので、首都ワシントンが際立って高いことがわかる。最も低いのは、ミシシッピー州の25.42ドルだった。なお、アメリカの自治連邦州のプエルトリコは15.82ドルと、全米平均の半分に満たない。
アメリカのNPOの多くは、ボランティアの人数やボランティア全体の活動時間などを公表している。これは、社会からの支援の大きさを示すためだ。Independent Sectorが推計した労働の対価を提示することは、NPOへの社会的な支援を金額で示すことに加え、活動したボランティアに対して、その価値を提示することにもなる。そのため、Independent Sectorは、毎年、ボランティアの労働の価値を推計し、公表してきた。2023年の金額は、前年比で5.3%増である。
なお、ボランティアの労働の価値に関するIndependent Sectorの全米及び州ごとの推計値やメソドロジーなどは、以下から見ることができる。
https://independentsector.org/resource/value-of-volunteer-time/?utm_medium=email&utm_campaign=VOVT%202024%20release&utm_content=VOVT%202024%20release+CID_e6be0b36e7df9e3fe42fda620816cba7&utm_source=Email%20marketing%20software&utm_term=Independent%20Sector%20releases%20new%20value%20of%20volunteer%20time%20of%203349%20per%20hour