植物には、幼若期と呼ばれる期間があります。これは種をまいてから花を咲かせるまでの期間のことで、みかんはその期間が特に長いことで知られています。"桃栗三年柿八年"ということわざがありますが、実は"柚子の大馬鹿十八年"と続き、そこからも如何にカンキツ類の幼若期が長いかが伺えます。品種改良では、ニーズに合った品種をより早く市場に共有することがとても重要であることから、カンキツ類においても、幼若期を短くする方法が探求されてきました。その一つが接ぎ木です。接ぎ木は交配や播種と比べると格段に難しく作業ですが、寄せ接ぎと呼ばれる接ぎ木の方法は比較的高い成功率で接げることが知られています。以下ではその寄せ接ぎの方法を詳しく説明しています。
寄せ接ぎとは下の写真のように、根が付いた状態でお互いをくっつけ、くっついた後に、不必要な根や枝を切り落として接ぐ方法です。一般的な接ぎ木は、ただの枝を用いて接ぎ木をするのに対し、寄せ接ぎでは、根がついた状態で接ぐため、格段に成功率が高くなります。また失敗しても再チャレンジができるため、私はこの方法をよく使って接ぎ木をしています。
寄せ接ぎに必要になってくるものは次の四点です。①交配した苗木②台木として使う少し大きな苗③ナイフ④パラフィンシート②の台木で使う苗はカラタチが使われることが多いですが、基本的にカンキツ類であればなんでもよいと考えています。早く苗を大きくしたい場合は、シークワーシャーの苗を使うこともあります。シークワーシャーは秋口によく実が売っているので、それをあらかじめまいておいてもよいかもしれません(実は青いですが、問題なく発芽します)。
寄せ接ぎでは、まず接ぐ位置の調整から始まります。二つの苗を並べて置き、枝同士をくっつけられそうなところを探ししるしをつけます。接ぐ位置が決まったら、次に台木の調整を行います。私は台木の上部を切り落とすようにしていますが、どちらでも構いません。次にくっつける場所の樹皮をカッターで削っていきます。形成層と呼ばれる場所が見えるまでしっかりと削ります(削りが浅いと成功しません)。両方とも削れたら削った場所がしっかりとくっつくようにお互いを近づけ、最後にテープを巻いて固定します。この時、切り口はなるべくテープで覆い、乾燥しないようにします。乾燥は接ぎ木失敗の原因の一つです。あとは、なるべく揺れないようなところに安置して終わりです。夏場であれば1ヵ月、遅くても2か月ほどでお互いがくっつきあいます。くっついたかどうかを確認するためには、交配した苗の鉢に対する水やりをやめ、土を乾燥させます。土が乾燥してもなお、葉がしおれることがなければ寄せ接ぎ成功です。いらない根や枝を落として終わりです。
接ぎ木が成功すると強い枝が伸び始めます。複数芽が伸びることがありますが、栄養が分散してしまうのを防ぐため、一番強そうな芽以外すべて取り除いてしまいます。農研機構などの研究所では、とても大きいみかんの木に接ぎ木をしたあと、約2メートルほど、枝をまっすく上に伸ばします。そして冬に枝の先端を傾け、次の年には先端からたくさんの枝を伸ばします。早ければ次の年には実がつく算段です。可能な人はぜひ試してみてください。