幼若期の長いことで有名なカンキツですが、原種や亜種の中には播種から1年以内に実をつける種類も確認されています。そのような品種を特性をうまく導入することができれば育種期間の短縮が可能になり、より育種が加速していくと考えられます。著者は特にFortunella Swingle hindsii(マメキンカン)と呼ばれる品種に着目し、その遺伝資源を取り入れるべく交配を進めています。ここではその例を少しご紹介します。
Fortunella Swingle hindsiiは幼若期が短いことで知られていますが実際のところ播種から何年で実が実るかといった情報があまりありませんでした。接ぎ木などの技術を利用することで幼若期を最短何年に短縮することが可能か検証をしました。
調査では2月に採種、播種した実生を本葉が展開する前に3年目のカラタチ台に接ぎ木。そのまま伸長させたところ同年8月上旬に開花を確認することができました。グレープフルーツに見られる幼樹開花の可能性も否定できませんが、少なくとも播種から6か月で開花させることが可能であるということで、確かに幼若期が他のカンキツと比べて極めて短いことを確認することができました。
Calamondin(シキキツ)×Fortunella Sginwle hindsii
Fortunella Swingle hindsiiは幼若期が短いという著しい性質を持っているものの、開花期が他のカンキツより遅い、4倍体である、多胚性であるといった理由からあまり交配には向きません。まず多胚性であることから花粉親としかなりえないことが決定しますが、開花期が他のカンキツも遅いため、それに合わせる意味でも種子親候補は開花期が遅く単胚性の品種でなければなりません(マンダリン系への形質導入を目指しているためそこでも制限がかかります)。
キンカンとマンダリンの交配で生まれたCalamondin、日本名でシキキツ(四季橘)と呼ばれる品種は、開花期はFortunella Swingle hindsiiと一致し、単胚ではないものの、比較的単胚種子が出やすいという性質を持っています。このため、この品種を種子親にFortunella Swingle hindsiiとの交配を試みています。
種子親が多胚性であるという困難から比較的難しい状況が続いていますが2021年の夏に収穫した個体は樹勢が他の個体と大きく異なり交雑胚由来ではないかと期待を寄せながら育てています。
着目している個体。接ぎ木してある。
左は同じ年に生まれた別個体。樹勢が異なるのが見て取れる